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公立小・中学校教員業務負担の規定要因

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Academic year: 2021

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公立小・中学校教員業務負担の規定要因

著者

神林 寿幸

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第17286号

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課程博士学位論文内容要約

公立小・中学校教員業務負担の規定要因

東北大学大学院教育学研究科

総合教育科学専攻

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目 次

序 章 公立小・中学校教員に負担をもたらす業務は何か? 第1節 「周辺的な職務による教員の業務負担」という社会・政策的議論 第2節 教員の業務負担に関する先行研究のレビューと残された課題 第1項 先行研究のレビュー 第2項 先行研究に残された課題 第3節 本論文の目的と構成 第1項 本論文の目的 第2項 本論文の構成 第4節 本論文で用いる概念の定義 第Ⅰ部 教員の業務負担変容に関する実証 第1章 教員の時間的負担変容に関する実証―1950~60 年代・2000 年代後半以降の労働 時間調査の比較― 第1節 課題設定 第2節 使用データ、分析方法、使用変数 第1項 使用データ 第2項 小・中学校教諭の勤務実態に関する指標 第3項 分析方法 第4項 使用変数 第3節 1950~60 年代と 2000 年代後半以降の小・中学校教諭の勤務実態 第1項 小学校教諭の勤務実態 第2項 中学校教諭の勤務実態 第4節 一般線形モデルによる小・中学校教諭の時間的負担の変容分析 第1項 週全体の労働時間 第2項 週の教育活動時間 第3項 週の授業準備・成績処理時間 第4項 週の庶務時間 第5項 週の外部対応時間 第5節 考察 第2章 教員の心理的負担増大をもたらした指導環境の変容 第1節 課題設定 第2節 分析に用いる指標とデータ 第1項 精神疾患による病気休職発生率

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第2項 指導環境指標―行政基盤・教員集団・児童生徒とその家庭環境― 第3節 指導環境の変容が教員の精神疾患による病気休職発生率 に与えた影響―都道府県パネルデータ分析― 第1項 使用変数と分析方法 第2項 分析結果 第4節 考察 第3章 教育改革による教員業務負担増大の再検証 ―学校選択制導入校と未導入校の比較分析― 第1節 課題設定 第2節 調査データと分析方法 第1項 調査データ 第2項 分析方法 第3節 使用変数 第1項 従属変数 第2項 独立変数 第3項 統制変数 第4節 階層線形モデルを用いた検証 第1項 教員の勤務実態 第2項 教員の心理的負担 第5節 考察 第Ⅱ部 教員の業務負担の規定要因に関する実証 第4章 教員に心理的負担をもたらす業務の探索 第1節 課題設定 第2節 分析データ・使用変数・分析方法 第1項 分析データ 第2項 使用変数と分析方法 第3節 分析結果 第1項 小学校教諭の心理的負担の規定要因 第2項 中学校教諭の心理的負担の規定要因 第4節 考察 第5章 教員の業務負担に関する国際比較分析―TALIS2013 を使用して― 第1節 課題設定 第2節 使用データと分析対象国・地域 第1項 使用データ

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第2項 分析対象国・地域 第3節 中学校教諭の勤務実態と心理的負担に関する比較分析 第4節 中学校教諭の心理的負担の規定要因に関する比較分析 第1項 分析方法 第2項 使用変数 第3項 分析 第5節 考察 終 章 生徒指導がもたらす公立小・中学校教員の業務負担 第1節 本論文で得られた知見 第2節 本論文の含意 第3節 教員の業務負担軽減にむけた取り組み 第4節 残された研究課題と今後の展望 文献 資料 初出一覧 謝辞

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要 約

本論文の目的は、2000 年代後半以降の日本の公立小・中学校教員に負担をもたらす業務 は何かを実証的に明らかにすることにある。 従来の議論では、日本の教員の業務負担を規定する要因として、事務処理などの周辺的 な職務に焦点が当てられてきた。代表的な議論は次の3 つである。 第1 に、教員の周辺的な職務に費やす時間が増大し、その一方で教育活動や授業準備な ど教員の本来的な業務に費やす時間は減少したというものである。教員の周辺的な職務に 費やす時間の増大は、臨時教育審議会以後のいわゆる「第三の教育改革」によって発生し たという指摘もあり、中でも学校選択制による教員の多忙化に言及するものが複数ある。 第2 に、教員の周辺的な職務に費やす時間の増大を受けて、周辺的な職務に伴う教員の 心理的負担が大きいというものである。昭和60 年代以降、日本の教員は「やりがいのな い多忙感」を有するようになったとされる。児童生徒に対する教育活動といった動機づけ の高い業務ではなく、事務処理などの教育活動と関係性を見出しにくい動機づけの低い業 務に忙殺されるようになったというものである。実際に生徒とのコミュニケーションとい った動機づけの高い業務の遂行困難が、学校外からの要求への対応など動機づけが曖昧な 業務によって促進されるという実証研究もある。さらに労働時間や心理的負担と相関が強 いバーンアウトに着目した国内外の教員のストレス研究でも、教員のバーンアウトを規定 する要因として、保護者対応や事務処理などの周辺的な職務への葛藤という職務ストレッ サーの存在が実証されてきた。 第3 に、他国と比べて日本の教員は周辺的な職務に費やす時間が長いことから、多忙で あるというものである。日本の教員文化の特徴として多忙があり、国際比較でも仕事の忙 しさや仕事の過重さを感じる教員の割合が日本で高いという報告もある。近年ではOECD 第2 回国際教員指導環境調査(TALIS2013)によって、日本の中学校教員は週全体の労働 時間が参加国中で最長であり、特に事務処理など授業以外の業務に費やす時間が長いこと が示され、他国に比べて日本の教員は多忙であることが指摘されてきた。一連の先行研究 より日本の教員の業務負担の規定要因に関する通説は、図1 のようにまとめられる。 しかしこれらの議論のほとんどは、十分かつ適切な実証に基づいたものではない。第1 の「教員の周辺的な職務に費やす時間が増大した」という議論のほとんどは、データによ る検証に基づくものではない。教員の多忙化を検証するためには、複数時点間で教員の勤 務実態の比較を行い、そのうえである時点に比べて労働時間や個別の業務時間が増大して いることを示す必要がある。しかしこうした時点間比較はほとんど行われてこなかった。 さらに学校選択制などの教育改革が、教員の周辺的な職務に費やす時間を増大させ、教育 活動や授業準備などの本来的な業務に費やす時間を減少させたという指摘も、十分な実証 に基づくものではない。学校選択制導入校に勤務する教員の方が、周辺的な職務に費やす 時間は長く、本来的な業務に費やす時間は短いことを示した研究は皆無に等しい。

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図1 日本の教員の業務負担に関する通説モデル 第2 の「周辺的な職務に伴う日本の教員の心理的負担が大きい」とする研究には、次の 2 つの課題があげられる。 1 つ目の課題には、これらの研究で用いられる職務ストレッサー変数が主観項目より構成 されている点があげられる。主観的なアウトカムを主観的な要因で説明する統計分析は、回 答者の客観的行動について理解できず、主観的なアウトカムの規定要因を解明するのが困 難である。このことから独立変数に主観項目を設定した分析は避けるべきとされる。 2 つ目の課題として、教員の心理的負担に関する研究の多くは、単年度の分析にとどまり、 教員の心理的負担を増大させた要因は何かまで十分明らかにされていないことがあげられ る。従来の教員の心理的負担に関する研究では、学校や教員をとりまく社会的要因への着目 が低調であった。しかし2010 年代に入り、社会的要因が教員の心理的負担に与える影響に 関する検証も行われるようになった。これらの研究は都道府県別の教員の精神性疾患によ る病気休職発生率を従属変数とするものであるが、いずれもクロスセクションデータの分 析にとどまるという課題がある。クロスセクションデータの分析では、どのような社会的要 因の変化に伴って、教員の心理的負担が変容したのかまでは明らかにできない。精神疾患に よる教員の病気休職増大に関する指摘は多いが、その要因を明らかにするためには、パネル データによる検証が必要になる。 最後に第3 の「他国に比べて日本の教員は周辺的な職務に費やす時間や週の労働時間も 長く多忙である」という議論には、比較方法と他国の動向という点で課題がある。比較方 法について、OECD による TALIS2013 の集計結果報告(翻訳も含む)には非正規教員の情 報も含まれていることが考慮されていない。そのため、日本のように同調査の回答者の多 くが正規教員の国・地域では、集計で算出される労働時間が過大評価となる。教員の労働 時間に関する厳密な比較をするためには、雇用形態を考慮した分析が必要である。

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他国の動向へのフォローが不十分であるという点について、日本以外でも教員の業務負 担が政策課題となっている国が存在し、これらの国と日本の教員との比較が求められるこ とである。例えばイギリスでは同国教育省が実施した調査で、教員の週の労働時間が60 時 間前後であることが示された。これは2000 年代後半以降の日本の教員と同水準である。他 にも日本の教員と比べてイギリスの教員の負担感が強いという報告もある。加えて日本と 同様に、イギリスの教員でも事務処理など周辺的な職務に費やす時間が増大し、これに伴う 業務負担が大きいとされ、日本の教員の多忙の原因とされていた周辺的な職務は、他国の教 員の負担をもたらす要因とも考えられる。他国との比較分析を行うことで、日本の教員の業 務負担を規定する要因の特徴を明らかにすることができる。 以上の先行研究に残された課題に対応するため、本論文では労働者の業務負担に関する 実証研究が蓄積されてきた労働経済学で用いられてきた分析方法や分析視角を援用し、 2000 年代後半以降の公立小中学校教員の業務負担を規定する要因を実証的に明らかにする。 ここでは大きく 2 つの検証課題を設定する。検証課題 1 は「日本の教員の業務負担は増大 しているのか。増大しているとすればその要因は何か」という教員の業務負担の変容に関す るものである。2000 年代後半以降の教員の業務負担は、それ以前の教員の業務負担と比べ てどのような状態であるのかを明らかにする。検証課題 2 は「他国に比べて多忙とされる 2000 年代後半以降の日本の教員にとって、負担の大きい業務は何か」である。これら 2 つ の検証課題について、本論文では労働時間という時間的負担と、精神性疾患による病気休職 や負担感などの心理的負担という教員の業務負担の 2 つの側面に着目した分析を行う。な お本論文では、主として公立小中学校教諭を検証の対象とする。 検証課題1 は、第Ⅰ部を構成する全 3 章で分析を行う。このうち第 1 章では、これまで文 部科学省や教育委員会等が公立小・中学校教諭を対象に実施した教員の労働時間調査の比 較分析を行う。これによって、労働時間という教員の時間的負担がどのように変容してきた のか、特に先行研究で指摘されてきたように事務処理などの周辺的な職務に費やす時間が 増大しているか否かを明らかにする。 分析に使用するデータは、調査の集計結果が現存し公開されている1950~60 年代と 2000 年代後半以降に実施された 14 調査の合計 210 の集計結果である。これらの調査をもとに、 教員の事務負担が議論されていた1950~60 年代と比べて、2000 年代後半以降の教員の労働 時間はどうであるのかを分析する。ただこれら14 調査では業務時間測定のための業務分類 が異なる。そのため比較にあたり、各調査の業務分類を①週の教育活動時間、②週の授業準 備・成績処理時間、③週の庶務時間、④週の外部対応時間の 4 つに大別した(いずれも残 業・持帰り業務といった時間外勤務も含む)。さらに各調査で調査設計や集計の対象となっ た教諭の属性が異なるため、それに伴って各調査が示す集計結果の数値は変動が生じうる。 そのため各調査の集計結果の単純比較では、誤った分析結果を導きかねない。そこで調査設 計や集計対象の教諭の属性が集計結果の数値に対する影響を統制するために、本章では一 般線形モデルという多変量解析を用いた。一般線形モデルを用いて、上記4 業務時間とその 合計である週全体の労働時間の計5 つについて比較を行った。

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分析の結果、1950~60 年代に比べて 2000 年代後半以降の教員のほうが、小・中学校とも に週全体の労働時間が長かった。そして週全体の労働時間を構成する個別の業務時間のう ち、1950~60 年代よりも 2000 年代後半以降の教員で長かったのは、週の教育活動時間のみ であった。週の授業準備・成績処理時間、週の庶務時間、週の外部対応時間については、1950 ~60 年代と 2000 年代後半以降との間に統計的な有意差は確認されなかった。 このように両年代で教員の行う業務の性質は異なる可能性はあるが、事務処理などの周 辺的な職務に伴う時間的負担は高止まりの傾向がうかがえた。他方で教育活動、特に生徒指 導や部活動指導などの課外活動に費やす時間は、1950~60 年代よりも 2000 年代後半以降で 長く、これに伴って週全体の労働時間も長かった。教員の本来的な業務とされる教育活動 (特に課外活動)による時間的負担が増大していることが示された。 第2 章では、教員の心理的負担の変容について検証を行った。1980~2012 年度について、 精神疾患による病気休職発生率に関する都道府県パネルデータの構築・分析を行い、教員の 心理的負担の変容をもたらした学校や教員をとりまく指導環境を探索した。指導環境に関 する指標として、大きく次の4 つを設定した。①行政基盤に関する指標(財政力指数、初等 中等・特別支援教育費割合、いずれも都道府県財政)、②教員集団に関する指標(公立学校 非正規教員比率、日本教職員組合組織率)、③児童生徒に関する指標(公立学校教員1 人あ たりの児童生徒数、公立小・中学校不登校による長期欠席発生率、公立小・中学校特別支援 学級在籍率、少年刑法犯検挙人員)、④児童生徒の家庭環境に関する指標(父子核家族世帯 割合、母子核家族世帯割合(いずれも18 歳未満の構成員がいる世帯)、生活保護被教育扶 助人員(月平均人口千人あたり))である。さらにこれらの指導環境に関する各指標の定義 変更による影響を統制し、かつ精神疾患による病気休職発生率の趨勢を確認するために 「1992 年度以降ダミー」「1999 年度以降ダミー」「2007 年度以降ダミー」の 3 変数を統制 変数に設定した。分析には固定効果モデルを使用した。 分析の結果、精神疾患による病気休職発生率が増大している都道府県では、公立学校教員 1 人あたりの児童生徒数、公立小中学校における不登校による長期欠席発生率、公立小中学 校特別支援学級在籍率、少年刑法犯検挙人員、母子核家族世帯、父子核家族世帯も増加して いた。さらに「1999 年度以降ダミー」「2007 年度以降ダミー」も精神疾患による病気休職 発生率に対して正に有意な効果が確認された。 以上より、教員の精神疾患による病気休職発生率は、1990 年代末以降に増加傾向とな り、特に2000 年代後半以降に増加したことが読み取れる。精神疾患による病気休職とい う教員の心理的負担増大の背景には、不登校や発達障害など教育上配慮が必要な児童生徒 の増加、ひとり親家庭という生活が困難な状況に置かれた児童生徒の増加が推察される。 第3 章では、教育改革が教員の時間的・心理的負担を増大させるのかについて検証を行っ た。ここでは教員の多忙化をもたらす教育改革として、複数の先行研究で指摘がされてきた 学校選択制に着目した。2006 年度文部科学省「教員勤務実態調査」データを用いて、学校 選択制導入校と未導入校との間で、教員の週全体の労働時間や個別の業務時間、心理的負担 に関する比較を行った。個別の業務時間は、週の教育活動、週の授業準備・教材研究時間、

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週の庶務時間、週の外部対応時間を使用した。心理的負担については同調査の「教員調査票」 にある教員の業務意識項目を主成分分析で合成して得られたものを用いた。学校選択制導 入の有無については、学校選択制未導入を参照カテゴリとなるように、「完全自由選択制ダ ミー」「ブロック内選択制ダミー」「隣接校選択制ダミー」「その他の選択制ダミー」という 4 つの学校選択制導入に関する変数を設定した。分析には「教員勤務実態調査」のように調 査対象が完全無作為抽出されていないデータ分析に適した階層線形モデルを使用した。 分析の結果、学校選択制導入校の教員が周辺的な職務に費やす時間が必ずしも長いわけ ではなく、本来的な業務に費やす時間も短いわけではなかった。学校選択制未導入校に比べ て、完全自由選択制導入校では、教員の授業準備に費やす時間が長いという結果も得られた。 教員の心理的負担も、学校選択制導入校で一貫して大きいわけでもなかった。 以上の 3 つの章の検証結果を踏まえて、あらためて検証課題 1 について考察を行うと、 次のような結論を得ることができる。日本の教員の業務負担は増大しているが、その背景に は教育活動という教員の本来的な業務による負担が増大したことによるところが大きい。 不登校対策や特別支援教育の拡充など社会の要請を受けて、学校教育が複雑かつ多様な児 童生徒の課題に対応することが求められるようになった。こうした中で、授業以外の教育活 動である生徒指導などに教員が費やす時間が増大し、週全体の労働時間も長くなり時間的 負担が増大した。さらに教育上配慮が必要な児童生徒や、ひとり親家庭など複雑な家庭環境 に置かれた児童生徒が増大したことによって、教員の本来的業務に伴う心理的負担も過重 になっていった。教育改革についても、授業準備など一部の教員の本来的な業務に費やす時 間を増大させるという点で、教員の時間的負担を大きくさせている側面がうかがえた。 次に検証課題2 である「他国に比べて多忙とされる2000 年代後半以降の日本の教員に とって、負担の大きい業務は何か」を明らかにするために、第Ⅱ部の2 つの章で分析を行っ た。第4 章では、2006 年度文部科学省「教員勤務実態調査」(第5 期)データを用いて、2000 年代後半以降の日本の教員にとって心理的負担が大きい業務は何かについて分析した。従 属変数には第 3 章と同様に、同調査の教員の業務意識項目を主成分分析で合成して得られ たものを使用した。独立変数には同調査の「業務記録票」で測定された「その他の校務」「休 憩・休息」を除く20 業務の週の労働時間を設定した。これによって各業務が単位時間あた りで教員の心理的負担に与える効果量(労働負荷)を算定・比較することができる。分析に は第3 章と同様の理由から、階層線形モデルを使用した。 分析の結果、事務・報告書作成などの周辺的な職務に比べて、課題を抱えた児童生徒に対 して個別に行われる生徒指導や、放課後に行われる補習などの学習指導といった教員の本 来的な業務の方が、単位時間あたりで教員の心理的負担に与える労働負荷は大きかった。 2000 年代後半以降の日本の教員の業務負担を考える上で、生徒指導や学習指導などの教育 活動の存在も看過できないことが示された。 第5 章では、2013 年度 OECD 第 2 回国際教員指導環境調査(TALIS2013)を用いて、国 際的にみて2000 年代後半以降の日本の教員の時間的・心理的負担は過重であるのか、日本 の教員の心理的負担をもたらす業務は何かについて分析を行った。

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国際比較にあたり、まず分析対象国の分類を行った。OECD による Education at a Glance 2015 の Indicator.D4 にある「年間勤務時間」と「年間授業時数」をもとに、分析対象 21 ヶ 国について階層クラスター分析を行った。これによって、分析対象国における法令・政策上 要求される教員の役割を次の3 種類に分類した。第 1 に「授業重視型」である。これにはフ ィンランド、イングランドなどの5 ヶ国・地域が分類され、「年間勤務時間」に占める「年 間授業時数」の比重が大きい。これらの国・地域では教員は主に授業を行うことが求められ る。第2 に「オールマイティ型」である。アメリカ、メキシコ、チリがこれに該当し、「年 間勤務時間」に占める「年間授業時数」と「年間授業外時間」の割合がともに大きい。教員 の役割として授業だけでなく、授業以外の多くの業務の遂行も要求される。最後に第 3 に 「授業外業務重視型」である。これには日本、韓国、ポーランド、チェコ、オランダなどの 13 ヶ国・地域が含まれる。「年間勤務時間」に占める「年間授業時数」の割合よりも、「年間 授業外時間」の割合の方が大きく、教員が授業以外の業務に費やすことを法令・政策上要求 する国である。 以下の分析では、日本及び日本と同様に教員の業務負担が政策課題であるイングランド、 そして日本とイングランドを除いた「授業重視型」の4 ヶ国・地域、オールマイティ型の 3 ヶ国、「授業外業務重視型」の12 ヶ国・地域との間で、教員の時間的・心理的負担、ならび に心理的負担を規定する業務に関する比較を行う。ここでは教員の時間的負担として、週全 体の労働時間とこれを構成する10 の個別業務時間(授業、授業準備、会議・打合せ、成績 処理、生徒指導(個別)、学校運営業務、事務処理、保護者対応、課外活動、その他の業務) に着目する。教員の心理的負担には、TALIS2013 の仕事全般に対する意識項目について因子 分析を行い得られた因子を使用する。 まず分散分析を用いて教員の時間的・心理的負担について比較を行ったところ、日本の教 員の時間的・心理的負担は、他国の教員と比べて過重な状態であり、時間的・心理的負担の 点から、日本の教員は多忙であった。アメリカなどの「オールマイティ型」の国・地域の教 員も、日本と同じように、週全体の労働時間が最上位群であった。しかし「オールマイティ 型」の教員は授業に費やす時間が長く、教員としての行う業務が明確であることから、心理 的負担も相対的に小さいことが読み取れた。他方で日本の教員は、学校運営に関する業務や 事務処理といった周辺的な職務のみならず、生徒指導など授業外の教育活動に費やす時間 も長かった。このように周辺的な職務のみならず、生徒指導などの本来的な業務も含めて授 業以外のあらゆる業務に費やす時間も長く、そのことが日本の教員に時間的・心理的にも大 きな負担をもたらしていることが確認された。 次に階層線形モデルを用いた教員の心理的負担を規定する要因に関する比較分析では、 日本の教員の心理的負担を増大させうる業務として、従来の研究で指摘されていた事務処 理に加えて、授業準備、成績処理、生徒指導などの本来的な業務も析出された。このうち、 授業準備や成績処理といった授業に付随する業務、ならびに事務処理は、日本以外の国・地 域でも、教員の心理的負担を増大させる業務であった。他方で他国と異なり日本では、生徒 指導も教員に心理的負担をもたらす業務であった。従来の議論では、日本の教員に負担をも

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たらす業務として、事務処理などの周辺的な職務に焦点が当てられてきたが、生徒指導とい う本来的な業務もまた日本の教員に負担をもたらしていることが明らかとなった。 以上を踏まえて、検証課題2 の「他国に比べて多忙とされる 2000 年代後半以降の日本の 教員にとって、負担の大きい業務は何か」については、事務処理などの周辺的な職務のみな らず、生徒指導という本来的な業務もまた、多忙といわれる2000 年代後半以降の日本の教 員にとって負担が大きいと結論づけることができる。 検証課題 1 と検証課題 2 を踏まえて、あらためて本論文が明らかにした日本の教員の業 務負担を規定する要因についてまとめると、図2 のようになる。2000 年代後半以降の教員 には不登校対策、発達障害の児童生徒に対する特別支援教育、さらにはひとり親家庭という 生活に困難を抱える児童生徒に対する教育的配慮が求められるようになった。これに伴っ て教員は生徒指導などの課外活動に費やす時間も大きくなった。さらに教員が以上のよう な児童生徒をめぐる課題に対応することにより、教員の心理的負担が増大した。このような 経緯から、本来的な業務である生徒指導に対して、2000 年代後半以降の日本の教員の多く は、生徒指導に心理的負担を感じる実態がある。そして他国と比べても、2000 年代後半以 降の日本の教員は生徒指導によって、時間的にも心理的にも負担過重な状態にあり、多忙で ある。従来の教員の業務負担に関する研究は、十分かつ適切な実証に基づくことなく、教員 の業務負担を規定する要因として、事務処理などの周辺的な職務に重点を置いてきた。これ に対して本論文は実証分析を通じて、生徒指導に伴う2000 年代後半以降の日本の教員の業 務負担という知見を導出した。 図2 日本の教員の業務負担を規定する要因に関する本論文の結論

図 1   日本の教員の業務負担に関する通説モデル  第 2 の「周辺的な職務に伴う日本の教員の心理的負担が大きい」とする研究には、次の 2 つの課題があげられる。  1 つ目の課題には、これらの研究で用いられる職務ストレッサー変数が主観項目より構成 されている点があげられる。主観的なアウトカムを主観的な要因で説明する統計分析は、回 答者の客観的行動について理解できず、主観的なアウトカムの規定要因を解明するのが困 難である。このことから独立変数に主観項目を設定した分析は避けるべきとされる。  2 つ目の課題

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