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OPPシートを活用した高次の学力形成における教師の働きかけに関する研究 : 高校「生物Ⅰ」の実践を中心にして 利用統計を見る

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教師の働きかけに関する研究

─高校「生物Ⅰ」の実践を中心にして─

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DFDGHPLFIRUPDWLRQE\XWLOL]LQJWKH233VKHHW

PDLQO\LQWKHWHDFKLQJRI %LRORJ\Ⅰ RIVHQLRUKLJKVFKRRO



神 澤 恒 治*



堀   哲 夫



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 はじめに  高校理科では、大学受験を意識すると、とかく教科書の内容を理解させることに終始し、生徒の資質・ 能力を育成するという視点が欠落しがちである。また、授業に関しても、その内容がどのように生徒 に理解されているのか、あまり関心をもって考えることはなかった。  将来、生物学に関わる職業に携わるわけでもなく、受験で生物を選択しない生徒にとって生物学を 学ぶ意味は何なのかを考えることは重要である。また、どの教科・科目でも、学校教育においていわ ゆる高次の資質・能力(ここでは自分の思考についての思考であるメタ認知)を育成することが求め られている。そこで、233$(2QH3DJH3RUWIROLR$VVHVVPHQW)を活用し、資質・能力の育成を試みた。 評価により学習者の資質・能力を育成する研究は、ほとんど行われていない。  なお、メタ認知などの高次の資質・能力は、ほとんどの場合、最初から生徒に獲得されているわけ ではないので、233シート(109頁参照)を用い、繰り返し教師が適切な働きかけを行うことによっ て少しずつ身に付いていくと考えられる。したがって、本研究だけの試行で生徒全員にその資質・能 力が身に付くのではないことをあらかじめ断っておきたい。 1 研究の目的  高校生物の授業において233シートを作成し、毎時間生徒に学習記録を記載させる(思考や認知過 程の外化)。その内容に対して教師が適切なコメントを加え(思考や認知過程の内化と内省)、生徒が 次の外化に生かすことができるように適切な働きかけを行い高次の資質・能力を育むことを目的とす る1)。そのとき、定期試験と233シートの記述内容との相関をみることによって、両者の異同につい ても検討する。  メタ認知などの高次の学力は、学習全体を振り返って自分の変容を知るとともに、その変容がなぜ 起こったのかについて考えることを通して、自らが学ぶ意味や、学ぶ必然性、自己効力感を感得でき ることが前提になっていると考えられるので、その点を中心にして検討する。 山梨大学教職大学院(山梨県立北杜高等学校)

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図1−1 233シート(表)の構成と記入例

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2 研究の方法  (1)研究の対象学年と実施単元  山梨県立+高校2年生の生物選択者111名(5組私立文系40名、6組私立文系40名、7組国立文系 20名、7組理系11名)に、4月からすべての単元において233シートを用いて授業実践を行ってきた。 以下の単元は、教科書を見ながら各々の内容が1枚の233シートでうまくまとまるように配慮して区 切ったものである。文系は3単位、理系は4単位なので、夏休み前の7月末の時点で、文系は細胞の 増殖と生物体の構造まで、理系は生殖までを終えている。ここでは、単元2の「細胞膜の性質と働き」 を中心に報告する。   単元1:細胞の構造と働き(11時間)   単元2:細胞膜の性質と働き(7時間:本研究の対象単元)   単元3:細胞の増殖と生物体の構造(11時間)   単元4:生殖(10時間)  (2)資質・能力を育成するための233シートの作成と活用   ① 233シートの作成(図1−1、1−2参照)  233シートは、単元を貫くこれだけは押さえたい確認したいという「本質的な問い」、毎授業時間 のもっとも大切なことを書かせる「学習履歴」、学習全体を振り返る「自己評価」の3つの要素から 構成される。授業の終了後、毎回233シートの学習履歴欄に授業のタイトルと「授業の一番大切なこと」 を書かせた。これが学習の見通し、すなわち学習目標を持たせることにつながる。その学習履歴により、 生徒の理解内容および授業の適否の確認と、一人ひとりの生徒に対する働きかけをコメントとして与 える。  単元の修了時には233シート全体をふり返った自己評価を行わせ、学習目標と自己評価を適切に機 能させることにより、自ら学び自ら考える力、言い換えるとメタ認知の能力を育成しようとした。実 際に使用したシートの記入例を図1−1、1−2に示した。図1−1、1−2は、一枚のA3用紙の 表裏に印刷されており、この用紙を三つに折り畳んで用いる。  「細胞膜の性質と働き」の単元は、授業時間数8時間で計画した。以下、その内容を示す。 1時限:中学校時に学習した溶媒・溶質・溶解の概念を復習しながら、粒子概念を想起させ、拡散に ついて日常の事例を織り交ぜながら学習する。233シートは、図1−2の学習前の本質的な 問い、学習履歴①欄に記入する。記入後、教師がコメントを記入する。 2時限:全透膜、不透膜、半透膜の構造と性質、水槽モデルを使って浸透現象がおこるしくみについ て学習する。233シートは、図1−2の学習履歴②欄に記入する。記入後、教師がコメント を記入する。 3時限:水槽モデルを使って、浸透圧という考え方を学習した後、動物細胞への水の出入りとして、 教科書にある赤血球の例について学習する。233シートは、図1−2の学習履歴③欄に記入 する。記入後、教師がコメントを記入する。 4時限:動物細胞への水の出入りについて復習しながら、生理食塩水の話や、ナメクジ以外の日常に ある浸透現象について扱いながら理解を深める。233シートは、図1−2の学習履歴④欄に 記入する。記入後、教師がコメントを記入する。 5時限:植物細胞への水の出入りとして、ユキノシタの葉の裏側の表皮細胞の例について学習する。 233シートは、図1−2の学習履歴⑤欄に記入する。記入後、教師がコメントを記入する。 6時限:ユキノシタの細胞を使った実験を行なう。実験は準備、実施、後片付け等に時間が必要とな るので、この時間の233シートへの記入はしない。

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7時限:能動輸送と受動輸送について学習した後、細胞膜は選択的透過性を持つことを学習する。 233シートは、図1−2の学習履歴⑥欄に記入する。記入後、教師がコメントを記入する。 8時限:この時間は授業が終了しているので、233シート図1−2の学習後の本質的問い、学習全体 を振り返る自己評価、表紙の単元タイトル欄に記入する。   ② 使用した233シートと記入  浸透現象については、身の回りの自然現象として見受けられるにもかかわらず、生徒にとって、そ の原理を理解しにくい内容であるとこれまでの授業実践で感じていた。生徒は、「赤血球を高張液に浸 すと縮む」、「ユキノシタの表皮細胞を高張液に浸すと原形質分離を起こす」というように、現象面の みに着目し、なぜそうなるのかという原理を理解しようとしない傾向があった。  そこで、この単元を貫く目標を、「浸透」という概念を用いて細胞への水の出入りを理解することに 設定した。233シートの学習前・後の本質的な問いには、「ナメクジに塩をかけると、小さく縮んで死 んでしまいますが、それは、どのような仕組みで縮んでしまうのだと思いますか?」という問いを設 定した。授業では、ナメクジのことには一切触れないので、生徒が学習後にこの問いに対して浸透圧 の原理を用いて説明できれば、浸透の概念を理解できたと評価できる。また、生徒にこの単元の目標が、 浸透現象のしくみを理解することに教師が設定していることを認識させられると考えたからである。  学習履歴の枠の数は、実施する予定の授業数と一致することが望ましい。これは、生徒がこの単元 を何時間の授業で実施するのかという学習を見通すための重要な情報となるからである。しかし、毎 日の授業では、常に計画通りの内容をこなせるわけではない。生徒の様子を見ながら進めていれば、 予定より丁寧に説明する必要のある部分が出てくることもあるし、生徒の興味・関心が高く、説明に 熱が入って長引くこともある。  さらに、高校には短縮授業で時間が短くなったり、授業の中で関連する時事問題に触れることもあ り、授業が必ずしも計画通りに進まないこともある。そのような事態に備えて、少し多めに枠を作っ ておいた。また、実験の授業では、実験プリントを別に用意していること、実験の片付けもあり授業 後の学習履歴に記入させる時間が確保できないので、学習履歴を書かせないことにした。  学習履歴は、授業終了前の5分間を確保し、書かせるようにした。長い時間が確保できれば、より よい学習履歴が書けると思われるが、授業の内容を進めることを考慮すると、5分間という時間が適 切であると判断した。また、1単元の授業時間数が多くなることは、1年間を通じて自己評価する機 会が減ってしまうというということでもある。より多くの自己評価の機会を設けるという意味でも、 1単元の授業時間数はあまり多くない方が望ましい。   ③ 資質・能力を高めるための方法  本研究では、教師が作成した233シートを用いて生徒の資質・能力を育成しようとした。しかし、 生徒にシートの学習履歴に毎時間ただ書かせているだけでは、力はつかない。教師の生徒一人ひとり に対する適切な働きかけがきわめて重要な役割を果たしている。  a 生徒が書いた233シート学習履歴に対するコメント書きの工夫  授業終了後、何も書いていない233シートに、その日の授業の中で生徒に書いて欲しい内容を教師 自身が毎回記入した。その内容と生徒が書いた内容を比較し、両者が大きく異なっている場合には、 学習履歴の欄にその日に書いて欲しかったことがわかるようなコメントを書くと同時に、授業計画を 修正したり指導方法を変えるなどの工夫を試みた。教師と生徒双方の内容が一致している場合でも、 ○をつけた上で、生徒がよりよいまとめ方ができるようにコメントを書き込んでいった。つまり、生

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徒の最近接発達の領域に具体的な働きかけを行ったのである2)  b 生徒の学習の振り返りと自己評価を行なう場面の設定  単元の終了時に、1時間分の授業時間を使って学習の振り返りを実施した。高校では、教科書の内 容を最後まで終えるために授業時数の確保を考えなければならないほど、授業時間を案出するのに苦 労する。たとえ、授業の内容は進まなくても、自己評価の場面に時間を費やすことは、高次の学力を 形成するためには必要であると判断した。学習後の問いに解答する時間は20分間とした。生徒には、 解答は学習した用語を使ってできるだけ詳しく、制限時間内に書くように注意をした。また、解答の 際に参考に見て良いものは、自分が書いた233シートの学習履歴のみとした。このようにルールを設 定することで、生徒は、次の単元から、後で読み返した時にわかりやすく要点を書くということにも 配慮して、学習履歴が書けるようになると考えた。  学習を振り返って自己評価を行なう時間も20分間とした。生徒は、文章で自己評価を書くことに慣 れていないので、どのようなことに配慮して書いたらよいかということを解説しながら書かせた。ど の生徒も学習後の方が多く書けているので、「なぜ多く書けるようになったのか」とか「書いてある言 葉にも注目してみよう」と声をかけた。また、ナメクジの問題に正解できていない生徒でも、書いて ある内容は明らかに変化しているので、そのことについてどう思うかと尋ねた。  自己評価の下に、感想・質問の欄を作っておいたが、ここは、どうしても書かなければならないと いうものではない。何か書きたいことがあれば、時間内であれば何を書いても構わないと生徒には説 明した。233シートの枠は、それぞれ明確な意図があって作られたものなので、その枠に書いて欲し いことには必ず制約がある。その要求に従って書いていくことで、あとで振り返った時に気がつくこ とができるようになっている。生徒は、授業を受けながら、233シートを書きながら、いろんなこと を感じたり疑問に思ったりするであろう。そのような感想や質問はこの欄に書いてもらうようにする ことで、必要な情報が必要な枠の中に記述されるように配慮した。 3 研究の結果と考察  (1)教師の適切な働きかけと学習の効果  図2に示したのは、コメント書きによって生徒の外化が変化した例である。3時限目に教師が生徒 に書いて欲しかった内容は、赤血球の形が変化する仕組みについてであった。この生徒の3時限目の 学習履歴には、赤血球の形が変化する仕組みが書いてなかったので、結果だけではなく仕組みが大切 であるというコメントを書いたところ、5時限目のユキノシタの細胞への水の出入りの学習履歴では、 濃度差によって水が移動することについて触れながらまとめられていた。感想の欄には、「わかったよ うな、わからないような」という記述が見られるが、教師のコメントによって浸透現象の仕組みが内 化され、ナメクジ問題の正解へ向けて内省が行なわれたのではないかと考えられる。  この生徒は、学習後のナメクジ問題に「ナメクジのぬるぬるに塩がとけて、ナメクジの細胞のまわ りが高張液になる。→細胞膜≒半透膜だから、高張液につかると水が濃度の高いほうに移動する(浸透) →動物細胞には細胞壁がないから、ナメクジの形がなくなる」と浸透の仕組みについて用語を適切に 使用しながら解答していた。  (2)学習者の個に応じた教師の働きかけの必要性  表1は、担当している生徒の第1回定期試験の全科目の平均点と、ナメクジの問題の正誤との相関 を表したものである。生徒の/は私立文系、+//は国立文系、+/6は国立理系を示し、0は男子、)は

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女子を示している。ナメクジの問題の○(表1右の欄)は正しい原理を適用し既習の用語を使って適 切な文章で書けているものを、△は使用している原理は正しいが用語の使い方や文章表現に問題があ るものを、×は浸透圧の原理がうまく適用できていないものを示している。

図2:教師のコメント書きによって、生徒の外化が変化した例

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表1 生徒の第1回定期試験全科目の平均点の順位と233シート記載内容の適否の関係

(注)表の右欄は、233シートへの学習後の本質的な問いに、適切に記入○、ほぼ適切△、不適切×を示す。表中、 網かけをした部分は、試験平均点の順位は良いが233シート記載内容が不適切、あるいはその逆の関係にある 生徒を示している。

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 定期試験の成績も良く、ナメクジの問題にも正解できている生徒は、質の高い学習が行なわれてい ると考えて良いであろう。しかし、定期試験の成績は良いが、ナメクジの問題に正解できない生徒は、 質の高い学習が行なわれているかどうか疑問である。図3は、表1の表中の/)02の生徒の233シート である。  学習後のナメクジの問題の解答を見ると、/)02の生徒は、ナメクジが縮む仕組みは、動物細胞への 水の出入りと同じ原理であることには気づいているものの、その原理をナメクジに適用して上手く表 現できていない。また、233シート裏面の学習履歴を見ても、大切なことが書けていない日があるこ とを自分で気づいているようである。学習履歴の書き方についても、新しい用語とその説明を羅列し た記述が多く、普段の学習が用語の理解や暗記中心になっているのではないかと想像できる。高校で は、定期試験の成績が良ければ、学習状況に問題はないとされがちであるが、思考力・表現力・判断 力の育成という点で見ると、この生徒は、今後の学習のあり方を改善させていく必要があると思われ る。  /)02の生徒とは対照的に、定期試験の成績は悪いが、ナメクジの問題に正解できている生徒がいる。 図4は、表1の表中の/028の生徒の233シートである。学習前の解答を見ると、ほぼ正解に近いこ とから、この生徒は、普段から自然に関する興味・関心が高く、観察力があることが伺える。学習後 の解答では、半透性や浸透圧という用語を使って、浸透現象がおこる仕組みをナメクジの例に上手に 適用して説明している。  このように、潜在的に資質・能力は高いものを持っていても、定期試験の成績にはうまく反映され 図4:/028の生徒の233シート

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図5−1:/)02の生徒の細胞の増殖と生物体の構造の単元の学習履歴

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ない生徒がいる。高校には、資質・能力は高くても客観テストの得点に反映されないと、上級学校に 進学できないという現実的な問題がある。どのようにすれば、この生徒の学力が客観テストの点数に 反映されるようになるのかは、今のところ有効な手だてを持ち合わせていないが、メタ認知能力を育 成することによって、自らの学習の状況をモニタリングし、新たな学習目標を設定できるようにする ことで、変容していくのではないかと考えている。  図5は、細胞の増殖と生物体の構造の単元の学習履歴である。この学習履歴は、細胞膜の性質と働 きの次の単元に当たる。図5−1の/)02の生徒の学習履歴を見ると、その授業の大切なことが書けて いないところがあったり、新しい用語とその解説という記述が多く、前の単元のものからあまり変化 していない。どのようなコメントを教師が書けば、毎時間の大切なところが書けるようになり、論理 の展開を重視した記述に変化していくのか、現在のところ試行錯誤中である。定期試験の成績が良い 生徒ほど、教師のコメントを内化しにくいということを感じている。記憶力に頼った学習方法でも結 果が出せているのだから、たとえ233シートに適切な書き方ができなくても、普通のテストではよい 成績がとれるというその生徒にとっては信頼できる学習方法の結果なので、これ以上、教師は何を要 求しているのかと疑問に思っているのかもしれない。  一方、図5−2の/028の生徒の学習履歴は、後半になるに従って良くなっていることがわかる。 6時間目までは、新しい用語とその解説を箇条書きにまとめた記述であったが、7時間目から、新し く学習した大切な用語を使いながら、その授業のポイントを論理的に自分の言葉でまとめる記述に変 化した。そこで、自分の言葉でまとめるやり方は良い方法ですね、というコメントを書いたところ、 次の時間から、そのスタイルでまとめるようになった。しかし、曖昧な記述や漢字が使われていない ところがあったので、そこを指摘したところ、その次の時間から、そのようなことにも配慮してまと めるようになった。定期試験の成績が悪いという自覚のある生徒の方が、教師の書くコメントを内化 し、内省したことが次の学習履歴に外化されていると受け取ることができる。このように、233シー トを用いて生徒一人ひとりの学習状況を見取り、それぞれに適切なコメントを書くことによって、一 斉授業という形態の中でも、一人ひとりの生徒の学習状況に適した指導を行ない資質・能力を高めら れることがわかった。  (3)学習の振り返りと自己評価を行なう場面の重要性  図6は、学習全体を振り返って書かれた生徒の記述である。紙数の都合で、学習前・後の問いの部 分は省略した。この生徒は、学習後にナメクジの問題に対して、新しい用語を使用して、浸透の原理 を用いて適切に説明できるようになった。自分がなぜそのように変化したのか。それは、授業で浸透 現象がおこる仕組みについて理解しようと努めた成果であり、その事実と、今までの自分の記憶力に 依存した学習の方法を比較する中で、記憶力に頼った学習方法だけでは力がつかないと自覚すること ができたと考えられる。  しかし、学習状況に問題がないわけではない。この記述を読む限りでは、学習の目的は、客観テス トで良い点数をとるためであるというふうに解釈できなくはない。今後の実践において、知識を得る 図6:記憶力に頼っていた生徒の自己評価の例

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ことで、新しい視点で自然現象を見ることの大切さや、世界が広がることの喜びといった学習の目的 も伝えていきたいと考えている。  学習全体を振り返って、その変容を知るとともに、その変容がなぜ起こったのかについて考えるこ とは、自らが学ぶ意味や、学ぶ必然性、自己効力感を感得することにつながっている。図7∼9は、 生徒の自己評価の例を示したものである。学習前・後の問いの部分は省略してある。これらの記述を 見れば、教師が学ぶ意味や必然性を語らなくても、生徒自身がそれを掴んでいることがわかる。  ① 自ら学ぶ意味の感得  次の図7の一つめは、興味のない教科でも、学ぶ意味はあるということに気づいていったと考えら れる。また、二つめは学ぶことでより広い視野で事物を考えられるようになった内容が表現されてい る。  ② 学ぶ必然性の感得  次の図8は、一つめは日頃の疑問を解決してくれるので、勉強することは大切であると実感した事 例、二つめは日常生活にある情報が正しいかどうか判断できるようになるので学ぶことは大切である と認識した事例、三つめは「ものをかけると分解しちゃう以外にちがう現象もあることがわかった」 という事例である。 図7:自ら学ぶ意味を感得したと思われる生徒の自己評価例

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 ③ 自己効力感の感得  図9に示した三つは、たとえ理科が苦手な生徒であっても、学習後に自分の記述が変化したことで 自分もやればできるという自覚が生まれた事例である。  233を用いて授業をするようになってから、猛暑が続いていたにもかかわらず、気温の高い教室内 であっても、授業を聴かせるための努力をすることはなくなった。生徒は、その授業の大切なことを 掴み、学習履歴を書くという目的をもって授業に望んでいるからであろう。また、授業終了のチャイ ムが鳴っても、学習履歴を書き続ける生徒が増えている。自己効力感をもって取り組んでいるので、 よりよい学習履歴が書けるように努力しているのかもしれない。生徒が単元の終わりに学習を振り 返った時、ちょっとだけ成長した自分に対面することを楽しみにしているように見える。  このように、生徒が変化してきているのは、233シートによって、高次の学力が形成されてきてい るからではないだろうか。生徒のこのような変化が期待できるのであれば、学習の振り返りと自己評 価の場面には、十分な時間を割いて取り組む必要があると考えられる。 4 研究のまとめ  233シートを活用して授業を展開する上で、いちばん大変だったことは、毎時間のコメントを書い て返すことであった。大切なところが焦点化されている授業は書きやすいが、焦点のぼやけている授 業では、コメントに何を書くか考えてしまう。また、個々の生徒の学習の状況に応じてコメントの内 図8:学ぶ必然性を感得したと思われる生徒の自己評価例 図9:自己効力感を感得したと思われる生徒の自己評価例

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容を変えたり、1年間を通じて233を使うには、要求する内容を変えていく必要性も感じているので、 何を書こうかと考え込んでしまうことも多々あった。コメント書きの大変さは、233を授業で使った ことのある教師の誰もが指摘するところである。  しかし、233シートを活用して授業を展開する上で、いちばん大切なことは、毎時間のコメントを 書いて返すことであるとも言える。233シートに書き込む教師のコメントによって、個々の生徒の資 質・能力の向上が達成されるからである。今回の実践を通じて、コメントを書くことの重要性を認識 させられた。生徒の資質・能力を高めるためにどのようなコメントを書いたら良いのかということに ついては、まだ多くの課題が残っている。  一方、生徒にとっても、233シートに毎時間の学習履歴を書くことは、大変な作業だと思われる。 233を実施してみた生徒の感想の中にもそのような記述が見受けられた。しかし、受験で生物を使わ ない、私立文系志望の生徒であっても、高校で生物を学ぶ意味を見い出し、学ぶ必然性を感じ、自己 効力感を持って、毎日の生物の授業に参加していることがわかった。  233シートを活用した授業は、教師も生徒も、お互いに大変さを乗り越えることで、高次のレベル に到達できると考えられる。毎時間の授業を行ない233シートに生徒が書いた学習履歴に対するコメ ント書きによって、生徒が変わっていく様子を見ることができるのは、教師の大きな喜びである。 (附記)本研究の一部は科学研究費基盤研究(%)(課題番号21300291)よった。また、本研究は下記 の分担により行われた。研究の企画は神澤と堀が行った。使用した233シートの作成と授業 実施は神澤が行った。神澤が執筆した論文に堀が加筆修正した。 (註) 1)思考や認知の内化・内省・外化に関しては以下の文献を参照のこと。   堀 哲夫「認知過程の外化と内化を生かしたメタ認知の育成に関する研究:その1─233$による外化と 内化のスパイラル化の理論を中心にして─」『山梨大学教育人間科学部紀要』9RO11、SS1222、2010   山下春美・堀 哲夫「認知過程の外化と内化を生かしたメタ認知の育成に関する研究:その2─233$に よる外化と内化のスパイラル化の実践を中心にして─」『山梨大学教育人間科学部紀要』9RO11、SS2335、   2010 2)最近接発達の領域に関しては以下の文献を参照のこと。   /6ヴィゴツキー(土井捷三・神谷栄司訳)『「発達の最近接領域」の理論』三学出版、2003

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