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Title
組織特異抗体によるドラッグデリバリーシステムを用い
た口腔癌治療モデル研究
Author(s)
河野, 通良
Journal
歯科学報, 117(4): 280-286
URL
http://hdl.handle.net/10130/4345
Right
Description
① 組織特異抗体によるドラッグデリバリーシ ステムを用いた口腔癌治療モデル研究 市川総合病院皮膚科 河野通良 緒 言 近年,口腔扁平上皮癌(OSCC)の原発巣および転 移リンパ節において表皮細胞間接着分子デスモグレ イン3(Dsg3)が高発現していることが報告され, 有用なバイオマーカーの一つと考えられており,口 腔癌患者のセンチネルリンパ節生検のマーカーとし て利用する研究などが進められてきた1) 。さらに最 近の研究では Dsg3が OSCC の遊走,増殖,浸潤能 に関与している可能性が示されてきた2,3) 。Dsg3は 自己免疫性水疱症である天疱瘡の自己抗体であり, これまでに天疱瘡患者のB細胞から自己抗体を構成 するH鎖,L鎖をクローニングし,single-chain vari-able fragment(scFv)として発現させる系が構築さ れ,抗 Dsg3抗体として in vivo で機能する複数の scFv 抗体がクローニングされている4) 。これらの抗 体のうちいくつかのクローンは,表皮細胞間に結合 するが,細胞間接着を破壊せず,水疱形成も来さな い非病原性抗体であった。我々は,この非病原性 抗体のうちの一つである Px44を癌抑制分子 TRAIL (TNF-related apoptosis-inducing ligand)に結合さ せた融合タンパク Px44TRAIL を作製し,組織特異 的ドラッグデリバリーシステムの開発を行ってき た。TRAIL は OSCC を含む種々の癌細胞に対して 選択的にアポトーシスを誘導するが,正常な細胞に はほとんど傷害をきたさないことが知られている。 Px44TRAIL は,低 Ca 培地で過剰増殖する条件下 にある培養ヒト表皮細胞に加えると,細胞表面に結 合してアポトーシスを誘導するが,リコンビナント Dsg3を競合的に加えて,その結合を阻害するとア ポトーシスを起こさない。また,正常マウス皮膚に 投与したところ,表皮細胞に結合するが,アポトー シスを含めた細胞への毒性は示さないことが確認 されている5) 。このような背景から,我々は Px44 TRAIL を OSCC の治療へ応用する研究を着想する に至った。これまで,共同研究者である立川哲彦ら により口腔癌患者から40種類以上の OSCC 細胞株 が樹立されており,それらを用いた研究成果が報告 されてきた6) 。このうちのいくつかは同一患者の原 発巣と転移リンパ節から樹立されたものであり,そ れを治療対象とすることによって,将来の臨床応用 にとってより有意義な知見が得られることが期待さ れた。本研究では,これらの口腔癌患者の原発巣と 転移リンパ節から樹立された複数の OSCC 細胞株 に対して Px44TRAIL を治療応用し,口腔癌に対す る特異抗原 Dsg3をターゲットとした選択的治療 モデルの開発を目的とした。 材料および方法 5名の口腔癌患者の原発巣と転移リンパ節から樹 立された10種類の OSCC 細胞株(表1)に対する in vitro での Px44TRAIL による治療効果を検討した。 Dsg3の発現は,OSCC 細胞株から RNA を抽出し cDNA を合成した後,real time PCR にて解析した。 陰性コントロールとして Dsg3と無関係の scFv 抗 体 を TRAIL に 結 合 し た 融 合 タ ン パ ク,AM3-13 TRAIL を用いた。治療タンパクの OSCC 細胞株へ の結合は,Px44TRAIL,AM3-13TRAIL のC末端 にある HA 標識を抗 HA 抗体で検出することにより 評価した。治療効果は Annexin-V 染色後に FACS 解析を行い,アポトーシスを検出することにより評 価した。
研究成果報告
⑴学長奨励研究助成成果報告
患者 番号 年齢 性別 初発部位 細胞株名 原発巣 転移リンパ節 1 78 女性 上顎歯肉 1P 1LY 2 69 女性 上顎歯肉 2P 2LY 3 65 男性 舌 3P 3LY 4 82 女性 上下顎歯肉 4P 4LY 5 80 男性 上顎歯肉 5P 5LY 表1 口腔癌患者背景と細胞株名 東京歯科大学口腔科学研究センターワークショップ 280結 果 結果を表2に示す。real time PCR 解析の結果, 1種 類 の 細 胞 株 を 除 い た す べ て の OSCC 細 胞 で Dsg3の発現が認められ,すべての患者において Dsg3の発現は原発巣より転移リンパ節で高い傾向 がみられた。Dsg3を発現している OSCC 細胞では Px44TRAIL が 結 合 し,非 特 異 的 抗 体 AM3-13に TRAIL を結合させた陰性コントロー ル AM3-13 TRAIL は結合しないことを確認した。Dsg3を発 現していない1種類の OSCC 細胞では Px44TRAIL の結合は認められなかった。リコンビナントヒト TRAIL を加えて16時間後にアポトーシスが起こる かを Annexin-V 染色にて調べたところ,7種類の OSCC 細胞株ではアポトーシスが認められたが,3 種類の細胞株では認められなかった。OSCC 細胞に Px44TRAIL と陰性コントロ ー ル AM3-13TRAIL を加えて2時間インキュベーションした後に洗浄 し,16時間後にアポトーシス誘導能を比較したとこ ろ,Px44TRAIL は9種類の細胞にアポトーシスを 誘導したが,陰性コントロール AM3-13TRAIL を 加えた細胞ではアポトーシスは認められなかった。 リコンビナントヒト TRAIL によりアポトーシスが 誘導されなかった2種類の OSCC 細胞株において も Px44TRAIL によるアポトーシスが認められた。 陰性コントロール AM3-13TRAIL を用いることに より治療薬側の陰性コントロール実験結果は示され た。一方,Dsg3を発現してお ら ず,Px44TRAIL の結合も認められなかった1種類の OSCC 細胞株 (5P)は,治療標的側の陰性コントロールになると 考えられたが,リコンビナントヒト TRAIL に感受 性を示さなかった。そこで TRAIL 感受性を protea-some inhibitor MG132を用いて増強させた条件下で Px44TRAIL を加える 実 験 を 行 っ た。そ の 結 果, TRAIL 感受性を増強させても Dsg3を発現してい ない OSCC 細胞株(5P)ではアポトーシスは誘導さ れなかった。 考 察 Px44TRAIL は OSCC 細胞に結合しアポトーシス を誘導したが,非特異的抗体 AM3-13に TRAIL を 結合させた陰性コントロール AM3-13TRAIL は結 合せず,アポトーシスも誘導しなかったこと,Dsg 3を発現していない OSCC 細胞株では Px44TRAIL の結合が認められず,アポトーシスも誘導されな かったことから,Px44TRAIL が Dsg3を標的とし て抗原特異的に OSCC 細胞に対する治療効果を発 揮することが証明された。興味深いのは,リコン ビナントヒト TRAIL によりアポトーシスが誘導さ れなかった2種類の OSCC 細胞株においても Px44 TRAIL によるアポトーシスが認められた点である。 この理由について,我々は以下のように考察した。 TRAIL はタンパクが凝集されることにより活性が 上がることが知られており,リコンビナント TRAIL タンパクに対して抗体を用いて cross link すること で活性が上がることが知られている。Px44TRAIL 患者 番号 細胞株名 Dsg3発現 PX44TRAIL の結合 リコンビナントヒト TRAIL に対する感受性 PX44TRAIL による アポトーシス 1 1P ○ ○ ○ ○ 1LY ○ ○ × ○ 2 2P ○ ○ × ○ 2LY ○ ○ ○ ○ 3 3P ○ ○ ○ ○ 3LY ○ ○ ○ ○ 4 4P ○ ○ ○ ○ 4LY ○ ○ ○ ○ 5 5P × × × ×* 5LY ○ ○ ○ ○ 表2 OSCC 細胞株の解析結果と Px44TRAIL による治療効果
*proteasome inhibitor MG132を用いて TRAIL 感受性を増強させた条件下
においても HA 標識を有しているため,抗 HA 抗 体で cross link することで活性が上がりアポトーシ
ス誘導能が上がることが確認されている5)
。リコン ビナントヒト TRAIL は soluble form である一方, Px44TRAIL は Dsg3を標的として細胞膜上に結合 し高濃度でレセプター近傍に局在し,作用しやすく なっている可能性が考えられた。さらに,Px44抗 体が Dsg3に結合している状態が,cross link と同 様の効果を発揮して Px44TRAIL のアポトーシス誘 導能が上がった可能性も考えられる。今後は,マウ スを用いた in vivo での治療効果判定実験を行って いく予定である。 結 論 Px44TRAIL は Dsg3を標的として抗原特異的に OSCC 細胞に対する治療効果を発揮することがわ かった。また,対象としたすべての口腔癌患者では 転移リンパ節で Dsg3の発現が高くなっており, 1名の患者では原発巣が Dsg3陰性であっても転 移リンパ節では Dsg3陽性となり Px44TRAIL の治 療対象となりうることが示され,Px44TRAIL は口 腔癌の転移リンパ節治療に有用となる可能性が示唆 された。 謝 辞 本研究を開始するにあたり,様々なご助言,ご協 力をいただいた口腔病態外科学講座の片倉 朗教 授,OSCC 細胞株を提供いただき,共同研究者とし て本研究に携わっていただいた埼玉県立がんセン ター腫瘍診断・予防科の立川哲彦教授に深謝致しま す。また,実験を担当していただいたオーラルメ ディシン・口腔外科学講座の三邉正樹大学院生,森 田奈那大学院生に感謝致します。 文 献
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Katakura A, Tachikawa T : Expression of BMI 1 and ZEB1 in epithelial-mesenchymal transi-tion of tongue squamous cell carcinoma. Oncol Rep, 34⑵:771−778,2015. ② Granulysin 由来ペプチドの横紋筋肉腫治 療への臨床的応用 市川総合病院神経内科 岡田 聡 緒 言 granyulysin は NK 細 胞 や 細 胞 障 害 性T細 胞 で 産生され る host defense に お け る effector 蛋 白 で ある1)
。granulysin はまず15kDa として産生される が 細 胞 内 で 分 解 さ れ る。そ の 結 果 生 じ る9kDa granulysin は perforin や granzyme と 同 じ granule に 局 在 し,強 い 細 胞 障 害 作 用 を 持 つ1,2)。9kDa
granulysin は jurkat 細胞を標的細胞とした場合,
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細胞内に取り込まれ,mitochondria 介在性の apop-tosis を引き起こす3,4)
。ま た,9kDa granulysin は 13の arginine 残基を持つため強い陽性荷電を帯び ていると推測される。構造的には9kDa granulysin は5つのα-helix と2つの short loop からなる。第 2,3helix に相当するアミノ酸配列を持つ peptide (G8)は29のアミノ酸残基を持つが,arginine 残基 が9つあり,9kDa granulysin に比べて非常に強 い細胞障害作用を示す5) 。 rhabdomyosarcoma は比較的稀な腫瘍であるが, 全身のどこにでも発症しうる。発症年齢は小児に多 く,再発することが多いため,通常,外科的切除, 化学療法および放射線療法を合わせた治療を行う。 1才未満あるいは10才以上に発症した場合,四肢や 膀胱,前立腺などに発症した場合,遠隔転移ある場 合,完全切除ができない場合などは予後不良とされ ている。また,四肢に発症した場合は切除範囲が大 きければ,生命予後が良好であっても機能的予後が 不良となることがある。 本研究では,granulysin のアミノ酸配列を元に作 成 し た peptide G8の rhabodomyosarcoma に 対 す る治療における有用性について検討した。 方 法
9kDa granulysin の第2,3helix に相当するア ミノ酸配列(QRSVSNAATRVCRTGRSRWRDVCR NFMRR)の peptide(G8),お よ び G8のC末 端 を fluorescein で標識した peptide(fG8)を作製した。
ヒト myoblast を Lonza 社より得て,BulletKit™ Medium 中で培養した後,培養液を分化培地 DMEM-F12(2% horse serum)と交換し,細胞を分化させ myotube を 形 成 さ せ た。Myoblast の 培 養 を 開 始 し,細胞が培養容器に定着した4時間後,および培 養液を分化培地に交換して3および5日後に G8の 細胞障害性を MTT assay で評価した。また,fG8 の細胞内への取り込みを共焦点レ ー ザ ー 顕 微 鏡 LSM5 DUO で観察した。さらに,myoblast が 分 化し myotube が形成される過程で,ヘパラン硫酸 プロテオグリカン(HSPG)の発現の変化を免疫蛍光 染色で検討した。HSPG は agrin,glypican-1,syn-decan1,2,3,4について調べた。 CHO-K1お よ び そ の 変 異 体 で あ る PgsD-677, PgsA-745を F-12K(10% FBS)中 で 培 養 し た。fG8 を濃度が3uM になるように加え,20分間 incubate した。PBS で洗浄後 trypsin-EDTA 溶液で細胞を分 散させ,4% parafolmaldehyde で固定後 fluorescein の蛍光強度を FACS aria で測定した。
Rhabdomyoma cell line(HIRS-BM,NRS-1,RMS -YM)を理化学研究所より得て,それぞれ Ham-F12 (15%FBS),MEM Alpha(10%FBS),RPMI1640 (10%FBS,0.1mM Non-Essential Amino Acid,20 mM HEPES)中で培養した。細胞が70−80% conflu-ent に増殖した時,G8の細胞障害性を MTT assay で検討した。また,ヒト myoblast 分化培地と同じ DMEM-F12(2% horse serum)に 培 地 を 交 換 し 培 養した。交換前と,3日後に HSPG の発現を免疫 染色で比較した。 分化した myotube を CellBrite で染色後,同一培 養容器に HIRS-BM を投与し12時間 incubate した。 fG8を 投 与 し,LSM DUO で fluorescein の 分 布 を 観察した。 7例の rhabdomyosarcoma の病理検体を千葉県 がんセンター整形外科,岩田慎太郎先生よりご提供 いただいた。それぞれの検体,および正常ヒト骨格 筋 標 本 で の HSPG の 発 現 を 免 疫 蛍 光 染 色 お よ び western blot で評価した。 結果および考察 CHO-K1,PgsD-677および PgsA-745に fG8を投 与し,FACSaria で fluorescein の蛍光強度を調べる と,PgsD-677,PgsA-745では CHO-K1に比べて蛍 光強度が著明に減少していた。LSM 5 DUO で観 察すると,CHO-K1では細胞内および細胞膜に接し て粒状に fluorescein の蛍光を認めたが,PgsD-677, PgsA-745では蛍光強度は非常に弱く,特に細胞膜 に接した粒状の蛍光は観察されなかった。PgsD-677 と PgsA-745は CHO-K1の変異体である。PgsD-677 は,N-acetylglucosaminyltransferase と glucuronyl-transferase の活性が障害され,ヘパラン硫酸の産 生が阻害されている6) 。また,PgsA-745では xylosyl-transferase の活性が欠損し glycosaminoglycan を産 生することができない7) 。9kDa granulysin は前述 したように強い陽性荷電を持つために,細胞膜上の 陰性に荷電した分子に結合するのではないかと推測 される。ヘパラン硫酸は強い陰性荷電を持つため, 細胞膜上に存在する HSPG が標的細胞への結合お 歯科学報 Vol.117,No.4(2017) 283
よび細胞内への取り込みに重要な役割を果たしてい る可能性があると考えられる。
3つの rhabdomyosarcoma cell line,および正常 ヒト myoblast を分化培地で培養後,G8の細胞障 害性を検討した結果,分化途上のヒト myoblast に は細胞障害性を認めない濃度でもすべての rhabdo-myoma cell line で強い細胞障害性が確認された。 また,rhabdomyosarcoma cell line を分化培地で培 養しても HSPG の蛍光強度の低下は認められなかっ た。CHO-K1,PgsA-745,PgsD-677を用いた実験 の結果と合わせて考えると,正常 myoblast では分 化するに従い HSPG の発現が顕著に減少するが, rhabdomyoma cell line では HSPG の発現が強いた め,G8が結合し細胞障害性を示すと推測される。 分化したヒト myotube と rhabdomyoma cell line を 同一容器内で培養し G8を投与すると,G8は rhab-domyoma cell line のみに取り込まれ,myotube に はその細胞膜や細胞内には G8は観察されなかっ た。この結果は,正常筋系細胞と腫瘍化した筋細胞 では,G8が選択的に腫瘍化した筋細胞を障害する ことを強く支持すると考えられる。 7つの rhabdomyosarcoma の病理標本と,正 常 ヒ ト 筋 線 維 で HSPG の 発 現 を 免 疫 蛍 光 染 色 で 評 価した結果,正常ヒト筋線維では agrin,glypican-1,syndecan1,2,3,4すべてにおいて発現が ほとんど認められなかったが,rhabdomyosarcoma の病理検体では強い発現を認めた。それぞれの検体 を比較すると,各 HSPG の発現の程度に差はある が syndecan-1はすべての検体において非常に強い 発現を認めた。western blot でも同様の発現パター ンが確認された。 以上のことから,rhabdomyosarcoma の治療を考 える上で HSPG は有望な標的分子と考えられる。 また,G8は同疾患に対して有用な prodrug となる 可能性が示された。 文 献
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象牙芽細胞には機械,浸透圧,pH,温度刺激を 受容する transient receptor potential(TRP)チャネ ルが発現している。そのうち TRP vanilloid subfam-ily member1,2,41−4) ,TRP ankylin subfamily member1(TRPA1)チャネル5) の活性化とNa+ -Ca2+ 交換体6) を介した Ca2+ 排出のカップリング機構は象 牙質表面に加えられた刺激に伴う反応性象牙質形成 を調節する3,4) 。
水酸化カルシウム製剤や mineral trioxide aggre-gate(MTA)は 投 与 時 に 強 い 高 pH 環 境 を 作 り 出 す7−9) ことで第三象牙質や象牙質橋を形成する歯内 療法薬である。これらの薬剤が作り出すアルカリ環 境を象牙芽細胞が受容することで象牙質が形成され ると考えられる。しかしながら,象牙芽細胞が細胞 外アルカリ環境を受容する詳細な細胞メカニズムは 不明である。これまでの研究で我々は象牙芽細胞に おいてアルカリ感受性感覚受容分子センサーである TRPA1チャネルの発現を報告した5) 。そこで,本 研究では象牙芽細胞による細胞外アルカリ環境の受 容と象牙質形成の詳細な細胞メカニズムを調べるた め,TRPA1チャネルに着目し,象牙芽細胞におけ るアルカリ刺激感受性を検討した。 材料及び方法 1)歯髄スライス標本の作製 新生仔ラットから得られた片顎下顎骨より歯髄ス ライス標本を作製し,酵素処理した後,24時間の初 代培養を行った。実験には初代培養後の歯髄の外周 に配列する象牙芽細胞を使用した。全ての実験は室 温で行った。 2)細胞内遊離 Ca2+ イオン濃度測定 初 代 培 養 し た 歯 髄 ス ラ イ ス 標 本 に fura-2-acetoxymethyl ester を30分間負荷し fura-2蛍光を
検出した。細胞内遊離 Ca2+ イオン濃度([Ca2+ ]i)は 380nm と340nm の2波 長 励 起 に お け る 蛍 光 比 (RF340/380)として表した。 3)アルカリ刺激誘発性細胞膜電流計測 コンベンショナルホールセルパッチクランプ法に て細胞を電位固定し(保持電位−60mV),アルカリ 刺激誘発性細胞膜電流を計測した。 結 果 細胞外 Ca2+存在下において,pH10のクレブス溶 液を投与すると[Ca2+ ]iは増加した。その後3回の 反復投与を行ったところ,[Ca2+ ]i増加は変化せず, 脱感作を示さなかった。 アルカリ刺激による[Ca2+ ]i増加の経路を検討し た。細 胞 外 Ca2+ 存 在 下 に お い て,pH8.5,9.5, 10.5のクレブス溶液を投与すると[Ca2+ ]iは増加し た。その増加は細胞外 Ca2+ 非存在下において有意 に減少した。この結果からアルカリ刺激は細胞外か ら の Ca2+ 流 入 と ス ト ア か ら の Ca2+ 放 出 に よ り [Ca2+ ]iを増加することが示された。細胞外 Ca2+存 在下,細胞外 Ca2+ 非存在下ともにアルカリ刺激に よる[Ca2+ ]i増加は pH 依存性を示した。 アルカリ刺激による[Ca2+ ]i増加の細胞外 Ca2+濃 度依存性について検討した。pH7.5,8.5,9.5のク レブス溶液を細胞外 Ca2+ 濃度0.01,0.1,1.0,2.5, 5.0mM の条件下で投与した。アルカリ刺激による [Ca2+ ]i増加は細胞外 Ca2+濃度依存性を示した。そ の50%の応答を示す EC50は pH が高くなるにした がって減少した。これらの結果から細胞外 pH が高 くなるにしたがって象牙芽細胞の細胞外 Ca2+ に対 する感受性が高くなることが示された。 pH9のクレブス溶液を投与すると内向き電流が 得られた。その後2回の反復投与を行ったところ, これらの内向き電流の振幅は変化せず,脱感作を示 さなかった。加えて得られた内向き電流値は pH 依 存性に増加した。 細胞外 Ca2+存在下において,pH10のクレブス溶 液の投与による[Ca2+ ]i増加は TRPA1チャネル阻 害薬である HC030031の投与で有意に抑制された。 象牙芽細胞においてアルカリ刺激は TRPA1チャ ネルによって受容されることが示された。 アルカリ刺激で増加した細胞内 Ca2+ の排出経路 を調べた。細胞外 Ca2+ 存在下において pH8.5のクレ ブス溶液の投与による[Ca2+ ]i増加のピークからア ルカリ溶液投与終了までの Ca2+ 排出量は Na+ -Ca2+ 交換体抑制薬を投与すると有意に減少した。 アルカリ刺激と TRPA1チャネルの石灰化に対 する影響を調べるため,培養ヒト象牙芽細胞の pH 7.4で培養した群と高 pH 刺激を行った群を準備し, 石灰化誘導培地中で培養した。14日または28日後に alizarin red 染色と von Kossa 染色を行った。高 pH
反復刺激を行った群では pH7.4のコントロール群
と比べ,石灰化が促進した。TRPA1チャネル阻害
薬 で あ る HC030031を 投 与 し た 群 で は PH7.4,高 pH 条件下共に石灰化が抑制された。 考 察 象牙芽細胞はアルカリ刺激を受容することを明ら かにした。象牙芽細胞における Ca2+ シグナルは細 胞外からの Ca2+ 流入とストアからの Ca2+ 放出によ り調節されている。象牙芽細胞において,高 pH 刺 激は TRPA1チャネルを介した細胞外からの Ca2+ 流入とストアからの Ca2+ 放出を介した[Ca2+ ]i増加 を引き起こす。高 pH 刺激による[Ca2+ ]i増加は細胞 外 Ca2+ 濃度と pH に依存しており,増加した細胞内 Ca2+ は Na+ -Ca2+ 交換体によって細胞外へ排出され る。高 pH 刺激による Ca2+ 応答が脱感作しなかっ たことから水酸化カルシウム製剤や MTA を長期的 に投与しても象牙芽細胞は高 pH 刺激を受容し続け ることが示唆された。従って,水酸化カルシウム製 剤や MTA を象牙質表面に投与すると象牙芽細胞に アルカリ刺激が加わりそれを象牙芽細胞が受容する ことで象牙質形成を駆動することが示唆された。加 えて象牙芽細胞における TRPA1チャネル調節性 の Ca2+ 流入と細胞内 Ca2+ シグナルは高 pH/Ca2+ の 水酸化カルシウムや MTA などの薬剤による象牙質 形成だけでなく生理的条件での象牙質形成にも重要 な役割を果たす可能性が示唆された。 文 献
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