未来社会をプロデュースするICT : 7.アーバンセンシングで新たなサービスを展開する-センサ情報とサイバー情報を融合した近未来サービスの実現-
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(2) 特集. 未来社会をプロデュースする. ICT 大規模・連続的に発生するセンサデータ(ストリーム) ・問合せ処理,インデクシング,異種センサ統合 ・不確性を持つデータへの問合せ処理. ネットワークセンシングシステム. アーバンセンシング. 無線センサネットワーク 資源に乏しいセンサノード(通信帯域,バッテリ) ・ルーティング,データ集約 ・ネットワーク内問合せ処理,消費電力削減. さまざまなセンサデバイス,一般ユーザによるセンシング (システムの異種性・動的変化,大規模数ノード). シングを実現するために重要と考えられる研究課題. GSNが動作 する基地局. について議論する. ■. 異種性,動的変化への対応. 先に述べたように,従来のネットワークセンシン. バーチャル センサ (VS). GSN(Global いる.そのうち,代表的なものとして, Sensor Network)3)☆ 1 と X-Sensor4)について簡単に. Internet VS. グシステムに関する研究分野においても,センサデ バイスの異種性を考慮した研究はいくつか行われて. 図 -1 無線センサネ ットワーク,ネット ワークセンシングシ ステム. VS 無線センサネットワーク. Webカメラ. 温度センサ. 図 -2 GSN(Global Sensor Network). 紹介する. GSN は,スイスのロザンヌ工科大学(EPFL)の. Karl Aberer 教授らによるプロジェクトにおいて開発. X-Sensor は,筆者らが推進するプロジェクトで開. されているセンサ統合システムのためのミドルウ. 発しているセンサネットワークテストベッドである.. ェアである.GSN では,バーチャルセンサという. X-Sensor は,複数の無線センサネットワークを統合. 概念を導入することにより,仕様の異なるさまざま. し,センサノードを利用した実測実験の支援と,さ. なセンサデバイスを機能ごとに同等に扱うことを可. まざまなセンサデータの共有の支援を目的としてい. 能とする(図 -2).具体的には,バーチャルセンサ. る.そのために,モバイルエージェントを利用した. は,ハードウェアの詳細を隠ぺいするための簡単な. P2P ネットワークプラットフォーム PIAX ☆ 2 をベ. XML 記述により実現される.また,センサ統合シ. ースとして,複数の無線ネットワーク(拠点)を P2P. ステムを開発するためのさまざまな API を提供し. ネットワークのピアとして統合するシステムを実現. ている.これにより,システム構築者は,センサデ. している(図 -3).これにより,大規模数の拠点の. バイスの異種性に煩わされることなく,比較的に容 易にセンサ統合システムを構築できる.. 42 情報処理 Vol.52 No.1 Jan. 2011. ☆1 ☆2. http://sourceforge.net/apps/trac/gsn/ http://www.piax.org/.
(3) 7. アーバンセンシングで新たなサービスを展開する. ∼センサ情報とサイバー情報を融合した近未来サービスの実現∼. ︻未来プロデューサ . 究を紹介する. 文献 5)において筆者らは,特定の時刻にセンシ. ユーザ. ングしたセンサノードの観測値のみを効率的に取得 するための P2P ネットワーク構築手法を提案した.. エージェント. 7. ︼. この手法では,センシング時刻および周期をスロッ トという単位で管理し,同一周期かつ同一時刻にセ. センサネットワーク. ンシングするノードをクラスタ化し,さらに,セン. 図 -3 X-Sensor. シング周期が倍数関係にあり,頻繁に同じ時刻にセ ンシングするノード間を論理リンクで接続する.問. 参加 (スケーラビリティ)と複数拠点への横断的な問. 合せ処理時には,このようにして構築された P2P. 合せの実現を可能とする.. ネットワーク上の論理リンクをたどることで,必要. これらの異種センサ統合技術を利用することによ. 最小限のノードのみに問合せメッセージを伝搬する. り,アーバンセンシングのためのセンサ統合システ. ことが可能となり,問合せ時のネットワークトラフ. ムを構築できる可能がある.しかし,従来の技術は,. ィックを低減できる(図 -4).. 一般のモバイルユーザによるセンシングまでは考慮. 文献 6)では,地理的な領域を指定してセンサデ. していないため,一般ユーザによるセンシングデー. ータを要求する問合せを想定し,指定領域の範囲に. タを効率的に管理することは困難である.そのため,. 基づいて,適切な粒度でセンサデータを効率的に取. 今後は,一般ユーザによるセンシングを考慮した,. 得するための,P2P ネットワーク構築手法を考案し. センサデータ登録・管理技術やメタデータ自動付与. ている.この手法では,地理ベースのドロネー P2P. 技術などの実現が必須となる.. ネットワーク(ドロネー三角形分割に基づく P2P ネ ットワーク)を構築する.さらに,問合せに対して,. ■. 大規模数ノードへの対応. 指定領域から一様にセンサデータを取得するように. アーバンセンシング環境では,大規模数のセンサ. ネットワーク内のピアを探索し,適切な粒度にデー. デバイスが存在するため,これらが取得したセンサ. タを集約した上でユーザに返信する.. データに対して効率的に問合せを処理する技術が必. 上述のようにアーバンセンシング環境における大. 要となる.そこで,アーバンセンシング環境(ユビ. 規模なセンサノード数に対応するための研究はいく. キタスセンサ環境)における問合せ処理のための手. つか行われているが,多様な実応用に適用可能なレ. 法がいくつか提案されている.これらのほとんどは,. ベルまで成熟しているものではない.そのため,今. 大規模なノード数に対応するために P2P ネットワ. 後は当該分野の基盤技術について,さらなる研究開. ークを想定している.以下では,代表的な 2 つの研. 発が望まれる.. 問合せ:スロット2 センシング開始時刻/周期. 0/2. C. A. 0/4. 1/2. D. 2/4. 0/2 B. 1/2 0/4 2/4. ユーザ. 0. 1. 2. 3. 4 …. A. 0. 1. 0. 1. 0. …. B. 0. 1. 0. 1. 0. …. C. 0. 1. 2. 3. 0. …. D. 0. 1. 2. 3. 0. …. 図 -4 時刻指定問合せのための P2P ネッ トワーク構築手法. 情報処理 Vol.52 No.1 Jan. 2011. 43.
(4) 特集. 未来社会をプロデュースする. ICT Macrosense. 図 -5 Citysense. ■. ユーザと専門医の間で食生活管理を目的として情報. アーバンセンシングを想定したさまざまな応用に. 共有を行う Dietsense,家庭内での人間関係を把握. 関する研究およびサービス開発が進められている.. するために家族の位置情報や接触情報を共有する. 本章では,研究分野の代表的なプロジェクトとして. Family Dynamics などがある.. 新たな応用への展開. ☆3. を紹介する.さ. Citysense は,Sensor Networks 社が 2008 年に開始. らに,すでにサービス展開されているプロジェクト. した実サービスであり,iPhone や Blackberry 端末を. Sensor Planet. と Urban Sensing. ☆4. として,Citysense. ☆5. と Locky.jp. ☆6. を紹介する.. 持つユーザを対象とし,San Francisco のユーザ分布. Sensor Planet は,2006 年に Nokia が発足したア. をユーザの端末に表示する(図 -5).たとえば,「今,. ーバンセンシングのための大規模プロジェクトであ. どこに人が集まっていて,どこに行こうとしている. る.このプロジェクトでは,携帯電話などモバイル. か?」などの問合せが可能となる.このために,同. 端末を中心とした世界規模のセンサネットワークの. 社の Macrosense(位置データを用いたユーザ動作解. 実現を目的としており,特に,大規模センサデータ. 析ツール)を利用し,現在の数万単位のユーザの位. の共有,研究者のための大規模実験環境の提供,お. 置情報と,過去の数 10 億のデータを利用して,現. よび,センサネットワークのための大規模オープソ. 状をリアルタイムに予測している.. ースコミュニティの実現を目指している.また,さ. Locky.jp は,名古屋大学の河口信夫教授らによっ. まざまな関連プロジェクトとの共同体制を築いてお. て 2005 年に開始された測位サービスである.この. り,Urban Sensing(CENS/UCLA),CarTel(MIT),. サービスでは,Locky.jp を利用している大量のユー. BIONET などのプロジェクトと連携している.. ザから,無線 LAN の基地局データ(BSSID,RSSI,. Urban Sensing は,先述の Sensor Planet にも参加. 設置場所)と,測位場所(ユーザ位置)を収集する.. している CENS/UCLA によるプロジェクトである.. そして,ユーザの問合せに対して,収集した情報に. このプロジェクトでは特に,携帯電話を用いたセン. 基づいて位置を予測し提供する.2010 年 10 月現在. シングを想定し,大規模センサデータの共有およ. で,80 万超のデータを収集している.また,この. び Web などの外部リソースとの連携による状況予. プロジェクトの一環として,時刻表表示や駅構内の. 測等の高度化を目指している.Sensor Planet がプロ. 測位などのサービスを提供する駅 .Locky も実施し. ジェクト連携のためのプラットフォーム構築を目的. ている.. としているのに対し,このプロジェクトでは実応用 への展開に主眼を置いている点が大きな特徴である. 具体的には,12 個の応用プロジェクトを実施して おり,たとえば,サイクリングを趣味とするユーザ 間でコース情報やその状況を共有する Cyclesense や,. 44 情報処理 Vol.52 No.1 Jan. 2011. ☆3 ☆4 ☆5 ☆6. http://www.sensorplanet.org http://urban.cens.ucla.edu/ http://www.sensenetworks.com/ http://locky.jp.
(5) 7. アーバンセンシングで新たなサービスを展開する. ∼センサ情報とサイバー情報を融合した近未来サービスの実現∼. ︻未来プロデューサ . アーバンセンシングがどのように 将来を変えるのか?. 界をダイレクトに反映する多種多様なセンサデータ に加えて,サイバー世界の情報として一般の Web 情報やブログ,twitter,flicker などのソーシャルメ. 前章で紹介したように,アーバンセンシングの応. ディア情報を利用することが有効と考えられる.サ. 用として実サービス展開されているものがすでにい. イバー情報を解析することにより,サイバー世界の. くつか存在するが,ユーザの位置情報をセンサデー. 情報から実世界の情報を反映するものを抽出したり,. タとして共用するものがほとんどであり,多種類の. サイバー世界のソーシャル関係を実世界の解析に利. センサデータを共有するようなものは少ない.これ. 用することが可能になる.これを実現するためには,. は,アーバンセンシングが新しい研究分野であるた. アーバンセンシングの基盤技術に加えて,サイバー. め,現状で基盤技術の開発と,応用サービスの開発. 情報を解析する基盤技術をあわせ持つ,情報基盤が. が並行に行われていることに起因する.つまり,基. 必要になる.このような情報基盤を実現することで,. 盤技術の開発が応用に追いついていないため,位置. センサ情報とサイバー情報を統合的に解析し,さま. 情報などの比較的取得しやすいセンサデータのみが. ざまなアーバンセンシングの応用に利用可能な情報. 共有され,それを有効活用できる応用の開発が進め. を抽出することが可能となる.今後は,このような. られていると考える.. 情報基盤の実現を目指した研究開発を推進していき. 今後,基盤技術が成熟し,さまざまなセンサデ. たいと考えている.. と,さらに多様なサービスが展開されることが予想 される.たとえば,Citysense などの応用を発展させ, どのような地域に,どのような趣味・嗜好を持った ユーザが集まっており,何をしているのか,滞在時 間はどの程度かなどの情報をリアルタイムに提供で きるものと考えられる.このような情報は,たとえ ば,旅行先での訪問場所の推薦や,スケジューリン グに活用できる.また,社会的価値の高い応用とし ては,カメラセンサや GPS,人物トラッキングセ ンサなどを利用することで,犯罪の発生パターンの. ︼. ータを共有可能なプラットフォームが実現される. 7. 参考文献 1) Akyildiz, I. F. et al. : A Survey on Sensor Networks, IEEE Communications Magazine, Vol.40, No.8, pp.102-114(2002). 2) 戸辺義人 他 : アーバンセンシング基盤に向けて,人工知能学 会誌,Vol.23, No.4, pp.474-479(2008). 3) Aberer, K. et al. : A Middleware for Fast and Flexible Sensor Network Deployment, Proc. of VLDB 2006, pp.1199-1202 (2006). 4) Kanzaki, A. et al. : X-Sensor :Wireless Sensor Network Testbed. Integrating Multiple Networks, Wireless Sensor Network Technologies for Information Explosion Era, Vol.278, Chapter III3, pp.249-271(2010). 5) 小坂佳弘 他 : ユビキタスセンサ環境におけるセンシング周 期に基づく P2P ネットワーク,情報処理学会論文誌,Vol.51, No.9, pp.1892-1904(Sep. 2010). 6)Shinomiya, J. et al. : An Examination of Sensor Data Collection Method for Spatial Interpolation on Hierarchical Delaunay Overlay Network, Proc. of SeNTIE 2010, pp.407-412(2010). (平成 22 年 10 月 30 日受付). 検出が可能になり,犯罪予防や早期発見につながる ものと考えられる.さらに,伝染性の疫病などが発 生した際,ユーザ間のコンタクト情報を地理的およ び時系列的に解析することにより,伝播状況など被 害レベルの予想が可能となる. 上記のような新たな応用を実現する上では,実世. 原 隆浩(正会員)[email protected] 1997 年大阪大学大学院前期課程修了.2004 年より同大学院情報科 学研究科准教授.工学博士.2008 年,2009 年本会論文賞受賞.デー タベースシステム,モバイルコンピューティングに関する研究に従 事.IEEE,ACM,電子情報通信学会,日本データベース学会各会員.. 情報処理 Vol.52 No.1 Jan. 2011. 45.
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