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行政計画のジレンマ

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(1)行政計画のジレンマ. 西谷 剛 (このたび,久留島隆教授,三邊夏雄教授.森川俊孝教授が定年によるご退職とうかが. い,懐かしさと感謝の気持ちが湧き起こります。三先生からいろいろご指専いただき ました。行政官から突然学界に移った者を寛容の心で迎えてくださり,ご親切にいろ. いろご指導くださいました。三邊先生からは同じ行政法専攻として学問上のことでご. 教示いただくことが多くありました。先生は決して多筆ではありませんがその学問 的関心は,常に社会実態を見づめ、これと理論を結びつけることにあり,ご論考には そのことがよく表われていました。また,その文章はよく練られた短い章句をいくつ も含むものでありました。. 三先生が今後ともお元気でご活躍なさいますようお祈り申し上げます。). 第1 総説  1 計画の不確実性  世の申のことはすべて不確実である。入間はこの中で一定の行動をする。公 私の領域とも然り。そこで,法令を中心とする「制度」がそこを補う。あらか じめ「このように行動することに決めておこう」というのである。この場合, 1.

(2)  横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 私領域での行動選択のリスクは原則として私人限りのものであるが,公領域で の判断は与える影響が大きい。これに対処するために,「法律による行政の原理」. の下で多数の実定行政法が制定され,制度化が徹底されることとなる。.  社会の変化が激しく,かつ,社会を構成する要素の多様性が増大すると、不 確実性が増す。法令だけでは対応できない。計画という手法が登場してくる。. 堅い規範としての法令と,柔らかい規範としての計画の2つの道具を意識的に. 使い分ける,そういうシステムが必要になる。法律,政令府省令条例規 則などの従来の規範に加えて,行政計画が制度化される。政令以下の規範(行 政立法)や条例(自治立法)は,法律より弾力性のある可変的な規範であるが,. それでもなお,社会の「変化」と「多様性」には対応できない。法律は「計画. を定めそれにより行政を進めよ」と命ずるに至る。約1900法律のうち300を 超える計画法がある。そこに規定された計画の種類は約600に及ぶ。例えば「都. 市計画」は実際は各地で多数策定されているが,法定種類としては一つとして 数えてである。いかに多くの計画が行政実務において用いられているか想像で きよう。.  行政立法や自治立法の弾力性のさらに先に行政計画の弾力性があり,両者は 連続的なスペクトラム状の関係にあるのだが,そこをあえて意識的に区分して 使い分けようとするのである。政省令や条例で定められたものは堅い確実な規 範であり,行政計画で定められた事項は不確実性を色濃く持った柔軟な規範で あるとして,組み立て,運用される。規範であるといいながら不確実であると いうのだから,そこにジレンマ(どちらの選択をしても満足な解決が得られない状態). が生ずる。本稿はその点を少し考えてみようとするものである。.  計画の不確実性に対する工夫として部分計画の策定がある。全体計画に対し て特定地区計画,特定課題計画などの部分計画(個別計画)は,より具体的で,. より確実な事象を基礎として策定される。しかし,この場合もあくまで計画が 将来を形成する道具である以上やはり自的も手段も不確実な性質を免れない。 年度事業計画にしても,予算がついて現に着手されてからでは計画の意味がな 2.

(3) 行政計画のジレンマ. い。近い将来実行すべし,そう期待するというのが計画だからである。また, 部分計画はその実施を貫徹すべきかどうかについて常にある種の疑念を持って. みられている。部分計画と全体計画の間には,衝突があるからである。部分計 画を貫こうとすれば全体計画が邪魔をし,逆に全体計画の側からするとその統. 一的な目標・手段が部分計画によって破られる。法律と条例の問題画一的法 令と「部分社会の法」の問題と同様のジレンマがここにある。. 2 計画の実効性  不確実性に対処するために計画という道具を持つのであるが,その計画はや はりその内容が不確実であるのでTここにジレンマが生ずる。不確実性のジレ ンマが端的に現われるのは,計画の実効性である。ここで実効性とは,「計画 に記載されたことが文字どおり実現する可能性」をいう。計画は将来に向けて 目標を設定し,その実現を図るために将来に行使される手段を総合的に設定す る規範(人の行動基準)である。将来の予測は常にある種の不確実性を伴う。. 将来の経済活動や社会生活の動向を正確に予測することの困難はいうまでもな い。多くの行政計画の基本となる人ロ予測にしても,全数ではかなり確実性が 高いとしても、地域別に予測するとなると途端に不確実性が高まる。目標達成 のための手段にしても,記載された手段が必ず実施される担保はないし,その 後に当該手段の力が変化したり,新たな手段が登場することもあるから,諸手 段の選択と組合せは多くの場合試行錯誤的なものである。目標についても手段 についても計画は不確実であり,したがって計画の実効性は申途半端なものと なる。.  「折角計画を策定したのだからそれが実現しないことは行政の責任だ」とい えば,「計画は所詮計画だからそう厳格に実現することはない」という。逆に ある行為に反対する者があれば「計画で決まっていることだから実施するのだ」. という。こうして,計画策定権を持つ行政の側が都合のよいように計画を利用. するおそれもある。規範としての柔軟性といえばその利点をいうようにも聞え.                                  3.

(4) 横浜国際経済法学第17{巻第3号(2009年3月). るが,その解釈運用権を持った側の裁量に権威付けを与える点に注意が必要で ある。そしてそのことが,結果として計画という道具を無視し,あるいは軽視 することにもなることがまた一つのジレンマとなる。計画が必要であるとしな がら,他方で不必要であるとするジレンマである。.  3 不確実性の原因  以下に,計画内容が不確実になる原因,つまり計画の実効性にあいまいさ, 中途半端さが生ずる原因を3点述べる。.  (1)計画内容の抽象性からの不確実性  将来のことを定めようとすれば 推測の上に立って目標と手段を定めなければならない。この場合,推測による 不確実性をできる限り避けようとするため,計画内容は,具体的で定量的な記 述を避けて,抽象的で定性的な記述となる傾向がある。.  実効性の程度を測るためには実効性評価可能性がなければならない。抽象的 定性的内容では,その評価可能性ほ低い。計画内容が抽象的定性的なものとな る傾向があるから,計画の評価可能性は低くなる傾向があり,したがって計画. の実効性は低くなる傾向がある。全体計画は相対的に内容が抽象的定性的で あって,実効性評価可能性は低い。「美しい国土」といってもその内容は人によっ. て異なるから水掛け論になる。ここではそもそも評価可能性を問題とすること 自体が問題であるともいえ,したがってまた結果としての実効性も高いとはと うていいえない。.  抽象定性化の傾向に対処するため,全体計画と部分計画を区分して段階的に. 具体性に接近する手法がとられる。広域計画と狭域計画t総合計画と特定課題 計画などtそれぞれ全体と部分の関係に当たる。実定計画が果たしてしっかり とした全体と部分の関係を構成しているかどうかはひとまず措いて,実定諸計 画を相互に比較してより広い内容のものと狭い内容のものとを区分することは できる1)。部分計画における記述が具体的であれば(例えば数値目標が定めら. れているような場合を想定すればよいのだが),評価可能性は高い。しかしあ 4.

(5)                            行政計画のジレンマ. くまで評価可能性が高くなるというにすぎず,結果として実効度が高いかどう. か一概にいえない。高額な予算を必要とする行為と簡単な行為では実効度が異 なる。実効性の判断は,「評価可能度と結果としての実効度(実績)の積」と. いう計算によって行われると考えるべきだろうe部分計画は一般的には全体計 画より実効性は高いだろうとはいえても,評価度と実効度の積としての実効性 は直ちに高いとはいえないのである。.  (2)第三者行為を前提とすることからくる不確実性  計画における目標と. 手段は,計画策定者以外の第三者の行為を前提とし,推測や期待をもって選択 される。将来において第三者が行う行為であるから,必ず実施されるという保 証はないが,だからこそ計画化して実施を目指そうとするのである。計画策定 者がその事項の実施を断言できないという意味で手段は不確定である。その不 確定の程度は,当該手段の性質によって異なる。例えば民間において主として 実施される行為についての記述と公主体が現に有している手段の行使の記述と は明らかに異なる。計画の目標を達成するための手段が主として民間の行為に よるときは,計画はその行為が「期待される」「必要である」「支援する」など と客観的必要性を示すにとどまり,実施を断言するものではなくなる。「・・する」. と確定的に断言した記述と「期待される」と記述したものとでは・当該手段の. 実施確定度には差があり,したがって計画の実効性に差異が出る。公的部門の 手段と私的部門の手段が混合した計画(例えば社会経済総合計風土地利用基本計. 画など)となれば,その混合比率の不明確性によって.一層計画の実効性のあ いまいさが顕著となる。.  開発計画は主として公的事業の実施計画であるから,実効性は高い。これに 対して土地利用計画は,主として私的行為たる生活・産業活動についての計画 であるから,具体的実効性を問題にすることに困難が伴う・ただし,主として 私的行為を対象とする計画であっても,当該私的行為に対しては何がしかの公. 的関与(補助金,融資税特例など)があるので実効性を操作することはでき るが,その関与の程度が区々であって,それが計画の実効性をあいまいにする。.                                   5.

(6) 棚浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月).  主として公的部門の手段についても,先述のように,それが容易に実行され るような簡単なものか大規模予算を必要とするものかなどによって結果が異な り,実効性はあいまいとなる。さらに,計画策定者は自己の権限下にある事業 施策のみを計画するのではなく、他の公主体の権限下にある事業施策をも対象. として計画するから,後者を取り込んだ程度が高いほど実効性は低くなる㌔ 市町村の総合計画を考えれば,例えば市町村道だけでなく,県道も国道も対象 にして当該市町村の交通を整備しなければならない。他の権限下の事業施策を 取り込めば取り込むほど計画の実効性はあいまいさを増す。計画内容を総合的 なものにすればするほど,実効性が落ちてくるというジレンマがある。  (3)目標の高低からくる不確実性  実効性は目標の高低と相関する。高い. 目標を設定すれば実効度は低くなる。達成容易な目標値なら当然実効度は高ま る。計画の機能は現代の激しい社会事象の変化に対応して現状を変化させるこ とであるから,一般に,計画策定者とすれば,現状趨勢型でなく将来に向けて 現状変更の努力をこそ期待して,高い目標を設定する傾向がある。かといって 実効性を無視した計画は単なる作文でしかないから,一定の実効性は確保しな ければならない。目標値の取り方は,計画策定の際の最も困難な作業である。 ここで問題は,策定者自らも,外部からも,設定された目標値がどの程度に高 いものかは不明だということである。高低の度を感覚的には分かっても,正確 には知りえない。この故に,計画の実効性はあいまいとなる。  他方,目標を軽視して,現実的な諸手段の実施調整をして適切に組み合わせ、. 仕事を円滑化するのも計画の機能である。単純な事業予定表ともいうべき計画 である。年度事業計画などはこの部類である。この計画では比較的に実効性は 高いが,それでも諸手段を単に成り行きにまかせるのでなく組合せたり重点化 したりする点に計画の意味がある以上,やはりここでも実効性はなおあいまい である。.  ある策定者はいうであろう。動員可能な人的物的資源を用いて適切な努力を. すれば到達できるような計画を策定したのだと。だから100%の達成率が好ま 6.

(7)                            行政計画のジレンマ. しいと。しかしやはり,「動員可能な人的物的資源」とか「適切な努力」とか. の概念の検証は困難である。だから,仮に達成率100%となっても,それが計 画の勝利かどうか分からない。計画の目標や手段選択はやはり甘いものであっ て本来自然に達成できるものであったかもしれない。また,他の策定者はいう. であろう。達成率50%にすぎなくとも,計画としては将来への努力目標を高 く掲げた意義深いものとして評価されるべきものであると。.  長期計画(10年),申期計画(5年),短期計画(1年)を組み合わせて一つ の体系とする制度は,実定計画にもかなりみられるものであるが,目標値が高 いものから低いものへ次第に具体化していく段階構造をなしているeこのこと がT変化への対応という計画の機能の実効性を高める工夫であると同時に,し かし他方で,現実に引きずられやすい短期計画が体系の主導権を握って,長期 の大変革自標を絵空事にしてしまう危険をも含んでいるのである。政権交代に. 際して,新たな長期総合計画が策定されても,年度年度の事業施策の実施段階 では必ずしも大目標が達成されつつある実感が持てないことは既に経験的によ く知られているところであろう。.  公共事業に関する計画は,平成15年に制定された社会資本整備重点計画法 により,従来個別に計画されていた9種の事業に鉄道などを加えた事業の統合 計画となった。その際,従来の計画が事業別の総事業量(予算規模)を定めて k{たのを改め,個々の公共施設ごとの5年後ないし中間年度の整備水準目標を 数字で表わすことになった(平成15年10月101ヨに閣議決定された計画によれば,. 倒えぱ下水道整備については人日普及率を平成14年度の76%から19年度には86% にするとしている。国民生活との閲連で具体的に設定されたこの種の目標値を実務では. アウトカム指標と呼んでいる。)。これによって計画は,具体的なものになったし・. 確定度や目標の高低について比較的評価可能性が高まったが,その目標が現状 追随型ではないかあるいは逆に達成困難な理想型ではないのかということは・. 実際の結果をみなければ分からないし,それが分かっても計画の故にそうなっ たのかどうかは不明である。.                                   7.

(8) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2GO9年3月).  4 小括  計画は,社会の不確実性に対応するための弾力的規範として生み出されたも のであるが,将来予測や実現手段の不確実性が否めないので行為規範としての 確実性を持てず,その結果,実効性が確保できない。そこで少しでも実効性を 高めようとして,内容を抽象化したり,実現手段を限定したり,目標値を低い ものにしたりすると,それは不確実性への対応という計画の機能を減殺するこ とになってしまう。ジレンマである。. 第2 実効性の諸相  計画の実効性が問題となる局面をやや各論的にいくつかながめてみよう%  1 法律と計画  (1)同調  社会事象の変化と多様化に対処する「制度」として,法令と計. 画をあえて区分して使い分けるにしても,両者は連続的な関係にある。堅い規 範と柔軟な規範といってみても両者はスペクトラムをなす。したがって,法令 は計画という道具を法定することによって制度のトップとしての役割を維持す るとともに,自らも対象事項に係る施策につきその基本理念を定め,計画はこ れにしたがって策定されるべき旨を規定することが多くなった。つまり,計画 内容を法定するに至ったのである。また,法律は計画に規制効や給付効を賦与 法定し,両者が変化と多様化への対応において歩調を合わせていることを明示 することが多くなった。さらに,多様化に対応して特定の狭い地区を対象とす る計画が多く登場してくると,その実効性確保のために規制効をつける場合に は条例にそこを委ねるという現象がみられるようになった。最後の点について いえぱ,都市計画法による地区計画に係る規制と景観法による景観計画に係る 規制が全面的に条例に委ねられていることにその典型をみるであろう。そこで. はt計画内容がそのまま法律(条例)による規制内容となるのである(都市計 画法58条の2.建築基準法68条の2,↓鋼法16−18条.屋外広告物法6条、など)・ 計画と法律の融合閏係をみることができよう。 8.

(9)                            行政計画のジレンマ.  ちなみに,法律は,一方で具体的確定性を捨てて施策の抽象的基本理念を定 める基本法の方向へ動き,他方で一般性を捨てて個別的事項について定める措. 置法の方向へ動き,これによって伝統的な法律概念の変化をみせつつある(法 律の拡散現象)。計画を生み出した原因と同じ原因によるものである。.  (2)融合の危険  計画と法律が融合の程度を強めると,そこに問題が生ず. る。せっかく法律の硬い確定性と計画の柔軟な不確定性を使い分けて社会事象 の不確実性に対応しようとしながら.両者が融合しすぎると,各機能が不十分 なものとなる危険がでてくる。地区計画や景観計画の内容が全面的に条例化さ. れるケースをみれば,計画の柔軟性は条例という硬い規範の下に入ったために 阻害され,逆に条例の強い規範性は計画の柔軟性によって阻害される(計画変 更ごとに条例改正が必要になるが両者がにらみあって動かずの事態も生まれる可能性が ある。)。. 一般的にいえば(上記の地区計画や景観計画を例外として),規制効言珊(拘束. 的計画)の法定規制効は当該計画の実効性を確保する手段のうちごく小さな部 分をしめるにすぎない。例えば,道路の都市計画において予定地の建築制限が 法定されているが,計画は事業主体と予算が決まるなどしなければ実現しない から予定地建築制限は計画実効性担保手段のごく一部でしかない。土地区画整 理事業計画の実効性も建築制限に依存する率は小さい。計画に基づき実施され. る換地や街路公園整備などが計画の自標達成のための主要な手段である%し かしここでも,法律の力を借りた故にその部分での紛争が計画全体に影響する 事態が生じ,大きい公益と小さい権利との困難な考量の問題が生ずる。.  硬性規範と柔軟規範の接合は,一般的には,このように部分的なものであ阻 これによって両者の意識的使い分けが担保されているとみるべきであるが’部 分的であっても規制力を借りたが故に紛争が生ずることがあり・それが大と小 の争いという変則的争いを強いるのである。また,地区計画や景観計画のよう に全面的に法律の力を借りる計画(法律の方からいえば規制の要件を全而的に計画. に委ねる法律)における計画と法律の融合は.大きなジレンマを生むおそれが                                   9.

(10)  横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). あるから,それに適する計画の選択(例えぱ狭域でしかも相当程度に固定的な内. 容の計画を選択)につき慎重な判断が必要であろう。ここには根本的に,元来 不確実な計画によって現に確実な規制が働くことのジレンマがあるのである。 部分計画(狭域計画,特定課題計画)の内容は全体計画のように抽象的不確実 なものではなく,1具体的なものではあるが,それでも将来を目指して一定の現 象を実現していこうという期待(こういう地区なり景観を目指そうという期待)で. ある以上,不確定な要素を持っていることは否めない。誰がいつどのように目 指す目的を実現するかは不明なのである。政省令などの行政立法については,. 法律が委任している範囲を逸脱していないかが絶えず大きな論点となるが計 画の場合は計画内容について法律はほとんど定めていないから委任の範囲とい うチェックも問題とならず,規制措置が妥当であるためには当該計画の合理性 についてよほどの担保が必要であろう。全体性から個別性への時代の流れの中 で,最近では部分計画が重視され,その計画の実効性は法律(条例)の力を借 りて大きなものとなる傾向がみられるから一層注意が必要だろう。.  以上は専ら規制を付加する場合を述べたのであるが,計画内容の実効性を後. 押しするために計画に従った行為には法定の規制を緩和する手法も用いられ る。これは利益誘導措置であって効果としては後述の給付手法に近いが,法律 による行政の原理からする規制の緩和である以上法律(条例)の力を借りるも のであil ,問題は上記と同様であって,規制効計画の問題として整理してよい。.  2 計画手続と実効性  (1)参加手続  計画の実効性は、当該計画策定に参加した利害関係者の合. 意度が高いほど高まる。それは行政組織内部の各部局についても外部の住民そ の他の利害関係人についても同様であり,いずれにせよ多数者が参加し,その 合意があれば計画はよく実行される。しかし,実際には,参加者が多数であれ ばあるほど,計画内容は抽象的(最大公約数)になるか,原則に対する例外が 多くなるか,目標や手段が多様になり全体として総花的なもの(あれもするこ 10.

(11)                           行政計画のジレンマ れもする)となる。これらのいずれも,計画の実効性をあいまいなものにする。.  利害閲係者の参加による利害調整手続の重視は今日の潮流ではあるが,それ が真に計画の実効性につながるかといえば,決してそうではない。合意に基づ く実効性の高い計画を目指しつつ,実は実効性をあいまいなものとするという ジレンマがここにある。.  (2}議会手続  行政を民主的にコントロールする観点からt重要な計画に ついて議会の議を経るべしとの主張がある。しかし、元来不確実性に満ちた計 画に議会による権威付けを与えてよいものだろうか。計画策定者による計画の 解釈運用の恣意にむしろ権威付けを与えてしまうことにならないか。この問題 は,当該計画の不確実性がどの程度のものであるか,どの程度のものにすべき. か,ということと相関する。そしてそれは,当該計画を必要とする社会の不確 実度と関連する。狭域団体である市町村では比較的に不確実性が小さいから,. 全国を対象とする計画よりは市町村を対象とする計画において議会の役割が大 きいことは,この点から説明できよう・)。総じていえば,計画の裁量を統制す. べく民主的コントロール手続をとろうとするが他方で計画の不確定性の故に 裁量に包括的承認を与えてしまうというジレンマがある。.  議会付議手続が妥当するのは,議会の同意によってかえって行政の恣意が促 進されることのないような一定の具体性を持った計画を対象とし,また,議会 の側では計画の実施過程をレビューする仕組みを整えた場合である,といえよ う。.  (3)変更手続  ほとんどの実定計画法において計画変更に閥する規定が置. かれているが,それは「変更手続については作成手続を準用する」というもの である。計画は規範として弾力的なものであるから,その弾力性を担保するた めに変更規定に何らかの工夫をして対処する手はないのか。計画変更が円滑に 行われれば,不確実性と規範としての確実性とが調和するのではないか。しか し,計画内容は元来不確定なものであるので,その変更(改正)動機が少ない。. 目的や手段が相当の幅をもって記述されているし,確定的に記述されている事 11.

(12) 枇浜匝1際経済法学第17巻第3号 (2009年3月). 項も所詮計画の一部に位置づけられたものにすぎず,それが実行不可能になっ たとしてもあえて計画の変更をする必要はない。拘束的計砥では,規制を伴う. のであるから,内容が不確定のままであることは許されずt現に都市施設に関 する都市計画にみるように,社会情勢等の変化に対応して計画変更の義務があ ると考えられる。しかし,ここでもなお,例えば誰がいつ計画に記載された事 項を実施するのかが確定しているわけではないから.変更の動機は強いもので はなく,長期放置の問題が出ている。人口減少という大きな変化に対応して都 市計画を見直す必要があるとすれば,例えば,一定期間経過後に当該計画を見 直す行為を義務付け,当該見直し行為に必要な手続を設定し,当該行為に争訟. 上の処分性をも賦与するなどt変更規定に工夫が必要であろう。もっとも,こ のような工夫も都市計画全体が多くの不確定要素を含むものである以上,なお 部分的な対応にとどまるというべきであろう。. 3 計画の効力と実効性 計画が行為規範としての実効性を確保するために持っている力を「計画効」. と呼んでt計画効の違いに応じた実効性について述べる。計画効を考える場合 に,計画が外部効,すなわち私人に対する効果を持つかどうかが重要な点であ. る。外部効を担保するための手法により2種の計画を区分するe一つは規制手 法を用いる計画,他の一つは給付措置を用いる計画である。前者を規制効計画 (または拘束的計画),後者を給付効計画という。これに対して行政各部を対象 として行政内部だけに働く計画を内部効計画というG)。.  (1)規制効計画(拘束的計画) 規制は「法律による行政」の原理により,. 法律の根拠を要する。ある計画に滉制効を与えるのは法律である。現在の法制 では,計画の実効性を担保するための規制は,当該計画からみれば部分的なも のにとどまるのが原灘である。もし計画の実効性がすべて・規澗措置にかかって. いるのだとすれば,その計画事項はすなわち法律そのものでなければならな い(荊述の地区計画や葺観講麺も規制がすべてではない。)。道路に関する都市計画 12.

(13)                            行政計画のジレンマ. は,道路計画区域内の建築を制限する効果を持っており,そのことと制限の内 容が法定されている(都市計画法53条.54条)。しかし道路事業の実施は,この. 制限だけで実現するものでないことは明らかである。用地買収や事業費の予算 化がなければならない。計画からみれば,法律の力を借りる分野はごく一部な のである。土地区画整理の例も前述した。一部であるとはいっても,ここには.. 堅い画一的な規範としての法令と弾力的で個別的規範である計画との交錯があ る。この点は,前述のとおりである。全体計画から部分計画への重点移行(ま た、画一法律から条例や措置法への重点移行)の傾向が今後も強まると予想される. から,確実性と不確実性の連接のあり方については慎重な検討が必要であるこ とも,先述のとおりである。.  (2)給付効計画  私人が計画に従った行為をすれば,公的補助金,特別融 資,租税優遇措置などの給付支援が受けられる。計画が私人の行為の規範とし. て機能する場合には,このような公的資源の使用が有効であり.この誘導措置 によって計画の実効性は高まる。しかし,公的資源の方からいえば,不確実な. 計画に対していわば際限ない資源投入を行うわけには行かない。結局,給付効 がつく計画は,限定されることになる。.  さらに,私人が計画どおりの行為をするかどうかは当該私入の自由であって これを強制はできない。上記の誘導措置がどの程度の誘導力を発揮するかはも. のによって異なる。一般的にはt私的市場主義のもとでは,公的誘蔀措置が行 為選択の決め手になることは少ない。行為の選択はあくまで当該私人が中核的 資金確保等をした上で行われる。.  ここでも,誘導措置の効果のあいまいさが計画の実効性をあいまいなものと する。.  (3)内部効計画  行政計画の多くは内部効計画である(法定計画の7596は 内部効計画である。ただし.拘束的計画たる都市計画のように一つと数えたものでも実 際上は無数に策定されているから,75%という数宇が計画の現実的影響力を表わすもの. ではない。)。ここでは,計画部局が計画を策定しても事業施策実施部局やそれ                                   13 ’.

(14)  横浜国際経済法学第17巻第3号 (20091P 3月). を裏付ける財政部局が計画に拘束されないことが,計画の実効性のあいまいさ となって現われる。.  計画が対象とする事業施策が公的なものであれば(公共事業,福祉t教育など の計画は公的事業施策を中心に策定されることが多い),それは予算の裏づけなくし. ては実行できない。然るに予算は毎年度その時々の状況に応じて編成される。 予算の現実主義は計画の理想主義によって修正されなければならないこともあ るのだが,財源収入はどうしても当該年度という短期的現実に拘束されるから,. 予算は現実的性質を色濃く持って編成される。計画と予算の衝突によって計画 の実効性はあいまいなものとなる7)e.  行政計画の策定主体は,国と地方公共団体に分かれる。それぞれの計画は相 互に関連する。国の計画は都道府県と市町村による事業施策を通じて実行され る側面が多い。逆に,地方公共団体の計画は国の事業施策を前提とすることも 多い。このことによって,計画の実効性はあいまいなものとなる。かつてのよ うに国と地方公共団体が機関委任事務と強い補助金の関係で結ばれていた時代 と今日では,事情が異なる。それぞれの計画の実効性は新たな局面を迎えつつ ある。同じく「行政」として理解される国と地方公共団体との間の相互関係に 係る内部効計画につ恒ては,上下関係や資源の大小潤係でなく.「協議」によ る合意を背景とする実効1生確保の方途が探られよう。  国の行政各部の間(地方公共団体の内音1;の各部局間でも同じ)での計画の効力は. どうか。計画策定部局(企画部)と事業施策実施部局(事業部)との関係である。. 上記の予算の問題を別とすれば,計画の実効性は,企画部の事業部に対する権 限の強さに依存する。さちにいえぱ,トップの計画遵守に関する指揮監督のあ りように依存するとも考えられる。しかし,行政各部が梱互に自己主張しなが ら衝突・協議・調整を繰り返し,次第により好ましい結論を鱒いていくという プロセスこそ公務のあり方だという考え方(公務には市揚の原理がないから,それ に代わるものとして協議調整の過程がある)もあり得るところであり,この考え方. からすれぱ,一一元的指揮監督権に計画の裏効性を委ねるのは適当ではない、元 賭.

(15) 行政計画のジレンマ. 来不確実な計画だから指揮監督権には自ずから限界がある。この点,社会主義 国の計画では,集権的な独裁権力が強い計画を担保したと,一般に理解されて いる。しかし,ここでもやはり‡旨揮監督権には限界があったことが明らかにな. りつつある。現に,ソ連の計画もスターリンの独裁があったとはいえ,実際に はその効率的な実現はなかったことが崩壊後明らかになった帥。.  4 計画間調整と実効性  (1)計画間調整規定  多数の計画間の調整はどうなっているのか。諸計画. 聞の整合性が高いときに,各計画の実効性も高まると考えられる。実情をみれ. ばすべての計画が全体として整合的に体系化されているとはとうていいえな い。国の機関の計画相互間でも国の計画と地方公共団体の計画間でも,それぞ れ他の計画のことをほとんど意識せず自由に思うところを計画化しているとい うのが実情に近いであろう。しかし,法定計画については,一定の計画摺調整 に関する規定があることも事実であって,一つは計画策定庁が関係行政機関や 地方公共団体の意見を聴くとか協議をするとか(協議,意見聴取.同意などの手 続があるが本稿では「協議」と総称する。)の手続規定で対処すること,もう一つ. はA計画とB計画は「適合」したものとしなければならないとかA計画はB 計画を「基本」としなければならないなどの実体規定を置く方式である当  これらの手続的規定および実体規定をみて,直ちに諸計画間の整合性が実現 し,計画の実効性が高まっていると見ることはできない。.  計画問の関係は垂直的閲係(タテの関係)と水平的関係(ヨコの関係)に区 分できるので,この区分にしたがって若干敷桁する。  (2)タテの関係  基本計画の下に実施計画を置き,段階的構造によって不. 確実性に対処しようとする手法は計画行政においてかなリポピュラーなもので ある。基本計画と実施計画の悶は「基本として」「即して」などの用語で結ば れているのであるが,両者の策定主体が異なる場合,実際には,これらの用語 の解釈によってではなく,それぞれの計画策定主体間の協議手続が両者の整合.                                  15.

(16)  横浜固際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 性を担保している。然るに,協議が実際にいかなる観点から行われるべきであ り,また行われたかは明らかではない。両計画の策定者がいかなる点に関心を 持って協議したかによって,整合性によって担保される各計画の実効性が異な る。.  両計画の策定者が同一機関の場合(例えば首都圏整備計画は国土交通大臣が3段. 階の計画を策定する。)には,両者の整合性は高いといえるが,この場合は協議. というような手続がないだけ,当該策定機関の裁量が大きくなり、客観的意味 での整合性や実効性の判定が困難になる。.  国が基本計画を,地方公共団体が実施計画を,それぞれ策定するという構造 の計画が多い。この場合,かつてのように,機関委任事務と強い補助金とによっ. て国の意向が貫徹し,整合性が確保されることはもはや期待されない。今日で は両者が対等な立場で協議手続により整合性を図ることが必要になっている;U). のであるが,ここでも協議の観点や関心点により協議成立の条件が異なる。そ の結果,両計画の整合性がどの点でとられているのかが外部から明らかではな い状況が生ずる。なお,機関委任事務たる計画事務の自治事務化に伴い,大臣 が基本方方針・基本指針を策定し(農振法の基本指針は自治事務化の法律と同時に. 導入された。)1地方公共団体の計画がこれと適合すべきことを法定し,あるい. はこれによる大臣の指示などの関与権を定める例も多く見られるようになっ た。これは,自治事務に対する国の関与手法の一つであるが,個別指揮監督権 によってではなく計画間調整という形で国と地方公共団体の問の調整を図ろう とするものである。そしてここでは,個別指揮監督(関与)より外部から見え にくいという問題に留意する必要があろう。.  (3)ヨコの関係  都市地域の計画と農地の計画のように異なる事項につい ての計画間関係である。ヨコのIYJ係については「調和して」「適合して」など の実体規定を置くものもあるがこれは比較的少数であり,多くは協議規定を中 心とする手続規定で相互の整合目三が担保される仕組みとなっている。そしてさ. らに多くの計画間は,何らの法律上の手続規定も実体規定も持たないまま,事 16.

(17) 行政計画のジレンマ. 実上の関係を持ったり,無関係だったりしている。 ,J、田急線連続立体交差事業・i・峡(f敵 ・興成17年12月7剛ll寺1920・一 13)で【よ・. 都市計画が公害防止計画と「適合」すべきことを定めている都市計画法13条. 1項が原告適格を認める根拠の一つになるとした。1.2審判決は環状6号線 判決(最一小判平}茂11年11月25日判時1698−66)に従って,原告適格を否定し. たものであった。「適合」ということばが意味することの不確定性を表わして いる。つまり実体規定はそれ自体で計画間の整合を担保するものではないこと が明らかであろう。なお小田急事件では,進んで都市計画が実体的に違法とな るかについては,最高裁判決(大法廷判決を受けてされた最一小判平Ji“ 18 ・if− 11月2. 日判時1953−3)は適合要件を満たしていると判断している。.  また,同じ都市計画法を話題にすれば,同法23条は都市計画決定に際して 農林水産大臣との協議手続(1項)、経済産業大臣および環境大臣への意見聴取. 手続(2項),厚生労働大臣の意見申出手続(3項)を規定しているが・各手続 の差異が今日でも維持されるべきものかどうか検討に値する。時代の変化とと もに手続も異なると考えられるのではあるが,これらの手続が具体的にどのよ. うな計画間整合を担保することになるかは分からないから,あえて手続の微差 を改めるために法改正するインパクトが働かなレ㌔つまり,手続規定について もまた,整合性担保措置としては,あいまいさを色濃く持っているのである・.  法律上の規定があってもこのようなことであるから,600種に及ぶ法定計画 間の整合性となれば,ほとんど意識的にこれを確保する実態はない。行政計画 は,本来他の計画とあいまってそれらの整合性を保ちつつ実効機能すべきもの であるとすれば,ここでも計画の実効性ははなはだあいまいなものである。.  5 小括  計画の実効性を高めようとして,全面的に法律(条例)の力を借りたり・多 数のそれぞれ主張する利益を全部取り込もうとしたり,随時頻繁に変更したり・ 事業実施部門を強制した1) ,調整と称して外部からみえない協議を尽くした1) ,.                                 17.

(18) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). などすることは,必ずしも実効性を高めることにならず、. かえってそれを阻害. することすらある。ジレンマである。. 第3計画討議 ①本稿は,計画の不確実性,あいまいさ,中途半端さ,の故に計画が使い物 にならないと主張するものではない。計画は社会事象の不確実性に対処しよう とする道具であり,今後ともその機能は重視されるべきものである。国内だけ でなく,世界全体が相互に強く結びつき,干渉しあう今日その機能は一層高ま らなければならない。また,行政上の裁量を統制し,適正化するために法律の みでは不十分であり,行政計画という道具を用いてそこを補うという機能は, 行政活動が生活のすみずみまで及ぶ現代において一層高まるべきものである。.  日々眼前に現われる問題にそのつど誠実に対応すればよい,身近な苦痛があ ればそれを除去するように行動すればよい,壮麗な計画体系など必要としない,. 元来人間社会の複雑系は既存の知識では計れないのにこれを計画書に書き込も うとする行為は不遜である。こういう哲学があるのも承知しているが,やはり 人間は将来に向けて一定の方向性を持って歩まねばならない。計画の限界を十 分承知の上で,しかし計画を必要としているのである。.  ②本稿で述べたことは,計画の形式的な実効性を高めるべしということでは ない。目標数値が達成されたからといって喜ぶべきことではない。いかなる実. 効性なのかが問題なのだからそこをよく吟味する必要があるということであ る。しかし我々は,今日まだ不確実性に対処する機能の評価方法を持っていな い。計画の目標の方が正しいのか現実の方が正しいのかは,結局,価値の問題 に帰する。価値の問題も含めた計画の実効性を「真の実効性」というとすれば,. 我々は計画について「真の実効性」を高めなければならない。.  ③本稿は計画がかかえる不確実性,あいまいさ,中途半端さ,についてその 原因にかかわるいくつかの具体例をみてきた。そして計画の不確実性の究極に 18.

(19)                            行政計画のジレンマ. は価値の問題もある。このような不確実性に対処して「真の実効性」に近づく. 方法は何か。結局、多くの人々が当該計画を話題にし,論ずることによって一 定の結論を得るという手続を意識的に設定することである。そういう手続を「計. 画討議」と1呼ぶこととすれば,公式非公式を問わず計画討議の頻度と質の向上 によって,計画の機能が適切なところに落ち着く。実効性の向上というと,目. 標達成率が高いことが好ましいことを含意してしまうが,ここでいう「真の実 効性」とは適切な計画の機能ということであるe討議の結果得られた一定の「将 来のあるべき姿」に対して計画がどの位置にあるかを確定していく。これが「計 画討議」の狙いである。.  ④実定計画法上「計画討議」を促進する規定が置かれている。審議会付議手統. 利害関係者参加手続,関係行政機関協議手続などは伝統的な手法であり,これ らに加えて,最近では計画提案制度,計画評価制度などが登場するに至ってい る11)。従来あまり関心事項とされなかった調査手続についても,例えば伊東大 仁線事件(東京高判平1泥17年10月20日剛時1914−43)で}ま都市計画における基 礎調査のあり方が問題とされた。これらの手続の整理分類はここではしないが・. これらの手続の履践過程で,計画討議が行われる。また,これらの法定手続の ほかに,実際上当該計画がどの程度話題にされ,議論されているかということ. が重要である。冒頭で述べたように「計画で決まっているから実施する」とい ういい分も「所詮計画だから厳格に実施することはない」といういい分もいず れも正しい。問題は行政の側だけがこれらの主張をする場合にある。国民や市 民が,「計画がこう定めているのに何故実現しないのか」と問う・行政側が「計. 画がこう定めているから実施する」といえば「計画を改定すべきでないか」と いう。このようにして,行政と国民市民が当該計画をめぐって討議する。計画 が行政側の方便として使われていた側面があったとすれば,それを一方的なも のでなく両者の共通討議対象とする。そのような実際上の動きが重要である。.  ⑤「変化」と「多様性」に対応する柔軟な規範は,ひとり計画の独占する ところではない。自治立法の先に多くの「部分社会の法」がある。建築協定,.                                   19.

(20)  横浜固際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 自治会規約,マンション管理規約などの協定や規約もそれである。個別化への 傾向は,現代の特徴である。全体と部分の衝突を主たる原因として生ずる不確 実性のジレンマは多かれ少なかれ,これらの部分社会法の共通するものである が,本稿は行政計画だけを取り上げたものである。.  ⑥すべてのものは何がしか中途半端なものをかかえている。中途半端だから こそ議論できるのだ。計画はその中途半端な程度が大きいことが公認された道 具である。議論が十分できる対象である。不確定性の大きさから,議論があま りにも輻藤するかもしれない。そのおそれは十分あるのだがそれを承知で「計. 画討議」するe討議対象となった頻度が当該計画の適切さのメルクマールにな る。もっとも,討議ばかりしているひまはない,という声にも注意すべきだ。 本稿の主張も結局中途半端なものとなったので,ここで欄筆する。. 20.

(21) 行政計画のジレンマ. 1)抽象性を本質とする全体計画を表わす用語として「マスタープラン」がある。拙著r実定計   画法』有斐冊、2003年、82頁では、マスタープランとは、段階的靱造が制度として担保さ   れている場合における全体計画であり、かつ、その内容が基本的または包括的であるものを   いう、とした。本稿の全体計画とはもr⊇とラフな概念であり、必ずしも段階構造を構成して.   いる場合にかぎらず、かつ、その内容の基本包括性も絶対的なものというより諸計画の比較   の上に立った相対的なものであるeただし、本稿の全体汁画がマスタープランにあたると考   えてもそれが論を進める上で支障になることはない。. 2}計画内容は策定者の描限外の事項を広く取り込んで策定されるという性質を、前掲拙著   111−112頁では「計画権限の無阻定性」と呼んだ。. 3)計画のジレンマを広くとらえれぱ、本文に述べるような論点以外の多くの論点が考えられる。.   例えば計画争訟における問題点である。しかし、本稿は「計画の爽劫性」に焦点を合わせた   問題点に限定Lているのでそこに及んでいない。ちなみに、計画争訟については、①主観訴   訟と客競訴訟のジレンマ、②裁判所による計画手続(…齢絵付議や住民参加)抜きの判断の   ジレンマ、③妥協的和解的解決の困難のジレンマ、④判決の対世劫に閲するジレンマ、⑤判   決の拘束力(後始求)のジレンマ、などのジレンマ(どちらの選択をしても満足な解決が得   られない状態)があるだろう。. 4)最大判平成20年9月10日判時2020−18は土地区画整理1∬業計画に処分性を認めたが、差   し戻し後の実体判断において、建築制限を理由とLて当該事案において事業計画全体を取1戊.   消さなければならないとすればよほど権利保護上正義に反するほどの規制であることを認定   しなければならないだろう。難築制限はまさに「付随的制限」にすぎないからである。進ん   で強制換地という権利制限を考慮した場合(判決は建築制眼だけでなく強制換地の必然性を   処分性の根拠とした)でもやはりそれは区画整理事業のすべてではないから、判断の難しさ   は残る。さらに進んで、小田急判決のように事業区域内の権利者だけでなく周辺の居住者ま   で原告適格を拡大し訴訟の場に参加させたとしても、なお区画整理事業の利益や不利益がす   べて舞台に乗ったとはいえない。. 5)全国計画で瀧会の議を経るものはないが、市町村計画では地方自治法による基本榔想・国土   利用市町村計画などがある。かつて漁港整備計画につき国会承認手続があったが・平成ユ3   年の法改正により同手轟1三は廃止された。現在、国際連合平和維持活励等に対する協力に関す.   る法律による実施計画、周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関   する法律による基本計画、テロ対策特別措置法による基本計画、につき計画全体{こついての.   承認はないが同計画中の後方支蛭活動等一定の行為について国会承認を要する。拙著i59・   170頁参照。なお、フランスの国家悲本計画(社会経済開発計画)は、国会により法律とし.   て制定されるが、1993年を初年度とする第11次計画は・案が作成されたものの政権交代な   どを原因として承認されることなく廃11二に至っているという(国土交通省ホームペtSジ中の   「’世界の国土計画」による。)。. 6) 前掲拙薯75頁以下参照。. 7) 公共事業甜画は財源(予算)による裏づけがその実効性の決め手であるが、計画と財源の連   接を初めて制度化したのは111f,和2S年に制定された「道路整備費の財1原等に閏する臨時措置 21.

(22) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月)   法」である。いわゆる班路特定財源を定め、その使途を計画に委ねることを定めたのである。.   これは「計画先行の1甘源(予算)」というより「財源(予算)先行の計画」という性格が強   いものであった。今日の道路特定財源の一般財源化の話は、Jl4’源先行型計画たる道路計画が.   他の一般公共事業計西と同様の計画予算分離型へ転換することを示唆する。道路財源と計画   の関係については、拙稿「国土整備政策と財政」〔『財政の適正管理と政策実現』日本財政法   学会編、勤草書房、2005年、所収)参照。. 8) 三輪芳郎『計画的戦争準備・軍需動員・経済統制』有斐閣、2008年、10−12頁参照。な   お、同書に参考文献として掲げられているソ連崩壊後に明らかにされたアーカイブの研究   であるPaul Gregory and Marlc Harrison“A]location under Dictatorship:Research in Stalin「s.   Archives“Journa1 of Eeonomic Literature, September 2005 Vol.XL1II−3によれば、事業計画.   (operational plan}は▲iC「」定的なものであって、上撒者によって変更さるべく条件付けられた.   ものであり、資源配分は計画によるよ1)もむしろ上級者の干渉によってなされたと述べられ   ている(542頁)。ここでは舌卜画の行為規範としての実効性はなく、アドホッbな指示によ   って各部門の生産が行われたことが述べられている。 9) 識体規定の用語法については前掲拙一X: 8S頁以下、手続規定については156頁以下参照。. 1田国と地方公共団体の問、都道府県と市町村の間の対等な立場での訓整的協議手続による対話   を「対流原則」と呼んでその重妥性を述べるものとして、大橋洋一『都市空間制御の法理論』   有斐閣、2008年、15頁以下参照。. 11)国土形成計画法8条はマクロ計画である全国計画につき提案制度を導入している。計画提案.   制度は平成14年の都市計画法改正により導入されたのがその酷矢である。計画と行政機閲   政榮評価法との辿接は国土形成法7条、住生活基本法16条などに導入された。. 22.

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参照

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