日本法と米国法の観点からの
ウィーン売買条約 (CISG) その( 2 )
*** ――グローバリゼーションへのツール――田 中 恒 好
*Adam NEWHOUSE
** 目 次 は じ め に 1 .背 景 2 .適用範囲 : 管轄の基準(第 1 , 6 ,10,95条) 3 .目的物に関する適用性(第 1 ⑴, 2 ,30,53条) (以上,338号) 4 .CISG で扱われる論点の範囲の限定(第 4 , 5 条) (以上,本号) 5 .解釈の 3 個の原則(第 7 条) (以上,343号の予定) 6 .契約の成立と履行(第14―60条) 7 .契約違反と免責(第25―26,45―52,64,71―73,79,80条) 8 .買主の救済(第45―52条) 9 .売主の救済(第61―65条) (以上,344号の予定)第 4 部CISG で扱われる論点の範囲の限定(第 4 , 5 条)
§ 4 : 1 CISG で扱われる論点 §4 : 1.1 契約の成立,当事者の権利・義務と証明責任 CISG に規定されている主たる論点の範囲は⑴ 物品売買のための契約 * たなか・つねよし 立命館大学大学院法務研究科教授 ** アダム・ニューハウス カリフォルニア州弁護士 中央総合法律事務所外国法コンサ ルタント *** 本論文はまずニューハウス弁護士と田中が共同して英語で書き,それを田中が翻訳し ている。日本文の全文責は田中にある。本論文及びその続編を濃縮した英語バージョン を Ritsumeikan Law Review に 掲 載 予 定 で あ る。(第 1 部 か ら 第 4 部 ま で は 既 に Ritsumeikan Law Review No. 29 2012 に掲載された。)の成立(有効性の問題は除く)と⑵ 契約当事者の権利と義務に限定され ている。さらに言えば,証明責任の問題もまた CISG の範囲内の一部であ ることは CISG の本文からも明らかである(例えば第79条 : 特にことわら ない限り,条文は CISG の条文番号とする)。裁判所とコメンテーターの 解釈によれば,証明責任は原則的には見解を主張したり請求したりするこ とにより利益を得られることを望む当事者にあるとする1)。 また,契約の成立や当事者の権利及び義務の論点としては条文からは直 ちに認められない問題のいくつかも,CISG が規定している論点の範囲に 抱合されている。例えば,当事者の言明やその他の行為の解釈(第 8 条), 当事者間の慣習や慣行(第 9 条),そして契約の解除や変更(第29条)で あり,また標準的な用語を契約に組み込むこと (「available」 「apparent」 のような用語を一般的に使うことを他の当事者に要求すること)2) も CISG は規定している。 §4 : 1.2 CISG の法的枠組みの不完全な本質 前述したように CISG が規定している論点が制限されているということ は,国際的物品売買契約の条件の全てについて CISG が排他的に適用され ることができないこと,そして管轄法の適用が不可欠であることを示唆し ている。すなわち,CISG は管轄法が CISG の規定の隙間を埋めるという メカニズムを採用しているので,CISG が適用される論点は制限されたも のとなっているのである。 実際,CISG は国際的物品売買契約を規範する網羅的な法律であると考 えられていないし,考えるべきではない。主権国家の法律システムに基礎 1) UNCITRAL Digest of Case Law on the United Nations Convention on the International Sale of Goods Digest(以 下 「Digest」) 17 頁 (“Article 4”),http: //www. uncitral. org/pdf/english/clout/08-51939_Ebook.pdf 参照(これ以降の脚注にあげる URL は2012 年 4 月末日のものである)。
2) 例えば,Peter Huber, Alastair Mullis, The CISG―A New Textbook for Students and Practitioners (2007) 30-33頁(以下 「A New Textbook」)。
をおく法的思考は全ての契約に要求されるのであり,その重要性を軽視す ることはできない。また,国家の裁判所(仲裁廷とは区別される)は「法 のない契約 ; conrat sans loi (loi は国家の法律システムを意味する)」は不 可能であるだけでなく全く不合理であるという概念を無視することはしな いであろう3)。 § 4 : 2 CISG が規制していない論点 CISG が契約の成立および当事者の権利と義務に関する論点以外には関 与していないので,下記に記述するが如く多くの関連する論点が CISG の 範囲外に存在している。 ★ 比較ノート
UCC :UCC 第 2 編が規定する論点の広さは CISG の規定が適用される領 域と比較してより幅広いものとなっている。例えば,契約の下での履行の 委任や権利の譲渡 (UCC §2-210),売主の債権者の売却物品に対する権 利 (UCC §2-402),商人に対する物品の占有の委託 (UCC §2-403),同 一の契約下の損害賠償請求に関する相殺の権利 (UCC §2-717)4),非良心 性 (UCC §2-302),売買契約の訴追時効 (UCC §2-725)5)等の CISG が 規定していない事項について UCC は対処している。さらに言えば,CISG には FOB,CIF 等の他の貿易条件に関する規定はないが,UCC はそれら につき直接的に規定している (UCC §2-319,2-320,2-321,2-322 & 2-323)。もっとも,この点について CISG は第 9 条⑵に基づき,国際商業 3) 例 え ば Drafting Contracts under the CISG (Harry M. Flechtner et al. eds., Oxford
University Press) (2008) 192-201頁(以下 「Drafting Contracts」)。
4) しかしながら,幾つかの裁判所は買主からの相殺を認めてきている。例えば CLOUT Case No. 273 (Oberlandesgericht München, Germany July 8, 1997), CLOUT Case 541 (Oberster Gerichtshof Austria, Jan. 14 2002)(契約金額の全額に対して損害金をもって相 殺することを買主に認めている)。後述の §4 : 3.4 も参照のこと。
5) 但し,CISG は第39条で物品の不適合についての通知について期限を定め,期限内に通 知がなされない場合に物品の不適合に基づいて援用し得る権利を失うと規定している。
会議所により広められたインコタームズ(すなわち国際商業会議所により 定められた所定の貿易条件等)を組み込んでいるとの見解を持つ裁判所と コメンテーターも存在する。しかし,次のことに注意する必要がある。 UCC 2003年改訂版は UCC §2-319 から UCC §2-324(船積条件に関する 規定)までを最新の取引実態に矛盾するという理由により廃止している。 すなわち2003年版第 2 編の下では,当事者の明示的な合意がない場合は, FOB,CIF やその他の条件は「両当事者間の取引に適用される慣習や取 引と履行の過程に照らし合わせて解釈されなければならない」とされた。 日本法:民法にはあるが CISG にはない規定として,例えば次のようなも のがある。公序良俗(民法90条 : 以下条文は民法),代理(99条以下,商 法504条),利益相反(108条),取消し(錯誤95条,詐欺又は強迫96条), 第三者のためにする契約(537条),選択的履行(406条),代物弁済(488 条),弁済充当(488条),債権譲渡(466条)債務引受(514条),第三者に よる履行(474条),債権者代位権(423条),債権者取消権(424条),連帯 債務(432条),相殺(505条),更改(513条),金銭賠償の原則(417条)等。 §4 : 2.1 CISGに明示の規定がない契約の有効性に関する論点(第 4 条⒜) CISG に明示的な規定がない限り,契約条項及び慣行の有効性に関する 論点は国内法に委ねられてきた。しかし,慣行そのものは CISG の適用性 の領域の範囲外ではないことに注意しなければならない。慣行の有効性の 論点のみが範囲外なのである。言い換えれば適用法で有効な慣行は CISG の範囲である。さらに,いかなる書面もしくは方式の要件なしに契約を締 結し証明することを当事者に認めている第11条の一般規定は,当事者の一 方が営業する締約国が第96条の下での留保をしている場合は,例外となる ことに注意しなければならない(第11,12,96条)。 CISG における有効性の概念は当該契約が「無効あるいは執行不能」と される可能性についてのルールを含むと一般的には理解されている。 CISG が「有効性」そのものの定義を規定していないことから,裁判官た
ちは有効性の問題を決定するに際し如何なるコンセプトを必要とするかを 自由に決定することができる。有効性の問題につき国内法の中の重要ある いは強制的な規定を無制限に取り入れることができることは,国際取引契 約を支配する統一的な国際法を創造するという CISG の最初の目論見を弱 体化させている。それ故,裁判官たちが統一的な国際法を創造するという CISG の深い解釈を適用すること,国際的な統一法を促進する要望に反対 する偏狭な国内的利益とをうまくバランスさせることについて分別を持つ ことが重要なのである。学者は CISG の適用範囲から漏れ出てくる不特定 の問題によって CISG が抜け穴を持つような状況にあるという CISG が対 面している本来的な問題について認識してきた。ある有力な研究者はその 問題を次のように適切に要約している。 草案の作成の歴史は草案者が各国の国内法のシステム の要請に適合させるための抜け穴として第 4 条⒜を意 図したことを議論の余地なく示している。「有効性」 は CISG の範囲の理想的なパラメーターである。なぜ なら,それは,すべての者にとって同じものでないけ れども何かを意味する。草案者は「有効性」をその時 に議論することを望まない未解決の問題を隠す傘だと 考えた。なぜなら彼らは最後まで合意に達することが できないこと,そしてそのことが (CISG の成立に) 致命的な遅延を引き起こすことを恐れた。Winship 教 授は,議論不足の結果として,第 4 条⒜は禍をもたら す可能性がある旨を述べている。しかし実際にはこの 「禍の可能性」は議論の欠如の根本にいつでも存在す るのである。この不明確さは意図的なように思える。 そしてこのことは草案者に成功をもたらした。すなわ ち草案者は,最後の手段として不明確さを利用するこ
とによって,有効性に関する議論を延期させたが,し かし排除はしなかった。彼らは,単純に,将来 CISG を解釈する者にこの問題を任せたのであった6)。 実際,その後に続いた解釈者たち,例えば,裁判所や仲裁廷は国内法の 法的解釈では無く CISG の原則を基礎として「有効性」の範囲を定義する 傾向にある。契約当事者やその弁護士たちは,国内法の有効性に関する問 題に深く関与するよりはむしろ,CISG の原則を念頭に置くことを望んで いるものかもしれない7)。 詳しく解説すると,下記に示す幾つかの事項,論点,契約上の規定(そ れらは国内法の規定による)が有効性の論点と関連する。 ⒜ 契約能力と代理権限 当事者の契約能力の問題は明らかに CISG の規定の範囲外である。しか し,この契約能力の問題は国際的動産売買の取引中では実務上あまり発生 しないものである。「有効性」の名のもとに排除されているが法的に解決 すべきであるより重要な問題は,契約書を締結する代理人の権限の存在と 欠如の問題である。そして,国際的規則はこれらの問題を将来的には UNIDROIT の「国際物品売買における代理に関する条約」に委ねること になるであろうが,しかし,当該条約は現在のところ,発効に必要な最小 限の国の批准がまだなされていない状態である8)。 ★ 比較ノート
UCC :CISG と同じように,UCC は代理の問題に対応していない。代わり
6) Helen Elizabeth Hartnell, Rousing the Sleeping Dog : The Validity Exception to the Convention on Contracts for the InternationalSale of Goods, 18 Yale J. Int’lL. 1, 19 (1993) (以下 「Hartnell」) http://cisgw3.law.pace.edu/cisg/biblio/hartnell.html 参照。
7) Camilla Baasch Anderson et al., A Practitioner’s Guide to the CISG (JurisNet, LLC 2010) 49-50頁(以下 「A Practitioner’s Guide」)。
に,UCC はこの問題に適用されるコモン・ローと衡平法の諸原則9)がこ の論点を補完することを明示的に規定している (UCC §1-103 ⒝)。 言うまでもなく,間接的ではあるが UCC は無効とされる物品の権利を 持つ売主と取引をした善良なる第三者の買主に対する効果を規定している (UCC §2-403 ⑴)。そのような無効にされ得る権利は契約能力が制限さ れている未成年者や以前の詐欺的購入により物品を取得した者との取引の 結果から生じることが多い10)(UCC §2-403)。コモン・ローの下では, 当該商品を元は未成年者が売ったことを知らなかった第三者がその後に権 利を取得した場合でも,未成年は契約を無効にできる。例えば,最初の買 主に物品を売った未成年者は契約を破棄しそして最初の買主から当該商品 を買った二番目の買主に対してさえも当該物品の返還請求ができる。ただ し UCC は物品の瑕疵無き所有権を有償で取得した善良なる買主に好意的 であり,その点については未成年者には同情的ではない (UCC §2-403 ⑴)。しかし,瑕疵無き所有権を得るためには,買主が売主の契約能力に 制限があることを知らなかったという「善意」が要求される。そして未成 年者には,物品が返還されなかった場合には,物品の最初の買主に対して 損害賠償を請求できるという道が残されている。 日本法:法律行為(契約を締結すること)をなすには行為能力(単独で有 効に法律行為をなし得る法律上の地位または資格)がなければならない。 法律行為を行うには基本的に成年に達していなければならない(民法 4 条)。行為能力が制限される者のことを制限行為能力者といい,具体的に 9) 諸原則には,商慣習法,契約能力,代理,禁反言,詐欺,不実表示,脅迫,強制,錯誤 等を含んでいる。
10) UCC §2-403の「無効となる (voidable)」 権利は「無効である (void)」 権利とはっきり 区別しなければならない。泥棒は盗んだ物品について単に無効である権利を取得するので あるから,彼は相手方が善良なる買主であっても瑕疵無き所有権 (good title) を移転でき ない。(James J. White and Robert S. Summers, Uniform CommercialCode (West 2010年 第 6 版)§4-12 201頁(以下 「White & Summers」))。
は未成年者,成年被後見人,被保佐人,同意権付与の審判(民法17条第 1 項の審判)を受けた被補助人を指す(民法20条第 1 項)。法人は定款に定 められた目的の範囲内において権利能力を有し(民法34条),外国法人も 原則的には日本法人と同じ権利を持つ(民法35条)。目的の範囲内の行為 とは,定款に明示された目的に限定されるものではなく,その目的を遂行 するうえに直接または間接に必要な行為であれば,すべてこれに包含され る。その必要性は,当該行為が目的遂行上現実に必要であつたかどうかを もつてこれを決すべきではなく,行為の客観的な性質に即し,抽象的に判 断されなければならないとされる11)。 +民法(債権法)改正検討委員会が2009年 3 月31日に取りまとめた「債権 法改正の基本方針」(検討委員会試案)12)(以下「基本方針」という) 【2.1.8】に(意思能力)として「法律行為をすることの意味を弁識する 能力(以下では,「意思能力」という。)を欠く状態でなされた意思表示 は,取り消すことができる。」あるいは「法律行為をすることの意味を 弁識する能力(以下では,「意思能力」という。)を欠く状態でなされた 意思表示は,無効とする。」という,現民法で規定されていない準則を 明文化することを提案している。 ⒝ 標準約款及び免責条項の法的強制力 CISG は当事者の標準約款が契約に組み込まれることを原則的に認めて いるが,その標準約款の法的強制力は国内法によって決定されるとしてい る。言い換えれば,標準約款の有効性の問題は適用される法律により公平 性を基準として決定される。しかし,標準約款が国内法の下で有効であっ たとしても,その条項は CISG が基礎としている基本的な原則を損なって はならない13)。 11) 最高裁昭和27年 2 月15日第二小法廷判決,同30年11月29日第三小法廷判決。 12) 「基本方針」の具体的内容については㈱商事法務の NBL904 号に基づく。
特に重要な点は,標準約款の一般条項に規定されることが多い免責条項 や権利放棄条項である。これらの条項は保証や得られるべき救済の放棄・ 制限・変更を要求する。そのような放棄条項の有効性や法的強制力は国内 法で決定されるべきものであり,各国の法律に委ねられてきた。それに反 対する研究者の意見の多くは主流のコメンタリーによって退けられ反対さ れてきた14)。CISG が放棄したことによって,実務的には免責条項や権利 放棄条項に関する問題に適用される国内法につき注意深いリサーチをした 上で必要なら適切な修正を契約書に施さなければならない。 ★ 比較ノート UCC :合衆国州法に準拠している CISG 契約の一部としての標準約款の有 効性は,UCC を含む当該州法により決定される。 日本法:企業などが不特定多数の利用者との契約を画一的に処理するため にあらかじめ定型化された契約条項のことを「普通取引約款」といい,判 例(大判大正 4 年12月24日民録21輯2182頁)により,その効力が認められ ている。判例では,その根拠を「当事者が約款によらない旨の意思表示を せずに契約したときは,その約款による意思で契約したと推定すべきであ る。」(意思推定説)としている。学説では,自治法としての約款の法規範 的性格を承認するもの(自治法規説),「約款による」という商慣習が商法 第 1 条の商慣習または民法第92条の慣習としての効力として認められると するもの(商慣習説)などがある。基本的には,消費者保護の観点から, 消費者が約款内容について了解し承知するための機会を確保するために約 款内容の適切な開示が要求される。なお,約款にも当然に民法や特別法に → (CISG の基本原則に反する条項が否認された)。 14) Hartnell 84-85頁は次のようにコメントする。「ほとんどの免責条項は,たとえあったと しても,適用される国内法に委ねられるし,そして,CISG の枠組内で発展してきた国際 的基準に従って評価することはされないだろう。国際的商業活動の重要な問題に関係する この結論は統合して行くという目標にとっては良い前兆とはならないであろう。」
よる規律が及ぶ。例として,消費者と事業者との間で締結される契約につ いては消費者契約法等があり,著しく消費者の権利を制限する条項や,消 費者の義務を加重する条項は無効とされる(消費者契約法第10条)。 +基本方針【3.1.1.25】では「約款とは,多数の契約に用いるためにあら かじめ定式化された契約条項の総体をいう。」との案が出された。 +中間的論点15)整理第27では,この点につき「契約書のひな形などが広 く約款に含まれることになるとすれば実務における理解と異なるという 指摘」がなされている。また,約款の組入れ要件についても,「原則と して契約締結までに約款が相手方に開示されていること及び当該約款を 契約内容にする旨の当事者の合意が必要である」との考え方や,「相手方 が約款の内容を知る機会をどの程度保障するか,約款を契約内容にする 旨の合意が常に必要であるかどうかなど」が問題として指摘されている。 ⒞ 約 因 契約に約因が必要か否かの問題は適用される国内法に規定されている有 効性の問題として捉えられてきている16)。しかしながら,何人かのコメ ンテーターは約因は有効性の問題では全くないと主張している。「国内法 での約因の要求は CISG の下での契約には適用できない」という主張を支 持して,彼らは 「CISG 第11条の契約成立ルールや同第11条・29条の契約 方式のルールの両方とも,CISG の下では契約の成立有効性に約因を要求 していない旨を明示している」ので,「CISG 第 4 条⒜に従って有効性の 問題に約因の必要性を論じたりそれを国内法に預けることは正しくない」 15) 2011年 4 月12日に,法制審議会民法(債権関係)部会が「民法(債権関係)の改正に関 する中間的な論点整理」として決定し,公表した。「中間論点整理」の具体的内容につい ては㈱商事法務の NBL953 号「付録」に基づく。
16) Geneva Pharmaceuticals Tech. Corp. v. Barr Labs. Inc., 201 F.Supp.2d 236, 283 (S.D.N.Y. Oct. 5, 2002) (CISG の下で契約の成立のための有効な約因は,ニュージャージー州法の観 点からは,「行為,自制,法的関係の設定,変更もしくは破棄からなる約束もしくは履行 の 交 換 利 益」を 要 求 す る。http: //www. unilex. info/case. cfm? pid = 1&do = case&id = 739&step=Abstract 及び http://cisgw3.law.pace.edu/cases/020510u1.html 参照。
と主張する17)。
★ 比較ノート
UCC :CISG とは対照的に,UCC は有効な契約の成立のための約因のコモ ン・ロー上での必要性を保持している。そのことは,まずコモン・ロー上 の原理を組込むことによって (UCC §1-103 ⒝),次に買主の契約上の責 任の必須の要件が物品の支払いを行うことと規定 (UCC §2-301) するこ とによって明示している。要約すれば,この必要性とは有効な契約を成立 させるための「交換利益」を要求しているのである。そのような交換利益 の例としては,両当事者は約束,履行,利益の放棄,不利益の交換をおこ なうことがあげられる。無償の約束は交換の要素を欠いているために強制 できる契約とはならないということがこの定義をより明確にしている。 同様に,裁判所は,例えば「もし私がしたいと思ったらあなたにその物 品を売りましょう」とか「私が買いたいと思うだけの量の品物を買いま しょう」といったような諾約者に現実的に何かを確約していない約束には 強制力を与えない18)。これらは,約因を欠いているために拘束力のある 契約にならない「錯覚」の約束の例である19)。重要なことは拘束する契 約のための約因の必要性の規定は両当事者間の合意では放棄できないこと である。すなわち,約因は当事者の自治の範囲を超えているのである20)。 17) Peter Huber, Alastair Mullis, The CISG―A New Textbook for Students and Practitioners
24頁(2007)(以下 「A New Textbook」)。
18) E. Allan Farnsworth, Contracts §2.13 73頁(2004年第 4 版)(以下 「Farnsworth」) 19) 執行不能である「錯覚」の約束は,ある特定期間内に独占的に受約者から排他的に諾約
者によって必要とされる特定数量のすべてを買うという約束 (UCC §2-306 で有効とされ ている 「requirements 契約」)や,ある特定期間にある製品の諾約者の生産量のすべてを 受約者に売るという約束 (UCC §2-306 で有効とされている 「output 契約」)である完全 に執行可能な約束と区別されなければならない。
20) Helen Elizabeth Hartnell, Rousing the Sleeping Dog : The Validity Exception to the Convention on Contracts for the InternationalSale of Goods, 18 Yale J. Int’lL. 1, 19 (1993) (以下 「Hartnell」)。(「The Restatement of Conflict of Laws」 は,以下の有効性の問題は両 当事者間の自治の範囲外であるとしている ; 約因,能力,双方の合意,様式,詐欺及び →
上記のように有効な契約の成立のための約因の必要性は,UCC の下での 物品売買契約にも完全に適用されている。ただし,この要件は UCC の規 定により明確に規定されてきた確定申込,契約の変更そして産出量・要求 量契約 (UCC §§2-205, 2-209⑴ & Comment to UCC §2-306) からは除か れている。 日本法:約因の概念はない。 +基本方針【3.1.1.02】においても「契約は,当事者の合意のみによって 成立する。ただし,法令にこれと異なる反対の定めのあるとき,または 当事者の反対の定めのあるときは,この限りではない。」と諾成主義の 原則を提案している。 +中間的論点整理にも約因に関しての言及はない。 ⒟ 抵触法 第 1 条⒜により CISG が適用される契約であるが準拠法についての規定 がない契約を解釈するには,終局的には準拠法を決定しなければならな い。結局,CISG の適用性の範囲には制限があるし,もし CISG が適用さ れても最後の手段として国内法により埋められなければならないギャップ や穴が存在するからである。さらに言えば,第 1 条⒝が「国際私法の準則 による」と規定していることからも,抵触法条項により決定される準拠法 を適用することに CISG はその基礎を置いていることは明らかである。 CISG がそれ自身の抵触法規則を規定しなかったので,CISG が規定しな い問題は第 7 条⑵に従って国内法の枠組みにより解決する必要がある。 ★ 比較ノート UCC :UCC は準拠法に関する当事者の合意が存在しない場合には,当該 州と「適切な関係」を有する契約であることを条件として,当事者の権利 → 過失,不法性そして他の無効な事項。)http://cisgw3.law.pace.edu/cisg/biblio/hartnell. html 参照。
と義務は(法廷地の)抵触法準則の適用によって選択された法律によるも のと規定する (UCC §1-301 ⒝)。しかし,消費者との取引の場合,規則 は幾つかの制限をしている (UCC §1-301 ⒞)。 しかし UCC §1-301 ⒝ の規定が UCC 公式規則の2008年の改定を反映 しているにもかかわらず,米国各州の間ではあまり採用されていないこと に注意をむけなければならない。実際,2003年バージョン (2003 UCC § 1-301)21)は,各州のほとんどから拒絶されている。それらの州は2003年 以前のバージョンに固執しているのである (Pre-2003 UCC §1-105)22)。 しかしながら,Pre-2003 バージョンも現在の公式バージョンに大変よ く似ている。例えば,NY 州 UCC 規則の下では,もし当事者が準拠法を 特定していない場合,「(ニューヨーク)に適切な関係を持つ取引に適用す る」(NY UCC §1-105)23)。裁判所は,⒜ 取引と当事者に最も関係の深 い場所 (Restatement. 2d Contracts §188),⒝ 売主が物品を引き渡す場 所 ((Restatement. 2d Contracts §191),もしくは⒞ 契約もしくは同様の 概念の試行等を考慮して,その「重心」となる場所によって適用する準拠 法を決定することができる24)。 当事者間で選択された準拠法の執行可能性 米国の裁判所は当事者が選択した契約を支配する準拠法に対して承認を 与えることも与えないこともある。この問題については各州が異なる見解 21) 2003年バージョンの1-301条「契約に規定がない場合は,両当事者の権利と義務は当該 州の抵触法の原則の適用により選択された法によって決定される。」 22) Pre-2003 の1-105条は変更されて2003年公式バージョンの1-301に成文化された。この ような改定の下で,当該条項は1-301条として残っている。 23) 面白いことに,当事者が準拠法を規定している場合でも,NY 州 UCC を文字通り読め ば次のようになる。「取引が (NY) そしてまた他州や他国に適切な関係を持つときは,当 事者は [NY] もしくはその他の州や他国の法のいずれかが当事者の権利と義務を支配す ることを合意できる」(NY UCC §1-105 ⑴)
24) 例えば,Illinois Tool Works v. Sierracin Corp., 479 N.E.2d 1046, 1051 (1stDist. 1985)(申
込と承諾ルールの下での,拘束される契約書を成立させるために必要な最終行為があった 場所としてカリフォルニア州法の適用した)
を持っているが,一般的には,もし選択された州法が当該契約と要求され る標準的な関係がある場合や,その適用が当該州の基本的な政策に対立し ない場合には,その当該州法が支持される傾向にある25)。 Pre-2003 UCC §1-105 について 自分たちの契約の準拠法を選択するという当事者自治は,当該取引が選 択された法の州に合理的な関係を有する必要があるという要求によって UCC の Pre-2003 バージョンでは制限されていた。そうでない限り法廷地 の法が準拠するのである26)。 UCC 2003年バージョン UCC 2003年バージョンは以前のバージョンの姿勢を,当事者のどちら もが消費者でない場合に彼らが準拠法を選ぶにあたってほぼ自由にできる ように,緩和した。これにより,2003年バージョンでは当事者が選択した 法は「取引が選択した法律の州や国と関係があってもなくても」有効に なった。ただし,選択された州法の適用が準拠に関する当事者の合意が無 い州または国の基本的政策に反する場合を除外する (UCC §1-301 ⒞ and ⒡)。奇妙なことに,多くの州がこの進歩的な取り組みに興味を示さ ないでおり,これを拒否してきた。
25) Kermit Roosevelt, Conflict of Laws 39頁 (Foundation Press 2010)
26) Pre-2003 UCC 1-105条(ほとんどの州で現在も有効である)の関係する部分は次のとお りである。 1-105条 本法の地域的適用 ; 当事者の準拠法選択権 ⑴ 本条の以下の規定で定める場合を除き,取引が本州にも,また他州または他国にも 合理的な関係がある場合には,当事者は,本州の法律か,当該他州または他国の法律のい ずれかが当事者の権利義務を規律することに合意することができる。かかる合意をしない ときは,本法は,本州と適切な関係を持つ取引に適用される。 注)本論文で引用している UCC の日本文のいくつかは 「UCC2001 アメリカ統一商事法 典の全訳」アメリカ法律協会,統一州法委員会全国会議,田島裕,商事法務を参考として いる。
現在の公式バージョンの UCC §1-301条 UCC の草案者は,当事者が自由に州や国の法律を選ぶことを認めるこ とに躊躇するという多くの州の意向について判断を誤ったことに気付い た。そこで2008年に合理的な関係を必要とするという Pre-2003 年バー ジョンの §1-105(その間は1-301条として存続していた)を結果的に再 採用するという退却の合図を出した。言い換えれば,当事者に選択された 法が UCC の下で有効と認められるには,一般的に,契約の成立や履行が 発生したことに十分に関係する管轄地の法であることが必要であるとした のである (UCC §1-301 ⒞ Comment 1)。しかし,草案者の降伏は無条件 ではなかった。米国各州のほとんどが立法上の現状維持に引きこもってい る間に,彼らはひそかに裁判官と仲裁人に対して選択された準拠法が契約 の成立や履行と関係が必要とすることを無視するためのドアを開けておい た。それは準拠法選択の合意は時々,当該取引行為が選ばれた管轄地と大 きな接点がないとしても,契約に支配されている事項と同じく当事者の意 図の間に合わせの表現として効力を生じるとコメントすることによってな されたのである (UCC §1-301 ⒞ Comment 1)。 日本法: 契約当事者の所在地,契約締結の場所,契約を履行する場所な ど,契約に関係する場所がすべて日本国内であるときは,当事者間で別段 の合意でもない限り,日本国の法律が適用される。日本において,契約当 事者は一般的にその取引について自由に(日本法以外が選択されたとして も)準拠法を選択することができる。但し,消費者契約及び労働契約が問 題となる場合は,消費者又は労働者にとり特別な取扱いがなされている (法の適用に関する通則法11条,12条)。また,外国法に基づく懲罰的損害 賠償は,日本においては存在しない制度であるため,公序により認められ ない可能性がある。 ⒠ 裁判管轄条項 前述したように,契約の準拠法は法廷地法 (lex fori) の抵触法の準則に
よることができる。これらの抵触法は決して同一ではないので,当事者は 回復や救済を最も期待できる法廷地を慎重に選択しなければならない。 CISG の規定の運用が多かれ少なかれ世界的に同一なので,CISG の範囲 外の問題に関してフォーラムショッピング(自己に有利な裁判所の選択) を当事者は行うことになる。Usinor Case (Usinor ケース : 後述)におい ては,販売された商品に関する売主の権利と買主の債権者の権利が各州 UCC の下では違っていることが明らかにされた。これにより当事者は, もし契約書が排他的な裁判管轄を規定していない場合には,有能な弁護士 を起用し請求訴訟を起こす前に色々な国内法(米国州法)を調査し,自己 に最も有利な準拠法の適用を考えることが必要かもしれない。 ★ 比較ノート
UCC :多くの州で採用されている UCC の準拠法選択条項において UCC は「(法廷地)州に適切に関係する取引」に適用すると規定している (Pre-2003 UCC §1-105 ⑴)。しかし,各州はそれぞれ違ったバージョン の UCC を採用しているし,独自に変更を加えている。さらに,州によっ てこの規定につき異なる解釈をしている。例えば,契約訴訟に適用される 出訴期限法は違っている。あるいは,UCC の下での保証の有効範囲も 違っている。さらに,判例は UCC の同じ条項であっても各州によって大 幅に違ったものが集積されてきた。明らかに,このことは当事者に多数の フォーラムショッピングの機会を提供しているのである。 日本法:私的自治(当事者自治)の原則及び訴訟追行上の便宜のため,合 意による裁判管轄をみとめている(民事訴訟法第11条)。合意管轄がない 場合には,民事訴訟法第 4 条や第 5 条などにより定められた法定管轄に従 う。なお,裁判の適性や迅速性など,強度の公益性を理由に,特定の裁判 所にのみ管轄が与えられている専属管轄もある(民事訴訟法第340条,第 383条,人事訴訟法第 4 条)。管轄の合意には,法定管轄に特定の裁判所を 追加する付加的合意(競合的合意)と,ある特定の裁判所の管轄のみを認
める専属的管轄合意がある。なお,企業が作成した約款に盛り込まれた合 意が付加的か,または専属的なものか判断しえない場合,一般契約者(消 費者)の利益を優先させ,付加的合意とした裁判例がある(東京高裁決定 昭和58年 1 月19日,判時1076号65頁)。 ⒡ 強 迫(脅 迫) 強迫をもって得た契約上の権利については,CISG は適用される国内法 に委ねている。 ★ 比較ノート
UCC :CISG と同じく,UCC には強迫に関する規定はない。代わりに,一 般的に脅迫および強制に関するエクイティの諸原則が適用される (UCC §1-103 ⒝)。したがって,契約書を締結するあるいは変更するにあたり 不当に強制された当事者は強迫の抗弁を主張できる。典型的には,暴力, 監禁,不正な財産の取得,あるいは契約違反(特にその契約違反が当事者 に回復できない障害を与える場合)により脅かされた時(その恐れは被害 者の検証の主たる論点から決定される)にはこの抗弁を主張できる27)。 27) 「Restatement 2d of Contracts」 の関連条文は次のとおりである。 §175 脅威による強迫が契約を無効にする場合 ⑴ 当事者の同意の表明が他の当事者による不適切な脅威によって引き起こされ,かつ その結果強迫された当事者が他の合理的な代替手段もたない場合,強迫された当事者は当 該契約を無効とできる。 ⑵ 当事者の同意の表明が取引の当事者でないものによってなされた場合には,取引の 相手方が対価を与えたり,実質的にその行為に期待をかけたりすることにつき,当該相手 方が善意でまたその強迫を知っているべき理由がない限り,強迫された当事者は当該契約 を無効とできる。 §176 脅威が不当な場合 ⑴ 下記の場合には脅威は不当である ⒜ 脅威の内容が犯罪や不法行為であること,もしくは結果的に財産を取得し脅威そ のものが犯罪や不法行為になること ⒝ 脅威の内容が刑事訴追であること ⒞ 脅威の内容が民事訴訟手続きでありその脅威が悪意(不誠実)でなされたこと あるいは →
強迫の被害者は契約を解除(無効もしくは撤回すること)でき,通常は 強制した当事者が不合理に得た金額につき返還させることができる。被害 者が合理的な期間内に契約を承認するか無効を取消さない限り,⒜ 契約 を強制,あるいは⒝ 契約違反につき訴訟しようとする加害者の試みに関 連して,契約の無効(言い換えれば解除)を請求することができる28)。 当然ながら,契約無効訴訟は当該強迫が止むまではその手続きは開始され ない29)。 日本法:強迫による意思表示は,取り消すことができるし(民法第96条), 取り消された行為は,初めから無効であったものとみなされる(民法第 121条)。「強迫」とは,以下の要件を満たす行為をいう。 1,相手に畏怖を生じさせるという意思があること,畏怖させることに よって相手方に一定の意思表示をさせようとする意思があること 2,強迫行為があること 3,脅された者が強迫行為によって畏怖し,その畏怖によって強迫者が 欲した意思表示を被強迫者がすること 4,強迫行為に違法性があること +基本方針においては,民法96条では「詐欺または強迫による意思表示」 となっているのを【1.5.17】で「強迫により表意者が意思表示をしたと きは」として詐欺から独立させているが,中間的論点整理も含めて,文 言の一部の変更以外は特に新たな提案はなされていない。 → ⒟ 脅威が相手方との契約の下での善意誠実義務と公正取引義務に違反すること ⑵ 下記の場合において,もし結果として交換されたものが公正な条件でない場合には 脅威は不当である。 ⒜ 脅威をおこなった当事者には大きな利益を与えなかったが,脅威行為が相手方に 害を与える場合 ⒞ 脅威の内容が不法な目的のための権限の利用であるとき 28) 「Farnsworth」 §4.19 261頁。 29) 同上。
⒢ 非良心性 契約条項の非良心性の有効性は国内法の問題の範囲であり,CISG には 規定がない。 ★ 比較ノート UCC :非良心性の問題について,UCC は明示的にこの概念を成文化して いる (UCC §2-302)。要約すれば,UCC では,破廉恥な方法により当事 者から救済を剥奪したり,救済を奪い去ることを認めていない30)。検証 されるべき論点は「一般的な商業的背景と特定の取引やケースの商事的必 要性の観点からすると,契約締結の時点で存在している状況の下で,組み 込まれている条項があまりにも一方的であるために非良心的であるかどう か」である (UCC §2-302 に対するコメント)。例えば,予定損害賠償額 や間接損害の制限のような救済に関する不合理な制限は無効であり制限さ れる (UCC §2-718 ⑴,2-719 ⑶)。さらに,UCC の救済は当事者の制 限や排除が本質的な目的から外れるか否かについても規定する (UCC § 2-719 ⑵)。裁判所はしばしばこの問題を手続き上と実態上の非良心性の 観点から分析する。前者には,片方の当事者が契約書を締結するという重 要な選択や明敏な交渉行う能力を欠いていないか,あるいは「小さな活字 や複雑な言葉」を使用していないかが含まれる。後者には,片方の当事者 に不合理に有利である一方的な条項の問題を含む31)。裁判所は手続き的 非良心性にのみでは救済手段を用いることをためらいがちであるが,有力 な傾向は要求されている両方の要素のバランスを取ったアプローチであ る32)。 UCC に準拠する契約における非良心性を解決するために利用できる広 30) UCC の下では,当事者にとっては「少なくとも最低限の適切な救済が利用できること が売買契約の重要な本質である」,そして当事者は「少なくとも当事者の債務や義務の違 反について公正な救済の量」を規定しなければならない。(UCC §2-719 のコメント) 31) 「Farnsworth」 §4.28 301頁。
い幅の救済措置を裁判所は持っている。これにより,裁判所は契約全体の 強制を拒否することができるし,特定の契約条項のみの強制も拒否でき る。あるいは裁判所は問題となっている条項を「良心的」にするために変 更したり無効にしたりすることができる33)。 上記のように,UCC の下では不合理に多いあるいは少ない損害賠償の 予定額は非良心性の問題として無効となるかもしれない。この観点から, UCC の下で予定損害賠償額条項をドラフトする時には,予定損害賠償額 が予想され,あるいは実現する契約違反による損害に照らし合わせて合理 的でなければならないこと,損害の証明の困難性,適切な救済を求めること の不都合や不能について注意しなければならない (UCC §2-718 ⑴)。金 額的にあまりにも過大である場合にはペナルティとして無効になり,過少 である場合には非良心性の問題を引き起こす可能性があるかもしれない。 日本法:契約締結過程あるいは契約条項において,詐欺や錯誤等には該当 しないが,過大な不公平が存在するといった非良心的と評価される事情が ある場合で,契約条項が不公正である場合に,契約の効力を否定する考え 方を非良心的契約であるとすれば,日本法には直接的な規定はない。民法 の信義則(民法第 1 条 2 項),権利の濫用(民法第 1 条 3 項),公序良俗 (民法第90条),不法行為(民法第709条))の適用で解決するしかない。消 費者契約法では「不実告知」や「不利益事実の不告知」等はカバーしてい る(消費者契約法第 4 条)。 +基本方針は非良心性についての具体的な提案はしていない(後述するよ うに詐欺・不実表示についての提案はある)。 +中間的論点整理第29.5(意思表示に関する規定の拡充)において,「表 意者の相手方が表意者にとって有利な事実を告げながら,これと表裏一 体の関係にある不利益な事実を告げなかったために表意者がそのような 事実が存在しないと誤認し,誤認に基づいて意思表示をした場合(誤っ 33) 同上 §5-8 236-40頁。
た事実を告知されたことに基づいて意思表示をした場合と併せて不実表 示と呼ぶ考え方がある。)には,表意者は意思表示を取り消すことがで きるという考え方もある。」として,今後の検討を求めている。また, 第31(不当条項規制)において,「今日の社会においては,対等な当事 者が自由に交渉して契約内容を形成することによって契約内容の合理性 が保障されるというメカニズムが働かない場合があり,このような場合 には一方当事者の利益が不当に害されることがないよう不当な内容を持 つ契約条項を規制する必要があるという考え方がある。このような考え 方に従い,不当な契約条項の規制に関する規定を民法に設ける必要があ るか」との検討も要請している。 ⒣ 詐欺と不実表示 詐欺と不実表示は CISG によってカバーされないので,準拠法として適 用される国内法に従った解決に委ねられている。例えば,機械購入の詐欺 的勧誘を受けた買主の申し立ては,法定地法の下での判決に拠った例があ る34)。詐欺の事例が CISG に直接的に関係している限りにおいては,詐欺 にあった当事者の権利は CISG の下での特定の救済に影響される。なぜな ら詐欺を行った売主は CISG 第40条に規定されている救済に依拠すること はできないようになっているのである。すなわち不適合を知っていたか, 知らないことがあり得なかったにもかかわらず買主に対して明らかにしな かった売主から CISG 第40条に規定されている権利を奪い去るのである (第40条)。裁判所によれば,過失ある買主でさえ CISG の下では詐欺的売 主よりも多くの保護を受けるのである35)。
34) Miami Valley Paper, LLC v. Lebbing Engineering & Consulting GmbH, Case No. 1:05-CV-00702 (S.D.Ohio March 26, 2009), http://cisgw3.law.pace.edu/cases/090326u1.html#cd 参 照。
★ 比較ノート
UCC :UCC の下では詐欺の要素は UCC 1-103条の「法と衡平の原則」に 規定されているが,また,詐欺の被害者は具体的規定での救済も援用でき る (UCC §2-721)。このようにして,UCC は詐欺の被害者を,より幅広 い救済を求める権利のある保証違反によって怪我をした者と同様の地位に 置く (UCC §2-721 Comment)。 同時に,UCC の下では詐欺や重大な不実表示の犠牲者となった当事者 は,例えば,売主が知っていながら物品の品質につき不実表示した場合, 適用される州法の下で契約の解除や全ての被った損害につき訴えることが できる。UCC は,そのような場合,契約の解除や被詐欺者による物品の 拒否や返還は,UCC 上で適用される他の損害賠償を求めることを禁止し ていないことを明らかにしている (UCC §2-721)。ほとんどの詐欺的行 為はごく普通の不誠実な行為より極めて悪質であるから,非良心性のため の UCC §2-302 に基礎を置く救済もまた適用されうるのである。 日本法:詐欺による意思表示は,取り消すことができる(民法96条⑴)。 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては, 相手方がその事実を知っていたときに限り,その意思表示を取り消すこと ができる(民法96条⑵)。詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者 に対抗することができない(民法96条⑶)。詐欺の場合においては,欺か れた者の帰責性も大きいため,取り消しに上記の制約が設けられている。 +基本方針【1.5.16】では「積極的な欺罔行為をするのではなく,告げる べき事実を告げないことで表意者を錯誤に陥れて意思表示をさせること も,詐欺に該当する」という沈黙の意思表示の規定,及び「第三者が詐 欺をした場合について,相手方が第三者による詐欺の事実を知っていた 場合だけでなく,知ることができた場合にも,表意者はその意思表示を 取り消すことができる」いう第三者による詐欺が提案されている。そし て,詐欺による意思表示の取消は,善意の第三者ではなく「善意無過
失」の第三者のみに対抗できないとする。上記については,中間的論点 整理第29.4も同様である。 また,【1.5.15】において,不実表示についての新たな規定36)を提案し ている。 ⒤ 違法性と公序違反 CISG は国内の公共政策や公序良俗違反に関する論点には触れていな い。これらの論点は国内法の範囲内にある。しかし,CISG の下での金利 の決定については,第78条等に規定している。(後述8.2.1 参照) ★ 比較ノート UCC :物品売買に関する契約は公序,例えば違法性,に照らし合わせて 執行不能(全部あるいは部分的)あるいは執行が制限されることになるこ ともある。物品売買契約の文脈における違法性の論点は法と衡平の補助規 則を通じて UCC の枠内に入る (UCC §1-103 ⒝37))。違法性に直面する 36) (不実表示) ⑴ 相手方に対する意思表示について,表意者の意思表示をするか否かの判断に通常影 響を及ぼすべき事項につき相手方が事実と異なることを表示したために表意者がその事実 を誤って認識し,それによって意思表示をした場合は,その意思表示は取り消すことがで きる。 ⑵ 相手方に対する意思表示について,表意者の意思表示をするか否かの判断に通常影 響を及ぼすべき事項につき第三者が事実と異なることを表示したために表意者がその事実 を誤って認識し,それによって意思表示をした場合は,次のいずれかに該当するときに限 り,その意思表示は取り消すことができる。 6 当該第三者が相手方の代理人その他その行為につき相手方が責任を負うべき者であ るとき。 7 表意者が意思表示をする際に,当該第三者が表意者に事実と異なることを表示した ことを相手方が知っていたとき,又は,知ることができたとき。 ⑶ ⑴⑵による意思表示の取消しは,善意無過失の第三者に対抗することができない 37) UCC §1-103 ⒝ 「本法の個別の規定がない限り,商慣習法及び契約能力,本人と代理人(代理関係),禁 反言,詐欺,不実表示,脅迫,強制,錯誤,破産または他の発効もしくは無効原因に関す る法を含む,衡平法およびコモン・ローの諸原理は,本法の諸規定を補足する。」
可能性のある契約としては,賭博契約,違法商取引契約,競業避止特約, 商業賄賂,高利契約,故意による不法行為の加害者の責任を免責する条 項,許可やライセンスなしに当事者による許可やライセンスを要求する役 務契約等がある。特に物品販売契約に影響する政策は取引の制限に関する 政策,訴訟提起に関する政策および物品の不適切な使用(例えば犯罪行為 に使用される物品の販売)をやめさせる政策である38)。履行が最初から 法律で禁止されている契約(その場合両当事者が履行を要求されない)も 当事者が作成した場合には違法もしくは公共政策を犯す契約である。その ような「併発する違法」は直接的に UCC §2-615 の枠内におちる。もし 外国政府もしくは本国政府の規制,あるいは「それがのちに効力を有しな いことが分かった」ことによって商業的に実行不可能となったときには, 売主は時機を得た履行から解放される (UCC §2-615 ⒜39))。言い換える と,「併発的違法性」に直面すると,「売主の履行を妨げる政府の行為を生 じさせることに共謀する」あるいはそのような違法性のリスクを確信する ことの両方をしていない売主は引渡の遅滞や引渡不能について契約違反に ならないし,かつ,将来的に当該行為の履行から免除される (UCC §2-615 Comment 10)40)。 違法性の実際の証明や決定は UCC 2-615 で売主を免除することとは関 係ない。政府の規制や命令の有効性についての売主の善意ある信頼は問題 38) 「Farnsworth」 ch.5 311-341頁。 39) UCC §2-615 ⒜ 「売主がより大きな債務を引き受けた限度では別として,代替的手段による履行に関す る前条の規定に従って, ⒜⒝項および⒞項に従う売主が全部または一部の引渡しを遅延することまたは引き渡さ ないことは,もし合意された履行が,予期しない出来事によって実行不可能になった場合 であって,そのようなことが起こらないことが契約締結の基本的前提条件となっていた場 合,あるいは外国政府もしくは本国政府の適用ある規制ないし命令に従ったことによって 実行不可能になった場合,それが後に効力を有しないことがわかった場合でも,売買契約 に基づく売主の義務違反とはならない。」 40) 「Farnsworth」 §9.9 638頁。
ではない (UCC §2-615 Comment 10)。不思議なことに,UCC 2-615 ⒜ の免除は条文上は売主にのみ適用される。言うまでもなく,当該条項の公 式コメントは「適切なケースにおいては現在の条項は買主に適用し免除を 与えることができる」と示唆している (UCC §2-615 Comment 9)。UCC 2-615 ⒜ の信頼が是認されない場合には,影響を受ける買主は適切な ケースでの法と衡平の補充原則に頼ることを求めることが必要になる (UCC §1-103 ⒝)41)。 日本法:私的自治の原則と契約自由の原則の下では,だれでも自由に契約 内容を決めることができるが,それが公序良俗(民法90条)や強行法規 (民法91条)に反している場合には無効となる。具体的にはつぎのような ものがある。 賭博契約,ネズミ講(マルチ契約),売春契約,妾契約,麻薬売買,基本 的人権を害する契約,侵害を目的としたライセンス契約,男女差別を含む 雇用契約 ⒥ 錯 誤 一般的に錯誤の論点は有効性の問題であり,CISG 第 4 条に従って国内 法の処理に任せられている。しかし,CISG に明確に抱合されている論点 は CISG により規制されるべきであると指摘されてきた。すなわち,物品 の品質や特性に関する錯誤は「有効性の問題」として扱われるべきでな く,そのような場合には買主は CISG 第45条の救済に訴えるべきであ る42)。 ★ 比較ノート UCC :上述したものを除いて,CISG は錯誤の問題を一般的に国内法に多 くの部分を委ねているが,同様に,UCC は適用される法の下でのコモ
41) 「White & Summers」 §4-10 182頁。 42) 「A New Textbook」 22-24頁。
ン・ローおよびエクイティの諸原理に委ねている (UCC §1-103 ⒝)。コ モン・ローの原則によると,錯誤に要求されている要素が合致すると,契 約は(現状回復あるいは損害賠償の適切な方を伴って)解除されるか,変 更される。錯誤は相互的にも一方的にも起こり得るが,救済を得るために は法的要件が異なる。一方的な錯誤の場合に救済を得るためには,その要 件はより厳格である。重要なことには,錯誤は契約時に存在する事実につ いての誤った信念を含むが未来予測は含まないことである。後者の場合適 切な分析を行うためには,「実行困難性の法理」43) や「契約目的達成不能 の法理」44) が当事者に不利益を蒙らない救済手段を与えるか否かについ ての調査が必要であろう45)。 日本法:「意思表示」は,契約等の重要な部分(=要素)に錯誤があった 場合は,無効とする。ただし,表意者に重大な過失(重過失)があった時 は,表意者は自分から契約等の重要な部分に錯誤があった時に主張できる 無効を主張できない(民法95条)。錯誤には「表示上の錯誤」「内容の錯 誤」及び「動機(縁由)の錯誤」がある。重大な過失とは,表意者の職 業,行為の種類・目的等に応じ普通にしなければならない注意を著しく欠 くことである。例えば,株式売買を業とする者が株式の譲渡を制限した会 社の定款を調査しないのがその例である(大判大正 6・11・8 民録23・ 1758)。 +基本方針【1.5.13】では,現民法95条を分解し詳細に規定しているが, 大きな変更点としては6 表示錯誤(動機錯誤)と(事実錯誤に)分け て規定したこと,7 錯誤の効果を無効から取消にしたこと,そして9 第三者の保護規定を新設したことがあげられる。 43) 「doctrines of impracticability」 契約を約定通りに履行することは不可能ではないが,そ の履行が極端な不合理を伴う場合には当事者は免責されるという法理。 44) 「frustration of purpose」 当事者が予定していた契約目的が予期せぬ事情で達成不能であ る場合には当事者の義務が免責されるという法理。 45) 「Farnsworth」 §9.2 598頁。
+中間的論点整理では第29.3 ⑸において錯誤者の損害賠償責任について も検討が必要としている。 ⒦ (潜在的)保証拒絶 契約上の弁明条項もしくは保証免責は当事者の義務の範囲に大きな影響 を与える。明示もしくは黙示の保証や得られるべき救済を放棄したり制限 したり緩和したりするこれらの条項は,当事者の標準契約約款に組み込ま れていることが多い。そのような免責条項の有効性や執行可能性が国内法 で規定されていないこともあり得るので,CISG で規制すべきだとの研究 者の意見の多くは主流のコメンタリーによって却下され反対されてき た46)。しかしながら,適用される国内法が保証免責を規制するというこ とは,多くの国でその基準の範囲が非常に多くの多様性を示しているとい う特別な難題を引き起した。結果的に,CISG が適用される契約での免除 の存在は適用される国内法の当該問題に対する注意深い調査と必要かつ適 切な修正によってのみ無力化できるということが判明している。 ★ 比較ノート
UCC :UCC の下では,UCC に規定されている保証の免責や緩和はそのよ うな免責や緩和の様式に関連する要件だけでなく非良心性の原則の規制も 条件になっている。例えば,⒜ 保証の排除に関しては,当事者は排除す る場合は「顕著」であることを要求されているし47)(UCC§2-316 ⑵ 及 46) 「Hartnell」 84-85頁は次のようにコメントしている : 多くの免責条項の法的効果は,例えそうであるとしても,適用されるべき国内法に任 せ,CISG の枠組み内で進展している国際的標準の下での評価はなされないであろう。 この国際的商業の重要な問題に関する結論は統合の目的のために良い前兆をもたらさな いからである。 47) 例えば,UCC §2-201 ⑽ では,「顕著」とされるのは下記の規定による。 = まわりの本文に等しいもしくは大きな活字で,また同一もしくはより小さいサイズ の本文と対照的な文字種,フォント,もしくは色で,書かれた見出し,> まわりの本文 より大きな文字種で,また同一のサイズの周りの本文と対照的な文字種,フォント,もし くは色で,書かれた記録もしくはディスプレーの本体の中のことば,または当該のこと →
び §1-201 ⑽),⒝ 損害賠償の制限に関しては,裁判所はそれらが不合 理でないか,あるいは「本質的な目的」を実現しないのではないかを調査 する (UCC §2-718 ⑴ 及び §1-719 ⑵)。 保証の排除についての交渉においては UCC の規範で入念に検査されう るので,交渉当事者はそれらを認識する一般的な法的規制を忘れてはなら ない48)。上記より,CISG がその規定からの逸脱を認めているといって も,損害額の制限や保証の排除は国内法により規制されることに注意しな ければならない。例えば CISG に準拠する契約書中であっても,保証の排 除をドラフトする場合は,それらの言葉を「顕著」に,言い換えれば「合 理的な者であれば自己に不利益に作用することに気づくはずであるように 記載・展示あるいは存在するように」しなければならない (UCC §1-201 ⑽)。 日本法:優越的地位を乱用して,保証を拒否することは公序良俗違反にな る可能性がある。前述⒢の(非良心性)の不当条項規制の対象になるであ ろう。 ⒧ 違約金条項 違約金の有効性に関する問題のうち,CSIG は特に懲罰的な損害賠償の 予定の可否を国内法に委ねている。しかし実務上においては,ユニドロワ 原則が「不履行の結果生じた損害およびその他の事情に照らし合わし,そ れが著しく過剰であるときには,合理的な金額」(ユニドロワ原則 Art. 7. 4.13 ⑵) に予定損害賠償額を減額すると規定していることに注意しなけ ればならない。現時点では紛争の裁定機関が,CISG が適用されている契 約において CISG の規定漏れの隙間を埋めるメカニズムとしてユニドロワ → ばに注目を引くシンボルもしくは他のマークによる同一サイズのまわりの本文より引き立 たせた言葉」(UCC §2-201 ⑽)(訳は田島裕 「UCC コンメンタリーズ」雄松堂出版(以 下 「UCC コンメンタリーズ」)より)
原則を自発的に調査することはあり得ないと考えられる。しかし一方で は,当事者が自ら,ユニドロワ原則が CISG の規定と一般原則に抵触しな い限りにおいて,自分たちの契約にユニドロワ原則を組み込むことを考慮 するかも知れない49)。
しかし,懲罰的な損害賠償の予定の可否を国内法に委ねているという CISG の姿勢は絶対的なものではない。CISG は CISG そのものから生じる 一般原則を経由して損害賠償条項に同意しているのだと何人かのコメン テーターは主張している50)。コモン・ローの管轄であっても損害賠償条 項は「無効ではない」(損害額の問題はあるかもしれないが)という前提 からスタートすると,第 4 条の有効性問題の排除はこの問題に適用できな いという結論を下すのである。もし,そうなら,金額に関する論点は当事 者が第 8 条(当事者の意図の確定の処理)の基準に従って当事者の言明を 当事者がきちんと解釈しているかどうかを確認することだけになってしま う。実際,そのようなアプローチは第 6 条における当事者自治の原則の具 体化の証明になっている51)。 ★ 比較ノート UCC :コモン・ローの下での契約違反とそれに対応する損害賠償に関す る基本的考え方は,脅迫的なレベルのペナルティを科すことによって履行 の強制を試みることではなく,他の当事者の契約違反により相手方当事者 が被った損害を補償することにある。そのことはこの考え方から外れた損 害を規定することを一般的に禁止することに反映されている。これから, 裁判所は契約違反者に対するペナルティを見積もって合計いくらとする類 のいかなる規定も認めない。UCC の規定では,救済措置は「自由に運営 されなければならない」けれども,「違約金(懲罰的損害賠償)は UCC 49) 「Drafting Contracts」 79-83頁。
50) Bruno Zeller, Penalty Clauses : Are They Governed by the CISG ?, 23 Pace Int’lL. Rev. 1 (2011), http://digitalcommons.pace.edu/pilr/vol23/iss1/1 参照。
や他の法の規定によりはっきりと規定されていない限りはない」(UCC § 1-305 ⒜52))。言い換えれば,懲罰的損害賠償は契約書中に規定すること は可能ではないが,UCC §1-103 ⒝ を経由して「他の法律の規定」によ り懲罰的損害賠償が認められる可能性はある。懲罰的損害賠償の禁止に注 意しながら UCC を検討すると,UCC は「違反により生じると予見され又 は現実の危害,損害の立証の困難,および他の方法で適切な救済を求める ことの不便もしくは不能であることに照らして」予定損害額を規定するこ とを当事者に認めている。もし,条件が違っていると,「不合理に高額の 確定額損害賠償を定める条項は刑罰として無効である」(UCC §2-718 ⑴) とされる。 日本法:当事者は,債務の不履行について損害賠償の額の予定を合意する ことができる。この場合において,裁判所は,その額を増減することがで きない(民法第420条⑴)。損害賠償の予定に加えて,不履行を起こしてい ない当事者は履行の請求又は解除権の行使ができる(民法第420条⑵)。ま た違約金は,賠償額の予定と推定される(民法第420条⑶)。しかし,特別 な場合は違約金と損害賠償とは別のものとして扱われる。例えば,違約金 は債務不履行に基づく損害賠償という意味ではなくて,あくまで約束を 破ったことに対する制裁的な意味を持つ違約罰である場合がある。違約金 の約定がこの違約罰の約定である場合には,債務不履行があった場合,債 権者は,違約罰を請求できるほかに,さらに損害賠償を請求することがで きることになる。損害賠償の予定額が,あまりに高額だったり,債務者に 無理やり合意させたものだったりすると,公序良俗違反として無効とされ たり,利息制限法や消費者契約法などの特別法によって制限されたりする 52) UCC §1-305 ⒜ 「UCC に規定されている救済は最後まで自由に処理されなければならない,そして損害 を受けた当事者はあたかも他方当事者が完全な履行をしたものと同じ状況に置かれるが, 間接損害,特別損害および違約金については UCC や他の法律に特別に規定されていない 限りはない。」
ことがある。 また外国法に基づく懲罰的損害賠償は,日本においては存在しない制度 であるため,公序により認められない可能性がある。 +基本方針では【3.1.1.75】(損害賠償の予定)の< 2 >において,「裁判 所は,予定された賠償額が債権者に生じた損害に比して過大であるとき には,その額を合理的な額まで減額することができる。」としている。 +中間的論点整理第4.1では,この点に関して「予定された賠償額の裁判 所による減額を認める旨の規定を設ける場合には,要件として,予定さ れた賠償額と実損額との比較だけでなく,賠償額の予定がされた経緯や 当事者の属性等の様々な要素を総合考慮できるものとすべきであるとい う意見等を踏まえて,具体的な要件の在り方について,更に検討しては どうか。」としている。また,同第4.2では過小である場合についても言 及している。 ⒨ 和解契約 当事者による紛争の和解契約の有効性は CISG の範囲外であるので,準 拠する国内法で確認しなければならない。 ★ 比較ノート UCC :伝統的なコモン・ローのアプローチによると,一般的に,既存の 義務より小さい金額で紛争を和解するには約因を要求する。さらに言え ば,既存の義務を約因とする契約の変更は約因の欠如のために有効ではな い。例えば,より少ない金額での債務を解決することは拘束力がない(い わゆる 「Foakes v. Beer」 ルール53))。このルールは幾つかの例外により破 たんしている部分もあるし幾つかの州で否定されてはいるが,多くの州で 今も有効である。しかし,根本的には,既存義務ルールは完全に UCC で は廃止されてきた。UCC の下では,契約書の変更には全く約因は要求さ 53) (Foakes v Beer [1884] 9 App Cas 605) the House of Lords http: //en. wikipedia.