企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究 : カーボン・ニュートラルの概念を利用した経済効果の分析
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(2) 66. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). (506). による CO2 年間排出量は 1990 年代の年当たり. られる.よって,金融機関は自らのカーボン・. 炭素換算で 64(60~68)億㌧(CO2 換算で 235. リスクばかりでなく,顧客である企業のカーボ. (220~250)億㌧)から,2000~2005 年には 72. ン・リスクをも考慮に入れる必要があるのでは. ( 69~75) 億 ㌧( CO2 換 算 で 264( 253~275). ないかと考えられる.. 億㌧)に増加している.数年以上先の「自然変. 企業の気候変動に関する取り組みは,これま. 動」の振幅や位相(高温期や低温期のタイミン. でも上場企業を中心にウェブサイトや環境報. グ)を正確に予測することは,現状では不可能. 告書等を通じた企業の地球温暖化対策として,. 3). に近いものの ,地球の気温はさらに上昇する. 自主的な報告により開示されてきている.だ. と予想され,水,生態系,食糧,沿岸域,健康. が IPCC[2007]では,仮に全ての GHG 濃度が. などでより深刻な影響が生じると考えられてい. 2000 年の水準で一定に保たれたとしても,10. る4).それら気候変動を防ぐため CO2 を削減す. 年当たり 0.1 度のさらなる気温上昇を予想して. る地球温暖化対策が求められている.. おり,もし今以上の割合で GHG が増加するよ. CO2 の排出は,企業においては事務所や工場. うなことになれば,世界の気候システムに 20. のエネルギー消費に伴い排出されることから,. 世紀に観測されたもの以上の多くの変化が引き. 政府による国内排出量取引制度など,将来 CO2. 起こされる可能性が高いと予測している5).そ. 排出量削減義務が生じた場合,企業活動に与え. のため今後数十年は気候変動の影響は避けられ. る財務的影響が懸念されるのである(以下カー. ず,気候変動に関する企業の情報開示の重要性. ボン・リスク) .現在自主的に行われている企. は高まっている.. 業の地球温暖化対策は,水道光熱費の削減など. このことは世界共通の認識となっており,気. のエネルギー消費の節約が主なものである.無. 候 変 動 関 連 情 報 審 議 会( Climate Disclosure. 駄なエネルギー消費を抑えることはコスト削減. Standards Board:CDSB)や 米国証券取引委. になることから,企業としても積極的に対策を. 員 会( Securities and Exchange Commission:. 押し進めることは道理に適っている.ただし,. SEC)のように,財務諸表にも気候変動の影響. 2011 年 3 月 11 日の震災により,原発利用が困. を反映すべきではないかという国際的な動き. 難になるという新たなリスクが具現化したこと. がみられるようになっている. CDSB は 2009. で,一段のエネルギー消費削減をせざるを得な. 年 5 月,報告 フ レーム ワーク の 公開草案 を 公. い状況となっており,操業に影響が出始める企. 表し,2010 年 9 月 “Climate Change Reporting. 業も相次ぎ,地球温暖化対策としてもあまりコ. Framework Edition1.0”(以 下 CDSB[2010]). ストをかけられない状況となっている.そのた. を 公表 し て い る.そ し て,SEC は,2010 年 1. め,もし将来地球温暖化が今以上に深刻化し,. 月 27 日,公開企業 に 対 し て,気候変動問題 に. 気候変動による甚大な災害がもたらされた場. 関するビジネス又は法的展開にあてはまる,既. 合,その影響は企業の存亡の危機となる可能性. 存の SEC 開示要求に関する解釈指針を提供す. は否めない.またその気候変動の影響は企業ば. ることを可決している6).これらの一連の動き. かりでなく,企業に融資や投資を行っている金. は,気候変動が与える企業への財務的影響を投. 融機関にも及ぶこととなるのではないかと考え. 資家が把握し,意思決定できる環境を整えるこ. . . 3)気象庁[2008]. 4) 気 象 庁 URL〈http://www.data.kishou.go.jp/ obs-env/portal/chishiki_ondanka/〉参照日 2011 年 8 月 5 日.. 5)IPCC[2007] , pp. 12─13. 6) 米 国 SEC URL 参 照〈http://www.sec.gov/ news/press/2010/2010-15.htm〉参照日 2011 年 8 月 5 日..
(3) 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤). (507). 67. とを目的としている.. との関係を示すことができるのであろうかとい. CDSB[2010]は,現在及 び 潜在的 な 資本提. うことである.我が国では,金融商品取引法並. 供者である株式投資家や債権者の意思決定に有. びに金融商品取引所の規則により,上場企業に. 用であることという財務報告の目的と連携し. は適時開示制度に基づき四半期決算が求められ. ている.CDSB[2010]は特に投資家に焦点を. ている.その目的は,重要な会社情報をより迅. 当て,気候変動がどのように企業の経済的パ. 速に上場会社から投資者に提供することで,市. フォーマンスや将来見通し等,企業による価値. 場の公正性と健全性に対する投資者の信頼を確. 創造に影響を与えるか,投資家が判断できるよ. 保することにある9).金融機関は出資や借入と. うな情報を導き出すことを目的としている7).. いった資金調達と深く関係しており,企業の情. 具体的な項目としては,気候変動にかかわる戦. 報開示の対象として特に重要な立場にある.事. 略的分析,気候変動による規制リスクや物的リ. 業会社が気候変動に関する取り組みを行ったと. スク,GHG 排出量があげられており,情報開. しても,その取り組みを金融機関がプラスの評. 示内容としては,短期・長期の戦略分析やリス. 価をしないのであれば,事業会社としてはコス. ク,ガ バ ナ ン ス,GHG 削減,短期・長期 の リ. トをかけようとしないであろう.. スクと機会,そして将来の見通しなどをあげて. 上述のごとく,気候変動の重要性が高まって. 8). いる .. いることを受け,金融機関は,自らも事業者と. SEC は,企業 が 気候変動 に 関 す る 情報開示. して気候変動の取り組みを行う必要があるが,. 義務があるかどうか判断するためには,既存の. これまで大量の CO2 排出を行う産業に投資や. 法規制の影響および国際的協定や条約が,自社. 融資をしてきたこともあり,顧客企業の中にも. の事業に与えるリスクと効果を考慮し,重要と. 気候変動による財務諸表への影響が出る可能性. 判断した場合は開示すべきであること,また,. は否定できず,貸し倒れ等のリスクも考慮する. 関連する規制又はビジネスの潮流及び環境問題. 必要があるのではないかと考えられる.企業の. が,自社の事業に与える実際及び潜在的な重要. カーボン・リスクとしては,表 1 に示したとお. な影響について,開示ルールに基づく情報開示. り,規制リスクや物的リスク,さらには市場・. の要否を考慮すべきであると述べている.. 評判リスクが考えられる10).たとえば自動車や. 日本国内 で は,2009 年 1 月 に 日本公認会計. 家電製品は,CO2 排出量の少ない商品が消費者. 士協会(JICPA)が「投資家向け制度開示書類. に選好される傾向にあり,それに適応できない. における気候変動情報の開示に関する提言」 (以. 企業は市場における競争上の地位に与える影響. 下 JICPA[2009] )を 発 表 し て い る.JICPA. が懸念されることから,それに適応するための. [2009]では,企業は気候変動に関連して重要. コストやその他様々な物理的な被害のコストが. な財務的影響を受ける可能性があるとの認識を. 大きくなることも予想される11).そのことを金. 示している. そして気候変動情報開示の目的は,. 融機関が認識し,投資や融資を行っている企業,. 投資家の意思決定に有用な情報を提供すること. あるいは新規にそれを行おうとする企業の気候. として,開示項目と内容について表 1 のように 示している. そこで問題は,企業が気候変動に適応する取 り組みを行うことと,売上の増加等の経済効果 . 7)CDSB[2010],pp. 4─6. 8)Ibid., pp. 19─26.. . 9) (株)東京証券取引所 URL 参照〈http://www. tse.or.jp/rules/td/outline.html〉 参照日 2011 年 8 月 5 日. 10)表 1 で示されている気候変動リスクは,人 為起源の CO2 排出により引き起こされると解釈で き,本稿では以下カーボン・リスクで統一する. 11)日本公認会計士協会[2009]p. 6..
(4) 68. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). (508). 表 1 JICPA[2009]の開示項目と内容の提言 開示項目. 内 容. 気候変動リスク情報 規制等リスク. 温室効果ガス排出抑制を目的とする規制等による影響. 物的リスク. 地球温暖化と気候変動によってもたらされる物理的影響. 市場・評判リスク. 気候変動に関わる消費者ニーズの変化などが,市場における競争上 の地位に与える影響. 温室効果ガス排出の状況 温室効果ガス実際排出量. 企業が所有する設備等の利用に起因して,直接又は間接的に排出さ れる温室効果ガスの量. セグメント情報. 事業セグメント及び地域セグメント別の温室効果ガス排出量情報. 排出規制値等. 設定された排出枠や規制量,一定の拘束力を持つ目標量等の排出規 制値等に関わる情報. 排出量実績の分析. 温室効果ガス排出量の変動要因についての分析. 気候変動対策の状況 気候変動対策の方針. 気候変動問題とそれによる経営への影響に対処するための方針. ガバナンス. 気候変動リスクへの組織的対応の状況. 重要な課題への対応. 企業の事業特性から特に重要と考えられる課題にどのように対処し ているかについての情報. 気候変動に関わる投資の状況. 低炭素型製品の研究開発投資や温室効果ガス削減を目的とした設備 投資及び事業投資の状況. (出所:JICPA[2009]p. 4.). 変動に関する取り組みを考慮し,財務アドバイ. CSR 金融機関)は,地域銀行 や 保険会社 の 割. スやコンサルティングを施すことができれば,. 合 が 大 き く,証券会社,投信・投資顧問業者,. 顧客企業側には経済効果が期待できるのではな. 金融先物取引業者 は 5 割未満 と い う 結果 と. いかと考えられる.そのため金融機関の気候変. なって い る.ま た,CSR 専門担当組織・機関. 動への対応について次節で考察する.. を設けている金融機関は全体で約 14% となっ. 3.金融機関における気候変動への対応 日本の金融庁が 2006 年 1 月 31 日から 3 月 3. ている.CSR を重視した取り組みを行う主な 理由を一つ挙げると何になるかについては, CSR 金融機関のうち約 6 割が「地域との共存. 日に実施した調査(以下金融庁[2006] )によ ると12),回答金融機関のうち,企業の社会的責 任(以下 CSR)を 重視 し た 何 ら か の 具体的取 り組みを行っていると回答した金融機関(以下 . 12)調査目的:金融機関が行っている CSR を重 視した具体的取組みについての現状把握 対象機関:各協会加盟 の 預金取扱金融機関,保 険会社,証券会社等及 び 貸金業者(各協会経由 で 調査) アンケート実施機関:1,234 機関,回答金融機関 1,217 機関(回答率約 99%). . 対象協会名 • 預金取扱金融機関:全国銀行協会,社団法 人信託協会,国際銀行協会,社団法人全国 地 方銀行協会,社団法人第二地方銀行協 会,社団法人全国信用金庫協会,社団法 人全国信用組合中央協会,社団法人全国 労働金庫協会 • 保険会社:社団法人生命保険協会,社団法 人日本損害保険協会,外国損害保険協会 • 証券会社等:日本証券業協会,社団法人投 資信託協会,社団法人日本証券投資顧問業 協会,社団法人金融先物取引業協会.
(5) 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤). (509). 69. 共栄」を挙げている.情報開示の方法としては,. 能エネルギーと他のクリーン・エネルギー・プ. 最も多くの金融機関がディスクロージャー誌を. ロジェクトへの投融資を行っているなど,既に. 利用しており,次いで自社ホームページを利用. 気候変動に関する取り組みがかなり進んでいる. して情報開示を行っている.. という根拠をいくつか示している16).. 預金取扱金融機関(銀行)の中でも大手金融. このランキングのトップには英国の大手金. グループなど主要行は,気候変動に関する取り. 融 グ ループ で あ る HSBC Holdings plc(以 下. 組みをあげている13).主要行では,地球温暖化. HSBC)が選ばれている.HSBC 以下には,ABN. 防止として,CO2 排出量の削減と省エネルギー. AMRO Bank N.V., Barclays PLC, HBOS PLC,. を取り上げており,企業の環境配慮活動の支. Deutsche Bank AG, Citigroup Inc. と, 欧 米. 援・促進としては,環境ビジネス推進にかかる. の金融機関が続いている.Ceres[2008]では,. 行内横断的 な 協議 の 場 を 設置 し,環境金融商. 国際的 な 大手金融機関 は,こ れ ま で GHG 排出. 品・サービスの開発に取り組んでいると報告し. を伴う産業に巨額の投融資を行ってきたことか. ている14).この調査をみる限りでは,日本の金. ら,世界経済が GHG 排出量を一層削減するた. 融機関の気候変動に関する取り組みが,欧米の. めに必要な投融資を後押しする重要なプレー. 主要な国際的金融機関と比較して進んだ取り組. ヤーとなりうると指摘している.日本の金融機. みを行っているのかどうかわからない. そこで,. 関に関しては,三菱 UFJ フィナンシャル・グ. 次に欧米の主要な国際的金融機関の動向をみて. ループ が 22 位,三井住友 フィナ ン シャル・グ. みる.. ループが 24 位,みずほフィナンシャル・グルー. 欧米の主要な国際的な金融機関の気候変動に. プが 30 位となっている.. 関する取り組みに関する調査は,Ceres(Coalition. Ceres[2008] は,RiskMetrics Group が 開. for Environmentally Responsible Economies)が. 発した,表 2 の「気候変動ガバナンス・チェッ. 行って お り,2008 年 に “Corporate Governance. クリスト」を用いて評価している17).HSBC に. and Climate Change:The Banking Sector ”. 関しては,表 2 の項目 1 と 14 において第 1 位. (以下 Ceres[2008] )を公表している15).Ceres. の 評価 を 与 え て い る.項目 1 に つ い て HSBC. [2008]で は,欧米 の 大手金融機関 は,再生可. は,環境及 び 気候変動 に 関 す る 監視 を 企業責. . 13)みずほ銀行,みずほコーポレート銀行,み ずほ信託銀行,三菱東京 UFJ 銀行,三菱 UFJ 信託 銀行,三井住友銀行,り そ な 銀行,中央三井信託 銀行,住友信託銀行,新生銀行及びあおぞら銀行(金 融庁 URL 参照〈http://www.fsa.go.jp/index.html〉 参照日 2011 年 8 月 5 日). 14)みずほ銀行,みずほコーポレート銀行,み ず ほ 信託銀行,三菱東京UFJ銀行,三菱UFJ 信託銀行,三井住友銀行,り そ な 銀行,中央三井 信託銀行,住友信託銀行,新生銀行及 び あ お ぞ ら 銀 行(金 融 庁 URL 参 照〈http://www.fsa.go.jp/ index.html〉). 15)こ の レ ポート は,グ ローバ ル 金融機関 40 行がそれぞれのガバナンス戦略をとおして,どの ように気候変動という難問に取り組んでいるか, 公共政策への貢献,カーボン・アカウンティング, 戦略的計画,直接的なアクションなど広範囲にわ たり調査及び評価したものである.. 任委員会に割り当て,グループ会長が気候変動 . 16) 以 下 の 項 目 が そ の 根 拠 で あ る(Ceres [2008]p. i) ;気候変動についてのリサーチレポー トを発行しており,それは投資と規制に対する戦 略に関係していること.また,NPO 法人 Carbon Disclosure Project によって実行される気候変動情 報開示年次調査に応じた 34 行のうち,24 行は数種 類の GHG 縮小目標を内部の活動に設定しており, 29 行は代替エネルギー・プロジェクトのために財 政支援を発表,8 行は再生可能エネルギーと他のク リーン・エネルギー・プロジェクトへの 120 億ド ル以上の直接の資金調達や投資を提供したこと. 17)RiskMetrics Group は,2010 年 6 月 MSCI に より買収されている.MSCI は,RiskMetrics のブ ランドを用いて,世界中で金融機関及び企業のため に広範なリスク分析を行っている(MSCI URL 参照 〈http://www.msci.com/〉参照日 2011 年 8 月 5 日..
(6) 70. (510). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). 表 2 気候変動ガバナンス・チェックリスト 取締役の監視 1. 点数. 取締役会は積極的に気候変動ポリシーに関与しており,役員,役員委員会,または取締役会に 監視責任を割り当てている.. 最高 16 点. 経営者の執行 2. 会長/CEO は気候変動方針の明確化や執行においてリーダーシップの役目を引き受けている.. 3. 最高経営層および/または経営委員会は,気候変動対応戦略を管理するよう命じられている.. 4. 気候変動イニシアチブは,リスクマネジメントおよび主要な事業活動に統合されている.. 5. 役員報酬は,環境目標及び GHG 削減目標の達成と連結している.. 最高 22 点. 情報公開 6. 有価証券報告書では,気候変動により引き起こされる重要なリスクとチャンスの情報を開示し ている.. 7. 広報活動における気候変動対策の具体的方策についての説明は包括的で透明性がある.. 最高 18 点. 排出量会計 8. 企業は事業で生じた GHG の排出量とオフセット量を計算・記録している.. 9. GHG 排出量明細を毎年作成し,その結果を一般公開している.. 10. 将来の GHG 排出量の傾向を測定するためのベースライン排出量がある.. 11. 第三者による GHG 排出量データの検証をおこなっている.. 最高 14 点. 戦略計画 12. 設備,エネルギー使用,出張等(間接的な排出も含む)について,GHG 排出量削減の絶対的目 標を設定している.. 13. GHG 排出量取引制度に参加している.. 14. GHG 排出量の削減,規制リスク・物量リスクにさらされている額の最小化,および変化する市 場の実勢相場や新しい規制によって生じるチャンスの最大化を目指すビジネス戦略を追求して いる.. 最高 30 点. (出所:Ceres[2008]p. 6.). 問題に対する最終的な責任を持つこと,カーボ. ルギー・プロジェクトや炭素市場の開発を容易. ン・ニュートラルと炭素市場におけるニュービ. にする保険商品を開発していることをあげてい. ジネス拡大など気候変動政策決定に,グループ. る18).. 経営委員会も関与していること,そして取締. 2008 年 に 起 き た 金融危機 を 経 て,HSBC. 役会は社会・倫理・環境リスクを評価し,CSR. のその後の取り組みはどうなっているのか,. に関するトレーニングを受けていることを理由. HSBC[2010a]及びウェブサイトを参照しみ. としてあげている.. てみる.. 次に項目 14 に関しては,いろいろな気候変. HSBC[2010a]の中で報告されている気候. 動に関連する第三者イニシアティブに参加し,. 変動に関する取り組みは,気候変動ビジネスと. ニューズウィーク等から高い評価を得ているこ. カーボン・ニュートラルに大別することができ. と,再生可能エネルギー技術及び水とゴミ削減. る.気候変動ビジネスとは,低炭素経済への移. プログラムに資金を拠出し,サポートしている. 行において成功する商品やサービスと定義して. こと,さまざまな気候変動関連の投資商品を提. いる.具体的には,バイオエネルギー,原子力,. 供していること,顧客が気候変動により被る物 理的被災水準の評価・管理を支援するリスク・ コンサルティング事業を開発し,再生可能エネ. . 18)Ceres[2008] , p. 10..
(7) 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤). (511). 71. 太陽光,風力といった低炭素エネルギー・プロ. と,原則 1~10 に従い投資評価が行われ最終判. ダクツのビジネス・シェアの増加, 輸送や建物,. 断がなされる.中でも原則 1 が重要で,環境及. 産業,エネルギー貯蔵などのエネルギー効率の. び社会性をレビューし,デューデリジェンスを. 改良,農業やインフラ,水に関する気候変動の. 実施し,国際金融公社(IFC)の環境及び社会. インパクトへの適応,環境市場,デットやエク. 性スクリーニング基準に従ってプロジェクトを. イティ投資そして保険など,気候変動ファイナ. 次のようなカテゴリーに分けている22):. ンスの提供を考えている19).HSBC は再生可能 エネルギーや低炭素技術の開発分野に新たな収. カテゴリー A:プ ロジェクトが社会や環境に及ぼ. 益機会を生む可能性を見出しており,GHG 排. す 可能性 の あ る 悪影響 が 重大 で,. 出を削減する産業への投融資へと転換している. 多様,不可逆または予測不能であ. ことを示している.そして低炭素エネルギーに 関する市場規模は 2020 年には今の 3 倍ほどに. る. カテゴリー B:プ ロジェクトが社会や環境に及ぼ. なると試算している20).. す可能性のある悪影響が限定的で,. HSBC は気候変動ビジネスを推進するに当た. 種類が少なく,一般的にそのサイ. り,国連グローバル・コンパクトに署名して. ト に 固有 の も の で,緩和措置 で 直. お り,“HSBC Equator Principles Application. ちに対処でき,ほぼ原状を回復で. and Reporting Guidance 2010”(以 下 HSBC. きる.. [2010b] )を 発行 し て い る.HSBC[2010b]で. カテゴリー C:プ ロジェクトが社会または環境に. は,人権,労働,環境,腐敗防止 に 関 す る 10. 及 ぼ す 影響 は 最小限 か,まった く. の原則を支持し,責任ある投資に関する国連原. ない.. 則および赤道原則を遵守していることを説明し ている21).融資の際の企業の環境・社会性に関. カテゴリー A と B については,原則 2 以下. する評価方法に関しては,守秘義務に抵触する. でプロジェクトが OECD 加盟国か否かに分け,. 恐れがあるとして詳細を公表してはいないが,. 国際金融公社が公表しているグッドプラクティ. HSBC[2010b]では,プロジェクト・ファイナ. ス基準および現地の法律を満たしているかどう. ンス・ローンの際の環境・社会性の評価方法の. かを確認し,プロジェクトの資金需要者から提. 概要を開示している.プロジェクト・ファイナ. 出される社会・環境評価レポートやアクション. ンス・ローンの際は,“Instruction Manual for. プランの詳細な分析を行うことで,融資適格か. Credit” というマニュアルに従い,通常の信用. 否か最終判断を行うことになる.. リスクなど取引上のリスク分析に加え,環境・. 次にカーボン・ニュートラルに関してである. 社会 リ ス ク を 評価 し て い る.プ ロ ジェク ト・. が,HSBC 自らの取り組みとして,2005 年以. ファイナンス・ローンのプロポーズがなされる. 来 カーボ ン・ニュート ラ ル を 達成 し,2010 年. . 19)HSBC[2010a]p. 11. 20)Ibid., HSBC[2010a] で は,2010 年 か ら 2020 年の間に US$10trillion の投資の需要があると 考えている. 21)HSBC[2010b] , p. 2. 赤道原則とは,プロジェ クトファイナンスにおける社会・環境リスクを判 断,評価,管理するための金融業界基準 EQUATOR PRINCIPLES URL〈http://www.equator-principles. com/〉参照日 2011 年 8 月 5 日.. “HSBC Carbon Neutrality Reporting Guidance 2010” を発行している(以下 HSBC[2010c]). HSBC は,グ ループ 全体 で エ ネ ル ギー消費量 を測定して削減を図り,再生可能エネルギー を 調達 し,残 り の 排出量 に つ い て は,第三者 機関 が 定 め る 基準 を 満 た す 自主認証排出削減 . 22)Ibid., HSBC[2010] , p. 2..
(8) 72. (512). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). 量(Verified Emissions Reduction :VER)を,. 準(Ver. 1.0)」 (以下環境省[2011b])を発行し,. 年間を通じ随時購入してオフセットし,カーボ. 普及を促している.環境省[2011b]ではカー. 23). ン・ニュートラルにしていると述べている .. ボン・ニュートラルを以下のように定義してい. カーボ ン・ニュート ラ ル の 維持 の 目的 は,グ. る26).. リーン電力や排出権の購入によって,低炭素技 術の世界的な供給と投資の促進に貢献すること. 「カーボ ン・ニュート ラ ル」と は,市 民,企 業, . であるという.カーボン・ニュートラルに関係. NPO/NGO,自治体,政府等 の 社会 の 構成員 が,. する会計情報は,HSBC[2010a]では物量を報. 自らの責任と定めることが一般に合理的と認めら. 告し, 「サステナビリティ会計」としてコスト. れる範囲の温室効果ガス排出量を認識し,主体的. 24). やベネフィットを報告している .それによる. にこれを削減する努力を行うとともに,削減が困. と,2010 年 は CO2 を 897,000 ㌧排出 し,同量. 難な部分の排出量について,他の場所で実現した. の排出権を購入しカーボン・ニュートラルにし. 温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入するこ. 25). ている .. と又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロ. カーボ ン・ニュート ラ ル は,単 な る カーボ. ジェクトや活動を実施すること等により,その排. ン・オフセットではなく,CO2 の排出を実質ゼ. 出量の全部を埋め合わせた状態をいう.. ロにするというものである.その点に着目す れ ば,カーボ ン・ニュート ラ ル の 概念 を 企業. このカーボン・ニュートラルの概念を,企業. 評価に利用できるのではないかと考えられる.. のリスク・マネジメントに利用し,投資適格と. カーボン・ニュートラルは,我が国でも環境省. 判断される企業に対してはカーボン・ファイナ. によりカーボン・オフセットの取り組みを更. ンスを実施し,投資不適格と判断される企業に. に深化させたものとして最近注目されており,. 対しては気候適応商品を用いたコンサルティン. 2011 年 9 月「カーボ ン・ニュート ラ ル 認証基. グをするというように,いくつかの戦略を組み. . 23)HSBC[2010c]. 24)HSBC[2010d],p. 19. サ ス テ ナ ビ リ ティ会 計(Accounting for Sustainability) は, 英 国 の チャールズ皇太子のもとで開始されたプロジェク ト(The Princeʼs Accounting for Sustainability Project〈http://www.accountingforsustainability. org/home/〉)により提唱されているものである. HSBC では,公的部門と民間部門の組織がそれぞ れの活動にかかる社会的・環境的コストを,より 広範囲に評価するためのシステム開発を目指し, 組織の環境負荷と財務への影響を簡潔に報告する ための新たなアプローチとして,「連結報告フレー ムワーク」を提案しサステナビリティ会計として 開示しており,開示情報は,GHG 排出量,廃棄物, 資源使用,エネルギー使用量となっている(HSBC [2007],p. 21─22). 25)HSBC[2007]に掲載されているサステナ ビリティ会計には,オフセット費用が 1,140 万米ド ルであることが示されているが,それ以降のサス テナビリティ会計にはその項目が示されていない. オフセットの際購入した排出権は売却しないとい うことである.. 合 わ せ る こ と で,顧客企業 の カーボ ン・リ ス ク・マネジメントを支援することができるので はないかと考えられる.ただその場合,1 年か ら 5 年 の 中短期 の 事業計画 と 共 に CO2 排出量 も合わせて予測し,カーボン・ニュートラルを 維持すべきであると考えられる.このような戦 略を以下,カーボン・ニュートラル戦略と呼ぶ こととする.具体的にどのように行うのか,次 節で説明する. 4.カーボン・ニュートラル戦略の基礎的理論 企業のリスク・マネジメントは,伝統的に行 . 26)環境省[2011b]p. 3.我 が 国 で カーボ ン・ ニュートラルを実行するには,カーボン・ニュー トラル報告書を作成し,検証を受検し,検証機関 により発行された検証報告書を添えて,認証主体 にカーボン・ニュートラル認証の申請を行うこと になる(同,p. 5) ..
(9) 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤). (513). 73. われている金融の手法を用いる27).ポートフォ. ルにすると,ペイオフが期日まで完全にフィッ. リオ理論によるリスク分散の考え方や28),先物. クスされるため,フィックスされた利益以上の. やオプション評価理論を用いたヘッジやイン. ものは望めない.逆にオプションは,期日まで. シュアリング(保険)といった金融のリスク・. 完全にデルタ・ニュートラルにすることは難し. 29). マネジメントは ,企業のリスク・マネジメン. いのであるが,利益を得る機会は残ることにな. トにも応用される代表的な手法である.金融機. る.よって用いる手法がフォワードや先物型な. 関は元来これらの手法を利用して金融商品の開. のか,オプション型なのかにより,企業のリス. 発を行っていることから,気候変動を考慮した. ク・マネジメントは異なるのである.. 事業会社やプロジェクトに対する投資や融資を. 企業のリスク・マネジメントは,統計的損失. する際の企業評価モデルを開発することは可能. 予測に基づき,コストとベネフィットの観点か. であると考えられる.. ら,予防や保有,ロス・ファイナンシング(保. デリバティブ取引で行う最も一般的なリス. 険,ヘッジ),回避などの意思決定を行うこと. ク・ニュートラル戦略は,市場を通してデルタ. になる.一般的なリスク・マネジメントのガイ. と呼ばれるリスクをヘッジ(リスク移転)し,. ドラインは表 3 のとおりである.. ペイオフを固定(フィックス)するものであり,. カーボン・リスク・マネジメントは,カーボ. 30). デルタ・ニュートラル戦略と呼ばれている .. ン・リスクの影響を最小化し,さらにビジネス. 利用するデリバティブには,原資産の値動きに. チャンスに結びつける経営戦略を行うことにな. 対してデルタが 1 であるフォワードや先物,権. るのであるが32),カーボン・リスクに対するリ. 利行使価格によりデルタが異なるオプション. スク・マネジメントは,表 3 のどれもが当ては. がある31).フォワードや先物を用いれば,ヘッ. まると考えられる33).我が国上場企業が行って. ジをかけることでペイオフがフィックスでき. いる地球温暖化対策の大半は,表 3 における予. るが,オプションはペイオフを完全にフィック. 防や保有であるので,本稿では,ロス・ファイ. スすることはできないため,状況に応じこまめ. ナンシングを応用したカーボン・ニュートラル. にデルタ・ヘッジを行うことになる.ただ,先. 戦略の方法を検討する.. 物やフォワードを利用してデルタ・ニュートラ. 以下では期日を T,原資産を S,権利行使す る価格または量を K と表す.CO2 排出量につ. . 27)Banks[2004]p. 3. 28)Markowitz[1952]. 29)Black and Scholes[1973]. 30)デルタ(Δ)とは,原資産の変化に対する オプションの変化の割合のこと. '. fu fd Su Sd. 31)日経 225 オプション取引では,アット・ザ・ マネーのオプションのデルタは 0.5 前後であり,イ ン・ザ・マネーになるにしたがいデルタは 1 に近 づく.イン・ザ・マネーのオプションはデルタが 1 にはならないため,ペイオフを完全に確定できる わけではない.また,イン・ザ・マネーになるに 従い流動性が低くなることもあり,デルタが 1 の 先物を用いることになるため,株式のオプション 取引ではイン・ザ・マネーのオプションをデルタ・ ヘッジに利用することはほとんどない.. いてのみ考えるのであれば,企業の CO2 排出 量が S,規制による基準年の排出量に削減率を 乗 じ た も の が K と な る.CO2 排出削減不遵守 . 32)たとえば東芝を例にあげると, 「自社の現 状把握 や 法規制動向,中長期的 な 目標 の 設定,対 策実施状況などの PDCA サイクルを管理・遂行し, 世界的な気候変動問題への関心の高まり,規制強 化,各ステークホルダーからの要求に応えていく こと」をあげている.東芝(株)URL 参照〈http:// www.toshiba.co.jp/env/jp/industry/carbon_risk_j. htm〉参照日 2011 年 8 月 5 日. 33)重大度は原文では Severity となっている. 病気の重症度を示す単語であることから,企業に 当てはめれば,財務的影響度合いの大きさのこと と解釈できる..
(10) 74. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). (514). 表 3 一般的なリスク・マネジメントのガイドライン 頻度. 重大度. ガイドライン. 低. 低. 保有. 低. 高. ロス・ファイナンシング(保険,ヘッジ). 高. 低. 予防,保有. 高. 高. 回避. (出所:Banks[2004],p. 11, Table 1.1.). の場合,削減できなかった量を買取らねばなら. 題となる.企業のカーボン・リスクの移転先は,. ないと仮定する.K と同じか,またはそれ以下. 現状では京都メカニズムにより,発展途上国で. であれば不遵守の買取りは生じないので,T 時. の CO2 排出量削減により取得される排出権で. 点におけるペイオフは,MAX(ST-K,0)となる.. 賄われる.しかしそれは京都議定書で定められ. 金融の場合と同様,買建てポジションをロン. た 2012 年までのことである.そのため我が国. グ(以下 デ ル タ(Δ) ) ,売建 て ポ ジ ション を. は,国内排出量取引を検討している.以下では,. ショート(以下デルタ(▲) )と表現する.デ. その国内排出量取引制度を概観し,企業のカー. ルタ(Δ)の場合はプレミアムを支払うこと. ボン・ニュートラル戦略に,売上高当たり CO2. で将来原資産を取得する権利を手に入れること. 排出原単位の利用を考え,企業の中短期地球温. ができ,T 時点に原資産が権利行使価格と購入. 暖化対策に伴う経済効果の分析を試みる.. 時に支払ったプレミアムを上回っていれば,そ の差額は利益となり,損失はプレミアムに限定 される.一方デルタ(▲)の場合は,前もって. 5.企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効 果の分析. プレミアムを受け取ることができるが,もし T. 我 が 国 で は,環境省 が 平成 17 年 よ り 国内. 時点における原資産が権利行使価格より高けれ. 排出量取引制度 の 実施 を 検討 し て お り,こ れ. ば,差額を支払う義務を負うことになり,その. ま で の と こ ろ 自主参加型国内排出量取引制度. 損失に上限はない.よって,T 時点において支. JVETS(平 成 17 年 3 月~, 現 在 第 3 期~第 6. 払が生じる場合,保有ポジションはデルタ (▲). 期の運用中),排出量取引の国内統合市場の試. ということになり,損失がプレミアムに限定さ. 行的実施(平成 20 年 10 月~)オフセット・ク. れている場合,保有ポジションはデルタ(Δ). レジット J-VER 制度(平成 20 年 11 月~)な. ということになる.. どを進めている.また法整備として,地球温暖. 将来 の CO2 排出量 ま で 予測 し,カーボ ン・. 化対策基本法案(平成 22 年 2 月 12 日・10 月 7. ニュートラル戦略を実行するためには,将来予. 日閣議決定),中央環境審議会地球環境部会国. 測されるカーボン・リスクを可視化する必要が. 内排出量取引制度小委員会(平成 22 年 3 月~) ,. ある.可視化されたカーボン・リスクは,排出. 地球温暖化対策 の 主要 2 施策 に つ い て(平成. 権でヘッジすることになるので,ヘッジ前の可. 22 年 12 月 28 日地球温暖化問題 に 関 す る 閣僚. 視化したカーボン・リスクを本稿では仮想排出. 委員会)などの準備が進んでいる.. 権と名付ける.仮想排出権も,デルタ(Δ)の. 環境省[2011]によると,中期目標期間(2013. 場合とデルタ(▲)の場合を想定する.. ~20 年度 の 8 年間)を 念頭 に,最初 の 対象期. 仮想排出権がデルタ(▲)の場合(以下仮想. 間を 3 年間,以後は 5 年間毎とする方向で検討. 排出権(▲) ) ,期日において支払い義務が生じ,. しており,対象者は大規模排出事業所(裾切り. しかもリスクが限定されていないため,特に問. 値は 1 万㌧以上の値を検討)を保有する法人と.
(11) 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤). (515). 75. なっている.検討している方式はキャップ・ア. し,対象事業所は前年度の燃料,熱,電気の使. ンド・トレードである34).ただし,電力会社に. 用量が,原油換算で 1,500 ㎘ 以上の事業所(建. は発電量当たりの排出量を規制する「原単位方. 物,施設単位)である39).そして方式はキャッ. 式」を認め,省エネ家電やエコカーなどで家庭. プ・アンド・トレードである40).第 1 計画期間. 部門の排出削減に貢献している企業には排出枠. の削減義務率は,表 4 のとおり 3 つの区分ごと. を上乗せするという,緩やかな方式を認めると. に設定されている.総量削減義務の対象となる. い う 案 も あ る35).よって,発電 に 伴 う CO2 排. のは,燃料,熱,電気の使用に伴い排出される. 出をどう扱うかという部分に関しては,電力会. CO2 である41).. 社の排出として捉えるのか(直接排出) ,それ. 以上のように,環境省や経済産業省,そして. ともその電力を使う事業者の排出として捉える. 東京都の CO2 排出規制はいずれも総量規制が. か(間接排出) ,大きく意見が分かれている36).. 基本となっている.だが企業評価の場合は,投. 今のところ排出枠の設定方式には, 「電力間接. 資家 の 関心 が 将来 キャッシュフ ローへ の 影響. +総量方式(無償割当)+電力原単位規制」を. であるため,それを中心に分析することにな. 基本に検討している.. る.つまり,企業評価という観点から考えれば,. 国内排出量制度 に 関 し て は,経済産業省 で. 企業業績が落ち込んでいるため CO2 排出量が. も検討しており,環境省との調整が難航して. 減っているのか,それとも地球温暖化対策によ. いるため実施が遅れている37).それに先立ち. り CO2 排出量が減っているのかを見極めよう. 東京都 で は 2008(平成 20)年 7 月,環境確保. と 考 え る で あ ろ う.し た がって,原資産(S). 条例を改正し, 「温室効果ガス排出総量削減義 務 と 排出量取引制度」を 導入 し,削減義務 は 既に 2010 年 4 月から開始されている38).ただ . 34)キャップ・アンド・トレード方式による国 内排出量取引制度 と は,大口排出源 の GHG 排出量 に排出枠(キャップ)を設定し,排出総量の削減を 確保するための制度であり,柔軟な義務履行を可能 とする観点から排出枠の取引(トレード)等を認め るものである. 35)原単位方式とは,生産量当たりの CO2 排出 量(原単位)の限度のみを設定し,排出枠(総量) を設定しないというもの(環境省[2011]p. 11). 36)排出枠の設定方法には,ベンチマーク方式 (無償割当),グランドファザリング方式(無償割 当),オークション方式(有償割当)がある.ベン チマーク方式とは,製品・工程に係る望ましい排 出原単位(生産量当たりの CO2 排出量)をベンチ マークとして設定し,これに生産量を乗じて排出 枠を設定するというもの(排出枠=活動水準(生 産量等)×ベンチマーク).グランドファザリング 方式とは,過去の排出実績に応じて排出枠を設定 するというもの(排出枠=過去の排出実績×(1 - 削減率)).オーク ション 方式 と は,排出枠 を 競売 によって配分するというもの. 37)『日本経済新聞』2010 年 11 月 16 日,朝刊. 38)東 京 都 URL 参 照〈http://www.kankyo.. . metro.tokyo.jp/climate/large_scale/cap_and_trade/ index.html〉参照日:2011 年 8 月 28 日. 39)基準排出量 は,原則 2002 年度 か ら 2007 年 度までの間のいずれか連続する 3 か年度を対象に 決定するのであるが,どの 3 か年度とするかは, 事業者側で選択可能である.ただし,その年度の 排出量について,登録検証機関の検証が必要とな る.対象事業所 は,自 ら の 削減対策 に 加 え,大規 模事業所間の取引だけでなく,都内中小クレジッ ト,再エネクレジット,都外クレジットを活用す る排出量取引での削減量の調達も認められている. 40)キャップ・アンド・トレード方式による国 内排出量取引制度とは,大口排出源の GHG 排出量 に 排出枠(キャップ)を 設定 し,排出総量 の 削減 を確保するための制度であり,柔軟な義務履行を 可能とする観点から排出枠の取引(トレード)等 を認めるものである.これにより炭素に価格がつ き,事業者にとって排出削減努力への経済的イン センティブにもつながる. 41)東京都環境局[2011] . 供給業者 の 別 は 関 係なく一律.住居の用に供する部分で使用された ものを除く.対象事業所のエネルギー使用量削減 努力を評価するため,熱,電気の CO2 排出係数は 一律 で,計画期間中固定電気 の CO2 排出係数 は, 0.382(㌧/千 kWh)と なって い る(都内 へ の 電気 供給事業者の 3 か年度(平成 17~19 年度)の平均 CO2 排出係数(全電源) ) ..
(12) 76. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). (516). 表 4 東京都の CO2 削減義務率 区 分. 削減義務率. Ⅰ- 1. オフィスビル等(※ 1)と地域冷暖房施設(区分Ⅰ−2 に該当するものを除く). 8%. Ⅰ- 2. オフィスビル等(※ 1)のうち,地域冷暖房を多く利用している(※ 2)事業所. 6%. 区分 I − 1,I − 2 以外の事業所(工場等(※ 3)). 6%. Ⅱ. ※ 1 オフィスビル,官公庁庁舎,商業施設,宿泊施設,教育施設,医療施設等 ※ 2 事業所の全エネルギー使用量に占める地域冷暖房から供給されるエネルギーの割合が 20% 以上 ※ 3 区分 I−1,区分 I−2 以外の事業所(工場,上下水施設,廃棄物処理施設等) (出所:東京都環境局 URL〈http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/〉参照日 2011 年 8 月 5 日.). は売上高となり,これに対する CO2 排出量が. 量の比率を示している.もし売上高と CO2 排. 及ぼす影響を考えることになる.そのため企業. 出量の間に正の相関があるとすれば,売上高. からは,原単位方式をベースとした環境効率性. が up すると CO2 排出量も up し,逆に売上高. 指標(Eco-efficiency Indicator)が示されるこ. が down す る と CO2 排出量 も down す る こ と. とが望ましい.. になる.そのため,CO2 排出量の規制により削. 原単位方式をベースとした環境効率性指標に. 減義務が課せられたと仮定すると,仮想排出権. はさまざまなものがあるが,売上高と CO2 排. (▲)となり,分子の CO2 排出量が増加するた. 出量の関係を表したものに「売上高当たり CO2. め,数式 1 の値は悪化することになる.それを. 排出原単位」があり,以下の算式でそれは求め. 改善するには,売上高を縮小するか,排出量を. られる(単位:㌧/億円)42).. 削減するかのどちらかになる.たとえば排出権 を購入して仮想排出権(▲)をヘッジすること. 売上高当たり CO2 排出原単位 = CO2 排出量/売上高(数式 1) . は,中短期の売上高を縮小せずに,数式 1 の値 を改善する効果があると考えられる. 不確実性が非常に高い気候変動という要素を. CO2 排出量は,再生可能エネルギーによる発. 事業やプロジェクトに考慮する場合,意思決定. 電,再生可能エネルギーにより発電された電力. に柔軟性を要することから,リアルオプション. の購入などによる削減分を控除することにな. を考慮することが妥当であると考えられる43).. る.そのため,売上高当たり CO2 排出原単位は,. そのため本稿では,事業計画の作成に当たり,. 将来 CO2 削減効率の良いシステムを導入する. リアルオプション法を採用することからリスク. などして CO2 削減効果が出れば,その都度改. 中立を仮定する.リアルオプション法の計算に. 善されることになる.しかし,排出量が 0 とな. は Mun[2003]の例を用いる44).Mun[2003]. るような,画期的な排出量削減技術の開発には まだ時間がかかるのではないかと考えられ,自 助努力では数式 1 を改善することは難しいであ ろう. 数式 1 は,企業 の 売上高 に 対 す る CO2 排出 . 42)環境省[2002]参照.本稿では,t は時間を 表すのに使用しているため,CO2 の単位は,㌧で 統一している.. . 43)環境会計におけるリアルオプション法の適 用の妥当性の詳細については加藤[2007]を参照 されたい. 44) リ ア ル オ プ ション 法 に 関 す る 文献 は, Trigeorgis[1996]や Copeland and Antikarov[2001] 等があるが,Mun[2003] ,小林啓孝[2003]は,具 体的な数値例を用いてリアルオプションの具体的 な 計算方法 を 示 し て い る.本稿 で は Mun[2003] の拡張オプションの計算例を用いる..
(13) u. 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤). (517). 77. は拡張オプションの計算例として,ある大手. を 選択 す る.そ し て 経済効果推定 は,A の 現. の製造業者が,DCF モデルによる将来の収益. 在価値 100 億円 と,拡張考慮後 の D の 117.55. 性の静的な評価が 100 億円であるという事業を. 億円を比較した差額 17.55 億円となる46).. 行っている企業を想定し,5 年間の任意の時点. 次に CO2 の排出量規制を想定してみる.追. において,現在の製造活動を 16 億円の費用で,. 加する仮定は以下のとおりである.. 30% 拡張するという拡張オプションの例をあ. • 5 年間の任意の時点で CO2 排出量規制が起こる.. げている(リスク・フリーレートは 5%,ボラ. • CO2 の削減義務は▲ 0.08 である.. ティリ ティは 15% で あ る と 仮定) .こ の Mun. •前期の CO2 排出量合計は 1,000 ㌧である.. [2003]の拡張オプションの例をもとに,本稿. •金利,ボラティリティは売上高と同じである.. では 原資産(S)を売上高とし,事業拡張戦略. 表 6 で は,(1)A に お い て 売上高 の 予測 を. とカーボン・ニュートラル戦略について考察す. 行 い,(2)Á に お い て CO2 排出量 の 予測 を. 45). る .表 5 は,Mun[2003]で示されている単. 行っている.そして表 6(2)B́ において拡張. 純な拡張オプションの計算例を用いて,事業拡. し た 場合 の CO2 排出量 を 算出 し て い る.表 6. 張に伴う経済効果推定を計算している.. ⑵ B́ は,(A’ ×②拡張係数×(1+ ④削減義務. A は売上高の予測であり,A に拡張係数 1.3. 率 + ⑥排出権充当率))と計算している.それ. を乗じ,拡張コスト 16 億円を減じたものを B. を,売上高当 た り CO2 排出原単位 で あ る 10.8. に示している.たとえば 5 期目の 259.21 億円. ㌧/億円で除し,(拡張コスト+排出権価格)を. は,211.70 × 1.3-16 = 259.21 億円となる.こ. 差し引いたものが(表 6 ⑴ B)となっている.. の 数字 と,拡張前 の A の 売上高 211.7 億円 と. 売上高当 た り CO2 排出原単位 は,規制 に よ り. を比べ,大きい方を C の 5 期目に置く.C の 5. 生じる仮想排出権の影響(⑫ヘッジ調整後仮想. 期目 の 最上段 は,MAX(211.70, 259.21)より,. e d 排出権:⑤+⑦)を計算し,当初の売上高当た p rT. u 10(㌧/ d り rTCO2 排出原単位である 億円)に加減. 259.21 億円 が 選択 さ れ る.同様 に 下 ま で 計算. e d rT p eして調整している.表 u d d 6 では,CO2 排出量規制 p uを表 d す た め,売上高単位当 u eV Gt d た e VりGtCO2 排出原単 B の数字より,拡張前の A の方が大きいので,. する.5 期目の 5 段の 47.24 億円は,拡張した. 現状維持を選択している.そのようにして計算 u eV u eV Gt された 5 期目の数字をもとに,C で現在価値に 割引いていく.C の割引計算の方法は,上昇を fu,下落 を fd そ の 割引現在価値 を f と し,数式 2 のように求める.. (V0uΔ-fu)e f = V0 Δ-. -rT. (数式 2) . 4 期 目 の 最 上 段 は,( 0.63 × 259.21+( 1- 0.63) × 187.88 × e^ (-0.05 × 1) = 221.66 億円 となる.D は,すべての中から最も大きな数値 p. eV. Gt. Gt. d e V Gt V Gt. d46)単 e 純 な 拡 張 オ プ ション の 場 合,以 下 の c S N ( d ) Ke rT N ( d ) Black and Scholes[1973]の 公式0 を 用1 い て 算出 す 2 ることもできる. rT. c. c.
(14). S0 N ( d1 ) Ke N ( d 2 ) 2 S0 N ( d1 ) Ke rT N (dd 2 ) ln(S0 K r V 2 T 1.
(15). V T d1 V T. ln(S K r V 2 2 T d1 ln(S0 K0 r V 2 2 T d , 2 V T d1 V T d 2 d 1 V T d 以下となる確率 :標準正規分布で N(d) d 2 d1 V T.
(16). 経済効果の予測 = 30*0.9973 -16*e(- (5/100) *5)*0.9929 = 17.55 億円. e rT d d 1 =(ln(30/16) + ( (5/100) +0.5*( (15/100) ^2) ) *5) rT e rT d 45)表中のリスク中立確率(p)は, p e pd u d /((15/100)* ) ud = 2.7872 ud と計算されている.u は上昇(up),d はここでは (15/100) * =2.4518 d2 = 2.7872 - V Gt 下落(down)を表しており,それぞれ, eV Gt , V dGt Ne(d V Gtu 1)= 0.9973 u e d e d e V Gt と計算されている. N(d2)= 0.9929. c. d1. S0 N ( d1 ) Ke. rT. c. N (d 2 ).
(17). ln(S0 K r V 2 T V T 2. d1. c S0 N ( d1 ) Ke rT N ( d 2 ) S0 N ( d1 ) Ke rT N ( d 2 ). ln(S0 K r V 2 2
(18) T ln(Sd10 K r V 2 2 T V T V T d d V T.
(19).
(20) 78. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). (518). 表 5 事業拡張に伴う経済効果の推定 rf. 1.05 1.16 0.86 0.63. r u d p A 䠗 ୖ㧗ண 0 100.00. ᣑᙇಀᩘ ᣑᙇࢥࢫࢺ. 1 116.18 86.07. 1.3 16. 2 134.99 100.00 74.08. 0.05. 3 156.83 116.18 86.07 63.76. ൨. B 䠗 ୖ㧗ᣑᙇ䠄A×1.3䠉16䠅 0 1 2 114.00 135.04 159.48 95.89 114.00 80.31. C㸹ᘬ⌧ᅾ౯್ 0 1 117.55 137.94 98.82. D 䠗 MAX (A,B,C) 0 1 117.55 137.94 98.82. ⤒῭ຠᯝ᥎ᐃ㸻. 3 187.88 135.04 95.89 66.89. 2 161.71 116.23 82.61. 3 189.40 136.56 97.41 68.64. 2 161.71 116.23 82.61. 3 189.40 136.56 97.41 68.64. 17.55. ı. 0.15. t. 5. T. 5. įt. 1. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 182.21 211.70 134.99 156.83 100.00 116.18 74.08 86.07 54.88 63.76 47.24. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 220.88 259.21 159.48 187.88 114.00 135.04 80.31 95.89 55.35 66.89 45.41 㸦༢㸸൨㸧 4 5 221.66 259.21 160.26 187.88 114.78 135.04 81.09 95.89 56.76 66.89 47.24. ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 221.66 259.21 160.26 187.88 114.78 135.04 81.09 95.89 56.76 66.89 47.24. ൨. (出所:Mun[2003],pp. 181─185 を参考に筆者作成.). 位の(数式 1)に以下の修正を加える.. たとえば表 6(1)B の 5 期目の予想,218.44. 売上高当たり CO2 排出原単位. 億円は,(2)の CO2 排出量の予測を用いて以. =(CO2 排出量-ヘッジ調整後仮想. 下のように計算している.. 排出権) /売上高. (数式 3) .
(21) 1.05 1.16 0.86 0.63 0.15. t 5. T 5. įt. 0.73. 2 136.78 100.18 74.08. ൨. 3 159.63 116.49 86.07 63.76. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 186.56 218.44 135.49 157.68 100.00 116.18 74.08 86.07 54.88 63.76 47.24. ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ. 1.05 1.16 0.86 0.63. B' 䠗 䠄A’×䐠×䠄1+䐢+䐤䠅䠅 2007 2008 1,196.00 1,389.55 1,029.41. A' 䠗 ฟ㔞ண 2007 2008 1,000.00 1,161.83 860.71. r u d p. 2009 1,614.43 1,196.00 886.02. 2009 1,349.86 1,000.00 740.82. 0.05. 2010 1,875.70 1,389.55 1,029.41 762.60. 2010 1,568.31 1,161.83 860.71 637.63. rf 5. 0.15 įt. t 1. 5. 㸦༢㸸ৗ㸧 2011 2012 2,179.25 2,531.93 1,614.43 1,875.70 1,196.00 1,389.55 886.02 1,029.41 656.38 762.60 564.95. 㸦༢㸸ৗ㸧 2011 2012 1,822.12 2,117.00 1,349.86 1,568.31 1,000.00 1,161.83 740.82 860.71 548.81 637.63 472.37. T. ı. (519). (出所:Mun[2003],pp. 181─185 を参考に筆者作成.). ⤒῭ຠᯝண 㸻. D 䠗 MAX (A,B,C) 0 1 100.73 117.33 86.18. 3 159.63 116.49 86.07 63.76. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 186.56 218.44 135.49 157.68 100.00 116.18 74.08 86.07 54.88 63.76 47.24. 2 136.78 100.18 74.08. 1. ոฟᶒ༢౯ 1440 չฟᶒ౯᱁ 0.00 ൨ պᣑᙇࢥࢫࢺ 16 ൨ 10.80 ৗ/൨ ջୖ㧗ᙜࡓࡾCO2ฟཎ༢ ռ࣊ࢵࢪㄪᩚᚋ௬ฟᶒ -80.00 ৗ -80.00. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 182.21 211.70 134.99 156.83 100.00 116.18 74.08 86.07 54.88 63.76 47.24. ı. C㸹ᘬ⌧ᅾ౯್ 0 1 100.73 117.33 86.18. ৗ. ৗ. ಸ ৗ. 3 156.83 116.18 86.07 63.76. 0.05. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 185.78 218.44 ĸB’㸭ջ㸫(չ㸩պ) 133.48 157.68 94.74 112.66 66.04 79.32 44.78 54.61 36.31. 0.00% 1.30 1,000 -8% -8% -80 -80 0% 0. 2 134.99 100.00 74.08. rf. B 䠗 CO2ฟ㔞䜢⪃៖䛧䛯ୖ㧗䛾ᣑᙇ 0 1 2 3 94.74 112.66 133.48 157.68 79.32 94.74 112.66 66.04 79.32 54.61. ձ࣊ࢵࢪ࣭ࣞࢩ࢜ ղᣑᙇಀᩘ ճCO2ฟ㔞 մ๐ῶ⩏ົ⋡ յ௬ฟᶒ նฟᶒᙜ⋡ շฟᶒᩘ㔞. A 䠗 ୖ㧗䛾ண 0 1 100.00 116.18 86.07. r u d p. 㸦㸰㸧CO2ฟ㔞ࡢண . 表 6 企業の中短期地球温暖化対策評価モデル(ヘッジ・レシオ= 0). ⾲ 6䚷୰▷ᮇᆅ⌫ ᬮᑐ⟇ホ౯䝰䝕䝹䠄䝦䝑䝆䞉䝺䝅䜸䠙0䠅 㸦㸯㸧࢟ࣕࢵࢩࣗࣇ࣮ࣟࡢண . 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤) 79.
(22) 80. (520). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). 218.44 = CO2 排出量/売上高当たり CO2 排出原 単位- (拡張コスト+排出権価格). 6.カーボン・オーバーヘッジ戦略の検討. = 2117.00/10.8 - (16 + 0). 本節 で は,将来 の 売上高当 た り CO2 排出原. ※ 2117.00= CO2 排出量× u^5. 単位が自助努力で確実に減ることを仮定し,仮. = 1000×1.16^5. 想排出権(▲)の場合のカーボン・リスク・マ. ※ 2531.93= CO2 排出量×拡張係数. ネジメントを考えてみる.投資家は,時価総額. × (1+削減義務率+削減率). に応じ分散投資することが原則なので,東証の. = 2117.00×1.3 × (1 + (-0.08+0). 時価総額最大のトヨタ自動車(株)(以下トヨ タ)を例として用いる.表 8 は,トヨタが公表. そ の 結果,経済効果予測 が 0.73 億円 に 落 ち. している連結売上高とグローバル CO2 排出量. 込むことになる.. データである.公表されているグローバル CO2. 次に,外部から排出権を調達し,仮想排出権. 排出量に関しては,データの集計範囲が連結売. (▲)をヘッジする戦略を考える.ここで,排. 上高の範囲と同一ではないため,相関係数を調. 47). 出権価格は 1,440 円(18 米ドル)で ,一定で. べてみた48).. あるという仮定を追加する.. 表 8 で示したとおり,この期間における連結. カーボン・ニュートラル戦略により,⑫ヘッ. 売上高と CO2 排出量の間の高い相関関係がみ. ジ調整後仮想排出権が 0 となり,売上高当たり. られる49).このことから,公表されているグロー. CO2 排出原単位が当初の 10(㌧/億円)に戻っ. バル CO2 排出量データは,当該期間に限り実態. ていることがわかるであろう.そして,表 7 の. を反映していると仮定し,表 8 のデータを用い. 経済効果予測 16.66 億円 と 表 6 の 経済効果予測. 排出量規制が行われた場合の事業計画を分析す. 0.73 億円との差額の 15.93 億円が,排出権を購. る.この期間に着目したのは,2008 年には金融. 入し,仮想排出権(▲)をヘッジしたことによ. 危機が起き,業績に深刻な影響を与えることと. る経済効果予測ということになる. この例では,. なったが,2007 年まではそのような特殊要因が. 排出権価格が 1,440 円で一定であれば,中短期. 無く,トヨタの連結売上高の成長が安定的に推. の地球温暖化リスクを回避するためには,排出. 移しており,その上,売上高当たり CO2 排出原. 権取得コストを考慮しても,排出権を用いて. 単位は毎年改善しており,分析を試みるのに条. ヘッジすることが有効であると分析できるとい. 件が良いと考えたからである.. うことになる. このように,仮想排出権を用いてカーボン・ リスクを可視化し,カーボン・ニュートラル戦 略を実行することで,売上高当たり CO2 排出 原単位を改善したことで経済効果が得られると 考えられ,中短期地球温暖化対策として即効性 があり有効な手段であると考えられる. ただし, 経済効果の大小を比べると, 表 5 >表 7 である. この点をどうするか,次節で考える. . 47)国際協力銀行[2010]p. 11.1 米ドル 80 円で 換算.. . 48)トヨタのグローバル CO2 排出量の公表は, トヨタ[2004]から行われている.その後集計対 象企業数が広げられたが,トヨタ[2008]では国 内外連結対象 120 社,4 年分の集計が出ている. 49)企業の生産計画は前年度の販売実績を基に 決めることが多いため,CO2 排出量と売上高の関 係は,必ずしも当期中のデータ同士に相関が見ら れるとは限らない.2008 年度にはリーマンショッ クが起きたこともあり,トヨタの 2008 年度,2009 年度を含める場合,CO2 排出量のデータは 1 期前 のものをずらして合わせると相関関係が高まるこ とがわかる.よって,相関関係を示す場合は,ど の期間をとるかにより異なる結果が生じることに なるが,本稿では 2004 年~2007 年を分析対象期間 として取り上げている..
(23) 1.05 1.16 0.86 0.63 0.15. t 5. T 5. įt. 16.66. 2 160.72 115.24 81.67. ൨. 3 188.36 135.52 96.37 67.74. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 220.56 258.06 159.17 186.73 113.68 133.89 79.99 94.74 56.07 65.74 47.24. ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ. 1.05 1.16 0.86 0.63. B'' 䠗 䠄A’×䐠×䠄1+䐢+䐤䠅䠅 2007 2008 1,300.00 1,510.38 1,118.92. A' 䠗 ฟ㔞ண 2007 2008 1,000.00 1,161.83 860.71. r u d p. 2009 1,754.82 1,300.00 963.06. 2009 1,349.86 1,000.00 740.82. 0.05. 2010 2,038.81 1,510.38 1,118.92 828.92. 2010 1,568.31 1,161.83 860.71 637.63. rf 5. 0.15 įt. t 1. 5. 㸦༢㸸ৗ㸧 2011 2012 2,368.75 2,752.10 1,754.82 2,038.81 1,300.00 1,510.38 963.06 1,118.92 713.46 828.92 614.08. 㸦༢㸸ৗ㸧 2011 2012 1,822.12 2,117.00 1,349.86 1,568.31 1,000.00 1,161.83 740.82 860.71 548.81 637.63 472.37. T. ı. (521). (出所:Mun[2003],pp. 181─185 を参考に筆者作成.). ⤒῭ຠᯝண 㸻. D 䠗 MAX (A,B,C) 0 1 116.66 137.00 97.89. 3 188.36 135.52 96.37 67.74. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 220.56 258.06 159.17 186.73 113.68 133.89 79.99 94.74 56.07 65.74 47.24. 2 160.72 115.24 81.67. 1. ոฟᶒ༢౯ 1440 չฟᶒ౯᱁ 1.15 ൨ պᣑᙇࢥࢫࢺ 16 ൨ 10.00 ৗ/൨ ջୖ㧗ᙜࡓࡾCO2ฟཎ༢ 0.00 ৗ ռ࣊ࢵࢪㄪᩚᚋ௬ฟᶒ. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 182.21 211.70 134.99 156.83 100.00 116.18 74.08 86.07 54.88 63.76 47.24. ı. C 䠗 ᘬ⌧ᅾ౯್ 0 1 116.66 137.00 97.89. ৗ. ৗ. ಸ ৗ. 3 156.83 116.18 86.07 63.76. 0.05. 㸦༢㸸൨㸧 4 5 219.72 258.06 ĸB’㸭ջ㸫(չ㸩պ) 158.33 186.73 112.85 133.89 79.15 94.74 54.19 65.74 44.26. 100.00% 1.30 1,000 -8% -8% -80 -80 8% 80. 2 134.99 100.00 74.08. rf. 㸦㸰㸧CO2ฟ㔞ࡢண . 表 7 企業の中短期地球温暖化対策評価モデル(カーボン・ニュートラル戦略). B 䠗 CO2ฟ㔞䜢⪃៖䛧䛯ୖ㧗䛾ᣑᙇ 0 1 2 3 112.85 133.89 158.33 186.73 94.74 112.85 133.89 79.15 94.74 65.74. ձ࣊ࢵࢪ࣭ࣞࢩ࢜ ղᣑᙇಀᩘ ճCO2ฟ㔞 մ๐ῶ⩏ົ⋡ յ௬ฟᶒ նฟᶒᙜ⋡ շฟᶒᩘ㔞. A 䠗 ୖ㧗䛾ண 0 1 100.00 116.18 86.07. r u d p. 㸦㸯㸧࢟ࣕࢵࢩࣗࣇ࣮ࣟࡢண . 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤) 81.
(24) 82. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). (522). 表 8 トヨタの連結売上高とグローバル CO2 排出量との相関 連結売上高(単位:千億円). グローバル CO2 排出量(千㌧). 売上高当 た り CO2 排出原単位 (単位:千㌧/千億円). -. -. 2003 年 2 月期. 161. 2004 年 3 月期. 173. 7,560. 43.71. 2005 年 3 月期. 186. 7,830. 42.21. 2006 年 3 月期. 210. 8,220. 39.07. 2007 年 3 月期. 239. 8,560. 35.74 40.18. 相関係数. 99.30%. (出所:トヨタ[2004]~トヨタ[2007]及びトヨタ[2008]p. 29 に基づき筆者作成.). 表 9 トヨタの連結財務データ 連結売上高 (単位:百万円). 前年度比(%). 営業利益 (単位:百万円). -. 営業費用 (単位:百万円). 営業費用前年度比増加額 (単位:百万円). 2002 年度. 15,106,297. 1,123,470. 13,982,827. 2003 年度. 16,054,290. 6.28%. 1,363,679. 14,690,611. -. 2004 年度. 17,294,760. 7.73%. 1,666,890. 15,627,870. 937,259. 2005 年度. 18,551,526. 7.27%. 1,672,187. 16,879,339. 1,251,469. 2006 年度. 21,036,909. 13.40%. 1,878,342. 19,158,567. 2,279,228. 2007 年度. 23,948,091. 13.84%. 2,238,683. 21,709,408. 2,550,841. 平均. 9.7%. 平均. 1,545,316. 707,784. (出所:トヨタ[2004]~トヨタ[2007]を参照し筆者作成.). 表 9 は ト ヨ タ の 連結財務 データ で あ る.連. 次 に CO2 排 出 量 に 関 し て は,2003 年 度,. 結売上高 に 関 し て で あ る が,連結売上高前年. 2002 年度 の データ が 公表 さ れ て い な い の で,. 度増加率平均 が 9.7% であるので,便宜上小数. 表 8 の 売上高当 た り CO2 排出原単位 43.7 を 参. 第 2 位以下を四捨五入し,拡張係数は 1.1 を用. 考にし,小数点以下を四捨五入した 44 を用い,. いる.拡張コストは表 9 の営業費用前年度比増. 数式 1(売上高当 た り CO2 排出原単位= CO2. 加額 の 平均値,1,545,316 百万円 に 拡張係数 1.1. 排出量─売上高)か ら 初年度 の 排出量 を 6,600. を乗じた 1,684,394 百万円とする.これらにつ. 千㌧と算出する.ボラティリティ,金利は連結. いても便宜上千億円以下を四捨五入した,売上. 売上と同じであると仮定する.排出権価格は前. 高:150 千億円,拡張コスト:17 千億円を用い. 掲した 1,440 円を用い,排出権価格は一定であ. る.ボラティリティは (1/5)× LN(23,948,091. る と 仮定 す る.売上高当 た り CO2 排出原単位. 百万円─15,106,297 百万円)= 9.21% と 計算 で きる.金利は日本銀行により公表されている 2011 年 6 月 10 日の 1.50% を用いる50).以上の 仮定に基いたデータにより事業拡張に伴う経済 効果を推定する.. . 50)日 本 銀 行 URL 〈http://www.boj.or.jp/ statistics/dl/loan/prime/prime.htm/〉参照日 2011 年 8 月 5 日. 「長・短期 プ ラ イ ム レート(主要行) の推移」参照..
(25) 企業の中短期地球温暖化対策に伴う経済効果の研究(加藤). (523). 83. 表 10 事業拡張に伴う経済効果の推定 rf 0.015. 1.02 1.10 0.91 0.56. r u d p A 䠗 ୖ㧗ண 0 150.00. ᣑᙇಀᩘ ᣑᙇࢥࢫࢺ. 1 164.47 136.80. 1.1 17. 2 180.34 150.00 124.77. ༓൨. B 䠗 ୖ㧗ᣑᙇ 䠄A×1.1䠉17䠅 0 1 2 148.00 163.92 181.37 133.48 148.00 120.24. C 䠗 ᘬ⌧ᅾ౯್ 0 1 150.90 165.90 137.06. D 䠗 MAX (A,B,C) 0 1 150.90 165.90 137.06. ⤒῭ຠᯝ᥎ᐃ㸻. 3 197.74 164.47 136.80 113.79. 3 200.51 163.92 133.48 108.17. ı 0.092. t. 5. T. 5. įt. 1. 㸦༢㸸༓൨㸧 4 5 216.81 237.73 180.34 197.74 150.00 164.47 124.77 136.80 103.78 113.79 94.65 㸦༢㸸༓൨㸧 4 5 221.49 244.50 181.37 200.51 148.00 163.92 120.24 133.48 97.15 108.17 87.11 㸦༢㸸༓൨㸧. 2 182.57 150.46 124.77. 3 201.12 165.31 136.80 113.79. 2 182.57 150.46 124.77. 3 201.12 165.31 136.80 113.79. 4 221.75 181.87 150.00 124.77 103.78. 5 244.50 200.51 164.47 136.80 113.79 94.65. ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉB㸸ᣑᙇ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ ࠉA㸸⌧≧⥔ᣢ. 㸦༢㸸༓൨㸧. 0.90. 4 221.75 181.87 150.00 124.77 103.78. 5 244.50 200.51 164.47 136.80 113.79 94.65. ༓൨. (出所:Mun[2003],pp. 181─185 を参考に筆者作成.). を改善するには,分子を小さくするか分母を大. 表 11 の結果のとおり,カーボン・ニュート. きくすることになる.分子を小さくするために. ラル戦略では,排出権を調達した分コストが上. は,排出量をより多く削減することになる.表. 乗せされるため,表 10 の事業拡張計画より経. 11 では,カーボン・ニュートラル戦略を考え. 済効果が小さくなる.そこで,次にこの経済効. てみる.. 果をアップさせる方策を考えてみる..
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