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病原微生物の病態発現機序にかかわる諸因子に関する分子性状解析 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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氏 名 菅野 武史 博士の専攻分野の名称 博士(医工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第311号 学 位 授 与 年 月 日 平成27年3月18日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1 項該当 専 攻 名 人間環境医工学専攻 学 位 論 文 題 目 病原微生物の病態発現機序にかかわる諸因子に関する分子性状解析 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 宮川 洋三 教 授 早川 正幸 教 授 宇井 定春 教 授 楠木 正巳 教 授 黒 澤 尋 准教授 大槻 隆司

学位論文内容の要旨

病原微生物の病態発現機序を理解することは感染症の予防・治療において重要な点である。環境 中にはウイルス、細菌、真菌等様々な病原微生物が存在するが、本研究では第一に、食中毒の原因 菌として最近医療上の問題となったA 群レンサ球菌 (Streptococcus pyogenes) の産生する主要病 原因子について解析し、第二に、日和見感染症の原因菌である病原性真菌、Candida glabrataおよ び C.albicansの生育や病態発現に不可欠な要因としての必須遺伝子を同定し性状解析することで、 新規抗真菌剤の標的候補となり得るかを検討した。 A 群レンサ球菌については、食中毒起因菌となった T-25 型(神奈川)、 T-B3264 型 (千葉) と T-28 型 (東京)によって産生された主要な病原因子として溶血毒素、プロテアーゼである streptococcal pyrogenic exotoxin B (SpeB)および NAD glycohydrolase (NADase)の活性と性質を解析した。また、 それら病原因子は SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE) においてタンパク質発現 を分析した。溶血活性はT-25 型、T-28 型および T-B3264 型でそれぞれ 9 HD50/mL、173 HD50/mL および147 HD50/mL であった。T-25 型の溶血活性は T-28 型および T-B3264 型と比較して著しく 低かった。T-25 型の主要な溶血毒素はコレステロールや γ-グロブリンで阻害され、リン脂質で阻害 されないことからstreptolysin O (SLO)と同定された。一方、T-28 型および T-B3264 型の主要な溶 血毒素はstreptolysin S であった。T-25 型の SpeB 活性は 4.8 U/mL であり、T-B3264 型より低値 であったが、NADase 活性は 19.1 U であり 3 菌型間で最も高かった。SDS-PAGE により T-25 型 のSpeB 前駆体から活性型 SpeB への変換は培養 6 時間で始まっていることが確認されたが、T-28 型およびT-B3264 型では確認されなかった。T-25 型において活性型 SpeB が早期に変換されること はプロテアーゼであるSpeB によって SLO タンパク質が分解されたため、溶血活性が著しく低値と

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なった可能性が示唆される。これらの結果は3 菌型に主要な病原因子に多様性があることを示唆し ており、これらの病原因子の特異的相互作用が病態に関与すると考えられる。

病原性酵母カンジダについては、カンジダ症対策の一環として、新規の抗真菌剤開発の観点から、 その標的候補としての必須遺伝子の探索・同定を目的として研究を行った。研究の基本戦略として、 当研究室で開発された一倍体の

C.glabrata

の温度感受性 (TS) 変異株をツールとする必須遺伝子 の探索・同定法 (‘ETS system’ for identification of essential genes using ts mutants) を用いた。この ETS system は、「TS mutation は通常、ゲノム上の必須遺伝子内の point mutation によって起こる」という 基本概念に基づいたものである。

本研究ではとくに、選択毒性の高い標的候補を探索・同定することを目的とし、細胞壁強度関連 遺伝子に変異をもつと期待されるTS mutant を host に設定するため、1M sorbitol (osomotic stabilizer) 存在下でコロニー形成能を回復(以下、sorbitol 回復)する変異株 W12 に着目した。まず、ETS system にしたがいC.glabrata 由来の genomic DNA library による相補性テストを行った結果、W12 の TS 変 異を相補する遺伝子として出芽酵母の ROM2 遺伝子のホモログ (CgROM2) を同定することに成功 した。次に、この変異株W12 の ROM2 ホモログ領域に point mutation (Cys-1275/Tyr) を検出し、必須 遺伝子として同定することができた。この変異部位近傍のアミノ酸配列をアラインメント解析した 結果、この領域は分類学上類縁の真菌間で高度に保存されていることが明らかになった。そこで、 C.glabrata と同様の point mutation を C.albicans の ROM2 ホモログ領域 (Cys-1281/Tyr) に導入した変 異株を構築したところ、この変異株はCgROM2 の場合と全く同様のTS 性を示すことが確認された。 このことより、ROM2 は生育に必須であり、ROM2 内のこれらの point mutation は高温への温度シフ トによって深刻な生育阻害を起こしたものと考えられた。さらに、二倍体のC. albicans の ROM2 片allele の破壊株 (ROM2/rom2) は homologous recombination によって高頻度で取得されたにもかか わらず、完全破壊株 (rom2/rom2) は繰り返し試みたが取得できなかった。この事実は ROM2 が必須 遺伝子であるとする先の考えを強く支持するものと考えられる。一方、tetracycline (tet) による Candida の遺伝子発現制御系 TET system を用いることで ROM2 の必須性の検証を行ったが、 C.glabrata および C.albicans いずれの菌種においても ROM2 の必須性を示唆する結果は得られなか った。ETS system で得られた結果との不一致の原因としては、両者の原理上の基本的相違、すなわ ちETS system では高温シフト後(非許容条件下)直ちに当該遺伝子産物の『機能』が喪失するのに 対し、TET system では tet 添加後に当該遺伝子の『発現』が抑制される点にあると解釈された。 RT-PCR 分析の結果、C.glabrata および C.albicans の ROM2 mRNA 発現は Dox (tet 誘導体) 存在下で 著しく抑制(それぞれ約90%、95%) されていることが確認された。TET system において観察され た著しいROM2 mRNA 発現抑制下においても菌の生育が抑制されなかった事実から、C.glabrata お よびC.albicans 両菌種おいて ROM2 は生育に必須の遺伝子ではあるが、Rom2 タンパク質分子がきわ めてわずかな量(細胞内分子数)で生育維持に十分である、あるいは、Rom2 タンパク質の細胞内プ ールサイズがきわめて大きい等の可能性が示唆された。また、C.glabrata および C.albicans の TS mutant が 1 M sorbitol の存在下で高温時に cell lysis の抑制を伴ってコロニー形成能を回復したことか ら、両菌種においてROM2 は生育に必須であるばかりでなく、細胞壁強度に関与していることが強 く示唆された。さらに、Rom2 は類縁の真菌間で高度に保存されているが、ヒトゲノムは Rom2 ホモ ログに対して著しく相同性が低いことも明らかとなった。本研究の結果から、将来の新規抗真菌剤 開発において、ROM2 は選択毒性の高い有力な抗真菌剤標的候補になり得ると考えられる。

以上のように、本研究によりA 群レンサ球菌 (Streptococcus pyogenes) の産生する主要病原因子 および病原性酵母C.glabrata, C.albicans 両菌種の必須遺伝子 ROM2 の分子性状が明らかにされた。

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これらの研究成果は、将来、これらの病原微生物による感染症の予防や治療の面で一助となるばか りでなく、それらの病態発現機序を解明する基礎的研究分野においても重要な意義をもつものと考 えられる。

論文審査結果の要旨

1.学位論文研究テーマの意義 本論文はまず、食中毒の原因菌となったA 群レンサ球菌 (Streptococcus pyogenes ) に焦点をあ て、これが産生する主要な病原因子について検討した。 次に、皮膚真菌症や内在性真菌症の原因となる病原性真菌として最近とくに重要視されている Candida属酵母であるCandida glabrata およびC. albicans に焦点をあててCandida症に対する 対策として、新規抗真菌剤の開発という視点から、菌の発育と病態発現に不可欠とされる必須遺伝 子(およびその遺伝子産物)を探索・同定することで、これが菌にとって致死的作用を及ぼす薬剤 の標的候補となり得るかについて分子生物学的手法を用いて検討・解析を行なった。このような病 原微生物の病態発現機序にかかわる諸要因についてそれらの分子性状を解析・理解することは感染 症の予防・治療において重要な点であり、これらの知見は感染症対策の一助になると期待される。 2.学位論文及び研究の争点、問題点、疑問点、新しい視点等 (1) A 群レンサ球菌が産生する溶血毒素のストレプトリジンO がエピガロカテキンガレートによっ て阻害されるメカニズムは?:推定されるのはこれまで報告にあるコレステロールによる阻害 と同様にOH 基が関与していると思われるが、明確なメカニズムは解明できていない。 (2) A 群レンサ球菌の T 型分類は自身でしたのか?:すでに食中毒由来として報告され T 型分類さ れた3 菌型を用いて 3 種の病原因子の比較検討を行なった。 (3) A 群レンサ球菌では菌体外毒素が病原因子として問題となるが、Candida においてもあるの か?:Candida属は粘着因子により感染し、細胞内寄生性である。宿主は細胞性免疫で対応す るが、免疫力の低下したAIDS 患者や高齢者等における日和見感染症の原因菌となる。 (4) Candidaにおける抗真菌剤となる化合物はどのように探索するのか?:基本戦略として必須遺 伝子のプロモーター領域と必須遺伝子産物のいずれかを抗真菌剤の標的とする方法が考えら れるが、今回のテーマとした ROM2 遺伝子は発表したように、発現を抑止しても菌の生育は 抑えられないので、前者の戦略は取り得ない。一方、後者については、アライメント解析によ りヒトとの間に相同性が低いことが明らかでかつ細胞壁強度に関与することが示唆されてい るため、ROM2遺伝子産物を標的とする方法は今後の戦略としてかなり期待できると思われる。 <コメント> ROM2は少ない分子数で作用してCandidaの生育に十分となっているのなら、 化合物も低レベルのDose で抗真菌作用が見込めるとすると有用なターゲットになり得る。

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3.実験およびデータの信頼性 本論文におい提示した実験データについては非常に再現性が高いことが確認されている。それ は実験系がきわめて洗練されていることによるといえる。 4.公聴会でのプレゼンテーション 今回の発表は研究の目的―方法―結果・結論―今後の展望まで明快な論旨に貫かれていて、デ ータの説明が丁寧かつ明快、図表もきわめて注意深く要点を整理して作成されている等、評価に 値する。 5.人物評価 細菌および真菌、両研究分野にわたりその病原性発現機序に関わる諸因子を研鑽したことによ り、研究者として広範な知識、手法を習得したといえる。本学で博士課程在籍中には研究課題に 関わる欧米の論文に精通、論文の考察を深める姿勢を確立するとともに、後輩に対しては的確な 指導性を発揮する等、今後、研究者としてさらに将来を期待できる力量を十分に修得したものと 判断される。

参照

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