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情動喚起過程における認知的要因の効果

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Academic year: 2021

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情動喚起過程 における認知的要因の効果

Effects of Cognitive Factors in Emotional Experiences

問 題 経 験 され る情 動 は生 理 的覚荘 (physiological arousal)とその覚醒が引き起 こされた状況の認知 との交互作用 の結果であ ると提唱 した Schachter (1964)の情動理論は、後にBem(1972)の 自己知覚 理論 に よって、 「自己の行動 と行動がな された状 況か ら自分の内的状態 を推測す る」過程の一つ と して解釈 され 、帰属理論の観点か ら多 くの実験的 検証がな され てい る(Kelley,1971,1973)。それ ら の研究では、人が 自分 自身の生理的覚醒 を知覚す ることに よって得 る情報 と、状況要因か ら得 る情 報の両者 に依拠 しなが ら自分 自身の情動状態 を推 論す る過程、お よびその結果が問題 に され、特に その ような推論過程 において人 が情動経験の原因 を非本質的、外的な要田にいかに して誤 って帰属 す るか とい う錯誤帰属(misattribution)と呼ばれ る現象に焦点があて られてい る。 主 観 的 な 情 動 経 験 を 規 定 す る要 因 と して 、 schachter(1964)の情動理論では次の二つの情報 を想定す る。即 ち、情動の強 さの程度を示す生理 的覚醒の レベルに関す る情報 と、 どの ような種類 の情動が 当面 の状況において適切であ るかを示 す 情報 であ る(Laird,1974)。情動の強 さの程度を示 す生理的覚醒 の レベルの程度に関す る情報は、更 に生 理的覚醒 の原因に関す る情報 と覚醒 の程度に 関す る情報 とにわけて考えることができる(Nisbett &Valins,1971)

生理的覚醒 の原因に関す る情報が情動経験 に及 ぼす効果 を問題に した研究 では、情動が 自然 と喚 起 され るよ うな刺激場面において、生理的覚醒を 促進 ない しは抑制す るとされ る偽薬を被験者に与

田 彰

Akio Yuda

え、主観的な情動経験や情動喚起刺激 に対す る評 価が どの ように変化す るかを考察 した ものが 多い (DavisoTl&Valins,1969,・Nisbett& Schachter, 1966;Ross,Rodin&Zimbardo,1969;Schachter

&Singer,1962;Schachter&Wheeler,1962; Storms & Nisbett, 1970). Nisbett& Schachter(1966)は被験者に強度が 徐 々に増 してい く一連の電気 ショックを与え、 「シ ョックをは じめて感 じた時」、 「シ ョックがは じ めて苦痛 にな った時」、 「シ ョックが苦痛 で耐 え られな くな った時」を報告す るよ う求めた。 それ に先立 ち、次の よ うな実験操作 で被験者を4群に わけた。操作は シ ョックの強度についての教示 と、 与 え られ る偽薬についての教示に基づ く。前者に ついては、電気 シ ョックはかな りの苦痛を伴 うと 教示す る場合 (高恐怖条件) と、電気 シ ョックは 軽 い もので不快 とい うよ りむず梓 さを感 じるだろ うと教示す る場合 (低恐怖条件) の2通 りがあ っ た。 また実験 に先立 って与 え られた偽薬は、電気 シ ョックが引 き起 こすの と同 じような生理的反応 (震 え、動惇な ど) を生 じさせ ると教示 した場合 (偽薬帰属条件) と、電気 シ ョックとは ま った く 関連 のない生理的反応 (足の庫れ

拝 み、軽 い頭 痛 な ど) を生 じさせ る と教示 した場合 (シ ョック 帰属条件) とがあ った。実験結果は、電気 シ ョッ クに よって引 き起 こされた生理的反応を偽薬 に帰 属す ることがで きた者は、それ らの致侯を シ ョッ クに しか帰属 で きなか った者 よ り、強い電気 シ ョ ックに耐 え、相対的に弱い苦痛 しか経験 しなか っ た ことを示 している。 他方、生 理的覚醒 の程度に関す る情報が情 動経 験 に及ぼす効果を問題にしたものとしては、Valins

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(1966)に よる次の ような研究をあげ ることができ る。彼 はSchachterの理論を拡大解釈 して、情動 経験に必要なのは実際の生理的覚醒 ではな く、生 理的に覚醒 した とい う認知だけ で充分 であ るとい う仮説 をたてた。Valinsは数枚の女性の ヌー ド写 真をス ライ ドで順次映写す る と共に、被験者に偽 りの心拍音 を フ ィー ドバ ックし、それ ぞれの ヌー ド写真に対す る魅力度を評定す るよ う求めた。被 験者が 自分の心拍音 と信 じていた偽 りの フ ィー ド バ ック音 は、10枚の ヌー ドス ライ ドの うち、特定 の数枚 に対 して著 しく変化 (心拍数の増加 あるい は減少) す るよ う、あ らか じめ録音 されていた も のであ る。被験者は特定のス ライ ドに対 して フ ィ ー ドバ ック音が変化す るのを聞いた時、即 ち、そ の ヌー ド写真に対 して 自分 の心拍 が変化 した と知 覚 した時、心拍の変化が認め られなか った場合 と くらべて、その女性が より魅力的であると評定 した。 偽 りの心拍音が情動経験 に及ぼす効果はValins効 果 と呼ばれ、多 くの実験的研究を産み出す きっか け とな った(Barefoot& Straub,1971;Goldstein

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,1972;Harris

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Katkin,1975;Hirschman, 1975;Kerber& Coles,1978;Liebhart,1979; Ster

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.

,1972;Thornton & Hagan,1976; Valins& Ray,1967)0Nisbett& Valins(1971) に よれば、 この現象は人 が 自分の行動 に関す る新 しい情報を理解 した り確認 した りす る場合 と同 じ、 仮説検証過程の結果 であ る。つ ま り、変化す る心 拍 を聞いた時、被験者はその ヌー ド女性が非常 に 魅 力的であ るにちがいない とい う仮説をたて、 ス ライ ドを精査す ることで仮説 を支持 す る部分を見 出 し、その結果、魅力度の評定が高 まると考え ら れ てい る。 以上見て きた ように、生理的覚醒 の原因を どこ に帰属す るか、あるいは生理的覚醒 を どの よ うに 認知す るかに よって、様 々に異 な った情動が経験 され ることを多 くの実験的研究 は示 してい る。 し か しこれ らの ことが可能にな るためには、そ もそ も 「身体状態 と心理状態 とは対応 してい る」 とい う、一種の心身関係に関す るスキーマを人 々が持 ってい ることを前提 としてい る。情動状態 と生理 的覚醒 との間には密接な関連が あ ると、人が直感 的にみな してい ることを示す研究 は多い (Averil, 1974,1985;Parkinson,1988)。 これ らの研究は -78 -情動経験におけ る生理的覚醒 の役 割を、人が実際 以上 に過 大視 す る憤 向が あ る こ とを示 してい る (pennebaker,1981)。 もし 「心拍 の変化は女性の 魅力 と対応 してい る」 とい った心身関係に関す る 暗黙 のスキーマが成立 してい るな らは、スキーマ が成 立 してい る こと自体 が重 要 な の で あ って、 valins(1966)の実験 事 態 に おい て Nisbett & valins(1971)が言 うよ うな仮 説 形成 一検証 とい う過程は必ず しも必要ない ことにな る。 そ こで本研究は、先ずは じめに、生理的覚醒の原 因に関す る情報、お よび生理的覚醒 の程度に関す る情報 の両者を同時 に操作す るこ とに よって、経 験 され る情動状態 、あ るいは情動喚起刺激 に対す る評価 に どの よ うな違いが生ず るかを実験的に検 討 し、次 い で心身 関係 に関す る暗 黙 の スキーマ が 成 立 して い るか ど うか を 確 認 す る こ ととす る。 第-の 目的のために、実験Iでは次の ような実 験操作を行 った。 (1) 自然に情動を喚起す る ことが期待 され る刺激 場面 に被験者 を置 くこと。 (2) 当該の刺激以外に、情動経験 に影響を与え る とされ る要田を被験者 に与 え ること。 (3) 生理的覚醒 の程度を、被験者 に知覚で きる よ う変化 させ ること。 (1)に関 しては、人体の解剖写真 の ような不快刺 激を被験者に皇示 し、(2)に関 しては 、被験者 に生理 的覚醒 に影響を及ぼす 「興奮剤」 あるいは 「精神 安定剤」 として偽薬を与 え ることで達成 した。(3) に関 しては、 Valins(1966)の手続 きと同様に、 刺激写真の呈示 中、被験者 に偽 りの脈拍の電気的 増幅音を フ ィー ドバ ックし、それ を変化 させ るこ とに した。 実験仮説は次の通 りであ る。 (1) 解剖写真に よって生理的に覚醒 された被験者 は、覚醒 の原因は 「興奮剤」に もあ ると考 える ことがで きるな らは、興奮剤に よって引 き起 こ された と考え られ る覚醒量 を割 引 くことができ る。逆 に、 自分の生理的覚醒 は 「精神安定剤」 に よって押 え られている と考 えている者は、精 神安定剤 に よって押 え られてい ると考 え られ る 分 の覚醒を上乗せす る必要が あ る。従 って、偽 薬を興奮剤 と称 して与 え られ た被験者の刺激写

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真に対す る不快感は低減す るのに対 し、精神安 定剤 と称 して与え られた被験者の刺激写真 に対 す る不快感は増大す るだ ろ う。 (2) 偽 りの脈拍増幅音 の脈拍数が増加 した刺激写 真は、脈拍数の変化 が認め られ ない刺激写真 よ りも、不快 であると感 じられ るだろ う。 (3) 興奮剤一脈拍数増加条件 と精神安定剤 一脈拍 数一定条件では、生理的覚醒 の原因を与 え られ た偽薬に帰属す る傾 向が強いのに対 し、興奮剤 -脈拍数一定条件 と精神安定剤-脈拍数増加条 件では、生理的覚醒 の原因を刺激写真 に帰属す る傾 向が強いだろ う。 実 験

I

被 験 者 東京都内の4年制大学 に在籍す る女子学生を被 験者 とし、 4つの実験条件に無作為に割 り当てた。 各条件 の被験者数は10名であ るが、他に薬 を服用 す るこ とを拒否 した者 が8名、実験手続 きに疑義 を呈 した者 が2名お り、分析か らほ除外 した。 な お、実験は一度に2名ずつ行われた。 実験デザイ ン 本実験で操作 した独立変数は、偽薬に関す る教 示 とフ ィー ドノミックされた偽 りの脈拍増幅音 の2 つであ る。偽薬は実際 には ビタ ミン剤であ ったが、 教示に よって興奮剤 とされた場合 と、精神安定剤 とされた場合の2条件があ った。 フ ィー ドバ ック された脈拍増幅音は、映写 された8枚の不快刺激 の うちの4枚に対 し脈拍数が増加す る場合 (脈拍 数 増 加 条件) と、 8枚 を通 して ほぼ一 定 の場合 (脈拍数一定条件) の2条件があ った.従 って実 験条件 は2要因2水準ずつの都合4条件になる。 実験材料 1)利敵写真 本実験 では不快刺激 として 人体の解剖写真を 用 いた。予備実験 で31枚のカ ラースライ ドに複 写 した解剖写真を、 31名の被験者 に呈示 し、そ れぞれのス ライ ドの不快度を7段階尺度上 で評 定 す る よ う求め た (尺 度 は1. 非常 に快、 4. どちらとも言えない、 7. 非常に不快)。評定 の結果、平均値が5.4か ら5.8の間に分布 した ス ライ ドの中か ら8枚を選 び、本実験用 の刺激 とした。 これは8枚 のス ライ ドの不快度 を均一 な ものにす るためであ る。 また不快度の極端 に 高 い (ない しは低 い) ものを除外 したのは、天 井効果を避け るためであ る。以上の8枚 の他に、 練習用の刺激 として3枚 のス ライ ドが用 い られ た。 なお刺激写真 はすべて横地 とRohen(1979) の著作に よった。 2)フィー ドバ ック音 脈拍増幅音は電子 メ トロノームを用 いて録音 された。 《興奮剤 一脈拍数増加条件》 脈拍増幅音は、69-72bpm(beatsperminute) をベ ース ライ ンとし、増化時 には5秒間隔 で84

,

88,92bpmと変化 し,その後、同様に5秒間隔で 84,76,72bpmと減少す るよ う録音 された。練習セ ッシ ョンでは録音開始時か ら10分後に1枚 目のス ラ イ ドが映写 され、ついで、10分45秒後、11分30秒後 に2枚 日、 3枚 目が映写 されたが、 3枚 目のスライ ドには増加音を同調 させた。 これは薬の効果があ ら われたことを、被験者に確認 させ るための操作であ る。本実験では8枚のスライ ドを2度同 じ順序 で呈 示 したが、 1枚のスライ ド呈示時間は15秒で、次の スライ ド呈示までの間隔は30秒である。 2回 のセ ッ シ ョンとも、 2枚 目、 4枚 目、 7枚 目、 8枚 目の ス ライ ドに対 して増加音 を同調 させた。増 幅音は 増加時以外では69-72bpmの間で、 5秒か ら10秒 間隔 で変化 させた。 なお、 それぞれのス ライ ドが 同 じ回数ずつ増加す るフ ィー ドバ ック音 を伴 うよ うに、呈示順位は組織的に変え られたO また増加 時 にはス ライ ド呈示の2秒後に フ ィー ドバ ック音 が変化 し始め るよ う操作 された。 《興奮剤 -脈拍数一定条件》 練習セ ッシ ョンまでは興奮剤一脈拍数増 加条件 と同一であ るが、実験 セ ッシ ョン中は脈拍増幅音 を常 に69-72bpmの間で変化 させた。 ス ライ ドの 呈示時間、その他は前条件 と同様 であ る。 《精神安定剤 一脈拍数増加条件》 練 習セ ッシ ョンでの3枚 目のス ライ ドに対 して、 脈拍増幅音 を5秒間隔 で69,69,66bpTlと減 少 させ、

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その後69-72b

一 と回復 させ た他は、興奮剤 -脈拍数増加条件 とすべて同一 であ る。練習セ ッシ ョンの3枚 目のス ライ ドに対す る脈拍数の減少は、 薬の効果 を被験者 に確認 させ るためであ るO 《精神安定剤 一脈拍数一定条件》 精神安定剤 一脈拍数増加条件 と同様、練習セ ッ シ ョンの3枚 目のス ライ ドに対 して脈拍音の減少 を同調 させた他は、興奮剤 一脈拍数一定条件 とま った く同一 である。 実験手続 き 二人の被験者を実験室 に入室 させ、所定の位置 に座 らせた後、実験手続 きを記載 した用紙を渡 し、 次の様な教示を与 えた。 「今 日、参加 していただ くのは、 FJL、理的 ス ト レスが生理的反応に及ぼす効果』を調べ るための 実験です。 この実験の 目的は不快刺激が生理的反 応 に及ぼす効果をみ ることです。 これか ら複数の 人体の解剖写真を前のス ク リー ンに映写 しますが、 それ らの写真に対す る生理的反応 として脈拍を測 定 します。 その際、刺激写真に対す る反応を明確にす るた め、興奮剤 (あるいは精神安定剤)を服用 してい ただ きます。 もちろん、 この薬 には身体お よび精 神に悪影響を もた らす よ うな成分は含 まれてい ま せ ん し、薬の効果が有効な うちに講義に出席 した り、あるいはバスや電車な どに乗 って も何 ら支障 を きたす ことはあ りませ ん。 この薬を使用 した場 合 の効用は、人に よって多少の差はあ りますが、 約10分か ら15分後に効 きは じめ、その効果はお よ そ1時 間か ら1時間30分ほ ど続 きます」0 ここで、薬 を飲む ことの同意が得 られた ら、 ビ タ ミン剤 を2錠、水 と共に渡 し服用 させた。 「それでは実験 の方法について説 明いた します。 先ず、脈拍を測定す るための電極を利 き手 とは逆 の手の手首 と中指につけていただ きます。実験 中 は- ッ ドホーンを通 して、 ご自分 の脈拍の変化を 電気的に増幅 した音をお聞かせ しますが、 この音 は聴診 器な どで直接聞 く鼓動 とはかな り異な って い ます」。 - 801 手首の内側 と中指を アル コール消毒 した後、電 極を装着 した。 また この時 点で脈拍増幅音 の録音 テープを再生 しは じめたが、被験者 には まだ フ ィ ー ドバ ックしていない。 「実験は第1セ ッシ ョンと第2セ ッシ ョンに分 れてい ます。第1セ ッシ ョンでは8枚の刺激写真 をお見せ します。 映写 時 間は 各 々15秒 で、映写 と映写 の間隔は30秒間です。第2セ ッシ ョンで も 同 じ8枚の刺激写真をお見せ しますが、それぞれ の刺激写真の不快度を質問紙 で評定 していただ き ます。質問紙は第1セ ッシ ョンが終 了 した時点で お渡 しします。実験 中の皆 さんの感情状態は、刺 激写真の不快 度 と薬 の効果に よって影響 されてい るわけですが、 ここでは薬 の効果を考慮 しなが ら 刺激写真の不快度を評定 して くだ さい。 また評定 は各刺敦写真の映写が終わ って、次の映写がは じ まるまでの30秒間に行 って くだ さい」0 ここで、実験手続 きを記載 した用紙の裏面に書 かれてい る、薬 の もた らす効果 について次の様に 説 明 した。 《興奮剤条件≫ 「興奮剤に よって引 き起 こ され る主な症状 とし ては、心拍数 の増加、疲 労感 の軽減,催眠の抑制 な どが報告 されてい ますが、人 に よって必ず しも この ような症状があ らわれ るとほ限 りませ ん」0 《精神安定剤条件》 「精神安定剤条件に よって引 き起 こされ る主 な 症状 としては、心拍数の低下、脱力感、催眠の促 進な どが報告 されてい ますが、人に よって必ず し もこの ような症状があ らわれ るとは限 りませ ん」。 次に被験者は テーブルの上 の- ッ ドホーンを装 着 し、 これ以後、教示は- ッ ドホー ンを通 して与 え られた。 フ ィー ドバ ック音 が適切 に聞 こえ るか ど うかを確認 した後、薬 の効界があ らわれ るのを 待 つ とい う名 目で、時 間調整のため被験者はその まま数分間待校 させ られた。 フ ィー ドバ ック音 と ス ライ ドの呈示が 同調す る よ う時間調整 した後、 室 内の照 明を暗 くし練習のセ ッシ ョソに入 った。

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「それ では、 これか ら薬 の効果 をみ るための練 習のセ ッシ ョンを行い ます。刺激写真を映写 しま すのでス ク リーンに注 目していて くだ さい」。 練 習セ ッシ ョンでは、各条件 とも3枚のス ライ ドが映写 され たが、 3枚 目のス ライ ドは興奮剤条 件では増 加音が、 また精神安定剤条件では減 少音 が 同調す るよ う操作 され、 3枚 目のス ライ ド呈示 後、次の ように教示 された。 「今の スライ ドに対 して脈拍 の増加 (あるいは 減少)が観察 され ま したので、薬の効果があ らわ れた もの と考 え ます」。 練 習セ ッシ ョン終了後、次の ような教示が与え られ、第1セ ッシ ョソが行われた。 「それでは間 もな く第1セ ッシ ョソに入 ります が、実験 中は電趣をつけた手 をな るべ く動か さな い よ うに して くだ さい。 また実験中は脈拍の増幅 音 と刺激写真 の両方に注 目して くだ さい。それで は、第1セ ッシ ョンに入 ります」。 第1セ ッシ ョン終 了後、質問紙を配布 し、評定 方法を説 明 した後、第2セ ッシ ョンが行われた。 第2セ ッシ ョンでそれぞれの刺激写真が どの程度 不快 であ るかを評定 した後、被験者は更に実験終 了後、実験操作の有効性等 を検討す るための質問 紙-の記入を求め られた。記入が終わ った時点で、 実際の実験 目的が説 明 された。実験の所用時間は 約40分であ った。 従属変数 (1) 7 ,i- ドバ ック音の明瞭度 実験操作の有効性を検討す るため、実験終了 ・後 の貞問紙 で 「脈拍 の増幅音は どの程 度は っき り聞えたか」評定す るよ う求めた。 評定は 「全 く聞えなか った」を1、 「あ ま り 聞えなか った」を3、 「どち らか と言えはは っ き りしない」を5、 「どち らとも言えない」を 7、 「ややは っき り聞えた」を9、 「かな りは っき り聞えた」を11、 「非常には っき り聞えた

を13とす る13段階尺度上 で行われたQ (2)心身関係の認知について 「心拍 の変化 はその人 の感情をあ らわす とさ れてい ますが、その人 の感情状態 を知 る手段 と して、脈拍 の変化は どの程度信頼 で きると思い ますか」 とい う質問に対 して、 「全 く信頼 で き ない」を1、 「あま り信頼で きない」を3、 「ど ち らか と言えは信頼で きない」を5、 「どち ら とも言えない」を7、 「やや信頼で きる」 を9、 「か な り信頼で きる」を11、 「非常 に信頼 で き る」 を13とす る13段階尺度で評定を求めた。 (3)刺激写真に対す る不快 度の評定 第2セ ッシ ョンで刺激写真に対す る不快 度を 評定 す るために用い られた尺 度は、 「全 く不快 ではない」を 0、 「不快 とは言えない」を20、 「や や不快 である」を40、 「かな り不快 である」 を60、 「非常に不快 である」を80、 「考 え うる 限 り最 も不快 である」を100とす る100点尺度 であ る。 (4)情動状態の原因帰属について 実験終了後 の質問紙で、被験者は 「実験 中の 感情 状態 を規定す るもの として、刺激写 真 自体 が もつ不快度 と、薬の効果の どち らが有 力であ ったか」を評定す るよう求め られた。 これは被 験者が情動状態の規定田を どこに帰属 したかを 推測す るための尺度であるO評定は 「完 全に薬 に よる」を 0、 「写真 と薬 と半分ずつ」 を5、 「完全に写真 に よる」を10とす る11段階尺度で 行われた。それぞれのポイ ン トは情動状態 に及 ぼ した写真 自体が もつ不快 度 と薬の効果 の割合 を示す よ うにな ってお り、例えば評定値1は、 情動状態 を規定す るもの として、写真 自体が も つ不快 度が1割、薬の効果が9割 とみな された ことを意味 している。 結 果 実験後の質問紙に対す る評定結果を、各実験条 件毎 に まとめ る と表1の ようにな った。 7 ィー ドバ ・./ク音の明瞭度 4条件問で分散分析 を行 った ところ、投 薬条件 の主効果、 フィー ドバ ック条件 の主効果、 交互作

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用効果 とも有意 な差 は認め られなか った (それぞ は 「かな りは っき り聞えた」 とい う点を上回 って れ、 F - 0.190、 F - 2.550、 F==1.707、いず お り、 どの被験者 もフ ィー ドバ ック音 に充分な注 九 もdf= 1/ 36、 ns)O各条件 とも平均 評定値 意を払 っていた ことを示 してい るO 表 1. 各条件 毎に見た事後質問に対す る平均評定 値お よび標準偏差 尺度 明 瞭 度 心身関係 帰 属 条件 安定剤 興奮剤 安定剤 興奮剤 安定剤 興奮剤 脈拍数 12.3 11.7 8.5 8.3 6.5 5.0 増加条件 (0.95)1' (0.95) (1.51) (2・50) (2.46) (1.25) 脈拍数 11.3 11.6 8.1 8.9 5.1 6.5 一定条件 (1.16) (1.26) (2.56) (2.08) (2.08) (2.17) 注1.: ( ) 内は標準偏差 心身関係の認知につい て 4条件問で分散分析 を行 った ところ、投薬条件 の主効果、 フィー ド/ミック条件の主効果、交互作 用効果 とも有意な差 は 認め られなか った (それぞ れ、 F - 0.186、 F - 0.021、 Fここ0.516、いず れ もdf=1/36、 ns)。いずれの条件で も平均 評定値は中点 よ り 「信 頼できる」 とい う方向に偏 ってお り、各条件の被 験者 とも、脈拍の変化を人 の感情状態 を知 る手 が か りとして信頼で きるもの とみな してい ることを示 してい る。 刺激写真に対する不快度の認定 刺激写真に対す る不快度の平均評定 値を、各条 件 毎 に ま とめ る と表2の よ うに な った。表中の 「変動 あ り」 とは、脈拍数増加条件 で脈拍数の増 加 を伴 ったス ライ ドであ ることを意味 してい る。 従 って、精神安定剤条件、興奮剤条件のいずれに おいて も、 「脈拍増加 ・変動 あ り」 の条件だけが、 脈拍数の増加を伴 ったス ライ ドに対す る評定値に な る。 なお、最初の評定では無関連 な付随的要因 (事態 の新奇性な ど)に影響 され ることが考 え ら れ るので、呈示順位1番 のス ライ ドに対す る評定 値は分析か ら除外 してあ る (Goldstein

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, 1972)

0

表2.各条件 におけ る刺激写真に対す る不快 度の平均評定値 ス ライ ド 精神安定剤姦件実 験 条 件 興奮剤条件 脈拍増加 脈拍一定 脈拍増加 脈拍一定 変 動 な し 50.16 48.83 36.66 38.16 (13.73)1) (19.23) (14.68) (13.62) 変 動 あ り 65.63 52.13 53.63 42.25 注1 : ( )内は標準偏差 刺激写真に対す る評 定値を、投薬条件 (精神安 定剤vs興奮剤、独立 要因) ×フ ィー ドバ ック条 件 (脈拍数増加vs脈 拍数一定、独立要因) ×ス ライ ド呈示順位 (変 動 あ りvs変動な し、繰 り返 し要因) とい う要因配 置に基づいて分散分析 した - 82 -ところ、投薬条件の主効果、 ス ライ ド呈示順位の 主効果 、お よび フィー ド/;ック条件 とス ライ ド呈 示順位の交互作用に有意差が認め られた (それぞ れ、 F- 5・842、 p<.05、 F- 52.079、 pく. .001、F-20・610、p<.001、いずれ もdf-1/360

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フィー ドノミック条件の主効果、投薬条件 とフ ィー ドバ ック条件 の交互作用、投薬条件 とス ライ ド呈 示順位の交互作用、 2次の交互作用については、 それぞれ、 F- 1.683、 F- 0.068、 F - 0.172、 F-0.017、 いずれ もdf-1/ 36、 ns)O フィー ドバ ック条 件 とス ライ ド呈示 順位 の交 互 作用効 果 が有意 な の で、 単純 効 果 につ いて 調べ る と、 脈 拍数増加条件 でのみ ス ライ ド呈示順位の効果 に 有意差が認 め られた (F=69.107

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仙1、df-1/36。脈拍数一定条件におけるス ライ ド呈示順 位 の効果 に ついて は、 ど -3.582、 df=1/ 36、 ns)Oまた 、脈拍 数 増 加条 件 で脈 拍 数 が変 動 し た刺激 ス ライ ド (表 中 の 「変 動 あ り」) の場合 だけ、脈拍数増加条件 と脈拍数一定条件 の間で有 意差が認め られた(F=6.293、p<.05、df=1/360 「変動な し」ス ライ ドに対 しては、 F- 0.000、 df= 1/ 36、ns)

0

つ ま り、偽薬 を精神安定剤 として与 え られた被 験者は興奮剤 として与 え られた被験者に くらべて、 刺数写真を有意に不快 であ ると評定 していること が示 された。 また、脈拍数増加条件についてだけ み ると、脈拍数の増加が伴 った刺激 ス ライ ドは脈 拍 数に変動の見 られなか った刺激 ス ライ ドよ りも 有意に不快 である と評定 された。脈拍数増加条件 で脈拍数が変動 した刺激 ス ライ ドに対す る平均評 定値を、脈拍数増加条件 と脈拍数一定条件 とで比 較 す る と、脈拍数増加条件で有意に不快 であると 評定 された。 情動状態の帰属 について 実験終 了後の質問紙におけ る、 「実験 中の感情 状態 を規定す るもの として、刺激写真 自体が もつ 不快度 と、薬の効果 の どち らが有力で したか」 と い う項 目に対す る平均評定値は表1に示す通 りで ある。 4条件問で分散分析 を行 った ところ、投薬条件 とフ ィー ドバ ック条件の交互作用にのみ有意差が 認め られた (F-5.049、 p<.05、 df-1/360 投薬条件 とフィ- ドバ ック条件の主効果について は、いずれ も、 F - 0.006、 df-1/ 36、 ns)0 しか し単純 効果を見 ると、投薬条件の各水準にお け るフ ィー ド/;ック条件の効果 も、 また フィー ド バ ック条件の各水準におけ る投薬条件の効果 も有 意な差を示 していない (精 神安定剤条件お よび興 奮剤条件におけ るフィー ドバ ック条件の効果 につ いては、それぞれ、 F- 2.354, F =2.702,い ずれ も、 df-1/ 36、 11So また、脈拍数増加条 件及び脈拍数一定条件におけ る投薬条件の効果に ついては、それぞれ、 F-2.702、 F=2.354、い ずれ も、 df-1/ 36、 7LS)o つ ま り、統計的に有意な水準には達 していない ものの、 「実験中の感情状態 の規定困」 として、 興奮 剤 -脈拍数増加条件 では薬の効果 に原因帰属 され る傾 向が強 く、興奮剤 一脈拍数一定条件 では 刺激 自体 の もつ不快度に原田帰属 され る傾 向が強 か った。 それに対 し、精神安定剤条件の場合は、 脈拍 数増加条件で刺数 自体の もつ不快度に原因帰 属 され る傾 向が強 く、脈拍数一定条件では薬 の効 果に原因帰属 され る傾 向が強か った。 実 験

実験 Ⅰの結果は、与え られた偽薬に関す る教示 に よって、 また フ ィー ドバ ックされた偽 りの脈拍 増幅音の変動に よって、不快刺敦 に対す る評価に 差が見 られた ことを示 してい る。実験 Ilの 目的は、 心身関係に関す る暗黙 のスキーマが成立 してい る か ど うかを確認す ることにある。 方 法 被 験 者 東京都 内の専門学校に在籍する女子学生111名 (平均年齢、 18.4才、標準偏差は0.83). 質問紙の構成 質問紙には図1、図2の グラフが印刷 され、以 下の説明の後、尺度上 での評定を求めた。 (1) 体温 と病状の関係についての認知 「上の図 (図 1)は、二人 の男性の先週1週 間 の体温 の変化 を グラフに表示 した もの です。二 人 とも風邪をひいてお り、A さんは病 院 に通院 して、解熱剤 と抗生物質の投与 を受けて います。 一 方、Bさんは特に治療を してい ませ ん。 グラ フを よく見て、次の質問に答えて くだ さい」 と

(8)

い う説 明の後、 ケースA、 ケースBの病 状につ いて推測す る よ う求めた。尺度は、 「非常 に軽 い」 を1、 「かな り軽い」を2、 「やや軽い」 を3、 「何 ともいえない」を4、 「やや重い」 を5、 「かな り重い」 を6、 「非 常 に重 い」を 日 月 火 水 木 金 土 曜 日 7とす る7段 階尺 度 であ る。 日曜 日か ら土曜 日までの体温 の推移 は、 ケー スA、 ケース B共通 で、38.1℃、38.0℃ 、38.2 ℃ 、38.3℃ 、37.9℃ 、38.0℃、37.8℃ とな って い る。 ℃ 39 体38 温37 36 Bさんの体温の変化

1

--

-

J一一一一㌧一一一一

一㌧ Iや 日 月 火 水 木 金 土 曜 日 30 60 90

1

20 150 180 秒 時 間 図2 脈拍数 の変化 か ら不快感 を判断す るための グ ラフ (2)刺激写真に対 す る脈 拍数 の変化 と不快 感 の関 係について 「上 の図 (図2)は、 あ る人 が 5枚 の人体解 剖写真 を10秒間ずつ見た時の脈拍 の推移 を グラ フに表示 した ものです。 この グラフか ら次の点 を判断 して くだ さい」 とい う説 明の後 、 それ ぞ れ の解剖写真を見ていた時 の不快 感 を推測 す る よ う求めた。尺 度は、「まった く不快 ではない」 を 1、 「ほ とん ど不快 ではない」 を 2、 「あ ま り不快 ではな い」 を3、 「何 ともいえない」を 4、 「やや不快 だ った」 を 5、 「か な り不快 だ った」 を6、 「非常 に不快 だ った」 を 7とす る 7段階 尺度 で ある。 グラフには5秒毎 の脈 拍 の推移 が措 かれ てい るが、刺激呈 示後5秒 目か ら15秒 日までの脈拍 数 の平均値は 、刺激 1の場合 72bpm、刺激 2の 場合 80bpm、 刺激 3の場合 76bpm、刺激 4の場 合68bpm、刺激5の場合 84bpm とな ってい る。 表3 刺激写 真に対 す る脈 拍数の変化 と推測 され た不快感 刺激写真 刺激 4 刺激 1 刺激 3 刺激 2 刺激 5 脈 拍 数 68 72 76 80 84 不 快 感 2.4 3.5 4.9 5.9 6.8

(SD)

(

1.01) (1.01) (0.67) (0.38) (0.82) -

(9)

84-結 果 (1)体温 と病状の関係についての認知 ケースA、 ケース Bの病状の重 さについての 評定値は、Aの場合、 5,5 (標準偏差は0.80)、

B

の場合、 4.6 (標準偏差は0.85) であ ったO 平均値の差の検定を行 った ところ、有意な差が 認 め られ (t

=

10.687、 df-110、 p<.001)、 ケースAの病状の方が ケースBの病状 よ りも重 い と評定 された。 (2) 刺激写真に対す る脈拍数の変化 と不快感の関 係について 5つの解剖写真を見ていた時 の不快感 の推測 値を まとめ ると、表3の ようにな った。 2要因 分散分析 (刺激 ×被験者)を行 った ところ、刺 激の効果 に有意差が認め られた (F=577.44、 p< .ool、 df-4/440)0 5つの平均値の問で 多重比較 を行 った ところ、すべての平均値問で 有意な差が認め られた(Newman-Keuls法に よ る)0 表3に示 した通 り、 グラフ中の脈拍数の増減 と推測 された不快感の高低 とは完全に一 致 して お り、脈拍数の増加に伴 って不快感 も高 くな る と推測 されてい ることを示 してい る。 考 察 生理的覚醒の原 因に関する情報 が情動経験 に及ぼ す効果 について 被験者 に与えた偽薬に関す る教示 を操作す るこ とで、不快刺激 に対す る評価に違 いが見 られた こ とを実験 tの結果は示 してい る。つ ま り、仮説 で 予想 した通 り、人体 の解剖写真に対す る不快感は、 被験者が 自分は興奮剤 の影響を受けてい ると信 じ ていた場合 よ り、精神安定剤の影響 を受けてい る と信 じていた場合の方が強か った。 Schachter(1964)に よれば、経験 され る情動は 知 覚 された生理的覚醒 とその覚醒 に関連す る認知 的手が か りとの相互作用の結果 であ る。 この理論 は人体 の解剖写真の ような不快刺激 に よって生理 的覚醒 状態 にある被験者は、 自分 の生理的覚醒の 原因を当該の不快刺激以外に も求め ることがで き るか ど うかに よって異な った情動を経験す ること を示 してい る。 Kelley(1973)は帰属理論を帰属者が利用できる 情報 に応 じて、 2つの ケースにわけてい る。 第1 の ケースでは帰属者は複数回の観察か ら得 た情報 に基 づ き、結果 と考 え得 る原因 との間の共変動を 吟味 す ることで、所与 の結果 に対す る原因を推論 す る。第2の ケースでは帰属者 は1回限 りの観察 か ら得た情報 を用い、結果 と考え られ るい くつか の原 因 との関連を吟味 す ることに よって、適切な 原因を推論す る。第2の ケースにおけ る帰属過程 に関 して、Kelley(1971)は次の ような2つの原理 を指摘 してい るO 「割引き原理(discounting prin -ciple)」に よれば、 「結果を引 き起 こした当該の原 田の役割は、他に も考 え られ る原因が存在す るな らば、割引いて考え られ る」 (p.8)。結果 を規 定す るもの として複数の原因が考え られ る場合 に は、原因がただ1つ しか存在 しない場合に くらべ て、結果に対す るそれぞれの原因の影響力は当然 小 さく見積 もられ ることにな る。 この原理 の逆 の 場合 として 「割増 し原理(augmentationprinciple)」 があ る

「結果に対 して抑制的原因 と促進 的原因 の両 方が存在 す るな らは、その結果を引 き起 こし た原 因 としての促進的要田の役割は、 それがその 結果 に対す る唯一の原 因 として存在す る場合に く らべ て、 よ り大 きな もの と判断 され る」 (p・12)0 これ らの原理に即 して実験結果を解釈す ると、次 の よ うに言 うことがで きる。偽薬を興奮剤 として 与え られた被験者 の場合、経験 され る不快感 は不 快刺激 自体 と不快感を促進す ると被験者 がみな し ていた薬の効果の両者に よって規定 され てい る。 従 って割引 き原理に基づいて、興奮剤条件 の被験 者は、それ ぞれの刺激写真に対す る不快 度 を評定 す る際、興奮剤の効果を割引いたため、精 神安定 剤条件の被験者 よ りも刺激は不快 ではない と評定 した と解釈 す ることがで きる。逆 に精神安定剤条 件の場合、刺激に対す る不快感は刺激 自体 が もつ 促進要田 とそれを抑制す る精神安定剤 との両者 に よって規定 されてい る。割増 し原理に よれ ば、精 神安定剤条件の被験者はそれ ぞれの刺激 写 真に対 す る不快度を評定す る際、精神安定剤に よって押 え られてい る と判断 した分の不快感を割 増 しした

(10)

ために、興奮剤条件の被験者 よ り、刺激は不快 で あると評定 した と考 え ることがで きる。 実験 日こおける、一週間に渡 って全 く同 じ発熱 状態を示 した2つの ケースに対す る風邪の病状 の 評定結果に関 して も、同様な解釈が可能であ る。 解熱剤 と抗生 物質の投与 を受けているケースにつ いて判断す る場合 、当然、病状は薬の効果で押 え られてい ると考 え ることがで きる。 同 じ程度の病 状を示 してい る者が二人いて、一方の老だけが治 療を受けてい るとした ら、治療 を受けていて もな おかつ同 じ程度の病状 を示 してい るのだか ら、治 療 を受けいて る者の方が病気の程度は重い とみ な す スキーマが成立 してい ることを結果は示 してい る。 これ までみてきた実験結果は、生理的覚醒 の原 因 に関す る情報が情動経験に及ぼす効果を問題に し たい くつかの実験的研究を大筋 において支持 して い る(Davison & Valins,1969; Nisbett& Schachter,1966;Rossetal.,1969;Schachter& Singer, 1962; Schachter & Wheeler, 1962; Storms& Nisbett,1970)。 これ らの研究の中 で、本実験 と比較的類似 した事態 を問題に して る Storms& Nisbett(1970) の研究は、臨床場面-の応用可能性を開 くもの として注 目に値す る。彼 らは不 眠症に悩む学生 を被験者 として、偽薬を 「不 眠症の症状を促進す るもの」 (覚醒条件)、あ る いは 「不眠症の症状を抑制す るもの」 (リラ ック ス条件) として与 えたO その結果、偽薬を与 え ら れた 日の夜、覚醒条件 の被験者は普段 よ りもはや く寝 つけたのに対 し、 リラックス条件の被験者 は 普段に もまして寝つけなか った。彼 らは この結果 を次の よ うに解釈 した。 リラ ックス条件の学生 は、 今 日は リラックス して早 く寝つけ るに違いない と 思 ってベ ッドに入 ったのに、いっ もと同 じでなか なか寝つけない。 その結果、薬 で リラ ックス して いるに も関わ らず寝つけない とい うことは、 自分 の状態 がかな り悪いのだ とい う考 えに取 り付かれ て しまい、 ます ます寝つけな くな って しま う、 と い う悪循環に陥 ることにな る。他方、覚醒条件 の 学生 の場合、今 日、 目が冴えてい るのは薬を飲 ん だせいで 自分 の不眠症 のせ いではない、 と考 え る ことがで きるため、逆 にいつ もよ りリラ ックス し て早 く寝つ くことがで きる。 -86 -生理的覚醒の程度 に関す る情報が情動経験 に及ぼ す効果 について 実験 Ⅰの結果は、仮説の通 り、偽 りの脈拍が増加 す るのを知覚 した被験者は、その時見ていた刺激写 真を脈拍が変化 しなか った刺激写真 よ りも不快 で あ ると感 じた ことを示 してお り、従来の研究結果 を支持 してい る(Bareroot & Straub, 1971; Goldsteinetal.,1972;Hirschman,1975;Kerber & Coles,1978;Sterne′″/リ1972;Thornton& Hagan,1976;Valins,1966;Valins&Ray,1967)

0

Valins(1966)は情動経験 に及ぼす生理的覚醒 に ついて、純粋に認知的な役割を重視 してい るが、 この ことは情動経験において実際の生理的覚醒 が 必要条件 であるとしたSchachterの見解 とは対立 す る。Valinsの研究以降、偽 りの心拍変化の フ ィ ー ドバ ックと実際の生理的変化 との関係に焦点を あてた研究がい くつかな されてい るが、それ らの 多 くは主観的な情動経験の規定因 としては偽 りの 心拍変化 の フ ィー ドバ ックの方が有力であること を示 している(Goldsteineial.,1972;Harris& Katkin,1975;Hirschman,1975;Kerber&Coles,

1978:Sternetal・,1972)

O

偽 りの ものであるにせ よ、実際の ものであるに せ よ、生理的覚醒 の程度に関す る情報が どの よう に情動経験に影響 を及ぼすかについて、 Nisbett & Valins(1971)は次の よ うに述べてい る。彼 ら に よれば、その過程は仮説 形成 一仮説検証 とい う 連鎖 を含む、極めて能動的な ものである。つ ま り 特定の ヌー ド女性のス ライ ドに対 して 自分 の心拍 が変化す るのを知覚 した被験者は、 「自分の心拍 の変化は、その女性が魅力的であ ることを示すだ ろ う」 とい う仮説 を形成 し、その時見ていたス ラ イ ドをあ らためて観察す る ことにな る。観察の結 果、仮説を支持す るよ うなその女性の魅力的な特 徴が見出 されて始 めて、その女性 に対す る魅力評 定が高 まることになる。 しか しなが ら、 この よ うな仮説形成 一検証 とい う能動的な過程が発動 してい るか ど うかについて は疑問がある。実験 用で示 された ように、被験者 は他者の生理的指標の変動か らその時 々の心理状 態 (不快感) を推測す るこ とがで きたが、 この場 合 には仮説形成 一検証 とい う過程が発動す る余地 はない。つ ま り脈拍の変化は刺激が不快であるこ

(11)

とを示す とい う仮説 を形成 し、それ を検証す る と い うよ りは、単にその よ うなスキーマが発動 した 時点 で刺激 に対す る評価、不快感の推測はな され てい ると考 え られ る。 本研究は情動の規定因や、情動経験 と生理的反 応 との関係を明 らかに しよ うとす るものではない が、主観的な情動経験 において社会的、認知的要 因が重要な役割を果 してい ることを示 してい るO 自己知覚過程、帰属過程は、行為や内的状態 を因 果関係 とい う文脈 に中に位置づけて理解す ること であ り、その際、我 々は様 々なスキ ーマに基づい て解釈 を行 ってい る

「手に汗をに ぎる」、 「胸 を踊 らせ る」、 「身 の毛が よだつ」、 「顔か ら火 がでる」 とい った様 々な慣用表現に見 られ る よう に、情動経験 と生理的反応 との関係について も、 暗黙 のスキ ーマが成立 してい る。 この ような スキ ーマが存在 しているために、情動の規定因に関 して 誤 った原因帰属が生 じ、生理的覚醒に関す る偽 りの 情報が もた らされた時には、実際の生理的覚醒状 態 にはかかわ りな く、偽 りの情報に基づいた情動 が経験 され るとい う現象が生起す ることにな る。 引用文献

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体一解剖 と機能 (第2版) 医学書院

参照

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