小脳プルキンエ細胞興奮性シナプス伝達における
グルタミン酸トランスポーターに関する研究
高
安
幸
弘
は じ め に 中枢神経系興奮性伝達の主体をなすグルタミン酸性シ ナプス伝達において,AMPA 型グルタミン酸受容体は受 容体は, 特に早い信号伝達を担っている. ここでのシナ プス伝達では, 極めて速い信号伝達を可能にするために, 数 msという短時間に高濃度のグルタミン酸が放出され, 瞬く間に大部 のグルタミン酸はシナプス間 から細胞 内へ回収される. この回収は唯一グルタミン酸トランス ポーターによって行われる. 中枢神経系におけるグルタ ミン酸トランスポーターは GLT1, GLAST, EAAC1, EAAT4の 4種類のサブタイプが同定されており, 小脳 皮質のプルキンエ細胞興奮性シナプスの周囲には, これ らすべてが発現している. GLT1と GLAST は主にシナ プスを取り囲むグリア細胞に, EAAC 1と EAAT 4は神 経細胞のシナプス後部樹状突起周囲に発現している. 今 回, 各グルタミン酸トランスポーターの欠損マウスおよ び薬理学的手法を組み合わせシナプス伝達における機能 的役割の違いについて調べた. 方 法 と 結 果 急性小脳スライス切片を作成し, 平行線維-プルキン エ細胞シナプス (PF-PC synapse),登上線維-プルキンエ 細胞シナプス (CF-PC synapses) それぞれについてパッ チクランプ法を用いて興奮性シナプス後電流 (EPSC)を 記録した. 野生型マウスでは, 非選択的グルタミン酸トランス ポーター阻害剤 TBOA により, EPSC は著しく 長した (図 1). トランスポーターよって回収されず貯留したグ ルタミン酸によってシナプス後部 AMPA 型受容体が持 続的に活性化すること, 及び活性化シナプスからグルタ ミン酸が漏出 (spillover) し周辺の非活性化 AMPA 型受 容体を活性化することが, そのメカニズムであると え られた. 次に GLAST および EAAT4の欠損マウスを用いて 実験を行った. シナプス間 のグルタミン酸濃度を EPSC の時間経過に直接反映させるため, CTZ に て 99 Kitakanto Med J 2010;60:99∼100 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 平成21年11月24日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 高安幸弘 Fig.1 小脳プルキンエ細胞興奮性シナプスにおける TBOA の作用AMPA 型受容体の脱感作を抑制し, EPSC の時間経過を 比較した (図 2). 結果, GLAST 欠損マウスでは EPSC decayの初期相で, EAAT4欠損マウスでは後期相で, そ れぞれ遷 が顕著に観察され, グルタミン酸トランス ポーターのサブタイプによって経時的な作用点に差があ ることが かった. さらに, GLAST 欠損マウスにおいて観察される登上 線維の多重支配が, すでに単独支配が完成した野生型マ ウスにおいてグリア型グルタミン酸トランスポーター選 択的阻害剤 (PMB-TBOA) より, 薬理学的に再現できる ことが判明した (図 3). そのメカニズムとして,GLAST 欠損あるいはグリア型トランスポーターの機能抑制に よって, 隣接するプルキンエ細胞間にグルタミン酸の inter-neuronal spilloverが生じることが明らかになっ た. 一方, EAAT4欠損マウスにおいて, 代謝活性型グルタ ミン酸受容体 (mGluR) の活性化が亢進し, これがシナ プス後部辺縁でのグルタミン酸濃度上昇に依存している ことを示した. 察 と ま と め 一連の研究にて, 各グルタミン酸トランスポーターに おける別々の機能的特性が示された. これらは, 各サ ブタイプの発現部位, 発現量, グルタミン酸に対する親 和性などによって制御されていると えられた. 参 文 献
1. Takayasu Y,Iino M,Ozawa S : Roles of glutamate tran-sporters in shaping excitatory synaptic currents in cerebel-lar Purkinje cells.Eur J Neurosci 19 : 1285-1295,2004 2. Takayasu Y,Iino M,Kakegawa W,Maeno H,Watase K, Wada K, Yanagihara D, Miyazaki T, Komine O, Watanabe M, Tanaka K, Ozawa S : Differential roles of glial and neuronal glutamate transporters in Purkinje cell synapses. J Neurosci 25: 8788-58793, 2005
3. Takayasu Y, Iino M, Tanaka K, Ozawa S : Glial glutamate transporters maintain one-to-one relationship at the climbing fiber-Purkinje cell synapse by preventing glutamate spillover. J Neurosci 26: 6563-6572, 2006 4. Nikkuni O, Takayasu Y, Iino M, Tanaka K, Ozawa S :
Facilitated activation of metabotropic glutamate receptors in cerebellar Purkinje cells in glutamate transporter EAAT4-deficient mice.Neurosci Res 59 : 296-303,2007
小脳プルキンエ細胞興奮性シナプス伝達におけるグルタミン酸トランスポーターに関する研究
Fig.2 野生型, GLAST および EAAT4の欠損マウスにおけ る CTZ 存在下の EPSC の比較
Fig.3 GLAST 欠損マウスおよび PMB-TBOA 存在下におけ る登上線維の多重支配
Fig.4 EAAT4欠損マウスにおける代謝活性型グルタミン酸 受容体 (mGluR) の活性化