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文系学生のための生物学教材の改良(そのI) : 赤い花・青い花の秘密 利用統計を見る

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文系学生のための生物学教材の改良(そのI) : 赤い

花・青い花の秘密

著者名(日)

山岡 景行

雑誌名

東洋大学紀要. 自然科学篇

49

ページ

61-85

発行年

2005-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00002498/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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文系学生のための生物学教材の改良

その1:「赤い花・青い花の秘密」

山 岡 景 行*

Improvment of Teaching−materials on Biology for

  the Departments of the Humanities Students

  I:“The Secret of the Red and Blue Flowers”

Kageyuki YAMAOKA

      Abstract  The author first groped for what is an attractive and suitable theme of the Biology and Expeiment Course for the Departments of Humanities students, who are rather not interested in the scientific fields、 The theme“Flower color and plant pigments”was then selected out、 The reason is that nobody must hate the flowers and everybody must be interested in polyphenols including anthocyanins, because of their commercially famous efficacies as medicines and“supplements”. The story for about 12 class hours was planned and 7 types of student experiments were designed on the basis of following standpoints:the safety is the first, the interest and con− cern which the students will hold are the second, the simplicity and economical efficiency which can bear a small budget are the third. The story and experimental designs were briefly introduced. Key words:生物学,学生実験,1)etuniα, anthocyanin, pH,錯体

はじめに

 東洋大学の文系5学部では2005年度に朝霞校舎から白山校舎に移転するが,近年受講 者数が減少傾向にある生物学実験講義は危機的打撃を受ける可能性がある.学生実験施設 設備や予算の削減,教育補助要員の大幅もしくは完全な削減があり得る.科目存亡の危機 に当たり改めて学生の履修動向を点検し,限られた条件下でも実施可能な講義内容を工夫 して学生の興味・関心を喚起すると共に,担当教員としても教鞭を取る意欲を維持し得る *東洋大学自然科学研究室 〒351−8510埼玉県朝霞市岡2−11−10  Natural Science Laboratory, Toyo University,11−10,0ka 2, Asaka−shi, Saitama 351−8510, Japan

(3)

62 Kageyuki YAMAoKA

 100

  90   80   70

受66…

講   50 者   40数   30   20   10

  0

   80       85       90       95       00       年度     図1 第1部生物学実験講義2クラス分の受講者の推移  1クラス32名,合計64名の定員制で履修者を決定してきた2クラス分 の履修者合計数の推移を示す.過去32年の就労期間中1980年度から2004 年度までは成績データをデータベース化したので履修者数のデータが手元 に存在する期間である.図中の点線は1986年度以前,86∼98年度,98年度 以降の3期に分けた場合の直線回帰による傾向線を示す.81年度は海外留 学のために,91年度は国内特別研究により科目担当がなかった年度である. レベルを下回らない授業内容を開発する試みを行うことにした.  生物学実験講義注1)の受講者数は,近年,急激な減少傾向を示している(図1).1986年 度までは施設設備の制約から定めた1クラス32名の定員をオーバーする希望者があり, 履修者を抽選で決定せざるを得なかったので,受講者はほぼ定員通りであった.生物学実 験講義は一般教育課程の履修者には厳しという評判が定着していたが,一定程度学生を惹 き付けていたことになる.98年度前後までは定員を超す履修希望者がなくなり,漸減傾向 の中で全希望者を受け入れてきた.98年度以降は,授業内容に大幅な変化がなかったに も係わらず履修者数が激減し,時間割配置曜限を工夫するなどしたが効果は認められなか った.96年度と2000年度に行われたカリキュラム改革と03年度に実施されたwebシス テムによる履修登録制度は実験・実習講義を履修可能な学部学科を制限したが,これ等は 生物学実験講義の受講者数の推移に関する限り,直接の関係がなかったように見える(図 1).したがって,この講義に限れば,テーマや授業内容が最近の平均的な学生の好み,あ るいは能力の変化に対応できていなかったと考えざるを得ない.そこで,白山移転に伴う 教育条件の著しい制約下でも実施可能,かつ学生等の関心を惹起し得るテーマの選定と授 業内容の工夫が必要ということになる.その為の試行錯誤の結果を今後,順次報告してゆ ’F▲ カ物学実験講義:大学設置基準では19条2項で規定される教養的教育として,形式的には学部の委嘱 に基づいて自然科学委員会が開講している,少人数定員制の実験を伴う自然科学の科目である.通年開講 の場合は4単位,春・秋セメスター制では各セメスター2単である.卒業必要単位として認めるか否かは 各学部,学科の判断である.

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生物学教材研究1赤い花・青い花 63 くことにする.

テーマと授業運営方法の検討

 (1)従来の授業  先ず,学生の興味関心を惹き付けられなくなった授業内容の再点検をする.  生物学実験講義では,前期・後期の各テーマの下で,それぞれ基礎知識の講義を行って, 実験・観測方法の紹介と技術的訓練,数値データのグラフ化を含む統計処理法の演習を行 い,前期・後期それぞれ3∼4種類の一連の実験・観測を行ってデータを読み,総合し, レポートに取りまとめることを指導してきた.  前期は,シラカシ(Quercus myrsinαefolia)を用いて樹冠表層と下層から採取した葉 の組織・形態を比較観測し,光合成色素をTLCで分析し,1個体には教科書的な「陽葉」 と「陰葉」のみならず,両者の中間的な様々な葉が存在することを認識し,光環境への適 応的意味を考察することを指導をしてきた.後期はキイロショウジョウバエ(Drosophilα melαnogαster)の白眼突然変異と赤眼野生型系統の3世代に渡る交配実験を行い,結果 を統計学的に処理し,性決定様式と伴性遺伝における遺伝子の実在とその挙動を認識させ る,というものであった.  前期には,大部分の受講者がデータ処理や,複数の実験データを総合的に解釈する経験 がないために,オフィスアワーは助言を求める多数の学生の個別指導に時間が費やされた. レポートは添削後に返却して講評し,担当者が書く「模範レポート」と比較させ,内容の 再確認と表現方法の再指導を行った.これを経ることにより,概して後期レポートは格段 の進歩を見ることができた.  受講者の成績データは,90年度代以前には約30%がAを取得していたが,90年度代以 降はB,Cが相対的に増加し,平均的な学生は上記の授業のやり方に耐えられなくなって いた.にもかかわらず,担当者は何とか指導しようと,悪あがきをしていたことになる. しかし,今日でもD以下の評価を受ける学生は,年度当初に出る若干の脱落者以外は存 在せず,担当者としては救いである.  ② 新たなテーマの選定基準  文系学生が履修したくなる自然科学の授業とは何か,という問の答えは難しい.「楽勝 科目」と評判されるコースに履修者が殺到する中でも,以前には向学心を満足させ得る科 目への関心も,一定程度維持されていた.近年は安易な科目の選択傾向が一層強まってい る.何れは親となる彼等に理科の楽しさを知らせないと,「理科嫌い」の再生産をするこ とになる.基本的には理系に苦手意識を持つ学生を魅了し,履修行動を惹起しうる一気呵 成の解決策があるわけではない.文系の一般的学生に敬遠されたり拒否反応を起こさせな い,消極的な対策になる.すなわち,  ①身近で日常的な,誰でも興味関心を持ち得る,例えば健康に関連するテーマを選び, ②数値データの処理を義務付けたり実験結果を総合してレポートにまとめるような,   学生の苦手意識を助長するようなことを要求しないことになろう.  なお,教養的教育において,実験に決定的な失敗をする体験は教育効果を著しく損ない,

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64 Kageyuki YAMAOKA それが後輩達に伝わって履修動機を損ないかねないので,極力避けなければならない.  以上の条件に加え,2005年度から始まる利用可能な施設・設備の大幅な制限と,あり 得る予算削減に対応し,実行可能と判断できるテーマを決めることにした.  (3)新たに選定したテーマ  選定したテーマは,植物,特に虫媒花の進化と適応をキーワードとした,花色に関す る一連の講義と実験である.本報はその第1弾としてanthocyanidin系色素に焦点を当 て,植物がこの種の色素を持つに至った適応の姿を理解させるための授業内容と実験メニ ューCおよび学生向けの実験手引きの工夫を報告する.花色を対象としたのは以下の理由 による.  ①花は,誰であれ特別に好まないまでも,特に嫌う者はあり得ない.  ②色彩豊かな花色は,花粉の媒介を動物,特に昆虫に委ねたことから進化した. ③その様な花自体は葉から進化した.  ④花の色素は比較的簡単で,chlorophyllやcarotenoid, flavonoidおよびbetaleinの   範囲で大凡カバーでき,取り分けflavonoidが発達している.  ⑤flavonoid,特にanthocyanin系色素は比較的簡便に抽出して分析でき,色が条件   によって明快に変化し,文系学生にも強い印象を与え得る実験が可能である. ⑥flavonoidは,例えばpolyphenol, catechin, isoflavon等が機能性食品や,いわゆ   るサプルメントの商業宣伝によって消費者意識に深く浸透し,「正体を知らないまで   も」身近な存在になっている. ⑦花は生命の生殖戦略とその進化を考える上で格好の素材たり得るし,虫媒花を対象   とすれば昆虫の採餌行動や視覚生理との関係に話が及び,生物の相互作用を理解させ   る上で好ましい教材たり得る.

2004年度後期(秋学期)の授業内容

 (1)授業スケジュー一一一ル  今年度の秋学期は通常授業が12回である.第1回の授業前半は,秋学期からの履修希 望者のオリエンテーションに,後半は春学期からの継続履修者が提出したレポートの講評 に当てる.最後の授業は秋学期の授業のまとめに使うために,実質的な授業回数は10回 しか確保できないので,表1のように時間配分した.  2004年度はセメスター制下,最初の秋学期で,学生実験の組換えと準備が不十分で, 必ずしも生物材料の適期と授業スケジュールが整合していない.来年度以降もこの科目が 存続し得るならば,Z)etuniαやツユクサ(Commelinαcommunis)の開花時期を考慮して 春学期に回すべきであろう.なお,生物学実験講義が消滅するようなことがあれば,簡 単なデモンストレーション実験を含め,通常の講義科目である生物学で扱うことも出来よ う.  ② 材料  市販されていて入手し易く,扱い易いことを条件とした.当面はペチュニア(Petuniα hybridα)を用いる.本種の園芸品種のサフニア(サントリー・フラワーズ株式会社,

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       生物学教材研究:赤い花・青い花 表12004年度白山校舎秋学期生物学実験講義スケージュール 65 日付と授業回数 授 業 内 容 10月07日  1 講  義 授業概要説明・秋期履修者決定・前期(春学期)レポート 講評 10月14日  2 講  義 花の起源と進化:隠花植物から顕花植物へ,裸子植物から 被子植物へ 10月21日  3  講義と観察 被子植物の花の構造①花は葉が変わったもの  花の各部 と名称:サフィニアの花のスケッチ 10月28日  4 観  察 花の構造②花の解剖と花式図:サフィニアの解剖と花式図 11月04日 学園祭 休講 11月11日  5 講  義 植物の色素:特にpolyphenolの仲間 11月18日  6  講義と観察 (講義)光と色&ヒトと昆虫の色覚,(デモ実験)花弁の反 射スペクトル 11月25日  7  実験と講義 (実験)色素の薄層クロマトグラフィー,(講義)TLCの 原理&花色の発現メカニズム 12月02日  8 講  義 Anthocyanidinの配糖体,色に及ぼすpHの影響,錯体 概説 12月09日  9  講義と実験 (講義)材料の前処理紹介&抽出ということ, (実験)Anthocyaninの抽出(次週には色はどの様になっ ているか?)

12月16日 10

実 験 Anthocyaninの色調に及ぼすpHの影響。サンプルは 1/13使用のため冷蔵保存 12月23日 祝日休業 12月30日 冬季休暇 1月06日 補講期間,通常の授業は休講 1月13日  11 実  験 Anthocyaninの錯体形成 1月20日  12 講  義 授業のまとめ 1986年以後発売)や,キリンウエーブ(キリンビール社,1995年以後発売)は花期が4 月から10月に及び,最寄りの園芸店で入手可能であり,条件に適合している.しかし, Pet“niαの主要anthocyanidinはpetunidinとされるが(Bonner and Galston,1952), 花弁のメタノール素抽出物を薄層クロマトグラフィー(thin layer chromatography, TLC)にかけると多種類のanthocyaninが検出され(図9),物質名を同定することは容 易ではない.  使用するPetuniαの品種は,極端な花色の差がある例として,サフィニア・パープル, パステルピンク,バイオレットおよびレボリューションホワイトの4種とし,花そのもの を用いる場合は市販の鉢植えを入手して,そのまま,あるいは肥培管理して用いる.

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66 Kageyuki YAMAoKA  花弁から色素を抽出する場合,生の花弁を学生に与えることも時期が合えば可能である が,比較的多量の花弁を用いるので,肥培管理して採取した花弁を乾燥粉末にして提供す る.必要に応じ,比較のために1)etuniα葉の乾燥粉末も準備する.試料の乾燥は次のよう にする.採取した新鮮な花弁等の生重量を計量後,木綿またはクラフト紙で作った袋に入 れて乾燥用シリカゲル(中粒状・青色)を十分量入れたジッパーバッグ中で1週間ほど 乾燥する.この間,シリカゲルの色を目安として必要に応じて交換する.乾燥後,乾重量 を計測して水分率を求める.水分率は平均89%であった.同様にしてPetuniαの葉も乾燥 する.葉の水分率は78%であった.花弁と葉は乾燥後,乳鉢で粉末にして冷暗所に保存す る.  Petuniαと比較するために,学生の日常生活に密接,もしくは関心を持つと思われる材 料としてブドウとナスの果皮も適宜,用いることにした.ブドウは巨峰(キャンベル・ア ーリーの枝変わり系統「石原早生」とオーストラリアの品種「センテニアル」を交配した 4倍体品種),ナスは中ナス系の「千両2号」とした.いずれも自宅庭で栽培しており入手 が容易なためである.ナスは金属錯体を確認する実験材料とするためであり,かつてヌカ 漬けに焼きミョウバンを加えて茄子紺を発色させたことと絡め,またブドウは「健康志向」 で有名なブドウのpolyphenol,すなわちoenocyanineを扱うためである.  巨峰の果皮は多量の水分を含むために扱い難いので,漿果の肉質部と種子を除去して一 度風乾し,シリカゲルで乾燥する.シリカゲル乾燥物は風乾物を基準として重量比約45 %であった.シリカゲル乾燥後も糖含量が多くて乳鉢では粉砕できないので製粉器(万能 製粉器ひきっ粉300タイプ,東京ユニコム)にかけて粉する.  Anthocyaninの金属錯体に関連した実験で,花弁色素から金属錯体を発見した歴史的 材料であるツユクサ,Commelinαの花弁の乾燥粉末も準備する. Commelinαの花弁は極 めて小さく,500個の花から集めた花弁の生重量はわずかに4.8grであったが,同様にし て乾燥粉末を作成する.水分率は約92%であった.なお,滋賀県草津市特産の青花紙を入 手する努力をしているが,それが実ればcommelininの試料の入手が容易になるであろう.  (3)色素の抽出  サフィニアの花弁,および対照とした葉のシリカゲル乾燥粉末の生重量換算1grをガ ラス乳鉢に入れ,少量の99.8%メタノールで良く磨り潰し,トータル10mlのメタノール で乳鉢からロートに移して濾過し,濾液を素抽出液とする.同様にして,ブドウ果皮は風 乾物換算で1grを10 mlのメタノールでガラス乳鉢により磨り潰して濾液を色素液とす る.ナスの果皮も生重量換算1grから同様にして色素液を調整する. Commelinαの花弁 の色素であるcommelininは水溶性であるので,生重量換算1gr乾燥粉末から10 m1の水 で抽出して濾過したものを色素液とする.  ㈲ 授業内容  第1回授業(講義) オリエンテーション・前期レポートの講評  第2回授業(講義)花の起源と進化①植物の生殖方法と花のタイプ概説

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生物学教材研究:赤い花・青い花 67  植物の生殖法を

朧{灘璽騒曇鳥媒花

に分けて説明し,隠花植物と顕花植物,水媒花や風媒花から虫媒花や鳥媒花への進化をそ れぞれ,典型的な花のスライドを交えて説明し,被子植物の花が概して大く色彩豊かな花 弁を持つ適応的意味について,花粉媒介動物の視覚への適応戦略として概説する.  花形成遺伝子のABCモデル(図2)に基づいて,花が葉を起源とすることを説明する. ついで,シロイヌナズナ(Arαbidopsis thαliαnα)とリチャードミズワラビ(Cerαto一 正 変異2 A A+BB+C C     Ni頁 A A C C    全変異 全領域で葉が形成される 変異1 変異 CB+CB+CC A A+BA+B A        図2 花形成遺伝子のABCモデル  花原器には周辺部から中心部に向かって1∼IVの領域が同心円上に存在すると考える.正常な 花:領域1とIIは遺伝子Aが, IIとIIIはBが, IIIとIVはCが関与しており,領域1は遺伝子 Aが単独,IIはAとBが, III°はBとCが, rVはCが単独で関与している.遺伝子Aが単独に 働くと薯が形成され,遺伝子AとBが共に働くと花弁が,遺伝子BとCが共に働くと雄蕊が, 遺伝子Cが単独に働くと雌蕊が形成される.変異1:遺伝子Aが異常となり雌蕊と雄蕊のみが形 成される.変異2:遺伝子Bが異常となり,蓼と雌蕊のみが形成される.変異31遺伝子Cが異 常となり,薯と花弁のみが形成される.遺伝子A,B, C全てが異常,もしくは働かない状態で 葉が形成される.

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68 Kageyuki YAMAoKA        図3サフィニアの花のスケッチ例  a:やや前方側面から見た図.花冠と享片や子房の位置関係を把握する. b:前方から見た図.花冠および雌蕊と雄蕊を確認する. petris richαrdii)の花形成遺伝子の比較解析によってリチャードミズワラビの遺伝子が 被子植物型MADS遺伝子であることが分かり(例えばLawton−Rauh etα1.,2000),進 化の過程で花の形成のために遺伝子が新たに出現したのではなく,隠花植物に既に存在し ていた遺伝子が機能を変えることによって花の形成を制御するようになった,と考えられ ていることを紹介する.また,花の構造を風媒花の針葉樹やイネ科植物の花の構造,虫媒 花を中心として被子植物の離弁花,合弁花の花の構造を比較説明する. 第3回授業(実験)被子植物の花の構造①Petuniaの花の観察・スケッチ  Petuniαの花を,花弁,柱頭,菊,享が全て見うる角度から観察・スケッチさせて,構 造を把握させる.この種のスケッチは少なからず「絵心」を要し,簡単な線画に過ぎない 図3でも筆者は約1hrを要した.従って,基本的にはスケッチの上手,下手ではなく 「如何に要点を把握し,スケッチの基本に従って表現しようとしているか」を評価基準と する. 第4回授業(実験) 花の構造②Petuniaの花の解剖と花式図  解剖することにより花弁と雄蕊の位置関係を含む構造や,子房の位置関係を把握させる (図4).しかし,Petuniαの花は合弁花なので慣れない学生にとって離弁花のように花の 各部を分離して把握することが難しい.そこで,簡単に花の構造を調べる方法を工夫した (図5).  一方の親指と人差し指で花柄を摘み,片方の親指と人差し指で花柱を摘まないギリギリ の部位で花弁を摘み(図5a),花弁を引きちぎる(図5b).多くの場合,図5dのように柱 頭と菊が露出するので容易に花式図(図5e)を描ける状態になる.露出が不十分の場合は 雄蕊を傷つけないように小型の先頭解剖鋏で花弁を切除する(図5c)t  さらに,雌蕊や雄蕊を傷つけないように注意しながら花弁と夢を鋏で切開し,子房を露 出させ,雄蕊や雌蕊と花弁との関係,子房との位置関係を把握してスケッチさせる.切開 しただけでは花弁が丸まってしまうので,「開き状態」で細く切ったセロハンテープで台 紙に固定させると簡単に切開した状態を保持できる(図5f).これ等の解剖と観察結果に

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生物学教材研究:赤い花・青い花 69

d

   烏

●●

   ●      図4Petttniαh.y bridαの花の解剖  a:側面図,b:花弁と亨を切開した図,c:雄蕊,菊, 雌蕊,子房の拡大図,d:花弁を雄蕊と融合している部分で 切除し,雄蕊を基部で切断して展開し,雌蕊と分離した図.

a

b

C

へ f       図5Petunia hybridaの花の学生による花の解剖  a:柱頭を避けて,花弁と花柄を指で摘む,b:引きちぎるように花弁を除去する, c:柱頭や 杓が露出しない場合は花弁を鋏で切除する,d:柱頭と莉が露出した状態, e:花式図, f:雌蕊 や雄蕊を傷つけないように注意しながら花弁と亨を鋏で切開し,∫房を露出させ,雄蕊や雌蕊と 花弁との関係,子房との位f置関係を把握する.最後に了房部分で切断し,胚珠と「心皮」の枚数 を確認し,花式図を完成させる.

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70 Kageyuki YAMAOKA (e)    8 HO

lグ

 A

6s薄

 OH

(b)臥。ぷ   …  ii   ・c>c・H    山   phenof (d),ノ (c)

  pyran  1     2≡ぞ         benzopyran

〔i籔(f)

anthocyanidinのC6−C3−C6基本構造 3,5,7−trihydroxy−2−phenyl benzopylium         HO    eH

⑩℃◎ご:

 H−0 (→−epigallocatechin−3−gallate (EGCG)

図6

o    ,・”−x.

ぶ〕戸

    ’bH  o fiaVOfi  a:polyphenolのカテゴリー概念図, b:phenol, c: d:benzopyran, e:anthocyanidinのC6−C3−C6基本構造(A:A環, B:B環, C:C環),多 くのanthocyanidinは3位(まれに7位)にブドウ糖やガラクトース,ラムノース,アラビノー ス等の糖が結合してグルコシル化(配糖体になる)してアントシアニン(anthocyanin)となっ て植物体に存在し,糖は更に酢酸やマロン酸,ヒドロキシ安息香酸などと一CO一結合(アシル化) して安定する(図11参照),f:flavonoid, g:緑茶のcatechinの一種(→−epigallo catechin−3− gallate(EGCG). Catechin類の健康機能作用は従来,高い抗酸化作用と関係するものと考えら れてきたが,数種類知られている緑茶catechinの内でガン細胞の増殖抑制効果を持つEGCGに ついてガン細胞の表面に結合する受容体分子が確認され,これが抗ガン作用のメカニズムと深く 関わっていることが解明された(Tachibana etα1.,2004). Polyphenolの化学構造の基本         pyran(上,4H−pyran;下,2H−pyran), 基づいて,予め波線で同心円と72℃の放射軸を印刷した用紙に,花式図をまとめさせる. 第5回授業(講義)植物の色素についての基礎知識  先ず,植物の花の色素として知られている物質を紹介する.すなわち,   carotenoid(caroteneとxanthophyll), flavonoid(flavone類とanthocyanidin),   betalein(betaxanthin美頁とbetacyarlin類)  この授業ではanthocyanidin系の色素に焦点を合わ, polyphenolの仲間としての化学 構造を概説する(図6).  単純に授業の主題であるanthocyanidin系の色素とその仲間について紹介しようとす ると,有機化学,生化学の話に偏りがちになり学習の意欲を低下させかねない.そこで,

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生物学教材研究:赤い花・青い花 71 近年の健康志向と健康食品の宣伝効果で,少なくとも名前は良く知られるようになった polyphenolの仲間の「知名度」にあやかってラポートをつけるように努める.  すなわち,緑茶のcatechinである(一)−epigallocatechin−3−gallate(EGCG)の強い抗ガ ン作用(Tachibana etα1.,2004;Saeki etα1.,2002, etc)や赤ワインの“polyphenol” として知られるmalvidin−3−glucoside等の健康機能性(抗酸化作用,抗癌作用,コレステ ロール低減作用,血圧上昇抑制作用等)を紹介しつつ,このグループの物質が何故“poly− phenol”と呼ばれるか, benzen核, phenol, pyran, benzopyran,そしてpolyphenolの C6−C3−C6構造を理解させるように意図した(図6).また, anthocyanidin系色素が植物 界に広く分布し,例えば多くの植物の新梢の葉に多量に含有されて紫外線を吸収して幼葉 の細胞のDNAを保護iしていると考えられていること等を紹介し,葉の花弁化とantho− cyanidinの花色への貢献を関連づけて考えさせることを意図した. 第6回授業(講義とデモンストレーション実験)花弁の反射スペクトル (講義)光と色  花弁の色彩と色素との関係を把握する最初の実験として,花弁の分光反射スペクトルを 把握させておきたい.とりわけ,紫外部の反射スペクトルを見せておくことは,虫媒花に とって昆虫の視覚スペクトルとの関係で大切であるし,植物葉の紫外線防御機能と花の色 素との関係を理解させる上で重要である.  それに先立ち,光が電磁波の一領域であること(表2),および物体の色は反射光,透 過光を動物の視覚器が捕捉し,動物側の光受容機と脳の働きで知覚されるものであること 表2電磁波の種類と特性 波長〔m) 名称 特徴と用途 10δ以上 1ぴ 1ぴ 101 103 1ぴ 電     波 10 10−1 10−2 ウマ Gイ Pク vロ 10一101 超低周波 エ長波 @長波 @中波 @短波 エ短波 ノ超短波 Zンチ波 @ミリ波 Tブミリ波 ヤ外線 ツ視光線 ㈱O線

@X線

@γ線 電磁界という.高圧送電線や家電製品から発生し,健康被害が懸念される. 燈福ノ届き,水中にも浸透するので,潜水艦との交信のような軍事目的等に使用. n表では安定で,温度の影響もすくないので,船舶・航空機用ビーコン,無線航行等に使用. n表面を伝わり,低い山は乗り越えるので,船舶・航空機用ビーコンとともにAMラジオの搬送電波に使用. d離層で反射し,小電力で遠方まで届くので短波放送に使用. d波が直進する性質が明瞭で,航空管制通信,テレビ,FM放送等に使用. Aンテナが小さくてすむので,携帯電話,タクシー無線,航空機電話等移動体通信に使用, sい指向性があり,携帯電話,PHS,衛星放送,無線LAN,電子レンジ等に使用. 気中水分により減衰を受けやすいが,大容量通信に適し,衛星通信や各種レーザ [に使用. 通信システムに使用 エ子やイオンを振動させ.ほとんどが熱エネルギーに変換されるので,乾燥や赤外線ヒーター等に使用, lの視覚に感じる領域で,多くの動植物の色素が吸収する領域. ゥ虫のμ∫視領域.弱い紫外線でも長時間皮膚をさらすと炎症を起こすので殺菌灯や 叝トけサロンに利用.基本的には生物に有害. F宙からも降り注いでいるが波長が短いためオゾン層に吸収され地表にはほとんど ヘかない.感光作用,イオン化作用があり,医療用X線やCTスキャナーに利用. 厲ヒ線の領域で,高エネルギーで透過能力が高く数センチの鉛も貫通する.生体へ フ影響は大きく,原水爆の爆発でも発生する. 10’ 10オ’ 10.

光線

10.8 10−1 10−[「’ 10−1L /0.12 10]1 10’:

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72 Kageyuki YAMAoKA 0        i・       ︵∠         一       一 ≧﹀需⊆$苗Φε8Φ≧董Φ﹂03 400 500 600 700(nm) 図7 ヒト青・緑・赤錐体の受光スペクトル(岡部・伊藤,2002より転写・改変)  ヒト網膜の視細胞の内で色覚に係わる青錐体,緑錐体,赤錐体の受光スペクトル を示す.それぞれの錐体は受け取る光のエネルギーに応じて興奮を起こすが,興奮 程度の相対比が脳に送られて色彩をイメージする.緑錐体と赤錐体の受光スペクト ルは大幅に重複しているが,赤錐体のスペクトルが長波長側に広がっている事に注 意を促す.横軸下のパターンはヒトの色覚とスペクトルの大凡の関係を理解させる ためのものである.これ以外にも,教材としては昆虫の典型的事例としてミツバチ, 鳥の事例としてホシムクドリの受光スペクトルを提示して比較する. を講義する.すなわち,ヒトの視細胞の内で色覚に係わる錐体細胞は380∼780nmの波長 域を受光するが(図7),昆虫類,例えばミツバチはヒトの目には見えない300∼400nmの 紫外線が見えることが知られている事(Frisch,1971;Menze1,1990 etc.)を紹介する. さらに,トリの錐体受光スペクトルも紹介し,熱帯では鳥媒花が相対的に発達したために 赤系統の花色が発達し,温暖帯では虫媒花が中心となったために青系統の花色が発達した と言われていることと,動物の視覚生理との関係を理解させる. (デモンストレーション実験)  Petu.niαhybridaの園芸品種,サフィニアを用いて原則として色調を大きく異にする花 弁の反射スペクトルを測定して違いを示す.実験時期により複数の色調の花を準備できな い場合は,予め測定しておいたデータを併用する.  なお,使用できる分光光度計SM240−USB(Spectral Products, Conecticut, USA;日 本代理店,テクソル,浜松市)はwindows上で作動する解析用プログラムsM32Pro2.8.28 で制御し,標準反射板の反射光とサンプルの反射光の比率を求めるので,直接学生に操作 させるのは難しい.やむを得ず教員によるデモンストレーション実験とした.  反射スペクトルの測定には,SM240−USBに反射光測定アダプターAT450を組み合わ せた.測定レンジは320∼1000nm,スリット幅は10μmである.高価な標準反射板を購

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生物学教材研究:赤い花・肯い花 73

100

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  0     0   6     4 ︵芭8⊂理oΦ=Φ江

20

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●●馨

ノ\/ ρ〃 一purple −Vlolet  pink −white 350  400  450  500  550  600  650  700  750  800       Wave length(nm)       図8−Petuniαhybridαの花弁の反射スペクトル  各花色の10花の花弁ヒ表面からランダムに計測した反射率の平均値(n=10)を示す.波長軸 に付した連続スペクトルは可視光領域380 一一 780 nmを中心としたヒトの色覚の日安を示す.使用 品種は,サフィニア・パープル,バイオレット,パステルピンク,およびレボリューションホワ イトである.この順に可視光域の,反射率が高い波長域が長波長側も短波長側も広がり,また近 紫外部と紫外部の反射率が花色の係わらず高い. 入するまでの間は簡便な標準グレイ・プレート(脇色彩写真研究所,〒185−000東京都国 分寺市西恋ケ窪1−12−2)の裏面を基準に使用した.同研究所の実測データによれば400 ∼700nrnの反射率は87.82∼90,89%の範囲とされている.なお,色素抽出液の吸収スペク トルを測定する場合には,キューベットホルダーAT−SHCと20 Wタングステンハロゲ ンランプハウスASB−W−020R,および光量調整用に10%NDフィルターを併用した.  フレッシュなPetuniαの花弁の反射スペクトルを図8に示す.ヒトの色覚に対応してバ イオレット,パープル,ピンク、ホワイトの順に反射率が高い可視光域が長波長側・短波 長側共に拡大することを確認できる.波長400nm以下の近紫外部および紫外部の光が, 花色に係わらず良く反射されていることと,昆虫の色覚スペクトルとの関係を認識させる. 第7回授業(実験)色素の薄層クロマトグラフィー(Thin Layer Chromatography, TLC)  色調を.義的に決める要因は花弁表皮細胞に含まれる色素であるから,色素を抽出して TLCで分離し,花色によって異なることを体感させる実験である.ただし, TLCによる 展開には50分程度の時間を要し,色素の抽出を体験させる時間的余裕がない.そこで, 教員が予め行ったものを提供し,抽出操作は別途計画して体験させる.  使用するPetuniαの品種は,この実験でもサフィニア・パープル,パステルピンク,バ

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74 Kageyuki YAMAOKA イオレット,レボリューションホワイトであるが,比較のために同条件でサフィニア葉, および主色素がoenocyanine(malvidin−3−glucoside)とされるブドウ果皮のメタノール抽 出物をTLCにかけ,花弁にもchlorophyllやcarotenoidが含まれていることも確認させる.  使用するTLCプレートはシリカゲル60(TLC plastic sheets Silica ge160, Merck)で あり,展開剤はanthocynin類にはn一ブタノール:酢酸:水(以下, BAWと記す)=5: 1:1(v/v/v)を用いる.一一般的に,anthocyanin類用のTLCの展開剤はBAW=4:1: 5(v/v/v)の上澄み(早川史乃,2pOO), BAW=3:1:1(v/v/v)(Purdure Univ. Plant Physiology course Horticulture Class, TKC Laboratory Exercises)等が使われてい る.これ等では約10cmの展開に1時間以上の時間を要し,90分授業の組み立て上,展 開時間を可能な限り短縮する必要がある.様々な展開剤と混合比率を試したところ,基本 的にはあまり短縮することが出来なかったが,BAW=5:1:1(v/v/v)で多少時間が短 縮し,50分以内に完了して分離状況もほぼ満足するものであった.なお,chlorophyll類 やcarotenoidを展開して確認するためには,定法により石油工一テル:アセトン=7:3 (V/V)を展開剤に用いた.典型的な結果を図9に示す.

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1 0.5

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      lf−1 w pk pl v grp lf−2

 図9 薄層クロマトグラフィー(TLC)によるanthocyaninsの分析  a:サフィニアの花弁,葉およびブドウ果皮のメタノール抽出物の展開 結果,b:lf−2:サフィニア葉のメタノール抽出物の展開結果. TLC plas− tic sheets Silica gel 60(Merck)を使用. aの展開剤, n−butanol:acetic acid:H,・O=5:1:1(v/v/v), bの展開剤,石油工一テル:アセトン=7: 3(v/v).lf−1・lf−2:サフィニアの葉, w:レボルーションホワイトの花 弁,pk:同,パステルピンク, p1:同,パープル, v:同,バイオレット, grp:ブドウ(巨峰)の果皮. aの花弁の展開でRf≒0.97のスポットは1f− 2でRf値が大きい順に, carotene, chlorophyll a, b, lutein, anthera− xanthine, neoxanthineなどに分離された. Rf≒0.65,0.35の淡黄色の スポット(lf−1, w, pk, pl)は不明であるがflavonoidの可能性も考え られる.

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生物学教材研究:赤い花・青い花 75  BAWで展開した全ての品種と葉の抽出物からRf≒0.97のスポットが検出されるが, 同じ葉の抽出物を石油工一テル:アセトンで展開すると,Rf≒O.97のcarotene, Rf≒O.64 のchlorophyll aとRf≒0.58のchlorophyll b, Rf≒0.54のlutein, Rf≒0.42のanthera− xanthine, Rf≒0.25のneoxanthineに分離されるので(図9b), BAWの展開でRf≒O.97 のスポットはcarotenoidとchlorophyllの混合物と考えられる.  レボリューションホワイト(図9a, w)の花弁からはRf≒O.65と0.35にマイナーな淡 黄色(マンセル値,5Y9/4,以下同様)の, Rf≒0.97に黄緑色(5GY5/8)のスポットが 検出さるがanthocyaninは検出されない.パステルピンク(図9a, pk)の花弁からは赤 味が強いRf≒0.55(5P6/8),0.44(5P5/8)のスポットと青紫色のRf≒0.29(10B6/8)の スポットが検出される.パープル(図9a, p!)の花弁からはRf≒0.50にやや薄い赤紫 (5P6/8)の,0.40に濃い赤紫(10P3/10)のスポットと,0.30に濃青色(5PB4/12),0.28 に淡青色(5PB6/8)のスポットが検出される.バイオレット(図9a, v)からはRf≒0.50, 0.47に比較的淡い赤(10PB6/4)のスポット, O.3に青紫(5P6/4)の,0.2前後に非常に濃 い赤紫(5P3/8)のスポットが検出され, O.14に青紫色(10PB4/10)の比較的濃いスポッ トが検出される.  キリンウエーブ・ブルーの育種には,Petuniαはもとより,Petuniαと染色体数を異に する近縁種であるカリブラコアCαlibrαchoα,分類上遠縁なサクラソウ科のPrimulaや キョウチクトウ科のニチニチソウCαthαrαnthus roseus,ナデシコ科の倭星カーネーシ ョンの品種,ポットカーネーションDiαnthus cαryophyllus ¥の植物であることが公表さ れている(キリンビール,ペチュニア「キリンウェーブ」開発者インタビュー).このこ とから推測されるように,サフィニアから上述のように他種類のan七hocyaninが検出さ れるのは,品種改良に当たって多種類の花色遺伝子が導入された可能性があり,それぞれ のanthocyaninを同定することは容易ではないが,同定する試みが今後上手くゆけば一 度に他種類のanthocyaninを検出できる点は,かえって有利な教材となる可能性もある.  巨峰の果皮(図9a, grp)からはRf≒O.86,0.73,0.64,0.60に赤紫(5P9/4∼5P6/4)の スポットが,O.40,0.30に青紫色(5PB4/8∼5PB5/8)のスポットが検出された.0.30の スポットはサフィニア・パープルのスポットと一致するものと思われる.Rf≒0,60の赤紫 のスポットは,ブドウ果皮の主色素がoenocyanineであること(キリヤ化学ホームペー ジ,ブドウ果皮色素)から推察するとoenocyanineと推定される.  上述のように,n一ブタノール:酢酸:水=5:1:1による展開には約50分を要する. したがって90分授業でこの実験を行うためには,実験の意味などを講義の上で実験法を 説明し,実験を開始したのでは収まらない.そこで,10分程で実験方法の説明をデモン ストレーションも含めて終え,直ちにTLCに試料の吸着を始めさせて展開を開始させ, 展開中にTLCの原理等を含む実験の背景説明をすることにした.学生が原点への試料吸 着に失敗する等,様々な実験失敗が考えられるが,時間的にやり直しが不可能であるので, 予め試料を吸着したTLCを準備しておいて,失敗した学生に供給することにした.なお, 試料の吸着時に,簡単なヘアードライヤーを使用して試料の溶媒の乾燥を速めて,試料の 吸着を確実かつ迅速化した.

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76 Kageyuki YAMAoKA 第8回授業(講義) 色素の性質  いささか専門的になり,学生が拒否反応を引き起こすことが心配されるが,話の筋とし ては欠くことが出来ない部分であり,以下のような内容を概説する.  (1>Anthocyanidinの化学構造と色  Anthocyanidinは極めて不安定な化学物質であり,19世紀には発見されて命名されて いたが,不安定で結晶化も難しく,本質がなかなか知られなかったが,Willstatterによっ て20世紀初頭に結晶化され,化学構造が本格的に研究されたことを紹介し,Willstatter の数々の業績を,ノーベル賞受賞業績(The Nobel Foundation,2004)を含めて補足的に 説明する.  また,赤・青系統の花色を持つ植物から分離されるanthocyanidinの種類と化学構造に は一一定の関係がある,とするBonner and Galston(1952)の説を紹介する(図10).すな わち,anthocyanidinのB環(図6参照)の水酸基(−OH)とメトキシ基(−OCH,)の数 によって赤味と青味が決まる,というものであるが,例えばバラの榿色が主にpelargOni− dinに依る等,実体とは必ずしも一致しないことも紹介する.  (2)分子の安定化  Anthocyanidinは,天然物中でも最も不安定な物質の仲間であり,単独の溶液では直ち に変性してしまうが,細胞中で安定して存在できるのはanthocyaninになっているから であることを理解させる.すなわち,anthocyaninはanthocyanidinに糖の分子が結合し ていること,この様な糖と結合している物質を配糖体と言うことを紹介する.また,糖と 結合する物質を一般的にはアグリコンと言うこと,アグリコンであるanthocyanidinがグ ルコシル化した物質をanthocyaninと呼ぶ(図11)こと等を理解させる.  主要なanthocyanidinは意外と少なく,図10に示すpelargonidin, cyanidin, delpheni− din, peonidin, petunidin, malvidin,およびニチニチソウ(Cαthαrαnthus roseus)の hirsutidinを含めて20種類程度だと言われていることと,花の色彩の多様性との関係を anthocyaninの多様性の観点からも紹介する.すなわち,糖は3位,5位と7位で結合し (図6e,図10a),3位の炭素には主にglucose, galactose, rhamnose, arabinose等の単 糖類,これ等が基になった二糖類,三糖類が結合するが,糖の種類と結合部位の組合せに より極めて多様になることを講義する.  また,アシル化したanthocyaninが存在することが知られていること,アシル化とは アシル基(−CO−)で結合すること,この場合は配糖体の糖が有機酸とアシル基で結合する とanthocyaninが一層多様化することにも言及する.学生の興を削ぐことになりかねな いが,結合する有機酸にも多少は言及する、  結合する有機酸としては,桂皮酸,p一クマル酸,コーヒー酸,フェルラ酸等他種類が知 られていて,多くは3位の糖に結合するが,3位と5位に1個ずつ結合する例もあること, アシル化によって色素が細胞内に安定して存在できるようになるとともに,更に他種類の 物質として,それぞれ固有の名称が与えられていることを話す.しかし,例えば,図11bは ナスの果皮に含まれて濃紺を呈するnasuninを具体的事例として, anthocyanidinがde1− phinidin,3位の炭素にrhamnoseとglucoseからなる二糖類が結合し, glucoseがp一

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生物学教材研究 赤い花・青い花 77 ︵a︶       2   3  Hi°

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         4      0H ロ只加ご☆無efOO− 日碧財☆ Pelargesidin Pe/argonium zθn∂∫e (ゼラニューム)        OH Hσ.rジ.... t...oI.ノーII・

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   OH  Cyanidin  Centaure∂cy∂nus  (ヤグルマギク)       .OCH、 H° 煤h”’/””°1〆ご一・・     .....ゴ  .ご tt OH         OH Peonidin P∂eonia suffruticosa  (ゼラニューム) 一〇Hの数が増加        OH H,°

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   OH  Delphinidin  Defl)hinium consotida  (デルフィニュームorチドリソウ)       ノOCH・

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,,,、,㍑  Pet“nia hybrida  (ペチュニア・サフィニア) H° Malvidin Matv∂syivestris (ゼニアオイ) 青味が増加

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ゼラニューム 色調傾向の目安 ヤグルマギク ボタン ペチュニァ(サフィニァ)        ゼニアオイ      図10Anthocvanidil1のB環における水酸.基とメトキシ.基の数と発色との関係  a:水酸基〔−OH)が多いほど青味が深くなり,水酸.基がメトキシ基C−C)CH.)に置き換わる 数が増えるほど.赤味が増すと言われている 〔BoImer and Galston,1952). b:実際の花色には色 調の微妙な.差があり単純ではない.左下の赤と青のグラデーションパターン参照.

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78 Kageyuki YAMAOKA        malvidln (a)・一一一一”一一一一一一vノ”一””一”一’一’一一              7   ヨレ H°       CH20H

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       O心一/OH        l 6H        v−_一一一’       glueose        図11Anthocyanidin配糖体の事例  a:配糖体の事例,ブドウ果皮のoenocyanine(malvidin−3−glucoside)とb:配糖体がア シル化した例示であるナスの果皮のnasunine(delphinidin−3−[4−p−coumaroyl−rhamnosyl (1→6)glucoside]−5−glucoside). c:配糖体を作る典型的な糖. coumaric acidでアシル化していることを説明する等,出来るだけ身近な事例を対象とす る.またクマル酸やコーヒー酸では馴染みがなくとも,クマリンがキク科,セリ科,ミカ ン科などの植物に含まれ,香料として利用され,あるいはネズミに対する毒性から殺鼠剤 として使われていること,コーヒー酸は言うまでもなくコーヒーに多量に含まれること等, 馴染み易そうな事例を紹介して拒否反応を極力避ける努力をする.  (3)Willst5tterのpH説  花弁から様々なanthocyaninを取り出して結晶化し,化学構造を決定したWillstatter のpH説(Willstatter,1920;安田,1986)を紹介し, anthocyaninがpHにより色調を変 化する性質があること,WillstatterのpH説は多くの教科書に引用されて良く知れ渡っ た学説であるために,未だにそれがほとんど鵜呑みにされている傾向があり,例えばアジ サイの発色変化なども単純にpHで説明されがちであることを紹介する.  塩基性条件下でanthocyaninが青色系の色を呈することは第10回授業で実験するが,

(20)

牛,物学教材研究:赤い花・青い花 79 それは極めて不安定であることが,引き続く第12回授業で確認できることを予め話して おき,その時に実験的に確認させる.  なお,酸性ではanthocyanin分子のB環の酸素原子が+の荷電を持ち(図6,図10, 図11参照),この事により短波長の光が吸収されて赤色を呈するが,中性ではH1が減少 するためにA環との結合子が二重結合となり,二重結合の連鎖が長くなて500nm前後の 光が吸収されて紫色がかり,さらに塩基性になってH⊥濃度が著しく低下すると色素の水 酸基一〇HからH+が外れて02一になるために更に長波長側の光が吸収されて青になると されているが(安田,1976,2003),余りにも専門的になりすぎるので,この辺りの講義 は学生の反応を見つつ,必要があれば説明を簡略化するか,スキップすることにした.

第9回授業(実験)Anthocyaninの抽出

 第7回のTLCの実験では, TLCの展開の所要時間が約50分と長いために抽出までや らせる時間的余裕がなく,予め調整した色素抽出液を提供して実験させるが,ここで改め て使用する色素抽出液を,学生が自ら抽出する体験をさせる.  第10回,11回授業で使用するサフィニア・パープルの花弁,Commelinαの花弁,ブド ウの果皮,ナスの果皮の,予め所定量を秤量した乾燥粉末粉末と,所定量をバイヤルに分 注したメタノールや水等の溶媒,ガラス乳鉢,溶媒用と抽出液用のパスツールピペット, ロートと濾紙,サンプル保存用の容器など,必要なものを揃えておき,デモンストレーシ ョンを行った上で各自に抽出作業を体験させる.なお,欠席者が出た場合のサンプルを, デモンストレーション用および事前のテスト分で賄う事にする.  学生に抽出直後の色彩を基準色票(HV/C基準色票:Color Atlas社製,東京都赤坂) を用いてマンセル値を記録させておき,各実験の冒頭で色調の変化を認識させる.ここで, マンセル表色系(JIS Z 8721:1993,日本規格協会ホームページ)を客観的に色を現す表色 系の一つとして説明し,HV/C基準色票を用いたマンセル値の表す意味と求め方を説明す る.

第10回授業(実験)Anthocyaninの色調に及ぼすpHの影響

 Anthocyaninの色調がpHが変わると変化することを,サフィニァ・パープルとブド ウ果皮から抽出した色素で確認する実験を行う.pHの調整にはBriton−Robinson広域緩 衝液が広範囲のpHを調整するために比較的簡便であるために用いた.  Briton−Robinson広域緩衝液は次のようなものである: ストック液A液:85%リン酸2.71m1寸96%氷酢酸2.36 ml,水を加えて1000 ml

      B液:0.2NNaOH

ストック液の混合比とpHの目安(18℃) A液100 ml十B液(ml):7.5 25.0 42.5 60.0 77.5 95.5          pH:2.09  4.10  6.09  7.96  9.91 12.17  予め調整済みの緩衝液のpHを,実際に使用する時点で確認する意味を含め,学生に pHメーター(Twin pH, B−212,堀場製作所)を使って計測する体験をさせることにした.

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80 Kageyuki YAMAoKA (a)サフィニア・パープル花弁

鍵04・e6・Oao班0|20

111i ll.・i      ny (C)サフィニア・パープル花弁lhr後

鍵0茎塾0 6・ 0 &0繊・OIZ O

(b)ブドウ果皮(巨峰)

欝0聯0藁0・塾0㈱tze

蕨・T   .F、       、

   睡慧督■■

(d)ブドウ果皮(巨峰)lhr後 融印 4.0 6.O ao ie.O t2.0

   認璽■■■

(e)ツユクサ花弁 髪2・0 4.0   6.0   8.0   10.0   12.O t−lt−      s     Aet    ∨,    ”一     で    一9ktt−  StPt    」宍

醗闘■■翻

 a, C: た色素.a, b した色素.       図12 Anthocyaninsの色調に対するpHの影響 サフィニア・パープルの花弁から抽出した色素;b,d:ブドウ(巨峰)果皮から抽出し    pH調整直後の色調, c, d:1時間経過後の色調. e:Conzmelinα花弁から水抽出  バイヤルの蓋の数字はBriton−Robinson広域緩衝液で調整したpHを示す.  実験に先立ち,前回の授業で調整しておいた色素液の色を改めてHV/C基準色票で読 み取らせて抽出直後と冷蔵保存後の色調変化を認識させる.  pH 2.0,4.0,6.0,8.0,10.0および12.0に調整した緩衝液2.5 m1をそれぞれバイヤル に分注したものを3シリーズ準備し,バイヤルの蓋及び胴には予めpHの値を張っておく. 実験の経費を節約するために緩衝液の計量や試料の添加には安価な,針を外したディスポ ーザルシリンジを使うことにした.  前回の授業で抽出したサフィニア’パープル花弁,ブドウ果皮,およびCommelinα花 弁の色素液を,それぞれ所定pH緩衝液を入れたバイヤルに1mlずつ加えて良く震塗し, 色を比較させる(図12a, b, e),サフィニア・パープルの花弁とブドウ果皮からメタノー ル抽出した色素はWillstatterの説の通り,酸性では赤,塩基性では青基調の色彩を早す ること,サフィニアはpH 12で黄色を呈するがこれはフラボンの発色であること, CommelinCtの花弁から水抽出した色素は中性前後ではブルー,塩基側ではブルーグリー ンを呈し,強酸でも強塩基でも薄い緑色になる等,他の試料とは全く異なる色を示すこと (図12e)に注意を喚起し, Commelinαの色素が日本人によって発見された,金属を含む 青い色素,金属錯体であること(安田,1986,2003)を紹介し,次週の話につなげる.  これ等もマンセル値を記録させておき,更に1時間ほど室温に放置して再度色を読み取

(22)

生物学教材研究:赤い花・青い花 81 らせて,経時変化,不安定さを認識させる(図12a, cとb, d).  生活の知恵を紹介する意味で,友禅染の下絵に使われる「青花」の技法を紹介する.つ まり,ッユクサ(別名ボウシバナの園芸品種,オオボウシバナC. communis var. horten− sis)のanthocyaninの金属錯体が示す性質を利用している.すなわち,花弁から採取し た汁を美濃紙に染ませたもの(青花)に少量の水を加えて滲みでくる青汁で,白生地に下 絵を描く.この色素は大量の水で無色になる性質がある(伝統的工芸品産業振興協会のホ ームページ),とのことである.  なお,次回の授業で用いる材料として,教員側で学生1グループ当たり1シリーズの緩 衝液のバイヤルを準備し,サフィニア・パープルの花弁色素液のpHを調整しておく. 第11回授業(実験)林孝三の金属錯体説:anthocyaninの錯体形成  WillstatterのpH説は教科書に広く紹介され,今日でも多くの人々がそれを信じている が,花弁細胞のpHと花弁の色彩の関係を調べた調べた結果(表3),アサガオのヘブンリ ー・ uルー以外は酸性であることが分かり,青い発色を単純にpHで説明したWillstatter の説には無理がある,と考えられたことを紹介する.すなわち,日本の植物生理学の基礎 を築いた柴田桂太が「健全な植物細胞のpHは酸性であり,塩基性になっている状態は不 健全な病的状態である」としてpH説に反論し,柴田の死後を継承した林孝三が金属を含 む青い色素を発見した(安田,1986)事など,金属錯体と花色との関わりの歴史的経緯を 講義する.  林孝三のグループはCommelinαの花弁から青い色素を取り出して結晶化に成功し(安 田,2003),1原子のMgを中心に2分子のawobanin(anthocyaninの一種)と2分子の flavocommelinin(flavonの一種)が結合していること(Yoshida etα1.,2003),酸性で 安定した青色を呈し,塩基性では緑色に変化する(図12e参照)ことを示したが,これが 金属錯体説が提唱された歴史的経緯であることを紹介する.  以上の説明の上で,先ず,前回pHがanthocyaninの色調に関する影響を調べた時に 表3花弁の色調とpH(安田,1986より改変) 植物名 品  種  名 花弁のpH 花弁の色 ベゴニア オレンジシュワーベンランド 2.5 酸 性 濃赤橿色 アザレア グロリア 31

淡黄燈色 ホウセンカ タンジェリン 3.5 榿  色 アジサイ マリーバール 4.0

紫桃色

オランダフウロ 4.4

赤紫色

デルフェニューム サマースキー 5.1

紫青色

ヤグルマギク ブルーボーイ 5.3 青  色 ッルニチニチソウ 5.5

青紫色

パンジー デルフトブルー 59 紫  色 キキョウ ローズ 6.4 1

紫桃色

アサガオ ヘブンリーブルー 7.5塩基性 青  色

(23)

82 Kageyuki YAMAoKA (a)サブ・・ア・パープル花弁・,1・mlミ・ウバン、・AIK{S・、),飽和液 1 2、0   4.0   6.0 ぱ  8.0   10.0  12.0

纏茸 

(b)ナスの果皮o・tOmlミョウバン・AiK{so4}!飽和液  2.0   4.0   6.0   8.0  10.0  12.0 (C)サフニア・パープル花弁 pH7、0各種金属イオンによる錯体の色調 ;Cntrl Mg  Al  Mn  Co  Ni  Cu  Ba −A’/<    ・t−       s      ベゴ      ー f Cntrl:緩衝液+金属塩溶液       図13Anthocyanins金属錯体の色調  Briton−Robinson緩衝1夜2.5 mlにa:サフィニア・パープルの花弁とb:ナスの果皮のメタノ ール抽出液1m1を加えて所定のpHを調整した状態で(各バイヤルノの蓋に明示)AIK(SO1)L, (食品添加物,焼きミョウバン)飽和溶液O.10 mlを加えた直後の色調. a, bの塩基条件で黄色 の発色をするのはフラボンが原因であると思われる.c:上段, pH 7.Oに調整したサフィニア・ パープルの花弁のメタノール抽出液に各種金属塩1M溶液を0.10ml加えた時の色調Cntr1:水; Mg:MgCいAl:AIK(SO1):;Mn:MnCl2;Co:CoClu;Ni:NiCL・:Cu:CuSO4;Ba:BaC12; 下段,緩衝液3.5mlにヒ段に対応する金属塩1M溶液を0./0 ml加えた時の色対照. 塩基性の環境では青色であったものが,経時変化により黄色系に変化することを確認させ (図12),青色の発色が不安定であることを体験させ,花弁の色調を単純にpH説では説 明しきれないことを確認させる.さらに,これ等のサンプルを用いてAlli iやCuL ,などの 金属イオンを加えて反応を確かめさせる(図13).  実験としては,前回使用したサンプルをそのまま冷蔵保存したものを用い,グループま たは学生個々人毎に異なった金属イオン溶液を加えさせて色調の変化を確認させる.各グ ループの金属イオンを加えない対照区用にpHを調整した試料を教師側が準備しておく.  なお,ナスの皮からメタノール抽出し,所定緩衝液でpHを調整した色素液も教師側で グループ数だけ準備しておき,ミョウバン溶液を加えて色調が変化することを確認させ, ナスのヌカ漬けの床に古釘や焼きミョウバンを加えると「茄子紺」が発色する「お祖母ち ゃんの知恵」の正当性を認識させる.  さらに,Anthocyaninの金属錯体の発色を確認させた上で, CD等の記録に用いられて いる機能性色素等,広範な技術的利用を紹介すると共に,錯体とは何か,配位結合とはど ういう結合か等の基本を含め,金属錯体を巡る今日的状況を概説する. 第12回授業(講義)まとめ  サントリー㈱は2004年6月30日,「青いバラ」の開発に世界で初めて成功したと発表 したが,この授業にとってup−to−dateな,格好の材料である.英語では“blue rose”は 「有り得ないもの」,「不可能」を意味する言葉である.バラには赤・オレンジ・ピンクな

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生物学教材研究・赤い花・青い花 83 どの花はあるが青の花はなかったし,青を目指した育種家の努力が報われなかったからで る.赤は花弁に含まれるcyanidinが,オレンジはpelargonidinによるが,青い花を咲か せるリンドウ等に含まれるdelphenidinがなかったからである(図10a参照).サントリー がホームページで公表している「青いバラの開発の歴史」および「秘密」によれば,バラ はpelargonidinのB環の3’の水素を水酸基に変えてcyanidinを合成する酵素をコード する遺伝子(赤遺伝子)は持っているが,3’と5’を水酸基に変えるflavonoid 3’5−hydro− xylaseをコードする遺伝子を持たない.開発チームは,当初, PetLtrziαの青色遺伝子 (F3’5’H gene)をクローニングすることに成功してバラに導入したが,花弁にdelpheni− dinを作らせることが出来なかった.その後,パンジーC 1・iolαtricolor va]・,ノzortensis) 山来のF3’5’Hを導入したバラの花弁でdelphenidinが合成されることが分かり,含有率 のアップが図られて「青いバラ」の開発成功を公表するに至った,と言う(サントリーの ホームページ,2004).  著作権上,2007年に市販予定の「青いバラ」の画像をここに引用することは差し控え るが,引用文献に示したホームページに公開されている.Delphinidinが「100%近く」含 有されているとのことではあるがブルーのパンジーや,デルフィニューム(図10b参照) やComnze/inα(図14)の透き通るような鮮やかな青からはほど遠い.むしろ,赤いバラ を追求してきた育種家達を悩ませた「ブルーイング」という青味がかる,したがって紫が かった色に似ている.何故Pe亡〃mαのF3’5’Hではダメでパンジーのそれならば上手くゆ くのかも,今のところ不明である.これ一つとっても,遺伝子導入技術は,必ずしもその 背景が科学的に十分に理解できている訳ではないことについて,学生の注意を喚起したい.  一方,Pe加η↓α由来のF3’5Hを導入した青紫色カーネーション(Dianthus cατyoρ的/− /tLS),「ムーンダスト」は文部科学省の「組換えDNA実験指針」の下で遺伝子を組み換え た生物の「使用」が厳しく規制されていた条件下で,4年前から発売されていた,と言う. そして,「生物の多様性に関する条約のバイオセフティーに関するカルタヘナ議定書」(カ 図14ツユクサCornlne/ina colnrnunis(山岡原図)

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84 Kageyuki YAMAOKA ルタヘナ議定書)批准に伴う国内担保法である「遺伝子組換え生物等の使用等の規制によ る生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」が2004年2月19日に施行された 下で,環境中への拡散防止措置を行わずに利用する「第一種使用」として販売流通してい る花卉の第1号となった.過渡期的措置とは言え,奇妙なことに,環境庁は2004年3月 30Hから約1ケ月間,青紫色カーネーションの第1種使用申請を受けて意見募集(パブ リック・コメント手続)を実施した.4年も前から発売ずみの青紫色カーネーションの第 1種利用申請が2004年2月9H付けで改めて成された,と言うことか?  この授業で,文系学生に理解できそうな範囲で花の色,特にanthocyanin系の色素を 巡る知見を,歴史を追って紹介するわけだが,花の色を巡る科学の手が,色素の追究に始 まり,ついに色素合成のプロセスを制御している遺伝子の特定,さらには遺伝子操作にま で行き着く.だが,花の色は必ずしも色素だけで,あるいは色素単独では決まらない.錯 体然り.pH環境然り.この授業では扱えないが,単独ではほとんど無色だがanthocyanin と一緒になると複合体を作ってanthocyaninの色を変えるフラボン類,タンニン類等の 助色素(copigment)の関与,然りである.色素含有量の差も花色に大きく影響する.更 に,花弁表皮細胞の形態も影響する.花弁の色素は,一般的には花弁表皮細胞に含まれて いるが,花弁表皮細胞の形態が花弁に光が当たったときの陰影に影響し,例えば「黒バラ」 では,ほぼ同じ量のanthocyaninを含む赤いバラの表皮細胞に比べて,縦に細長い表皮 細胞のために影が強くなる,と言う例も知られている(例えば,安田,1986).  また,・度は否定されたはずのWillstatterのpH説も,花弁の表皮細胞のpHを支配す る遺伝子があることがプリムラやキンギョソウで発見され,花色に影響していることが分 かっている(例えば,安田,1986,2003).パンジーのように,一つの花の,部位によっ て異なる花色が発現するケースや,絞り模様,かすり模様のように色素の分布が一様では ないケース等も事態を複雑化する.  要するに,花の色一つとっても,未だに科学は全容を理解するまでには至っていないし, 生命はそれ程単純ではないと言えることを,どこまで学生達に伝え,考えさせられるかが 問題である.  科学は着実に知見を広げ,発達していることは事実であるが,未知の部分も多いことは 言うまでもない.既知の科学的知見に基づいて開発される技術も,然りである.技術が科 学的知見で予測し得ない,思わぬ落とし穴に我々を導いてしまうこともあり得る,という ことを,この授業を通じて学生達に理解させられれば,一定の成功といえよう.

参考文献

Bonner, J. and Gaユston, A W.(1952)!lPrinciples of Plαnt Physiology, W. H. Freeman and  Co., San Francisco, PP.499, 伝統的工芸品産業振興協会ホームページ http://www.kougei.or.jp/crafts、∫kyoto yuzen3.html Frisch, Karl von.(1971)Bees:Their Visiort, Chemicαl Senses,αnd Languαge. Revised Edi−  tior1. Cornell University Press, Ithaca, New York,157 pages, 福原達人(2004)植物形態学(更新2004/05/05),6−2.  http:〃www.fukuoka−edu.ac.jp/’fukuhara/keitai/index.htm 早川史乃(2000)園芸学専門実験 花卉園芸学研究室〈花色偏〉千葉大学園芸学部花卉園芸学研

参照

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