原 著
〔書女購54第鷺、智8骨〕
拡張型心筋症心不全例に対する心臓移植について
一適応の時期および医学的社会的要因の検討一
東京女子医科大学 附属日本心臓血圧研究所 循環器内科(指導:細田瑳一教授) カワ イ ユウ コ 河 合 裕 子 (受付 平成4年6月15日) Selection of Candidates for Heart Transplantation in Patients with Dilated CardiomyopatllyYuko KAWAI
Department of Cardiology, The Heart Institute of Japan Tokyo Women’s Medical College Sixty・one patients who died of heart failure were selected from 160 consecutive patients with dilated cardiomyopathy(DCM)in the 14−year period in order to select candidates for heart transplantation with sociomedical cons童derations. The mean observation period was 42 months. The mean survival period from the onset of refractory heart failure was 8.2 months. The survival rate in patients with the first episode of heart failure(NYHA 4)was 83%, however, the survival rate in patients with the th童rd episode of heart failure was 18%. Seven of 61 patients(11.5%)met sociomedical requirement for heart transplantation, but the remaining 54 did not for various. reasons:28 due to 51 years or older,5due to severe hepatic dysfunction,3due to psychological problems,2due to severe renal dysfunction,2due to lack of support from their family,1due to poor compliance with therapy. 緒 言 近年,拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy: DCM)の重症例に対する治療法として,心臓移植 が注目を集めている.DCMに対する心臓移植は 欧米ではすでに確立された治療法であるが,本邦 では心臓移植は1968年の第1例以来行われていな い.最近,海外で移植を受ける患者も増加してお り,本邦での移植再開が待たれている現状である. 心臓移植の生物医学面の基本的な適応基準はほ ぼ合意に達していると思われる.これまで当施設 でもDCMの予後や心臓移植の適応について検討 を行ってきたが,個々の症例についての予後を判 定し,心臓移植の最もよい時期を決定することは 必ずしも容易ではない. 本研究においてはDCMの重症例,特に心不全 歴のある症例についてretrospectiveに分析する ことにより生命予後から心臓移植の適応時期を検 討し,加えて症例の生物医学的のみならず社会心 理的要因についても分析した. 対象および方法 1.研究対象(表1,2) 1976年1月から1990年8月玄での14年間に,東 京女子医大日本心臓血圧研究所に治療および精査のために入院し,経過観察したDCMは160例で
あった.年齢は15歳から72歳,平均49±18歳,性 別では男性135例,女性25例,観察期間は2日から 180カ,月,平均42±!0ヵ月であった.DCM 160例の 内訳は,生存60例,死亡100例であった.このうち表1 拡張型心筋症の内訳 生存 60例 死亡 心不全死 心不全経過中の突然死 突然死 非心臓死ホ 原因不明 非心臓死* 悪性腫瘍 食道静脈瘤破裂 重症感染症 自殺 100例 61例 18例 13例 7例 1例 4例 1例 1例 1例 表2 拡張型心筋症例の比較 生存群 死亡群 P値 症例数 (人) 60 61 年齢 (歳) 17∼67 T0.8±12.7 15∼72 S8.7±14.1 性 (男/女) 50/10 49/12 CTR (%) 56±7 62±7 〈0.001 Cl (」/min/m2) 2.9±0.9 2.2±0.7 く0.001 LVED,(mmHg) 14±8 22±10 〈0.001 EF (%) 35±14 25±9 <0.01 FS (%) 16±7 11±4 〈0.05 LVDd (mm) 63.1±10.0 69.3±11.4 N,S. 心臓死は92例で,小笠原の分類1)により死亡時の 状況から以下の3群に分類した.突然一例は死亡 時期の予測が困難と考え,本研究では難治性心不 全死の61例を対象として生前の臨床経過を中心に 心臓移植の時期や適応について分析した. 1群(突然死群;13例):内科的治療で臨床症状 は改善し,日常生活についての制限が少なかった にもかかわらず突然死した群. II群(心不全を繰り返す中で突然死した群;18 例):臨床症状の改善と悪化とを繰り返している 経過中,一応安定した状態にありながら突然死し た群. III群(難治性心不全死群;61例):内科的治療を 強力に行ったにもかかわらず,徐々に心不全が増 悪し死亡した群. DCMの診断は, WHO, ISFCの定義2》に準拠 し,厚生省の特発性心筋症研究班の診断基準を満 足するものとし,加えて核医学検査や左室造影に て駆出率50%以下,かつ右記心内膜心筋生検3)も しくは剖検にて二次性心筋疾患を除外した症例と した. 2.研究方法 1)難治性心不全症例の予後 1回以上NYHA 4度になった症例について,
発症時から死亡までのNYHA心機能分類の変化
を追跡し心不全歴とし,予後に対してこの心不全 歴がどのような意味を持つか,特に治療としての 心臓移植を準備すべき時期が評価可能かどうかを 検討した. prognostic score1)を算出できた症例について は,個々の例のscoreと心不全歴との関係につい て検討した.prognostic scoreは臨床症状,心電 図,心胸比,心臓カテーテル検査,心血管造影の 所見から生死を判別できる因子を分類し,数量化 による多変量解析を行い,予後を表すscoreとし たものである.二次元の座標軸上に表現すると, 第1象限は心不全経過中に突然死した群,第4象 限は難治性心不全群,第2,3象限は生存群とい うように生死の別や死亡時の状況別に分類でき る. 難治性心不全死例ならびに生存例をも含めた全 例に対し,生存率を算出した.このうち全死亡例 については,死因にかかわらず自覚症状出現から 死亡時までを観察;期間とした. 2)非観血的検査所見と心不全の間隔との関連 非観血的検査所見として以下の指標と,それが 得られた時点から心不全を発症するまでの期間と の関連を検討した. 各検査結果を得てから,12ヵ月以内に心不全を 生じた症例を早発群(n=22),36ヵ月以上の経過 の後に心不全を生じた症例を遅発群(n=18)とし た. ①胸部レントゲン写真での心胸郭比(CTR)②心電図の変化:DCM死亡例に特徴的と思
われる心電図所見,すなわち上室性不整脈・重症 心室性不整脈(心室頻拍,多源性心室性期外収縮, short runなど)・QRS幅延長(0.12秒以上)・低 電位差・左軸偏位(一30度以上)の5項目. ③心臓超音波検査:左室短縮率(%FS)・左室収縮末期径(LVDs)。左室拡張末期径(LVI)d) 3)社会心理的要因 死亡前1年以内においての心臓移植の適応の可 能性の有無についてPennockらの基準4)に準拠 し,以下にあげる我々の基準に従い分析した. ①年齢50歳以下,②以下に述べる社会的要因を 満たしていること,③他の主要臓器に不可逆的障 害がないもの,これに加え,④活動性感染症・肺 梗塞・インスリン依存性糖尿病・重篤な末梢血管 障害や脳血管障害の兆候,あるいは診断・活動性 消化管潰瘍・薬物,アルコール中毒・低心拍出症 候群や代謝異常とは無関係な精神障害・回復や生 存に影響するような全身性疾患をもつ例を除外し た. 社会的要因については,外来記録,入院および 看護記録,主治医の印象などから,患者本人が十 分な病識をもち,外来通院中から日々の検査や投 薬内容,および日常生活における注意事項の重要 性を理解し,それに積極的態度を示していること, ならびに家族が患者の病気に暖かい理解を示し, 入院中,外来通院中を通して経済的,精神的に援 助していることを満たすものとした. :有意差の検定にはStudent’s t・test, Chi−square testを用い,数値は平均値±標準偏差もしくは標 準誤差で表し,5%以内の危険率をもって有意と した。 結 果 1.難治性心不全症例の予後 1)臨床経過(表3) 難治性心不全死61例の検討では,自覚症状出現
時から1回目のNYHA 4度の心不全が出現する
までの期間は2日から180ヵ月,平均37.9±46.0カ 月であった. さらに,自覚症状出現時からNYHA 3度まで しか軽快しない時期までの期間は,1ヵ月から204 ヵ月,平均62.9±47.8ヵ月であった. NYHA 3度までしか軽快しない時期から,死 亡するまでの期間は,1ヵ月から39ヵ月,平均 8.2±9.1ヵ月であった. 全経過を見ると,自覚症状出現時から死亡する までの期間は,内科的治療のみでは3ヵ月から192 ヵ月,平均72.3±46.9ヵ月であった. 2)心不全出現の間隔 初回心不全と2回目心不全との間隔は,3週間 から106ヵ月,平均30.8ヵ月であり,同様に2回目 心不全と3回目心不全との間隔は,1週間から102 ヵ月,平均22,4ヵ月であった.以下,13.5ヵ月, 10.5ヵ月,2.0ヵ月と心不全の回数を重ねるに従っ てその間隔は短くなった. 3)心機能改善度と心不全惹起までの間隔 初回心不全に対する治療では,10例(16%)がNYHA 3度,40例(66%)がNYHA 2度,3例
(5%)が1度まで改善した.NYHA 4度から3度にまでしか改善しなかっ
た例では次の心不全によって死亡する例が多かっ た(図1).NYHA 2度に改善した全57例が再度NYHA
4度になるのは1ヵ月∼106ヵ月(平均34.7ヵ月) であったのに対し,3度にまでしか改善しなかった全44例が再度NYHA 4度になる1こは1ヵ月
∼19ヵ月(平均7.1ヵ月)であった. 4)経過中の心不全の回数 表3 死亡例の臨床経過 心不全死 心不全経過中 @の突然死 突然死 自覚症状出現時 @∼第1回忌YHA 4度出現時 ゥ覚症状出現時 @∼難治性心不全固定時 ?。性心不全固定時 @∼死亡時 ゥ覚症状出現時 @∼死亡時 37.9±46.0 U2.9±47.8 W.2±9.1 V2.3±46.9 25.8±33.8 V4.3±49.0 V.3±8.0 V0,5±46.2 15.1±20.0 @ 一 @ 一 U2.4±44.3 (ヵ月)話 } 1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 6回目
IV IV㊥ 19 23 7 2 2
8 17 2匪H 102 19 29
6 3 11 6 4 2 2 表4 難治性心不全死日の心不全歴 1 6 7 1 τ II 40 13 15 2 2 1 3 2 ⑰死亡 届1 心不全死例の臨床経過(N=61) (%) 100 退院時 @ NYHA S不全 1。 噂 hIO 皿。 0 1 11 2 17 3 61 8622 4 5 80 60 40 20 纏心臓移植準備領域 ●一一一→心不全例(N=61)123456(回)、
図2 心不全回数からみた拡張型心筋症例の生存率 発症から死亡するまでの間,NYHA 4度の心 不全を起こす回数は1回から最多6回まであり, 最も多い心不全の回数は3回,すなわち3回目に 死亡するものであった(図1). 5)生存率 NYHA 4度の心不全を経過するたびに生存者 は減少し,2回目の心不全の後では生存率は57% であるのに対して,3回目の心不全の後には81% と著明な低回を示した(図2). また,生存者をも含めたDCM全例に対して心 不全経過後の生存率を求めたところ,・初回心不全 め後では94%,2回目では74%,3回目では51% と,初めの3回の心不全で生存者は半減した. 6)予後の判定 61例のうち初回心不全で死亡した8例を除いた53例について,死亡時より1回前の退院時の
II o:移植準備領域 十2 にはいる症例 OO 0 十1 o o ρ 門 ● ● +1 十2 o o ・ o 0 o ● ● o ● o ツ(る ● 一1 ● σ O ● 0 o 0 一2 O 0 図3 Prognostic score 1NYHA心機能分類と,それまでの心不全回数を
組み合わせ,心不全歴とした(表4). 36例が心臓移植準備領域に位置し,このうち22 例(61%)が1年以内に難治性心不全により死亡 した.この36例のうちprognostic scoreが得られ た23例中20例(87%)は第1,4象限すなわち一 年以内に死亡の領域に含まれていた(図3).した がって,心不全歴からみた移植準備領域とprog・ nostic scoreとはよい相関が得られた. 7)治療 死亡前1年間に,強心薬52例,利尿薬61例,血 管拡張薬45例,抗不整脈薬27例,new inotropicagents 14例,抗凝血薬8例,ステロイド4例がそ れぞれ投与された.完全房室ブロックを呈した4 例に永久ペースメーカー植え込みが行われた. 8)心不全の増悪因子 のべ165回の心不全のうち,過労28回,感冒19回, 治療の自己中止6回,重症難治性不整脈4回,飲 水過多,塞栓症および脱水各2回,重症感染症1 回,特に誘因の明らかでないもの101回であった. 2.非観血的検査所見と心不全の間隔との関連
1)CTRの変化
CTRは,早発群71.6±1.3%に対し,遅発群 59.7±2.0%であり,早発群でより大であった (p〈0.01). 2)心電図の変化 早発群遅発群ともに5項目とも高頻度に認めら れた.ことに,上室性不整脈,重症心室性不整脈 ではいずれも出現率は40%以上であった.左軸偏 位を除く4項目ではいずれも早発群で遅発群より 高頻度に認められた. また,5項目のうち1項目も有しなかったのは 早発群では2例,遅発群では3例であり,5項目 ともに有していたのは早発群にはなく,遅発群で 1例のみであった. 3)心臓超音波検査 %FSは,早発群11.4±5.8%に対し,遅発群 18.6±45%であり,早発群でより低い傾向があっ たが,有意差を認めなかった. LVDsは,早発群64.5±0.7mm/m2に対し遅発 群59.9±0.91nm/m2であり,早発群でより高い傾 向があったが,有意差を認めなかった. LVDdは,早発群72.3±1.6mm/m2に対し遅発 群67.1±0.8mm/m2であり,早発群でより高い傾 向があったが,有意差を認めなかった. 3.社会心理的要因 1)社会的要因を満たすと考えられなかったの は54例であり,その理由は,年齢51歳以上28例, 高度肝機能障害5例,精神障害3例,社会的援助. を欠く3例,高度腎機能障害2例,先天性精神薄 弱1例,脳梗塞による片マヒ1例,その他11例で あった. 2)社会心理的援助に欠けると考えられたのは, 家族による支援が得られない2例および患者の治 療態度不良1例であった. 3)難治性心不全死61例中,年齢50歳以下では7 例,年齢60歳以下では12例が医学的社会的要因を 満たすと考えられた(表5). 4.心臓移植の適応と考えられた症例,46歳男性 を提示する(図4∼8) 考 察 DCMは心筋の変性による左室の拡張を主徴と 表5 心臓移植の適応と思われた症例No, Sex Age
GOT GPT BUN
CrCTR
ECG
LVEDP
EF C11
M
15 !3 18 19.9 1.3 68 SR 25 / 3.1 2M
29 19 10 33.5 1.0 63 af PVC 撃盾浴@vol !7 / 0.93 3 F 31 39 9 12.6 1.1 66oSVT
wpw
31 31 2.79 4 F 33 16 23 13.2 0.9 62PVC
27 24 2.17 MM 46 S7 13 P8 11 V 16.7 Q2.7 1.3 O.6 70 U9 IVCD ハow vol 20 Q9 37 P1 3.18 @/ 7M
48 15 14 18.6 1.2 61 LAD IVCD @ PVC @low vol 8 41 2.23 旧 一 F 冒 ■ 一 一 一 一 一 一 ¶ 8M
51 26 9 24.8 1.3 62 af 撃盾浴@vol 21 / 1.86 9M
55 17 9 22.6 0.9 66 af IVCD 38 23 1.86 10M
57 15 6 27.0 1.3 63CLBBB
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30 / 0.99 11M
59 17 15 22.7 1.4 66 af IVCD 21 22 / 12 F 59 14 34 17.7 0.8 66 af 14 / 1.6077−5−19 83−11−14 84−1−24
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図4 心電図所見 肢誘導の低電位差,V1−3のR波減高を認め,心筋病変が考えられた.経過とともに, QRS幅が広くなり, V5−6もR増減高が目立つ. A. 離陸ラ 良灘鍵葺懲
副 験 螺.{鷺
1975.5.19 C.響瞬鎌嘆
豊三=・蝋 B. 1977.7.4 (CTR53%) D. ヤ も 灘 1979.3,28(CTR55%) 1983.10.17 (CTR58%) 図5 胸部X線像の推移 A;心不全のため近医に入院した.B;当科初診時.心 拡大は軽度である.C;感冒から肺炎となり,脳梗塞を 併発し,以後抗凝血薬を開始した.D;入院時.心陰影 は拡大している. 1978.4.5 1983.12.13 図6 心臓超音波検査 左室径は約6.5cmと拡張している.心室中隔,左室後 壁ともに収縮力は低下している.1977 1984 図7 右翻心内膜心筋生検所見 第1回目の心筋生検では心筋肥大が主な所見であっ た.しかし,第2回目では心内膜肥厚や間質の線維化 が進行していた. 図8 剖検所見 心重量は480gと増大しており,両心室の高度の拡張を 認めた.心内膜は限局性線維性肥厚が見られ,陳旧性 血栓と思われた, する原因不明の心筋疾患である.
長期予後は不良であり,5年生存率は
38∼54%1)5)6),10年生存率は22%1)とされている. これを改善するため,積極的な内科治療によって も軽快しない重症例に対しては,欧米で心臓移 植7)∼9)が行われ,好成績を収めている.1989年まで の報告7)では,移植後の1年生存率は80%,10年生 存率は70%以上と発症早期に診断されるように なったこともあり,著明な予後の改善を認めてい る.移植の原疾患は半分以上が特発性心筋症,こ とにDCMである. しかし,すべてのDCM症例が移植の適応とな るのではない.適応基準4)は,最大限の内科治療を 行っても6ヵ月から1年以内に死亡すると考えら れる極めて予後不良の症例に限られており,DCM の中でも治療抵抗性の心不全により発症する群が それに相当する.DCMの予後判定因子については幾つかの報
告6)10)11)があり,当施設でも検討したprognostic score1), prognostic index12)は’心臓移植の適応や 時期を決定するのにょい指標と考えられている. しかし,それらを算出するには,右室心内膜心筋 生検所見,左室拡張末期圧および駆出率といった 観血的検査の結果を必要とする.近年,Swan・ Ganzカテーテルや核医学検査が容易にできるよ うになったとは言え,長期間経過を観察し,予後 を推定し,治療法を選択するにはできるだけ患者 の負担にならない方法が望ましい.胸部レントゲ ン,心電図に加え心臓超音波検査は現在の状態を 把握するのに大いに有効な方法であるが,それま での心不全の状態と自覚症状と言った一次情報 も,またよく個々の心機能を表していると言って よい. 本研究では,これら難治性心不全死61例を対象 として心臓移植の時期と要因について分析した. 症状の経過については,自覚症状発現時から1 回目のNYHA 4度心不全が出現するまでの期間 は個人差が大であった.一度NYHA 4度となっ ても,適切な治療が受けられれぽ多くの例では軽 快する。1回目の心不全で2度まで軽快したもの は3度までしか軽快しなかったものより心筋の予 備力があると考えられ,当然2回目に4度となっ て入院するまでの期間は長かった.すでに心機能 の検討のうち駆出率や心係数は,死亡例では有意 差をもって生存例より低下している10)∼12》ことが 知られており,臨床経過の上からもそれが裏づけ られる.2回目のNYHA 4度心不全に陥った症例は治
療の結果,初回2度までの改善例が死亡するのは 28%のみに対し,初回NYHA 3度目での改善例 は80%が死亡した. 2回目以降,4度の心不全を起こす間隔は回数 を重ねるに従い短くなった.従って,一度心不全 を起こした例では,内科的治療により一時は改善 傾向が認められるものの,数年から数ヵ月のうち に再び重篤な心不全を発症し,次第に改善しにく くなって行くのが分かる. DCMは心不全を繰り返すたびに予後不良であ り,合計3回の心不全で症例の82%が失なわれた. 生存例を含めた全例における生存率を求めても同 様の傾向であり,一人用DCM患者がその死因を 問わず計3回の心不全を経過した後の生存率は 51%であった. 数回の心不全の発症と改善を経て,治療によっ てもNYHA 3度までにしか改善しなくなるのは 発症後平均62.9ヵ月,約5年目ある.しかし,こ の難治性心不全に固定したときから死亡するまで は8.2ヵ月でしかない.したがって,最善の内科的 治療を行ってもNYHA 4度の心不全の回数が3回目になった症例はその入院中,退院時NYHA
3度にしか改善しない症例は再度NYHA 4度目 心不全を起こした時には死亡する可能性が高い. しかし,NYHA 4度の心不全が改善しない例に おいて,このときになって心臓移植を決定し準備 するということは実際上は困難と考えられ,以前 より心臓移植を予定し準備しておく必要がある.すなわちNYHA 4度の心不全が3回目となった
時,もしくは退院時NYHA 3度にしか改善しな かった時こそ,予後6ヵ月から1年以内と予想さ れる時点であるから,この時に心臓移植のrecipi− ent候補として登録し,社会心理的要因をも検討 したうえで移植の準備を開始するのがよいと思わ れる6 心不全歴とprognostic scoreとの関連を検討 すると,1年以内に難治性心不全により死亡する と考えられる症例はよい相関を示した.心不全歴 は繰り返し得られる非観血的惰報であり,観血的 検査を行えない場合,患者がDCMの自然歴のど の位置にあるかを一義的に知るのに有効である. 心臓移植を行う場合にはさらに観血的検査による 詳細な情報を得ることが必要であるが,繰り返す 心不全歴は,まず心臓移植の準備予定時期を知る ための簡便かつ有効な指標になり得ると考えられ る. 非観血的検査のうちCTRが増加傾向を示す症 例は予後不良とみられており,早い時期に心不全 を発症する症例ではより大きいことがわかった. CTRは経過観察において有用と考えられた.心電図所見に取り上げた5項目は,DCM死亡
例に特徴的であり重症難治性心不全例では高率に 認められた変化である.早発群はもとより遅発群 でも数種類の心電図所見が認められた. 心臓超音波検査は,心電図とならび外来や病棟 で簡便にかつ繰り返し行える利点がある.DCM 全体の検討では,生存群と死亡群との間にはFS, LVDs, LVDdいずれにも有意差が得られた.しか し,重症難治性心不全例では早い時期からすでに 収縮力が低下しているため,早発群,遅発群の間 では有意差が見られなかった.心電図ならびに心 臓超音波検査は経過観察には優れているものの, ある一時点の結果のみで予後を判定するには木適 当と思われた. このような経過を経て死亡した61例であるが, retrospectiveに見てみると,必ずしも全例が心臓 移植のrecipient候補とはなり得ず,医学的社会 的要因を満たすと考え.られたのは7例のみであっ た. 医学的社会的要因に欠けると考えられた54例に ついて検討してみると,年齢51歳以上は28例と不 適の原因としては最も多かった.対象年齢につい ては,諸外国の例をみると移植手術成績の向上と ともに徐々に引き上げられる傾向にあり,他の主 要臓器の機能によっては60歳未満も許容範囲と思 われる.試みにrecipientの年齢を60歳未満にま で拡大した場合も検討してみたところ,絶対的適 応となるのは12例であった. また,高度肝機能障害は5例,高度腎機能障害 は2例あった.主要臓器の高度な障害の合併はい ずれの場合でも移植の禁忌であることを考えると,心不全の治療と共に機能の軽快が認められる 臓器の代償期のうちに心臓移植を考慮するべきで ある. 精神障害の3例はいずれも薬剤や代謝異常とは 関係なく幻覚,幻聴により発病し,被害妄想が著 明となり診療を拒否したため,長期間にわたる精 神科医の治療を必要とした.50歳以上でも,心不 全が軽快するたびに自己退院し,数箇所の病院を 転々としていた2例があった.また非心臓死例で も1例は極度のうつ状態となり,自殺した. その他11例については,肺血管抵抗を含む肺の 情報が死亡1年以内に得られていないため,今回 は便宜上適応例から除外した. 社会的援助に欠けるとしたのは,明らかな精神 薄弱および反応性精神障害ではなく家族による精 神的,心理的な支援が得られないと判断した2例 および患者の治療態度不良と思われた1例であっ た.家族の支援が得られずとしたうちの1例は, 家業が倒産したのち家族とは離縁し,生活保護を 受けていた.さらに1例は商社員で,家族は海外 に住んでおり,心不全入院中の手続きや世話は会 社の同僚が行っていた.治療態度不良とした1例 では全経過を通じて,安静・塩分制限などの指示 を守らない傾向が強かった. 移植手術が行われ成功したとしても,その後患 者は生涯にわたり拒絶反応に留意し,免疫抑制療 法を継続し,定期的な心筋生検を必要とする.そ のため患者と家族にはそれらの重要性を理解し, それに積極的態度を示すことが望まれる.移植の 適応決定には患者の知的レベル,精神的因子の確 認が必要とな:ることから,精神科の医師のみなら ずソシアルワーカー,カウンセラーの参加やある 種の神経心理学的検査を行うことも必要と思われ る.心臓移植という新しい治療を受けた結果の心 理状態は不明な点も多く13),本邦では諸外国に多 く見られるように他人によるカウンセリングが十 分活用されない状況があり,精神的支援の得にく い患者にとっては生涯にわたり治療と検査を続 け,社会に還元できる生活をなすことは難しいと 考える.家族が病気に対する暖かい理解を示し, 入院中,外来通院中を通して精神的,経済的に支 援してこそ,患者は今までにない新しい治療とそ の後の長い年月に耐え得るのであるから,家族の 存在は非常に重要である. 海外においては,心臓移植というのは既に定着 した治療法であり,施設によっては60歳以上の患 者や,インシュリン治療中であってもコントロー ル良好な糖尿病患者などにも積極的に行われてい る.いずれ本邦でも心臓移植が再開され,臓器提 供者が増え,手術成績や術後管理の成績などが満 足できる結果となれば適応の条件は緩和されると 思われるが,厳しい条件を満たすものとする方が この治療法の確立のためには望ましい.内科医は DCM症例の心不全に対し,十分な治療を行うの はもちろんであるが,内科的治療の限界を見極め た時には積極的に心臓移植手術を決定し,しかし 貴重な心臓を十分活用し適応順位についても考慮 できるように,症例を厳しく選択することが必要 となると思われる. 結 論
1)過去14年間に入院治療したDCM患者のう
ち,難治性心不全によって死亡した61例について 心臓移植の適応および要因について検討した. 2)治療としての心臓移植を考慮する時期を検 討するうえで,心不全歴は非観血的情報のみで, 繰り返し得られる簡便かつ有効な指標であり,観 血的検査結果を要するprognostic scoreと組み 合わせるとより有用と考えられた.3)3度目のNYHA 4度の心不全を起こした
例,もしくは治療によってもNYHA 3度目しか 改善しない例は予後6カ,月から1年以内と予想さ れた.これらの例は社会的要因をも加えて検討の うえ,心臓移植の対象となる可能性があると考え られた.4)胸部レントゲン写真での心胸比はDCMの
病状を把握し,経過観察を行うのに有用であった. 5)心臓移植に対し医学的社会的要因を満たす 症例は61例のうち7例(11.5%)と考えられた. これ以外の54例は,年齢51歳以上28例,高度肝機 能障害5例,精神薄弱1例,分裂病3例,家族の 援助が得られず2例,高度腎機能障害2例,脳梗 塞による片マヒ1例,治療態度不良1例,その他11例であった. 稿を終えるにあたり,ご指導ご校.閲を賜りました循 環器内科細田瑳一教授,堀江俊伸講師に深く感謝いた します.また病理学的所見についてご指導を頂きまし た関口守衛信州大学教授に深謝いたします.終始直接 ご指導いただきました東京女子医大附属青山病院小 笠原定雅講師に心から謝意を表します. 本研究の要旨は,第8回日本心臓.移植研究会(1990 年,岡山),第10回日本心臓移植研究会(1992年,仙台), 第40回日本心臓病学会(1992年,高松)にて発表した. 文 献 1)Ogasawara S, Sekiguc卜i W, Hiroe M et a1: Prognosis of dilated cardiomyopathy:From a retrospective to a prospective study employing mult三variate analysis. Jpn Circ J 51:699−706, 1987 2)WHO:Report of the WHO/ISFC task force on the de丘nition and classification of car. diomyopathies. Br Heart J 44:672−673,1980 3)関口守衛,広江道昭,森本紳一郎:心内膜心筋生 検による生検心筋病理組織学的診断の基準とその 定量化試案.厚生省特定疾患特発性心筋症調査研 究班 昭和52年度研究報告集:75−93,1978 4)Pennock JL, Oyer PE, Reitz BA et al: Car− diac transpiantation至n perspective for future. J Thorac Cardiovasc Surg 83:168−177,1982 5)Fuster A, Gersh EJ, Giul童ani MR:The natu・ ral h圭story of idiopathic dilated car− diomyopathy. Am J Cardiol 47:525−531,1981 6)河合忠一,桜井恒太郎,岸本千晴ほか:特発性心 筋症の予後調査.厚生省特定疾患特発性心筋症調 査研究班 昭和57年度研究報告集:63−66,1984 7)Kriett JM, Kaye MP:The registry of the international society{or heart transplantation: Seventh omdal report−1990. J Heart Trans plant 9:323−330, 1990 8)Heck CF, Shumway SJ, Kaye MP:The reg・ istry of the international soc圭ety for heart transplantation:Sixth o伍cial report−1989, J Heart Transplant 8:271−276,1989 9)Pae WE Jr, MiHer CA,』Pierce WS:Com− bined registry for the clinical use of mechanical ventricular assist pumps and the total arti且cial heart:Third of五cial report−1988. J Heart Transplant 8:277−280,1989 10)関口守衛,小笠原定雅,広江道昭ほか:特発性うっ 血型心筋症の予後:心内膜心筋生検所見を加えて の検討.厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班 昭和53年度研究報告集:167−174,1979 11)Keogh AM, Baron DW, Hickie JB:Prognos− tic guides in patients with idiopathic or is・ chemic dilated.cardiomyopathy assessed for cardiac transplantation. Am J Cardiol 65: 903−908, 1990 12)小笠原定雅,関ロ守衛,広江道昭ほか:拡張型心 筋症の予後:prognostic indexによる判定法. J Cardiogr 16:87−94, 1986 13)Allender J, Schsslak C, Kaszniak A et al: Stages of psychological adjustment associated with heart transplantation. J Heart Transplant 2 :228−234, 1983