漢字書字に特異的学習困難のある子どもの
スクリーニング法に関する研究
―― 滋賀大キッズカレッジ作成漢字書字スクリーニング検査の検証 ――
深 川 美也子 *・窪 島
務 **
A Study on the Screening for the Children with
Specific Learning Difficulties in Kanji Spelling
―― Results from the Implementation of the SKC-Screening Method ――
Miyako FUKAGAWA and Tsutomu KUBOSHIMA
要 約 本研究は、① スクリーニング検査として漢字書字検査を使用する際の基準設定の問題を中心的な テーマとし、② 併せて本研究で採用した漢字書字スクリーニングの結果を通して日本語漢字書字の特 異的困難の全体的特徴とアセスメントの留意点及び指導への示唆にも言及する。滋賀大キッズカレッジ (SKC) はスクリーニングとアセスメントのためのツールを作成しているが、その有効性を検証する。 方法としては、通常学校児童 2 年生から 6 年生までの児童 382 人、滋賀大キッズカレッジ学習室及び通 級指導教室に通級するよみ書き障害のある児童 47 人に漢字書字検査、PRS、Rey-Osterieth 複雑図形、 プログレッシブ・マトリックス検査、読書力検査及び教師用チェックリストなどを実施した。本研究で は、SKC 作成漢字書字検査の結果から、書字検査結果のみを基準にする場合には若干の非該当 (nega-tive false, 見落とし) が生じるが、合計得点の −1 SD を基準とし、さらに比較的難度の低い漢字と難度 の高い漢字の正答の差の 2 つの基準を用いることでほとんどの通級児が該当することがわかった。しか し、なお少数の非該当児が生じた。今後の研究に求められるスクリーニングとアセスメントを巡るいく つかの課題について考察した。 1 問 題 と 目 的 2007 年に新たに発足した特別支援教育において、通常学級に在籍して特別な教育的ニーズを有す る子どもたちの早期の発見と指導の重要性が内外の研究で指摘さている。ADHD や広汎性発達障害 など可視的なニーズである不注意・多動や対人性の問題は把握されやすいが、学習困難・学習障害は 一見不可視的で通常の学力不振との関連や区別が明らかにされていないこと、また他の発達障害が併 * 滋賀大学非常勤講師、老蘇小学校通級指導教室 ** 滋賀大学教育学部
存する場合に見落とされがちであることなどが問題となっている。 このような状況の中で、発達障害児の早期発見にかかわって、文科省の「小・中学校における LD (学習障害)、ADHD (注意欠陥 / 多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備の ためのガイドライン」(2004) では「適切な教育的支援をしていくスタートとなるのは、児童生徒の 出している様々なサインに対して『変だな?』『どうしてかな?』という担任の気付き」であり、「担 任として、児童生徒の出すサインに気付く感性をもつことが大切」と記されている。また、特殊教育 総合研究所による学習障害の判断に関する一連の研究 (「学習障害児の実態把握、指導方法、支援体 制に関する実証的研究」(2003)、「学習障害の判断に必要となる心理教育的アセスメントに関する研 究」(2004)、「小・中学校に在籍する特別な配慮を要する児童生徒の指導に関する研究 ―― LD、 ADHD 等の指導法を中心に ――」(2006)) においては、通常学級に在籍する児童・生徒へのスク リーニング検査として、教諭等によるチェックリストを使用している。「気付き」や「感性」に頼る 発見、またチェックリストにおいても、結果は回答した教諭の主観に大きく左右され相対的な評価に なりやすいという問題がある。とりわけ、ADHD、PDD に対し学習障害は認定されにくい傾向にあ る。また学習障害のスクリーニングといわれる PRS には、書きや計算に関する項目がないことが問 題である (汐田他 1995)。上野ら (2005) が開発した「LDI-R」は本人の学力・行動・社会面での アンバランスや問題点のプロフィールは大体把握できるとされているが、評価は本人を知る他者によ るものであり評価者の主観に影響を受けることに変わりはない。 一方、子ども自身の能力を直接的に測るスクリーニングとして、宇野彰他による「小学生の読み書 きスクリーニング検査 ―― 発達性読み書き障害 (発達性 dyslexia) 検出のために ――」がある。対 象の子ども自身が書いたり読んだりすることで測定するものであり、児童の状態や特徴を把握するう えでは有効である。しかし検査方法は個別検査であり集団として行うスクリーニングとしては複雑す ぎアセスメントとしての性格が強いといえるが、アセスメントとしては項目が少なすぎる。熊谷 (2010) は、このスクリーニングに対して、一部の学校の子どもの集団を母集団としていることや正 規分布ではないことなど、統計学的に限界があるとしている。 兜森ら (2008) は、小学校低学年児童を対象として前述の「小学生の読み書きスクリーニング検 査」を実施し、発達性読み書き障害の発見に有効かどうかを検討している。そして、実際にはこの検 査が個別検査のため対象の全児童 (672 名) に実施することは時間的にも難しい現実があるとし、第 一段階として学級担任による読み書きチェックリスト (10 項目) を行い、個別検査を実施する児童 を抽出している。また、抽出した児童に対しては「小学生の読み書きスクリーニング検査」と「レー ヴン色彩マトリックス検査」を実施したが、検査の実施に当たって複数の教員 (言語障害担当教員) や障害児教育を専攻する大学院生が同時に担当し事前の打ち合わせや練習を念入りに行った経過から、 通常学級の担任が研修なしに直ちにこれらの検査をしようとしても難しい、と指摘している。また、 判定基準として、宇野らの基準に基づいて、−2 SD を採用しているが、その結果、1 年生で 329 名 中 1 名 (0.3%)、2 年生で 343 名中 10 名 (2.9%) とが読み書き障害として抽出された。この結果は臨 床的経験に照らしてあまりに少なく、false negative (見落とし) を生み出している可能性があり、 兜森らが指摘するようにこのスクリーニングは検査内容及び判定基準の両方で多くの課題があると言 えよう。 近年いくつかの研究とスクリーニングの提案がされているが、日本語に特徴的な日本語漢字の書字 については研究自体が少ないこともあり、提案されているスクリーニングツールの有効性、簡便性に ついての検討は十分とはいえない。その理由としては、第 1 に、日本語読み書き障害とは何かについ て十分な理論的構築が行われていないこと、第 2 に、日本語漢字書字の困難の臨床的本質がまだ十分 に把握されていないこと、第 3 に、スクリーニング及びアセスメント結果の判定基準が客観的な基準 として設定されていないことによる。日本における学習障害とりわけ漢字書字の特異的困難の早期の 把握を可能にするためにはこれらの課題を早急に解明する必要がある。
LD やディスレクシアの概念、定義、診断方法、診断基準などについて、欧米においても混沌とし た現状がある。アメリカ合衆国においては、1975 年の全障害児教育法に学習障害が公式の障害カテ ゴリーとして位置づけられてから LD として認定される子どもの割合と数が増加したことが問題とし て指摘されてきた。割合というのは、障害児教育 (アメリカでは特殊教育) 全体に占める LD の割合 で、約 50% を長い間維持している。数の面では、学齢児全体の約 5 % の多さにある。その原因とし て LD の定義、概念、判定基準などあらゆる側面が議論され LD 概念について研究者の間にコンセン サスがないことなどが確認されている。アメリカでは、LD の過剰診断と過少診断がともに問題と なっている。Jenkins & O'Connor (2002) は実に、20%〜60% の false positives (過剰誤診断) がある とし、Torgessen は 10%〜50% の false negatives (過少誤診断:見落とし) があるとしている。しか し、LD をめぐる批判の多くが、LD をいかに概念化して捉えるかということよりもアセスメントに 関連している、という指摘がされており (Swanson 1991)、LD を巡る混乱は多面的で問題がどこに あるかという基本点も定まっていない。 日本ではどのぐらいの LD 児が学校教育を受けているかについて正確な統計は存在しない(窪島 2010)。文科省の推定値は、学習の問題を抱える子どもが約 4.5% であるとしているが、実際に LD と して教育を受けている子どもの数は未知である。通級指導教室に通う子どもの中で学習障害として統 計的にあげられている数字は、平成 21 年度通級による指導実施状況調査 (文科省) によると、小学 生総数 7,063,606 人に対して 4,039 人、率にして実に 0.057%、中学生総数 3,600,323 人に対して 687 人、率にして 0.019% である。比率で見るとアメリカの 100 分の 2〜5 程度である。特別支援教育と 改称された障害児教育全体の中での学習障害の比率は 8.7% にすぎない。そしてこの数字が多すぎる のか、少なすぎるのかの判断の根拠も現在のところ存在しない。わが国の LD 教育問題は、「知的発 達に遅れのない」発達障害全体の問題とともに、研究面、実践面、教育制度面、財政面などさまざま な面に問題を抱えているが、こうした状態全般の急激な変革は期待しにくい。 滋賀大キッズカレッジは、滋賀大学と連携し、その支援を受けて発達障害児の学習保障に取り組み、 アセスメントや学習指導に独自の発達的・教育的理論を構築しつつある。滋賀大キッズカレッジは専 門的相談機関として機能しており、通常は来所児に対するアセスメントから実施する。しかし、最近 では学校からスクリーニングツールに関する要望も少なくない。これまでにも滋賀大キッズカレッジ の作成した漢字検査を学校全体で実施、読み書き障害児の困難との比較検討は行っており、その臨床 的な有効性は感じているが、今日、読み書き障害の早期の把握のためのスクリーニングツールとして の有効性の確認と理論的根拠を明確にする必要があると考えた。 スクリーニングとアセスメント まずはじめにスクリーニングの位置づけを明確にしておく。screening は、もともと医学分野の用 語であり「迅速に実施可能な検査、手法を用いて、無自覚の疾病または障害を暫定的に鑑別するこ と」と定義されている (The CCI Conference on Prevention Aspects of Chronic Disease, 1951)。 screening を直訳すれば審査、選抜という意味であるが、集団検診を通じて疾病のある者あるいはそ の疑いのある者を発見し、疾病や障害の早期治療や予防対策を目的に行われることが多い。特別支援 教育では、本来学級児童全員に行うべきチェックリストを担任が主観的に「気になる子」などと抽出 した者だけに行うなど、スクリーニングとアセスメントが混同されていることがよくある。スクリー ニングの特徴は、集団全体を対象として実施され、問題のリスクがある者を早期に把握することにあ る。その結果、リスク有りと判定されたものに対してより正確な診断を行うためにさまざまな検査を 行うのがアセスメントである。そのため、スクリーニングには、リスクのある者を見落とさないこと、 第一線の実践家 (保健師や教師など) が実施できるように簡便であること、集団全体を対象にするた めに経済性も課題となる。さらには、あまりに「網をかけすぎ」てリスクの無いものまで選択し、不要 な心配や不安を与えたり、次のステップとなる詳細な諸検査 (アセスメント) の心理的、経済的負担
を与えることがないようにするなどが課題となる。したがって、スクリーニングにおいては、検査方 法が簡便で、多くの被験者で同一の条件で実施できる、目的とする疾病や障害を見逃さない、および 疾病や障害のないものを過剰に障害有りと判定しないことが重要な点である。また、スクリーニング で確定診断が行われるわけではなく、リスク有りと判定された被験者にはより詳しい検査や追跡調査 が行われる必要がある。 したがって、学習障害の場合にもまず学級集団全体を対象に学習困難をスクリーニングするための ツールが必要である。その際、スクリーニングに用いられる検査項目の内容と同時にスクリーニング においてどの程度の困難さのある者を「リスク有り」と判断するのかという基準設定が大きな課題と なる。 判定方法には大きく、カットオフ基準の設定によるものと規範準拠的基準があるとされている (FUCHS & FUCHS, 2006)。前者は、統計的なある基準をもって陽性、陰性の判定をするもので、 DSM-Ⅳなどの医学的診断においては多くの場合 2 SD 等が使用されている。前述の宇野らのスク リーニング検査も 2 SD を基準にしている。
最近わが国においても注目されているアメリカ合衆国の RTI (Responsiveness to Intervention) は、多段階介入モデルであり、スクリーニング − 早期介入 − アセスメント − 二次介入 − 再アセス メント − 三次介入 − 再アセスメント − 四次介入……というサイクルを構成している。RTI は、多 くのレトリックを含む複雑な問題を含んでいるが、形の上では特別な教育的ニーズのある子どもに対 する教育的対応のひとつのモデルを提示している。RTI は、通常 3 段階モデルとして紹介されてい るが、必ずしも 3 段階であるのではなく、2 段階モデルも 4 段階モデルも存在する。また、通常、ス クリーニングは第 1 ステップに含まれるとするものが多いが、Fuchs and Fuchs (2006) は、第 1 ス テップをスクリーニングとして取り出し、全体を 4 ステップで説明している。また、RTI のスク リーニングおよび介入後のアセスメントはカリキュラム準拠方式になっている。また、Fuchs and Fuchs (2006) によると、FUCHS, L. S., & FUCHS, D. (1998). 及び FUCHS, L. S., FUCHS, D., & SPEECE, D. L. (2002)、Speece, D. L. et al (2003) は、dual discrepancy approach を用いて介入後の アセスメントにクラスの平均成績の 1 SD 以下を Non-responder の基準としている。したがって、1 SD 及び 20 パーセンタイルあるいは 25 パーセンタイルをひとつの可能な基準として設定し、その他 のオルターナティヴ (−1.5 SD、− SD) を視野に入れるという方法が妥当であろうと考える。 わが国においても、海津ら (2009) による「特殊音節の読みに顕著なつまずきのある 1 年生への集 中指導」でも、基準のひとつを全クラス平均から 1 標準偏差以上の落ち込みが見られること、として いる。また海津ら (2009) は学習のつまずきの深刻さを定義する際、カットオフポイントを 1 標準偏 差に設定する研究は他でも見られるとし、集中指導の参加対象者を 1 SD を基準として絞り速やかに 特化した指導の場を用意したことは妥当だったと述べている。しかし、1 SD の基準のみでは、いわ ゆる学力不振との区別はできず、結果的に比較的知的に高い特異的学習障害は見落とされる可能性が ある。
Fuchs and Fuchs (2006) は、アセスメントの測定方法に規範準拠的測定法 (a norm-referenced measure) と一定のベンチマークを用いる基準準拠測定法 (a criterion-referenced measure) の 2 通 りがあるとしているが、「おそらくベストな方略」は、学年末の成績を示唆しうるスクリーニング ツールとしてベンチマークを用いるスクリーニングツールで 1 年生の全員を測定することであろうと している。滋賀大キッズカレッジの漢字読み書きアセスメントツールは、各学年の学習漢字をもとに 検査漢字を選択しており、検査では 1 学年下学年の課題を用いるので、特徴としてはカリキュラム準 拠型のアセスメントツールであり、かつ一定の標準偏差値 (−1 SD など) をカットオフ値として用 いる規範準拠測定でもあるといえる。 本研究では、通常学級在籍児と読み書き障害に関して個別の指導を受けている発達障害児に、滋賀 大キッズカレッジ (以下 SKC と表記) 作成による漢字書字検査を実施し、それぞれの漢字書字の成
績と特徴を比較検討することにより、通常学級において集団的に実施される漢字書字のスクリーニン グの判定基準の要件とを明らかにすることを目的とする。SKC 作成による漢字書字検査は、他者評 定ではなく子ども自身が書いたもので評価するという客観性があり、集団でも個別にでも使用でき、 また誰にでも実施できること、時間も 1 授業時間の約半分程度でできるという簡便性を備えており、 判定基準要件が明確にされることは学級集団レベルでの書き困難児の発見につながると思われる。と はいえ、これまでは滋賀大キッズカレッジが相談機関であるという性格上、この検査は漢字書字エ ラー分析などアセスメントツールとして質的分析に重きを置いて使用してきた。この点を考慮し、ス クリーニング検査としての有効性を検証することが本論文の課題である。そこで本研究では、① ス クリーニング検査として漢字書字検査を使用する際の基準設定の問題を中心的なテーマとし、② 併 せて本研究で採用した漢字書字スクリーニングの結果を通して日本語漢字書字の特異的困難の全体的 特徴とアセスメントの留意点及び指導への示唆にも言及する。 2 方 法 (1) 対象児 対象は、A 小学校通常学級在籍児 2 年生 89 人、3 年生 87 人、4 年生 70 人、5 年生 76 人、6 年生 60 人計 382 人である。発達遅滞があると疑われる児童は対象から除外した。読み書き障害のある児 童は、滋賀大キッズカレッジ学習室と B 小学校通級指導教室通級児の計 47 人 (以下通級児と表記) である。通級児は全員 WISC-Ⅲ知能検査を実施し、IQ は言語性、動作性、全 IQ のいずれも 70 以上 である (表 3)。 (2) スクリーニング用検査漢字の選択方法 学習指導要領の学年配当漢字及び (財) 日本教育文化研究財団:「生きる力が育つ漢字の学習 − 小 学校学年別配当漢字の習得状況に関する調査研究」〈2000 年〉の結果から、検査漢字を選択し漢字検 査を作成した。後者は、1999 年 6〜7 月中に全国の公立小・中学校の 66 校、788 学級、児童・生徒数 26,787 名を対象とした調査である。漢字 1 字あたり平均して約 500 名の児童・生徒の漢字習得状況の 平均値を算出し、% で表現したものである。読み替えは教科書によって提出学年が異なっているた め統一しにくい。そこで今回は資料としたデータにおいて、読みは上学年で指導する、とされたもの は除外した。例えば、資料では「上」は 1 年学習漢字だが「のぼ − る」という読み方は 3 年での学 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年 185 192 377 382 計 検査漢字 在籍児 分析対象 男 女 学年 表 1 A 小学校通常学級在籍児 43 42 31 39 30 45 42 39 36 30 88 84 70 75 60 89 87 70 76 60 1 年配当 2 年配当 3 年配当 4 年配当 5 年配当 1 1 2 3 0 8 11 8 6 7 9 12 10 9 7 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年 7 40 47 計 人数 男 女 検査漢字 表 2 対象通級児 81 77 79 84 80 98.8 93.6 94.2 94.9 93.4 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年
VIQ PIQ FIQ
表 3 通級児の WISC-Ⅲ結果 最小 平均 最大 最小 平均 最大 最小 平均 学年 109 109 124 115 115 88 82 82 85 81 96.1 97.6 94.9 95.4 94.4 106 127 115 111 111 83 85 85 80 86 93.6 102.7 96.5 96.7 96.3 119 114 128 115 115 最大
習とされていたため、この読み方をつかった書き問題は 1 年生漢字の検査から削除した。次に、書き 正答率を基準に正答率の高い方から 4 分割 (25 パーセンタイル) し、それぞれの区分から 10 字を選 択し (計 40 字)、選択漢字を含んだ短文で問題を作成した。通常学級において集団で実施されること を想定したとき 1 授業時間 (45 分) でやりきれること、書き困難のある子にとっても取り組める量 であることを考慮して計 40 問とした。40 問は、問題番号が大きくなるにつれ難易度も高くなる構成 とした。問題文作成上、1 問中に 2 個以上の学年配当漢字を含む場合や (例:「水よう日」−1 年問 題)、学年が上がるにつれ下学年漢字が含まれる問題文になった (例:本を買う −2 年問題に 1 年配 当漢字「本」が入っている) が、分析の対象は当該学年より 1 学年下の配当漢字のみとする。作成し た検査は、以下「SKC 漢字書字スクリーニング検査」と表記する。SKC 漢字書字スクリーニング検 査で採用した漢字の日本教育文化研究財団調査による単漢字平均正答率は表 4 の通りである。 通常学級在籍児には当該学年より 1 学年下の配当漢字使用の SKC 漢字書字スクリーニング検査を 使用した。通級児は実施時期が 4 月から 7 月の児童に対しては 2 学年下の配当漢字使用の SKC 漢字 書字スクリーニング検査、8 月以後実施の児童は 1 学年下の配当漢字使用の SKC 漢字書字スクリー ニング検査を使用した。選択された漢字は、1〜10 問、11〜20 問、21〜30 問、31〜40 問の 4 段階に 分けて構成されているが、本研究では便宜上 2 段階の難易度別として難易度の低い前半を A 問題 (1 問から 20 問まで)、難易度の高い後半を B 問題 (21 問から 40 問) とした。1 年生漢字の正答率は A 問題で 94%、B 問題でも 73.8% と高く、また A 問題と B 問題の正答率の差は 20.2 で他学年に比べる と顕著に小さい。2 年漢字と 3 年漢字の A 問題の正答率平均は 80% 台、B 問題の正答率平均は 40% 台、4 年漢字と 5 年漢字の A 問題の正答率平均は 70、B 問題の正答率平均は 30 と 10% ずつ低く なっている。しかし、A 問題と B 問題の正答率の差の平均は 2 年生以後では 30 ポイント後半から 40 ポイント台前半にあり大きな差があることがわかる。 (3) 検査の実施及び期間 検査は、通常学級在籍児は各学級担任もしくは当該校教諭により、学級ごとの集団検査として行っ た。通級児は指導者 (SKC スタッフ、通級指導教室担任) により個別検査として行った。 検査は、通常学級在籍児はそれぞれの学級で 2007 年 11 月から 12 月の間に、通級児は大学及び通 級指導教室にて 2008 年 4 月から 2010 年 10 月の間に実施した。 4.結 果 と 分 析 (1) 採点方法 採点は、経験のある SKC スタッフが一括して行った。採点基準は、小学校学習指導要領のもとに なっている「常用漢字表」(昭和 56 年 10 月の内閣告示・訓令) 及び「当用漢字字体表」(内閣告示第 1 号昭和 24 年 4 月 28 日) によることとした。すなわち、学習指導要領の「漢字の指導においては、 学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とすること」とある「標準」とはあくまで標準であってそ れ以外の字体を誤りとするものではない、ことに基づいて採点した。すなわち、とめやはねなどは書 字の誤りではなく、他の字体と混同することがなくその字として読むことができれば間違いではない ので正答とした。これは、漢字の本来的機能に関する小林一仁 (1998) (「× をつけない漢字指導」 A 問題と B 問題の差 1 年漢字 2 年漢字 3 年漢字 4 年漢字 5 年漢字 問題番号 表 4 SKC 漢字書字スクリーニング検査出題単漢字平均正答率 76.3 37.5 56.9 76.4 36.0 56.2 80.1 43.4 61.8 85.1 44.2 64.7 94.0 73.8 83.9 A問題 ( 1 〜20 問) B 問題 (21〜40 問) C 問題 ( 1 〜40 問) 38.7 40.4 36.7 41.0 20.2
大修館書店 1998) の説とも符合する。小林によると、漢字の字体成立の要件の第 1 に識別性が挙げ られる。即ち「他の文字の形とまぎれていない」ということである。SKC 漢字書字スクリーニング 検査の採点も、このことを基準において SKC スタッフの二人以上が「正しく認識できる」と判断し たとき正答とした。 各問題につき基準漢字 1 字に対して 1 点とした。検査問題作成上の理由から、1 年生配当漢字計 39 字、2〜5 年生配当漢字はそれぞれ計 40 字で構成した。 (2) カットオフポイント 本研究では、漢字書字検査の得点が当学年の平均から 1 標準偏差以上の落ち込みが見られることを 一つの基準とした。ただし、本研究では比較検討のため、−1.5 SD、−2 SD、及びヨーロッパ諸国で 比較的よく使用されている 20 パーセンタイル及び 25 パーセンタイルも算出し、検討材料とした。同 時に、先行研究の検討で明らかにしたように、スクリーニングはそもそもひとつの検査で完結して行 われるものでなく、対象の様々な側面にそれぞれの方法によってアプローチする総合的、複合的プロ セスである。本研究では、漢字書字を中心に検討するが、正誤の得点のみでなく、漢字の難易度によ るでき方も考慮する。具体的には、カットオフポイントによる判定を、難易度別に構成されている漢 字検査の A 得点と B 得点の差が補完的に機能しうるかどうか、還元すれば、難易度による得点差が、 スクリーニング結果に対して持つ意味を検討する。 (3) 漢字書字検査結果の全体的傾向 表 5 に見る様に、A 得点では 2 年生の結果が比較的高く、5 年生の結果が若干低く出ているが、全 体としては 7 割前後の正答率となっている。B 得点では、2 年生の結果が高く、3 年生の結果が低く 出ている。これは、2 年生のテスト漢字は 1 年生漢字で構成されており、漢字そのものが容易である ことに関連していると思われ、3 年の結果が低いことは、もともと日本教育文化研究財団:「生きる 力が育つ漢字の学習 − 小学校学年別配当漢字の習得状況に関する調査研究」〈2000 年〉においても 指摘されていることで予想されたことであった。合計得点 (C 得点) では、2 年生をのぞき概ね 5 割 から 6 割の正答率であった。 (4) 学年別の検査結果 ① 2 年生の検査結果 2 年生の検査漢字は 1 学年下の 1 年生配当漢字で構成されている。A 得点、B 得点、C 得点のいず れにおいても性差は認められなかった。 基準値を −1 SD、−1.5 SD、−2 SD に設定した場合の得点を表 7 に、それぞれに該当する人数を 表 6 に示した。−1 SD 値を基準とすると 2 年生 (1 年生配当) 漢字合計得点 (C 得点) では、23.6 点 が基準となり 16 人 (18.8%) が該当した。−2 SD では 5 人、5.9% となった。通級児 (9 人) の得点 を見ると −1 SD を基準として、C 得点で 9 人の全員が該当した (表 9)。−2 SD を基準にとると、 該当児は 2 人、22.2% となり、−1 SD が臨床的判断と一致する。パーセンタイル値で見ると合計得 点の 20 パーセンタイルが 24 点でほぼ −1 SD 値に相当した。25 パーセンタイルは 26 点であった。 通級児を見ると、合計得点の −1 SD に該当する者が 9 人で通級児全員がこの基準に該当した (図 1)。−1.5 SD を取ると該当児は 5 人 (55.6%)、−2 SD では該当児 2 人 (22.2%) となり、これらの 72.42 39.50 55.96 68.27 47.33 57.80 73.97 54.12 64.04 75.54 34.23 54.88 89.17 63.84 76.18 A 得点 B 得点 C 得点 2 年生 3 年生 4 年生 5 年生 6 年生 表 5 学年別正答数の比率
基準のみによった場合、多くの通級児が除外されてしまう。つまり、多くの false negative (見落と し) を生み出すことになる。 ② 3 年生検査結果 3 年生の検査漢字は一学年下の 2 年生漢字から構成されている。男女差が C 得点のみに認められ、 A 得点、B 得点には差はなかった。C 得点の 6 点以下には男のみ 6 人がいた。 基準値を −1 SD、−1.5 SD、−2 SD に設定した場合の得点を表 11 に、それぞれに該当する人数を 表 12 に示した。通常学級児童の場合、−1 SD 値を基準とすると 3 年生 (2 年生配当) 漢字合計得点 (C 得点) では、15.3 点が基準となり (表 11)、16 人 (19.0%) がリスク児に該当した (表 12)。−2 SD では 3 人、3.6% となった。通級児 (n=12) の得点を見ると −1 SD を基準として、C 得点で 8 人 (66.7%) が該当し、4 人が該当しなかった (表 12)。−2 SD を基準にとると、該当児は 3 人 (25.0%) となって 9 人が該当しないことになり、いずれの場合も臨床的実態とズレがあった。パーセンタイル 値で見ると合計得点の 20 パーセンタイルが 16 点でほぼ −1 SD 値に相当した。25 パーセンタイルは 18.25 点であった。次に、A 得点と B 得点の差を検討した。 A 得点と B 得点の差の平均は 8.2 点だった。差 の大きい方から 10 パーセントタイル (11 点以 上) に含まれるものが 13 人いた。通級児で C 得 点が 16 点 (正答率 40%) 以上の者は、4 人で彼 らの A-B 得点差は、11 点、12 点、7 点、11 点で あった。つまり、漢字検査の得点が高い者の中に、 23.6 20.5 17.3 8.4 6.1 3.9 14.9 13.8 12.7 −1 SD −1.5 SD −2 SD 24.0 26.0 9.0 10.5 16.0 16.0 20% ile 25% ile A 得点 B 得点 C 得点 基準 表 7 2 年生検査結果の基準別平均得点 16 (18.8) 11 (12.9) 5 (5.9) 14 (16.5) 11 (12.9) 3 (3.5) 13 (15.3) 7 (8.2) 6 (7.1) −1 SD −1.5 SD −2 SD 17 (19.3) 23 (26.1) 19 (21.6) 21 (23.9) 22 (25.0) 22 (25.0) 20% ile 25% ile A 得点 (%) B 得点 (%) C 得点 (%) 基準値 表 8 基準別人数 n=88 9 5 2 (88.9) (66.7) (22.2) 8 6 2 (77.8) (55.6) (44.4) 7 5 4 −1 SD −1.5 SD −2 SD A 得点 B 得点 C 得点 表 9 2 年通級児の基準ごとの人数 n=9 (%) 人数 (%) 人数 (%) 人数 該当人数 (100.0) (55.6) (22.2) 図 1 2 年生 (1 年漢字) 合計正答数別人数 2.185 4.498 6.288 17.04 12.87 29.91 19 19 38 10 0 14 85 85 85 A 得点 B 得点 C 得点 人数 最小値 最大値 平均値 標準偏差 表 6 2 年生検査結果の概要
A 得点と B 得点の差が大きい者がおり、合計得点が比較的高い場合でもその差が一定以上にあるこ とが (差の大きい方から 10 パーセントタイル) 学習の困難さの 1 つの指標となることを示している。 C 得点が −1 SD 以下あるいは A-B 得点差が 10 パーセンタイルに相当する 11 点以上の場合をリスク 有りと見ることにすると、通級児 12 人はこのいずれかの基準に全員該当する。 ③ 4 年生の検査結果 4 年生の検査漢字は 3 年生配当漢字から構成さ れている。 男女差が A 得点と C 得点に有意に認められ、 B 得点では差はあるものの有意ではなかった。A 得点では 5 点までが男のみで 7 人、C 得点では 7 点までが男のみ 8 人であった。B 得点でも 1 点以 下が男のみ 6 人いたが、統計的に有意の差ではな かった。 基準値を −1 SD、−1.5 SD、−2 SD に設定し た場合の得点を表 15 に、それぞれに該当する人 数を表 16 に示した。通常学級児童の場合、−1 SD 値を基準とすると 4 年生の (3 年生配当漢字) 合計得点 (C 得点) では、14.85 点が基準となり (表 15)、12 人 (17.60%) がリスク児に該当した (表 16)。−2 SD では 4 人、5.9% が該当した。一 方、通級児を同様に C 得点の基準値に照らして みると、10 人中 7 人が −1 SD 基準に該当し、6 人が −1.5 SD 基準に、3 人が −2 SD 基準に該当 した。ここでも −2 SD はカットオフ基準値とし ては実態にそぐわないことがわかる。パーセンタ イル値では、20、25 パーセンタイルともに 8 人、 80.0% であった。通級児の場合、人数の少なさが 強く影響しているように思われる。その結果、 −1 SD 基準では 3 人が外れ、パーセンタイル値 では 2 人が外れることになった (表 17)。そこで 次に、A 得点と B 得点の差を見る。A-B 得点の 差の平均は 3.97 点、標準偏差 3.1289 であった。 15.30 11.98 8.66 3.45 1.75 0.05 11.31 9.41 7.52 −1 SD −1.5 SD −2 SD 16 18.25 4 5.00 12 13.25 20% ile 25% ile A 得点 B 得点 C 得点 基準値 表 11 3 年生検査結果の基準値別平均得点 16 (19.0) 5 (6.0) 3 (3.6) 15 (17.9) 3 (3.6) 1 (1.2) 12 (14.3) 5 (6.0) 3 (3.6) −1 SD −1.5 SD −2 SD 17 (20.2) 21 (25.0) 19 (22.6) 30 (35.7) 18 (21.4) 21 (25.0) 20% ile 25% ile A 得点 (%) B 得点 (%) C 得点 (%) 基準値 表 12 3 年生基準別人数 n=84 8 7 3 (83.3) (58.3) (41.7) 10 7 5 (50.0) (33.3) (25.0) 6 4 3 −1 SD −1.5 SD −2 SD A 得点 B 得点 C 得点 表 13 3 年通級児の基準ごとの人数 n=12 (%) 人数 (%) 人数 (%) 人数 基準値 (66.7) (58.3) (25.0) 図 2 3 年生 (2 年漢字) 合計正答数別人数 3.796 3.396 6.648 15.11 6.85 21.95 20 16 36 0 0 0 84 84 84 A 得点 B 得点 C 得点 度数 最小値 最大値 平均値 標準偏差 表 10 3 年生検査結果の概要
得点差 3 点までは A 得点が 40% 以下であり、比 較的難度の低い漢字でも成績が悪い者があてはま る。A 得点が 50% 以上の者を見ると、通級児で は 7 点差が 3 人、8 点差が 1 人、9 点差が 1 人で あった。満点が 20 点であるから 7 点差以上の差 は相当に大きな開きといえる。−1 SD 基準では 該当しなかった 3 人がいずれも A-B 得点差で見 ると、この範囲に入った。したがって、−1 SD 基準と A-B 得点差の 2 つの基準を組み合わせるとこの検査から全員がリスク児として検出可能で あった。さらには、3 年生漢字から漢字の困難さが増大するという臨床的経験との関係がもんだいと なるが、図 3 に示されるように、右側に小さな山と左よりの大きな山に成績が二極分解していること がわかる。 ④ 5 年生の検査結果 5 年生の検査漢字は 4 年配当漢字から構成されている。 男女差は、A 得点で 1 % 水準の有意差、C 得点で 5 % 水準の有意差が認められ、B 水準では統計 的有意差はなかった。A 得点では 5 点以下が男のみ 6 人、C 得点では 4 点以下に男のみ 5 人がいた。 通常学級児童で基準値を −1 SD、−1.5 SD、−2 SD に設定した場合の得点を表 19 に、それぞれに 該当する人数を表 20 に示した。通常学級児童の場合、−1 SD 値を基準とすると 5 年生 (4 年生配当 漢字) の合計得点 (C 得点) では、13.32 点が基準となり (表 19)、14 人 (18.7%) がリスク児に該当 した (表 20)。−2 SD では 4 人、5.3% が該当した。一方、通級児を同様に C 得点の基準値に照らし 14.79 10.82 25.62 20 20 39 2 0 2 18 20 37 68 68 68 A 得点 B 得点 C 得点 人数 範囲 最小値 最大値 平均値 標準偏差 表 14 4 年生検査結果の概要 5.405 5.803 10.769 14.85 9.46 4.08 5.02 2.12 −0.78 9.39 6.69 3.98 −1 SD −1.5 SD −2 SD 15.00 17.25 5.00 6.00 9.00 12.00 20% ile 25% ile A 得点 B 得点 C 得点 基準値 表 15 4 年生検査結果の基準値別平均得点 12 (17.6) 10 (14.7) 4 (5.9) 15 (22.1) 9 (13.2) 4 (5.9) 14 (20.6) 10 (14.7) 3 (4.4) −1 SD −1.5 SD −2 SD 14 (20.6) 17 (25.0) 15 (22.1) 19 (27.9) 14 (20.6) 18 (26.5) 20% ile 25% ile A 得点 (%) B 得点 (%) C 得点 (%) 基準値 表 16 4 年生基準別人数 n=68 7 6 3 (100.0) (100.0) (70.0) 10 10 7 (100.0) (70.0) (20.0) 10 7 2 −1 SD −1.5 SD −2 SD A 得点 9 10 B 得点 (70.0) (80.0) C 得点 7 8 20% ile 25% ile 表 17 4 年通級児の基準ごとの人数 n=10 (80.0) (80.0) 8 8 (90.0) (100.0) % 人数 % 人数 % 人数 基準値 (70.0) (60.0) (30.0) 図 3 4 年生 (3 年漢字) 合計正答数別人数
てみると、9 人中 7 人 (77.8%) が −1 SD 基準に 該当し、6 人 (66.7%) が −1.5 SD 基準に、2 人 (22.2%) が −2 SD 基準に該当した。ここでも −2 SD は 4 分の 3 以上を見落とすことになり、カットオフ基準値としては実態にそぐわないことがわか る。パーセンタイル値では、20、25 パーセンタイルともに 9 人中 8 人、88.9% であった。通級児の 場合、人数の少なさが影響しているように思われる。その結果、−1 SD 基準では 2 人が外れ、パー センタイル値では 1 人が外れることになった。そこで、次に A 得点と B 得点の差を検討する。 A 得点が 40% 以上の正答率の児童でみると、A-B 得点差は 1 人が 4 点、2 人が 8 点、1 人が 10 点 となった。A-B 得点差の大きい方から 20 パーセンタイルをとると 7 点であった。したがって、通級 児の中で −1 SD、−1.5 SD、−2 SD のいずれの基準値からも外れた者で、7 点以上の得点差があっ た 1 人 (得点差 8 点) がこれに該当した。2 つの基準のいずれにも該当しない者が 1 名残ることに なった。−1 SD、−1.5 SD、−2 SD のいずれの基準値からも外れた 2 人の A-B 得点差はそれぞれ、4 点、10 点であったが、通級児の中で得点差が 4 点の者 1 名はいずれの基準からも外れることになっ た。 ⑤ 6 年生 (5 年生配当漢字) の検査結果 男女差は、A 得点、B 得点、C 得点のいずれにおいてもなかったが、A 得点と C 得点ではともに 2 点以下は男のみ 2 人であった。 通常学級児童で基準値を −1 SD、−1.5 SD、−2 SD に設定した場合の得点を表 23 に、それぞれに 該当する人数を表 24 に示した。通常学級児童の場合、−1 SD 値を基準とすると 6 年生 (5 年生配当 漢字) の合計得点 (C 得点) では、13.85 点が基準となり (表 24)、8 人 (13.3%) がリスク児に該当 した (表 24)。−2 SD では 3 人、5.0% が該当した。一方、通級児を同様に C 得点の基準値に照らし 5.114 5.036 9.795 13.65 9.47 23.12 19 18 37 0 0 0 75 75 75 A 得点 B 得点 C 得点 人数 最小値 最大値 平均値 標準偏差 表 18 5 年生検査結果の概要 13.32 8.43 3.53 4.43 1.91 −0.61 8.54 5.98 3.43 −1 SD −1.5 SD −2 SD 16.00 18.00 5.00 5.00 9.40 12.00 20% ile 25% ile A 得点 B 得点 C 得点 基準値 表 19 5 年生検査結果の基準値別平均得点 14 (18.7) 6 (8.7) 4 (5.3) 13 (17.3) 7 (9.3) 0 (0.0) 13 (17.3) 6 (8.0) 5 (6.7) −1 SD −1.5 SD −2 SD 17 (22.7) 21 (28.0) 20 (26.7) 20 (26.7) 15 (20.0) 25 (33.3) 20% ile 25% ile A 得点 (%) B 得点 (%) C 得点 (%) 基準値 表 20 5 年生通常学級基準値別人数 n=75 7 6 2 (77.8) (55.6) (0.0) 7 5 0 (77.8) (44.4) (44.4) 7 4 4 −1 SD −1.5 SD −2 SD A 得点 B 得点 C 得点 表 21 5 年通級児の基準ごとの人数 n=9 % 人数 % 人数 % 人数 基準値 (77.8) (66.7) (22.2) 図 4 5 年生 (4 年漢字) 合計正答数別人数
てみると、7 人中 4 人 (57.1%) が −1 SD 基準に該当し、3 人 (42.9%) が −1.5 SD 基準に、2 人 (28.6%) が −2 SD 基準に該当した。ここでも −2 SD は 4 分の 3 弱を見落とすことになり、カット オフ基準値としては実態にそぐわないことがわかる。パーセンタイル値では、20 パーセンタイルに 5 人 71.4%、25 パーセンタイルに 7 人中 6 人、85.7% であった。6 年生通級児の場合も、人数の少なさ が強く影響しているように思われる。その結果、−1 SD 基準では 3 人が外れ、20 パーセンタイル値 では 2 人が外れることになった。そこで、次に A 得点と B 得点の差を検討する。 A-B 得点差の大きい方から 20 パーセンタイルをとると、9 点になる。9 点以上の差のある子ども は通常学級では 16 人 (26.7%)、通級児童では 2 人 (3.3%) であった。合計得点の−1 SD基準から外 れた通級児童は 3 人でその A-B 得点差は、それぞれ 7 点、8 点、9 点であり、A-B 得点差の 20 パー センタイル値の 9 点を基準とすると 3 人の内 2 人が該当し、得点差 7 点 (A 得点 12 点 60%、B 得点 5 点 25%、計 17 点 43%) の児童一人が除外された。その結果、−1 SD と A-B 得点差の 2 つの基準を 用いると、通級児の 7 人中 6 人が該当した。 4.575 4.379 8.529 14.48 7.90 22.38 20 18 37 1 0 1 60 60 60 A 得点 B 得点 C 得点 人数 最小値 最大値 平均値 標準偏差 表 22 6 年生検査結果の概要 13.85 9.59 5.32 3.52 1.33 −0.86 9.91 7.62 5.33 −1 SD −1.5 SD −2 SD 14.40 17.00 3.20 4.25 11.20 12.00 20% ile 25% ile 基準値 基準値 基準値 基準値 表 23 6 年生検査結果の基準値別平均得点 8 (13.3) 4 (6.7) 3 (5.0) 12 (20.0) 3 (5.0) 0 (0.0) 7 (11.7) 5 (8.3) 3 (5.0) −1 SD −1.5 SD −2 SD 12 (20.0) 16 (26.7) 12 (20.0) 15 (25.0) 12 (20.0) 19 (31.7) 20% ile 25% ile A 得点 (%) B 得点 (%) C 得点 (%) 基準値 表 24 6 年生通常学級基準値別人数 n=60 4 3 2 (71.4) (57.1) (42.9) 5 4 3 (42.9) (28.6) (0.0) 3 2 0 −1 SD −1.5 SD −2 SD A 得点 5 5 B 得点 (57.1) (71.4) C 得点 4 5 20% ile 25% ile 表 25 6 年通級児の基準ごとの人数 n=7 (71.4) (85.7) 5 6 (71.4) (71.4) (%) 人数 (%) 人数 (%) 人数 基準値 (57.1) (42.9) (28.6) 図 5 6 年生 (5 年漢字) 合計正答数別人数
4 考 察 滋賀大キッズカレッジのスクリーニングとアセスメント 本研究の課題は漢字書字のスクリーニングの基準値の設定を中心としているが、考察のはじめに滋 賀大キッズカレッジのスクリーニングとアセスメントの全体構造を瞥見しておく必要があろう。滋賀 大キッズカレッジではスクリーニングのために、ひらがな読み書き、漢字読み書き、数量計算の 3 つ のアセスメントツールをそろえている。ひらがなの読み書きは、今のところ、スクリーニングとして よりはアセスメントに比重があり、個別に実施するものが多い。項目としてあげれば、次のような課 題を実施する。文字以前の音韻意識と文字 − 音対応規則の習得課題を区別しつつ、全体をアセスメ ントする。漢字については、読み課題、書き課題のそれぞれについて、40 問抽出課題と全漢字 (学 年配当漢字) 検査がある。滋賀大キッズカレッジのスクリーニング及びアセスメントは指導の前提と して行うものであるので、学習に関しては学習指導要領準拠の内容としている。そのため、スクリー ニングでは 40 問課題を使用するが、読みのアセスメントでは必要に応じて全漢字課題をすることも ある。アセスメントではさらにさまざまな認知、神経心理学的検査を併用する。通常使用している ツールとしては、WISC-Ⅲ、K-ABC など標準化された知能検査、「音韻意識」の発達状態に関する呼 称課題 (絵の呼称)、音韻分解、音韻抽出、語頭、語尾、語中音、置換、抹消 (「た」ぬき)、逆唱、 非語音読など。さらに、人物画、図形模写・記憶再生 (Rey の複雑図形)、注意配分、手指のコント ロール、短期記憶、視覚構成、運動コントロールなどをルーチーンの課題としておこなっている (久 保田・窪島 2005)。その上で、もっとも重視していることは、われわれがアセスメントの「人格構造 論的パースペイティブ」と呼んでいるところの、① 第 1 相(認知的、神経心理学的側面)、② 第 2 相 (自己意識の発達)、自己の障害に対する主体的態度の側面、③ 第 3 相 (教育的価値 − 人格全体の発 達とその指導) というアスペクトである(窪島 2007、2008)。本研究は、その中の学習課題に視点を 当てた漢字書字に限定したものである。また、滋賀大キッズカレッジでは、一般によく用いられてい る教師によるチェックリストは読み書き計算障害の資料としては使用しない。なぜなら、われわれの 調査では少なくても学習に関してはそれらは教師の主観にあまりに依存しており、ほとんど有効性が 無いことがわかっていることによる。通常学級教師が読み書き障害について知見を深め、観察眼を飛 躍的に高めた時には一定程度の意味があるかもしれないが、少なくても現在のところ、スクリーニン グは主観的なチェックリストではなく、子ども自身による客観的な作品によって行うべきであると考 えている。 採点基準について 2007 年東京ビデオフェスティバルの「ビデオ大賞」を受賞した長野県立梓川高校放送部作成の 「漢字テストの不思議」が見事に描き出しているように、漢字の採点基準は日本教育界の最大の「不 可思議」の内の上位何番目かに数え上げることができよう。そのビデオに登場してくる文部科学省課 長のことばにあるように、漢字の字体は「漢字として誰もが読むことができればよい」のである。文 科省は、学習指導要領にある標準漢字はあくまで標準であってそれ以外を誤りとするものではないと する原則に基づく見解を表明しているにもかかわらず、小学校から高校までの教育現場においては漢 字の基準はよくて「標準漢字」字体であり、多くの場合は教師個々人の経験的主観によっていること がこの「漢字テストの不思議」によって明白に描き出された。昨今、学習障害児用と銘打つ漢字練習 帳のほとんどがこの「標準漢字」字体を唯一絶対のものとするか他の選択余地がないものとして提示 している。SKC はかねてより、漢字の筆順についても、「筆順指導の手引き」(文部省著作昭和 33 年 (1958) にある「本書に示される筆順は、学習指導上に混乱を来さないようにとの配慮から定められた ものであって、このことは、ここに取り上げなかった筆順についても、これを誤りとするものではな
く、また否定するものでもない」とする原則を踏まえているが、字体についても同様である。した がって、本研究における漢字検査の結果はあくまでこうした原則による採点によるものであり、小学 校で通常行われている漢字テストの採点方法とは異なっているであろうことが留意されなければなら ない。今日の学校教育に於いて、読み書き困難 (障害) のある子どもたちを苦しめている原因がここ にあることをあえて指摘しなければならないところに、日本の学習障害問題の深刻な現状があるので はないかと考える。 カットオフ基準値の設定について 本研究では、漢字書字検査得点に関連して、−1 SD がアットリスク児の把握におおむね妥当する という結論を得た。しかし、あくまでこれは滋賀大キッズカレッジ作成の漢字書字検査を用いて、滋 賀大キッズカレッジの採点方法で採点した場合であって、一般的妥当性があるかどうかについては断 定できない。わが国には、読み書き障害の統一的なスクリーニング検査やアセスメントツールが存在 しない、という議論がある。この議論は、学習障害概念が半世紀以上の歴史がある欧米においても同 様である。わが国の場合、とりわけ通常学級の学習到達度について、到達しているか否かを判定する 一般的コンセサスのある基準値がそもそも存在しない。基準値が存在しないところで、それに対して どの程度遅れているかどうかという議論をしても確定的な議論は不可能である。ある数値、例えば −2 SD 値を持ち出したところで一般的な基準としてはほとんど意味がないといえる。現時点では統 一的、普遍的カットオフ基準なるものを望むことが現実的でなく、むしろそうしたものが無理矢理に できたとしてもかえって多くの問題をはらむものとなることは容易に推測できる。したがって、今日 的には、それぞれに用いられているスクリーニングツールに即し基準設定などの試みを積み上げてい くことが必要な作業であろう。本研究もそうした限定的意義を有するものである。 本研究の目的は、通常学級在籍児と読み書き障害に関して個別の指導を受けている発達障害児に、 NPO 法人滋賀大キッズカレッジ作成による漢字書字検査を実施し、それぞれの漢字書字の成績と特 徴を比較検討することにより、通常学級において集団的に実施される漢字書字のスクリーニングに関 してもっとも適している基準値を明らかにすることであった。その際に、一つの方法としてカットオ フポイントを −1 SD、−1.5 SD、−2 SD、20 パーセンタイル、25 パーセンタイルとしてそれぞれの 妥当性を実際に個別指導を行っている臨床ケースに対応させて通常学級在籍児群の成績を検討した。 その結果、−1 SD 値がもっとも臨床ケースに近く、各学年のアットリスク児はそれぞれの学年にお いて 12%〜21% となった。表 26 に各学年の合計得点を基準ごとに示した。これらの数値は、欧米に おけるディスレクシアの出現率にほぼ相当する。わが国において通常の学級に在籍する特別な教育的 ニーズのある子どもが 6.3%、学習上の困難が 4.5% にのぼるという結果が出ているが (文部科学省, 2003)、小西 (1999) が滋 賀県における全小中学校抽出調査を通した結果として国語・算数等の学習 に困難を示すと思われる児童・生徒は学年を通して 3〜18% 存在すると述べていることにも照応する。 C 得点の基準値毎の点数を見ると、2 年生が、−1 SD で 23.6 点と高く、3 年、4 年、5 年、6 年はほ ぼ 13 点から 15 点の間にある。5 年、6 年生の 4 年、5 年配当漢字が一番低いが、これは、総合初等 教育研究所の調査 (総合初等教育研究所:教育漢字の読み・書きの習得に関する調査と研究、第 3 回 調査 2003 年実施) が、5 年字は「読み」「書き」ともに定着しにくい、と述べていることに関係して いるかもしれない。 13.9 9.6 5.3 13.3 8.4 3.5 14.8 9.5 4.1 15.3 12.0 8.7 23.6 20.5 17.3 −1 SD −1.5 SD −2 SD 2 年生 3 年生 4 年生 5 年生 6 年生 基準値 表 26 C 得点 (合計得点) の基準別平均正答数の学年比較
しかし、そもそも読み書き障害がヘテロな集団であり、単一な実体をなしていないという今日の知 見に照らしてみれば単一の基準で判定すること自体が不合理である。本研究においても、漢字書字の 結果のみでは、基準から外れる通級児があった。具体的には、3 年生 4 人、4 年生 3 人、5 年生 2 人、 6 年生 3 人が得点のみの基準では除外された。そこで、A 得点と B 得点の差を検討した。これは、比 較的難易度の低い漢字書字はできるが、難易度の高い漢字書字になると急激に得点が低くなる子ども が臨床的に観察されていたことによる。得点差は相対的なものなので、たとえ、難易度の高い B 課 題の得点が同じように低くても比較対象の難易度の低い A 課題の得点が低ければ差が出ないことに なる。従って、この場合、A 得点が比較的高いことが前提となる。そこで、本研究においても得点 差の比較では A 課題の正答率が 40% ないしは 50% 以上であるとして差の大きいケースの検討をした。 その際、各学年で差の大きい方から 10 パーセンタイルないし 20 パーセンタイルを「差が大きい」と 操作的に規定した。その結果、単純に合計得点のカットオフ基準では除外されたケースのいくつかが 該当することになった。すなわち、3 年生では −1 SD 基準で除外された 4 人全員が該当した。4 年 生では −1 SD 基準で除外された子どもの 3 人全員が該当した。5 年生では −1 SD 基準では 2 人が除 外されたが、A-B 得点差が 20 パーセンタイルを取ると 2 人のうち 1 人が該当したが、ひとりは非該 当のままであった。6 年生は −1 SD 基準で 3 人が除外され、得点差でそのうちの 2 人が該当となっ たがなお 1 人は非該当であった。得点のみの単一基準に得点差というアスペクトを加えて複数の観点 から見ることの重要性が確認されたが、それでもなおすべての臨床ケースが該当することにならな かった。しかも、通級児の書きの躓きは決して軽度ではなく、本研究の対象となった「通級児」は長 年にわたって「介入に対する応答性」(RTI) が低く、教育的介入すなわち指導に対して頑強に抵抗 する比較的重度の書き障害があるととらえられる。通常学級における教科指導の中でその周辺条件を 改変 (アコモデーション) することによって学習状況が改善されるような軽度の学習障害は、これら 二つの基準にも該当せず見落とされることになる可能性が高い。そうすると、さらに教育実践的な質 的分析に重きを置いたスクリーニングとアセスメントが必要になると思われる。本来、スクリーニン グは、リスクが想定される子どもに対して教育的介入を行いつつその学習状況と発達的側面の検討に よって判断するという、本来のプロセスが一層重要となるであろう。その場合、スクリーニングでの 抽出すべき対象 (要配慮児) はもっと幅広い「ニーズ」のある子どもとなる可能性がある。 除外されたケースの検討
5 年生でどの基準にも該当しなかった通級児は、WISC-Ⅲで言語性 IQ108、動作性 IQ110、全 IQ110 と知的には高く、PDD と ADHD が有り薬物療法も行っている。読み障害はないものの漢字書 き障害はあり、学習室に通級している。PDD 症状が目立ち、学習場面で落ち着いて学習に参加する ことがなかなかできず、変化が見えにくい児童としてケース検討の対象となっている。漢字の読みに 問題はない。書き障害では、本検査で使用した漢字書き検査でも A 得点正答 9 点、45% の正答率、 B 得点正答 5 点、正答率 25%、合計得点 14 点、35% であり、一般的基準から見れば大きく落ち込ん でいると言わなければならない。漢字書字検査では 5 年生時点で 3 年生課題が約半分の正解率で、エ ラー分析では書き障害児特有の書字エラーが見られる (深川・窪島 2007、窪島・深川 2007)。すなわ ち 2 年以上の落ち込みがあり、ディスクレパンシーモデルによれば間違いなく学習障害に該当する。 学校では、担任は何も問題がない子どもと見ているという報告があった。しかし、保護者はそれほど 楽観しておらず、中学校進学に当たって通常学級でついて行けるか、支援学級の方があっているだろ うかと悩んでいる。 6 年生で二つの基準のいずれにも該当しなかった児童は、PDD があり薬物治療を受けている。 WISC-Ⅲは言語性 IQ115、動作性 IQ111、全 IQ115 と高く、学習にも大きな落ち込みはないが本人は 「漢字が一番わからない」といい、授業には参加できていない。したがって、漢字の読み書きのみの 基準でその学習困難をはかることはできず、Weber の指摘するように、複合的なリアリティのある
困難の把握が必要なことを示すケースである。 今 後 の 課 題 ① 個別スキルの学習理論、発達理論的位置づけ 発達障害の併存については今回検討できなかった。しかし、たとえ、漢字書字に限っても子どもは 漢字書字スキルのみで書くわけではない。もし、書字スキルのみで書いているとすればそれは大きな 視点の狭さ、関心や興味の大きな限定、意味のない単純スキルのみの実行など、むしろ別の発達障害 の結果であることを疑わせよう。学習は、読み、書きひとつとってみても、書きたい意欲と、書くこ との何らかの意味づけ・必然性を必要とし、書きたい対象や伝えたい人との関係性を前提とするよう な子どもの総合的な力の発揮である。学習障害のアセスメントと指導とはそうしたものであるべきで あり、漢字書字問題が書字スキルとしてのみ取り出されるような昨今の傾向は発達的・教育的パース ペクティヴから見ればそこにこそ大きな問題があると見なければならないと考える (Weber 2010)。 この観点からは、障害の併存のみならず、生活上の課題と学習との関連の分析などが必要となる。 ② 読み書き計算障害の臨床像の明確化 読み書き障害など学習障害は本来的に臨床的あるいは実践的カテゴリーである。学校及び生活場面 で何らかの困難がある、ということが問題である。もちろん、困難があるかないかは教師の主観によ るものでもないし、保護者の主観によるものでもなく、また子ども自身に困難が意識されているかい ないかという問題でもない。その意味では、困難は単なる「こまり感」にとどまるものではない。そ の困難は、複合的性格を持っていることが根本的特徴であるが (Weber 2010)、それゆえにいくつか の視点によって客観的な指標の根拠を持って明確にされる必要がある。少なくても、神経心理学的ア プローチ、認知的アプローチ、学習論的アプローチ、発達論的アプローチの 4 側面からのアプローチ が必要であり、最終的にはその寄せ集め ではなく、発達論的理解が必要であり (Kamilloff-Smith 2000)、Weber が指摘するような「統合的発達モデル (an intgegrative developmental model)」にも とづく構造化が行われる中で適切な診断 − 教育指導のプロセスが想定される必要がある。本研究の 限界の一つは、通常学級児童が一つの学校の子どもであること、通級児童が量的に少ないということ のほかに、読み書き障害のある子どもをすべてカバーしたものでないことである。その意味でも、研 究は端緒に過ぎず、多くのケースの積み上げと悉皆的調査研究により読み書き障害、計算障害などの 臨床像を明確にすることが求められる。 注 石井麻衣,雲井未歓,小池敏英 (2003):学習障害児における漢字書字の特徴 ―― 誤書字と情報処理過程の偏り との関係について,LD 研究,2003,12-3,333-343 上野・篁・海津 (2005):LDI-R-LD 判断のための調査票 − 日本文化科学社 宇野彰他 (2006):小学生の読み書きスクリーニング検査 ―― 発達性読み書き障害 (発達性 dyslexia) 検出の ために ――,インテルナ出版 2006 独立行政法人国立特殊教育研究所病弱教育研究部病弱教育研究室 (2004):学習障害の判断に必要となる心理教 育的アセスメントに関する研究 (平成 13 年度〜平成 15 年度),一般研究報告書 独立行政法人国立特殊教育研究所 (2003):学習障害児の実態把握,指導方法,支援体制に関する実証的研究, プロジェクト研究報告書 独立行政法人国立特殊教育研究所 (2006):小・中学校に在籍する特別な配慮を必要とする児童生徒の指導に関 する研究 ―― LD,ADHD 等の指導法を中心に ―― (研究年度平成 15 年度〜17 年度) 文部科学省 (2003):今後の特別支援教育の在り方について (最終報告).特別支援教育の在り方に関する調査研 究協力者会議
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