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企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計 : 非モデル的研究の概観(蜷木實教授追悼号)

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企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計

非モデル的研究の概観一

中  野

勲 1 序 論  現在,我々は,地球的規模の環境危機に見舞われているといっても過言では ない。それを例証する著しい兆候として,例えばオゾン層の破壊,大気中の炭 酸ガスの増加と平均気温変化の可能性,開発途上国の近視眼的な資源開発の結 果としての甚だしい熱帯雨林の消失,先進工業国の開発途上国への工業進出に ともなう公害の拡大等が,挙げられる。これらは企業活動の集積的な結果に起 因するところが大きい,という点に,企業の社会的(ないし全地球的)責任が あらためて問いなおされるべき契機が存在する。  このような危機的状況のなかで,諸企業は,環境問題への取り組みその他の いわゆる社会責任情報を,どのような方法で,どの程度開示しているか。この 問題は純科学的に客観現象を解明するという立場からも興味深いが,それだけ ではなくて,社会的・国家的ないし全地球的立場から環境政策ないし企業の社 会責任情報の開示制度を立案する場合にも,探求されねばならない。なぜなら, 現実の状況をしらないでは,それを修正・強化あるいは否定するものとしての 社会・国家政策を適切に形成する事はできないからである。  この,諸企業の社会責任情報の開示行動の研究というテーマは,また,以下 の理由から,会計学の立場からも意義があると考えられる。  企業会計,とくに外部報告会計の基礎的目的の1つは,私見によれば,経営 者ないし企業のエゴイスティックな本質から分泌することのあるべき様々な反 社会的行動の可能性をディスクロージャーをつうじて制御・抑制する事にある,

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    1) と思われる。たとえば,資本維持にもとつく損益計算制度があるので,経営者 は詐欺的な行動やひどい怠慢や,出資者のためでなく経営者自身の利益極大化 に貢献する企業内投資プロジェクトの採択等を過度に行うことを抑制される。 というのは,そうしないと期間損益の低下となって経営者の責任が追求される          2) こととなるからである。このような企業ないし経営者のエゴイズムの制御とい うことは,企業と出資者との間の経済関係が維持され得る程度に,両者間の不 信(とくに経営者にたいする出資者の不信)を解消すること,この意味での「不 信解消」が会計の基礎的な目的であることを示している。(なお,いわゆる意思 決定問題との関係で云えば,かかる不信の解消が行われていなければ,企業情 報を外部利害関係者が彼らの決定の基礎資料として受け入れることもありえな いであろう。この意味で,不信解消目的は,意思決定目的に先立つべき基礎的 目的をなす。)  しかし,このような,かなり広く受け入れられていると思われる見解(エイ ジェンシー理論的な見解)に存在する限界は,その企業の責任の対象ないし範 囲がその出資者グループという風に非常に狭く限定されていることにある。企 業はたんに出資者グループにたいして責任を負うだけではなくて,また,地域 住民,従業員,国家,そして究極には地球にたいして,責任があるのではなか ろうか。このような,拡大された諸人間グループにたいする企業の社会的責任 を明示的に認識するならば,これらの拡大された諸グループが企業のエゴイズ ムにたいして事前的にいだく不信を解消するために必要とする諸情報を提供す るための情報システムを制度として我々は構想しうる。拡大された社会責任概 1)かかる観点から外部報告制度としての現行の財務会計の諸問題を系統的に論じた書物と しては,次のものがある。中野 勲著,会計測定論  不信解消会計の構築,同文館出版 株式会社 昭和62年。 2>出資者の忠実な代理者としてのノーマティブな経営者観から脱して,よりリアルな,自 己の効用極大化をはかる人間として経営者像を打ち立てたのは,ミクロ経済学におけるエ イジェンシー理論の大きな功績であるといえよう。Cf. M、 C. Jensen and W. H. Meckling, Theory of the Firm : Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure, /ournal of iFinancial Econonzics, 3 (1976). E. F. Fama, Agency Problems and the Theory of the Firm, the /ozarnal of Politicai Economy, April 1980.

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      企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計   3 念(意識)に基礎をおいた「拡大された外部報告会計システム」と称すること ができよう。こう見ると,企業の社会責任的諸情報は,現在のところはまだ体 系だった形で会計情報になってはいないけれども,外部社会の不信解消の為に は必要な情報として,古典的会計情報と同質的であり,同一方向をむいている, といえよつ。  しかし,我々はやや実践的,未来的な予測を繰り広げすぎた。以下の研究の 目的は,もっとはるかに控えめである。すなわち,筆者は,さしあたりの研究 目的として,諸企業が(下に定義する意味における)社会責任情報を,いかな る状況においてどの程度報告しているかを,実証的に調査し,その社会責任情 報の開示行動にいくらかでも規則性ないし傾向性が見られるかどうかを,ある 程度厳密な企業行動モデルにもとづいて検討したいとかんがえている。しかし, そのための前提的な作業として,本稿では,この研究目的につながるいくつか の日本および外国の文献をサーベイしたい。それによって,従来の諸研究から 学ぶべき点とさらに発展させ,また修正すべき点をあきらかにしうるかもしれ ない。これらは,よかれあしかれ,厳密なまたは明示的な企業モデルにはもと づいていないので,それらを一括して,本稿の副題のように,「非モデル的研究 の概観」とした。 II わが国の企業情報(とくに社会関連情報)の開示実態にかんする調査研究  山地秀俊氏は,社会責任情報には限定されずに,わが国の121社の営業報告書 の主要情報項目について,それらの情報公開の程度を独特の方法で数量化する         3) ことにより調査した。その数量化方法は,「特別な総合公開ポイントを導出し た。それは,字数(叙述ポイント),推移表(推移表ポイント),グラフ・写真 (視覚ポイント),損益計算書項目数(P/Lポイント),貸借対照多項目数(B/ Sポイント),の各カテゴリーに原資料を再分類し,次にその各々のカテゴリー の中で,最も高い値を示している企業を100として,各企業の当該カテゴリーの 3)山地秀俊,会計情報の公開程度の測定問題について,国民経済雑誌,第144巻第6号,昭 和56年12月,48−65ページ。

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公開ポイントとした。ただし例外的に100を越える企業がある。それは,損益計 算書,貸借対照表に関して1年の項目数は最高値ではなくても,2年比較ある いは変動数値を公開している企業に対しては,各々10ポイントを付加したから である。したがって,叙述ポイント+推移表ポイント十視覚ポイント十P/Lポ        4) イント+B/Sポイント=総:合公開ポイントとなっている。」その結果によれば, 三井,三菱,住友,三和,芙蓉,一幅の各企業グループにかんするその総合公 開ポイントの平均値は,それぞれ232.4,220.3,205.9,2142,228.8,227,7       5) であった(各グループ別の企業数は,18,19,14,23,23,24であった)。  これらのデータにもとづいて,山地氏は,報告企業の諸属性とこれら情報公 開度との関連性を探求している。この場合,アメリカの先学達は回帰分析を適 用しているのだが,「被説明変数となるべき公開ポイントがかなり主観的なもの であり,しかも序数的色彩が強く上限が設定されていることからして,回帰分       6) 析の特徴を十分に利用できないと思われる。」そこで,統計手法としては,分散 分析を用いている。そして,これらの分析結果によると,産業別比較および(資 本金・株主数・資産規模・従業員数により測られた)企業規模比較のみが,有 意な差異をしめしており,他方,利益率等の収益性にたいしては有意な差異を       7) 反映していない。この結論は,我々にとって重要である。  では,なぜ産業ごとに情報公開度の差異が有意に発生したのか。また,なぜ 企業規模の相違もまたその差異をもたらしたのであろうか。前者については, 一言にしていえば,産業ごとに社会にたいして訴えたいポイントが異なる,と いうことにつきるようである。銀行・保険業が圧倒的に大きな公開度を示して いるが,「銀行は主として,自行と地域社会との関係に言及した叙述ポイントが 高いのにたいして,商社は各社の経営活動及びその領域に関する詳しい紹介を 試みた叙述ポイントが高い。そして双方の産業に属する企業ともに,最近の数 4)同上,57−59ページ。 5)同上,59ページ。 6)同上,55ページ。 7)同上,59−63ページ。

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−       企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計   5 期間にわたる経営状況を要約する推移表をかなり多く付している。機械・機器 産業については,一般的には各社の製品紹介が詳しく記載されている。また巨 大基幹産業については,製品や経営活動の叙述よりも,社会的責任を強調した データが多く公開されているといえる。さらに注目すべき点として,銀行は, 社会的責任の履行に関するデータ,あるいは預金残高の推移表のような自行の 権力を誇示するデータを多く公開する反面,自行の株主構成データ(例えば地 域別,所有株数別,所有主別等々)を公開することは,ほとんどないといって  8) よい。」  後者の,企業規模の相違に応じて情報公開度が異なる理由について,山地氏 は次のように解釈する。「では何故に  大規模の企業ほど公開ポイントが高 く,したがって一般大衆に多くを語りかける必要があるのか。一つの解釈とし ては,大規模企業ほど,より多くの利害関係者を有しているので,たとえ形式 的には株主に提供される営業報告書の中においても,そのような利害関係者に 対する配慮が必要なのであろう。別の見方をすれば,大規模企業は,一般投資 家大衆を本来の属性である投資家として考慮することに加えて,さらに消費者 ・労働者・地域住民等々としても考慮する必要があるということである。した がって,営業報告書は,大規模企業の側からは,大衆とのコミュニケーション を確立する一つの手段として利用されており,決して文字通りの株主・投資家        9)のみを尊重した情報を,重点的に提供しているとはいえないと解釈される。」  社会責任情報のみを研究した訳ではないこの山地氏の論文をここで長々と引 用した理由は,その研究手法の意義もさることながら,これらの2つの結論, 「産業の相違」と「企業規模の相違」というファクターが,下で紹介する外国 人の社会責任情報の開示行動の実証的研究論文においても有意な要因として指 摘されているからである。  2番目に,山上達人氏の社会関連情報の開示に関するわが国の実態について 8)同上,60ページ。 9)同上,63ページ。

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       10) の実証研究の結果を,簡単にサーベイしたい。アメリカの「フォーチューン誌」 の1986年4月4日および28日号に掲載された,アメリカ合衆国以外の事業会社  11) 500社にランクされている,わが国製造会社52社中のアンケート回答のあった49 社を対象として,素直な記述的研究をおこなったものである。それによると, 制度会計上の会計報告書類(商法・証取法関係)においては,社会関連情報の 開示規定としてあまり十分であるとはいえず,また実際の開示内容を見てもご く限られた範囲にすぎない,という。他方,諸会社は,かかる制度会計以外に も,諸種の情報を発表しており,とりわけ「事業報告書」(商法上の営業報告書 等をもととして株主総会終了後に株主を中心に配布される非制度的な報告書), 「英文報告書」(アメリカ等での資金調達のために発行するもの),「広報用報告 書」等に,ある程度の社会関連の情報を発表している。とりわけ,「広報用報告        12) 書」には,かなり活発なディスクロージャがおこなわれている。そこで山上氏 は,これら3種類の非制度的な報告書一これらを氏は「会社報告書」と名付 けている一を取り上げ,下記の「社会関連事項」について,全会社(49社), ならびに各産業分類ごとのグループ別に,記載があるかどうかという2分類的 調査をおこなわれた。そして,各社会関連項目ごとに何社が記載ありと確定さ れたかを,各社からこれち報告書を取り寄せられた上で,綿密に調査された。  この場合第1に問題となる点は,社会関連項目(情報)とは何か,というこ とである。山上氏は,研究開発関係,環境保護関係,地域社会関係,国際活動 関係,従業員関係の5つとしている。率直にいって,これら(そしてこれらだ け)を取り上げられた根拠はやや分かりにくいが,この点について山上氏は, 「設定にあたっては,社会関連事項をできるだけ広くとって,ある程度,相対 10)山上達人,「わが国の会計ディスクロージャーと社会関連情報」(山上達人編著,会計情  報とディクスu一ジャー,  社会関連情報の開示を中心として,白桃書房,平成1年,  第5章。なお,これとほぼ同一の内容の論述は,次の書物にも見られる。山上達人著,現  代企業の経営分析  社会関連会計と社会関連分析,白桃書房,昭和63年,第20講,わが  国産業・企業の経営分析指標。 11) Directory of the Largest Non−U.S. lndustrial Corporations, Fortune, August 4, 1986 ;  The largest U.S. Corporations, ditto, April 20, 1986. 12)山上達人,「わが国の会計ディスクロージャーと社会関連情報」,同上,190ページ。

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      企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計   7 的な分類・集計を行った。というのは,社会関連事項の設定は企業目的である 収益性との関係でなかなか難しく,ある程度,相対的な区分とならざるをえず,       13) また発展方向としては広く設定する方が望ましいと考えたからである。」また, これらの「社会関連事項」の開示は「企業の目的である「収益性観点」にいず れも収敏するものであるので,その意味ではどこまでが真の社会関連事項であ        14) るかはかなり相対的である」と述べられて,これら諸項目が企業と社会との関 連をとらえたものではあっても同時に収益性をある意味で高めるための,それ を究極的にはめざした情報開示であることを,暗黙に承認しておられるようで ある。  この点は,筆者もまったく同感である。自発的な非制度的なディスクロージ ャーにおける開示項目とその開示程度は,ほとんどすべて当該企業の長期的な 利益極大化によって規定されているのであるまいか。かかる観点に立った企業 の情報開示行動モデルを,われわれは,将来考えてみたい。  山上氏のこの研究について第2に注目すべきは,その調査結果にみられる特 色であって,筆者(中野)の関心をひくのは,非制度的な会社報告書のうちで も,とくに第3の「広報用報告書」においてとりわけ活発な社会関連情報の開 示がみられる,と結論されていることである。すなわち,氏は,この研究の結        15) 果をつぎのようにまとめられている。  「1)制度会計上の報告書(商法・証取法)においては,社会関連情報の開 示はあまりない。  2)これに対して,制度会計以外の報告書(「会社報告書」)においてはかな りの開示がみられるが,まだ諸外国と比べるとこれ.からの問題である。  3)そのうち,事業報告書および英文報告書については,それぞれ,営業報 告書(商法)・SEC規制(アメリカ)に規制されており,その結果,社会関連 13)山上達人編著,会計情報とディスクロ・一一ジャー,同上,序章,「会計情報とディスクu一  ジャー   社会関連情報の開示を中心として,5ページ。 14)山上達人,同上書,第5章,199ページ。 15)同上,199−200ページ。

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情報の大きな開示はない。  4)しかし,広報用報告書においては,各企業が任意に報告できるので,か なりの積極的な社会関連情報の開示をみることができる。  5)項目別には,「研究開発関係」や「国際活動関係」の記載については活発 ・積極的である。  6)これに対して,「地域社会関係」・「環境保護関係」・「従業員関係」につ いては,若干の例はみられるものの,まだまだその開示は少ない。  7)とくに,従業員関係の開示については,わが国の対労働組合・対従業貝 に対する考え方が欧米諸国とは異なっているため,各国のような対外的・公式 的な報告はなく,「社内誌」や「社内新聞」などの別の媒体によっている。した がって,その開示は各国に比べて少ない。」  このような調査結果を勘案すると,我々が将来においてわが国の社会責任情 報の開示状況を研究する際,調査対象とする報告書の種類については,かかる 情報がもっともよく開示されている「広報用報告書」のみをとりあげれば十分 であろう,と考える。また,山上教授の言われる「社会関連情報」という概念 は,我々のかんがえる,企業が分泌する悪の制御に関連する情報という意味の 「社会責任情報」とはことなっており,我々なりの積極的な概念規定がやはり 必要なようである。  最後に,この山上氏による研究において示された,総数49社の社会関連情報       16) の開示の有無の状況の表を転載しておこう(第1表)。 III社会責任情報のディスクロージャと企業属性の関連についての調査研究  では次に,諸企業による社会責任情報の開示状況が当該企業の諸属性(たと えばその会社の規模,収益性,所属産業区分のいかん等)によっていかにこと なるか,その意味でいかなる意図で諸会社はかかる非制度的な情報を開示して いるか(社会責任情報の開示行動)を研究した3っの最近の外国の研究を紹介 したい。その目的は,我々自身も日本のデータにもとづいて,かかるダイナミ 16)同上,192ペーージ。・

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企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計   第1表 9 総 計 49社 研究開ュ関係 環境保?ヨ係 地域社?ヨ係 ョ関係国際活 従業貝ヨ 係 事業報告書(49社) @100.0% 38 V7.6 00.0  6 P2.2 23 S6.9 21 S2.9 英文報告書(47社) @95.9% 41 W7.2 36.4  9 P9.1 35 V4.5 12 Q5.5 広報用報告書(49社) @100.0% 41 W3.7 13 Q6.5 25 T1.0 39 V9.6 17 R4.フ ックな企業の情報開示行動の構造を研究したいので,その前段階としてかかる 研究のサーベイをやっておきたいのである。  ではまず,第1の文献として,Cowen and Ferreri(1987)の論文を紹介す 17) る。(以下,CF論文と略称する)。これは, Fortune 500に掲げられた諸会社の 年次報告書にみられる会社社会責任開示に関するErnst and Whinney 1978 Surveyからのデータ(1970年代)にもとづいている。合計134のアメリカ合衆 国の会社を対象としており,その所属産業は,食品,繊維,紙,木材,化学, 石油,ガラス・セメント・その他窯業,鉄鋼・非鉄・金属製品,電子・機器, 計器・写真機の10分野となっている。興味があるのは,これら諸企業について, 社会関連的ディスクロージャーの範囲として,CFは,次の7つの領域を考えて       18) いることである。(これは,Ernst and Ernst,1978, pp.22−28に依拠している)。   (1)環境問題   (2)エネルギー   (3)公正な事業活動実践(少数民族などの平等雇用等)   (4)人的資源 17) Scotts S. Cowen and Linda Ferreri, The lmpact of Corporate Characteristics on  Social Responsibility Disclosure: A Typology and Frequency Based Analysis,  Accounting, Organi2ations and Society, Vol, 12 No. 2, 1987, pp. 111−122. 18) Ernst & Ernst 1978, Social ResPonsibility Disclosure : 1978 Survey, Cleveland:  Ernst & Ernst, 1978.

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  (5)地域社会への関与   (6)製品関係   (7)その他  これらの「社会的ディスクロージャ」の全体,および個々の項目を上の諸企 業はどの程度(下位項目数)開示しているか,そして,それらの開示度は下記 の諸要因の各々によってどの程度影響されているものとして説明されうるかを, CFは,回帰分析によって調べたのである。彼らが用いた説明変数(独立変数) は,今までの諸研究の成果の流れを勘案して,次の4種類としている。   (A)企業規模(Fortuneにおける諸会社のランク  売上高順)   (B)産業分類(上の諸分野にもとつく)   (C)収益性(自己資本利益率)   (D)会社が社会責任委員会を設置しているかどうかということ  これらの説明変数が選ばれた理由であるが,まず企業規模については,CF は,「より大きな会社は一般大衆からいっそう多くの注目を受ける傾向があり, それ故社会責任を表明すべき圧力をよりおおきく加えられる。また,より大き な会社は株主がいっそう多いから,彼らは当該企業が諸種の社会的プログラム        19) を企てることに,より関心をよせるのである。」  次に,産業分類を説明変数に含める意味については,消費者志向的産業とそ うでない産業があるが,とくに前者においては,「大衆消費市場における会社イ メージが,達成される売上額に影響する傾向がある。また,  いくつかの産 業では,ある種の企業社会責任領域において政府の圧力をいっそう強く感じる と信じられており,それ故に,社会責任ディスクロージャをおこなうことによ って彼らのイメージを高めようとする傾向をもつと思われる。たとえば,一 採掘産業のようにその経済活動が環境を変化させる会社では,彼らの環境への        20) 影響を開示する傾向が,他の産業の諸会社よりも強い。」      ’  第3に収益性を含めることについては,何人かの論者達が,収益性をもって, 19) Cowen and Ferreri, op. cit., p. 113. 20) lbid., p.113.

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      企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計   11 より広範な社会的開示をうながす,または強制するファクターだ,と主張して       21) いるからである。  最後に,社会責任委二会を設置しているかどうか,という変数であるが,こ れは以前の文献にはなかったものだが,CFによれば,「かかる委員会の存在 は,社会的関わりにかんする開示を企業がより多くおこなう傾向と結びついて いると主張しうる。一社会責任委員会をもつ会社の場合には,社会責任に対       22) してより高いプライオリティーがおかれるであろう一」  さて,以上の総轄として,CFは,下記のような回帰方程式を立てて,上のア メリカの諸会社のデータを当てはめて,検定をおこなっている。 T=Bo十Bi (Ni) 十B2 (N2) 十B3 (N3) 十B4 (N4) 十Bs (Ns) 十B6 (N6) 十   B7 (N7) 十Bs (Ns) 十Bg (Ng) 十Bio (Sr) 十Bii (Si) 十Bi2 (ROE)        一一一一t一一一tt一一一一一 (1)  ここで,諸記号の意味は次のようである。T=社会責任開示の総数(下位項 目数  上の(1)から(7)までの総数),B。は定数, B、からB、2はパラメー タ,N、からNgはダミー変数: N、:食品, N2:繊維, N3:紙・木材, N4:化 学,N5:石油, N6:ガラス・セメント・その他窯業, N,:鉄鋼・非鉄, N8: 金属製品,Ng;電子・機器, Sr;社会責任委員会, Si;企業規模, ROE:自己 資本利益率。  この(1)式からわかるように沢山の説明変数が用いられているが,CFによ れば,「諸独立変数の間にはO.30よりも大きな相関は存在しなかったので,多重       23) 三線性(multi−colinearity)の可能性はすくない。」  産業区分の取扱いについては,第10番目の産業である「計器・写真機」がベ ースで,それは(1)式の定数,B。に反映され,他の9産業については,三会 21) lbid., p.113. 22) lbid., p.113−114. 23) lbid., p.117.

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      第2表 自由度修正済み決定係数=0.28121 諸変数 Bi Beta 真の値がゼロである確率 N4 4.621684 0.30715 0.01118 N、一N3, N5−Ng 〈2.1 <0.12 >0.26 委員会 1.374978 0.10910 0.25164 企業規模 0.013382 一〇.42156 0.00041 自己資本利益率 一〇.0755507 一〇.05979 0.55142 定数 8.981836 社サンプルが所属する産業をあらわすダミー変数が1,他はゼロをいれること により,識別される。  (1)式による回帰の検定結果によれば,修正済み決定係数は0.28121,すな わち,社会責任情報開示度の会社聞のチラバリのうちで28%が回帰変数の全体 によって説明された。また,会社の規模と産業区分が有意な説明変数であり,        24) また利益率はまったく有意ではなかった。(第2表を参照)。  この表からわかるように,会社規模変数は開示度と負の相関をもっているが, これは,企業規模をあらわすFortuneの順位の付け方が,規模の大きいものほ ど小さい数をつけるというやり方をしているからである。したがって,これが 示すところは,大きな会社ほど社会責任ディスクロージャーをいっそう多く行 う傾向がある,ということである。これが最も大きな説明力をもつ変数である が,次に,2番目に大きい力をもつ変数は,第2表からわかるように,産業区 分において,「化学部門かどうか」ということであった。(N、)。この相関も正で あることからみると,化学会社はより大きな開示を行う傾向をもつ,というこ       25) とが示されているわけである。  次に,第2段階においてCFは,上記の7つの社会責任項目のそれぞれが,い 24) lbid, p. 117. 25) lbid. p.117.

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       企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計   13 かなる説明変数によってその開示度が説明されうるかを,検定している。この ためには,上の(1)式においてその左辺の被説明変数を,それら社会責任の 下位分類項目(の開示項目数)とすればよい。それが下の(2)式であり,こ れもサンプルをあてはめて,回帰検定が行われた。 D=Bo 十Bi (Ni) 十B2 (N2) 十B3 (N3) 十B4 (N4) 十Bs (Ns) 十B6 (N6) 十   B7 (N7) 十Bs (Ns) 十Bg (Ng) 十Bio (Sr) 十Bii(Si) 十Bi2 (ROE)       ””.””..”一 (2)  D=各1つの社会責任項目の開示度(下位項目数)。  この社会責任項目ごとの回帰結果によれば,やはり企業規模というファクタ ーは,(「人的資源」および「製品関係」という被説明変数をのぞいて)5%を こえる有意度をもって,情報開示度のチラバリを説明してる。さらに,「産業区 分」変数のいくつかも特定社会責任項目については有意な相関をもっている。 すなわち,エネルギー,地域社会へのかかわり,そして環境関連の3項目は, それぞれ特定の産業区分変数と有意な関連を示している。(しかしまた,他の責 任項目は特別の産業区分とは結びついていないのである。)なお,今rつ,人的 資源の開示は,会社に社会責任委員会があるかどうかの変数と有意に関連して いるのである。その意味は,「かかる開示は,従業員の安全,健康,訓練を含ん でいるので,社会責任委員会の主要な関心事となるのであろう」ということで  26) ある。  この研究の全体をふまえて,CFはつぎの貴重な指摘をおこなっているが,こ れは非常に重要である。つまり,ここで研究されているものは,「開示の数であ って,会社活動のレベルでは必ずしもない。」これは非常に重要な区別である。 「ある会社は,社会責任活動には活発に参加するが,その年次報告書の中でか かる活動を開示しようとはしないかも知れない。逆に,会社によっては,社会 の福祉にはあまり関心をもたないのだか,会社のイメージを高めるために,比 26) lbid., p.120.

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       . J. 一 2Z) 較二つまらない諸活動についての沢山の開示を行っであろっ。」  この研究において,特に参考になる点は,やはり,社会責任ディスクロージ ャの内容として上記の7項目を掲げている点である。CFは,これらを選択する 根拠は積極的には明示しないのであるが,(中野の)私見によれば,これら7つ とも,何らかの意味で,企業活動がもたらす悪(弊害)とその克服の必要とい う事に結びついているように思われる。すなわち,       (1)環境問題 ……→大気・水・土壌の汚染,騒音などを       企業活動が引き起こす事,その緩和       対策とその開示の必要性       (2)エネルギー一一一一一一→資源・燃料等を企業活動が大量に消       費しその持続可能性が危ぶまれてい       る。省エネルギー対策とその開示の       必要性       (3)公正な事業…一一一→企業は人間組織として差別・(人種         活動実践    による)優遇等,不公正な人的処遇       を行いがちである。これを如何に防       いでいるか,対策と開示。       (4)人的資源 …一一一→企業活動は技術的進歩や危険により       人的資源の経済価値を陳腐化・低下       させまた災害等を通じて危害をくわ       える。また労働者の時間を労働に消       費させて他の方法による富の獲得の       機会を奪う。安全・(再)教育・訓練       ・福利厚生施設,年金等によりかか       る価値低下や危険・老化補償をいか       におこなっているか。 27) lbid., p.121.

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企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計  15 (5)地域社会へ一一   の関与 (6)製品関係 一 (7)その他  一 一…ィ上の環境悪化,それに寡占的大企業   が競争を妨げることによる消費者へ   の不利益の可能性をいかに緩和して   いるか,またその開示。 …一一ィ製品の早期故障・破壊・副作用(薬   など)安全・廃棄処分での処理の問   劣等について,事前・事後にいかに   対策を講じているか,またその開示   の必要性。 一…一ィたとえば富を企業に集中することは   他の利用可能な用途「刊列えば文化

  的用途一のその利用を妨げてい

  るという本質的な問題。(結果的悪)。        28)  つぎに,第2の研究として,Pattenの論文(1991)を紹介しよう。上のCowen and Ferreriの場合には,企業が社会責任情報の開示を行う意味・機能は,(1) 一般大衆および政府当局の・企業に対する・不信の増大(企業が適切な手段に よって自己に課せられた社会的役割を十分にはたしていない)を緩和するため, そしてまた(2)それら社会的ニーズに応えるための様々なプログラムを創設 し,それらを開示することによって,企業が自己を持続させてゆくための戦略       29) 的計画としょうとしているという側面,の2つを指摘している。ところで,こ のPatten氏は,上の2つの側面をいわば総合したような形の論調を,企業が社 会的情報の開示をおこなう動機として,展開している。すなわち,一面におい ては,企業というものは暗黙の社会契約によって創設されたものであって,(1) 社会が真に必要とする財貨・サービスを企業が提供しているかどうか,そして (2)企業から利得をうける人間グループが社会的承認を得ているといえるか 28) Dennis M. Patten, Exposure, Legitirnacy, and Social Disclosure, Jounal of Account−  ing and Public Policy, 10, (1991), pp. 297−308. 29) Cowen and Ferreri, op. cit., p. 112.

(16)

どうか,がたえずチェックされなければならない,という。このいわば「社会 的正当性」が明示的に問題となってきた背景には,経済市場における競争原理 によって,利己的経済活動と利益追求が結果的に社会にも益をもたらす,とい う古典的な信念のみによっては,上の社会的正当性が保証されなくなった,と いう事情があるのである。とくに,企業成長がもたらしてきた弊害,たとえば, 環境破壊とその修復の支出を企業ならびに政府にせまること,消費者・従業員 ・および製品が製造されまた廃棄される地域社会に住む人々にたいして彼らの 健康と安全を保証するために配慮と支出がなされなければならないこと,また 技術的失業や工場閉鎖がある場合その結果を補償しなければならないこと,が 要請される。しかしこれらは不十分であったために,企業に対する社会の信頼 が低下した。上記の,企業の活動が結果した諸問題に対処するように社会的圧 力が加えられてくるとともに,結局はこれら「社会によって注目される諸問題 は,それ.に相当する考慮が払われたのちに,法律となる。事業はフォーマルな 法的環境によって制約されることになりかねないから,諸企業は,その政策過       30) 程に関与しようとする動機をもつ。」このようにして,この立法的な政策過程に 影響をあたえるために,また,当該企業は社会的責任を果たしているという全 体的イメージを作りだそうとして,社会的情報開示がおこなわれる。  このような考察をふまえて,Pattenは,次の諸仮説をを立て,上のCPと同 じく1985Fortune 500社のリスト企業のうちから156社のサンプルをとりだし て,その年次報告書をしらべて,社会的情報開示の度合いを調べた。  (1)上のCPの説をとりいれて, Pattenも,より大きな企業はいっそう大 きな注目を一般大衆からうけており,社会的責任を表明すべき公的圧力がより 大である。また,より大きな企業は,より大きな政治的圧力をもうける。ここ から,企業規模変数一Pattenは1985年の売上高の自然対数値をとっている一 一は,社会的開示度にたいして正の関連があるものと,仮定される。   (2)上にも述べたように,会社が直面する公的圧力は,産業がことなると 異なる度合いとなる。よくめだっている石油・化学・木材・木製品産業等を識 30) Dennis M. Patten, op. cit., p. 299.

(17)

      企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計  17 別するために,ダミー変数をもちいる。  (3)はたして収益性が社会的開示と関連しているか。総資産利益率,自己 資本利益率,自己資本利益率の5年間の平均値,1年過去の総資産利益率,そ して前期比で純利益の減少を示した企業を示すダミー変数を説明変数として 回帰式にいれている。Pattenの仮説によれば,企業の社会的正当性はその経済 的正当性とは異なった領域(一般大衆・政治的プロセス等)でモニターされる と仮定されるので,経済的正当化としての収益性と社会的開示との関連はむし       31) ろ低いものと仮定されている。  要するに,Pattenは,下の(3)式のような回帰式を立てて,上記の156社の データにより検定を行った。 社会的開示度=a、+bl Log Rev+b2産業+b3総資産利益率        一一一一一一・一 (3)  左辺の社会的情報の開示度は,上のCPの研究でも用いられたのと同じ, Ernst Ernstによる7つの社会的情報項目の範囲にはいる・年次報告書上の開 示の・ページ数をサンプル中の各社について数えた後,1/4ページ以上の開示 をおこなっている企業を「高度報告グループ」,1/10ページ以下の企業を「低 度報告グループ」として,47社と81社を各グループに属するものとしてサンプ ルに取り入れ,その中間の開示度の企業は主観的分割の影響をさけるために, サンプルから排除したという。したがって,この2グループのどちらに属する かを示す(たとえば1,0といった)分類的変数を従属変数としてもちいたの である。しかし,かかる分類的変数を被説明変数とする回帰でよく使われる 10git/probitモデルは,より大きなサンプルサイズを要求する,としてここでは        32) 適用せず,ふつうの回帰(OLS)を用いた。  検定結果をみると,第3表のようである。企業規模(収益の対数値:)ならび 31) lbid., p.300. 32) lbid., p.304.

(18)

       第3表 修正済み決定係数 0.25694 変数 回帰係数 ベータ t値 t値の有意性 Log Rev 産業 総資産利益率 定数 O.39632 0.24250 0.3834e −3.45780 O.40588 0.25335 0.05142 5.180 3.236 0.672 −4.892 o.oooo O.OO16 0.5029 0.oooo に産業種類という2変数はきわめて高い有意度をしめしているが,収益性を現 す諸変数はいずれも有意にゼロである確率(t値の有意性)が50%をこえてい るのである。したがって,「社会的開示は収益性に対立するものとしての公的圧       33) 力(public pressure)に関連している。」  この結果は,上のCFの調査結果と首尾一貫するものといえる。  このPattenの研究はきわめて慎重,かつ,より洗練された調査・統計手法を 用いており,参考になる点が多い。「企業規模」と「産業分類」の2変数の有意 性も再確認されたといえよう。しかし,問題点も残されている。(1)CFの場 合と同じく,修正済み決定係数は約0.25にすぎず,開示度の企業間のチラバリ のうちの1/4が諸ファクターにより説明されたにすぎず,なお3/4について は未解決である。しかし,新しい説明ファクターを発見するためには,常識的 あるいは直感的な考察レベルではこれ以上は無理であろう。やはり,新鮮な見 地から厳密な論理的・数理的な企業行動モデルを立てて,それを展開して新し い視界を開く事が必要であろう。(2)社会責任情報の開示度の決定要因とし て,社会的・公的圧力という要因を強調しているが,これが企業本来の利益追 求動機ないし自己存続動機と明らかにつながっているはずなのに,そのつなが りの詳細が解明されず,モデルにも織り込まれていない。自発的開示なのだか ら,究極においてその開示の程度とは,企業自身にとって最有利な点において 決まると思われ,そしてこの点とは,企業利益極大点ないし企業存続最大可能 33) lbid., p.304−305.

(19)

      企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計  19 点ではないか。  では3番目(最後)の研究として,Ness and Mirza(1991)(以下, NMと 略称する)の,エイジェンシー理論的思考を適用したと自称する調査研究を紹   34) 介する。NMによれば,経営者が社会情報の開示をおこなうのは,その開示か ら生ずる効益がそのコストを上回るときに限られる,と考えられる。代理人 (agent)たる経営者が利己心にもとづいて行動することにより依頼人(princi− pal)一株主一にたいして財務的に損失を与える場合,いわゆるエイジェン シー・コストが発生した,という。経営者もこれを負担することとなるので, かれらは株主の利益となるように行動しつつあるとみられたい,と願っている。 会社の年次報告書はこのように行動しつつあると見られるための機会を経営者 に提供する。この思考を社会的報告に適用すると,どうなるか。株主がレレバ ントだと考えるところを斜写して,経営者は適切な杜会的開示の範囲と程度を 決定するのであろうか。その精密な理論とモデルはどうなるのか。  かかる問題にはNMはまったく踏み込まずに,彼らは,「株主がレレバントだ と考える社会的情報は,会半間で異なる。」として,産業区分が1つの説明変数 となる,という。「たとえば,石油会社の活動は物的環境に影響を与えるものと 一般に考えられている。一それ故に,石油産業において活動している諸会社 は,その年次報告において,環境関連的な社会業績を強く報告するであろうと       35) 仮定することが,妥当である。」  NMが検定しようとする仮設はこの1点,石油会社と環境開示との関連とい うことである。彼らは,イギリスのトップ150会社一Times 1000 Largest UK Industrial Companies(1984−1985)にあらわれた売上高順のリスト  のう ち,131社の年次報告書を分析して,社会的開示の現れ方を調べた。諸会社の産 業区分としては,(1)資本材,(2)耐久消費財,(3)非耐久消費財,(4) 商品取引材(commodity),(5)石油,(6)その他,に分けられた。また,社 34) Karen E. Ness and A. M. Mirza, Corporate Social Disclosure : A Note on a Test of  Agency Theory, Bn’tish Accounting Review (1991) vol. 23, pp. 211−217. 35) lbid., p.212.

(20)

      第4表 石油産業と他産業における環境関連開示 環境関連開示をしているか 石油会社 他会社 Yes

No

合計

7=﹂2

  1

18 101 119 ピアソンのカイ2乗 13.18  (ピアソンの)真の値がゼuである確率 0.0003 イエーツの連続性補正をされたカイ2乗 10.53  (イエーツの)真の値がゼロである確率 O.OO12. 会的開示領域としては,(1)製品関連,(2)従業員関連,(3)環境関連,(4)        36) 地域社会関連,に4分割している。  要するに,NMは,上の諸会社をこれら2つの分類軸にしたがって2元表に した上で,石油会社と環境関連開示との交点に,際だった偏りが見られるか否       37) かを,調べたものと解される。すなわち,次の2つの仮説が検定された。  Hl:環境関連の開示を,石油会社のほうが,他の産業の諸会社よりも,いっ そう高い割合において,含めていた。  H、:石油会社のほうが,他の産業の諸会社よりも,社会的開示の全体のうち でいっそう高い割合で,環境関連の開示を含めていた。  前者の仮説検定のためには,社会的開示をおこなっている会社には1,おこ なっていない会社には0をあたえて,石油産業におけるかかるYes−Noの分布 と他産業におけるそれらとを比較して,名目尺度データにたいするノン・パラ メトリック検定(カイ2乗検定)をおこなった。後者の検定のためには,石油 産業と他産業のそれぞれについて,社会的開示のうちで,環境関連開示の総数 と他の社会関連開示の総数との分布がしらべられ,産業間比較とその有意性検 定が,同じくカイ2乗検定によって行われた。       38)  これらの結果については,第4表および第5表をみてほしい。 36) lbid., p.212−213. 37) lbid., p.213. 38) lbid., p.215.

(21)

       企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計  21 第5表 環境関連的開示と他の社会的開示との比率 社会的開示 石油会社 他の会社 環境関連的開示 他の社会的開示 社会的開示の合計 10 144 154  24 1343 1367 ピアソンのカイ2乗14.22  (ピアソンの)真の値がゼロである確率0.0002 イエーツの連続性補正をされたカイ2乗 12.13  (イエーツの)真の値がゼロである確率 O.OOO5.  第4表からわかるように,環境関連的開示と産業区分とは独立である,とい う仮説H、は,(たとえば0.05または0.01の有意性で)棄却するに十分野根拠が ある,といえる。また,環境関連的な開示と他の種類の社会的開示との割合が 産業間で独立である,という第2の仮説も,棄却されたことがわかる。これら の結果から,環境関連開示と石油産業との間には,正の関連がみられることが わかる。「石油会社は環境を破壊する傾向があると感じられているから,その経 営者は年次報告書の中で環境関連開示に大きな力点をおくのである。エイジェ ンシー理論によれば,かかる経営行動は,社会的情報が経営者の厚生を高める       39) ために開示されることを,示していたのである。」  また,NMによれば,「以前の研究とも合致することだが,環境関連の開示は 環境破壊的な活動ではなくて好ましい社会的業績を示すことに専念している。 加えて,環境関連開示の91%は,記述的で,残りの9%は,非金額的であった。 金額的に数量化された情報開示は全然なかった。一記目的情報は金額的情報 よりも綿密なモニターがされにくく,そのことは,経営者が自己が開示したい と欲する社会的情報についてかなりの選択を加えていることを示す。これはエ       40) イジェンシー理論と整合している。」  上記の2つの研究では,企業の社会情報開示行動をみちびいているファクタ ーが何なのか,明確な視点が提示されていなかった。それに比べて,このNM 39) lbid., p.215. 40) lbid., p.215.

(22)

の研究では,経営者が自己の(個人的な)利己的厚生の増大をめざして,その 極大化点をめざしてその情報の開示を実施すると仮定されている。苛烈な観点 だが,現実の人聞の平均像は,たとえ経営者であっても,そのようなものであ ろう,と筆者も感じる。  しかし,明確な企業モデル(経営行動モデル)が出発点におかれていないた め,研究成果がほとんど自明な,「石油産業は他よりも環境関連的開示を多くお こなう」という貧しい結論にとどまっているのは,たいへん残念である。明確 な経営者の情報開示行動モデルを立てて,それを論理展開したうえで,開示度 に関連があるはずの諸ファクターを導出したのち,それをもちいた統計モデル によって,実証的な現実妥当性を検証しなければならない。 IV 結 論  (1)慣行的な企業会計の構造と社会責任情報システム構造との理論的な関 連を明らかにしなければならない。企業に対する利害関係老グループが経営者 にたいして抱くであろう「不信の解消」ということが,両者の統一的理解のた めの基礎目的を構成するのではないか,と筆者は考える。  (2)社会責任情報のディスクロージャ・システムを規範的に提言するため には,その前段階の1つとして,現実に企業がいかなる種類の情報をどの程度, いかなる動機から開示しているかを,実証的に調査研究する必要がある。社会 的圧力への対応とか企業にかんする公共政策過程に影響を,あたえるためとかい った説明もなされているが,かかる対応をする背後には,それをつうじて「企 業への不信増大」という環境下での企業存続ないし利益極大化のねらいが,経 営者の側にはあるのではないか。  (3)社会責任情報の定義が必要である。営利目的から切り放した定義は無 理であって,むしろ,企業活動が作り出す弊害(悪)とそれをいかに軽減しよ うとしているかの開示,と考えるべきであろう。  (4)現実に企業が開示している社会責任情報の開示度を説明する要因とし て,「企業規模」と当該企業が所属する「産業区分」という変数が大きな作用を

(23)

      企業の社会責任情報開示行動と不信解消会計   23 もたらしていることが実証された。これは重要な発見である,と思われる。し かし,回帰分析の結果からみると,社会責任情報の開示度の・企業間のチラバ リのうちの25−28%のみがそれら2変数によって説明されたにすぎない。のこ りの72−75%が未解明であり,説明度を高めてゆくためには,レレバントな新 しい変数を発見しなければならないが,手探り的・非モデル的研究ではそれは おそらく困難であろう。たとえば利益極大化を目的として設定した企業モデル ないし企業の情報開示モデルを厳密に組み立てて,それの論理的展開によって 結論を導き出して,その結論から何か新しい説明変数がありえないか検討すべ きであろう。これはまた,企業の情報開示行動について明確で論理的な構造的 理解を可能にするのである。 (完)

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