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中小製造業企業における設備投資の規定要因: 経営者センチメントの影響:2000年代の個票データに基づく分析

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ID

JJF00295

論文名

中小製造業企業における設備投資の規定要因 : 経営者センチメ

ントの影響

−2000年代の個票データに基づく分析−

Determinants of capital investment in small and medium-sized

manufacturing firms:

Influence of managerial sentiment

著者名

平田博紀

Hiroki Hirata

ページ

123-139

雑誌名

経営財務研究

Japan Journal of Finance

発行巻号

第32巻第1.2合併号

Vol.32 / No. 1.2.

発行年月

2012年2月

Feb. 2012

発行者

日本経営財務研究学会

Japan Finance Association

ISSN

2186-3792

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■大会特集論文

平田 博紀

(共栄大学) 要 旨  本論文では,中小製造業企業における設備投資の規定要因を明らかにするために,『中小企業景況 調査』の 2000 年から 2009 年までの個票データに基づき分析を行った。その結果,経営状態の改善 に伴う経営者のセンチメントに強い影響力が示された。 キーワード:設備投資,設備投資内容の選択,経営者のセンチメント,外部資金環境,経営状態の見 通し

中小製造業企業における設備投資の規定要因:

経営者センチメントの影響

- 2000 年代の個票データに基づく分析-

1 はじめに

本論文の目的は,中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構が実施する『中小企業景況調査』において 2000年から 2009 年までに継続して調査協力が確認された製造業企業の個票データ(688 社)を基に, その設備投資を規定する要因を明らかにすることにある。 日本企業の設備投資に関する研究の多くは,概ね次の三つのアプローチによって検証が行われてい る。第 1 に,設備投資に対する資金制約の影響に注目した研究である。具体的には,内部資金による 設備投資が増加する中で,外部資金の調達環境がどのような役割を担っているのか検証している。デー タの制約がある中で行われた数少ない研究である花崎・Thuy(2002),Ogawa(2003)や福田・粕谷・ 中島(2005)では,中小企業の設備投資に対する外部資金の供給量や金融機関の経営状態の重要性が示 唆されている。これを踏まえると,大企業に比べ,財務内容が非常に脆弱で限定的な資金調達手段しか *  本論文は,日本経営財務研究学会第 36 回全国大会(2012 年 10 月 6 日)における報告を加筆・修正した ものである。討論者の鳥邊晋司先生(兵庫県立大学)をはじめ,大会に参加されていたフロアーの先生方, さらに編集委員長の翟林瑜先生(大阪市立大学),匿名のレフェリー先生から本論文の改良につながる 大変貴重なコメント,アドバイスを頂戴した。以上の先生方に心より感謝申し上げる。また,本論文 では,中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構より『中小企業景況調査』の個票パネルデータ(筆者作 成)をご提供いただき分析を行っている。ここに記して御礼申し上げる。もちろん,本論文における誤 りは全て筆者の責に帰するものである。

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持たない中小企業は,金融機関との関係性に強く依存した経営活動をしており,設備投資の実施が外部 資金の調達環境に規定される可能性が高いと考えられる。 第 2 に,設備投資における将来収益の役割について検討する研究である。設備投資は,その実施によっ て生じる様々な金銭および時間的負担(投資の調整費用)プラスα の収益が見込めなければ,非効率と 判断されてしまう。したがって,設備投資の意思決定は,設備投資による将来収益を見込んで行われる はずである。 一般的に,中小企業については,把握できる企業情報に制約があるため,将来的な現金の収支(将来 収益)を正確に予測することは難しいと言われる。しかし,日本政策金融公庫総合研究所(2011)によ る中小企業に関する景況統計データを用いた分析では,将来の売上や収益の動向に対する総合的な判断 を示す指標である業況判断 D.I.(先行き)が,設備投資に最も強い影響を与えていることが確認できる。 これは,中小製造業企業においても,将来収益の見通しをもって,設備投資の意思決定が行われている 可能性を示唆する。 第 3 に,設備投資は,組織内の資源配分を決定する経営者の問題であり,その実施が経営者のセン チメントに規定されることを示唆する研究である。このアプローチを採る研究では,組織内の政治的・ 社会的状況や置かれた立場,キャリアといった経営者を取り巻く環境が,設備投資の意思決定を規定す ることを示している(Bower,1970;福田・粕谷・慶田,2007)。環境に左右される経営者の心理状態は, バブル期など周辺環境のムードが高揚している場合に強気になりやすい投資家のセンチメント(市場心 理)に基づいた行動と同様と捉えることができる(俊野,2004 など)。これらの研究から,経営者のセ ンチメントが高揚した際に、設備投資が実施されているという見解が導かれる。 先行研究において示された①資金制約,②将来収益,③経営者のセンチメントという三つの要因が中 小製造業企業の設備投資を規定するのか,実証的な分析を行った。分析の結果,中小製造業企業の設備 投資は,経営状態の改善を受け高揚した経営者のセンチメントに規定されている可能性が高いことが明 らかとなる。また,大規模の設備投資の際に,外部資金の影響力が発揮される可能性が高いことも示さ れる。一方,経営状態の見通しの明るさには,時に負の影響が示されており,中小製造業企業の設備投 資の実施を促す要因とは言い難いことも判明する。 このように,先行研究では対象とされていない個票データに基づき小規模企業(従業員数 20 人以下 の企業)を含む中小製造業企業の設備投資を取り上げ,経営者のセンチメントが高揚する環境の必要性 を実証的分析により提示したことは,本論文の貢献と言えるだろう。 本論文の構成は次のとおりである。第 2 節では,主に日本企業を対象とした研究を概観しながら,設 備投資の決定要因を導出し,それらを中小企業の経営環境を踏まえ,整理・検討する。第 3 節では,先 行研究から得られた要因に基づき,本論文において検証する仮説を提示するとともに,分析に用いるデー タセットを説明する。第 4 節では,データの特徴を記述した上で,実証分析を行う。ここでは,設備投 資の実施・大型投資の選択を被説明変数,主成分分析に基づく調査項目の合成変数を説明変数とするロ ジットモデルの推計結果を示す。第 5 節では本論文の分析結果を振り返った後,今後の課題を提示する。

2 先行研究

企業の設備投資に関する研究は,これまでに数多く行われている。ここでは,設備投資を規定する要 因を検証した三つの研究アプローチによる成果を概観する。

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 ⑴ 資金制約アプローチ 日本政策金融公庫『中小製造業設備投資動向調査』の時系列データによると,バブル経済崩壊以降の 中小製造業企業の設備投資の資金構成には,借入金の低下と内部資金の上昇という特徴が確認できる(日 本政策金融公庫総合研究所,2011)。設備投資に対する内部資金の重要性は,設備投資関数の推計を行っ た多くの研究において明らかにされている1。問題は,日本企業の設備投資が流動性制約下にあるのか という点である。 日本企業の設備投資は,戦後から高度経済成長期に至るまで増加傾向にあった。寺西(1982)は,こ の時期に確認できる積極的な設備投資について,設備資金(長期資金)の政策的配分が寄与していたと している。また,政策金融と併せて,民間金融機関による長期資金貸出も設備投資の増加を裏付ける要 因となっていたとする研究もある(福田・計・奥井・奥田,1999)。 政策金融と同様に,日本の金融市場の特徴として捉えられていた「メインバンク制」も設備投資に関 する研究の中でしばしば議論の対象となってきた。特定の金融機関との関係性を強めるメインバンク制 下では,貸し手と借り手の情報共有が図りやすいために,資金制約が緩和される可能性が高く,設備投 資を実施しやすい環境となる(Hoshi,Kashyap and Scharfstein,1991)2。しかし,メインバンク制に よる資金供給については,本来運転資金である短期資金のロールオーバーによるところが大きく,長期 的な成長性を踏まえ供給される長期資金とは性質が異なる3 福田・計・奥井・奥田(1999)は,1980 年代の半ば以降の設備投資に対する長期資金の影響力の喪 失を確認し,その原因として,金融自由化の進展による長期資金と短期資金の代替可能性の向上を指摘 している。バブル経済の崩壊以降,日本企業による設備投資量の低迷は,しばしば経済の停滞の象徴と して示されてきた(堀・斎藤・安藤,2004)。これらを踏まえると,設備投資に対する政策金融(長期 資金借入)やメインバンク制(ほぼ無期限の短期資金借入)の役割は無差別であったと言える。 1990年代以降の設備投資を対象とした研究では,資金供給不足(銀行貸出の低迷)に直面したことな どにより,金融機関の経営状態や貸出姿勢といった要因も分析の対象となっている4。これは,外部資 金の供給量の増減には,金融機関そのものの経営状態が反映されていると考えられたためである。 本論文の分析対象との関係が深い研究を挙げると,財務省『法人企業統計年報』の個票データを用い た Ogawa(2003)では,企業規模に関わらず,金融機関の貸出姿勢が設備投資の実施に有意な影響を与 えることを示している。また,東京商工リサーチのデータベースに基づき資本金 1 億円以上の非上場 企業の設備投資を対象に分析した福田・粕谷・中島(2005)では,メインバンクの自己資本比率(+)・

1  Fazzari,Hubbard and Petersen(1988)や Lamont(1997), Hayashi and Inoue(1991)などでは,設備 投資に対する内部資金の重要性を示している。 2  メインバンク制が,設備投資に対する内部資金額を僅かながら減少させる効果を持つことを示す研究 として岡崎・堀内(1992)がある。 3  その他,メインバンク制の問題点として,取引銀行の独占的情報保有による,他の金融機関との取引 への支障などが生じる可能性がある。 4 上場企業を対象に検証した研究として,永幡・関根(2002)なども参照されたい。

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不良債権比率(-)や,対象企業の債務・総資産比率(-),取引銀行数(-)を挙げ,それぞれにカッコ 内のような影響を確認している。また,1960 年代から 2000 年までの約 40 年間の産業レベル(財務省 『法人企業統計年報』)のデータに基づき検証した花崎・Thuy(2002)は,資本金 1 億円以上の企業と は異なり,中小製造業企業(資本金 1 億円未満)の設備投資が,長期資金に影響を受けるとしている。 個票データを使用した Ogawa(2003)や福田・粕谷・中島(2005),その他産業レベルのデータを使 用した花崎・Thuy(2002)など,中小企業の設備投資に関する研究は,データの入手に制約が伴うため, 大企業のそれに比べ圧倒的に数が少ない。こうした中で,先行研究を整理するならば,大企業に比べ財 務内容が非常に脆弱かつ限定的な資金調達手段しか持たない中小企業の設備投資は,金融機関との関係 性やその貸出姿勢に強く影響を受ける可能性が高いと言える5  ⑵ 将来収益アプローチ まず,Hayashi(1982)などの検証により確立された設備投資に関する基礎的な理論を振り返る(宮 川,1997;鈴木,2001;小川・得津,2002)。設備投資の実施には,購入から稼働に至るまで,様々 な金銭および時間的負担が生じる。このような負担を投資の調整費用という。投資の調整費用が設備投 資の規模に応じて増加していくと仮定すると,投資の調整費プラス α の収益が見込めなければ,非効 率な設備投資と判断できる。したがって,投資実施後の将来収益(トービンの限界 q)が投資の調整費 を差し引いてもプラスになることを前提に,設備投資の規模が決定される。 設備投資による将来収益は,資産市場が効率的であれば,株価に織り込まれるはずである。これを踏 まえると,資産市場における企業評価額(株価と負債の時価評価価額の和)と保有する設備の時価評価 額(資本の再取得価額)の比率(トービンの平均 q)が,投資実施の将来収益(トービンの限界 q)と等し くなる。 中小企業庁(2006)は「将来の需要が増加するという予測を立てなければ,企業は設備投資には踏み 切らない」と指摘する。しかし,中小企業の将来収益を算出することは,株価や時価情報が使用できな いため非常に困難である。そこで,花崎・Thuy(2002)や福田・粕谷・中島(2005)など,中小企業の 設備投資に関する研究では,様々な代替的手法を用いて検証を行っている6。中小企業に関する景況統 計データを使用した日本政策金融公庫総合研究所(2011)では,将来の売上や収益の動向に対する総合 的な判断を示す指標である業況判断 D.I.(先行き)が設備投資に最も強い影響を与えることを示してい る。そして,業況判断 D.I. より 1 ~ 3 四半期遅れて設備投資が実施されるという特徴も明らかにして

5  Petersen and Rajan(1994), Berger and Udell(1995), Berger, Klapper and Udell(2001)なども参照 されたい。 6  産業レベルのデータを使用している花崎・Thuy(2002)は,資本収益率(営業利益 / 期首期末平均有形 固定資産額)と金利コスト(各産業の平均支払利息と国債利回り / 期首期末平均有利子負債残高)を代 用変数として推計した。その結果,資本収益率については,有意にマイナスの影響を示し,金利コス トについては,有意ではないものの,マイナスの係数にあったことを確認している。個票データを使 用している福田・粕谷・中島(2005)は,各企業の将来の利益(税引き後利益)の流列を推計し,それを 用いて各企業の将来利益の割引現在価値を近似し,検証している。詳細は,福田ほか(2005)24-25 頁 を参照されたい。

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いる7。先行きを示す指標に,設備投資に対する強い影響が確認されていることは,中小製造業企業の 設備投資に対しても,Hayashi(1982)などが示した理論の正当性が支持されることを示唆する。  ⑶ 経営者アプローチ 資金制約や将来収益以外のアプローチを採り,設備投資に接近した研究もある。たとえば,Bower (1970)は,設備投資について,変化していく環境の中で投資機会に組織の重要な資源を振り分ける戦 略的な決定を含んだマネジャーの問題としている。具体的には,実際の企業における設備投資が,投資 案の経済性(将来的な収益見込み)に基づいて判断される資本予算の問題ではなく,組織内の政治的・ 社会的状況を踏まえて判断される経営者等の意思決定の問題に当たるという見解である8 Bowerのように,経営者の存在に注目し,日本の上場企業の設備投資を検証した研究では,経営者 のオーナーシップ比率やキャリア,若さなどがトービンの平均 q やキャッシュフローと同じく,設備 投資の実施にプラスの影響を与えていることが確認できる(福田・粕谷・慶田(2007))。これらの先行 研究の主張は,組織内の状況や置かれた立場,キャリアといった経営者を取り巻く環境が,設備投資の 意思決定に影響していることを示唆している。 環境が意思決定に影響するという点については,センチメント(Sentiment:市場心理)の存在を指 摘することができる(俊野,2004 など)。センチメントとは,バブル期など周辺環境のムードが高揚し ている場合には,投資家の行動は強気になりやすく,逆の場合は弱気もしくは消極的になりやすいとい うような,環境の変化を反映した人の心理を指す9。様々な利害関係者に囲まれて活動する経営者が, その環境の変化に反応し,設備投資の意思決定を行っている可能性は高い。たとえば,中小製造業企業 の設備投資の内容選択の背景に関する検討結果では,設備投資の低迷局面(1990 年代前半から 2002 年 度まで)に少額の生産設備投資が増加し,設備投資の増加局面(以降 2009 年度まで)に建物・構築物(工 場や倉庫)が増加とするという傾向が示されている(日本政策金融公庫総合研究所,2011)10。これは, マクロの設備投資量の増減という周囲の状況(ムード)に影響を受け,設備投資が実施・検討されてい ることを示唆する。 Bowerや福田ら,日本政策金融公庫総合研究所と,俊野が示す見解を統合すると,中小製造業企業に おける設備投資の実施は,経営者のセンチメントが高揚する環境が整備された結果であると整理できる。 7  日本政策金融公庫総合研究所(2011)9-11 頁を参照されたい。ここでは、日本銀行『全国企業短期経済 観測調査』の中小製造業の業況 D.I. と財務省『法人企業統計季報』の設備投資(前年同期比 , %)を用いて、 その推移を比較・検討している。 8  鳥邊(1997)は「株主価値を業績評価基準として短期目標の中に組み入れ,それを組織構成員に対する 経営の指導原理とするには無理がある」(11 頁)として,企業の投資評価には,株主に限らず,様々な ステークホルダーの視点を取り入れた財務目標システムを構築する必要性を検討している。詳細は, 鳥邉(1997)161-175 頁を参照されたい。 9 俊野(2004)などの行動ファイナンス分野の文献を参照されたい。 10  ここでは,日本政策金融公庫『中小製造業設備投資動向調査』の時系列データを使用している。これ らの特徴の他,「新製品の生産,新規事業への進出,研究開発」は期間を通じて一定の水準を維持し ていると指摘している(日本政策金融公庫総合研究所,2011, 12-15 頁。)。

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3 分析

以上の先行研究のサーベイを通して,①資金制約,②将来収益,③経営者のセンチメントという三つ の要因が設備投資を規定する可能性が示された。ここでは,これを中小企業の経営上の特徴と照合しな がら整理し,本論文において検証する仮説の導出へとつなげていく。その後,分析の対象とするデータ セットの説明を行う。  ⑴ 仮説の提示   これまでの研究において示された設備投資を規定する三つの要因について,中小企業の経営環境に照 らし合わせながら整理していこう。 まず,資金制約についてである。先述のとおり,大企業に比べ財務内容が非常に脆弱であり,そして 限定的な資金調達手段しか持たない中小企業は,金融機関との関係性に強く依存した経営活動をしてい る可能性が高い(Motohashi and Yoshikawa,1999;小川・北坂,2001;花崎・Thuy,2002;福田・ 粕谷・中島,2005;中小企業庁(2006)。しかし,金融機関にとって,情報開示の義務化が図れていな い中小企業との取引は,正確な情報把握ができないままに資金供給を行ってしまうことで生じる過剰な 債務の保有という危険性を孕んでいるという指摘もある(福田・粕谷・中島;2005)。 金融機関がこのようなリスクへの対応策として十分な資金供給を行わなかった場合,中小企業は自己 資金(内部資金)のみで活動しなければならない。資金制約を受けることによって,中小企業の設備投 資が抑制される可能性は高い。したがって,外部資金環境が改善されれば,中小企業の設備投資は実施 されやすくなると指摘できる。 次に,中小企業については,把握できる企業情報に制約があるため,ほとんどの場合,現在から先に 発生するすべての現金の収支(将来収益)を正確に予測することは非常に困難と言える。しかし,日本 政策金融公庫総合研究所(2011)では,経営状態の将来的な見通しが設備投資を規定する要因となって いることが示されていた。このことは,正確とは言えないまでも,今後の企業活動や収益に明るさが見 えている場合に,中小製造業企業が設備投資を実施する可能性が高いことを示唆する。 最後に,経営者のセンチメントについて検討する。先に確認した経営者アプローチの諸研究では,設 備投資は経営者の意思決定上の問題であるため,経営者のセンチメントによって規定される可能性が示 唆された。中小企業では,所有と経営が一体化していることが多く,経営者がその権限を一手に引き受 けていると言われる(中小企業庁,2006 など)。こうした状況は,経営者の意思が企業行動に反映され やすいことを示唆している。経営資源の少ない中小企業において,設備投資の実施は大きな負担であり, 大企業のそれと比較して,より重要な経営上の意思決定問題として認識される可能性が高い。つまり, 将来収益を把握することが難しい中,中小企業が設備投資を実施するためには,経営者が強気の状況, すなわち,経営者のセンチメントが高揚する環境が必要となると考えられる11 本論文では,以下の通り,先行研究と上述の整理から導出された①資金制約,②将来収益,③経営者 11  俊野(2004)55 頁では,バブル期の高揚したムードに触発された投資家を例に挙げ,センチメント(市 場心理)を説明している。

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のセンチメントという三つの要因に関する仮説について検証することとした。 仮説 1 設備投資は,外部資金の調達環境に規定される。 仮説 2 設備投資は,その実施後に見込める将来収益に規定される。 仮説 3 設備投資は,経営者のセンチメントを高揚させるような環境に規定される。 日本政策金融公庫総合研究所(2011)を踏まえると,いずれかの要因がポジティブに反応することで, 設備投資量は増加し,その内容は巨額になるはずである。そこで,前述の仮説が土地や建物といった大 型投資の選択を規定するのかという点についても併せて検証する。  ⑵ データセットと分析方法 本論文の分析に用いるデータは,中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構が毎年四半期ごとに実施 している『中小企業景況調査』において,2000 年代(2000 年から 2009 年まで)の 40 期間,継続して 回答した製造業企業 688 社の個票データである。建設業,卸売業,小売業,サービス業も対象として いる『中小企業景況調査』から製造業のみを分析の対象とした理由は,他の業種に比べ,設備投資に関 わるコスト負担が大きく,その意思決定が慎重に行われる可能性が高いことにある。また,先行研究で はデータ上の制約から分析の対象となっていない従業員数 20 人以下の小規模企業を含むサンプル構成 にあることにも注目した。経営資源がより少ないということは,経営者が抱える一つひとつの意思決定 が,企業の命運を賭けた重要なものになっていると予想される。こうしたサンプルの設備投資を対象と することで,本論文の分析結果の説明力が増すと考えている。 『中小企業景況調査』の調査票にある調査項目は,対象企業の経営状態などについて,1.増加(好 転など),2.不変,3.減少(悪化など)の三段階尺度で回答を得るよう設定されている。上述の仮説 はポジティブに反応した場合に設備投資が実施されるとしており,また日本政策金融公庫総合研究所 (2011)によって示された設備投資実施数の増減によって内容選択が行われるという点を考慮し,各調 査項目の回答を反転の上,次のような加工を施した。 【調査項目の回答に対する加工】 ■調査回答について,以下の五段階尺度を採用した。  5:2 期以上連続して好転(増加・上昇・容易)と回答している場合  4: 好転(増加・上昇・容易)と回答した最初の期(前期に悪化(減少・低下・困難)もしくは不変 と回答した上で,今期に好転(増加・上昇・容易)と回答した場合)  3:不変と回答した場合  2: 悪化(減少・低下・困難)と回答した最初の期(前期に好転(増加・上昇・容易)もしくは不変 と回答した上で,今期,悪化(減少・低下・困難)と回答した場合)  1:2 期以上連続で悪化と回答した場合 ■設備投資に関わる回答は,実施した期を 1,それ以外を 0 とするダミー変数とした。 ■ 日本政策金融公庫総合研究所(2011)の結果を踏まえ,当該期に実施した設備投資内容の回答は, 調査票において大型投資に該当する土地・工場建物と回答した場合を 1,それ以外を 0 とするダミー 変数を用意した。

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以下の分析で使用する調査項目のデータは次のように設定した。まず,おおよその日本の中小企業が 採用する 1 会計期間の決算期に当たる 3 月を含む時点は,経営状態を冷静に把握しやすいと考え,各 調査項目の回答時期を毎年 1-3 月期とした。日本政策金融公庫総合研究所(2011)において,設備投資 への影響要因として示された業況判断 D.I は,設備投資実施の 1 期から 3 期前の値であった。同じ中小 企業景況統計を対象とした日本政策金融公庫総合研究所の分析結果の検討を行う上でも,この点は考慮 する必要があると考え,設備投資に関する回答結果を,前述の調査項目の回答の採取期(毎年 1-3 月期) + 1 期に当たる毎年 4-6 月期から採取した。次に,先に示した仮説は,企業の経営状態だけでなく,金 融機関の貸出態度といった観点も含まれているため,調査票のうち,関連する調査項目全てを対象に, 設備投資の実施に影響するのかを検討することとした。なお,福田・計・奥井・奥田(1999)によるバ ブル経済の崩壊以降,代替可能性が高まっているという指摘を考慮し,長期資金だけでなく短期資金の 借入に関わる調査項目も分析対象として含めた。 688社の 10 年間の経営状態や経営環境に関する回答結果データから毎年のクロスセクションデータ を作成し,以下の手順で分析を行う12。まず,設備投資の実施の有無による各調査項目の回答の差を確 認するために Mann-Whitney の U 検定を行った13。次に,この検定において示された設備投資と関係 性が低い調査項目をデータセットから削除し,残った調査項目を用いて主成分分析を行い,合成変数を 作成した。 主成分分析を採用した理由は,先に提示した三つの仮説それぞれが,複合的な要素によって構成され るものと判断できたためである。たとえば,外部資金環境は,先述した代替可能性の高まりを受け,短 期・長期資金の調達環境に関する調査項目が含まれていることが重要となる。将来収益については,経 営状態に関する将来の展望に関する調査項目が含まれている必要がある。そして,経営者のセンチメン トは,成功体験や諸環境によって醸成される心理・感情を意味しているため,経営状態について過去と の比較から回答する調査項目を含んでいることが求められる。これらの条件を包括した合成変数によっ て,先の仮説について検討する必要性があると考えている。 最後に,二値(離散)選択型の質的被説明変数(設備投資とその内容選択)に対する説明変数(主成分 分析によって得られる合成変数)の影響を説明するために,ロジットモデルによる推計を行った。

4 結 果

 ⑴ 記述統計量と主成分分析 記述統計量と回答に関する検定結果を示した表 1 とそれを整理した表 2 からデータの特徴を確認す る。まず,設備投資実施企業数は 2001 年以降増加傾向にあったものの,リーマンショックにより経営 環境が一変したことを受けてか,2009 年に激減していることがわかる(表 1)。 12 一年ごとの変化を捉えるために,10 年間,毎年 4-6 月期のクロスセクションデータとして扱った。 13  Mann-Whitney の U 検定とは,ノンパラメトリック検定の一つで,独立する 2 標本の有意差検定と して使用される 。

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表1 記述統計量とMann-Whitney のU 検定の結果(2000年-2004年) *有意水準10%,**有意水準5%,***有意水準1%。 (注)生産設備に関わる回答結果は逆転せずに5段階に加工した尺度である。色掛けした箇所は,有意差が認められなかった調査項目を示し ている。 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Z 有意水準 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Zp 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Zp 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Zp 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Zp 売上額(前年同期比) 2. 66 51 .1 31 15 -3. 384 0. 0007** *2 .3 88 1. 26 41 5-5. 11 20 .0 0*** 2. 18 51 .1 96 1 5 -3. 79 0. 0002** *2 .4 42 1. 34 21 5-3. 64 0. 0003** *2 .7 60 1. 32 81 5-1. 74 50 .0 809 * 売上数量(前年同期比) 2. 69 91 .0 98 15 -3. 615 0. 0003** *2 .4 00 1. 28 21 5-4. 80 30 .0 0*** 2. 21 41 .1 88 1 5 -4. 15 50 .0 0*** 2. 53 11 .2 98 15 -3 .1 98 0. 0014** *2 .7 95 1. 31 51 5-3. 00 30 .0 027** * 資金繰り(前年同期比) 2. 77 00 .6 97 15 -2. 379 0. 0174** 2. 57 00 .8 90 15 -3 .0 14 0. 0026** *2 .4 64 0. 93 2 15 -1. 29 50 .1 952 2. 59 20 .9 27 15 -3 .5 20 .0 004*** 2. 76 60 .9 18 15 -4 .2 59 0. 00 *** 輸出額(前年同期比) 2. 96 10 .3 58 14 0. 788 0. 43 12 .9 59 0. 36 01 5-1. 48 30 .1 38 2. 92 40 .4 38 15 1. 36 0. 1739 2. 95 60 .3 75 15 1. 49 30 .1 356 2. 98 10 .3 59 15 0. 34 30 .7 312 採算(前年同期比) 2. 55 80 .9 84 15 -3. 878 0. 0001** *2 .3 17 1. 14 81 5-2. 90 10 .0 037*** 2. 15 81 .1 061 5 -1. 89 50 .0 582 *2 .3 92 1. 15 91 5-2. 43 1 0. 0151** 2. 65 01 .1 47 15 -2 .9 54 0. 0031*** 業況(前年同期比) 2. 60 80 .9 68 15 -3. 025 0. 0025** *2 .3 26 1. 09 61 5-3. 14 70 .0 017** *2 .2 27 1. 08 21 5 -2. 44 50 .0 145** 2. 43 01 .1 86 15 -3 .7 11 0. 0002** *2 .7 53 1. 17 71 5-3. 12 70 .0 018** * 採算(水準) 2. 83 70 .9 11 15 -6. 417 0. 00*** 2. 71 51 .1 28 15 -5 .7 85 0. 00** *2 .6 21 1. 13 71 5-3. 89 30 .0 001** *2 .7 60 1. 14 41 5-4. 86 0. 00** *2 .9 27 1. 18 11 5-5. 37 90 .0 0*** 業況(水準) 2. 33 91 .0 02 15 -5. 02 90 .0 0*** 2. 17 31 .0 60 15 -5 .7 39 0. 00** *2 .0 17 1. 07 91 5-3. 84 40 .0 001** *2 .2 27 1. 13 21 5-3. 08 20 .0 021** *2 .5 20 1. 16 71 5-3. 76 30 .0 002*** 生産設備(水準) (注) 3. 08 10 .5 80 15 2. 292 0. 0219** 3. 15 30 .7 41 15 1. 79 30 .0 729 3. 22 40 .8 44 15 -0. 77 70 .4 37 3. 17 90 .8 08 15 1. 73 90 .0 821 *3 .0 96 0. 76 51 50 .4 85 0. 6274 売上額(来期見通し ) 2. 78 20 .9 60 15 -4. 15 80 .0 0*** 2. 37 61 .0 87 15 -4 .3 31 0. 00** *2 .4 00 1. 15 91 5-3. 80 60 .0 001** *2 .5 04 1. 20 91 5-3. 96 0. 0001*** 2. 76 91 .2 35 15 -3 .2 69 0. 00 11 *** 売上数量(来期見通し ) 2. 80 50 .9 53 15 -3. 88 70 .0 001*** 2. 37 81 .0 76 15 -4 .3 91 0. 00** *2 .4 38 1. 12 61 5 -4. 34 0. 00** *2 .5 49 1. 17 71 5-3. 45 60 .0 005** *2 .7 83 1. 18 31 5-3. 12 50 .0 01 8*** 資金繰り(来期見通し ) 2. 79 70 .6 60 15 -2. 58 70 .0 097*** 2. 54 90 .8 45 15 -3 .5 12 0. 0004*** 2. 52 30 .9 061 5 -3. 19 60 .0 014** *2 .5 68 0. 85 41 5-2. 71 80 .0 066** *2 .7 44 0. 85 41 5-4. 44 4 0. 00** * 輸出額(来期見通 し) 2. 96 90 .3 20 14 -0. 24 20 .8 087 2. 95 50 .3 36 15 -0 .6 12 0. 5407 2. 94 60 .3 95 15 -0. 16 80 .8 665 2. 96 90 .3 42 15 1. 16 70 .2 434 2. 97 70 .3 04 15 0. 35 80 .7 206 採算(来期見通し ) 2. 65 40 .8 88 15 -2. 96 90 .0 03** *2 .3 31 1. 03 31 5-2. 49 60 .0 126* *2 .3 46 1. 09 21 5 -1. 49 0. 1361 2. 43 21 .0 69 15 -1 .9 55 0. 0505 *2 .6 96 1. 04 51 5-3. 11 40 .0 018** * 業況(来期見通し ) 2. 75 40 .8 46 15 -2. 11 0. 0348** 2. 52 20 .9 92 15 -2 .4 71 0. 0135** 2. 52 21 .0 26 15 -2. 78 10 .0 054** *2 .6 54 0. 98 91 5-3. 00 20 .0 027** *2 .7 94 1. 00 11 5-0. 82 80 .4 075 2. 91 7 長期資金借入難度 (前期比) 0. 47 71 5-2. 79 60 .0 052*** 2. 84 60 .6 43 15 -3 .4 91 0. 0005*** 2. 78 60 .7 01 15 -2 .0 07 0. 0448** 2. 82 40 .6 65 15 -2 .8 09 0. 005*** 2. 93 30 .6 07 15 -3 .8 46 0. 0001 *** 2. 97 7 短期資金借入難度 (前期比) 2. 97 70 .3 96 15 -1 .9 86 0. 0471* *2 .9 43 0. 55 71 5-5. 28 60 .0 0*** 2. 86 90 .6 41 15 -1. 62 50 .1 043 2. 90 70 .6 22 15 -3 .2 20 .0 013*** 2. 99 30 .5 57 15 -3 .9 65 0. 0001 *** 借入金利(前期比) 2. 96 50 .3 17 14 0. 33 60 .7 365 2. 90 70 .5 37 15 3. 69 10 .0 002*** 3. 03 2 0. 50 21 5 -0. 59 10 .5 542 3. 01 90 .5 75 15 -0 .2 92 0. 7705 3. 07 00 .4 16 15 1. 80 70 .0 708 * 長期資金借入難度 (今期比来期見通し ) 2. 90 30 .4 68 15 -2 .5 35 0. 0113* *2 .8 40 0. 61 81 5-2. 76 20 .0 057*** 2. 77 50 .6 99 15 -2. 55 20 .0 107** 2. 81 10 .6 56 15 -2 .0 84 0. 0372** 2. 90 80 .5 73 15 -3 .8 94 0. 0001*** 短期資金借入難度 (今期比来期見通し ) 2. 95 80 .4 03 15 -1 .6 76 0. 0937* 2. 91 60 .5 44 15 -4 .0 72 0. 00** *2 .8 59 0. 61 21 5-2. 25 80 .0 239** 2. 88 50 .6 01 15 −2 .6 53 0. 008*** 2. 96 10 .5 50 15 -4 .1 06 0. 00** * 3. 01 6 借入金利 (今期比来期見通し ) 0. 28 81 4 -0. 27 0. 7875 2. 96 90 .4 55 15 0. 87 50 .3 817 3. 09 30 .4 52 15 -1. 35 80 .1 744 3. 06 10 .4 85 15 0. 03 10 .9 751 3. 09 70 .4 32 15 0. 43 60 .6 626 規  模(中規模=1 ) 0. 39 20 .4 89 11 -6. 97 0. 00** *0 .3 92 0. 48 90 1-5. 16 90 .0 0*** 0. 39 10 .4 88 01 -6 .6 08 0. 00** *0 .3 90 0. 48 80 1− 5. 61 40 .0 0*** 0. 39 00 .4 88 01 -5 .9 14 0. 00** * 設備投資実施企業数 2004 年 設問項目 2000 年2 001年 2002 年2 003年 17 81 43 126 139 166

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表1 記述統計量とMann-Whitney のU 検定の結果(2005年-2009年) *有意水準10%,**有意水準5%,***有意水準1%。 (注)生産設備に関わる回答結果は逆転せずに5段階に加工した尺度である。色掛けした箇所は,有意差が認められなかった調査項目を示し ている。 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Z 有意水準 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Zp 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Zp 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Zp 平均値 標準偏差 最小値 最大値 Zp 売上額(前年同期比) 2. 68 21 .3 27 15 -2 .7 27 0. 0064*** 2. 77 11 .2 61 15 -3 .8 31 0. 0001** *2 .7 01 1. 23 41 5-2. 86 40 .0 042** *2 .5 11 1. 25 71 5-4. 55 10 .0 0*** 1. 75 71 .0 61 15 -2 .9 73 0. 0029** * 売上数量(前年同期比) 2. 67 01 .2 86 15 -3 .0 64 0. 0022*** 2. 75 31 .2 50 15 -3 .6 88 0. 0002 *** 2. 66 91 .2 24 15 -3 .9 56 0. 0001** *2 .4 81 1. 23 01 5-4. 13 70 .0 0*** 1. 75 41 .0 321 5-2. 60 80 .0 091** * 資金繰り(前年同期比) 2. 74 40 .8 42 15 -3. 064 0. 0022** *2 .7 25 0. 84 21 5-3. 83 30 .0 001** *2 .7 18 0. 81 61 5-3. 11 50 .0 018** *2 .5 64 0. 87 31 5-3. 68 50 .0 002** *2 .1 47 0. 96 71 5-2. 82 6 0. 0047** * 輸出額(前年同期比) 2. 96 50 .3 52 15 1. 30 40 .1 922 2. 98 10 .3 67 15 1. 19 80 .2 308 2. 98 10 .33 91 51 .1 83 0. 2368 2. 99 40 .4 04 15 -2 .0 26 0. 0428** 2. 84 40 .5 40 15 0. 05 80 .9 538 採算(前年同期比) 2. 58 71 .0 90 15 -2 .1 46 0. 0319** 2. 58 11 .0 95 15 -3 .3 85 0. 0007** *2 .5 23 1. 06 11 5-2. 54 0. 0111** 2. 27 5 1. 09 11 5-3. 61 90 .0 003** *1 .8 33 1. 00 91 5-2. 66 90 .0 076** * 業況(前年同期比) 2. 67 91 .1 31 15 -2 .3 10 .0209* *2 .6 63 1. 11 21 5-3. 16 90 .0 015** *2 .59 71 .0 77 15 -2 .4 82 0. 0131** 2. 34 71 .1 08 15 -4 .5 07 0. 00** *1 .7 50 0. 99 71 5-2.8 66 0. 0042** * 採算(水準) 2. 94 91 .1 64 15 -5. 612 0. 00** *2 .9 85 1. 15 01 5-4. 30 80 .0 0*** 2. 89 01 .1 08 15 -4. 31 20 .0 0*** 2. 74 01 .1 63 15 -5 .5 56 0. 00** *2 .2 06 1. 13 51 5-3. 48 50 .0 005** * 業況(水準) 2. 44 81 .1 48 15 -3 .5 84 0. 0003*** 2. 54 41 .1 56 15 -3 .7 93 0. 0001*** 2. 485 1. 10 41 5-2. 22 20 .0 263** 2. 22 11 .1 03 15 -5 .2 24 0. 00** *1 .6 64 0. 95 41 5-2. 74 90 .0 06*** 生産設備(水準) (注) 3. 05 70 .7 29 15 -0. 064 0. 94 93 .0 60 0. 74 01 50 .0 80 .9 366 3. 05 10 .7 66 15 1. 20 80 .2 27 3. 10 50 .8 03 15 3. 03 40 .0 024*** 3. 38 20 .9 36 15 0. 94 10 .3 467 売上額(来期見通し ) 2. 74 71 .1 48 15 -3. 208 0. 0013** *2 .8 39 1. 15 21 5-3. 62 0. 0003** *2 .8 01 1. 08 4 15 -3 .5 31 0. 0004** *2 .5 17 1. 13 91 5-4. 54 50 .0 0*** 1. 85 61 .0 80 15 -3 .1 52 0. 0016** * 売上数量(来期見通し )2 .7 30 1. 11 51 5-2. 716 0. 0066** *2 .8 10 1. 11 21 5-3. 21 40 .0 013* ** 2. 80 51 .0 53 15 -4 .2 26 0. 00** *2 .4 99 1. 10 41 5-5. 27 0. 00** *1 .8 97 1. 08 71 5 -1 .9 92 0. 0464** 資金繰り(来期見通し ) 2. 75 10 .7 82 15 -2 .6 10 .0 09*** 2. 78 90 .7 93 15 -1 .5 52 0. 1208 2. 74 00 .7 71 15 -2 .7 62 0. 0057** *2 .5 74 0. 82 71 5-3. 11 0. 0019*** 2. 19 00 .9 73 15 -3 .0 29 0. 0025 ** * 輸出額(来期見通し )2 .9 75 0. 33 41 52 .2 90 .0 22* *2 .9 85 0. 31 41 50 .5 83 0. 56 2. 99 60 .3 351 50 .7 19 0. 47 22 .9 88 0. 38 51 5-0. 70 70 .4 794 2. 86 20 .5 17 15 -0 .3 04 0. 7609 採算(来期見通し )2 .6 18 1. 00 01 5-1. 895 0. 0581 *2 .6 58 0. 97 81 5-2. 20 70 .0 273* *2 .5 99 0. 96 51 5-2. 67 90 .0 074** *2 .2 99 1. 02 81 5-2. 84 90 .0 044** *1 .9 33 1. 03 01 5 -2 .8 91 0. 0038** * 業況(来期見通し )2 .7 73 0. 90 51 5-2. 374 0. 0176** 2. 75 10 .9 67 15 -2 .5 35 0. 0112** 2. 75 70 .8 98 15 -0 .1 33 0. 8942 2. 55 80 .9 45 15 -4 .4 96 0. 00** *2 .1 99 1. 06 31 5-3. 430 .0 006** * 2. 97 8 長期資金借入難度 (前期比) 0. 57 21 5-3. 20 80 .0 013*** 2. 94 60 .5 38 15 -2 .6 46 0. 0081** *2 .9 20 0. 55 11 5-1.0 87 0. 27 72 .9 08 0. 58 31 5-3. 79 20 .0 001*** 2. 78 80 .7 09 15 -2 .1 46 0. 0319** 3. 00 6 短期資金借入難度 (前期比) 0. 52 91 5-3. 12 70 .0 018*** 2. 98 40 .4 65 15 -2 .7 49 0. 006*** 2. 97 70 .4 70 15 -1 .73 10 .0 834 *2 .9 52 0. 54 11 5-4. 42 20 .0 0*** 2. 84 30 .6 40 15 -3 .5 59 0. 0004** * 借入金利(前期比) 3. 00 90 .4 07 15 1. 79 30 .0 73* 3. 13 20 .4 99 15 -1 .2 28 0. 2193 3. 51 30 .8 11 15 -2 .2 61 0. 0237** 3. 17 00 .5 22 15 -0 .5 06 0. 6129 2. 99 60 .6 04 15 -0 .1 30 .8 968 2. 95 2 長期資金借入難度 (今期比来期見通し ) 0. 52 81 5-2. 23 30 .0256* *2 .9 23 0. 51 91 5-2. 29 60 .0 217* *2 .9 16 0. 53 61 5-1. 271 0. 2036 2. 88 20 .5 83 15 -3 .8 12 0. 0001*** 2. 75 10 .7 14 15 -2 .4 22 0. 0154** 2. 97 2 短期資金借入難度 (今期比来期見通し ) 0. 51 31 5-2. 93 20 .0 034*** 2. 97 40 .4 24 15 -2 .6 89 0. 0072** *2 .9 65 0. 44 71 5-1.7 52 0. 0797 *2 .9 29 0. 55 21 5-4. 20 80 .0 0*** 2. 81 70 .6 42 15 -2 .7 43 0. 0061** * 3. 04 9 借入金利 (今期比来期見通し ) 0. 38 21 50 .3 64 0. 7161 3. 18 30 .5 43 15 -1 .7 43 0. 0813 *3 .4 75 0. 81 11 5-2. 25 40 .0 242** 3. 17 40 .5 11 15 -1 .9 73 0. 0485** 3. 03 50 .4 93 15 -0 .2 04 0. 8381 規  模(中規模=1 ) 0. 39 00 .4 88 01 -7. 034 0. 00** *0 .3 90 0. 48 80 1-6. 56 10 .0 0*** 0. 39 00 .4 88 01 -7. 69 50 .0 0*** 0. 38 80 .4 88 01 -7 .4 26 0. 00** *0 .3 88 0. 48 80 1-5. 25 80 .0 0*** 設備投資実施企業数 2005年 2006 年2 007年 2008年 2009年 設問項目 16 51 65 16 41 47 99

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次に,Mann-Whitney の U 検定の結果を確認すると,輸出額(前年同期比・来期見通し)や生産設備(今 期の水準),借入金利(前期比・今期比来期見通し)といった調査項目に差が認められない時期が多いこ とが確認できる(表 2)。輸出額については,設備投資の実施に外需の増減が影響しないことを示唆する。 生産設備の今期の水準(過剰・適正・不足)は,有意ではないものの,設備投資を実施していない企業 の回答よりも低い(不足している)時期が多いため,必要性から設備投資を実施している状況が確認で きる。同時に,これは,設備の現状が,別の要因を踏まえた二次的な要因という位置づけにあることを 示しており,中小製造業企業の設備投資に対する本論文の分析結果の重要性を強調するものと考える。 また,借入金利に差が認められなかったことは,設備投資の内部資金依存や,投資資金の調達を行う際 の金利の情報が考慮されていないことを示唆する。一方,業況判断の来期見通しに差が認められなかっ た期間が 2 年間あることは,日本政策金融公庫総合研究所(2011)が示した分析結果とは異なり,中小 製造業企業の設備投資の意思決定に,企業活動に関わる総合的な将来の見通しが考慮されていないこと を示唆する。 全期間において有意差が確認できた調査項目と,1 年間のみ有意差が認められなかった調査項目を見 ると,設備投資を実施した企業の回答結果が,設備投資を実施していない企業の回答結果よりも高い分 布を示している(表 2)。 花崎・Thuy(2002)では,企業規模による設備投資を規定する要因に違いが確認されている。これを 考慮し,企業規模(中規模企業を 1 とするダミー変数)による差を確認した結果,すべての期間で有意 な結果を得た14。そこで,以下のロジットモデルによる推計では,企業規模をコントロール変数として 組み入れ推計を行うこととする。 表 2 において 2 年間以上有意な差が認められなかった調査項目を除いた 15 項目を用いて主成分分析 を行った(表 3)。ここでは, 固有値が 1 以上の三つの主成分を取り上げる。 第一主成分:売上や採算(経常利益),資金繰り,業況判断の前年同期比のウェイトが高い。 第二主成分:外部資金(長期・短期)の借入難度のウェイトが高い。 第三主成分:売上や資金繰り,採算(経常利益)の来期見通しのウェイトが高い。 その概要は以下のとおりである。第一主成分は,前年同期比の調査項目が集約されたものとなってお り,その改善は,良好な経営状態に変化していることを示すものである。こうした環境は,経営者のセ ンチメントを高揚させる可能性が高い。そこで,第一主成分をもって仮説 3 の検証を行うこととする。 また,第二主成分は長期・短期資金の借入難度によって構成されており,仮説 2 に該当する変数と判 断できる。第三主成分は,調査項目の来期の見通しを集約した変数であるため,これを仮説 1 の検証 に使用する。 14  『中小企業景況調査』は中小企業基本法第二条にある中小企業の定義(製造業の場合は、「資本金の額 又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人」)に 該当する企業を対象としている。ここでいう中規模企業とは、この定義のうち、小規模企業者(「従業 員の数が二十人以下の事業者」)に該当しない企業を指す。

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以上の主成分分析の結果を踏まえ,第一主成分を経営者のセンチメント,第二主成分を外部資金環境, 第三主成分を経営状態の見通しと称し,各主成分得点をロジットモデルによる推計の説明変数とした。 表2 設備投資実施企業の回答結果の分布位置と有意差の確認されなかった調査項目 (注)表1に基づき,設備投資実施した企業の回答結果の分布の高低(設備投資を実施しなかった企業と比較)を示した。色掛けし    た箇所は,回答結果に有意な差が確認できなかった調査項目を示している。ここで2年間以上有意な差が認められなかった調    査項目は主成分分析の対象から除外した。 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 売上額(前年同期比) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 売上数量(前年同期比) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 資金繰り(前年同期比) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 1 輸出額(前年同期比) 低 高 低 低 低 低 低 低 高 低 9 採算(前年同期比) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 業況(前年同期比) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 採算(水準) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 業況(水準) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 生産設備(水準) 低 低 高 低 低 高 低 低 低 低 7 売上額(来期見通し) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 売上数量(来期見通し) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 資金繰り(来期見通し) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 1 輸出額(来期見通し) 高 高 高 低 低 低 低 低 高 高 9 採算(来期見通し) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 1 業況(来期見通し) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 2 長期資金借入難度(前期比) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 1 短期資金借入難度(前期比) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 1 借入金利(前期比) 低 低 高 高 低 低 高 高 高 高 6 長期資金借入難度 (今期比来期見通し) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 1 短期資金借入難度 (今期比来期見通し) 高 高 高 高 高 高 高 高 高 高 0 借入金利(今期比来期見通し) 高 低 高 低 低 低 高 高 高 高 7 各年の差がない調査項目数 4 4 8 4 5 3 5 6 2 5 46 設備投資実施企業数 178 143 126 139 166 165 165 164 147 99 1492 設問項目 年 各調査項目の差がない回数

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表3 主成分分析の結果 調査項目の数値は固有ベクトル 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通し 売上額(前年同期比) 売上数量(前年同期比 ) 資金繰り(前年同期比 ) 採算(前年同期比) 業況(前年同期比) 業況(水準) 採算(水準 ) 売上額(来期見通し) 売上数量(来期見通し ) 資金繰り(来期見通し ) 採算(来期見通し) 長期資金(前期比) 短期資金(前期比) 長期資金(今期比来期見通し) 短期資金(今期比来期見通し) 固有 値 6.5960 12 .75536 1.1049 6.72761 2.69614 1.11782 6.82384 2.8050 51 .19939 7. 00691 2.91855 1.04794 7.4580 42 .81656 0.971037 売上額(前年同期比) 売上数量(前年同期比 ) 資金繰り(前年同期比 ) 採算(前年同期比) 業況(前年同期比) 業況(水準) 採算(水準) 売上額(来期見通し) 売上数量(来期見通し ) 資金繰り(来期見通し ) 採算(来期見通し) 長期資金(前期比) 短期資金(前期比) 長期資金(今期比来期見通し) 短期資金(今期比来期見通し) 固有 値 6.7494 43 .16415 1.08033 7.00447 2.94734 1.13688 7.03022 2.89488 1.1048 1 6.92833 2.8960 71 .19401 7.13716 2.99627 0.98526 9 2004 年 2005年 設問項目 設問項目 2006年 2007 年2 008年 2009 年 2000年 2001年 2002年 2003年 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通し 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通 し 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通 し 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通し 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通し 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通し 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通 し 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通 し 経営者の センチメン ト 外部資金 環境 経営状態の 見通し 0.2973 0.300 3 0.2631 0.304 3 0.317 4 0.2593 0.230 8 0.276 5 0.2901 0.2649 0.288 0.1731 0.1834 0.1686 0.1806 -0.155 9 -0.156 3 0 .0416 -0. 1 -0.109 8 -0.106 5 -0.004 6 -0.192 8 -0.194 5 -0.003 3 -0.117 6 0 .4603 0 .4487 0 .4638 0 .44 6 -0.306 5 -0.245 8 -0.098 -0.219 9 -0.250 8 -0.234 5 -0.231 7 0 .4619 0 .4127 0 .37 1 0 .3019 0 .0471 0 .0271 0 .0056 0 .0266 0.3005 0.2967 0.2668 0.2957 0.3131 0.2472 0.2662 0.2779 0.2783 0.2654 0.2647 0.1822 0.185 0.1835 0.1918 -0.171 9 -0.182 9 0 .0262 -0.144 3 -0.139 8 -0.003 -0.051 3 -0.17 -0.170 4 -0.025 1 -0.130 3 0 .4567 0 .4515 0 .4566 0 .4436 -0.189 4 -0.137 4 -0.197 1 -0.267 6 -0.212 6 -0.278 5 -0.286 9 0 .4945 0 .4921 0 .27 1 0 .2475 0 .0069 0 .0619 0 .0279 0 .0603 0.2837 0.2874 0.267 0.2915 0.3036 0.2424 0.2719 0.2706 0.271 0.2704 0.2732 0.1897 0.1968 0.2118 0.2044 -0.194 1 -0.163 1 0.067 2 -0.164 2 -0.158 6 -0.011 1 -0.109 1 -0.187 2 -0.188 2 0.025 8 -0.163 3 0.447 6 0.443 2 0.427 5 0.435 7 -0.1902 -0.1888 -0.1693 -0.18 7 -0.2436 -0.3127 -0.3013 0.477 4 0.458 6 0.249 4 0.328 3 0.020 1 -0.0057 0.070 6 0.055 5 0.302 9 0.300 9 0.263 2 0.303 4 0.312 3 0.252 0.280 7 0.286 5 0.283 5 0.260 7 0.284 8 0.171 4 0.155 1 0.165 3 0.156 1 -0.1447 -0.15 4 0.035 1 -0.1106 -0.1388 0.025 9 -0.09 8 -0.1661 -0.15 9 0.005 7 -0.0995 0.4 5 0.472 1 0.457 3 0.463 8 -0.2284 -0.1681 0.002 -0.2434 -0.2364 -0.3332 -0.2943 0.424 5 0.447 4 0.359 1 0.286 6 -0.0539 -0.0332 0.081 2 0.068 8 0.287 9 0.295 2 0.271 7 0.288 1 0.308 5 0.268 1 0.282 6 0.276 6 0.282 0.271 9 0.274 4 0.180 3 0.168 3 0.171 5 0.175 3 -0.1728 -0.1623 -0.0328 -0.1208 -0.1416 0.014 6 -0.0896 -0.1505 -0.1402 -0.0262 -0.0928 0.463 3 0 .455 5 0 .460 4 0 .462 7 0.111 6 0.125 -0.4509 -0.2826 -0.1217 -0.2697 -0.1811 0.508 5 0.492 1 -0.2023 0.107 7 0.046 9 0.072 0.053 4 0.069 7 0.305 8 0.298 0.281 5 0.301 8 0.321 2 0.26 0.296 3 0.278 1 0.268 2 0.264 0.275 7 0.157 7 0.154 9 0.157 8 0.141 8 -0.137 7 -0.142 7  0.01 1 -0.092 4 -0.116 8 -0.008 9 -0.078 3 -0.148 -0.149 3 -0.022 8 -0.098 0.4589 0.4721 0.4728 0.4699 -0.029 0.0164 -0.323 6 -0.265 9 -0.193 -0.269 3 -0.263 1 0 .5297 0 .5716 0 .0342 0 .1443 0 .0497 0 .0828 0 .0346 0 .0685 0.296 5 0.290 5 0.271 8 0.300 8 0.311 0.261 8 0.285 3 0.276 8 0.272 4 0.266 9 0.278 7 0.179 3 0.163 0.179 8 0.160 8 -0.178 -0.183 7 0 .0237 -0.117 2 -0.120 9 -0.023 8 -0.089 7 -0.156 7 -0.162 2 0 .0309 -0.100 6 0 .4596 0 .4636 0 .4407 0 .4633 -0.121 7 -0.078 -0.260 9 -0.184 4 -0.225 4 -0.313 1 -0.307 1 0 .4943 0 .5089 0 .1666 0 .2833 -0.034 3 -0.016 0.0928 0.1121 0.277 5 0.286 5 0.271 3 0.289 8 0.300 8 0.252 6 0.275 4 0.274 1 0.269 3 0.273 3 0.282 0.192 9 0.196 4 0.191 6 0.197 -0.197 4 -0.196 5 0 .0034 -0.174 5 -0.146 4 -0.059 6 -0.109 1 -0.123 9 -0.140 7 0 .0206 -0.117 2 0 .4544 0 .4385 0 .4532 0 .44 9 0 .0126 0 .0511 -0.313 4 -0.242 2 -0.230 9 -0.255 5 -0.326 2 0 .5411 0 .55 2 0 .0506 0 .11 1 0 .0091 0 .0143 0 .0364 0 .0367 0.2926 0.2951 0.2646 0.2824 0.3 0.2359 0.2821 0.2678 0.2702 0.2674 0.2696 0.2005 0.20 2 0.2022 0.2035 -0.177 3 -0.174 2 -0.035 4 -0.167 1 -0.172 -0.019 3 -0.101 9 -0.149 1 -0.158 5 -0.021 -0.112 1 0 .448 5 0 .448 8 0 .448 6 0 .452 3 0.200 2 0.191 9 -0.3219 -0.2991 -0.1967 -0.3762 -0.2271 0.497 7 0.479 9 -0.0919 -0.0419 0.028 0.061 1 0.053 1 0.051 3 0.3001 0.2916 0.2683 0.2976 0.3167 0.2511 0.28 0.2835 0.2774 0.2776 0.28 6 0.1775 0.1468 0.1785 0.1464 -0.1387 -0.1399 0.026 3 -0.1014 -0.11 9 -0.0255 -0.0989 -0.1554 -0.1599 0.013 8 -0.1329 0.453 1 0.478 8 0.450 8 0.469 4 0.120 4 0.182 -0.4494 -0.19 -0.0962 -0.4219 -0.1928 0.444 8 0.475 3 -0.1705 0.062 0.022 3 0.076 6 0.075 4 0.145 7

(15)

 ⑵ ロジットモデル分析 ロジットモデルによる推計結果は表 4 のとおりである。経営者のセンチメントは,全期間にわたり 有意にプラスとなっており,設備投資の決定に対して強く影響を及ぼす要因になっていることが示され た。この結果から,中小製造業企業の設備投資は,経営状態の改善を受け高揚した経営者のセンチメン トを背景に実施されている可能性が高く,先述の仮説 3 は支持された。 その他の影響を確認していこう。先行研究において多く取り上げられてきた外部資金環境は,2001 表4 ロジットモデルによる推計結果 *有意水準10%、**有意水準5%、***有意水準1%。 (1) (2) (3) (4) 経営者の センチメント外部資金環境 経営状態の見通し 企業規模 2000 設備投資 0.159*** 0.006 -0.006 1.136*** -1.612*** -358.870 0.084 683 0.000 0.919 0.945 0.000 0.000 土地・工場建物 0.300*** -0.094 0.155 0.946* -4.295*** -82.465 0.088 686 0.002 0.512 0.484 0.052 0.000 2001 0.258*** 0.151** 0.019 0.843*** -1.863*** -318.631 0.094 688 0.000 0.038 0.833 0.000 0.000 0.322*** 0.104 0.151 1.452*** -4.641*** -81.839 0.129 688 0.001 0.424 0.458 0.006 0.000 2002 0.153*** -0.025 -0.045 1.312*** -2.188*** -297.921 0.089 686 0.000 0.698 0.625 0.000 0.000 0.240** 0.143 -0.008 1.30** -4.586*** -73.096 0.082 686 0.019 0.364 0.971 0.017 0.000 2003 0.165*** 0.028 -0.013 0.998*** -1.899*** -321.360 0.072 688 0.000 0.642 0.893 0.000 0.000 0.130 0.156 0.019 1.133** -4.266*** -81.796 0.059 688 0.145 0.246 0.935 0.026 0.000 2004 0.167*** 0.147** -0.113 0.981*** -1.660*** -347.182 0.080 682 0.000 0.022 0.223 0.000 0.000 0.155** 0.208* 0.259 0.372 -3.707*** -95.361 0.053 687 0.049 0.065 0.216 0.393 0.000 2005 0.127*** 0.086 -0.054 1.215*** -1.755*** -346.568 0.084 685 0.001 0.130 0.550 0.000 0.000 0.161** 0.173* -0.256 1.011** -3.730*** -116.959 0.075 688 0.026 0.072 0.175 0.010 0.000 2006 0.138*** 0.047 -0.129 1.092*** -1.670*** -345.427 0.0763 678 0.000 0.443 0.145 0.000 0.000 0.072 -0.006 -0.404* 1.816*** -4.740*** -78.193 0.0997 685 0.442 0.966 0.068 0.002 0.000 2007 0.119*** -0.022 0.056 1.305*** -1.799*** -340.433 0.0918 677 0.002 0.709 0.537 0.000 0.000 0.191** -0.183 -0.065 1.032** -3.912*** -105.478 0.0732 686 0.022 0.135 0.735 0.015 0.000 2008 0.226*** 0.039 -0.022 1.315*** -2.037*** -312.824 0.1212 684 0.000 0.541 0.806 0.000 0.000 0.134 -0.047 0.186 1.194** -4.105*** -94.179 0.0651 687 0.112 0.696 0.301 0.011 0.000 2009 0.193*** 0.096 0.030 1.208*** -2.469*** -255.690 0.087 678 0.000 0.209 0.280 0.000 0.000 0.140 0.005** -0.231 2.283*** -5.429*** -60.282 0.117 683 0.174 0.030 0.365 0.003 0.000 20 21 17 19 23 31 178 143 126 139 166 165 165 164 147 99 27 19 23 14 設備投資 実施企業数土地・工場建物 年 変数 Contant Loglikelihood PseudoR2

設備投資 土地・工場建物 設備投資 土地・工場建物 設備投資 土地・工場建物 設備投資 土地・工場建物 設備投資 土地・工場建物 設備投資 土地・工場建物 設備投資 土地・工場建物 設備投資 土地・工場建物 設備投資 土地・工場建物

(16)

年,2004 年に有意でプラスの影響が確認できるものの,2000 年代後半にはマイナスの係数になるなど, さほど重視されないものになっている。これは,設備投資に対する外部資金の影響力が,徐々に弱まっ ていったことを示しており,仮説 1 は支持されないと言える。 経営状態の見通し要因を確認すると,有意ではないものの,マイナスの係数が 7 年間(2000 年, 2002年~ 2006 年,2008 年)にわたり示されており,中小企業庁(2006)の指摘や,日本政策金融公庫 総合研究所(2011)の検証結果とは異なる。したがって,仮説 2 についても支持を得られなかった。こ の結果は,中小企業経営にとって,見通しや将来像を見据えて行動することがいかに難しいかを示唆し ている。 各説明変数の設備投資内容の選択に対する影響を確認する。土地・工場建物の選択に対しては,経営 者のセンチメントは 6 年間(2000 年,2001 年,2002 年,2004 年,2005 年,2007 年),外部資金環 境は 3 年間(2004,2005 年,2009 年)に有意でプラスの係数が確認できた。一方,経営状態の見通し では,マイナスの係数の年が多く,2006 年には有意な影響を示している。 この結果の中で注目するべきは,外部資金環境である。有意に影響している 3 年間の土地・工場建 物の投資件数を確認すると,2004 年,2005 年は増加しているものの,2009 年には減少している。こ の結果は,2000 年代中盤と後半で傾向が変化したことを示唆する。しかし,2009 年は設備投資全体の 件数も著しく減少しているため,その環境下で外部資金が大型の設備投資の実施を支えていた可能性を 示唆する。 本分析によって,経営状態の改善を踏まえて高揚した経営者のセンチメントを背景に,中小製造業企 業の設備投資は実施されるとともに,こうした環境に加え,外部資金環境が改善することにより,大型 の設備投資が選択・実施される可能性が高いことが示された。

5 おわりに

本論文では,『中小企業景況調査』の個票データをもとに,2000 年代の中小製造企業の設備投資を規 定する要因について分析した。 分析の結果,経営状態の改善により経営者のセンチメントが高揚し,設備投資が実施される可能性が 示された。また,金融機関の貸出態度を示す外部資金環境は,その改善により大型の設備投資の選択に 影響を及ぼす要因になるという示唆も得た。一方,売上や収益の見通しによって構成された経営状態の 見通しは,設備投資の実施に影響しない要因であることが確認できた。 これら本論文の分析結果によって,次のインプリケーションが得られる。 ① 中小製造業企業の設備投資の実施に向けては,経営者を強気にさせる環境が必要になる。 ②  経営状態の改善は,経営者に成功体験として認識され,そのセンチメントを高揚させる効果を持 つ可能性が高い。 ③  中小製造業企業の大型設備投資を増やすためには,必要な資金が円滑に供給される環境が必要に なる。 先述したとおり,日本の中小企業の設備投資に関わる研究は,データの制約などを背景に,その蓄積 が少ないと言わざるを得ない。本論文において,集計データによる検証結果とは異なる結果が示された

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ことは,今後,中小企業の設備投資に対するさらなる分析の必要性を訴えるものと言える。 分析方法についてもさらなる検討が必要と考えている。たとえば,本論文では取り上げなかった経営 者の属性情報や実数値などを対象とすることで新たな成果が望めるだろうし,研究のすそ野は確実に広 がっていくはずである。これらの点を今後の課題とするとともに,中小企業の設備投資研究のさらなる 発展を期待したい。 【参考文献】

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