出版の現場における本文組の変化
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(2) 図2 『デザインの現場』1986年4月号 表紙,p.42. 図3 『デザインの現場』1996年8月号 表紙,p.50. 図4 『デザインの現場』2000年8月号 表紙,p.40. 図5 『デザインの現場』2007年8月 表紙,p.51. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-2 No.90 2016. 35.
(3) 以上、約20年間の組版システムの変化による文字組の変化. ピーなどの短い文章を組むため、見た目の文字の濃度がきれい. を雑誌の実例でふりかえってみた。写植から DTP への移行期. にそろうようツメ組にすることが多い。一方、書籍の仕事を手. に見られる大きな変化は、使える書体が変わったこと、(特に. がけてきたデザイナーは、小説などの長文を縦組で組むことが. 横組における)ツメ組が増えてきたことだ。『デザインの現場』. 多いため、読みやすさを重視したベタ組を基本に考える。長い. では、写植から DTP への移行にあたり、同じデザイナーが担. 間に身体で覚えた文字組感覚の違いは根強いものがあり、ツメ. 当していたので、使用書体こそ変わったが、本文組はベタ組を. 組をしているデザイナーはベタ組に違和感を感じたり、その逆. 踏襲していた。 「本文組はベタ組が基本」という意識が薄れてい. もあったりする。デザイナー自身が感覚的、習慣的に慣れてい. くのは、写植を体験していない DTP 世代が制作現場に入ってく. ない組版に対して抵抗感があるようだ。. る頃からだろう。多くの商業雑誌の組版が DTP に移行したのは およそ2000年代前半なので、現在の30代後半より若い世代は. 2.行頭の下げ方. 写植をほとんど体験していない DTP 世代といえる。その世代. 一般的な和文組版では、行頭は1字下げが基本だ。実際に小. の文字組意識が写植世代とどう違うのか、次項で見てみよう。. 説など、縦組の長い文章はたいてい1字下げで組まれている。 ところが、雑誌やパンフレットなど横組の文章では、1字下げ. (2)組版者の意識の変化. をせずに、行頭から文字が来る組み方も多く見られる。最近で. 「組版者の意識の変化」を考える上で、筆者の個人的見解だ. は、行頭を2字以上さげて、欧文のインデントのような処理を. けでなく、組版に関わる違う立場の専門家の意見も聞きたいと. する例もあるようだ。前述のイベント TypeTalks でも、行頭を. 考え、タイポグラフィのトークイベント「TypeTalks」におい. 2字以上さげる組み方が許容できるか否か、デザイナーと編集. てディスカッションを企画した。TypeTalks とは、筆者とタイ. 者の間で意見が分かれたが、それぞれのバックグランドから来. プディレクターの小林章、欧文活版印刷の専門家である髙岡昌. る文字組感覚の違いに起因すると考えられる。. 生で共同企画し、青山ブックセンター本店で2010年より隔月 開催しているトークイベントで、毎回タイポグラフィに関する. 3.行末の禁則処理. さまざまなテーマを掲げて、ゲストと観客の間で双方向のディ. 行末が句点やカギ括弧で終わるとき、それらを行の中に収め. スカッションやワークショップを開催している。その第31回. るか(追い込み)、飛び出させるか(ぶら下げ)の処理の違い。. (注6)で和文組版をテーマに、雑誌や書籍にたずさわるデザ. 「2.行頭処理」と「3.行末禁則処理」は、出版社のハウス. イナー、組版者(DTP オペレーター)、編集者、会場の参加者. ルール(出版社が自社の刊行物に適用する独自の組版ルール). と意見交換を行った。以下は、ゲストに最近の組版で気になる. によって指定されていることも多いため、組版者の文字組感覚. 項目を挙げていただき、当日のディスカッションで意見交換さ. のみに左右されるわけではない。. れたテーマとその内容である。 4.文字サイズ 1.組版者の世代、業界による文字組の違い. 写植時代は、1級=0.25mm を基準として文字サイズが決め. 金属活字、写植、DTP の過程で、現代の本文組に大きく影. られ、そもそも写植の文字盤にない文字サイズは印字できず、. 響しているのは、写植から DTP への移行である。写植以前は. 最小サイズは7Q だった。しかし、DTP 時代になり、そうした. ベタ組が基本だったが、DTP になってから文字間を自由にツ. 制約がなくなると、12.3pt のような端数でも自由に指定でき. メることができるようになったため、特に横組ではベタ組では. るようになった。また、組版アプリケーション上では文字を自. ない本文組が増えてきた。実際、写植を経験したデザイナーは. 由に小さくできるので、最小サイズの制限があった写植時代よ. 級数によるベタ組の指定を行ってきたので、DTP でもそのよ. りも、現代では最小の文字サイズが小さくなる傾向にある。. うに指定することが多いが、DTP からキャリアをスタートし. 36. たデザイナーは級数ではなくポイント指定でツメ組にすること. 5.書体の選び方. が多い。デザイナーがどの世代に属するのかによって、経験し. 写植時代では、写研の文字盤にある書体が使われていたが、. てきた本文組のシステムや「良い」と思う文字組の感覚が異な. DTP 時代になると各書体メーカーが新書体を発表し、使える. るので、本文を組んでもらうと組み方に差が出てしまうのだ。. 書体数が飛躍的に増えた。しかし、そうした環境でも、新しく. また、組版者であるデザイナーがどのようなジャンルの仕事. 発売された書体を積極的に使うデザイナーもいれば、いつも特. をしてきたかによっても、文字組感覚は大きく異なる。たとえ. 定の書体を使い続けるデザイナーもいるので、どのくらいの種. ば、広告の仕事をしてきたデザイナーは、タイトルやボディコ. 類の書体を使っているかは個人差がかなり大きい。. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-2 No.90 2016.
(4) TypeTalks の様子. 図1 ベタ組(上)とツメ組(下) 『Typography 08』2015年 p.80,82. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-2 No.90 2016. 37.
(5) 上記の1~5の中で本文組の印象を左右していると思われる. 集者という条件でも、組版者が変わると文字組の印象が変わる. のが「1.組版者の世代、業界による組み方の違い」である。. ことが理解できる(注8)。. TypeTalks の会場には30代から60代までさまざまな世代や経 歴の参加者がいたので、それぞれの立場からの意見が交換され. このように出版物の本文組を「(1)技術の進化による本文. たのだが、世代間差、業界差が如実に感じられた。しいていえ. 組の変化」と「(2)組版者の意識の変化」の視点から検証し. ば、業界差よりも世代間差のほうが組版システムの影響を大き. ていくと、「書体の選び方」と「ベタ組とツメ組の違い」が文. く受けるため、文字組感覚の差が現れている。そのデザイナー. 字組に大きく影響していることがわかる。. が関わってきた出版物の組み方や編集部の制作システム、その. 現在、筆者が写植を経験していない世代のデザイナーに本文. 時代に使われていた組版システムやアプリケーションなどの要. 組を依頼すると、ツメ組で組まれてくることが多い。また、デザ. 因が複雑に重なり合って、デザイナーの文字組感覚が醸成され. イン学生の作品などを見てもツメ組が目立つようだ。ベタ組が. ていくといえるだろう。. 基本だった写植以前の時代と比較すると、デザイナーの文字組 意識が変化していることを感じている。さまざまな文字組感覚を. ここでは個々のデザイナーの経歴の違いが組版スタイルにど. 持ったデザイナーが入り交じっているのが今の出版界の現状だ。. う影響するのか個別検証することができないため、筆者が関. そもそも出版物の文字は読まれることを第一の目的としてい. わっている文字デザイン専門誌『Typography』(注7)を例に. るので、執筆者の意図や書かれている内容が読者に的確に伝わ. とり、世代の異なる2人のデザイナーによる異なる本文組を比. らなければならない。そのためにはどんな本文組をしたらよい. 較してみたい。創刊時の01号から06号までの本文組は写植時. のか、多くの選択肢の中から最適な組み方をよく考える必要が. 代に雑誌デザインのキャリアをスタートし、DTP に移行した. ある。デザイナー個人のスタイルで文字を組むのではなく、読. デザイナーが指定し、07号以降は、写植を体験せず、DTP か. みやすい文字組になっているのかを常に意識することが大切. らキャリアを始めたデザイナーが担当している。07号から誌. だ。組版者による文字組の個人差が大きくなった現在、読まれ. 面デザインのリニューアルを行い、別のデザイン事務所に依頼. る内容や目的にあった文字組になっているかどうか、組版に携. しているが、編集を担当する筆者からデザイナーへ具体的な組. わる人たちは今まで以上に気をつけておく必要があるといえる. み方は指示しなかった。01号を制作したときも具体的な指定. だろう。より多くの人たちが本文組に配慮していくことで、読. はせず、デザイナーの裁量に任せたので、01号も07号もほぼ. みやすく美しい組版が増えることを願っている。. 同じ条件で文字組の発注を行っている。 図6:01~06号 本文の使用書体と組版指定 明朝体:リュウミン M +游築五号仮名 W4 11Q/ 行送り 自動 ゴシック体:中ゴシック BBB 11Q/行送り 自動 組み方:ベタ組(0.5H ツメ) 使用アプリケーション:InDesign CS4、CS5.5 図7:07号以降 本文の使用書体と組版指定 明朝体:筑紫明朝 RB 7pt/行送り 11.5pt ゴシック体:こぶりな W3 7.6pt/行送り 13.1pt 組み方:ベタ組を基本とし、所々調整 使用アプリケーション:InDesign CS6 上記の例を比較すると、06号までは級数指定のベタ組(一律 0.5H ツメ)、07号以降は端数のポイントで指定し、文字の並 びを見ながら部分的に字詰めを調整しているのがわかる。写植 世代のデザイナーの多くはベタ組が基準なのに対し、DTP 世 代はそれにとらわれない組み方をしている。同じ雑誌、同じ編. 38. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-2 No.90 2016. (注1) 本文組には、和文と欧文の二カ国語の組版、和文の中に欧文 (半角英数字)が混ざる組版(和欧混植)もあるが、欧文も含 めるとさまざまなケースが考えられるため、本論考では欧文組 版は対象外とした。 (注2) ポスターやチラシなどの広告デザインでは、書籍のような長文 ではなく、短いボディコピーが多い。そのため、本文組は書籍 組版に見られるような読みやすさを重視したベタ組ではなく、 文字幅に応じてツメ具合を変えるツメ組で組まれることが多 い。本稿では、広告の組版は対象外とした。 (注3) ベタ組とは、正方形の中に収められた文字を1文字ずつ並べて いく組み方。横組中に「し」などの左右が空いた文字が来る場 合でも、1文字ずつ並べるのがベタ組で、「し」の前後の空間 を詰めるのがツメ組。 (図1参照) (注4) 『デザインの現場』1999年8月号 p.48「座談会 DTP 系組版と 電算写植系組版の今後」.
(6) (注5) 1984年に美術出版社から創刊された隔月刊のデザイン総合 誌。2010年4月号をもって休刊。. (注7) 2012年に創刊された年2回刊行の文字デザイン誌。. http://typography-mag.jp/. (注8) (注6) 「ABC で abc を語ろう TypeTalks31 デザイナーのみなさん、 これらの例はデザイナーが本文組を行う事例だが、週刊誌や月 自信を持って和文を組んでいますか? デザイナー、組版者、 刊誌などのように大人数が関わり、制作日数が限られている媒 編集者による和文組版ディスカッション」 体では、印刷所の複数のオペレーターが分担して文字組を行う 開催日時:2015年9月12日(土)18:00~20:00 場合が多い。特に写植時代から長く続いているような雑誌の場 開催場所:青山ブックセンター本店内 青山ブックスクール 合、写植時代の文字組設定を DTP でも踏襲しているため、デ 登壇者:大崎善治(デザイナー)、コン トヨコ(組版者)、上 ザイナーや組版者による世代間の違いが組版に影響することは 田宙(編集者)、髙岡昌生 少ない。 司会:宮後優子(編集者) http://www.aoyamabc.jp/culture/typetalks31/. 図6 『Typography』2012年 表紙,p.17. 図7 『Typography』2015年 表紙,p.23. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-2 No.90 2016. 39.
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