Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiet 二y for the Soience of De$ignイ
ン
ド
の
手 を届 け
た
い
Hands
of
lndia
吉野 美 智
恵kocarl
一
イ
ン
ド
の
手仕事
を と お し
て の
自分
の
役割
と は
一
My
Joyful
Role
in
the
Handiwork
of
lndia
YOSHINO
Michie
kocari
1 .
は じ め に 私 はイン ドの様々な 技 法の手 仕 事 か ら 作 ら れ た 布 製 品 を 扱 うkocari
(コカ リ) という ブラ ン ドを 運 営 してい る。
こ の仕 事 を 始 める前 は、
ア ジ アの 工芸 品 を 扱 う 会 社で、
イン ドか らの仕 入 れに関 する仕 事 や オリジ ナル の服 を 作ること な ど を、
ま たそれ 以 前 は、
アパ レ ル会 社で洋 服の企 画 や 販 売に関 わ ること を して き た。
つ ま り、
ずっ と 「布」 に 携 わっ てい ること に なる。
その 「布 」の中でも、
な ぜ インドだっ たのか。
イ ンドという国の布の歴 史は永 く、
そ し て幅 広 く奥 深い。
最 初 は た だ、
布の宝 庫であるイン ドに興 味 を 持 ち、
あ ら ゆる種 類 の布 を 見て みたいと、
なん のあても な く 向 かったのだっ た。
絞 り、
木 版、
織 り、
刺 繍…・
・
。
いろいろ な 布 を 見 た。
そ して、
そ ん な 中で 出 会っ たのが 「カンタ 」 (図1) だっ た。
カンタ とは、
イ ン ド東 部の 西ベ ンガル州 とバ ングラ デ シュ で 昔か ら おこな わ れてきた刺 し子の こ とをい う。
元々 は、
着 古 し た サリー
や ドー
テ ィ (腰 巻 ) な ど を 重 ねて糸 を 束1」していき、
布 を 強 く して再 利 用 するた めの手 段 だっ た。
しか し、
私 がコル カ タ (カルカッタ )で初め て出 会っ たそ のカンタ は、
実 用 性 と し てだ けの布の存 在 を 遥 か に超 越 した ものだっ たの であ る。
図1 カンタショー
ルひ と針ひ と針
、
ただひ た す ら細
か く朿
1」さ れ、
そ こ か ら様
々 な モ チー
フが 生み出
さ れて い く(
図
2
)
。
糸
だ けで表 現
され
た色
彩のニ ュ アンス。 その一
枚の布から伝 わっ てく る 力 強 さ と、
人 の 手 が作り 出 し た 美 に、
今まで に無い衝 撃と感 動を覚え たの だっ た。
イン ドに は
、
こん な 布 が あ るのか……
。 その時
の カンタと の 出 会いは、
従 来のイン ドの布のイ メー
ジ を大き く変え る も ので あっ た。
そ れが今か ら20
年ほ ど前の こ とであ る。
そ の時の 想いが、
今の 自分の仕 事 につながっ て い るのだと思 う。 図2 カンタ 仕 事 風 景2 .
試 行 錯 誤 の 日 々 私 は そ の 時 の 感 動 を、
ど う しても 日 本のた く さ んの人 に 伝 え たいと思っ た。
そこから私の試 行 錯 誤が始 まっ た
。
当 時 はパ ソコ ンさ え使
っ て いない状 況であり、
も ち ろ ん メー
ル も な く、
イン ド とのや り 取 りは電 話かフ ァッ クス のみで、
私の英
語力
ではなかなか言い たい ことが 伝 わ らない。
そ れでも や る しか ないと、
や れ るこ と を駆 使して 力タチ にす る よう試み た。
カンタ に 関 して言 え
ば
、
当 時 イン ドでは、
ま だ 国内 向
けのア イ テ ム (サ リー
やドゥパ タといわ れる大 判の ショー
ル)の み し か作
っ て いなかっ た の で、
私は サ リー
か ら洋 服を作
る こ と、
ドゥパ タ を インテ リ ア と して 提案
す る こ と な ど か ら始
め た。
しかし そ れだけで は
広
が り が ない と感
じ、
日本
で使
いや すい サ イズの ショー
ル を提 案
し、
そ れ に合
わ せ デザイン を出
し て サ ン プルを数 点作
っ て もらっ た。
出 来上
が りを 見て、
私
と して は あ る 程 度 満 足のい く ものだっ たのだ が、
当 時の仕 事 仲 間の反 応 は不 安 げ な ものだっ た。
その 頃 は ま だ、
イン ドのものは 安い と いう イメー
ジが、
な ん と な く あっ たのだ と 思 う。
そ ん な 中で私14
デザイ ン掌景 究特集号Speclad lssue ofJapanese Soclety forthe Scienceef Design
VDI
.
2D.
2 No.
78 2013Japanese Society for the Science of Design
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Japanese Sooiet 二y for the Soienoe of Designが や ろ う と して い たカンタの ショ
ー
ルは、
けっ し て安
い も の で は なか っ たの で、
「この価 格では た して大 丈 夫な の か・
・
…・
」 と い う 不 安 が、
ま わ りには あっ た のだと思う。し か し私は進んでみ た
。
も ち ろ ん最 初は 手探り状態 で、
少量 か ら 少 しず
つ・
・
・
…
。 思 う よう に仕上 が ら ない状 況が続き な が ら も、
時 間を か け て 進 めてい くことで徐々に相
手との コ ミュ ニ ケー
ショ ンがで きて い く。
さ ら にこち らの本 気 度も伝 わっ て いき、
そ れ が カ タ チ と なっ てい っ たのだ。
その後
、
新 た に 作 り上 げ た カン タの ショー
ル だけで展 示会
を おこなっ た。
そ して、
そ れを乙覧いた だい た お客 様の反 応か ら、
自分の中 に 自信と確 信 を 持つ こ と が で き た のだっ た。3 .
進
むべ き道
一
大 切
に し て い る こと
一
kocari
を 立 ち上 げ た 今 は、
カンタ を 中 心に、
いろいろ な技法 の イ ン ド の布 を 紹 介 するというス タン ス で仕 事 を して いる。 他 の国では 見 ら れ ない様々な 技 法の 布 (図3
)が あ る イン ド と い う国 は、
布 好 き に とっ ては た ま らな く興味
深い場
所な ので あ る。
図3 木 版 仕事風 景20
年 間 イン ドに 行 き 続 けても、
毎 回驚
きや 発 見が あ る。 い つも刺 激 を 与 え ら れ、
何か を教 わり帰っ てく る。 ただそ れ が あ く までも 私の趣 味 なの であ れば、
純粋
に楽
し む こ とができる の か も しれ ないが、
そ れを仕 事と してやっ てい る 以 上、
常に 課 題 と葛 藤 がつ い て くる。
私 が インドのカンタ ショ
ー
ルを 紹 介し始
め た頃、
日本
で他
に 扱っ ているところ は、
ま だ ほ と ん ど な かっ た と 思 う。
し か し今 では、
あ ちこちで目 に す る よ うにな り、
それ 以外
に も イ ン ドの 様々な 種 類の布 製 品を見るこ と がで き る。
20
年前
と は、
まっ た く事 情 が 違 うのであ る。 そんな中
で、
自分
はどうすべ き なの か、
何 を 伝えて いけ ば よいの か。
い つも そ れ を 問 い続け て い る。
今では 日 本で 魅 力 的 な イン ドの
布 製
品に出会
う機
会 が 大 変 増 えてき た。
その 場 合、
大き く は ふ たつ に 分 か れ る と 思 う。
ひ と つ は、
イ ン ド で布作
り、
も の作
りをし て い る日本
人の デザイナー
や作 家が創りだす作
品。 そ し て も う ひ とつ は、
ア パ レ ルブラ ン ド や セ レ ク ト ショ ッ プで見る こ と の できる服
や服 飾雑 貨
。
私
に とっ て はどち ら も 興味深 く、
どち ら か ら も学ぷ と こ ろが ある。
私
は そもそも服
に興 味
が あ り、
デザイ ンと 服 作 り を 学 び、
ア パ レ ル で の仕 事か ら スター
ト した。
そ の せい か 自 分の 中で ファ ッ ショ ン というものがべ一
ス にある のだ と 感 じる。
一
般的 に イ ン ド の布と い う と、
手工芸 品と い う枠で捉え られ がちだ が、
「手仕事
の技
のすごさ」 だ けでは、
魅 力 的 な 布 と は 言え な い と思う。手 技
と と も に、
そ こ に セ ン スが 感じ られ、
作
ら れ た 時代が いつで あっ て も 「今 」 の感 覚に はまる。
そ ういう こ とがバ ラ ン スよ く満
た さ れて、
は じ めて、
とき め き、
心 に 響 く も の に な る のだと 思 う。
そ のような もの であ れ ば、
た と え 流行
に左右
さ れ が ち なファ ッショ ン の世界
にあっ ても、
別 格で い ら れ る はずな のだ。
ブ
ー
ムで終
わ る のではなく、
長 く受
け 入れてもら え るもの、
使
う ほ ど に愛
着を感じ る も の、
IO
年 後、
20
年 後に見ても 愛 し いと 思 え るものを、
自分 と しては 扱っ て いたいと 思 うの であ る。
私 が
、
いつ も展示会
の テー
マとし てか か げてい る 「イン ドの 手 を届け た い」 と い うタイ ト ル に は、
そ のような 想いがこめら れて い る。愛
すべきイ ン ドの布
の魅 力 を、
永 く伝
え 続 けるた め に は、
そ のよう な も の を紹 介し て い か な け ればな ら な い。
ま た そのた め に は、
長 く一
緒
に仕 事
を し て いける イ ン ド で の パー
ト ナー
の存 在が、
とても 重要な の で あ る。
今
までイン ドで仕事
を してき た中
で、
意思疎
通の難しさ とい う も の を痛い ほど感じ てきてい る。
しかし、
何 度 も 試 行 錯 誤 を繰
り 返 して、
時 間 を か けて一
緒 に 仕 事 を してい くことで、
少 し ずつよ い も のができてきて、
お 互いの信 頼 関 係 も築かれて い く の だ と 思 う。
最初の一、
二度 だけ の仕 事で うま く行 く 場 合 は、
ほ と んど ない。 だ がそ のよう に、
長 く一
緒 に 仕 事 を して い け る相
手 を見つけ る こ と自体 が 非 常に難しいのだ。
そ の中で、
10
年 近 く一
緒 に やっ てきている 相 手、
そ して私 がイ ン ドと の仕 事 を 始 め た20
年 ほど前か ら、
ずっ と付き合っ てきて いる 相 手 とい うのは、
今 の 私の仕 事 にとっ て、
ぜっ た い 必要な 欠 かせないパー
トナー
なの であ る。
な ぜ 長 く
一
緒 に やって く ることがで きた の か。 そ れは、
基 本
的に相
手 を 信 じて い るということ。
日 本 人と イン ド人。
そ こ に は大 き な 感 覚の違いが あ り、
ど う して も理解
で き ない ことがた く さ ん ある。
しか し、
相 手の仕 事、
相 手の人 間 性を尊
敬す る気 持 ち が 根 本にあ れ ば、
ク リアで き ること は多
い と思う のだ。
そして、
気 持 ち を伝 え る 努 力 を す るというこ と。 い い こ と も 悪い こ と も、
とにかくはっ き り と伝え る とい う の が、
私の モッ トー
である。
う る さいと思 わ れても、
そ れが い い も の を作
り た い という思いか ら きて いるの だ とい うこと が伝わ れば、
相
手 も欝
1
∵ :
∴
∴
Japanese Society for the Science of Design
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Japanese Sooiet 二y for the Soience of De$ign納 得 して くれ る と信 じている
。
結 果 的 にい いものができて、
日 本の お 客 さ まの喜 びの声 を伝 える ことで、
ま たみん なの意 欲 向 上 に もつな が るのだ と 思 う。
私 は イン ドで一
緒 に仕 事 を する仲 間 が とても 好 き だし、
尊 敬 している。
向こう にいる 時 は、
同 じ 目 線、
同 じ感 覚で いたいと 思っ て い る。
だ から、
食 事 もみん な と一
緒(
図
4
>
。
そ ういう 時 間 を 大 切 に し な がら、
意 見 を 言い合い仕 事 をし て い く。
そ れ が、
長い時 間 をかけて作 り 上 げてき た 私のや り方 なのだ。
図4
仕 事 場で の昼 食4 .
イン ド の 変 化20
年 間、一
緒 に 仕 事 を してき た イン ドの パー
トナー
は、
近 年の イン ドの大きな 変 化 を心 底 実 感 して い る。
それ は、
インド社 会全 体
の ことで も あ り、
手工芸の世 界においてもである。
1990
年 以 降、
イン ドは、
目 ざ ま しい経 済の 発 展、
IT
産業
の 発達
を遂げ
てきた。
そ れ に よ り、
若い世 代の人 々は、
医 療、
エ ンジニ アリング、
コ ン ピュー
ター、
サ イエ ン スな どの分 野へ と、
ど ん ど ん移っ て いっ た。
ライフ ス タ イル が変 り、
ファ ッショ ン が変
り、
テ レビ やメディ ア から 受 け る 影 響 に よ り、
イン ドの街 の趣きが 変わ って いっ た。
伝 統 的 な 装いは、
結 婚 式 やフェ ス テ ィバ ルな どフォー
マ ル な場
所で のみとなっ てきてし まった。
イ ン ドの素 晴ら し い 手 仕
事
、
特に伝 統 的な技 法によ る 特 別 な 手工芸 は、
イン ド国 内
での需
要が どん ど ん減
っ て いるのが 現 実 である。
ま し て、
経済発展と と も に、
すべ て のものが急 速に値 上 が り して いく 中、
そ の仕事
を続
けて い くこと は たや すい こ と で はない。ブロッ クプリ ン ト
、
刺繍、
織り の職 人 (図5
> やテイラー
な ど を 自分のとこ ろ でか かえ、
維 持
して い くこと。
ま た、
職 人 や 専 門 分 野のエキスパー
ト と な るべき新
し い人 材を育 成して い く こと。
そ の両 方 が 大 き な難
題と し て あ る のだ。 次 世 代につな げ ていくこ とができ なけ れば、
イ ン ド の 手仕事
は、
す たれて い っ てし ま う。
そ れ は も ちろん、
わ たし自身
がイン ドと仕 事
を して い く上でも、
重要な問 題 な の で あ る。
16
デ ザ イン学 牙 究 特 集 号Speclal
lssue
ofJapamese
Soclety
forthe
Sc/ence
of
Deslgn Vol
.
20.
2 No.
78 2013 図5
織つの仕 事風 景5
,
将 来
へ の課 題
イ ン ド で の
仕 事
の パー
ト ナー
は、
人材
を育
成 す るための学 校 を作 り、
技術 だ け で は な く学 業も 教 え る場を提 供して いる。
次 の時代
を生
きぬ い て いくた め に は、
ただ 手 仕事
を 継 承 す る だ け で は だ め な の だ と考えて い る か ら だ。
国 内 需 要が減 る 手 仕 事 に よ るモ ノ たち。
そ ういう 状 況では、
お の ず と 国 外へ の輸 出 を 強 化 すること にな る。
日本へ はも ち ろんの こと、
近 頃 は 中 東へ の輸 出
も増えて いる よ うだ。
中東
とい え ば、
女 性 に とっ て頭にか ぶ る ス カー
フが 欠 か せ ない も の だ が、
その需 要に目をつけ たこ とには 感 心した。
そ し て
、
私 自身
がイ ン ドの手仕 事
を守
るた めにでき ること は 何か。
も ち ろ ん、
た く さ ん の 量 を販 売し、
た く さ んの 仕 事 を イ ン ドに もたら す こ と が で き た ら、
そ れが一
番い い。
し か し、
私 の よ う な ひ と り の微
力な 人間にでき ること は限られて い る。
た く さ ん 売る と い う こ と の前
に、
い か に イ ンドの手 仕事
のよ さ を 伝え る こ とがで き る か、
日本の 人 々 に そ れ を浸透 さ せ る か が課 題 なの である。
単 発 的にブー
ム とし て売
れる のでは意 味
がない。
永 く継 続し て イ ン ドと仕 事を し て い く こ と が重 要な ので あ る。
少 し前 までは
、
イン ド産 とい うと、
あ ま り よい印象
を受
け な い人 も 多 かっ たの で は と思 う。 し か し、
優
れた手仕 事
のものを 見る機 会 が 増えたこ と で、
そ の 認識が少しずつ 変わ っ てき た の では ないだろう か。
それでも ま だまだ一
般 的
に は認 知度
が低
い と 感 じてい る、
もっ と ク オリ ティー
の高い、
感性
の優
れ た様
々 な テ クニ ックの手 仕 事 を 紹 介 し続
けて い く こ と で、
ほ ん のわず
かでも 私 がイン ドと 仕 事 をし て い く意 味 が 出て く る の で は と 思 う。
た だ そ れ が、
鑑賞
するためだ けの も のであっ ては、
私が望
むかた ちでは ない。
日 本の人 々に、
身 近 なも の と し て使
い続け ても ら う た めの、
橋 渡 しの役 割 を して いたい と 思 う ので あ る。
そのた め に 私 が 考 えている こ と は
、
「 日常
で いつ も 使っ ても ら えるもの」 の提 案 だ。
ふだん の生 活の中
で、
すっ と入 り込 め るもの、
そ し て それ
があ
るこ と で 日々の 暮 ら しが 少 し だ け 輝い N工 工一
Eleo ヒronioJapanese Society for the Science of Design
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Japanese Sooiet 二y for the Soience of De$ignて鮮 や か に な る もの