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継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性の学生実習に対する思いとその変化

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Academic year: 2021

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 24, No. 2, 322-332, 2010

*1独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター附属福岡看護助産学校(Fukuoka School of Nursing and Midwifery National Hospital Organization Kyushu Medical Center)

*2東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 成人看護学分野(Department of Adult Nursing, Division of Health Science and Nursing, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo)

*3広島都市学園大学 健康科学部 看護学科(Department of Nursing, Faculty of Health Sciences, Hiroshima Cosmopolitan University) 2009年10月27日受付 2010年9月30日採用

資  料

継続事例実習で助産師学生に受け持たれた

女性の学生実習に対する思いとその変化

Changes in perception toward student practical training

by women continuously attended by student midwives

福 丸 洋 子(Yoko FUKUMARU)

*1

落 合 亮 太(Ryota OCHIAI)

*2

松 坂 充 子(Atsuko MATSUZAKA)

*3 抄  録 目 的  継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性の学生実習に対する思いとその変化を明らかにする。 対象と方法

 継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性10名に半構造化面接を行い,Grounded Theory

Ap-proachの手法を用いて分析を行った。 結 果  助産師学生に受け持たれた女性の思いは,学生実習依頼を受けた時・妊娠期・分娩期・産褥期の各 段階で明確に異なっていた。対象者は,1. 〈学生実習の依頼を受けた時の思い〉として,〔勉強している 学生に協力したいと思って受け持ちを承諾した〕,〔学生に受け持たれることでメリットがあるかもしれ ないと思って受け持ちを承諾した〕という思いを抱いていた。2. 〈妊娠期の思い〉としては,〔保健相談が とても勉強になった〕,〔学生に受け持たれて周囲の人の態度が変化した〕などの学生実習のメリットが 多く語られる一方で,〔手技にはたどたどしいところもあった〕との声も聞かれた。3. 〈分娩期の思い〉と しては,自然分娩を経験した対象者からは〔学生が内診や分娩介助を行うことは驚いたが受け入れられ た〕などの声が聞かれた。また,帝王切開を経験した対象者からは,〔学生の勉強にならず申し訳なかっ た〕との声も聞かれた。4. 〈産褥期の思い〉としては,〔学生を頼もしく感じるようになった〕などの思い が語られ,全ての対象者が学生に対して一定の信頼を寄せていた。5. 〈実習全体についての思い〉として は,全ての対象者が〔学生だけでなく多くの人が関わってくれてよかった〕と肯定的に評価していた。6. 〈実習の進行に伴う学生に対する思いの変化〉については,〔徐々に自然な形で打ち解けていった〕と語る 対象者と,〔不安と信頼感が比例していった〕と語る対象者の2つの特徴的なパターンが見られた。

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Ⅰ.緒   言

 平成20年の「保健師助産師看護師学校養成所指定規 則等の一部を改正する省令の公布」に伴い,「看護師等 養成所の運営に関する指導要領について」の一部が改 正された。助産学実習については,妊娠から産褥ま での継続したケアを行う能力を強化するため,「実習 期間中に妊娠中期から産後1ヶ月まで継続して受け持 つ実習(以下,継続事例実習と記す)を1例以上行う」 (看護行政研究会編集,2008)という記載が追加され た。現在,専門学校・短大専攻科では88.9%(平成15 年),大学では78.1%(平成14年)が継続事例実習を行 っている(江幡・黒田・小田切他,2007)。継続事例実 習の目的は,学生が妊娠期から分娩期・産褥期を通し て,対象となる女性に継続的に関わることより,助産 師としての知識・技術・態度を総合的に活用できる能 力を養うことであり,正常妊娠経過や産褥経過を継続 的に観察し,対象に適したケアを実施する重要な教育 機会となっている(江幡・黒田・小田切他,2007;川 島,2003;日隈,2004)。  助産学実習の在り方を助産師の視点から検討した先 行研究では,継続事例実習が診断・技術や助産師とし ての責任や態度の獲得につながることが示唆されてい る(中島・國清・阪本,2009)。他方,助産師学生に受 結 論  本研究の結果から,妊娠期・産褥期のケア技術の習得,助産師学生が分娩介助を行うことに関する事 前説明などの必要性が示唆された。

キーワード:継続事例実習,助産師学生,思い,体験,Grounded Theory Approach

Abstract Objectives

The present study was conducted to shed light on the changes in perception toward student practical training by women continuously attended by student midwives.

Subjects and Method

Semi-structured interviews were conducted on ten women who were continuously attended by student mid-wives. Data was analyzed using the Grounded Theory Approach.

Results

The perception toward student practical training by women continuously attended by student midwives were markedly different at the time they received the request to participate in the student midwife practicum, at gesta-tion, at intrapartum, and at puerperium. Participants stated at the time they received the request for participagesta-tion, "I gave my consent because I wanted to cooperate with student midwifes," and "I gave my consent because I thought there might be some benefit to being attended to by a student midwife." At gestation, participants commented on benefits such as "I learned much from their health advice," and "The attitudes of those around me changed as I was being attended to by the student midwife." However, there were some who stated that "The student midwife behaved awkwardly at times." At the intrapartum period, participants who experienced natural birth made com-ments such as "I was surprised that the midwife conducted a pelvic examination and provided birthing assistance, but I accepted her assistance." Participants who experienced a Caesarean operation expressed comments such as "I feel sorry that the student midwife could not learn from the delivery." Impressions at the puerperium period in-cluded, "I felt that I could depend on the student midwife," with all participants indicating a certain level of trust in the student midwives. As for overall impressions of the practicum, all participants evaluated it positively, stating "I was happy that a lot of people could be involved, not just the student midwife." Regarding changes in impressions of the student midwives as they proceeded through their practicum, comments of participants fell into two distinct pat-terns: "We gradually opened up in the natural course of things;" and "My feelings of trust were proportionate to my uneasiness."

Conclusions

The results of the present study suggest needs to provide prior explanation of the birthing assistance provided by student midwives, as well as skill acquisition for caring for women during the gestation and puerperium periods. Key words: continuous case study practicum, student midwife, thoughts, experience, Grounded Theory Approach

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自らの先入観や,他分野の先行研究から得られた概 念枠組みを用いて量的研究のデザインを組み,対象者 の思いを数量的に評価しようとしても,そもそも評価 しようとしている事象自体が,対象者の抱く本質的な 問題や意見からかけ離れている可能性が否定できな い。Grounded Theory Approachは既存の仮説検証型 の研究法へのアンチテーゼとして1960年代にはじめ て提唱された質的研究手法である。Grounded Theory Approachは,研究対象に含まれる現象,本研究で言 えば継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性の 学生実習に対する思いとその変化を,もっともよく説 明しうる理論を生成することを目的とする。説明力の 高い理論を帰納的に生成することを目指すGrounded Theory Approachを採用することは,先行研究に乏し い継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性の学 生実習に対する思いとその変化を明らかにするという 本研究の趣旨に照らして,適切であると考えられた。 2.対象  九州A県にある1総合病院において助産師学生に妊 娠期から産褥期まで同一の助産師学生に継続的に受け 持たれた女性(以下,対象者とする)であること,分 娩期は第1期(入院時)から助産師学生とともに分娩を 迎えていること,以上の適格基準を満たす女性を対象 とした。対象者は教員から調査協力への打診を受け, 内諾が得られた場合,調査者へ紹介された。 3.対象施設の概要  本研究で対象とした総合病院は,病床数700床,分 娩件数年間約600件でNICUが併設されている。ハイ リスク妊婦が多いが,ローリスク妊婦については自然 分娩を推奨している。この施設における継続事例実習 は,以下のように行われている。実習依頼にあたって は教員が実習内容を説明したうえで,承諾は強制しな いこと等,説明書を用いて説明し,書面にて同意を得 ている。妊娠期は受け持ち時から妊婦健康診査,保健 相談に毎回入る。分娩期は入院時から出産後の第1歩 行までは,昼夜,実習を行う(担当の助産師学生が休 憩に入っている時は,間接分娩介助に入る助産師学生 が交替する場合もある)。産褥期は退院まで日中のみ 実習を行う。1ヶ月健診は母児の健康診査,保健相談 に入る。 け持たれた女性の視点から実習を評価した先行研究で は,受け持たれた女性は助産師学生に対して大部分で 満足していることが示されている(森脇・高橋・藤井, 2005)。また,学生実習ではないが,助産師が女性に 継続的授乳指導を行うことで,女性の自尊感情や母性 意識が高まることも指摘されている(角川,2005)。し かし一方で,助産師学生が分娩介助を行うことに関し て戸惑いを感じる女性がいること(渋谷・古礒・大石, 2005)や,自身の出産に関しては満足と評価している 女性でも,医師・助産師の関係に関しては満たされな い様々な思いを抱いていること(村上,2001)も指摘さ れている。これらの先行研究から,継続事例実習を含 む継続的なケアは,助産師学生と受け持たれる女性の 双方にとって有意義であるものの,改善すべき点も少 なくないことが推察される。しかし,これまでに継続 事例実習で助産師学生に受け持たれた女性が,学生実 習に対してどのような思いを抱いており,その思いが 実習の変化に伴いどのように変化していくか,詳細は 明らかにされておらず,女性にとって継続事例実習が どのような体験であり,継続事例実習とその教育体 制に関して具体的にどのような改善点が存在するのか, 明確にはされていない。  そこで本研究では,助産師学生に受け持たれた女性 にとって継続事例実習が真によい体験となるよう,継 続事例実習とその教育体制の在り方を検討するために, 継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性の学生 実習に対する思いとその変化を明らかにすることを目 的とした。

Ⅱ.用語の操作的定義

 本研究では,用語を以下のように定義する。  継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性:継 続事例実習において,妊娠期から産褥期にかけて同一 の助産師学生が担当となった女性

Ⅲ.対象と方法

1.方法論の選択

 Grounded Theory Approach(Glaser & Strauss, 1967/ 1996)を方法論として用いた。継続事例実習で助産師 学生に受け持たれた女性の学生実習に対する思いとそ の変化については,先行研究が少なく,十分な知見が 得られていない。このような現状において,研究者が

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4.データ収集  研究参加へ同意の得られた者に対して,出産の疲労 から回復した産褥2日目以降で対象者が希望した日時 に,プライバシーの保たれる個室にて半構造化面接を 実施した。面接では「実習中の学生との関係や学生が 行うケアについて,どのような思いを抱いていたか」 「実習の進行に伴いその思いがどのように変化してき たか」について自由に語ってもらった。面接内容は対 象者の同意の上,録音し逐語録を作成した。対象者の 選定にあたっては,本来は理論的サンプリングを用い て,対象者の背景が多様になるようにするところであ るが,本研究で対象とした施設において継続事例実習 を受けた女性の数自体が非常に限られていたため,適 格基準を満たす全症例を調査対象とした。データ収集 期間は2008年10∼11月であった。 5.分析  分析は,以下の手順で行った。分析の第1段階では, 逐語録から対象者の実習に対する思いとその変化に該 当する部分を抽出し,意味のまとまりごとに細分化し た後,類似性と差異性に着目しながらコード化した。 次に複数のコード間の関係性を検討し,コード化の抽 象度のレベルを上げ,それらを包含する上位のサブカ テゴリーを生成した。次いで,サブカテゴリーのネー ミングは適切か,他のサブカテゴリーと比較検討しな がらより上位のカテゴリーを生成し,カテゴリー間の 関連を検討した。分析は面接を実施した研究者1名が 中心となって行い,分析結果を逐語録と照らし合わせ ながら共同研究者2名と協議した。 6.倫理的配慮  対象施設の倫理審査委員会の承認(承認番号08-31) を得て実施した。調査は強制しないこと,いつでも中 止可能であること,同意しない場合も不利益は被らな いこと,個人を識別できる情報は他者に漏らさないこ とを,趣意書を用いて説明し書面にて同意を得た。

Ⅳ.結   果

 適格基準を満たす女性13名のうち,研究参加へ同 意が得られた10名に対して,半構造化面接を行った。 不参加の理由は「時間がとれない(2名)」,「赤ちゃん の世話で忙しい(1名)」であった。面接時間は27∼44 分(平均36.9分),対象者の年齢は26∼43歳(平均33.8 歳)であった。初産婦が5名,出産時期は正期産が9名, 分娩様式は自然分娩が7名であった。対象者の背景を 表1,生成されたカテゴリー・サブカテゴリーの関係 を表すカテゴリー関連図を図1に示す。本文中の〈 〉 はカテゴリー,〔 〕はサブカテゴリー,「 」はコード, 斜体は対象者の発言,末尾の番号は対象者のID番号, ( )は研究者による補足を表す。  分析の結果,継続事例実習で助産師学生に受け持た れた女性の学生実習に対する思いは,学生実習依頼を 受けた時・妊娠期・分娩期・産褥期の各段階で明確に 異なることが明らかとなったため,この時系列に沿っ て対象者の思いを整理することとした。 1 .〈学生実習の依頼を受けた時の思い〉として,対象 者は,〔勉強している学生に協力したいと思って受 け持ちを承諾した〕,〔学生に受け持たれることでメ リットがあるかもしれないと思って受け持ちを承諾 した〕という思いを抱いていた。 2 .〈妊娠期の思い〉としては,〔保健相談がとても勉 強になった〕,〔学生に受け持たれて周囲の人の態度 が変化した〕などの学生実習のメリットが多く語ら 表1 対象者の背景 ID 年齢 初経別 出産時期 面接時の産褥日数 分娩様式 妊娠中の異常 分娩の異常 1 30代 経産婦 正期産 産褥 2 日 自然分娩 妊娠貧血 なし 2 20代 初産婦 正期産 産褥 4 日 自然分娩 尿たんぱくの出現 なし 3 20代 初産婦 正期産 産褥30日 帝王切開 切迫流早産(31週に1週間入院) 遷延分娩 4 40代 経産婦 正期産 産褥 2 日 自然分娩 切迫早産(入院なし) なし 5 30代 経産婦 正期産 産褥 4 日 自然分娩 高血圧にて妊娠37週に入院 なし 6 30代 初産婦 正期産 産褥 3 日 自然分娩 なし なし 7 30代 経産婦 正期産 産褥32日 自然分娩 静脈瘤 なし 8 20代 初産婦 正期産 産褥 3 日 自然分娩 なし なし 9 30代 経産婦 早産  産褥45日 帝王切開 切迫早産 早産 10 40代 初産婦 正期産 産褥 5 日 帝王切開 なし 遷延分娩

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れる一方で,〔手技にはたどたどしいところもあっ た〕との声も聞かれた。 3 .〈分娩期の思い〉としては,自然分娩を経験した対 象者からは,〔学生が内診や分娩介助を行うことは 驚いたが受け入れられた〕,〔学生がそばにいてくれ て心強かった〕との声が聞かれたが,〔いっぱいいっ ぱいで学生どころではなかった〕と語る対象者も見 られた。また,帝王切開を経験した対象者からは, 〔学生の勉強にならず申し訳なかった〕との声も聞 かれた。 4 .〈産褥期の思い〉としては,〔学生を頼もしく感じ るようになった〕,〔産後はわからないことばかりで 学生に支えてもらって安心できた〕,〔産後の乳房ケ アなどの技術は未熟だが学生は頑張って勉強してい た〕といった思いが語られ,この時点では全ての対 象者が,学生に対して一定の信頼を寄せていた。 5 .〈実習全体についての思い〉としては,全ての対象 者が,〔学生だけでなく多くの人が関わってくれて よかった〕,〔至れり尽くせりでよかった〕と,肯定 的に評価していた。 6 .〈実習の進行に伴う学生に対する思いの変化〉につ いては,〔徐々に自然な形で打ち解けていった〕と語 る対象者と,〔不安と信頼感が比例していった〕と語 る対象者の2つの特徴的なパターンが見られた。  以下,各カテゴリーごとに詳細を記述する。 1.〈学生実習の依頼を受けた時の思い〉  学生実習の依頼を受けた時の思いとして,対象者は 〔勉強している学生に協力したいと思って受け持ちを 承諾した〕,〔学生に受け持たれることでメリットがあ るかもしれないと思って受け持ちを承諾した〕と語っ ていた。 (1)〔勉強している学生に協力したいと思って受け持 ちを承諾した〕  対象者の中には実習依頼を承諾した理由として, 「勉強している学生のために協力できるなら受けたい と思った」と語る対象者が見られた。このような対象 者の中には,自身が医療関係者であり学生実習への理 解がある者(4名)や,家族が継続的に医療機関を受診 しており医療者への協力に積極的な対象者(1名)が含 まれていた。また,「助産師学生とは言え看護師免許 は持っているので安心」という声が多く聞かれた。  私も医療関係者だったんで。どちら(の立場)も経 験してるんで。別に何とも,嫌とも全然思わないんで。 ただ,勉強にあたしでなるのかなっていう感じですね。 まあ実習というのはそういうものかと思いながら,勝 手に吸収して頂戴くらいの気持ちで。(中略)(助産師 学生は)もう看護師さんですよね。国家試験も受かっ てるっていうのもあるし。(ID1) (2)〔学生に受け持たれることでメリットがあるかも しれないと思って受け持ちを承諾した〕  一方で,実習依頼を受けるかどうかを迷いながらも 「話せる人がいれば,不安が解消できると思って学生 の受け持ちを承諾した」,「学生だったら一生懸命して くれると思って,学生の受け持ちを承諾した」と,何 らかのメリットを期待して実習依頼を承諾したと語る 1.〈学生実習の依頼を受けたときの思い〉 (1)〔勉強している学生に協力したいと思    って受け持ちを承諾した〕 (2)〔学生に受け持たれることでメリット    があるかもしれないと思って受け持    ちを承諾した〕 2.〈妊娠期の思い〉 (1)〔保健相談がとても勉強になった〕 (2)〔学生に受け持たれて周囲の人の態度    が変化した〕 (3)〔手技にはたどたどしいところもあっ    た〕 3.〈分娩期の思い〉 (1)〔学生が内診や分娩介助を行うことは    驚いたが受け入れられた〕 (2)〔学生がそばにいてくれて心強かった〕 (3)〔いっぱいいっぱいで学生どころでは    なかった〕 (4)〔学生の勉強にならず申し訳なかった〕 4.〈産褥期の思い〉 (1)〔学生を頼もしく感じるようになった〕 (2)〔産後はわからないことばかりで学生    に支えてもらって安心できた〕 (3)〔産後の乳房ケアなどの技術は未熟だ    が学生は頑張って勉強していた〕 ※図中の〈 〉はカテゴリー,〔 〕はサブカテゴリー 5.〈実習全体についての思い〉 (1)〔学生だけでなく多くの人が関わってくれてよかった〕 (2)〔至れり尽くせりでよかった〕        6.〈実習の進行に伴う学生に対する思いの変化〉 (1)〔徐々に自然な形で打ち解けていった〕 (2)〔不安と信頼感が比例していった〕   図1 継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性の学生実習に対する思いとその変化 カテゴリー関連図

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者も見られた。また,妊娠出産に対する不安が強い対 象者の中には,「実習依頼をされるということは経過 が順調だということだと思ってうれしかった」と語る 者も見られた。  正直,ちょっとはじめ迷ったのもあったんですよ。 私,妊娠が二回目なんですけど,一回目がだめになっ てしまったんですね。(中略)今回の妊娠もすごく不安 が大きかったので,そんな私に(学生が)付かれても っていうところがあったんですね。でも,ずっと同じ 人が健診とか分娩までついてくれるとなれば,何でも 話せる人がいれば,ちょっとは不安が消えるのかなと 思って。(ID5) 2.〈妊娠期の思い〉  妊娠期については,全ての対象者が,〔保健相談が とても勉強になった〕と,学生が行う保健相談の直接 的メリットを語っていた。また,学生から受け持たれ たことで,〔学生に受け持たれて周囲の人の態度が変 化した〕と学生実習による間接的メリットについても 語られていた。一方で,学生実習なので仕方ないとは 感じつつも,〔手技にはたどたどしいところもあった〕 と語る者も見られた。 (1)〔保健相談がとても勉強になった〕  全ての対象者が,学生が行う保健相談について「内 容が濃くて自分で調べるより安心感が生まれた」と語 り,「保健相談の冊子は家に帰って見直しができて役 に立った」と,家庭での妊娠生活への影響について語 る者も見られた。また,些細な会話であっても「妊婦 健診の待ち時間に学生と話して日ごろのストレスが解 消された」,「ずっと一緒にいてくれるのならもっと自 分のことさらけ出そうと思えた」と,コミュニケーシ ョンを通して学生をより身近に感じるようになってい た。学生が保健相談の際に行うケアについても,「マ ッサージや足浴など,そこまでしてくれるのかと思う くらいケアしてくれた」と,肯定的な評価が聞かれた。  とにかく待ち時間が,一応予約制で,何時に来てく ださいってあるけど,やっぱり二時間とか待つんです よね。でも本読むくらいしかないじゃないですか。だ けど毎回毎回勉強して来られるんですよ。あたしが「ち ょっと貧血です」とか言ったら,次の週には全部勉強 してきて,「これはこうだから,こうして下さい」みた いなことを,テキストを作って,次の週の待ち時間の 間に(保健相談)してくれるんですね,一緒に。だか ら有意義だったですね。(ID7) (2)〔学生に受け持たれて周囲の人の態度が変化した〕  対象者は,「学校が主催する両親学級に参加して夫 の態度が変わった」「学生から受け持たれていたので, 他のスタッフが自分の顔と名前を覚えてくれて通いや すくなった」と,学生に受け持たれることで,家族や 助産師の態度が変わったことを喜んでいた。  学校主催のパパ・ママクラスみたいのがあったんで すよ。(中略)沐浴体験とか,妊婦体験とか(中略)そ れからすっごく主人が実感がわいたみたいで,「ころ っ」と変わって,180度変わったんですよ。それが良か ったですね。(中略)私にとっても,主人が変わったこ とが良かった,二人とも喜んでます。(ID6) (3)〔手技にはたどたどしいところもあった〕  対象者は妊娠期における学生の関わりを概ね肯定的 に評価していたが,学生実習なので仕方ないとは感じ つつも,「保健相談の表現力を養ってほしい」「手技が たどたどしい感じだった」と,学生が行う保健相談や 各手技の手際の向上を求める声も聞かれた。  (改善してほしい点は)特にはないですけど,強い て言えば,(お腹の)周りを測ったり,子宮底を測る時 が,学生さんだから仕方ないんですけどちょっと時間 がかかったので,腰を上げるのがつらかったのを「す みません,もう一回いいですか。」って何回もなるか ら「ああ。」って思ったけど,ま,それは「学生さんだ から仕方ないよね。」ぐらいの感じ。でも一生懸命や っているのは伝わってきたので。(ID4) 3.〈分娩期の思い〉  分娩期の思いとしては,自然分娩を経験した対象者 からは,〔学生が内診や分娩介助を行うことは驚いた が受け入れられた〕,〔学生がそばにいてくれて心強か った〕との声が聞かれたが,〔いっぱいいっぱいで学生 どころではなかった〕と語る対象者も見られた。また, 帝王切開を経験した対象者からは,〔学生の勉強にな らず申し訳なかった〕との声も聞かれた。 (1)〔学生が内診や分娩介助を行うことは驚いたが受 け入れられた〕  対象者の中には,「学生が赤ちゃんを取り上げると 思ってなかったので驚いた」と語る者が見られ,実習 依頼時の説明のみでは実習の具体的内容を把握しきれ ていない対象者が見受けられた。しかし,そのような 対象者を含め,全ての対象者が,「学生が医療者に指 導を受けながらお産に臨んでいるので不安はなかっ た」と学生が分娩介助を行うことを受け入れていた。

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 (学生は)お手伝い程度で,助産師さんがやってい るのを見ているだけなのかなって思ってたんですけど。 最初に話をされていたのかもしれないですけど,私が 忘れていただけかもしれないですけど。実際は実習生 が取り上げて,周りで助産師さんや先生方が見ている 感じというのを聞いたときにちょっとびっくりはした んですけど。先生方とか助産師さんがついているのを 取り上げると聞いた時には,そしたら大丈夫かなあと 思ったのを覚えてます。(ID6) (2)〔学生がそばにいてくれて心強かった〕  対象者は,「お産の時,学生がずっとそばにいて心 強かった」,「陣痛がきている時,痛みを和らげるマ ッサージや声掛けなどがうれしかった」と入院時から 学生がそばにいてケアしてくれたことを喜んでいた。 「入院したとき学生が駆けつけてきたのはうれしかっ た」と語る対象者も見られた。一方で,分娩第1期の 経過が長く,分娩進行が見られない対象者からは,学 生がそばにいたが「お産が遷延して不安だった時に説 明や励ましの言葉がほしかった」といった声も聞かれ た。  出産前より,陣痛が来てる時のほうが,心強かった ですね。もう,ずっとついてくれてたから,(中略)や っぱり学生さんのほうが(夫より)手加減とかもわか るから,マッサージとかしてくれたりとかして,(中 略)学生さんにずっといてほしいにみたいな感じでし たね。(ID3) (3)〔いっぱいいっぱいで学生どころではなかった〕  「お産の時はいっぱいいっぱいで周囲のことは考え られなかった」と周囲の状況を覚えていないと語る者 が多く見られた。また,「受け持ちの学生がいるのは いいが,他の学生もいるのは気になった」と,担当の 助産師学生ではない学生が分娩に立ち会うことへの違 和感を語る者も見られた。  (分娩時に)だれが何をして今何が行われているの か,さっぱりわからなかったんですけど。(中略)ずっ と付いて下さっていた学生さんとここのスタッフと先 生ぐらいのイメージだったんですけど,逆に,他の知 らない学生がいたことが気になって。どの学生さんか はわからないですけど,ちょっと人が多すぎて,もう 周りから色々言われても「もうできません」みたいな 感じになってしまって。(ID1) (4)〔学生の勉強にならず申し訳なかった〕  実習への協力に積極的な対象者のうち,分娩進行が 見られず帝王切開になった1名の対象者は,「学生に自 然分娩につかせたかったので,もっと早く帝王切開に してほしいと思ったが我慢した」と語っていた。さら に,帝王切開が決定した際には,「帝王切開になって しまって学生に申し訳なかった」と,学生に対してす まない気持ちを抱いていた。  自然分娩で取り上げてる実習だったじゃないです か。学生さんにとっては,だから,申し訳なかったで す。(中略)自分が帝王切開でいいですって言った時に, 申し訳ないけど,もう,耐えられないみたいな。(中 略)多分,もっと早く帝王切開でって言えば言えたと 思うけど,なんかさすがに最後に内診された時に,3 センチしか開いてないって言われて,無理だと思って。 申し訳ないけど,もう帝王切開にって。(ID3) 4.〈産褥期の思い〉  対象者は,学生と一緒に分娩を乗り越え,産褥期に は,〔学生を頼もしく感じるようになった〕と学生への 信頼感を高めていた。また対象者は,学生がそばにい て,一緒に新生児の世話などをすることで,〔産後は わからないことばかりで学生に支えてもらって安心で きた〕と感じていた。母体へのケアについては,〔産後 の乳房ケアなどの技術は未熟だが学生は頑張って勉強 していた〕との思いから学生のケアを受け入れていた。 (1)〔学生を頼もしく感じるようになった〕  対象者は,学生と一緒に分娩を乗り越え,「産後の 今は,学生は一番自分をわかってくれる人だと思っ た」,「産後の今は,学生が頼もしく感じるようになっ た」と語り,学生に対して信頼を寄せていた。また,「出 産後は,学生に私の体を任せられるようになった」と 学生に産後のケアを委ねる初産婦の対象者も見られた。  最初と比べてやっぱり今は,(学生を)助産師さんと して頼ってますね。(中略)(学生の)存在はおっきいで すね,自分を一番知ってくれてる存在,気にかけてく れてる,自分の親とかより知ってくれている。(ID8) (2)〔産後はわからないことばかりで学生に支えても らって安心できた〕  産後は創痛などで体が思うように動かせず,また, 授乳など初めて体験することも多い中で,対象者は 「産後はわからないことばかりで不安な時,学生に精 神的に支えてもらった」,「学生と一緒に赤ちゃんの世 話をして安心できた」と学生の行うケアを肯定的に受 け止めていた。  出産後っていうのはまったく未知の世界だったんで, 学生さんが本当に助産婦さんに見えるぐらいの,わか

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らないことを全部教えてもらっている,本当の頼れる 助産婦さんのような感じですね。(ID5) (3)〔産後の乳房ケアなどの技術は未熟だが学生は頑 張って勉強していた〕  対象者は,学生が行う産後のケアについて,「おっ ぱいケアの技術は未熟だけど頑張って勉強していた」, 「お下の消毒はぎこちなかったが受け入れられた」と 技術の未熟さを感じつつも,助産師や教員から指導さ れながら技術習得していこうとしている学生に対し, 「お産後は学生が成長していく姿を見ている気がして 感慨深かった」と,あたたかい目で学生の成長を見守 っていた。  「(学生が)こうやってできるようになっていくんだ な」っていう感じで,(中略)頑張ってるんだなってい うのをおっぱいマッサージで思ったけど。(中略)(学 生が助産師に)指導してもらって成長している姿も見 てるって感じで。(中略)すごいなっていう感じですね (ID8) 5.〈実習全体についての思い〉  実習全体について,対象者は〔学生だけでなく多く の人が関わってくれてよかった〕,〔至れり尽くせりで よかった〕と評価していた。 (1)〔学生だけでなく多くの人が関わってくれてよか った〕  全ての対象者が,「学生一人では不安だったが,助 産師や教員が一緒にいて,補足していたので安心でき た」と,学生へのサポート体制を肯定的に評価してい た  (学生が)常に確認をしてたので,不安とか,改善 点は別にいいんじゃないかなあと思いますね。内診と かそういう時も,常にスタッフと先生がいるのって いうのも安心ですしね。やっぱり,「結果はどうだっ たの?」っていう時に一人で処理してるのと,「確認 してきますね。」って一言があるのでは全然違います。 そういうのはとても大事だと思います。(ID1) (2)〔至れり尽くせりでよかった〕  対象者は実習全体について,「私一人に学生・助産 師・教員と関わって至れり尽くせりで満足だった」と 助産師や教員の関わりは肯定的に受け止められ,満足 感を高めていた。  助産師さんも教えて下さっているんですけど,学生 さんの学校の先生方も色々心配して下さって,お産の 時に見に来てくださったり。(中略)(産後の)おっぱい のケアとかも,病院の方も学校の方も両方やってくだ さるから,よかったです。満足です。至れり尽くせり で。特別な感じはしますよね。他の方は,こんなには してもらってないでしょう。(ID6) 6.〈実習の進行に伴う学生に対する思いの変化〉 (1)〔徐々に自然な形で打ち解けていった〕  実習の進行に伴う学生に対する思いの変化について, 「何かがあってというわけではなく,自然に学生を信 頼するようになっていった」と語る対象者が見られた。 このパターンを呈した対象者は,経産婦や,妊娠の経 過が比較的安定していた対象者であった。  お産が終わったから,無事に済んだから信頼したと いうわけではなく,普通の,他のスタッフと同じよう に,(中略)ある程度,学生という目で見ながら,普通 というか,別にお産したからからどうこうではなくて, 自然の流れで信頼しているという。(ID1) (2)〔不安と信頼感が比例していった〕  一方で,初産婦や,過去に流産・死産経験のある対 象者,妊娠経過が不安定だった対象者など,実習中に 強い不安を感じる経験をした対象者は,「不安の程度 と学生への信頼感が比例していった」と語っていた。  (学生が)頼もしくなってきましたよね。最初は, 全然私も実感なかったけど不安になってくるでしょう, 出産が近づくと。不安と頼りにするのが比例する。不 安が大きくなるにつれて頼りにする,比例するってい う感じです。今は「ありがとう。」って。(ID6)

Ⅴ.考   察

1.助産師学生に受け持たれた女性の学生実習に対す る思いとその変化の特徴  本研究では,継続事例実習で助産師学生に受け持た れた女性の学生実習に対する思いとその変化を明らか にした。本研究の対象者10名の中には,自身が医療 関係者である者と,家族が継続的に医療機関を受診 している者が計5名含まれており,このような背景が, 学生実習への協力依頼を承諾するかどうかの判断に影 響していた。継続事例実習は妊娠期から分娩期・産 褥期を通して学生が継続的に関わり続ける実習であり, 受け持たれる女性の負担も大きいため,本研究の対象 者にも,このような特徴的な背景を持つ者が多く含ま れていたものと推察される。このような経緯を経て実 習依頼を承諾した対象者は,総じて個別性の高い保健

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相談や支援を肯定的に評価し,妊娠後期には助産師学 生と打ち解けて話ができる関係性を構築していた。分 娩期には,助産師学生が入院時から対象者のそばにい てケアをしてくれることを心強く感じており,助産師 学生と分娩を一緒に乗り越えた産褥期には,助産師学 生は対象者にとって,ケア技術の未熟さはあるものの, 身近にいて頼もしく感じられる存在になっていた。分 娩期から助産師学生に受け持たれた女性を対象とした 先行研究では,助産師学生に受け持たれた女性の学生 に対する肯定的感情は,学生の受け持ちを了承した時 点,分娩期,産褥期と経時的に上昇し,否定的感情は 低下する(佐々木・鈴木・植田,2005)ことが指摘され ている。本研究では,実習の進行に伴う学生に対する 思いの変化として,〔徐々に自然な形で打ち解けてい った〕という対象者と,〔不安と信頼感が比例していっ た〕という対象者の,2つの特徴的なパターンが抽出さ れたが,いずれのパターンも,実習の進行に伴う学生 への肯定的な評価の高まりを示すものであり,助産師 学生が女性を妊娠期から継続して受け持つ継続事例実 習が,助産師学生と対象者両者にとって,関係性を築 き,深めていくための貴重な機会となっていることが 示唆された。 2.今後の継続事例実習における教育体制の在り方へ の示唆  本研究の結果から今後の継続事例実習における教育 体制の在り方への示唆として以下の5点を得た。 1 )妊娠期・産褥期のケア技術の習得  本研究では,助産師学生の妊娠期・産褥期のケアに 未熟さを感じながらも受け入れている対象者が見られ た。先行研究では,看護学生が不適切な看護を提供す る場合にも協力しながら看護を受け入れていた(山田, 1995)ことが指摘されている。本研究の対象者も同様 に,助産師学生の未熟さに対して,気づいたことは教 え,応援するような気持で協力していた。しかし,対 象者が学生の未熟さを受け入れているとはいえ,対象 者の負担となっている可能性は否定できない。さらに 助産学実習における助産師学生の臨床技術経験の到 達度は妊娠期・産褥期は低い(千葉・山口・我部山他, 2007;堀内,2007)ことが指摘されており,実習前に ケア技術の向上に努める必要がある。実習への事前準 備として妊娠期・産褥期の技術演習の内容・方法等の 再検討が必要である。  本研究の対象者は,学生が一人では不安だったが助 産師・教員が一緒だったので安心できたと語り,学生 の技術・知識不足に対する助産師や教員のサポートに 安心感を覚えていた。助産師や教員は助産師学生にと っても拠り所(村上,2008)であり,対象者と学生の両 者の不安を最小限に抑えるような実習環境の整備が必 要である。 2 )助産師学生が分娩介助を行うことに関する事前説明  分娩介助を助産師学生が行うことについては,最初 から理解していた対象者と妊娠中に助産師学生と話す 中で理解していた者が見られ,中には助産師学生が分 娩介助を行うとは思っておらず驚く対象者も見られた。  助産師学生が分娩介助を行うについては実習依頼時 に教員が,「分娩介助」という言葉は用いて説明してい たが,対象者全員が学生の行う分娩介助を正しく理解 するには至っていなかったケースがあったと思われる。 先行研究では,患者は実習内容や看護学生への対応の 仕方をわからないまま,漠然とした思いで,看護学 生実習の受け持ちを承諾している(猪俣・阿部・後藤 他,2005;小林,2004;浅沼,1999)ことが指摘されて いる。助産師学生の認知度が低く,実習がイメージし にくいことなどから,本研究においても実習内容を説 明する教員と対象者の間にギャップが生じていた可能 性がある。近年,妊産婦の意識の変化から,実習協力 への同意が得にくい状況になっていると指摘されてい る(堀内,2007)が,対象者が必要以上に不安にならず, 助産師学生の行う分娩介助を正しく理解できるような 説明の検討が必要である。また,同意を得た後も妊娠 中に対象者の助産師学生の行う分娩介助のイメージに ずれがないか,保健相談の機会等を通して確認してい く必要があろう。 3 )帝王切開を申し訳ないと感じる女性への配慮  分娩が進行しない状況で,助産師学生がそばにいて ケアしてくれたことを心強く感じ,助産師学生に自然 分娩の介助を経験させたいと思うがゆえに,帝王切開 にしてほしいという希望を口に出すことを躊躇い,帝 王切開が決定した時には,助産師学生に対して「申し 訳ない」という気持ちを抱く対象者が見られた。この ような対象者は,勉強している助産師学生のために協 力できるならという思いから実習依頼を承諾しており, その思いゆえに,自分の気持ちを表出できずに我慢し ていることや,助産師学生に対してすまない気持ちを 抱いていたと推察される。  学生に協力したいと思う対象者には,我慢や申し訳 ない気持ちを抱かないよう助産師や教員は事前説明し,

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そのような思いがあると推察される時は,声掛けなど 配慮ある関わりをもつことが重要であろう。 4 )分娩第1期遷延に伴う不安の軽減  分娩第1期が遷延し,分娩進行が見られない状況に おかれた対象者は,助産師学生がそばにいたが不安を 感じ,説明や励ましの言葉がほしかったと語っていた。 このような状況下では,助産師学生が単独で対応する のは困難である。先行研究では,女性の出産における 医療者との関係において,医療者からの説明がなかっ たり,不安になるような発言が見られたり,援助の不 足を感じている(阿部・加納・島田他,2004)ことが指 摘されている。助産師や教員は対象者の不安を受け止 め,対象者と助産師学生の関係に気遣いながら,対象 者の安全を優先して対応していくことが必要である。 5 )分娩時,対象者を混乱させないコミュニケーション  お産が急激で,いろんな言葉が飛び交ってわからな くなったので指示を出す人は一人にしてほしいと語る 対象者も見られた。先行研究では,努責法(いきみ方) で助産師と医師の誘導が全く正反対で混乱したなど出 産支援方針の統一の必要性が指摘されている。お産の 状況によっては医療スタッフも多くなるが,実習して いる学生も直接介助を行う助産師学生だけでなく間接 介助の助産師学生や看護学生も分娩室に入ることが多 い。そのような状況の中では,周囲から対象者への声 かけだけでなく,医療者間や医療者から助産師学生へ の指示・指導も多くなることが推察される。医療者間 や医療者̶助産師学生間のコミュニケーションと対象 者とのコミュニケーションが区別できるような声かけ を行い,対象者と意思疎通しているか,産婦が何を感 じているか反応を見ながら産婦を混乱させない工夫が 必要である。 3.本研究の限界と課題  本研究の限界として以下の点が挙げられる。第一 に,対象とした施設において継続事例実習を受けた女 性の数自体が非常に限られていたため,理論的サンプ リングが行えず,継続的比較分析が十分に行えていな い点が挙げられる。このため,本研究の結果は,対象 となった女性の思いの内容を記述するに留まっており, Grounded Theory Approachが目的とする理論の生成 にまで至っているとは言い難い。今後は,より説明力 の高い理論生成のため,多施設あるいは多年度にわた り対象者をリクルートし,継続事例実習で助産師学生 に受け持たれた女性の思いをより幅広く,多角的に検 討する必要がある。第二に,面接調査協力への同意が 得られている時点で,本研究の対象者が,継続事例実 習を好意的に受け止めている女性に偏っている可能性 があることが挙げられる。今後は,本研究で明らかと なった対象者の思いを参考にしつつ,面接調査よりも 研究協力への同意が得やすく,より多くの女性を対象 とすることが可能なアンケート調査の実施など,継続 事例実習を好意的に評価していない可能性のある女性 も対象に含めることができるよう研究デザインを考慮 する必要があるだろう。

Ⅵ.結   論

 継続事例実習とその教育体制の在り方を検討するた めに,継続事例実習で助産師学生に受け持たれた女性 の学生実習に対する思いとその変化を明らかにする ことを目的に,助産師学生に継続して受け持たれた 10名の女性に半構造化面接を行い,Grounded Theory Approachの手法を用いて分析を行った。  分析の結果,継続事例実習で助産師学生に受け持た れた女性の学生実習に対する思いは,学生実習依頼を 受けた時・妊娠期・分娩期・産褥期の各段階で明確 に異なることが明らかとなったため,各段階ごとに1. 〈学生実習の依頼を受けた時の思い〉,2.〈妊娠期の思 い〉,3.〈分娩期の思い〉,4.〈産褥期の思い〉に整理さ れた。各段階では,〔保健相談がとても勉強になった〕 〔産後はわからないことばかりで学生に支えてもらっ て安心できた〕といった学生実習に対する肯定的な意 見が聞かれる一方で,〔学生が内診や分娩介助を行う ことは驚いたが受け入れられた〕,〔手技にはたどたど しいところもあった〕など,実習上の問題点を指摘す る声も聞かれた。5.〈実習全体についての思い〉とし ては,〔学生だけでなく多くの人が関わってくれてよ かった〕,〔至れり尽くせりでよかった〕と,肯定的な 評価がなされていた。6.〈継続事例実習の進行に伴う 学生に対する思いの変化〉としては,〔徐々に自然な形 で打ち解けていった〕と語る対象者と,〔不安と信頼感 が比例していった〕と語る対象者の2つの特徴的なパ ターンが見られた。  本研究の結果から今後の継続事例実習における教育 体制の在り方について,妊娠期・産褥期のケア技術の 習得,助産師学生が分娩介助を行うことに関する事前 説明など5点の示唆を得た。

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謝 辞  本研究を行うにあたり,調査に快くご協力ください ました対象者の皆様と総合病院職員の皆様,看護助産 学校の職員の皆様に深謝いたします。また,研究計画 書作成から終止にわたりご指導賜りました厚生労働省 看護研究研修センター衣川さえ子先生,石川倫子先生 をはじめ,職員の皆様に感謝申し上げます。 文 献 阿部真理子,加納尚美,島田智織,小松美穂子(2004). 女性の出産体験における医療者とのコミュニケーショ ン・ギャップ.茨城県立医療大学紀要,9,133-145. 浅沼優子,高橋みや子(1999).看護学生に受け持たれる 患者の「思い」に関する検討.日本看護科学学会学術 集会講演集19回,362-363. 千葉陽子,山口琴美,我部山キヨ子,岡島文恵,金岡緑, 澤本万紀子他(2007).助産学実習における学生の臨 床技術経験の到達度に関する調査(第1報)̶「周産期 の共通診察技術・検査項目」「妊娠・分娩・産褥期の 診断・指導・ケア項目」について̶.日本助産学会誌, 20(3),51. 江幡芳枝,黒田緑,小田切房子,熊澤美奈好,渡邊典子 (2007).全国助産師教育協議会調査 大学・短大専攻 科・専門学校における助産師教育の実態と分娩介助・ 継続事例実習指針〔その1〕カリキュラム単位数および 助産学実習の比較.助産雑誌,61(3),226-232. 江成ひとみ(2004).臨地実習における看護学生と患者と の人間関係の深まりとその影響要因についての一考察. 神奈川県立保健福祉大学実践教育センター看護教育研 究収録,29,63-70.

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参照

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