原
著
ハ イ リス ク新 生 児 を 出 産 した母 親 の
自立 過 程 に関 す る一考 察
The Process
of Establishment
of Maternal
Confidence
after
the Delivery
of High-Risk
Infant
宮
中
文
子
J.JPn,Acad.Mid.,Vo1.4,No.1,pp.34∼41,1990
(Fumiko
MIYANAKA)
*
宮
里
和
子 (Kazuko MIYASATO)**
要 約 ハ イ リス ク新 生 児 を 出 産 した 母 親 の 自立 過 程 は,出 産 後 の 危機 か ら立 ち 直 り,児 の リス ク を受 け 入 れ, 育児 に 自信 が もて,母 性 性 が 発 達 して い く過 程 で あ る と い え る。 新 生 児集 中 治療 室 に入 院 した児 を もつ 母 親77名 に つ い て,母 親 の 自立 過 程 に影 響 を及 ぼ す 要 因 を分 析 した結 果,自 立 を促 す 要 因 は,入 院 期 間 が1か 月未 満,新 生 児 が低 出 生 体 重 児 で は な い,母 親 が 退 院 時 や 退 院 後 に 心 配 ・不 安 が な い,退 院 時 に 児 の 看 護 上 の 問題 が な い な どで あ り,そ の 要 因 が 欠 け て い る者 で は 自立 が遅 れ る傾 向 が み られ た。 ま た類 似 した要 因 を もち な が ら,自 立 の 時 期 の 異 な る事例 の 比 較 で は,早 期 に 児 の 状 況 に直 面 し,不 安 感 情 を表 出 し,児 との 関係 を回 復 し,社 会 的 支 援 を受 けて い る者 な どで は 育 児 に 自信 が もて,自 立 が 早 か っ た。 これ らの こ とか ら,ハ イ リス ク新 生 児 を 出 産 した 母 親 に対 して は,自 立 を促 す 要 因 を助 長 す る よ うバ ラ ン ス保 持 を 図 るな ど,両 親 の 親 と して の 意識 と役 割 の 発 達 を促 す 支援 シス テム が 望 まれ る。 Abstract
It can be considered that maternal confidence after the delivery of high-risk infant is acquired through recovering from crisis after the delivery, accepting the handicapped conditions of the infant, gaining self-reliance in child-care, and developing the maternity.
In this report we examined the factors influencing the establishment of maternal confidence after the delivery of high-risk infant.
The sample was composed of 77 mothers whose infants were hospitalized in the NICU. The result of this study was as follows ;
1. It was proved that maternal confidence was influenced by four factors ; hospitalization for less than one month, no lowbirth weight infant, no anxiety after discharge, and no problem on
nursing care.
2. Maternal confidence to delay in short of the above factors.
3. The periods required for maternal confidence were different among mothers with high-risk infants in spite of similarity of their factors. Mothers, that is, who cognized the handicapped
*京 都 府 立 医 科 大 学 附 属 看 護 専 門 学 校 助 産 学 科(MidwiferyCourse
,NursingSchoolAttachedKyotoPrefectural UniversityofMedicine)
**国立 公 衆 衛生 院 公衆 衛 生看 護 学 部
(Department of Public Health Nursing, Institute of Public Health)
conditions of their infants, expressed the feeling of anxiety, moderated the relationship with their infants, and were provided with available social support at an earlier stage, could be
independent earlier.
We think it is important to provide the mothers with social support at an earlier stage on account of developing maternal confidence after delivery of high-risk infant.
Ⅰ 緒 言 ハ イ リス ク新 生 児 の 出産 は,母 親 に と って ス ト レスで あ り,心 理 的 危 機 状 態 に 陥 りや す い とい わ れ る。 ア ギ ュ ラ ラ等1)は 危 機 発生 と回避 の モ デ ル を示 し,均 衡 を 回復 させ るバ ラ ンス保 持 要 因 が あ る か な いか に よっ て 危機 を促 進 させ た り,危 機 か ら回避 で きた りす る と して い る。 また,カ プ ラ ン (Kaplan)2)は 未 熟 児 を出 産 した 母親 で は ス トレ ス に うま く対 応 す る た め,適 切 な 時期 に 各 課題 を や り遂 げ ね ば な ら な い と述 べ て い る。 ク ラ ウ ス 等3)は,母 子 分 離 をす る こ とに よ り,母 子相 互 作 用 が 阻害 され母 子 関係 や 児 の 発 達 に 影響 を来 しや す い と して い る。 ハ イ リス ク新 生 児 の 発 達 と母親 の 心 理 や 行動 との 関連 に つ い て は,こ れ まで に も調 査 が行 わ れ,出 生 直後 か らの母 子相 互 作 用 が 助 長 され る よ うな援 助 が 重 要 で あ る こ とが報 告 され て い る4)5)6)。 一 方,母 性 とは 子 との相 互 作 用 の 過程 で 漸 次確 立 され て い く とい わ れ て い るが,ゴ ー ル ドバ ー グ7)は、 児 の個 性(状 態)が 母 親 の 有 能 感(自 信) に影 響 して お り,適 応 力 の 限 られ た 乳 児 の 親 で は 相 互 作 用 の 失 敗 す る危 険 度 が 潜 在 的 に高 い と報 告 して い る。 しか し,母 親 が リス ク を もつ 児 との 関 係 を成 立 させ 自立 して い く過 程 に つ い て は まだ 明 らか で は な い。 本 論 文 に お け るハ イ リス ク新 生 児 を出 産 し た母 親 の「 自立 」 とは,母 親 が リス ク を もつ 児 を 受 け 入れ,育 児 に 自信 が もて,育 児 に伴 って 生 じ る心 配 や 不 安 に対 して そ れ な りに 対 処 で き る こ と を い う。そ の 過程 で 自立 を促 す 要 因 を明 らか に し, 自立 の時 期 に差 が あ っ た者 を 中心 に事 例 検 討 を行 い,ハ イ リス ク新 生 児 を 出産 した母 親 の 自立 を促 す 援 助 につ い て考 慮 した。 1)研 究 目的 未 熟 児 ・疾 患 や 障 害 を もつ 児 の母 親 に つ い て, 児 の リス ク を受 け 入 れ,育 児 に 自立 して ゆ く要 因 と心 理 的 過程 を 知 り,看 護 者 の援 助 の あ り方 を考 え る。 2)用 語 の 定 義 ハ イ リス ク 新生 児:疾 患 を もつ 児,未 熟 児,ハ イ リス ク妊 婦 か ら生 まれ た 児 な どで,何 らか の 処 置や 十分 な 観 察 が 必要 な新 生 児 。 自立:育 児 行動 を含 む セ ル フ ケ ア の 自立 で,母 親 が 子 との 関 係 を成 立 させ,育 児 に 自信 を もつ こ とが 重 要 な 要 素 とな る。 心 配 ・不 安:心 配 とは,心 的 負 担 に な る事 項 で, 不 安 とは,漠 然 と した 危 険 や 脅 威 に 対 す る反 応 。 Ⅱ 研 究 方 法 1.対 象 昭 和62年1月 か ら63年3月 まで に 京 都 府 立 医科 大 学 附 属 病 院 周 産 期 診 療 部 新 生 児 集 中 治 療 室 (NICU)に 入 院 した 児157名 か ら,出 生 直 後 に 入 院 した 児 を もつ 母親 の 全 数100名 を対 象 と し,う ち 回 答 の 得 られ た77名(77%)で あ る。 2.調 査 内容 お よ び 調 査 方 法 1)質 問紙 調 査 郵 送法 に よ る質 問紙 調 査 を 行 い,以 下 の 項 目 に つ い て 想 起 させ 回 答 を得 た 。① 母 親 の 心 理 的 推 移 と専 門 家 や 家 族 の 支援 に 関 す る項 目 と して,初 回 面会 時 の 心 理,児 の病 状 説 明 に 対 す る理 解,退 院 時 の 児 に対 す る心 配 ・不 安,退 院 後 の 家 庭 保 育 で の 心 配 ・不 安,入 院 中 お よび 退 院 後 の 支援 状 況, 育 児 に対 す る 自信 を得 た き っか け。② 保 健 指 導 と 母 親 の 行 動 に関 す る項 目 と して 初 回 面 会 の 時 期, 面 会 頻 度,育 児 参 加状 況,退 院 指 導,母 乳 哺 育の 状 況 で あ る。 2)面 接 また は 電 話 訪 問 に よ る追 加 調 査 ア ンケ ー ト調査 の 時点 で 育 児 に まだ 自信 の な か った 者9名 につ いて,そ の 後5か 月 ま で に 行 い, 自信 の つ いた 時 期 あ る い はつ か な い理 由 に つ い て 回 答 を得 た 。 3)既 存 資 料 に よ る調 査 35 日本 助 産学 会誌 第4巻 第1号(1990)
以 下 の 資 料 か ら,母 児 の属 性 に 関 す る項 目 と して 母 親 の 年 齢,家 族形 態,育 児 経 験,出 生 施 設,通 院距 離,母 親 の 合併 症,児 の 入 院 日数,児 の 病 名,母 児 の看 護 上 の 問題 と指 導 につ いて 調 査 した。 ま た母 親 の 心 理 的 推 移 につ い て の情 報 を収 集 し,ア ンケ ー ト調 査 の 回 答 内 容 との 照 合 を行 っ た。 ① 看 護 サ マ リー(継 続 看 護 依 頼 用紙)。 ② 面 会 記 録:児 に関 す る看 護 婦 と両親 との 交 換 記 録 で,母 親 の心 理的 推 移 を知 るだ けで な く母 子 関 係確 立 に も役 立 っ て い る8)。 ③ 新 生 児 訪 問 返 信 記 録 。 3.分 析 方 法 自立 に 影響 す る と考 え られ る要 因 の21項 目 につ い て,早 期 自立 群 と晩 期 自立 群 の 比 率 に 差 が あ るか を検 討 し,そ の う えで,類 似 し た要 因 を も ちな が ら 自立 の 時 期 に差 の あ っ た事 例 を中心 に検 討 した 。 こ こ で は母 親 の 自立 と い う こ とを 「母 親 が 児 の リス ク を受 け入 れ,育 児 に 自信 が もて,心 配 ・不 安 に対 し対 処 で き る こ と」 と考 え た。 具 体 的 に は 「赤 ち ゃ ん の 育 て 方 が わ か り, な ん とか 育 て て い け る と思 わ れ た」 時期 を児 の 生 後 の 月 数 で 答 え て も らい,そ の時 点 で母 親 が 自立 で きた もの と した 。 早 い時 期 に 自立 した 者 は,自 立 が遅 れ た 者 に比 べ て 自立 を促 す要 因 を多 く もっ て い た もの と考 え,4か 月未 満 に 自立 した早 期 自 立 群 と4か 月 以 後 で あ っ た晩 期 自立 群 に分 けた 。 生 後4か 月 で 区 分 したの は,危 機 の持 続 は4∼6 週 とい わ れ て い るが,こ の場 合,危 機 回 避 し育 児 に 自信 が つ くの は 母 親 が 自分 で 育 児 す る退 院 後 で あ る とい う結果 か ら,4か 月 で 区分 した 。 な お 調 査 終 了時 点 で まだ 自信 が な い と答 え た もの は 晩 期 自立 群 に含 め た。 4.調 査 施 設 のNICUの ケ ア につ い て 児 に対 す る 「後 障 害 な き救 命 」 を 目的 と した治 療 的 ケ アが 主 で あ るが,両 親 に対 して は親 子 関 係 成 立 へ の 援 助,育 児 自立 へ の 援 助 を行 っ て い る。 その 内容 は,両 親 の早 期 面 会,児 との接 触,面 会 ノ ー ト,育 児参 加,母 乳 哺 育,退 院指 導,地 域 保 表1-1対 象者 の属 性 表1-2対 象 児 の属性 健 婦 との 継 続 看 護 な どで あ る。 Ⅲ 結 果 1.ハ イ リス ク新 生 児 を 出産 した 母 親 の 自立 の 時 期 とそ れ に 関 す る要 因 1)対 象 者 の 背 景 は表1に 示 す とお りで あ る。 調 査 時 点 で の,児 の年 齢 は 生 後5か 月か ら1歳 8か 月 で あ った(表1)。 2)母 親 の 自立 の 時 期 とそ の き っか け 「育 児 に 自信 が つ い た」 時 期 は,生 後1か 月か ら 12か 月 以上 と個 人 差 が 大 きか った 。 自信 が つ い た 理 由 は,早 期 自立 群 で は 「体 重 増 加 」 や 「定 頸 」 な どの 発 育 や 発 達 が 確 認 で きた こ とが最 も多 く, つ い で生 活 リズ ム や 授 乳 の確 立 な どの 予 測 しや す さ,私 を見 て 笑 うな どの読 み取 りや す さ を あ げ た 者 が 多 くみ られ た。 晩 期 自立 群 で も発 育 や 発 達 の 確 認 が 多 か った が,次 い で,児 の 読 み 取 りや す さ を あ げ た 者 が 多 か っ た。 母 体 の 健康 回 復 と答 え た 者 は晩 期 自立 群 の み に,育 児経 験 あ る た め と答 え た者 は早 期 自立 群 の み に み られ た(図1,表2)。 3)母 親 の早 期 自立 に 関連 す る要 因 早 期 に 自立 した者 が有 意 に多 か っ た項 目は,属 性 項 目で は 児 の 入院 日数 が1か 月未 満 の 者,低 出 生 体 重 児 に 比 べ 疾 病 新 生 児,保 健 指 導 と母 親 行 動 で は 退 院 時 に児 の看 護上 の 問 題 の な か っ た者,退 36 日本 助産 学 会 誌 第4巻 第1号(1990)
図1育 児 に自信 が得 られ た時期 表2育 児 に自信が つ いた理 由 院 指 導 を受 け な か っ た と答 え た者 で あ っ た。 た だ し退 院 指 導 は 実 際 に は 医 師 と看 護 婦 に よ り全 員 に 行 わ れ て い る。 心 理 的推 移 と支援 で は,退 院 時 や 退 院 後 に心 配 ・不 安 の な か っ た者,入 院 中 に心 理 的 支援 を看 護 婦 か ら受 け な か った と答 え た者 で あ った 。 入 院 中の 支 援 者 は 看 護 婦,新 生 児(面 会), 医 師 の 順 に 多 く,退 院 後 は 実 母,夫,保 健 婦 の 順 表3各 属性項 目と育児 自立 の 時期 と の関 連 表4保 健指 導 や母親 行動 と育 児 自立 の 時期 との関連 で あ っ た 。 有 意 差 は な いが,早 期 に 自立 した 者 が 多 い 傾 向 が 見 られ た 項 目 は,母 親 の年 齢 が30歳 以 上 の 者,育 児 経験 の あ る者,通 院 時 点 の 住 所 が 市 外 の 者,母 親 の 合 併 症 の な か っ た者,初 回 面 会 時 に 否 定 感 情 を表 現 した者 で あ っ た。 日本 助 産 学会 誌 第4巻 第1号(1990) 37
表5心 理 的 推移 や支援 と育児 自立 の時期 との 関連 逆 に 自 立 が 遅 れ た 者 が 多 い傾 向 が あ っ た項 目 は,児 の 入 院 初 期 の 病状 につ い て説 明 を受 け た が 理 解 で きな か っ た者,初 回 面 会 が7日 以 後 と遅 れ た者,母 乳 哺 育 未確 立 の 者 で あ っ た。 退 院後 の相 談相 手 に よ る差 異 は ほ とん どな か っ た。 た だ し,支 援 者 の 平 均 数 で は,入 院 中 は,早 期 群 が3.8人 に比 較 し,晩 期 群 が4.3人 と多 く,退 院 後 で もや や 晩 期 群 に 多 か っ た(表3,表4, 表5)。 2.事 例 検 討 類 似 した要 因 を もち な が ら,育 児 に対 す る 自信 の 時 期 が 早 い事 例 と遅 れ た 事 例 につ い て比 較 検 討 した。 1)仮 死 児 の 母 親2事 例 の比 較(図2) 事 例 は いず れ も重症 仮 死 児 で,神 経 学 的 予 後 が 要 注 意 の 児 を もつ 初 産婦 で あ る。 いず れ も他 院 出 産 で 吸 引 分 娩 して お り,新 生 児 の み が 本 学 に 入 院 とな っ て い る。C事 例 は,児 が 仮 死 に な り入 院 と な った こ とを正 し く知 って い て,初 回面 会 時 に は 「や っ と会 え て胸 が ジー ン と き た。 す ぐ抱 い てや りた か っ た」 と答 え て い る。 退 院 後 す ぐに訓 練 施 設 で の 入 院 訓 練 を行 っ て い る。 退 院 後 早 期 の 生 後 2か 月 に 自信 が つ い た が,そ の きっ か け は,「退 院 時 に で きな か っ た お っ ぱ い が飲 め る よ う に な り, こ の 子 な りにゆ っ く り成 長 して い る こ とが わ か っ た か ら」 と答 えて い る。 一 方,D事 例 は里 帰 り分 娩 で,児 は低 酸 素性 脳 症 に て 入 院 して い る。 母 親 は 「強 い 貧 血 が あ るた め 外 出 が許 可 され ず,児 の 状 態 や 入 院 の 説 明 は な か っ た」 と答 え て い る。NICUに 入 院後,父 親 に 対 し児 の状 態 に つ い ての 説 明 を して い る。母 親 は, 生 後8日 に初 回 の 面 会 を して お り,こ の と き,児 は急 性 期 を 脱 して い た が,そ の 状 態 を見 て,「元 気 に生 ん で い た ら こん な 目 に あ わ な くて よか っ たの に,申 し訳 な い」と自責 の 気持 ち が 強 く,「順 調 に 育 つ か,何 か障 害 が 残 ら な いか 」と心 配 して い る。 母 親 は育 児 参 加 し,授 乳 も行 っ て い る が,児 が 眠 っ て い る こ とが 多 く,母 乳確 立 せ ず に退 院 し,実 家 に帰 っ て い る。 そ の 後 「児 が よ く吐 く」 とい う 訴 えが 強 く,母 親 へ の 育 児 指 導 の ため 再 入院 して い る。2か 月後 に 自宅 へ 帰 っ たが,夫 の 転 勤 の た め 転 居 直 後 の社 宅 で,近 隣 の サ ポ ー トもな く育 児 に孤 立 して い る。退 院 後 はNICU看 護 者 か ら保 健 所 保 健 婦 へ の 継 続 看 護 の 依 頼 に よ り,保 健 婦 の 訪 問 指 導 が 実 家 滞 在 中1回 と,自 宅 に帰 っ てか ら も 数 回 行 われ て い る。 しか し,1歳3か 月 の現 在 も 自信 が まだ な い と答 え て い る。そ の 理 由 は,「い ざ 家(実 家)に 連 れ て 帰 る と,入 院 中 に1日1時 間 通 っ て い た の で は わ か ら な い こ とば か りだ っ た。 ミル ク を よ く吐 き続 け るの で ど こ か悪 い とこ ろが あ るの で は と不 安 で ど う に もな らず,病 院 に 電話 相 談 を した ら,赤 ち ゃん の 様 子 が悪 い とい う こ と で はな く,お 母 さん の 排 気 の や り方 が悪 い の で は な いか とい わ れ た 。 そ れ か ら,よ そ の 子 に 比べ ず っ と体 重 が 少 な い の も,自 分 の 育 て 方 が 悪 い の で は な い か と 自信 が もて な い」 と答 えて い る。 そ の 後 の 追 加 調 査 で も自信 は な い と答 えて お り,「体 重 が 増 え な い ん で す 。 食 べ て も吐 き ます 」 と訴 えて い る。 そ の後,電 話 訪 問 を重 ね,1歳7か 月時 に 38 日本助 産 学 会誌 第4巻 第1号(1990)
図2重 症 仮死 児 の母親2事 例 の比 較 は,「 吐 くこ とは少 な くな っ た,よ く歩 き ます 」と 答 え,肯 定的 な表 現 が 聞 か れ る よう に な っ た。 Ⅳ 考 察 ハ イ リス ク新 生 児 を出 産 した母 親 の 自立 に関 す る要 因 に つ い て は,入 院 期 間 や 退 院 時 の 児 の 問題 な ど児 の病 態 や予 後 に関 す る項 目の ほ か,退 院 時 や 退 院後 の心 配 ・不 安 が な い な どが 当然 で は あ る が大 き く影響 して い た。Caplan9)10)は危機(Crisis) とは一 時 的 に 解決 で き な い問 題 に直 面 して,適 応 と順 応 に 苦 しん で い る状 態 で あ り,危 機 は心 理 的 な弱 点 の増 大 す る危 険 と,パ ー ソ ナ リテ ィー が 成 長 す る機 会 とい う二 面 を現 す 過 度 的 な時 期 で あ る と して い る。 事 例 で も危機 に陥 りや す く,自 立 の 遅 い者 と,危 機 回避 し,自 立 の早 い 者 が み られ た。 ア ギ ュ ララ11)は,バ ラ ン ス保 持 要 因 と して 現 実 的 知 覚,社 会 的 支持,対 処 機 構な どを 考慮 し,支 援 す る こ とに よ り危機 回 避 で きる と して い るが,ク ロス集 計 の 結 果 と事 例 か ら もそ の こ とが い え た 。 現 実 的 知 覚 で は,児 の 現 実 を早 期 に知 覚 し,不 安 感 情 を表 出 した 者 で は,児 との関 係 を回復 し育 児 に 自信 を得 て い る。 その 結 果,早 期 に 危機 回避 が で き,自 立 した と思 わ れ た。 また そ の 立 ち 直 り の 過 程 は,カ プ ラ ン(Kaplan)12)の 報 告 した未 熟 児 を 出産 した母 親 の 心 理 過 程 に相 似 して い た 。類 似 した要 因 を もち な が ら 自立 時 期 に相 違 の あ る事 例 の比 較 で も,C事 例 で は 出産 直 後 か ら児 の 状 況 に 直面 し,早 期 接 触 に よ り正 し く現 実 を知覚 して い るが,D事 例 で は,早 期 に 児 の現 実 は 知 ら され て な か っ た。 この こ とか ら,母 親 は早 期 に児 と面 会 し,現 実 に 直面 す るこ とが 必 要 と思 わ れ た。 次 に母 親 の 対 処機 構 に つ い て は,リ ス ク児 で は 反 応 が 弱 く,相 互 作 用 が 障 害 され や す い こ とが 多 い。 ゴー ル ドバ ー グ13)は,児 の 状 態 の 予 測 しや す さ,読 み取 りや す さが母 親 の 育 児 有 能 感 につ な が る と して い る。C事 例 は 保 母 の 経 験 が あ っ た の に 比 べ,D事 例 は 初 め て の 育 児 の うえ,育 児 参 加 で は児 が 眠 りが ちで あ り,効 果 的 な母 子相 互 作 用 が 行 わ れ な か った ため,リ ス ク に特 有 の理 解 が で き ず 児 が 受 容 で きなか っ た と考 え られ る。 この こ と か ら,NICUの ケ ア に お い て は,効 果 的 な母 子 相 互 作 用 が で き る よ うに し,母 親 が 児 の状 態 を読 み 日本 助産 学 会誌 第4巻 第1号(1990) 39
取 っ た り,予 測 した りす る力 を発 達 で きる よ うに し,育 児 の 自信 が 高 め られ る よ う な支 援 が 必 要 と 考 え た。 ま た,育 児指 導 は 児 の個 性 を踏 ま え て 行 う必 要 が あ る と思 わ れ た 。 社 会 的 支 持 に つ い て は,ク ロス 集 計 の 結 果 で は 支援 者 の 有 無 と早 期 自立 との 関連 に有 意 差 は な か っ たが,事 例 で は夫 や 地 域 で の 支援 が 影 響 して い た 。C事 例 で は,職 場 の サ ポ ー トに加 え,訓 練 施 設 で の サ ポ ー トが あ っ た の に比 べ,D事 例 で は, 里 帰 りや 転 居 に よ り,地 域 の サ ポ ー トが 得 られ に くか っ た こ とが あ る。 また,転 院 先 へ の 紹 介 状 の 持 参 や,郵 送 に よる継 続 看 護 依 頼 は 行 わ れ た が, 母 親 に と っ て は十 分 な支 援 とは な らな か った と考 え られ る。 久 田14)の報 告 で も夫 の サ ポー トは ス ト レ スの 緩 和 効 果 が あ る と して お り,夫 や 家 族 の 支 援 は 重 要 と思 わ れ た。 しか し,現 在 の核 家 族 で の 育 児機 能 は 弱 く,家 族 もま た危 機 に 陥 りや す い た め,母 親 が 家 族 や 地 域 で 孤 立 化 せ ず,母 親 と児 が 発 達 して ゆ け る よ う な支 援 シ ス テ ム が 必要 と思 わ れ る。 例 え ば,保 健,医 療,福 祉 の 母 子 保 健 に か か わ る多 くの 社 会 資 源 の ネ ッ トワ ー クづ くりが試 み られ るの も一 つ の 方 向 とい え よ う15)。 母 親 の心 配や 不 安 と母 親 の 自立 との 関 連 につ い て は,退 院 後 に 育 児 の 心 配 ・不 安 の あ る者 が 多 か っ た が,心 配 とは,過 重 す ぎず,個人 の 対 処 力 の 範 囲 の 問題 か,信 頼 で き る支 持 が あ る場 合 と思 わ れ,こ れ は 発達 に 必要 な 要 素 と もい え る。 ま た, 不 安 とは,漠 然 と した 危 険や 脅 威 に対 す る反 応 で あ り,そ れ が強 度 に な った状 態 が 危機 と考 え られ た16)。質 問紙 調 査 で は,心 配や 不 安 が あ っ て も同 時 に育 児 に 自信 が 得 られ た 人 と,自 信 の な い人 が い た。 育 児 に 自信 の な い母 親 は,周 囲 の 支 援 や 対 処 力が 弱 か っ た り,自 分 の 育 児 自信 の よ りど こ ろ と な る根 拠 が もて な い状 態 で あ り,自 立 して いな い と思 わ れ た 。 一 方,自 立 した者 で は、 早 期 か ら訓 練 施 設 で 養 育 指 導 を受 け るな ど,地 域 の 専 門 家 な どの 支援 が 大 き く影 響 して い た こ とか ら,心 配 や 不 安 が あ って も,そ れ な りに対 処 して い る とい え るの で は な い か と考 え られ た。 しか し,ハ イ リス ク新 生 児 を出 産 した 母 親 は個 々 人 で,危 機 状 況 の 受 け止 め や 認 識,対 処 方 法 も異 な る た め,そ れ を 考 慮 して,母 親 の 心 配 や 不 安 に対 す る援 助 を行 う 必 要 が あ る と考 えた 。 以 上 の こ とか ら,ハ イ リス ク新 生 児 を もつ 母 親 の 自立 過 程 は,出 産 後 の 危 機 か ら立 ち直 り,児 と の 関 係 を 回復 し,育 児 に 自信 が もて,母 性 と して 発 達 して い く過 程 と考 え た。 そ の た め,ハ イ リス ク新 生 児 を 出産 した母 親 に対 して は,自 立 を促 す 要 因 を助 長 す る よ うバ ラ ンス 保 持 を図 る な ど,両 親 の 親 と しての 意 識 や役 割 の 発 達 を促 す支 援 シ ス テ ム が 望 まれ る。 V結 論 ハ イ リス ク新 生 児 を 出産 した母 親 で は危機 に陥 りや す く自立 過 程 の 遅 い者 と,危 機 回避 し自立 過 程 の 早 い者 が あ る と考 え た。 母 親 の 自立 を促 す要 因 に つ い て は,児 の 入 院 日数 が1か 月 未満 の 者, 低 出生 体 重 児 以 外 の 疾 病 新 生 児,退 院 時 に 児 の看 護 上 の 問題 が な か った 者 な どの,児 の 病 態 や 予 後 に関 す る項 目の ほ か,退 院 時 や 退 院 後 の 心 配 ・不 安 が な い な どが 大 き く影 響 して い た。 また事 例 検 討 の 結 果 か ら,ハ イ リス ク新 生 児 を 出産 した母 親 に対 して は,現 実 認 知,社 会 的 支 援,対 処 力 な ど を考 慮 して,自 立 を促 す 要 因 を助 長 す る よ うバ ラ ンス 保 持 を図 る な ど,両 親 の 親 意 識 や 役 割 の 発 達 を促 す よ う な支 援 シ ス テ ム が望 まれ る。 謝辞 稿 を終 え るにあた り,・調 査 にご協 力い ただ きま した 京都府 立医科 大 学附属 病 院産 婦 人科 岡 田弘二 教授, 小児科 沢 田淳教授 に御 礼 申 し上 げ ます。 なお,統 計解析 につい て,ご 指 導 をい ただ きま した 国立 公衆 衛生 院 保健 人 口学部 勝 野 真 人先 生 に感 謝 い た します。 (本論 文 の 一 部 は 第4回 日本 助 産 学 会 に て 発表 し た。) 引 用 文 献 1)ド ナC.ア ギ ュ ラ ラandジ ャ ニ スM.メ ズ イ ッ ク:小 松 源 助,荒 川 義 子 訳:危 機 療 法 の 理 論 と実 際,川 島 書 店,pp.97-103,1978。
2) Kaplan, D. M & Mason, E. A.: Maternal reactions to premature birth viewed as an acute emotional
disorders. American Journal of Orthopsychiatry, 30; pp.539-547, 1965.
3)竹 内 徹 訳:MarshallH.Kraus,JohnH.Kennell:母 と 子 の き ず な,医 学 書 院,1979。
4) 竹 内 徹: 極 小 未 熟 児 に お け る 母 子 関 係,周 産 期 医 学, Vol.13, No.12, 1983。
5) 小 川 次 郎 他: 新 生 児Special care Unitに お け る 母 子 相 互 作 用 の 臨 床 的 心 理, 行 動 科 学 的 研 究, 昭 和57年 度 厚 生 省 心 身 障 害 研 究「 母 子 相 互 作 用 研 究 班 」 研 究 報 告 書, 1983。
6) 神 谷 育 司 他: 新 生 児Special care Unitに お け る 母 子 相 互 作 用, 周 産 期 医 学, Vol.13, No.12, 1983。
7) Susan Goldberg: Social Competence in Infancy: A model of Parent-Infant Interaction, Merrill-Palmer Quarterly, Vol.23, No.3, 1977.
8) 中 村 真 弓 美 ・宮 中 文 子: 面 会 ノ ー トを 利 用 して, 日 本 看 護 協 会 近 畿 地 区 看 護 研 究 学 会 集 録, 1984。 9) ア ギ ュ ラ ラandメ ズ ィ ッ ク: 前 掲 書 。 10) 桑 原 治 雄: ク ラ イ シ ス (危 機) 介 入 の 理 論 と 実 際, 社 会 精 神 医 学, 星 和 書 店, Vol.9, No.4, 別 冊, 1986。 11) ア ギ ュ ラ ラandメ ズ ィ ッ ク: 前 掲 書 。
12) Kaplan, D. M & Mason, E. A.: 前 掲 書 。 13) Susan Goldberg: 前 掲 書 。 14) 久 田 満, 他: ソ ー シ ャ ル サ ポ ー トの ス ト レス 緩 和 効 果, 日本 心 理 学 会 大 会 論 文 集, 第50回, p.729, 1986。 15) 荻 須 隆 雄: 母 子 保 健 と社 会 福 祉 資 源 と の 連 携― そ の 現 状 と こ れ か ら―, 母 子 保 健 情 報, 第14号, 1987。 16) 小 島 操 子: 不 安 を 持 っ た 患 者 へ の 援 助 の 技 術: 患 者 心 理, 現 代 の エ ス プ リ, 至 文 堂, No.179, 昭 和57年 。 参 考 文 献 1) 仁 平 義 明, 他: 母 親 の 気 づ い た 障 害 児 の 早 期 の 異 常 な 徴 候 に 関 す る調 査, 母 性 衛 生, Vol.27, No.1, 1986。 2) 仁 平 義 明, 他: 母 性 確 立 へ の 乳 児 の 個 性 の 影 響, 母 性 衛 生, Vol.27, No.4, 1986。 3) 小 野 寺 杜 紀 訳: Orem, D. E.: オ レ ム 看 護 論, 医 学 書 院, 1979。 4) 大 日和 雅 美: 母 性 の 研 究, 川 島 書 店, 1988。
5) Rapoport, Rydio.: The state of crisis; Some Theo-retical Considerations, Social Service Review, Vol.
36, pp.211-217, 1962.