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都市近郊水田特有の光環境が水稲の生育と収量に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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2017 年 4 月 4 日受理 連絡責任者:大江真道(ohe_m@plant.osakafu-u.ac.jp)

都市近郊水田特有の光環境が水稲の生育と収量に及ぼす影響

武田悠磨・大江真道

大阪府立大学大学院生命環境科学研究科(〒 599-8531 堺市中区学園町 1 番 1 号) 要旨:都市近郊水田特有の光環境と水稲の生育,収量との関係を明らかにするため,一筆の水田内で建築物によ り継続的な遮光を受ける遮蔽区,街灯による夜間照明の影響を受ける街灯区を設定し,イネの生育と収量の調査 を行った.出穂日は対照区に比べて,遮蔽区では 2 日,街灯区では 8 日の遅延が認められた.収量構成要素は遮 蔽区では対照区に比べて穂数と精籾千粒重が有意に劣り,精籾収量は対照区の 43%であった.街灯区では対照区 に比べて穂数,精籾歩合,精籾千粒重が有意に劣り,精籾収量が対照区の 28%であり,これらの光環境下での収 量への抑制的な影響は,遮蔽区よりも街灯区で有意に大きいことが明らかとなった. キーワード:光環境,水田,水稲,収量,都市

緒言

都市近郊の水田では都市という環境ならではの光環境が 存在する.住宅やマンションなどの建築物の増加に伴う光 の遮蔽は,1 日の特定の時間帯のみ,水田を継続して遮光 することで,その間のイネの生育を抑制すると考えられる. 農地を照らす屋外照明の増加は農地を長日条件に変えて作 物の生殖成長への移行を混乱させる光害(ひかりがい)と して近年問題視されており(環境省 2006),イネはその 影響が大きい作物とされている.しかし,このような都市 特有の光環境下でのイネへの影響を明らかにした報告は見 られない.本研究では一筆の水田内において建築物の遮蔽 となる場所,街灯の照明にさらされる場所,それらの影響 のない場所という異なる光環境で,水稲の生育および収量 の変動を解析し,都市近郊水田での光環境と水稲の生育, 収量との関係を明らかにしようとした.

材料および方法

試験は,大阪府立大学附属教育研究フィールドの水田で 2015 年に水稲品種 にこまる を用いて行った.なお,に こまるは,出穂日が本試験地の奨励品種であるヒノヒカリ と同程度の暖地向け晩生品種(坂井ら 2010)である.栽 植密度は 16.7 株(条間 30 cm,株間 20 cm)とした.6 月 17 日に機械移植された苗を同月 25 日に 1 株あたり 3 個体 となるように間引きした.施肥は基肥として窒素成分が 10 a あたり 5 kg となるように化成肥料(N:P:K = 14: 10:13)を施し,追肥は 9 月 5 日に 10 a あたり窒素成分 で 1.2 kg 施した. 試験区は対照区,遮蔽区,街灯区の 3 区を設けた.水田 に隣接した住宅街の影が午前中に水田を遮光する場所を遮 蔽区とした.住宅街に隣接した公園の街灯の光が夜間に水 田を照射する場所を街灯区とした.そして,住宅街の影の 影響および隣接した公園の街灯の光の影響を受けない場所 を対照区とした. 生育調査を約 1 週間ごとに行い収穫後は収量調査を行っ た.生育期間中の光量子束密度は簡易光量子計(株式会社 ウイジン UIZ-PAR-LR)と電圧ロガー(株式会社ウイジ ン UIZ5041) を 用 い て, 気 温 の 測 定 は 温 度 計(T&D Corporation TR-52i)を用いて測定した.なお,夜間の光量 子束密度については,光量子束密度計(盟和商事株式会社  LI-1000)を用いて測定した.生育調査には各区 15 株の中 で茎数の最も多い 3 株および最も少ない 3 株を除いた 9 株 を用いた.遮蔽区のみ出穂後,1 株が欠損したため 8 株を 用いた.区の設定は二つの条を反復として,それぞれから 株をランダムに選別した.出穂日については,出穂を確認 した株を出穂株として,出穂株が各区 15 株の半数以上の 8 株を超えた日とした.収穫は対照区が刈り取り適期を迎 えた 10 月 12 日に行った.収量調査は生育調査株を用い, 2 週間の風乾後に,1 穂ごとに穂長,穂重,着粒数,精籾数, 精籾千粒重を調べた.本研究では,外観と触診により充実 した稔実籾を精籾とした.なお,街灯区では登熟過程の稔 実籾も外観と触診により精籾として判断したものはデータ に含めた.

結果

光量子束密度の 1 日の変化を,7 月 14 日を例に第 1 図 に示した.光量子束密度は午前 6 時 30 分ごろから午前 11 時ごろまで対照区および街灯区に比べて遮蔽区で低く,そ の後は全区ほぼ同様の値で推移した.夜間の光量子束密度 と照度を第 1 表に示した.夜間の光量子束密度は対照区, 遮 蔽 区, 街 灯 区 そ れ ぞ れ 4.4,1.2,23.9(umol/s/m2/102 ) であった.照度は対照区,遮蔽区ともに 0 lx だったが街灯 区は 20 lx であり,街灯区では一定の光が夜間に継続して 照射されていたことが分かった.第 2 表に 7 月 14 日を例

論 文

(2)

とした 5 分ごとの積算の光量子束密度と生育期間を通した 6 月 25 日から収穫直前である 10 月 7 日までの 5 分ごとの 積算の光量子束密度を示した.生育期間を通した日中の光 量子束密度は遮蔽区では対照区の 78%であった.なお, 気温は各区で大きな差は認められなかった(第 3 表) 生育期間中の 1 株あたりの茎数の推移を第 2 図に示した. 対照区と街灯区は調査を開始した 7 月 2 日から 7 月 20 日 まで急増した.その後,対照区では最高分げつ期である 8 月 12 日までさらに増加し最高茎数は 39.1 本となった.街 灯区の 7 月 20 日以降の茎数はほとんど増加せず,最高分 げつ期は 8 月 1 日で最高茎数は 30.2 本となった.遮蔽区 は調査開始以降,最高分げつ期の 8 月 6 日まで対照区や街 灯区に比べて緩やかに増加し,最高茎数は 22.8 本であった. 最高分げつ期以降の各区の茎数は低下し,収穫直前である 10 月 5 日の茎数は対照区>街灯区>遮蔽区となり,その 値はそれぞれ 33.2 本,23.4 本,17.6 本であった. 出穂日を第 3 図に示した.出穂日は対照区が 8 月 31 日, 遮蔽区が 9 月 2 日,街灯区が 9 月 8 日で,遮蔽区では対照 区に比べて 2 日の遅延が認められ,街灯区では対照区に比 べて 8 日の遅延が認められた. 第 2 表 積算の光量子束密度(5 分毎) ༊ ✚⟬ࡢග㔞Ꮚ᮰ᐦᗘ㸦 ᭶  ᪥㸧 ✚⟬ࡢග㔞Ꮚ᮰ᐦᗘ㸦⏕⫱ᮇ㛫඲య㸧 ᪥୰ࡢ✚⟬ ኪ㛫ࡢ✚⟬ ᪥୰ࡢ✚⟬ ኪ㛫ࡢ✚⟬

㸦XPROVP㸧 㸦XPROVP㸧 㸦XPROVP㸧 㸦XPROVP㸧

ᑐ↷ ™㸦㸧 㸦㸧 ™㸦㸧 㸦㸧 㐽嚙 ™㸦㸧 㸦㸧 ™㸦㸧 㸦㸧 ⾤ⅉ ™ 㸧 㸦㸧 ™㸦㸧 㸦㸧 7 月 14 日は 0 時 00 分∼ 23 時 55 分の値を示し,生育期間全体は 6 月 25 日から 10 月 7 日の値を示す.簡易光量子計の値が対照区で 1.564 umol/ s/m2 以下を示した時間を夜間とし,この値を超過したときを日中とした.日中の積算値は簡易光量子計の値の積算とし,夜間の積算値は第                                                  ග 㔞 Ꮚ᮰ᐦ ᗘ㸦 X PRO V P 㸧 ᑐ↷ 㐽嚙 ⾤ⅉ 第 1 図 光量子束密度の日変化(7 月 14 日) 第 1 表  日没後(夜間)の光量子 束密度および照度 ༊ ኪ㛫ࡢග㔞Ꮚ᮰ᐦᗘ ኪ㛫ࡢ↷ᗘ 㸦XPROVP㸧 㸦O[㸧 ᑐ↷   㐽嚙   ⾤ⅉ   第 3 表  処理による各月の平均気温の 変化 ༊  ᭶  ᭶  ᭶  ᭶  ᭶ 㸦Υ㸧 㸦Υ㸧 㸦Υ㸧 㸦Υ㸧 㸦Υ㸧 ᑐ↷      㐽嚙      ⾤ⅉ      6 月は 25 日∼ 30 日,10 月は 1 日∼ 12 日の平均.           ᭶᪥᭶᪥ ᭶᪥ ᭶᪥᭶᪥᭶᪥ ⱼ ᩘ 协 ᮏ 㸭 ᰴ 卐  ᑐ↷ 㐽嚙 ⾤ⅉ 第 2 図 生育期間中の 1 株あたり茎数の推移     シンボルの縦棒は標準誤差を示す.         ᭶᪥᭶᪥᭶᪥᭶᪥᭶᪥᭶᪥ ฟ ✑ ᰴ ᩘ 协 ᰴ 㸭 ㄪ ᰝ ᰴ 卐 ᬺ᪥㸦᭶㸭᪥㸧          ᑐ↷ 㐽嚙 ⾤ⅉ ฟ✑᪥ 第 3 図 出穂株数の推移

(3)

収量構成要素,収穫指数,有効茎歩合および穂長を第 4 表に示した.1 m2 あたりの穂数は対照区の 550 本に対し て遮蔽区で 285 本,街灯区で 372 本だった.一穂籾数は各 区 90 粒程度で有意差はなかった.1 m2 あたりの精籾数は 対照区で 44906 粒だったのに対して,遮蔽区で 22957 粒, 街灯区で 21239 粒だった.精籾歩合は対照区,街灯区では 80%を超えて,それぞれ 89%,86%であったが街灯区で は 61%と有意に低かった.精籾千粒重は対照区>遮蔽区> 街灯区となり,それぞれ 25.4 g,21.3 g,15.0 g だった.1 m2 あたりの収量は対照区では 1140 g だったのに対して遮蔽 区では 490 g で対照区の 43%となった.街灯区では 321 g となり,対照区の 28%にとどまった.穂重を全体重で割っ た収穫指数は対照区>遮蔽区>街灯区となり,それぞれ 0.6,0.5,0.3 だった.有効茎歩合は対照区のみ 80%を超 え 84%だったが,遮蔽区,街灯区でそれぞれ 75%,74% とほぼ同様の値を示した.穂長は対照区 17.9 cm 遮蔽区 17.3 cm 街灯区 17.9 cm と遮蔽区は他の 2 区に比べて有意 に低かった. 収量への影響の詳細を解析するために各区 1 株を構成す る個々の穂について穂長,着粒数,精籾歩合,精籾千粒重 を調べた(第 4 図,第 5 図,第 6 図,第 7 図).なお,穂 長別の穂の出現割合および着粒数別の穂の出現割合は各区 に大きな違いは認められなかった.精籾歩合別の穂の出現 割合では対照区では精籾歩合が 90 ∼ 95%の穂の出現割合 が高く全穂の 41%だった.遮蔽区では精籾歩合が 85 ∼ 90%の穂の出現割合が高く全穂の 39%だった.街灯区で は精籾歩合が 80 ∼ 85%の穂の出現割合が高く全穂の 15% だったが,低い精籾歩合の穂の出現割合も比較的に高く認 められた.着粒籾を精籾千粒重に換算して区分した第 6 図 では対照区で精籾千粒重が 22.5 ∼ 25 g および 25 ∼ 27.5 g の穂の出現割合が最も高く認められた.遮蔽区では 20 ∼ 22.5 g の精籾千粒重を持つ穂の出現割合が最も高く認めら れた.街灯区では 10 ∼ 12.5 g の精籾千粒重の穂の出現割 合が最も高く認められた.       㹼    㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼  ✑ 㛗 ู ࡢ ✑ ࡢ 㢖 ᗘ 协 㸣 卐 ✑㛗㸦FP㸧 ᑐ↷༊ 㐽嚙༊ ⾤ⅉ༊ 第 4 図 穂長別の穂の出現割合        㹼  㹼    㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼  㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   㹼   ╔ ⢏ ᩘ ู ࡢ ✑ ࡢ ฟ ⌧ ๭ ྜ 协 㸣 卐 ╔⢏ᩘ㸦⢏㸧 ᑐ↷༊ 㐽嚙༊ ⾤ⅉ༊ 第 5 図 着粒数別の穂の出現割合           ⢭ 嚐 Ṍ ྜ ู ࡢ ✑ ࡢ ฟ ⌧ ๭ ྜ 协 㸣 卐 ⢭嚐Ṍྜ㸦㸣㸧 ᑐ↷༊ 㐽嚙༊ ⾤ⅉ༊ 第 6 図 精籾歩合別の穂の出現割合      街灯区の精籾歩合は登熟過程の稔実籾も含む値. 第 4 表 収量構成要素とその他の要素 ༊ ✑ᩘ ୍✑嚐ᩘ ⢭嚐ᩘ ⢭嚐Ṍྜ ⢭嚐༓⢏㔜 ⢭嚐཰㔞 ཰✭ᣦᩘ ᭷ຠⱼṌྜ ✑㛗 㸦ᮏP㸧 㸦⢏✑㸧 㸦⢏P㸧 㸦㸣㸧 㸦J㸧 㸦JP㸧 㸦✑㔜඲య㔜㸧 㸦㸣㸧 㸦FP㸧 ᑐ↷ D QV D D D D㸦㸧 D QV D

㐽嚙 F QV E D E E㸦㸧 E QV E

⾤ⅉ E QV E E F F㸦㸧 F QV D

表中の同一英小文字をつけた値は,実験区間で有意差無し(Tukey 法による 5%水準).ns はすべての実験区間で有意差が無いことを示す. 街灯区の精籾数,精籾歩合,精籾千粒重,精籾収量は登熟過程の稔実籾も含む値.( )の中の数字は対照を 100 としたときの割合を示す.

(4)

       㹼    㹼  㹼   㹼   㹼   㹼    㹼   㹼    㹼   㹼    㹼   㹼    㹼   ⢏ 㔜 ู ࡢ ✑ ࡢ ฟ ⌧ ๭ ྜ 㸣 卐 ⢭嚐༓⢏㔜㸦J㸧 ᑐ↷༊ 㐽嚙༊ ⾤ⅉ༊ 第 7 図 粒重別の穂の出現割合      街灯区の精籾千粒重は登熟過程の稔実籾も含む値.

考察

本試験では遮蔽区,街灯区ともに茎数の増加が抑制され (第 2 図),それに伴い穂数が減少した(第 4 表).日射量 が抑えられた場合に茎数の増加が抑制されるという報告は 多く(清水ら 1962,輪田ら 1970),清水ら(1962)は平均 日射量が 200 cal/cm2 /day 未満で分げつ出現が極めてわずか で,この日射量を分げつ出現の限界日射量としている.ま た,遮光による乾物増加量の低下による稲体構成素材の競 合が分げつ出現を抑制しているという報告がある(松尾ら 1990).これらの報告から,建築物による継続的な遮光を 受けたイネは茎数増加に必要な十分な日射量が得られず, 光合成産物の競合が生じたため茎の出現が抑制されたと考 えられた.一方,街灯区では,昼間に対照区と同じ強度の 光が照射されているため,光合成が要因で茎の増加が抑制 されたとは考えられない.夜間照明による穂数の変動につ いて,金南風では穂数が増加した(時政・末富 1971)と の報告があり,ヒノヒカリでは穂数が減少した(杉山ら 2014)との報告がある.金南風は穂数型の品種であり,ヒ ノヒカリ,にこまるは中間型の品種である.夜間照明によ る穂数の変動には,品種特有の分げつ性が関係することが 考えられる. 出穂日について,実験により遮光区,街灯区ともに出穂 遅延が認められた(第 3 図).中野(2000)は生育初期の 遮光処理によって葉齢の増加率が小さくなり,出穂が遅延 すると報告している.また著者らは同一品種を用いたポッ ト試験において遮光処理によって葉齢の進行が遅くなるこ とを確認している(データ省略).この遅れが出穂遅延に 関与する要因と考える.一方で,夜間照明による出穂遅延 については,品種により遅延の程度が異なること(杉浦・ 井澤 1996,川村 2000)が知られている.今回供試した品 種にこまるは,日長への感受性が高い晩生に分類される品 種であり,出穂遅延の影響は建築物による継続的な遮蔽の 影響よりも街灯による夜間照明で大きかったものと考え た.時政・末富(1971)は,終夜照明による出穂遅延は止 葉始原体分化期から 20 日間の間に最も影響を受けるとし について同様の報告をしている.これらの報告から街灯区 での出穂日の遅延は照明による花芽形成の遅延に起因する と考えられる. 収量ついて,一穂籾数は,全試験区において 90 粒程度 であり(第 4 表),着粒数別の穂の出現割合に処理による 偏在が認められない(第 5 図)ことから,1 穂における籾 数の分化や退化は,建築物による遮蔽や,街灯による夜間 照明の影響を受けないと考えられた.また,対照区に比べ て遮蔽区では精籾歩合に有意差がなかった.1 m2 あたり の収量は対照区に対して遮蔽区が 43%,街灯区が 29%と 著しく低下した.遮蔽区の減収の主な要因は穂数の減少と 精籾千粒重の低下にあり,街灯区の減収の主な要因は穂数 の減少,精籾歩合の低下に加えて精籾千粒重の低下にある ことが明らかとなった(第 4 表).穂数減少の要因につい ては前述した通りである.登熟期の気温と日照時間から玄 米収量の予測が可能であり,その計算式から,気温が一定 の時,日射量の増加に伴って玄米収量は多くなるとされて いる(佐藤ら 1977).そこで,遮蔽区では,建築物による 光の継続的な遮蔽が日射量を制限したために精籾千粒重が 低下したと考えた.精籾千粒重別の穂の出現割合において, 対照区や遮蔽区に比べて街灯区では,その分布がより低い 値に偏在する(第 7 図)ことから,街灯区では登熟途中の 籾が多く存在したと考えられる.これは,出穂遅延による 登熟の遅れが一因と考えられる.また,吉岡ら(2001)は, 夜間照明の時期が出穂に近いほど登熟歩合の低下が大きい ことから,減収は出穂前に蓄積された炭水化物が夜間の照 明によって消耗され,子実への転流量が減少するために生 じると推察している.このことから,夜間照明による炭水 化物の消費が精籾歩合を低下させる要因となった可能性が 考えられた.なお対照区では,茎数,穂数ともに一般的に 認められる値を大きく上回り多収となったが,これは本試 験の栽植密度が慣行の栽植密度よりも疎植であったこと, 試験区の株当たりの植え付け本数を 3 本に揃えたこと,が 茎数と穂数の確保における押し上げ要因になったと考え る. 以上から建築物による継続的な遮蔽および街灯による夜 間照明がイネに及ぼす影響が明らかとなった.特に,収量 低下への影響は大きく,その程度は建築物の光の遮蔽より も街灯による夜間照明のほうが有意に大きいことが明らか となった.そして,これらの光環境下での減収は無視でき ないと考えられるため,今後は施肥量のコントロールによ る穂数の増加や作期の前倒しによる登熟期間の確保など, 都市近郊特有の光環境下での減収を抑制する栽培法を検討 したい.

引用文献

環 境 省 (2006) 光 害 対 策 ガ イ ド ラ イ ン.http://www.env. go.jp/air/life/hikari_g_h18/full.pdf (平成 29 年 1 月 19 日閲

(5)

Effects of an Unusual light Environment in the Suburban Paddy on the Growth

and Yield Components of the Paddy-rice.

Yuma Takeda and Masamichi Ohe

Graduate School of Li f e and Environmental Sciences, Osaka Pref ecture University (1-1 Gakuen-cho, Naka-ku, Sakai 599-8531, Japan)

Summary:The infl uences that the different light environment in the suburban paddy fi eld gave to growth of the paddy rice were studied. In a rice fi eld, the growth and yield components were investigated at the place that received intermittent shading by houses (Shading plot), the place affected by the nightlight with the streetlight (Streetlight plot). The heading delayed for two days in shading plot and eight days in nightlight plot respectively as compared with that of the control. The number of the panicles and 1,000 grain weight were inferior in shading plot, and the yield was 43% of the control plot. The number of the panicles, ripened grain rate and 1,000 grain weight were inferior in the streetlight plot, and the yield was 28% of the control plot. It was suggested that the difference of the light environment by the urbanization gave infl uences on the growth and yield of the rice in a paddy fi eld.

Key Words:Light environment, Paddy, rice, suburban, yield

Journal of Crop Research 62: 25-29 (2017) Correspondence: Masamichi Ohe (ohe_m@plant.osakafu-u.ac.jp) 川村和史 (2000) 水銀灯による夜間照明が水稲の生育,収 量に及ぼす影響.和歌山県農林水産総合技術センター研 究報告 1: 103-109. 松尾孝嶺・角田重三郎・村田吉男・熊澤喜久雄・蓬原雄三・ 星川清親・前田英三・山崎耕宇 (1990) 稲学大成第一巻 形態編,農文協,東京.p192. 中野尚夫 (2000) 生育初期遮光が水稲の生育と収量構成要 素に及ぼす影響.日作紀 69: 182-188. 坂井真・岡本正弘・田村克徳・梶亮太・溝淵律子・平林秀 介・八木忠之・西村実・深浦壮一 (2010) 食味と高温登 熟条件下での玄米品質に優れる多収性水稲品種「にこま る」の育成.九州沖縄農業研究センター報告 54: 43-61. 笹村静夫・皿嶋正雄・仲林寛明・菅原友太・岩澤正美 (1970) 水稲に対する低照度夜間照明の影響 : 第 4 報 (i) 光源の 種類による影響の差異 (ii) 夜間照明の影響と水稲生育 時期の関係 (iii) 夜間の短時間照明の影響.日作紀 39 (別 1) : 141-142. 佐藤庚・松本重男・村田吉男・藤瀬一馬・江幡守衛・栗原 浩・後藤寛治 (1977) 食用作物学,文永堂,東京.p95-97. 清水強・関口貞介・盛田英夫・須崎睦夫 (1962) 主要作物 の収量予測に関する研究 :VIII 水稲の分けつ発生に対す る日射の影響.日作紀 31 (2) : 141-144. 杉浦直樹・井澤敏彦 (1996) 終夜照明が水稲品種の出穂反 応及び生育収量に及ぼす影響.日作東海支部報 122: 5-6. 杉山高世・上田直也・笹岡元信・吉見孝則・土井正彦 (2014) 青色蛍光灯「ブルーソフト」の夜間照明が奈良県の主要 水稲品種 ヒノヒカリ の生育,収量,品質および水田 害虫等の誘引に及ぼす影響.奈良県農業総合センター研 究報告 45: 28-30. 時政文雄・末富正啓 (1971) 水稲の生育および収量に及ぼ す夜間照明の影響.日作紀 40: 241-246. 輪田潔・庄司駒男・大村貞雄・小南力・和田源七 (1970) 遮光処理が水稲の生育・収量に及ぼす影響.日作東北支 部報 12: 27-28. 吉岡秀樹・初山聡・川越博・菊川憲明 (2001) 夜間照明が 早期水稲品種の出穂および収量並びに収量構成要素に及 ぼす影響.日作紀 70: 87-392.

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