• 検索結果がありません。

肺炎を罹患した当院精神科病棟入院患者の死亡転帰に関連する因子の検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "肺炎を罹患した当院精神科病棟入院患者の死亡転帰に関連する因子の検討"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 47 巻第 6 号 593肺炎を罹患した当院精神病棟入院患者の死亡に関連する因子の検討 ∼ 599 頁(2020 年). 593. 短  報. 肺炎を罹患した当院精神科病棟入院患者の 死亡転帰に関連する因子の検討* 神 田 孝 祐 1)# 坪 内 善 仁 2) 福 田 浩 巳 1) 石 橋 雄 介 1)  洪   基 朝 3) 西 田 宗 幹 1). 要旨 【目的】肺炎罹患により,理学療法(Physical Therapy;以下,PT)を実施した当院精神科病棟入院患者 の死亡転帰にかかわる因子を検討すること。【方法】対象は 2015 年 1 月∼ 2018 年 11 月の間に,医療・介 護関連肺炎(Nursing and Healthcare associated Pneumonia:以下,NHCAP)を発症し,PT を実施し た当院精神科病棟入院患者とした。PT 開始から 120 日の観察期間中に,死亡した患者を死亡群,生存し た患者を生存群とし,Cox 比例ハザード分析を用いて,死亡転帰にかかわる因子を検討した。【結果】解 析対象は 81 名,観察期間中の死亡者は 31 名(38.3%)であった。Cox 比例ハザード分析では,年齢と発 症時 Body Mass Index(以下,BMI)が採択された。 【結論】NHCAP を罹患した当院精神科病棟入院患 者の死亡転帰は,年齢と発症時 BMI に影響されることが示唆された。 キーワード 精神科病棟,死亡転帰,医療・介護関連肺炎. その多くは院内発症もしくは身体的な介助を要する高齢. はじめに. 者であることから,NHCAP に分類される。精神科病院.  我が国の急速な高齢化は,精神科領域においても深刻. 入院患者の肺炎発症のリスクファクターとして,年齢が. な問題であり,精神科入院患者の高齢化率は 2011 年に. 高いこと,精神症状が重いこと,栄養状態が悪いことが. 。また,2017 年時点の精神科. 5) 挙げられている 。また,精神障害者における肺炎の死. 病床の平均在院日数は 289.8 日と他科に比べ群を抜いて. 6) 亡率は一般人口に比べ 13 倍と非常に高く ,その死亡. は 45.5% に達している 長い. 1). 2). 。こうした精神科入院患者の高齢化や,入院の長. 転帰に関連する因子として,年齢,BMI,X 線画像にお 7). が報告されている。一方,. 期化は,身体疾患の合併や日常生活活動(Activities of. ける両側肺浸潤影の有無. Daily Living;以下,ADL)の低下などの身体的な問題. 非精神疾患患者を対象とした研究では,年齢や栄養状態,. を生じさせることから. 3). ,今後,PT の需要が高まると. 肺炎の重症度に加え. 8‒10). ,安静臥床期間 11) や ADL 12). が死亡転帰に関連する因子として報告されている。. 予想される。  精神科病院入院患者を対象とした身体合併症調査で.  肺炎の治療としては,おもに抗菌薬の投与や栄養サ. 4). ポート,リハビリテーション(以下,リハビリ)などが. は,肺炎や気管支炎の有病率が高いと報告されており , *. Examination of Factors Related to Death Outcome of Patients Admitted to Psychiatric Ward with Pneumonia 1)秋津鴻池病院リハビリテーション部 (〒 639‒2273 奈良県御所市池之内 1064) Takahiro Kanda, PT, Hiromi Fukuda, PT, Yusuke Ishibashi, PT, MSc, Muneyoshi Nishida, PT: Department of Rehabilitation, Akitsu Kounoike Hospital 2)奈良学園大学保健医療学部リハビリテーション学科 Yoshihito Tsubouchi, OT, MSc: Department of Rehabilitation, Faculty of Health Sciences, Nara Gakuen University 3)秋津鴻池病院精神科 Motoasa Kou, MD: Division of Psychiatry, Akitsu Kounoike Hospital # E-mail: nandakanda_nine@yahoo.co.jp (受付日 2020 年 1 月 30 日/受理日 2020 年 6 月 7 日) [J-STAGE での早期公開日 2020 年 9 月 11 日]. 行われるが,リハビリを実施するにあたっては,予後予 測を行う必要があり,根拠に即した治療目標の設定が求 められる。また,廃用症候群に対するリハビリは,診療 報酬上も「改善の見込み」および「改善に要する期間」 を具体的に報告することが義務づけられているため,一 般人口と比較して死亡率が高いとされる精神障害者の肺 炎について,死亡転帰にかかわる因子を明らかにするこ とは,予後予測の一助になると考える。さらに,安静臥 床期間や ADL と死亡転帰の関連を検討することで,理 学療法士の役割である早期離床や ADL の改善が生命予.

(2) 594. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. 表 1 NHCAP の定義. 14). 1.長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している(精神病床を含む) 2.90 日以内に病院を退院した 3.介護 * を必要とする高齢者,身体障害者 4.通院にて継続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学療法等)を受けている *:介護の基準は,PS3(限られた自分の身の回りのことしかできない,日中の 50% 以上をベッドか椅子で過ごす)以上を目安とする .. 表 2 A-DROP による重症度の評価 15) 使用する指標  A (Age):男性 70 歳以上,女性 75 歳以上  D (Dehydration):BUN(尿素窒素)21 mg/dl 以上,脱水あり  R (Respiration):SpO2 90% 以下  O (Orientation):意識障害あり  P (Brood Pressure):血圧(収縮期)90 mmHg 以下 重症度分類  軽症:上記 5 つの項目のいずれも満足しないもの  中等度症:上記項目の 1 つ,または 2 つ有するもの  重症:上記項目の 3 つを有するもの  超重症:上記項目の 4 つ,または 5 つを有するもの      ただし,ショックがあれば 1 項目のみでも超重症とする. 後向上に寄与できる可能性も示唆される。しかし,精神. 2.理学療法の具体的内容. 疾患患者における肺炎の生命予後について,安静臥床期.  PT プログラムは,全身調整訓練,呼吸・排痰訓練,. 間や ADL の関連を検討した研究は見あたらず,その背. 関節可動域訓練,筋力増強訓練,基本動作訓練を中心に,. 景には精神科的治療を継続しながら肺炎に対する治療お. 患者の状態に合わせて実施した。PT 開始は,対象者の. よび PT が実施できる病院や施設が少ないという現状が. 心身機能の低下に伴い身体機能および ADL 能力の低下. ある. 13). 。. を生じ,身体的要因への介入が必要であると主治医が判.  そこで,本研究では,PT を実施した当院精神科病棟. 断した時点とした。. 入院患者における NHCAP 発症後の死亡転帰にかかわ る因子について,安静臥床期間や ADL 等の情報を加え. 3.調査項目. て検討することとした。.  調査項目は,年齢,性別,精神疾患名,既往歴・併存 疾患,NHCAP 発症直前の精神科処方薬数,抗精神病薬. 対象および方法. の服薬状況,NHCAP 発症時の生活場所,NHCAP 発症. 1.対象. 前の移動形態,NHCAP 発症から PT 開始までの日数,.  当院は精神科病床 423 床(急性期治療病棟,認知症治. 安静臥床期間,PT 終了時の転帰とした。精神疾患は. 療病棟,一般病棟,療養病棟) ,内科病棟 121 床(回復. ICD-10(国際疾病分類)の基準にしたがって精神科医. 期リハビリ病棟,地域包括ケア病棟,療養病棟)で構成. が診断し,抗精神病薬の服薬状況は,定型薬のみ使用,. され,精神科一般病棟および内科病棟では,医師の指示. 非定型薬のみ使用,定型薬と非定型薬の併用,抗精神病. により,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士による個. 薬未使用の 4 つに分類した。安静臥床期間は NHCAP. 別での身体的リハビリを実施している。. 発症から離床開始までの日数とし,離床は主治医に安静.  本研究は 2015 年 1 月∼ 2018 年 11 月の間に,NHCAP. 度を確認したうえで,理学療法士によって行われ,車椅. を発症し,当院精神科病棟入院中に PT を実施した患者. 子移乗や歩行などベッドから離れた状態と定義した。ま. を対象として,カルテを用いた後方視的研究を行った。. た,栄養状態の指標に NHCAP 発症時の BMI,血清ア. 14). 。除外基準は,観察期. ルブミン値(以下,ALB) ,肺炎の重症度判定として C. 間中に転院した者,調査項目のデータが欠損していた者. 反応性蛋白(以下,CRP) ,白血球数(以下,WBC)を. とした。. 調査し,受診時の身体所見および検査所見をもとに. NHCAP の基準は表 1 に示す.

(3) 肺炎を罹患した当院精神病棟入院患者の死亡に関連する因子の検討. 595. 図 1 対象者選定のフローチャート. A-DROP 15)を点数化した(表 2)。本来,A-DROP は市. 5.倫理的配慮. 中肺炎の重症度分類であるが,NHCAP には重症度判別.  本研究は,疫学研究に関する倫理指針における既存資. に関する明確な尺度がないため,本研究では A-DROP. 料等を用いる観察研究であり,研究対象者からイン. を 用 い た。ADL 評 価 は, 機 能 的 自 立 度 評 価 法(Fun-. フォームドコンセントを受けることを必ずしも要しない. ctional Independence Measure:以下,FIM)を用い,. 場合に該当する。このことを踏まえ,本研究はヘルシン. PT 開始時に担当理学療法士が評価した。. キ宣言に則って実施し,得られた情報については対象者.  エンドポイントは PT 開始から 120 日以内の死亡とし,. の個人情報が特定されないよう管理した。なお,医療法. 死亡日を調査した。なお,120 日の観察期間については,. 人鴻池会秋津鴻池病院研究倫理審査委員会の承認(承認. 疾患別リハビリの対象疾患である肺炎後廃用症候群の算. 番号:19-003)を得ている。. 定期日を参考にした。. 結   果. 4.統計解析.  2015 年 1 月∼ 2018 年 11 月の間に,NHCAP を発症し,.  PT 開始から 120 日間の経過観察中に死亡退院した患. 当院精神科病棟入院中に PT を実施したすべての患者. 者を死亡群,生存した患者を生存群に分類し,各変数に. 126 名のうち,観察期間中に転院した 4 名,調査項目の. つき単変量解析を行った。年齢,BMI,精神科処方薬数,. データが欠損していた 41 名を除外した 81 名を分析対象. CRP,WBC,ALB,A-DROP,NHCAP 発症から PT 開. とした。分析対象者 81 名のうち,PT 開始から 120 日. 始までの日数,安静臥床期間,PT 開始時 FIM は,Mann-. 以内に死亡した者は 31 名(38.3%)であった(図 1) 。. Whitney U 検定を,性別,精神疾患分類,既往歴・併.  群間比較の結果,死亡群は生存群と比較して,年齢. 存疾患,抗精神病薬の服薬状況,NHCAP 発症時の生活. (p<0.01)が高く,NHCAP 発症時 BMI(p=0.03)およ. 2 場所および移動形態は,χ 検定,Fisher の正確確立検. び PT 開始時 FIM 運動項目合計点(p=0.01)が低く,. 定を用いた。. 肺炎重症度を表す A-DROP(p=0.02)が重症であった.  次に,死亡転帰に影響する因子の検討を行うため,群. (表 3) 。各群の A-DROP 重症度別の内訳は表 4 に示した。. 間比較にて有意差を認めた項目を独立変数,死亡を従属.  年齢,NHCAP 発症時 BMI,PT 開始時 FIM 運動項. 変数とした Cox 比例ハザード分析(ステップワイズ法). 目合計点,A-DROP の 4 項目を独立変数として,Cox. を行った。この際,多重共線性を考慮するために,独立. 比例ハザード分析を行った結果,死亡転帰に対するハ. 変数間で相関係数の絶対値 0.7 以上となった場合は,臨. ザード比は,年齢が 1.08[p<0.01,95% 信頼区間(以下,. 床的に重要と思われる変数をモデルに残した。. 95%CI)1.03‒1.13] ,NHCAP 発症時の BMI が 0.89[p=0.04,.  統計解析ソフトは,IBM SPSS Statistics version 24.0. 95%CI 0.79‒0.10]であった(表 5)。. を用い,各検定の有意水準は 5% とした。.

(4) 596. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. 表 3 患者の背因子および治療経過の群間比較 生存群 (n=50). 死亡群 (n=31). p値. 77.5 [68‒84.8]. 86.0 [82‒89]. <0.01**. 29 (58.0%). 20 (64.5%). 0.64.  F0 症状を含む器質的精神障害. 29 (58.0%). 25 (80.6%).  F2 統合失調症. 14 (28.0%). 3 (9.6%).  F3 気分・感情障害. 13 (26.0%). 7 (22.6%).  脳血管疾患. 10 (20.0%). 8 (25.8%).  心血管疾患. 9 (18.0%). 4 (12.9%).  悪性腫瘍. 1 (2.0%). 3 (9.7%).  糖尿病. 3 (6.0%). 6 (19.4%).  高血圧症. 3 (6.0%). 2 (6.5%). 精神科処方薬数. 2 [1‒4]. 2 [1‒3]. 項目 年齢(歳) 性別[男性](名) 精神疾患名(名). 0.10. 既往歴・併存疾患(名). 0.40. 0.48. 抗精神病薬の服薬状況(名)  定型薬のみ使用. 1 (2.0%). 1 (3.2%).  非定型薬のみ使用. 22 (44.0%). 7 (22.6%).  定型・非定型薬の併用. 5 (10.0%). 1 (3.2%).  未使用. 22 (44.0%). 22 (70.9%). 0.10. 63.5 [0‒441]. 23.0 [0‒105]. 0.26. 発症から PT 開始までの日数. 9.5 [5‒17]. 6.0 [3.5‒14]. 0.16. 安静臥床期間(日). 12.5 [8‒20]. 13.0 [9.5‒21]. 0.54.  院外. 18 (36.0%). 9 (29.0%).  院内. 32 (64.0%). 22 (71.0%).  歩行可能. 31 (62.0%). 12 (40.0%).  歩行不能. 19 (38.0%). 19 (60.0%). 入院から発症までの月数. NHCAP 発症時の生活場所(名) 0.63. NHCAP 発症前の移動形態(名). ALB(g/dl) BMI(kg/m2) CRP(mg/dl) WBC(102 個 /μ L). 0.07. 3.0 [2.6‒3.4]. 2.8 [2.5‒3.2]. 0.51. 18.7 [16.4‒20.7]. 17.3 [14.3‒19.0]. 0.03*. 10.4 [6.4‒15.5]. 12.3 [8.4‒16.4]. 0.24. 87.5 [71.2‒129.2]. 99 [59.5‒156.0]. 0.97. A-DROP(点). 2 [2‒2]. 2 [2‒3]. 0.02*. FIM 運動合計点. 13 [13‒22.3]. 13 [13‒13.5]. 0.01*. FIM 認知合計点. 11 [7‒17.8]. 9 [5‒13.5]. 0.07. FIM 総合計点. 26 [20‒37.8]. 22 [18‒26.5]. 0.02*. 中央値 [ 四分位範囲 ],n(%),*:p<0.05,**:p<0.01,CCI:Charlson Comorbidity Index, FIM:Functional Independence Mesure,ALB:血清アルブミン値,CRP:C 反応性蛋白, WBC:白血球数. 表 4 A-DROP 重症度の内訳 重症度(名) 軽症. 考   察. 生存群. 死亡群.  本研究では,PT を実施した当院精神科病棟入院患者. (n=50). (n=31). を対象に,NHCAP 発症後の死亡転帰にかかわる因子に. 5 (10.0%). 0 (0%). ついて調査した。生存群と死亡群の比較では,死亡群で. 35 (70.0%). 18 (58.1%). 有意に年齢が高く,NHCAP 発症時の BMI および PT. 重症. 5 (10.0%). 10 (32.2%). 開始時の FIM 運動項目合計点が低く,肺炎が重症であっ. 超重症. 5 (10.0%). 3 (9.7%). た。また,死亡を従属変数とした Cox 比例ハザード分. 中等度症. 析の結果,年齢と NHCAP 発症時の BMI が死亡転帰に.

(5) 肺炎を罹患した当院精神病棟入院患者の死亡に関連する因子の検討. 597. 表 5 Cox 比例ハザード分析 関連因子. ハザード比. 95% 信頼区間 下限. 上限. p値. 年齢. 1.08. 1.03. 1.13. <0.01**. BMI. 0.89. 0.79. 0.10. 0.04*. *:p<0.05,**:p<0.01,BMI:Bady Mass Index. かかわる因子であると考えられた。年齢や栄養状態が肺. 市中肺炎患者を中心として行われており,死亡転帰との. 炎の死亡転帰に関連することは,対象が精神疾患患者,. 関連性が示されている。しかし,本研究では,A-DROP. 非精神疾患患者にかかわらず統一した見解であり,本研. による肺炎の重症度は有意な項目として抽出されず,死. 究もそれらの先行研究を支持する結果であった。以下,. 亡者の 9 割が中等度症・重症に含まれ,分布の偏りがみ. 関連因子ごとに考察する。. られた。A-DROP の予後予測精度は,従来から議論さ.  まず,加齢については,免疫機能や生理機能の低下を. れており,超重症患者のリスクを過少に低く評価してい. きたすことが,肺炎の難治化に至るおもな原因であ. る点を健山らが指摘し,臨床的な意義をもつためには死. る. 16). と考えられている。2011 年の厚生労働省精神・障. 害保健課の調査では,65 歳以上の入院患者は 45.5% を 占め. 1). ,一般人口の高齢化率 28.1%. 17). と比較しても,. 亡者数が重症度に比例するシステム構築が必要であると している. 25). 。さらに,医療ケア関連肺炎(Healthcare-. associated Pneumonia:以下,HCAP)患者のスコアリ. 高い高齢化率であったことが報告されているため,今後. ングに使用した際に,A-DROP の予後予測精度が不十. も精神科病棟における高齢肺炎患者は増加の一途を辿る. 分であったことも報告. ことが予測され,その加齢による退行性変化の影響は,. に偏りが見られる本研究の NHCAP 患者では,A-DROP. より深刻なものになると考える。. の評価に限界があったと思われる。.  次に,栄養状態について,精神科病棟患者 14,591 名.  Momosaki ら. 18). 12). 26). されているため,死亡者の分布. は 3 日以内の早期離床が死亡率の減. では,低体重者の割合が. 少につながることを報告しているが,本研究では,安静. 一般人口と比較して 2.8 倍高かったと報告しており,精. 臥床期間と死亡転帰との関連性を認めず,安静臥床期間. 神科病院に入院している PT 実施者の 40% 以上がサル. の中央値は生存群で 12.5 日,死亡群で 13.0 日に留まっ. の栄養状態を調査した研究. コペニアを認めていたという報告. 19). もある。本研究で. ていた。まずは,早期離床が行える環境を整え,そのう. も対象者の半数以上が BMI 18.5 以下の低体重であり,. えで安静臥床期間と死亡転帰との関係を検討する必要が. 精神科病棟入院患者に対する栄養管理の困難さおよびそ. あると考える。. の重要性が示唆された。.  最後に,本研究の対象は高齢であり NHCAP 発症前.  一方,Cox 比例ハザード分析にて,FIM 運動項目合. からの ADL が低い患者が多かった。一方,岡田ら. 計点および A-DROP は有意な項目として抽出されな. 総合病院精神科病棟での院内肺炎の特徴として,身体科. かった。65 歳以上の高齢市中肺炎患者 99 名を対象とし. の院内肺炎よりも軽症であり,市中肺炎に近いと報告し. 11). 27). は,. では,ADL が肺炎の死亡転帰にかかわる因. ているが,これには年齢が若く,身体面では比較的健康. 子のひとつとして挙げられている。本研究では ADL の. な患者が対象となっていることが背景としてある。精神. 評価として,FIM を用いたが,FIM は,入院時点での. 科入院患者は,精神症状. 運動機能レベルが著しく低い,あるいは逆に良好に保た. 薬の使用と肺炎発症の関連も報告されていることか. れているような症例については,患者側の要因や評価の. ら. 特性に起因する床効果や天井効果が生じるといわれてい. ても罹患のリスクは高く,その多様性を考慮すると本研. た研究. 20). 5). や,向精神病薬・抗精神病. 28)29). ,若年者や,比較的 ADL が高い高齢者におい. 。本研究の対象者の多くは発症前から車椅子生活. 究の結果は一般化できるとは言い難い。しかし,肺炎後. であり,PT 開始時点における運動項目合計点の中央値. の安静治療の結果,ADL の低下をきたし PT が必要と. が両群ともに 13 点と半数以上が全介助の状態であった. なるのは,本研究の対象者のような患者層であるため,. ことが結果に影響した可能性が考えられる。今後は,重. 本研究の結果については理学療法士にとっての有益な情. 度要介護者においても,その能力変化を鋭敏に捉えるこ. 報になると考える。. る. とができる Bedside Mobility Scale. 21). などの指標を用.  また,精神疾患患者への特異的な視点が不足していた. いた検討を行う必要があると考える。. ことは課題として挙げられる。前述したように,精神疾.  肺炎の重症度については,Pneumonia Severity Index. 患患者の肺炎発症には,精神症状の増悪が影響するた. (以下,PSI)や A-DROP. 22‒24). を用いての研究が高齢. め,今後は精神症状についての評価も追加する必要があ.

(6) 598. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. る。さらに,向精神病薬・抗精神病薬の使用は,副作用 として嚥下障害をきたし. 30). ,誤嚥のリスクが増加する. ことも報告されているため,投与量の調査や,嚥下機能 についても考慮した検討を行う必要がある。 結   論  本研究では,NHCAP を合併した当院精神科病棟入院 患者を対象とした調査を行い,死亡転帰に至る患者の特 徴として,年齢が高いことと BMI が低値であることが 明らかになった。ADL,安静臥床期間については,関 連性を見出すことができなかったが,PT 開始時の年齢 と栄養状態を踏まえておくことは,生命予後を考慮した リハビリテーション目標の設定に寄与できると考える。 利益相反  本研究に関連して,開示すべき利益相反はない。 文  献 1)公益社団法人日本精神保健福祉協会:高齢入院障害者の地 域移行支援に関する現状と課題(第 2 版) .公益社団法人 日本精神保健福祉協会,東京,2016,pp. 1‒2. 2)厚生労働省:平成 28 年(2016)医療施設(動態)調査・ 病院報告の概況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1. html(2019 年 8 月引用) 3)渡辺俊之:心理・精神領域の理学療法の現状と課題.PT ジャーナル.2013; 47: 97‒102. 4)金原佑樹,山田秀則,他:精神科病院入院中に身体合併症 で救命救急センターに救急搬送された患者の特徴.日臨救 急医会誌.2014; 17: 675‒679. 5)菊池 章:精神科入院患者における肺炎のリスクファク ター.精神医学.2010; 52: 1013‒1020. 6)都築 等,湯浅修一:精神科在院者の死亡に関する疫学的 研究.精神誌.1981; 5: 275‒304. 7)Haga T, Ito K, et al.: Risk Factors for Death from Psychiatric Hospital-acquired Pneumonia. Internalmedicine. 2018; 57: 2473‒2478. 8)近藤 晃:細菌性肺炎の入院患者における死因の検討─文 献的考察も含めて─.感染症誌.2007; 81: 268‒275. 9)坂本直治:高齢者市中肺炎の死亡例に関する検討.日老医 学誌.2010; 47: 47‒51. 10)坂口紅美子:高齢な誤嚥性肺炎患者の生命予後に関連する 因子.日摂食嚥下リハ会誌.2018; 22: 136‒144. 11)Torres OH, Monoz J, et al.: Outcome predictors of pneumonia in elderly patients: importance of functional assessment. J Am Geriatr soc. 2004; 52: 1768‒1770. 12)Momosaki R: Effect of Early Rehabilitation by Physical Therapists on In-hospital Mortality After Aspiration Pneumonia in the Elderly. Arch Phys Med Rehabil. 2015; 96: 205‒209.. 13)仙波浩幸,青木菜摘,他:理学療法士実態調査─ 2010 年 1 月実施─.理学療法学.2010; 37: 188‒217. 14)日本呼吸器学会医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイ ドライン作成委員会:医療・介護関連肺炎診療ガイドライ ン(第 1 版).社団法人日本呼吸器学会,東京,2012,pp. 5‒7. 15)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン 2017 作成委員 会:成人肺炎診療ガイドライン 2017(第 1 版) .一般社団 法人日本呼吸器学会,東京,2017,pp. 12‒13. 16)本田一陽,桜井 誠,他:高齢者肺炎の重症化・難治化に 関わる臨床要因.IRYO.2002; 56: 200‒204. 17)内閣府:平成 30 年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の 実施状況.https://www8.cao.go.jp(2019 年 9 月引用) 18)稲村雪子,寒河江豊昭,他:わが国の精神病院における統 合失調症入院患者の肥満と低体重に関する調査.精神誌. 2013; 115: 10‒21. 19)岩村真樹,大塩祐子,他:理学療法が施行された精神科病 棟入院患者におけるサルコペニア・低栄養発生状況の調査 ─日常生活動作能力との関連に着目して─.理学療法科 学.2018; 33: 873‒878. 20)寺井 敏:脳卒中患者に対する回復期リハビリテーション 診療の現状分析─高齢者へのサブ解析を含めた 1 施設での 検討─.日老医誌.2018; 55: 259‒267. 21)牧 迫 飛 雄 馬, 阿 部  勉, 他: 要 介 護 者 の 為 の Bedside Mobility Scale の開発─信頼性および妥当性の検討─.理 学療法学.2008; 35: 81‒88. 22)Sanz F, Morales-Su rez-Varela M, et al.: A Composite of Functional Status and Pneumonia Severity Index Improves the Prediction of Pneumonia Mortality in Older Patients. J Gen Intern Med. 2017; 33: 437‒444. 23)本村和嗣,真崎宏則,他:2000-2002 年における市中肺炎 の起炎菌と重症度判別症例解析.日呼吸会誌.2004; 42: 68‒72. 24)高柳 昇,原健一郎,他:市中肺炎入院症例の年齢別・重 症度別原因微生物と予後.日呼吸会誌.2006; 44: 906‒915. 25)健山正男,新里 敬,他:ADROP に基礎疾患と呼吸数を 追加したシステムの 30 日死亡予測の検討.日呼吸会誌. 2011; 49: 343‒348. 26)Falcone M, Corrao S, et al.: Performance of PSI, CURB-65, and SCAP scores in predicting the outcome of patients with community-acquired and healthcare-associated pueumonia. Intern Emerg Med. 2011; 6: 431‒436. 27)岡田剛士,塩田勝利,他:総合病院精神科入院患者におけ る院内肺炎の検討─特徴と重症因子についての予備的研 究─.精神経誌.2016; 118: 570‒583. 28)Hung CL, Liu HC, et al.: Antipsychotic Reexposure and Recurrent Pneumonia in Schizophrenia: A Nested CaseControl Study. J Clin Psychiatry. 2016; 77: 60‒66. 29)Yang SY, Liao YT, et al.: Antipsychotic drugs, mood stabilizers and risk of pneumonia in bipolar disorder: A nationwide base-control study. J Clin Psychiatry. 2013; 74: 79‒86. 30)Nagamine T, Nakayama H: Serum substance P concentration in pneumonia patients with chronic schizophrenia. Int Med Journal. 2009; 16: 181‒182..

(7) 肺炎を罹患した当院精神病棟入院患者の死亡に関連する因子の検討. 〈Abstract〉. Examination of Factors Related to Death Outcome of Patients Admitted to Psychiatric Ward with Pneumonia. Takahiro KANDA, PT, Hiromi FUKUDA, PT, Yusuke ISHIBASHI, PT, MSc, Muneyoshi NISHIDA, PT Department of Rehabilitation, Akitsu Kounoike Hospital Yoshihito TSUBOUCHI, OT, MSc Department of Rehabilitation, Faculty of Health Sciences, Nara Gakuen University Motoasa KOU, MD Division of Psychiatry, Akitsu Kounoike Hospital. Objective: This study aimed to elucidate the factors associated with the outcome of death in patients who received physical therapy (PT) due to pneumonia in our hospital ward. Method: This study included subjects who were admitted to our psychiatric ward, had nursing and healthcare-associated pneumonia (NHCAP), and underwent physical therapy between January 2015 and November 2018. The subjects were divided into two groups (survival group and death group) based on the outcome at 120 days from PT initiation. Cox proportional hazards analysis was used to examine the factors related to the outcome of death. Result: The analysis included 81 people, of which 31 (38.3%) died within 120 days of PT initiation. Cox proportional hazards analysis revealed that age and onset body mass index (BMI) were significantly associated with the outcome of death. Conclusion: The results suggested that the outcome of death in patients admitted to the psychiatric ward with NHCAP was influenced by age and onset BMI. Key Words: Psychiatric ward, Death outcome, Nursing and Healthcare associated Pneumonia. 599.

(8)

図 1 対象者選定のフローチャート

参照

関連したドキュメント

2)医用画像診断及び臨床事例担当 松井 修 大学院医学系研究科教授 利波 紀久 大学院医学系研究科教授 分校 久志 医学部附属病院助教授 小島 一彦 医学部教授.

 神経内科の臨床医として10年以上あちこちの病院を まわり,次もどこか関連病院に赴任することになるだろ

金沢大学は,去る3月23日に宝町地区の再開 発を象徴する附属病院病棟新営工事の起工式

(2)特定死因を除去した場合の平均余命の延び

全国の緩和ケア病棟は200施設4000床に届こうとしており, がん診療連携拠点病院をはじめ多くの病院での

 ところで、 2016年の相模原市障害者殺傷事件をきっかけに、 政府

[r]

病院と紛らわしい名称 <例> ○○病院分院 ○○中央外科 ○○総合内科 優位性、優秀性を示す名称 <例>