1
.よい姿勢とは
よい姿勢を維持するには,「力学的」には姿勢の安定性 と力の効率など,「形態学的」には脊柱,四肢の骨格, 筋・筋膜・腱・支帯や関節の構造など,「神経学的」には 筋紡錘,ゴルジ腱器官などの感覚器の正常応答,神経筋 の活動など,「運動生理学的」には疲労,循環やエネルギー 代謝など,「心理学的」には性格や心理的状態などが影響 する. これらが正常に機能し合えば,身体各部は正常なアラ インメントを維持することが可能となる.しかしながら, これらのいずれかに問題が生じると,異常な持続的姿勢 保持や特定の運動方向への関節運動の反復が生じ,構成 要素の機能障害とその相互作用によって,不良姿勢や運 動機能障害が進行することになる.たとえば,椅子座位 時の胸椎後弯・前方頭位姿勢は,支持基底の中央に重心 線が近づくため,本人にとっては安定した楽な姿勢と思 いがちだが,これは決してよい姿勢とはいえず,本人が 楽だと思っている姿勢を習慣化しないことが大切とな る.2
.立位における正常アラインメント
立位における重心は,成人の男性では足底から身長の 約 56%,女性では約 55∼56%の高さにあり,第 2 仙椎 前方に位置する. 矢状面の正常な立位姿勢における重心線は,耳垂−肩 峰−仙骨岬角−股関節中心やや後方−膝蓋骨後面−踵立方 関節(外果前方 2∼3 cm)を通る(Fig. 1).頚椎前弯は 約 30∼35 度,胸椎後弯は約 40 度,腰椎前弯は約 45 度, 仙骨底は第 5 腰椎に対して約 40 度前下方に傾斜してい る1). 矢状面の各部のアラインメントは,肩甲骨は前額面か ら前方に約 35 度傾斜し2),上腕骨頭は骨頭が肩峰内に位 置して上腕骨近位と遠位がともに同じ垂直面上に位置す る.骨盤は,上前腸骨棘と恥骨結合が同一垂直面上にあ る3,4).股関節は屈伸 0 度で腸骨稜頂点と大転子を結ぶ線 が大腿長軸と一致し,膝関節は屈曲や過伸展がない中間 位で,脛骨長軸は垂直である.足関節の長軸アーチと足 指は中間位にある4).なお,椅子座位姿勢では,立位に 比べて骨盤が後傾位になるため,腰椎前弯が減少する. そのため立位姿勢と比較して椎間関節にかかる圧力が減 少する一方で,椎間板にかかる圧力は増加する. 前額面の正常な立位姿勢における重心線は,外後頭隆 起−棘突起−殿裂−両膝関節内側中央−両内果間中央を通 る. 前額面の各部のアラインメントは,頚・胸・腰椎が垂 直.胸骨下角は 70∼90 度4).肩甲骨は第 2∼7 肋骨に位 首都大学東京健康福祉学部理学療法学科/〒116−8551 荒川区東尾久 7−2−10〔連絡先:竹井 仁〕Address reprint requests to:Hitoshi Takei, PT, Ph.D., School of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Tokyo Metropolitan University of Health Sciences, 7−2−10 Higashiogu, Arakawa−ku, Tokyo 116−8551, Japan
姿勢の評価と治療アプローチ
Evaluation and Treatment for Posture
竹
井
仁
首都大学東京健康福祉学部理学療法学科 Key words: posture alignment muscle imbalance mechanical stress fascia Spinal Surgery 27(2)119−124,2013Reviews and Opinions
認定医−指導医のためのレビュー・オピニオン
30∼35度 40度 40度 45度 Fig. 1 矢状面の正常な立位姿勢置し,胸郭上で平坦に位置する.肩甲棘から下角までの 肩甲骨内側縁は左右平行で,各内側縁と胸椎棘突起の距 離は成人男性において約 7 cm である.両肩峰は第 1 胸 椎棘突起下縁を通る水平線のわずかに下を通る4).上腕 骨上面は肩峰よりわずかに外側に位置し,肩関節は内外 旋中間位で,両上腕骨は胸郭に平行である.肘関節では, 手掌を体側に向けると,肘頭が後方に向く.骨盤は左右 の腸骨稜が水平で,膝関節には約 5 度の生理的外反があ る.
3
.立位におけるアラインメント異常
アラインメントの評価は,重心線の通る位置のチェッ クだけでは不十分であり,前述した身体各部位のパーツ の並びにも着目することが重要となる.その際に,構造 的脚長差や関節変形などがない場合には,筋節の長さ− 張力関係による筋のインバランスの有無に着目する必要 がある. 生理的な筋長よりも延長している筋は,筋張力が低下 する5∼7)(Fig. 2).筋節の長さ−筋張力関係から考えれば, 理想的な筋長より短縮している筋と,理想的な筋長より も延長して筋力が発揮しづらくなっている筋のインバラ ンスを評価する必要がある.短縮筋の拮抗筋は,生理的 な筋長が延長し,関節可動域の全域においてその筋力低 下が認められる.また,動筋−拮抗筋関係だけでなく, 共同筋群間においても筋長のインバランスが生じる.効 率的な筋運動パターンに変性が起こると,共同筋の中に ある 1 つの筋がその他と比較して優位となることがあ り,その 2 つの共同筋の長さの違いが代償運動を生む要 因となり,運動機能障害を引き起こすことにもつながる. 矢状面における代表的な異常姿勢には,kyphosis−lor-dosis posture(後弯前弯型),sway−back posture(後弯平 坦型),flat−back posture(平背型)がある(Fig. 3).ほ かに,腰椎のみが前弯している lordosis posture(前弯型) もある. 前額面における代表的な異常姿勢を Fig. 4 に示す3). 腸骨稜の高さの違いが,閉脚ではその差が広がり,開脚 でその差が少なくなるとき,筋のインバランスを考慮す る.この姿勢は右利きに多いパターンでもある.骨盤低 位側では,股関節内転筋力が低下し,外転筋群は硬くな る.立脚期とけり出し時に膝関節過伸展を生じ,膝蓋骨 軟化症のリスクが生じる.また,大腿骨頭の上外側面の Fig. 2 筋節の長さ−張力曲線5) 6 5 4 3 2 2.05μm 2.20∼2.25μm 0.15∼0.20μm 1.85∼1.90μm 1.65μm 1.05μm 0.05μm 1.0μm 1.6μm 1.0μm 3.65μm 1 (%) 3.65 2.25 2.0 1.67 1.27 E 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 6 5 4 3 2 1 筋節の長さ(μm) 100 80 60 40 20 0 張 力 Fig. 4 前額面の異常姿勢例3) 後弯 前弯 後弯 平坦 平背 Fig. 3 後弯前弯型・後弯平坦型・平背型退行性変化や,膝関節外側面の退行性変化のリスクが生 じる.一方,骨盤高位側では,股関節外転筋力が低下し, 内転筋群は硬くなる.関節面では大腿骨頭を覆う範囲を 減少させ,大腿骨頭の内側あるいは中央面の退行性変化 のリスクが生じる.また,大転子が外側に突出すること による腸脛靭帯炎や,梨状筋がその硬さによって坐骨と の間でインピンジメントを生じさせるリスク,膝内側関 節面の退行性変化のリスク,足関節内反捻挫のリスクな どが生じる. これらの異常姿勢におけるアラインメントと筋のイン バランスの特徴を Table 1 に示す.これらに対する理学 療法としては,短縮筋のストレッチングだけに着目する のではなく,延長筋に対するエクササイズも同時に行う ことが重要となる.また,個別のストレッチング,エク ササイズに加えて,立位姿勢矯正運動(Fig. 5)や歩行 指導も重要となる.
4
.機械的ストレス
脊椎椎間円板は,膠原線維と線維軟骨からなる外層の 線維輪と,中央のゼリー状の髄核からなる.線維輪の膠 原線維の走行は層ごとに交互パターンをなし(Fig. 6), 剪断力や捻力の方向に対応する膠原線維のみが緊張し, ほかの線維は弛緩する1). 脊柱は,屈曲(前屈)・伸展(後屈)・側屈・回旋の動 きを生じる(Fig. 7).屈伸運動はおもに頚椎と腰椎とで 行われる.伸展運動は下部頚椎,第 11 胸椎と第 2 腰椎, および下部腰椎で大きく,過度の負荷による脊柱の損傷 や傷害を生じやすい.側屈は頚椎・胸椎・腰椎でほぼ同 程度であるが,回旋は頚椎と胸椎が大きく,頚椎全体で は,ほぼ半分を環軸関節の回旋が占める.また,髄核は, 脊柱の屈伸や側屈に伴って椎間板内部で変形する(Fig. 7).腰椎の屈曲やねじれは,椎間板膨隆のリスクを高め, 髄核の断裂やすべりを生じて椎間板ヘルニアとなりう る8). なお,側屈時には回旋を伴うが,これらの脊柱に生じ る複合運動を,脊柱の連結運動(coupled movement)9)と 呼ぶ(Table 2).連結運動は最も容易に起こり,運動の 可動域が大きく最終域感(end feel)も柔らかく,動作に おいては自動的である10).脊柱が屈曲しているか伸展し ているかによって,側屈と回旋の複合運動が変化する. 中間位での胸椎と腰椎それぞれの連結運動を Fig. 8 に 示す.これらの逆の動きは非連結運動(noncoupled move-ment)といい,可動性が制限されて最終域感がより固く なり,椎間円板に加わる負荷も増大する. 姿勢の変化により腰椎椎間円板にかかる負荷は,正常 な立位姿勢に比べると,体幹を前屈するほど下部腰椎に 加わる負荷が増大する.これは,前方へ加わる体幹重量 を,腰部脊柱起立筋で保持する負荷が増え,両者による 荷重が椎間板に加わるためである.体重 70∼80 kg の人 の第 3/4 腰椎椎間板内圧の変化は,立位を 100%とする と,背臥位で 25%,立位体幹前傾位で 150%椅子座位体 幹前傾位で 185%,背臥位からの膝屈曲位からの起き上 がりで 210%と体位によって変化する11).これは胸椎に おいても同様で,胸椎後弯が増大して胸椎屈曲トルクが Table 1 矢状面の異常姿勢のアラインメントと筋のインバランス 延長あるいは弱化筋 短縮あるいは優勢筋 アラインメント 異常姿勢 頚部屈筋群,上部脊柱起立筋群,外 腹斜筋,ハムストリングス(弱化は 軽度),僧帽筋中・下部線維,菱形筋, 翼状肩甲なら前鋸筋 頚部伸筋群,腰部脊柱起立筋群,腸腰筋, 大腿筋膜張筋,大腿直筋,前鋸筋,大・ 小胸筋,僧帽筋上部線維,肩甲挙筋 頭部前方位,頚椎過伸展,肩甲骨外転, 胸椎後弯と腰椎前弯の増強,骨盤前傾, 股関節屈曲,膝関節軽度伸展,足関節 わずかに底屈 後弯前弯型 前腹部筋群,ハムストリングスは延 長あるいは姿勢の代償で短縮 腰部脊柱起立筋群,股関節屈筋群 骨盤前傾,腰椎前弯増強,膝軽度伸展, 足関節軽度底屈 前弯型 股関節屈筋群(一関節筋),外腹斜筋, 上背部筋群,頚部屈筋群,一側下肢 が前方にあればその側の中殿筋後部 ハムストリングス,内腹斜筋上部線維, 腰部筋群は優勢だが短縮はない 頭部前方位,頚椎軽度伸展,上部体幹 の後方変位を伴う長い胸椎後弯,腰椎 平坦,骨盤中間位∼後傾,骨盤前方変 位を伴う股関節過伸展,膝関節過伸展, 足関節中間位(膝過伸展で底屈しそう だが骨盤と大腿が前方変位しているの で中間位) 後弯平坦型 股関節屈筋群(一関節筋) ハムストリングス,腰部が延長位(弱化 はない)なのでしばしば腹筋群が優勢 頭部前方位,頚椎軽度伸展,胸椎上部 屈曲,下部平坦,腰椎平坦,骨盤中間 位∼後傾,股関節伸展,膝関節軽度伸 展,足関節軽度底屈 平背型 左外側体幹筋,右股関節外転筋,左 股関節内転筋,右腓骨筋,左後脛骨 筋,左長母趾屈筋,左長趾屈筋 右外側体幹筋,左股関節外転筋,右股関 節内転筋,左腓骨筋,右後脛骨筋,右長 母趾屈筋,右長趾屈筋,左腸脛靭帯 右肩下制,胸腰椎左凸,右骨盤挙上, 右股関節内転・内旋位,左股関節外転 位 右骨盤挙上位増加するほど,胸部脊柱起立筋で保持する負荷が増え, 中部胸椎に加わる負荷は増大する. 筋のインバランスを修正して姿勢の矯正を行うにあた り,個別のストレッチングやエクササイズを行う際には, 機械的ストレスに注意する必要がある.たとえば,腰椎 の屈曲時には,1神経組織圧迫方向への髄核の後方移動, 2椎間孔の拡大,3椎間関節から椎間板への負担,4後 方結合組織(黄色・棘間・棘上・後縦靭帯,椎間関節関 節包)と線維輪後縁の張力増大,5線維輪前方部の圧迫 が生じる1).一方で,腰椎の伸展時には,1神経組織か ら離れる方向への髄核の前方移動,2椎間孔の径の縮小, 3椎間板から椎間関節への負担,4後方結合組織と線維 輪後縁の張力減少,5線維輪前方部の伸張が生じる1). よって,椎間板ヘルニアを有する場合には,腹筋群の 強化のための背臥位からの腰椎屈曲による起き上がり運 動は,髄核の後方移動を防止できないため実施すべきで はない.一方で,脊柱管狭窄症では,椎間孔径が縮小す る腰椎伸展運動は実施すべきでない. なお,腹臥位からの体幹伸展に関する MRI 解析では, 握り拳を上下に重ねてそのうえにあごを乗せた体幹伸展 位では T12/L1∼L3/4 までがおもに伸展し,前腕支持に よる puppy position ではその伸展が L4/5 まで及ぶこと も明らかになっており12),障害分節に応じて伸展運動を 使い分ける必要もある.
5
.筋膜の影響
筋のインバランスに加え,静止張力下における筋膜配 列に伴うインバランスや,筋の硬さが慢性化した場合の 筋膜の高密度化も考慮するならば,筋膜に焦点を絞った アプローチも不可欠となる. 筋膜とは,筋膜区画で筋を囲み,筋間中隔でそれらを 分離し,関節を越えて連続する筋膜配列でそれらを連結 して,支帯によってそれらを同期させる線維性結合組織 膜である.筋膜は,浅筋膜・深筋膜・筋外膜・筋周膜・ Fig. 6 椎間円板の髄核を除いた線維輪 大殿筋 腹筋群 腰部 脊柱起立筋 外腹斜筋 腸腰筋a
b
Fig. 5 前弯後弯型の立位姿勢矯正(a)と後弯平坦型の立位 姿勢矯正(b) Fig. 7 腰椎椎間関節の動き a.中間位 b.屈曲 c.伸展 d.側屈 e.回旋筋内膜からなる13,14).これらの筋膜は,基質の中に波状 コラーゲン線維とわずかなエラスチン線維とが存在す る.ただし,筋内膜だけはコラーゲン線維のみである. また,広義の膜組織としては,高密度平面組織シート (中隔・関節包・腱膜・臓器包・支帯)や靭帯・腱も含 む.筋膜組織は,局所的な緊張の要求によってその線維 配列と密度を適応させる 1 つの相互接続した緊張した ネットワークといえる. 生体においては,すべての筋組織は互いの上を自由に すべることが可能である14,15).筋組織内の筋線維は,す べてが同時に収縮するのではなく,逐次連結しながら収 縮する.この筋線維の連続した動きは,すべる構成要素 が妨げられていないときにのみ可能となる.この滑走を 許す緩衝剤として,筋膜が機能する14).深筋膜層の間, 深筋膜と筋外膜の間,筋内膜の至る所に存在するヒアル ロン酸がこの滑走に寄与する.術後の検体に関する研究 では,筋外膜が完全であれば,筋膜と筋の間のインター フェース構造はヒアルロン酸内張りの保持を含めて保存 されていたが,筋外膜が破壊されているとインター フェース構造は消し去られていたと報告されており15), 手術の際の筋外膜への侵襲が術後の筋の機能に与える影 響は大きい.また,過用などでヒアルロン酸が凝集する と,筋膜の粘弾性が増大し,筋膜の高密度化の原因にも なる16,17). 姿勢の調節には,筋膜の張力の影響も重要であり,静 的姿勢は筋膜配列による筋膜の基底張力によって保持さ れている.筋膜配列とは,筋膜によって結びつけられ, 一方向性の筋連鎖の間の要素を結合させるために,二関 節筋線維によって張力がかけられる一方向性の筋膜単位 の連鎖である.筋膜配列の縦走線維は,姿勢の体系に関 与している14). 通常,静的立位姿勢では意識的な姿勢制御は要求され ず,筋膜の張力が立位での身体の保持に役立つ.姿勢の アラインメント不良で動揺が増加し,立位の基底面の周 辺に重心が偏位すると,筋膜の張力が筋膜単位の筋紡錘 の刺激を引き起こし,適切な筋収縮が引き起こされる14). 不良姿勢や異常運動パターンによって,協調中心(1 つの面の 1 つの方向で分節を動かす筋力のベクトルが 収束する深筋膜上の明確な点で,トリガーポイントとも 共通する点)が高密度化(基質のゲル化と筋膜内コラー ゲン線維の配列の変異)をきたして疼痛を生じると,静 的姿勢あるいは動的活動(運動行為)において,疼痛を 回避するために姿勢の代償が生じることになる. 筋膜の基底張力が高密度化の形成によって変性する と,神経受容体がこの異常な伸張に反応し,疼痛信号に よって潜在的危険を知らせる.身体は,姿勢代償によっ てこの疼痛信号を中和するようになる.所定の筋膜単位 の張力のあらゆる変調は,この基底張力を保つ方法とし て,同じ配列に沿ってほかの筋膜単位で反張力を引き起 こす.たとえば,大腿筋膜張筋がその牽引力を増加させ た場合,同じ配列の遠位の筋膜単位(長趾伸筋)で反対 方向の牽引力が誘導される.そのような張力の調整は, 多くの場合で急性痛を生じさせる.なぜなら,筋膜のこ の分節の自由神経終末が,過剰および異常な牽引を受け るからである.そして,身体は平衡を再構築する手段と して対側の代償を生じる.つまり,薄筋によって膝関節 において反張力を生じ,外側の股関節と足関節の筋膜ス パズムに対抗しようとするのである14). よって,筋のインバランスだけでなく,筋膜の視点か
Table 2 脊柱の連結運動(coupled movement) 1.後頭骨/C1/C2(上部頚椎) 屈曲位でも伸展位でも側屈は反対方向の回旋を伴う(これは翼状靭帯の牽引による) 2.中部・下部頚椎 屈曲位でも伸展位でも側屈と回旋はいつも同方向に起こる 3.胸椎 中間位(生理的弯曲位)と屈曲位では側屈と回旋は同方向に起こる 伸展位では側屈と回旋は反対方向に起こる 4.腰椎 中間位(生理的弯曲位)と伸展位では側屈と回旋は反対方向に起こる 屈曲位では側屈と回旋は同方向に起こる Fig. 8 胸椎(左)と腰椎(右)の中間位での連結運動
らも姿勢を評価する必要がある.また,本人が訴える痛 みを伴う運動と既往歴を踏まえて,前額面,矢状面,水 平面それぞれの面で運動を検証し,筋膜の異常をきたし た協調中心を触診検証し,筋膜の関与も評価しなくては ならない. 治療としては,痛みの起源の協調中心に対して行う. 治療には筋膜リリース(myofascial release)18)や筋膜マニ ピュレーション(fascial manipulation)14)を実施する.こ れらは,基質に正常の流動性を回復し,筋膜の順応性を 活用することによってコラーゲン線維の間の癒着を除去 することを目的とした徒手療法である.特に筋膜マニ ピュレーションは,高密度化を生じた協調中心上に深い 圧を加え,施術中の持続的な摩擦熱によって,組織粘稠 性に修正を加える手技である.治療の 5 日後には,局所 痛は減少し,筋膜の張力バランスが整い症状と腫脹が改 善する.次の 20 日で,最初のⅢ型コラーゲンは牽引の ラインの方向にゆっくりと配置していき,より安定した Ⅰ型コラーゲンに置き換えられることになる14).この治 療に加えて,筋のインバランスに対する運動療法を実施 するとさらに効果的である. 以上,筋・筋膜を中心に姿勢の評価と治療アプローチ に関して概説した.理学療法士がどのような視点で姿勢 を評価して理学療法を実施しているかの参考にしていた だければ幸いである. 文 献
1) Neumann DA:Kinesiology of the Musculoskeletal System: Foundations for Physical Rehabilitation St. Louis, Mosby, 2002, pp251−310
2) 竹井 仁,根岸 徹,後藤保正,他:MRI による肩関節屈曲
運動の解析.日保学誌 14:13−23,2011
3) Kendal FP, McCreary EK, Provance PG:Muscles Testing and Function. 4th ed, Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 1993, pp69−118
4) Sahrmann S:Diagnosis and Treatment of Movement Impair-ment Syndromes. St. Louis, Mosby, 2002, pp263−366
5) 竹井 仁:触診機能解剖カラーアトラス 下巻.東京,文光堂, 2008,pp315−316
6) Gordon AM, Huxley AF, Julian FJ:The variation in isometric tension with sarcomere length in vertebrate muscle fibres. J
Physiol 184:170−192, 1966
7) 竹井 仁:筋.富 雅男,砂川 勇監,林 寛,他(編): 整形徒手理学療法.東京,医歯薬出版,2011,pp41−59 8) 竹井 仁:体幹の骨・関節の解剖学的理解のポイント.理学
療法 23:1343−1350,2006
9) Kaltenborn FM:The Spine. 2nd ed, Oslo, Olaf Norlis Bokhan-del, 1993, pp1−87
10) 竹井 仁:モビライゼーション.柳澤 健(編):運動療法学. 改訂第 2 版,東京,金原出版,2006,pp351−379
11) Alf L. Nachemson:The lumbar spine an orthopaedic challenge. Spine 1:59−71, 1976 12) 畠 昌史,竹井 仁,妹尾淳史,他:腹臥位からの体幹伸展 位における脊椎可動域の MRI 解析.理学療法学(大会特別 号) 38:OI2−001,2011 13) 竹井 仁:触診機能解剖カラーアトラス 上巻.東京,文光堂, 2008,pp268−271
14) Stecco L:Fascial Manipulation for Musculoskeletal Pain. Pado-va, Piccin, 2004, pp12−20, 41−49, 88, 111−121
15) McCombe D, Brown T, Slavin J, et al:The histochemical structure of the deep fascia and its structural response to surgery. J Hand Surg 26:89−97, 2001
16) Stern R, Asari AA, Sugahara KN:Hyaluronan fragments:an information−rich system. Eur J Cell Biol 85:699−715, 2006 17) Stecco C, Stern R, Porzionato A, et al:Hyaluronan within
fas-cia in the etiology of myofasfas-cial pain. Surg Radiol Anat 33: 891−896, 2011
18) 竹井 仁:筋膜リリース.奈良 勲,黒澤和生,竹井 仁 (編):系統別・治療手技の展開.第 2 版,東京,協同医書出