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組織における集合財提供メカニズム : 集合財としての経営資源-香川大学学術情報リポジトリ

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一II7−

組織における集合財提供メカニズム:

   集合財としての経営資源

       犬 飼 知 徳

1 はじめに  本稿の目的は,組織が経営貢源を持続的に提供しつづけるメカニズムを解明 することにある。  経営貢源の提供に関しては,経営資源に基づく企業観(以下,RBV: Resource

Based view と賂)の鎖域で研究が蓄積されている(例えば,Wernerfelt,1984, Bameyス986)。しかしながら,RBVでは経営貴源の蓄積と経営資源の持続的 な提供を明確に区別して議論してはいない。蓄積も持続的な提供もわずかな違 いに過ぎないから同一視され無視されてきたと考えられるけれど仏蓄積と持 続的な提供は議論の焦点が大きく異なる。蓄積はその語義から「減少しない, もしくは減少しにくい」ことを含意している。しかしながら,経営貢源は,組 織成員たちによって持続的な提倶努力が行われなければ,滅少や,劣化,陳腐 化の厄険に常にさらされている。その経営資源の「持続的な提供努力」は組織 の様々な要因によって影響を受ける。本稿では,組織要因が組織成員による経 営貢源の持続的な提供努力に影響を及ぼすことに注目するのである。  組織要因と組織成員による経営資源の持続的な提供努力とを結びつける概念 として,本稿では「巣合財」という概念を導入するも)集合財とは,ある集団や 組織内においていったん提供されればその成員全員の使用を排除することがで きない財と定義されている(01son,1965坤経営資源,特に競争力の源泉とな る無形貢源はこの集合財としての特徴を持っている場合が多い。例えば,フラ ンチャイズ組織における集合財としては,マニュアルや,店舗オペレーション を効率化する組織ルーティン,ブランド・イメージなどが考えられるだろう。

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−j蕗一         香川犬学経済学部 研究年報 47       j加ア これらはフランチャイズ組織の成員であれば誰もが使用できる。  集合財は,誰もが使用を妨げられないがゆえに成員による持続的な供給が なされなくなる可能性が高い。成員は集合財を提供するための費用を負拒しな くとも利用することはできるので,成員にとっては費用負担をせず使益のみを 利用することが合理的なのである。成員が全員合理的に行為すると,集合財は 全く提供されないか,提供されたとしても組織全体にとっては過少にしか提倶 されない。これがフリー・ライダー問題である。フリー・ライダー問題は,無 形貢源の提供の場合にも生じる可能性がありうる。本章では,このフリー・ラ イダー問題との関わりから,フランチャイズ組織の特徴を考察していく。 RBVでは,    2 RBVによる持続的競争優位の論理 企業は経営貢源の束であると解釈して企業の成長を説明しよ ゝつ ﹁ よ )巣合財に注目する理由は他にもある。集合財の概念は,組織成員の「行為」や[実践]  を強調することができる概念である。野中・竹内の『佃識創造企業』以来,「知識」を  いかに創造するか,また[知識]をいかに管理するかといった問題が経営学の重要な諭  点となってきた。しかしながら,実際には多くの組織は「知識」白体は組織内のどこか

 に持っている場合が多いのである(Pfe汀er and Sutton, 2000)。それが組織仝体の実践と

 して役立っていないことが問題なのである。それは知識が暗黙知であるとか形式知であ  るとかといった知識のタイプめ問題ではなく,どのようなタイプの知識であれいかに吝  メンバーが実践し,それが集合的に組織全体の実践へと繋がっていくかというプロセス  が重要なのである。そのプロセスを解明するための一つの糸□として「集合財」という  概念が有用であると筆者は考えている。   また,巣合財は戦賠論と組織論を結び付けることが可能な概念でもある。組織論と戦  略論は,かなり密接な関係にありながら仏両者の接点を意識的に統合して議論してい  る論者は少ない。例えば,この章で取り上げる資源に基づく企業観は,資源の蓄積が重  要な競争優位の源泉であり,かつ市場売買が困難なため重要な資源は組織内で作り出す  必要があると主張している。一方,組織内において組織成員がいかにその貢源を蓄積す  るか,劣化させないためにはどうすればいいかについては具体的に論じていない。 2)森脇(2000)によれば,オルソンが提示した集合財と経済学で扱われてきた公共財は  類似した概念ではあるが,いくつかの点で相違している。集合財も公共財仏その財の  使益を受ける成員からすれば,利用を妨げられない非排除性(nonexcludability)と基本  的にすべての成員が問量使用可能であるという非競介性(nonrivalness)という二つの性  質を持つ。しかし,集合財の場介,その財から使益を受ける成員以外の者からすれば,  その集合財は当該集団成員のための私的財なのである。なぜなら,巣合財は当該集団以  外の人々は利用から排除されているからである。

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組織における集合財提惧メカニズム:集合財としての経営貢源 衷汐− としてきた(Penrose(1957)など)。経営貢源に注目する研究の流れは,この 20年ほどで非常に活発化し,多くの研究が蓄積され,説明対泉も拡犬してきた。  RBVの研究者は,企業の成長や持続的な龍争優位を説明するために貴源を 犬きく2種類のタイプに分類した叉)①有形貢源と②無形貴源であるヤ有形貴源 とは,文字通り可視的で,価値を定量的に判断することが容易な貢源である場 合が多い。具体的には,不勣産や,生産設備,原材斜などがある。一方,無形 倫源とは 訓こは ,目に見えず,その価値を定量化することが困難な告源である。具体 会社の評判や,ブランド・ネーム,知識,蓄積されたノウハウ,組織 の変革能力,組織ルーティンなどが想定されている。  RBVでは,後者の無形貢源を持続的競争優位の源泉として特に重視してき たも)その理由は,二つある。①無形資源は競合他社にとって模倣が困難である ため,他企業に追随されにくいからと,②無形貢源には有形告源にはない独白 の強みがあり,それにより競争優位を獲得できるからである。  無形貢源の模倣が困難であることは,多くの研究者が注目してきた特徴であ

3)Collis and Montgomery は,貢源を犬きく三つのカテゴリーに分類した(Coms and  Montgomery,1998)。①有形貪源と,②無形資源,③組織のケーパビリティである。コ  リスとモンゴメリーは,この3種類に分類したけれども,三つ目の組織ケーパビリティ  は無形貢源の一種であり,特に重要な資源とみなすほうが適切だろう。したがって,  RBVの研究者たちは,無形貢源を持統的競争優位の源泉として重視してきたのである。 4)有形僻源と無形貢源は,それぞれtangible assetとintangibleassetの訳詰である。直訳  すると,可視的な貢産と不可視的な貢産となる。寂密には有形貢源や無形資源という訳  語は適切ではないかもしれない。しかし,RBVの議論において,概念的に明嬉に資源   (fesource)と資産(asset)を区別して用いている論者はいないので,無用な混乱を避け  るために「asset」も「resource」も「貢源」で訳語を統一した。 5)RBVの問題点のひとつに,貢源の特徴を明らかにするときに有形質源と無形資源を  区別しないで扱っていたり,有形貢源と無形貢源を混同していたりすることがある。例  えば,無形資源は摸銀が困難であるがゆえに重要であると主張する論者がいる(Balney   (1986)など)。披らは,市場で売買することがほぼ不可能であるがゆえに換倣が困難  であるという論理を展開する。一方,Collis and Montgomery は,希少性の一部として模  倣困難性を位置づけている。しかしながら,希少性は市場で売買可能であることを暗に  意昧しており,前者の論者たちが想定している市場売買が困難であるがゆえの摸倣困難  性とは矛盾するのである。この矛盾は,Collis and Montgomery が有形資源と無形資源の  共通点を袖出して分類しようとしたことによって生じている。むしろ,無形貢源と有形  資源の差異に注目して無形貪源の特徴を明らかにする必要がある。

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−120− 香川大学経済学吝│ 5 研究年報 47 2007 る9も)Barney(1986)は,無形資源は市場取引が困難であるがゆえに模倣が困難 であると指摘している。有形資源は,通常の企業活勣に必要不可欠である一 方,ほとんどの有形資源が市場で調達可能であるため競合他社にとって模倣が 容易であり,競争優位の源泉とはなりにくい。例えば,土地や生産設備など は,市場取引が可能であるため,競争優位の源泉にはなりにくいのである。一 方,無形貴源はノウハウや,知識,ブランド・ネームといった市場では取引が 困難な財である。そのため,たとえ他杜がその資源が競争優位を揖築するため に重要であることに気がついたとして仏その資源をすぐに調達することがで きない。その結果,無形資源を待つ企業は持続的な競争優位を獲得できるので ある。  また,無形倫源は誰もが同時に使用できる多重利用可能性を待ち,利用して も滅少するどころか価値を増すという特徴を待つ(伊丹,1984)。これは,ブ ランドや企業のイメージ・評判などを想定すると理解しやすいだろう。ある優 良企業の社員であるというだけで取引先から無条件の信用を獲得できる場合 は,無形資源を利用しているといえるだろう。これはその企業の社員であれ ば,だれもが同時に刊用することができる。さらに,彼らがその企栗の評判ど おりのパフォーマンスを示すことができれば,その企業のイメージという無形 資源の価値は減ずるどころか,さらに上昇する。したがって,無形貢源はそれ 自体が強力な競争優位を生み出す一方,競合他社は模倣困難であるがゆえに無 形資源を有している企業に追隨できない。その桔果,無形貢源を有している企 業は持続的な競争優位を獲得できるのである。

6)Collis and Montgomery は,資源の価値を決定する要因は3つあることを指摘してい  る。額客言要充足性と,希少性,占有可能性である。顧客言要充足性は,市場ニーズが  十分あるかどうかという環境要因である。この要因が変化してしまえば,それまで非常  に価値のあった資源であっても一瞬で陳腐化してしまう可能性がある。ただ,顧客充足  性を満たしている貢源がすべて価憤があるわけではない。多くの企業が容易に取得可能  な貢源であれば,産業内の競争の激化をもたらし,一企業にとっては刊益獲得が困難な  状況となる。企業が貢源を用いて産業内で競争優位を得るためには,その資源が他の企  業にとって刊用が困難である状況が必要である。したがって,自社は持っているけれど  伝他者は入手できないという。

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組織における集合財提供メカニズム:集合財としての経営資源 −jJ−       3 RBVの論理の問題点  RBVは無形資源の特徴から企業の競争優位を説明しようとしている理論で あるけれど払その説明論理には問題点がある。その問題とは,無形資源の蓄 積と維持・更新を混同していることである。それは,無形資源の所有と活用の 混同と言い換えてもいい。つまり,本来であれば無形資源を所有していること が競争優位の源泉であるわけではなく,それを有効に活用できて初めて企業は 競争優位を穫得できるはずであるのにRBVの議論ではそこを明硫に意識し て議論をしていないのであるE)実はそれが組織の成長や衰退を考える上で非常 に重要な視点であることを以下で明らかにしたい。  RBVの研究者たちは,無形資源を蓄積(stock)することが重要であるニと

を流列(flow)との対比で強調する。蓄積と流列の違いは,Dierickx and Coo1

 (1989)が用いた風呂桶のメタファーが理解しやすいだろう。ディレックスと クールによれば,風呂桶に蛇□から注がれる水が流列を,風呂桶に溜まってい く水量が蓄積を示している。この風呂柚に溜まった水の量こそが競争力の源泉 であるとRBVの多くの論者は考えているのである。上述したように無形貢 源は多重利用可能であり,どれだけ使用しても滅少しないどころか質が向上す る可能性もあるといゲ│生質を待つため,一見RBVの研究者たちの考えは問題 がないように見える。  しかし,ディレックスとクールは風呂桶のメタファーをさらに展開してい る。彼らによれば,その凪呂桶の栓は抜けており,同じ水位を維持するために は,風呂桶から抜け続ける水量と同量の水を常時補充し続けなければならない のである。そうしなければ,風呂桶の水位は徐々に低下してしまう。したがっ て,蓄積を常に一定の水準以上に維特するためには常にある程度の流列が必要 7)軽耶(1998)は,無形資源から得られる用役の誘因と駆勤に注目してイノペーション・  メカニズムを解明しようとしている。その意昧では,無形貢源へのインプットと無形貢  源から得られるアウトプットに注目する礼白i白体は目新しいわけではない。ただ,組織  内における無形資源についてこの視点で論じられている研究は筆者の知る限り存在して しゝなxハ。

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122− 香川大学経済学部 研究年報 47 2007 となる。この考え方に基づけば,一見同じ水位に見えても,それは常に風呂桶 から技け続ける水量と回等の量が蛇□から注がれていなければならない。この 意昧では,蓄積を維持するには絆続的な流列が重要なはずであり,RBVの研 究者の中にはそれに気づいている研究者もいる回しかしながら,実際には RBVではその流列を十分に考言するための概念枠組みを用意しているとは言 いがたいl)もちろん,流列は蓄積に含めて考えても特に問題なく,独立して考 慮すべき概念ではないとRBVの研究者たちが考えている可能性はある。しか しながら,この区別を行わないことは,重犬な問題を包含していると筆者は考 えている。  その問題とは,時間経過にともない無形告源が変化することを,一貫性を 持って説明できないことである。特にRBVの論理では,市場シェアが逆転 するといった現象や,持続的に成長を続けてきた企業が衰退してしまうといっ た現象を説明することが難しい。そもそもの競争優位が模倣困難性によって構 築されているため,後発企業が先発企業を上回る貢源蓄積ペースで貢源蓄積を 8)Bamey(2002)は,多くの戦賂論研究が大きな意思決定(big decisions)をいかに正し  く行ってきたかに焦点を当ててきたのに対し,無数の小さな意思決定(nunlerous snla11  decisions)を正しく行う能力も視倣困難な経営資源であることを指拙している。巣合財  として経営資源を捉えることは,これら無数の小さな意思決定に汪目することを容易に  する可能性がある。組織メンバー各員が日頃行う無数の小さな意思決定は,まさに巣合  財としての経営資源を維持・改善する行為に他ならないからである。 9)組織ケーパビリティやコンピタンスは,おそらくこの流列を念頭に置いた概念であ  り,様々な議論が展開されている。例えば,Teece,Pisano,and Shuen (1994)に札組織  ケーパビリティをさらに静的ケーパビリティと勤的ケーパビリティに分類し,後者の重 要性を強調している。前昔は「以前に行われたタスクを複製する能力」であり,後者は 新しい能力を確立する場合に用いられ,変化する戦略上の環境に企業を適応させる 力」である。 ’能 しかし,これらの概念は,通常の無形倫源と同じように蓄積(stock)として扱ったこ とに 列が よって無形貢源との概念的な差異が不明嬉になった上にそれを蓄積するための流 さらに必要となり,論理が艇限に後退するという諭理破綻を引き起こしている。  また,組織ケーパビリティをあたかも一行為者の能力のよ ら」の概念を無力化している。組織は組織成員の集合体であ しくはコンピタンスは多数の組織成貝の行為の集計であった の結果だったりするのである。その視点を欠くことによって 織の実態から乖離した概念になってしまっている。 つ り り に扱っていることもこれ ,組織ケーパビリティも ,行為と制度の相互作用 組織ケーパビリティは組

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組織における巣合財提供メカニズム:集合財としての経営貢源 −123− 行うことは難しいだろう。そのため,経営貢源の蓄積を重視するRBVの観点 からすれば,先行して優れた経営貴源を蓄積した企業を後発企業が蓄積量で上 回ることは困難であるように思える。既存のRBVの論理からは,アキレスと 亀のパラドクスのように,後発企業はいつまでたっても先行企業に追いつけな い錯覚を覚える。  RBVでは,逆転現象を環境の変化によって経営貢源が陳腐化したという説 明が最も合理的な説明だろう。しかし,この説明では,なぜ逆転できたのか, なぜ持続的に成長をしてきた企業が衰退したのかというメカニズムを十分に説 明できていない。なぜなら,これらの説明はいずれも機能主義的な説明に陥っ てしまっているからである。つまり,生き残った種は生き残るために必要な能 力を持っていたからであるという進化論的々説明圓様,競争優位にある企業は 競争に勝つための告源を多く蓄積していたからという説明になってしまうので ある。これはほとんど同義反復であり,因果メカニズムを解明した説明とはい えない。このメカニズムを説明するためには,経営倫源の蓄積ではなく持続的 な流列に注目する必要があるのである。  無形貢源の流列に注目するには,まず具体的に流列とは何なのかを見極める 必要があるだろう。これは無形貢源を維持・更新するという組織成員による不 断の実践に他ならない。具体的には,組織成員が組織ルーティンやルールを遵 守し続けることや,ノウハウや知識を状況に応じて更新し続けること,ブラン ド・イメージや企某の評判に反しない振る舞いをし続けることなどである。組 織内の多くの人々の目々の実践の集計こそが無形貢源の流列であり,競争力の 源泉なのである。逆に,無形貢源は組織成員の不断の実践という流列が存在し なければ,劣化や陳腐化を免れられない。この実践の重要性はPfdTer and Sutton(2000)によっても指摘されている。彼らは,優れた人材がおり,経営 戦略に関する知識などの資源も十分待っており,問題の解決策も理解している 企業がそれらを実行に移せていないことを観察した。フエッフアーとサットン によれば,競争優位は,組織内における知識の有無ではなく,その実践によっ て生じるという。  無形貴源の流列に注目すると,競争優位の維持に関する問題の設定の仕方も

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一趾尽− 香川大学経済学部 研究年報 47 2007 変わってくる。なぜある企業は無形貢源の流列を維持し続けることができるの か,無形貢源の流列を維持し続けるためにはどうすればよいのか,無形資源の 流列は何によって変化するのか,などが探求すべき問いとなるのである。これ らの問いを考察するための員念が「巣合財」である。        4 集合財としての経営貢源  集合財とは,ある巣団全体が利用可能な財もしくはサービスである。例え ば,「国防」は国家という集団にとって巣合財であると解釈できる。  集合財は,私的財と対比して非競合性と非排除性という二つの性質を持つ抑 非競合性とは,その財を集団の成員全員が同時に利用可能であることを意昧し ている。非排除性は,集団内の特定の個人をその使益から排除することはでき ないという性質である。国防の例に即していえば,国防はその国の目民である 限り,誰もが同時に享受でき,誰もその利用を妨げられないサービスであると いう意昧において,巣合財なのである。  この集合財の定義から,多重利用可能性という特徴を待つ無形資源は,組織 にとっての集合財であるといえる。例えば,ブランド・イメージや,ノウハ ウ,組織ルーティンといった無形倫源は,組織成員であれば同時に利用できる 上に誰もが利用から排除されない,もしくは利用しなければならないものであ る。これは,集合財の定義である非競合性と非排除性を満たしている。  4.1 集合財の基本論理  巣合財として無形資源を解釈することによって何が見えてくるのかを理解す るために,集合財という概念が元来説明しようとしてきたことについて簡単に 紹介しておいたほうがよいだろう。  集合財問題を提起した01son(1965)が集合財の議論を展開するために具体 的に想定していたのは労働組合である。オルソンは,「労働環境の改善」とい 10)いくつかの研究によれば,非競合性は必ずしも集合財の本質的な性質ではないとされ   ている。それらの論者によれば,集団成員であれば誰でも利用可能であるけれども,誰   もが同じだけの使益が獲得できないような財やサービスも集合財に含めるのである。

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組織における集合財提供メカニズム:集合財としての経営資源 −125− う労働組合の目的を労働組合員にとって集合財と考えた。ほとんど全ての労働 組合員はその目的に賛同し,組合に加盟する。しかし,集合財を獲得するため には組合員の積極的な活勤への参加が必要であるにもかかわらず,積極的に組 合活勤に参加する組介員はばとんどいない。ほとんどの行為者が集合財提供を 目的とする集団に所属しながらも, うパラドクスをオルソンは説明しよ 集合財提供に うとしたので 全く貢獣しようとしないとい ある。 オルソンの答えは,それは集団成員が合理的に行為した結果であるというも のである曾)集合財の利用者は,集合財提供に必要なコストとそれから得られ る使益を秤に掛ける。利用者にとって合理的な行為は,なるべく少ないコスト でより多くの使益を獲得することである。集合財には,組織成員であれば利用 を妨げられない非排除性という特徴があるため,集合財利用者にとって最も合 理的な行為は,現状の集合財の使益のみを享受して提供コストを一切払わない ことである。もちろん,より多くの使益を生み出すためにある程度のコスト負 担をするほうがよいと考える組織成員もいるかもしれない。しかし,そのコス ト負担によって得られた使益も集合財であるがゆえに全くコスト負担をしな かった集団成員も刊用できるのである。したがって,コストを負担することは 合理的ではない。その結果,もし組織成員全員が合理的に行為するならば,集 合財はまったく提供されなくなるか,されたとしても集団成員全員を満足させ ることはできなくなる。これがただ乗り(フリー・ライド)問題である。  オルソンは,フリー・ライドは三つの要因によって生じやすくなると考え た。①集団の規模と,②調整コスト,③成員の努力投人量が集合財提倶に及ぼ ヽ ヽ ノ ー ー  ここでの合理性の扱いには,注意が必要である。オルソンが集合財を考える際に想定 している合理性は,経済学で想定されているような完全情報に基づく合理性ではなく, 行為昔の意図の上での合理性である。意図の上での合理性とは,組織成員の主観に基づ く合理性である。 行為者が煙草を吸う場合を例として考えてみよう。完全情報に基づく合理性では,行    jJ 4●・ぴ’にlfV /!コニ¬-‘゛1 ’4ノゝ/’1Z/ 1-』1ふ1/U − 1-/ `●’、//らー ’/’`″` /U ノLJ--L-lri’ln・ ̄こ1こz ̄ ゝ・-.l ’-L・l l. ∼l`’`タ li 為者はどれだけ喫煙すれば肺癌になるかを知っているので、ある一定以上の喫煙は非合 理的な行為である。一方,意図の上での合理性を仮定する場合,行為者は喫煙を自分の 精神を安定させ仕事を効率的に行うための合理的な行為だと考えている。しかし,喫煙 の結果として肺癌になった場合,喫煙は喫煙者にとって事後的には合理的であったとは 言いがたいのである。

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−こ石− 香川大学経済学部 研究年報 47 2007 す影響力である。  巣団規模が犬きくなればなるほど,各組織成員が巣合財を提惧しているかど うかを嬉認したり,監視したりすることが困難になる。この場合,各組織成員 は機会主義的な行勤を取りやすくなるため,フリー・ライドをしようとする成 員が増加する。  また,巣団規模が犬きくなるにつれ,巣合財の提供には追加的な費用が必要 となる。それはメンバー問の同意を得るために必妾な調整コストである。例え ば,10名程度の少人数の巣団であれば,全員が巣合して話し合うことは比款 的容易である。しかし,100名ばどの集団になると追加的に,全員に巡絡する 費用や,全員のスケジュールを調璧する費用,欠席者の扱いに関するルール作 りの費用などが生じる。しかしながら,この巣介財から得られる一人当たりの 使益は増加するわけではないので,合理的な行為者は巣団が犬きいほど巣合財 提供の費用を負担する誘因がなくなっていく。その結果として,集合財は供給 されにくくなる。  各成員の努力投入量が集合財提惧に形響を及ぼす程度もフリー・ライドを増 加させる。各成員にとって,白分の巣合財提供努力が実際に巣合財の供給に貢 獣しているのかどうかが分か引こくい場合,白分が巣合財を提供しなくても問 題ないのではないかという一種の甘えを集団成員に生じさせる。この典型例は 選挙である。投票者は白分の一票が当落を左右するほどの影響があるならば, 投票に行く誘因は強い。しかし,白分の一票が選挙の犬勢にほとんど影響を及 ぼさないのであれば,投票者は役票に行く誘因をほとんど待たない。その結 果,投票者は白らの生活に影響を及ぼす政策が論点であったとして仏投票に 行かないという行為を合理的だと考えるのである。  オルソンの議論では,犬きな集団と小さな巣団を比敦した場合を想定してい るが,巣団が成長し小さな集団から犬きな巣団になる場合にも圓様のことが言 える。言い換えれば,オルソンの議論は集団が成長すればするほど,集合財が 提供されにくくなるメカニズムを脱明できるのである。  しかし,実際にはオルソンが想定していた犬集団の多くは単なる集団ではな

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組織における集合財提供メカニズム:集合財としての経営資源 −127− く,組織である。組織にはフリー・ライドを防ぐ様々な削度や,ルール,組織 ルーティンなどが存在しているため,組織内においてフリー・ライド問題は生 じにくいはずであるぴ)フランチャイズ組織においてはアルバイト店員のため のマニュアルがその典型例である。それらによって,組織の管理者が望む水準 の目に見える努力負担を組織メンバーたちに行わせることを可能にするだろ う。        ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●  しかしながら,組織における集合財の問題は,集合財を組織成員に提供させ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● るための制度やルールもまた巣合財であるということにある。ルールや制度 は,一般的には固定的であり,従わなければならないものと考えられているけ れども,実際にはそれらの多くは,変更されたり,遵守されなかったり,変更 されないまでも解釈が変更になったりする。つまり,他の集合財と同様に,ル ールや制度も利用者の意図や努力によって性質を変化させることが可能なので ある。フランチャイズ組織におけるマニュアルでも,ただ機械的に道守する場 合と常にマニュアルの内容をよりよくするための改善努力を行っている場合で は巣合財としての質は全く異なってくるのである。  4.2 集合財提供メカニズムとしての組織  組織内のルールや制度もまた集合財であることを考慮すると,「巣合財」と いう概念の新たな特徴が見えてくる。また,組織自体もその「集合財」を提供 するメカニズムとして再解釈することができるようになる。  巣合財提倶メカニズムとしての組織は,犬きく3つの特徴を持つ。①集合財 12)組織と集団を隔てる特徴は,組織は階屑構造とルールを持っていることだと筆者は考   えている。ただ,集団と組織の境界はかなり不明嬉に議論されていることも確かであ   る。分析レベルを組織レペルと集団レペルに分けて分析を行っている研究でも,どのよ   うな基準で分析レベルを分けているのかは不明催であることが多い(例えば,Snook,   2000)。組織と巣団は,一般的に規模で識別されているように見えるけれども,Bamard   (1938)が組織を「二人以上の人々による意識的に調整された諸活勤や諸力の体系」と   定義しているように規模は組織と巣団を分かつ基準にはならない。むしろ,活勤を「意   識的に調豊」しているかどうかが組織の本質であろう。筆者は,活動を意識的に調整す   る手段として,階朧吐か,ルール,もしくはその両方が重要であると考えているのであ   る。

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−£碧− 香川犬学経済学部 研究年報 47 2007 は階層構造になっていることと,②組織構遣によってフリー・ライドの性質が 異なることと,③異なる組織階層の成員はフリー・ライドの性質が異なること である。 4.2.1 集合財の多層性  巣合財は,現実的には一つの集団に一つとは限らない。ある巣合財提供が他 の集合財提供の手段や目的となっている場合もあれば,複数の巣合財が存在 し,成員によっては集合財提供のプライオリティが異なる場合もある。例え ば, 取る フランチャイズ本部がジーの売上高の一定割合をロイヤリティとして受け ことができる場合を考えてみよう。この場合,フランチャイズ本部の成員 は,「売上高の増人」を最も重要な巣合財だとみなすだろう。一方,ジーは収 益性の低い商品が売れることによって売上高が増大すると返って収益性が低下 することがありうる。そのため,ジーにとっては,売上高は増犬しなくとも, 収益性の高い商品を販売することが白らの収益性の改善にとって合理的な選択 肢である。したがって,ジーの立場からすれば,「売上高の増大」という巣合 財は,「収益性の高い商品の販売」という集合財よりもプライオリティが低い ということになる。  また,ある集合財が他の集合財の手段となっている場合もありうる。例え ば ` t 〃 心 ,「ブランド・ロイヤリティの構築」は企業にとって重要な集合財である。 の集合財は,「持続的成長」という巣合財の手段となっている。一方,この 集合財は,「優れたオペレーションのマニュアル」という巣合財によってもた らされた結果としての側面もある。  手段としての巣合財で最も重要なものは,無形資源である。例えば,組織ル ーティンや,ルールも集合財としての性質を持つ無形資源である。これらは, 組織成員であれば誰もが多少なりとも利用せざるを得ないという性質を持ち, 集合財の一種とみなすことができるからである。  この集合財としての無形資源には,組織成員,特に組織上肩部が意図して設 計した集合財もあれば,それらの運用によって派生的に生じてきた集合財もあ る。前者の典型例は,業務手続や公式ルールであり,後者の典型例は企業の評

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組織における集合財提供メカニズム:集合財としての経営資源 −1即− 判やブランド・イメージである。これらの集合財の組み合わせが,組織全体に とって正の効果をもたらすように組織上層部は設計できる集合財を考える必要 がある。  4.2.2 組織構造とフリー・ライド  組織構造については,官僚制組織よりもネットワーク組織のほうが優れてい るという暗黙の想定が置かれてきた汗しかしながら,フリー・ライドの視点 を導人すれば,官僚制組織とネットワーク組織の組織構造の善悪二元論的な考 えはほとんど意味を成さない。組織が非効率になるのは,フリー・ライダーが 増加するメカニズムが組織内に存在する,もしくはフリー・ライダー増加を抑 制していたシステムが機能しなくなるからである。この可能性はネットワーク 組織でも,官僚制組織でもいずれの場合も存在しうる。ただネットワーク組織 と官僚制組織ではフリー・ライドが増加するメカニズムは異なる。  官僚制組織では,組織ルーティンを変革するような積極的な巣合財提供は手 続きの煩雑さゆえに行われにくくなるだろう。  4.2.3 組織階層と集合財  組織における集合財のもう一つの特徴は,同じ集合財であっても組織階聊ご とに提供コストと得られる使益(時には損失)が異なるということがある。例 えば,全社的な組織ルーティンという集合財を変更する場合,一般的な組織成 員にとってそのコストは非常に高い一方,組織上層部の成員であればコストは 比較的低いj)  また,その変更に伴う使益も異なる。組織上層部はその変更によって得られ た結果のみを享受できる可能性が高い一方,実際にそのルーティンを実行する 13)コンティンジェンシー理論は,不嬉実性の低い安定的な傑境では官僚制的な組織が有   効で,不嬉実性の高い環境ではネットワーク組織が有効であるという主張がなされてい   るため,一見中立的に見える。しかしながら,コンティンジェンシー理論は,組織を取   り巻く環境は不確実になってきている,もしくは不確実な環境に直面している組織が重   要であるという暗黙の前提が置かれているため,ネットワーク組織が優れているという   バイアスがかかっているように読める。

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−130− 香川犬学経済学部 研究年報 47 2007 一般的な組織成員はその変更に伴いコストが発生する。たとえば,新しいルー ティンを覚えるコストなどである。  このコストと使益の違いは,組織成員を集合財を提供する成員と使用するだ けで提供しない成員に分化させる。その結果,組織全体の成果を高めるような 巣合財が提供されにくくなるのである。        5 結論と含意  本稿では,集合財という概念によって経営貢源を捉えることを試みた。それ によって,組織を集合財提供メカニズムとして理解することが可能となった。 集合財提供メカニズムとして組織を理解することは,組織を説明する上で新た な洞察を導き出すために重要である。本稿では紙幅が限られているため,この 議論から導き出される実践的な含意をひとつだけ提示したい。組織成員は組織 階聯を上昇移勤するにつれて,白分の費用対効果が高い巣合財を提供する誘因 を強める。例えば,管理のための書類作成手続きを詳絹にすることは,白らは 書類作成のコストを払わず,アウトプットとしての書類の効果を高めようとし ていると考えることができる。もちろん,この変更によって組織全体の成果が 高まるかもしれないが,一般的な組織成員のコスト負拒を増加させるだけで組 織全体としての成果を高めないかもしれない。しかしながら,一般の組織成員 はたとえ効率が悪くなったとしてもその集合財を白らに有利なように変更する ような努力を投人しないだろう。なぜならそのコストは,現在のコスト負拒増 加と比軟して禁止的なほど高いからである。したがって,一般の組織成員は不 満を抱えながらも,変更に従うのである。その結果として,組織内に巣合財が 適切に提供されなくなってしまうのである。 士4)この論理から,組織の朧吐がなぜ生じるのかを説明することもできる。組織上層部の   立場からすれば,彼らはその組織ルーティン(正薙には組織ルーティンに関する知識)   から使益を得ているため,更新する誘因がない。一般的な組織メンバーの場合は,更新   によって使益が得られるので誘因はあるが,そのためのコストが非常に高いので実行に   移すことは困難である。したがって,組織ルーティンは,変更されずに朧吐が生じるの   である。

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