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物語り作品のコミュニケイション構造モデル--D.Janikの物語り論についてのノート---香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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12 物語り作品のコミュニケション構造モデル ーD.Janikの物語り論についてのノートー 高 木 文 夫 臥 従来の物語り作品研究は小説論から民話研究に.至るまで表面的な形態論 やジャンル論が多かったよう紅思える。それに対し,最近では,例えばどのよ うにして物語り作品が形成されているのか,成立させられているのかという問 題から発した,より基礎的な理論づけが求められ,研究されるように.なってき た。その引き金とも言うべきものが,Ⅴ.PIOppの「民話の形態学」などの再 評価や神話研究を進めたフランス構造主義である。また一・方で,上記のプロッ プもー・員であるロシア・フォルマリズムが今世紀初頭にすでに注目していた文 学と言語の問題,所謂詩的言語の問題が,占0年代紅なつて再び脚光を浴び,言 語学の発展に.伴ってより精密な議論が展開されるようになってきた。これらの 諸傾向に触発されたのは物語り作品の研究も例外ではなく,物語り作品のさま ざまな構造レヴェルでの論議の進展が見られ,取り扱われる作品も簡単なもの から次第に.複雑なものに.なり,理論も複雑化している。このような理論研究の 特徴は従来の方法が具体的な作品からの経験的あるいは帰納的な論証に.よっ ていたのに対し,記号論や言語学からの援用によって,演繹的に理論を組み.立 でてし、くことにある。この傾向ほ現在の文学理論一・般軋共通していると言えよ う。 0.1.ここで取り扱うのは0.で述べた最近の研究動向のひとつの成果である 物語り作品のコミュニケイジョン構造のモデルであり,この構造モデルを記号 論的に記述することにより,とれまでの物語り研究を整理する一㌧視点が提供さ れると恩まっれる。 Janikによれば,従来の物語り研究の方法に欠けていたのはまさしく,物語 り作品のすべての構造要素,硫造化された諸レグ・エルおよびそれらのと、エラル キー的な構造関係を余すところなく記述するモデルである。

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物語り作品のコミュニケーション構造モデル 15 1.物語り作品のコミュニサイション構造について述べる前に,−・般的な, 樽軋言語紅よるコミュニケイショソ構造について触れておかねばならない。 コミュニケイジョンが成立するためにほ,区=のように,まず,あるメッセ pジ(Nachricht),そしてメッセ∼iyを送るもの(=発信者.Sende:・)とそれ を受けとるもの(=受信者.Empf詠ngeI)が必要とされる。しかし,メッセ十− ジほ発信者から受信者へ何らの制約もなしに伝えられるわけではなく,メッ セ・−ジが伝えられるために両者の間に.はKa王1al(通信路)がなければならない し,伝えられたメッセL−ジを受信者が理解するためにほ発信者と受信者とが 同一・の記号システムを利用しなければならない。この記号システムをコ・−ド (Kode)と呼ぶ。つまり,あるコミュニケインヨンが成り立つために.ほ発信 者がこれから伝えようとする内容に対し,コ−ドに従ってあるSignal(信号) を選択する(換言すれば,コp・ド化する・(en)kodieren)。発信されたSignal はKodeを通して伝えられ,受信者に受け取られる。受信者ほこ.のSignalに・ 対して,ある(コードに固定された)内容を関係づける(コー・ドの解読をする 。dekoie‡en),という過程が必要である。これ紅コミュニケインヨン行為が される場の状況,すなわちコミ..ユニケインョン状況が付け加えられねばなるま い。 囲1 コ ー・ド 一 受信者 dekodieI■t 発信者(en)kodieIt

Signald仁一→

−(コミュニケインヨン状況)一川 勿論,物語り作品は優経であるし,多種多様の要素を含んでいるので,こん な簡単なモデルで充足する筈もない。ただ,このモデルは.コミェニケイジョン 構造の基本モデルを記したものである。現在でほこれよりほほるか紅被弾なモ デルが理論化されている。

1..1.D.Janikほ物語り作品のコミュニケインョソ構造を以下の三つのレヴ

ュルから成るとする。

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高 木 文 夫 14 (図2も併せて参照) Ⅹ1:具体的訳者←・・一斗物語り作品(→作者)のレヴュル K2:語り手一内包された読者(=物語り作品の内在的コミ.ユ.ニケイジ ョン状況)のレヴュル

K8:物語り作品中の登場人物(Pe‡SOn)間相互のコミ.ユニケイジョン

のレグェ.ル 図2 物 語 り 作 品 す 認踵伽き声 部雌 砧 エトヰーUl州K2…・物語り……・・・・‥・− 漑 (E工ねhlumg) Plく−‥K8…l・→Pn (作者)←……‥・Kl †−‥…Kl…→具体的読者 P==PeI・son これらの各レヴュルの中のKlのレヴュルほ容易紅理解できよう。すなわち、 物語り作品は作者から不定の具体的な読者へ伝えられたメッセージととらえる ことができ,作品の理解ほ両者の間に.あるコードに鍵がにぎられている。作品 の受容過程に関わるもので,このレヴュルほさらに詳しい論述が必要である (「’受容美学」の問題)。K8のレヴュルはここでの物語り論に.とってほそれは どの構成上の意味をもたない。これに対し,残されたK2の語り手と内包され た読者との間の内在的コミュニケインョソ関係は物語り作品にとり特徴的なも のであって,この関係に.よって物語り作品の全体が組み立てられている。 2¶ 語り手の存在が作者から切り離されて論じられだしたのはかなり以前に 遡る。しかし,具体的な読者と作品に内包された読者と切り離して,新たに語 り手←→内包された読者というコミ.ユニケイリヨン関係を見い出したのほ.特筆 して−も良いことだろう。この抽象的な存在の設定によって,物語り作品の研究 ほ議論を進めるための新たな鍵を得たことになる。まさしく,物語り作品の内 在的コミュニケインョソとは語り手(発信者)が物語り,Erzablung(メッセ ・−ジ)を内包された読者(受信者)紀伝えるコミュニケイジョンである。 2.1.2.のコミュニケインヨン関係の枠内での物語り作品ほ幾つかの部分構

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物語り作品のコミュ.ニケ−・ジョン構造モデル 15 造から成り立っている。そ・の説明は後紅ゆずるとして,Janikによれば,従来 の方法はこれらの部分構造の価値(Valenz.全体構造で部分構造の占める役 割と位置)だけが作品の内在的コミュニケイショソ関係(ニK2)紅おいて, 意義(Sinn)のレヴュルで解釈可能なのであり,それに応じて,幾つかの部 分構造の機能だけが物語り作品の研究で扱われるのだ,ということを考慮に入 れていなかったのである。ある部分構造の機能は他の部分構造の機能との相互 関係に.よって,これらの各機能が内在するコミュニサイシ′ヨン関係紅.よって, 並びにこれらの各機能を条件づけているコミェ.ニケインヨン過程によって説明 ができるものである。従って,物語り作品の内在的コミ.ユニケイジョン関係を 支える柱のひとつである語り手,すなわち物語り作品のコミュニケイジョン過 程を表示する物語り機能である語り手を以下の物語り作品の記号論モデルの中 心に.持ってくるのが妥当であろう。このモデルを組み立てる起点としてJ.T工・a bantの美的(asthet桓Ch)記号のモチ/レを取り上げてみよう。 陸 実 容 内 な 的 英 図3 E4=解釈のレヴュル E8==読書作業のレグエル E2=テクストのレヴェル l ̄  ̄ ▼  ̄ ̄’■’■  ̄▲\ヽ † 1 美的な内容の形式

‘二、

美的な表現の形式 表現の実質←・→表現の形式ニ:内容の形式←→内容の実質 † ↓ 美的な表現の実質 El=ラング(1ang11e)のレダニル このモデルを文学作品に.あてはめて,各レヴュルの説明をしてみよう。El ほ,F.Saussureの1angue−parOie という対概念の片方,1angueのレヴュノレ でテクストに現われる言語の一側面を表わすものと考えられる。E2では実際 のテクストとなって内容の形式と表現の形式との一・致関係の申にある。このテ クストが美的な知覚の過程にあらわれるのは,テクストのレヴュルでまず直接 的な言語意味(Bedeutung)としてあらゎれるものが上位の意義(Sinn)関係に 関してkonnotativ(内包的)な機能を充足させる時である。このkonnotieren

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高 木 文 夫 1る (内包)された意義はテクストの芙的受容においてはまず,ただ単に直感的に とらえられるに.すぎない。すなわち,読書作業のレグ,エ」レ(=E8)において, テクストの意味の上に.konnotieIen された意義ほこのレグェ・ルでは決して言 語的紅定式化されたり,客観化されることはない。この言語による定式化や客 観化は次の解釈のレヴュル(=E4)ですなわらテクストの美的な内容の実質 と記されている解釈において行なわれるのである。 2.2.図5のモデルを使って,物語り作品を適切に理解しようとするため紅 このモデルの中で美的な表現の形式(=E2)を特に.物語り作品のコミュニケ イジョンの過程の産物としてとらえなければならない。つまり,この美的な表 現の形式を生み出す,コミュニケインヨン過程自体が表示されているコミ.ユニ ケイジョンとして,この美的な表現の形式を把握せねばならないということで ある。 語 り 手 / \ / \ 表現の形式→内容の形式 (形式的言説)←(プロット) \ / \ / 内包された読者 図4で決定的な意味をもつのは語り手←→内包された読者という内在的なコ ミュニケインョンが含まれていることである。このモデルのコミユニケインヨ ンほ不定のコミュニケイジョン状況の内部での閉鎖されたそれであり,言説 (Rede)の内容にとって重要なすべてのコンテクストの輪郭を一・緒に描かね ばならない。つまり,図4の語り手←一斗内包された読者というコミュニケイン ヨン関係に.も1.のコミユニケイションモデルにあるようなコ−ドが設定されね ばならないだろう。従って図5のようなモデルを設定しても誤りとほ言えま い。 2.3.物語り作品の分析に.とって,語り手ほメッセ」−ジ(情報)の伝達とコ ードの使用紅ついて責任を負うている決定機関であり,内容の形式は表現の形 式によってのみ生じさせられ,表示されるのであるから,知らされた内容(=

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物語り作品のコミュニケ−ショソ構造モデル ︵具体的読者︶ 内包された 読 者 語 り 手1二二 ・−▼ Signal−・一・一−− コミュニケインヨン状況 内容の形式)と知らせる表現(=表現の形式)との間の直接の一L致を請け負う ものである,と言え.る。 従来の方法の多ぐで語り手に負わされていたのほ,物語り自体の出来と物語 りの呈示紅藤してのパースぺクティグ化の二つであったが,こ.のような観点か らでほ物語り機能に直接結びつけられている,語り手の他の明白な機能に光が あてられないように思われる。 語り手が引き出すことのできる基本的機能ほ以下のように.まとめられる。 文 (発語活動) a)発話行為(speecIlaCt) 性格づけの遂行 b)文機能の位置を充足させることによ って文を形成すること。 C)単純な文および硬雄な文紅おける発 話(部分的な文による文機能の位恩の 充足) b)又レグェルで意味の一層性を生み出 すこと。 e)発話における文成分の配列 物 語 り 作 品 (物語り機能) a)パ−スぺクデイブを通して出来させ ること。 b)いくつかの物語り単位(Erz主払1ein− beit)を物語りのFunkto=・(機能さ せるもの)から形成すること。 cj 物語り単位間の閑適を形成すること (=物語りのレ−クェソスと部分的な 物語り) dノ 意味や意義に方向づけられた収赦 (Konver・genZ)の形成 e)物語りのレークエンスと部分的な物 語りを配列すること(=物語り全体の 流れを形成するとと) f)物語られたものにおける語り手の志 瑚的なあるいは無意識的な表示 f)発話宅紅よる言語遂行の方法や様式 に対する反省

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高 木 文 夫 18 上の語り手に.よる基本的機能と並んで右欄に記してあるのは文モデルの機能 である。それほ,こ.れらの基本的機能が経験的におよび慈恵的に区切られたの でほなく,文モデルとの比較から生まれたからである。その前提となるのは, 物語り作品のテクストほ又モデルの特殊な形として観察されることも可能,と いうことである。ただ,文モデルと語り手の基本機能モデルとの差異は,後者 の場合,文の場合のようにLexikon(語rt[、日録)のあるクラス(class・類)が 物語りのFunktoI・に相応せヂ,両者の相共通する素材がそもそも意味をもって 分けられたコミュニケイト可能な現実体験であることにある。 3.以上のように物語り作品の研究の出発点としてそれのコミ.ユニケイジョ ンの構造を分析すること,そしてコミュニケインヨン関係をもとに物語り機能 を分析することの中にはすでに膚感的紅とらえ.られ,あるいは意識せずに取り 扱われたことのあるものもあるかも知れない。しかし,このような構造化はこ れまで直観的に.とらえられたものの,筋道のとおった理論化,定式化をするこ と紅より個々の物語り作品の分析の位置等(例えば,語りのパ−スぺタイプ, 視点など)を明瞭にしてくれるように思ゎれる。 主に参属した文献

・Janik,Dieter;Die Kommunikationsstruktur des

Erzahlwerks.Einsemiologisches Modell.

Bebenhausen。1975

・Kallmeyer,Klein,Meyer,Hermann,Netzer,Siebert;

Lektiirko11eg zur Textlinguistik,Bandl,

Einftihrung.Frankfurt a.M.1974

参照

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