香 川 大 学 経 済 論 叢 第65巻 第3号 1992年12月 177-214
経済厚生,所得分配と産業調整*
井 上 貴 照
は じ め に 小論の目的は,短期,長期および短期から長期への産業調整過程における実 質所得,社会的厚生および実質要素報酬率の決定とその変動について,単純な 産業調整理論を用いて検討することである。 現実の問題として産業調整過程における重要な経済問題は,失業である(;)要 素価格が硬直的で失業が存在する場合の産業調整における社会的厚生水準の変 動については,すでにいくつかの研究がある。なかでも, Haberler (1950, pp. 233-234)は,たとえ与えられた交易条件が改善しでも,ある国の厚生水準が低 下する可能性があることを示した。また, Neary(1982, pp.52-56, Appendix A) は, Haberlerの用いた静学モデルと呉なり産業調整の動学モデルによって,短 期においてはたとえ交易条件が改善しでもその国の厚生水準が上昇するのか低 下するのかは不明確であるという Haberlerの命題を確認し,さらにその短期 均衡から長期均衡への産業調整過程においてその国の厚生水準が単調に上昇し ていく保障はなく減少する可能性があることを示した。 Nearyは,産業調整過 *小論の一部は, 1991年12月14日に香川大学において開催された金融経済研究会において 報告されている。研究会の参加者より有益なコメントをいただいたことを感謝します。 小論の作成にあたり香川大学経済学部助手上枝朱美さんに草稿をワープロで作成してい ただきお礼申し上げます。小論における誇謬は,私自身の責任であることは言うまでもあり ません。 小論は,平成3年度香川大学経済学部経済学科プロジェクト費による研究の一部である。 (1)小論のモデルは,井上(1987)(1991b)に依存している。開放経済にお砂る代替的な産業 調整モデルについては,たとえば, Neary (1985)参照。 (2 )産業調整政策および産業調整に伴い失業が生じるときの経済政策については,たとえば, 池本(1980),伊藤(1988)参照。-178ー 香川大学経済論叢 334 程におけるこの社会的厚生水準の低下する現象を immiserizingreallocation と呼んだ。もしすべての生産要素価格が伸縮的で生産要素が完全雇用されてい る場合には,短期における生産要素の特殊性が存在するとしても,交易条件が 改善すれば,産業調整過程においてその国の厚生水準は上昇することが示され る。したがって産業調整過程において生じるその厚生水準の低下という問題は, 生産要素の産業聞の移動性ではなく生産要素の硬直性に求められることにな る。従来の産業調整に関する多くの研究では,財の価格が外生的に与えられて いるが,小論における第1の目的は,財の価格な内生化されている産業調整モ デノレによって, immiserizing reallocationを検討することである。 次に,産業調整過程における要素報酬率の変動については,ある財の相対価 格の変化により要素報酬が産業調整過程においてどのように変動するのかの分 析が短期における特殊要素の存在と完全雇用を仮定して行われてきている(た とえば, Mayer (1974), Mussa (1974),伊藤 (1984),伊藤・大山 (1985), 井上(1991a) 等)。ところで, Ruffin and
J
ones (1977)は,労働のみが産業聞 を移動し,他のすべての生産要素は産業聞を移動しない完全雇用を仮定した特 殊要素の存在する静学モデルによって,ある財の価格の変化が一般物価水準で デフレートした実質賃金率に与える効果は, Stolper-Samuelson定理と異なり 不明確になることを示した。このような不明確さは,彼らによってneoclassical ambiguityと呼ばれている。このようにこれまでの産業調整過程における要素 報酬率の移動に関する研究は,産業調整過程においても完全雇用を仮定してい る。小論の第 2の目的は,失業を伴う産業調整過程における実質要素報酬率の 変動と neoclassicalambiguityについて検討することである。 小論では,以下のような経済を設定することにより,産業調整過程における immiserizing reallocationとneoclassicalambiguityについて検討すること が目的である。 (3) Haberler(1950), Neary(1982)以外には,産業調盤と経済厚生との関係については, 伊藤(1984)pp.l09-110,pp.115-116,伊藤 (1988)pp 282-284, Itoh and Negishi (1987) pp.22-29等参照。335 経済厚生,所得分配と産業調整 179 われわれは,変動相場制における小国放経済を考える。その経済においては 非貿易財と貿易財とが生産され,消費される。それぞれの財は,資本と労働に よって生産される。各産業で用いられる資本は,短期においてはその産業にとっ て特殊な生産要素で一定であり産業聞を移動しない。労働は2つの産業聞を移 動可能でドあるが,貨幣賃金率は短期では一定であると仮定し労働の完全雇用を 仮定しない。議論を単純化するために,国際資本移動は考慮されない。短期に 財と貨幣市場の均衡によって決定された非貿易財価格,為替レートおよび短期 では一定であると仮定されている貨幣賃金率とが各産業の資本レンタノレを決定 する。この
2
つの資本レンタルに差があれば,資本がより高い資本レンタノレを 求めて産業聞を移動する。その結果,各産業の生産量が変化する。また,短期 において労働市場が不均衡であれば,貨幣賃金率が調整される。財および貨幣 市場の均衡と2つの産業の資本レンタノレが等しくなり労働市場が完全雇用であ る状態を長期均衝と定義する。 第II節では,短期モデルが示され,短期における実質所得,社会的厚生およ び実質要素所得の決定について分析する。第III節において産業調整の動学モデ /レが与えられ,産業調整過程における実質所得,社会的厚生および実質要素報 酬率の変動について検討する。第IV
節は,代替的な外生的撹乱によって生じる 実質所得,社会的厚生および実質要素報酬率の変動を明らかにする。 II 短期における実質所得,社会的厚生および実質要素報酬率 本節では,短期における実質所得,社会的厚生水準および実質要素報酬率の 決定を分析する。以下において,非貿易財はN
,貿易財はT
によって表わされ る。 経済の生産構造は,(
1
)
一(
5
)
式によって与えられている。 (1) aKNXN=
K
ん (2) aK7XI = KI (4 )短期においても長期においても貨幣賃金率が内生化された不完全雇用モデルとして,た とえば, Mayer (1990)がある。180ー 香川大学経済論叢 336
(
3
)
α
LNXN+α
LTXr = L (4) αKNYN+αLNW =P
N (5) aKrYr十aLTW=P
r
ただし ,X,
C
i
= N, T)::財jの生産量,aij Xjの生産1
単位当たり必要とさ れる生産要素t
の量 ,K;(j= N, T):産業 jにとって短期において特殊な生産 要素 ,L:総労働雇用量,Yi
(
i
= N, T)刷生産要素Kd
単位の使用に対するレ ンタル W 貨幣賃金率,P;(j= N, T)::財 jの価格。 投入産出係数α"
は一定であると仮定する。(1)および(2)式は,短期において特 殊的生産要素が与えられているときの産業 jにおける生産量の決定を示してい る。(
3
)
式は,総労働雇用量が各産業の労働需要量の合計であることを表してい る。 (4)および(5)式は,各産業の単位費用がその産業の価格に等しいことを示し ている。 社会的選好が,非貿易財と貿易財についてh
o
m
o
t
h
e
t
i
c
であると仮定すると(
6
)
式を得る。n
ーfP ¥
(
6
)
~ =f
(
1,
;
'
,
)
f
'
<
0
D
1 ¥P
y
J
ただし ,D;(j= N, T):財 jに対する需要量。(
6
)
式は,非貿易財に対する需要量の貿易財のそれに対する比が,非貿易財の 相対価格に依存し,その価格の減少関数であることを示している。 (7)-
(
9
)
式は,それぞれ非貿易財,貿易財および貨幣の市場均衡条件を表して し〉る。 ﹂ 警 一 3 6 t s (7) XN = DN+GN (8) Xy = Dy+Gr (9) M = kY ただし,Gj(j= N, T)::財 jの政府の需要量 ,M::貨幣供給量, Y:貨幣所得, k"マーシャノレのた。 とくに,(
8
)
式は,貿易財の市場均衡であるとともに経常収支の均衡をも意味 している。(
9
)
式は,貨幣需要は,証券との代替はなく貨幣所得の一定割合併)で337 経済厚生,所得分配と産業調整 181 あると仮定され,貨幣供給量に等しいことを示している。 貨幣所得は,加)式によって与えられる。 仰)1 Y =
PNX
N
十P7
X7
関税や輸送費がない場合には,貿易財価格については一物一価の法則が成立 するので,(ll)式を得る。。
1
)
P7 ニ RP:'f ただし ,R::邦貨建て為替レート ,P:'f:貿易財の外国価格。ω
式は,両国の貿易財の価格は為替レートで換算すれば同じになることを示 している。小国の仮定よりP
:'fは一定である。ω
式は,一般物価水準を定義している。 (12)P
=
P
(
P
N
,P7
)
ただし,P
:
:
一般物価水準。(
1
)
-
ω
式からなる体系は,1
2
個の独立な方程式を含む。 αi,j GN, G7, M, k, P,f':P*および短期において一定である Kj(j= N, T)と Wが与えられると1
2
個 の 未 知 数(X
N
,X7
,L
,PN
,P7
,Y
N
, 1'7
,DN
,D
7
,Y
,R
,P
)
が,短期に おいて,決定される。 次に,変数聞の関係について説明しよう。KN
,K7
は短期間では所与であるの で, (1)および(2)式より非貿易財および貿易財の生産量が決定され一定である。 (3)式より,総労働雇用量が決定される。雇用量は,貨幣賃金率とは独立に決定 される。κ
(j= N, T)が変化しないかぎり ,X
(j= N, T)およびLは変化し
ない。 (6),(7)および(8)式より,(
P
N¥
X
N
一行ω
ベ
オ
)=ヱ宇否?
となる。短期では,X/i=
N, T)はすでに決定されており G/i=
N, T)は外 生変数であるので,側式より非貿易財の相対価格が決まる。図II-1は,非貿 易財の相対価格が点Aで決定されることを示している。図II-1の垂直な線は 白)式の右辺を表し,右下がりの曲線が(13)式の右辺を表している。 (13), (10)およびω
式を(9)式に代入すれば,338 香川大学経済論議、 182 D,~
D
l
非貿易財の相対価格の決定 XN-G~Xr-Gl
A Xん- Gル DルXr-GT'Dr
M = kRPt[f-1 (金
三
;
-
)
ん
十
X1J
) A u a l ( この貨幣市場の需給均衡式で ある(14)式において為替レートが決定され, (lD式より貿易価格が決まる。非貿易 ただし;
-
1
は,関数/の逆関数である。 となる。 財の相対価格がすでに決まっているので, (13)式より,非貿易財価格が決定され 図II-l p、
Pl る。このように短期での為替レートの決定は,M
o
n
e
t
a
r
y
A
p
p
r
o
a
c
h
による決定 となる。図II-2は,為替レートが点Bで決定されることを示している。図II-2
の垂直な線は(14)式の左辺を示し,右上がりの曲線は(14)式の右辺を表してい る。このように非貿易財価格と為替レートが決定されると,(1)式を考慮すれば,(
4
)
および(
5
)
式から各産業の資本レンタルη(j=
N
,T
)
が決定される。そして 一般物価水準が, (12)式より,決定される。 (1)および(2)式より,339 経済厚生,所得分配と産業調整 図 II-2 為替レートの決定 R M B (15)
X
j=
1乙(j=
N,
T) -183 kRP1(主
主
XN+XI) rT M.kY となる。ただし,変数上のハット(~)は,その変数の変化率を示す。 (e g
.
X
j=
dX;/X;) (3)および(15)式から, (16)式を得る。 加L
= ALNKN+ALTKT ただし ,AL.h
= N,T)
は,総労働雇用量に占める産業jで用いられる労働雇用 量。 (4)および(5)式は, (17) &Kj rj+ &L;W
= ?j (j= N, T) となる。ただし,&
i
;
:
:
産業 jにおける生産要素i
の分配率。。
7)式は,財fの価格の変化率は,各産業の生産要素分配率をウェイトとした 貨幣賃金率と資本レンタノレの変化率の加重平均であることを表している。-184- 香川大学経済論叢 340
(
6
)
式は, (18) DNー β1= -OD(PN-P1) (PN/P1 )d(DN/D1 ) と な る 。 た だ し む = ー は正であるoODは,需要側の2
つ (DN/Dr )d(PN/Pr) の財の聞の代替弾力性である。 (7), (8),ω
および側式から,初期均衡点において Gj= 0 (j= N, T)と仮定 すると, n n ¥ dGN dGー (19) OD(PN -Pr)ニ 一 一ιニ ー ,'
:
:
1
+
Kr -KN XN X1 となる。 (9), (10)と仰式より, (2。式を得る。 倒 的FN+α1F1= 1岳一αNι-αrK1P
;
X
;
ただし,いす1-(/= N, T):国民所得に占める産業yの生産額の割合。ω
式より,一般物価水準の変化率をω
式のように定義する。 (2D P =α'NFN+αrF1 一般物価水準の変化率は,国民所得に占める各産業の生産額の割合をウェイ トとした非貿易財価格と貿易財価格のそれぞれの変化率の加重平均である。外 国の一般物価水準もω
式と同様に定義する。 ( 19), (20)式は,ω
式を用いて, (22)式のように書き換えられる。 n I dGN dGr, n", TT r7、
(22)(σD
竹(~N)
=(三子ーすず
+oDPt+Kr-KN¥ αN α1'、RI¥
J
官一αrFt-(σ'NKN+αrKr) / (17),ω
およびω
式より,代替的な外生変数の変化が実質要素報酬率に与える 効果を得ることができる。 この分析に入る前に,名国所得を一般物価水準によってデフレートした実質 所得の変化率および社会的厚生水準の変化について検討しておこう。 実質所得の変化率は, (10),師)およびω
式より,実質所得をyとおくと,ω
ト(手)
= aNι+
品
341 経済厚生,所得分配と産業調整 185-となる。したがって,短期ではKj(j= N, T)が一定であるので,短期におけ る実質所得の変化率(五│臼)は, (24)
y
ISR=
0 となる。つまり,短期では生産量は変化しないので,実質所得は一定である。 貿易財で測った柾会的厚生水準の変化,dZ
, は, 仰dZ
=会。
N+dDT
のように表すことができる。 (1), (2), (7)および(8)式より, (25)式は,P
N
I
dKN
¥ (d
¥
(
2
6
)
dZ
=マ
;
(
一
一
ιdGN)+(
竿
主
L-dGT)
Ll ¥ UKN ¥ UKT となる0 (26)式より,短期における貿易財で表した社会的厚生の変化dZ
I SRは,m
d│SRzt(一心)十( 心 ) になる。つまり,短期では,外生変数である政府の財 jに対する需要量が増加す れば,社会的厚生水準は低下する。短期では各財の生産量が一定であるので, 財 jに対する政府の需要量が増加すると民間部門の財 jに対する需要量が減少 するので,社会的厚生水準が減少する。 例および(27)式が示すように,短期においては,政府の財 jに対する需要量が変 化しでも実質所得は不変で、あるが社会的厚生水準は変化する。 そこで短期における代替的な外生変数の変化が実質所得,社会的厚生および 実質要素報酬率に与える効果は,次のとおりである。 (1) 非貿易財の政府購入量の変化の効果 非貿易財の政府購入量の変化が,実質所得,社会的厚生水準,実質賃金率お よび産業fの実質資本レンタルに与える効果は, (17), (2,)1(22),ω
および(27)式より, 側i
5
dGN
J
S
R
= 0(5)たとえば,Caves and Jones (1985) pp 485-486(邦訳国際貿易編pp.332-333),Krugman and Obstf巴ld(1988) pp (S-12)-(S-13)(邦訳1pp 370-372)参照。
342 香川大学経済論議 186
豆むい
ιP
N dGN PT ) の u d o -, レ ( 防T_P
ハ dGN (30)三丘二~=~ー >0
dG
N
B
K
N
O
D
X
N
之
L二P 一 二 監 ー <0dGN
B
K
N
σ
D
.
X
N
(32) となる。 (幼式は,非貿易財の政府需要量が変化しでも,短期においては,実質所得が 一定であることを示している。 (29)式は,非貿易財の政府購入量が増加すると, 短期においては,社会的厚生水準が減少することを示している。側, (21)式より, 貨幣供給量が一定であるかぎり,短期では一般物価水準は一定である。したがつ て貨幣賃金率は,短期においては,一定であると仮定されているので,側式が 示すように,非貿易財の政府購入量が変化しでも,短期では,実質賃金率は一 定である。ところが, (幼式よれ非貿易財の政府購入量が増加すると,非貿易 財価格が上昇し為替レートが増価する。 (19)式より,貨幣賃金率が一定であると 仮定されているので,非貿易財価格の上昇は非貿易財産業の資本報酬率を上昇 させ,為替レートの増価は,貿易財産業の資本報酬率を低下させる。したがっ て一般物価水準は変化しないので,ω
および(32)式で示されているように,非貿 易財の政府購入量の増加は,非貿易財(貿易財)産業における実質資本報酬率 させる。 を上昇(低下) 貿易財の政府購入量の変化の効果 C 2 ) 貿易財の政府購入量の変化が,実質所得,社会的厚生水準,実質賃金率およ ) -q d ( び各産業の実質資本報酬率に与える効果は,L
d
G
比一ハ
7
-v
4
互
h
ι
d
G
7
ム 防T_p
d
G
7
(33) ) a A H a 3 ( (35)7 0 D V , A 経済厚生,所得分自己と産業調整 343 マ ー 一 ー 一 一 , " ー と ー = 一 一 ー と ム ー <
0
d
G
l
8KNO
DX
1r
l
二p
一 旦Lー>0
d
G
l
8
K10DX
J。
。
) 門 ワ , t 向 d j ( となる。 側式は,実質所得が貿易財の政府購入量と独立であることを示している。 (34) 式は,貿易財の政府購入量の増加は,社会的厚生水準をその増加分だけ減少さ せることを示す。一般物価水準は,一定であるので, (35)式が示すように,短期 では,貿易財の政府購入量が変化しでも実質賃金率は,一定である。また, (22) 式より,貿易財の政府購入量の増加は,非貿易財(貿易財)産業の資本報酬率 したがって, (36)および(37)式が示すように,貿易財の政 させる。 (上昇) を低下 府購入量の増加は,非貿易財(貿易財)産業の実質資本報酬率を低下(上昇) させる。 金融政策の効果 ここでは,金融政策を外生変数である貨幣ストックの変化としてとらえる。 金融政策が,実質所得,社会的厚生水準および実質要素報酬率に与える効果 ( 3J
は,次の (38)~仰)式によって示されている。y
ISR M (38) dZム
ι-fl dMw-p
一万一=
-1
<
0
(39) ハU A U > ﹀ N 一 N 一 一 γ立
の
ん
一
品
一
一
一
一
A P
一
{ P
一
﹁ 一( M
﹁ 一( M
{ Y一
A Y一
制) 臼1) 住2) 側および仰)式は,金融政策によって,短期では,実質所得および社会的厚生 それぞれ,変化しないことを示している。これは, (2~, (27)式が示すよ うに,実質所得も社会的厚生水準も,貨幣供給量から独立であるからである。 水準が,188 香川大学経済論叢 344 (22)式より,各産業の財の価格と一般物価水準は,貨幣供給量と同じ率で変化す ることがわかる。短期においては貨幣賃金率が一定であるので,側式が示すよ うに,貨幣供給量の増加は実質賃金率を低下させる。 また, (17)式より,貨幣賃 金率が一定であるとき,各産業の資本報酬率の上昇率は, その産業の財の価格 のそれより大きい。 したがって各産業における実質資本報酬率は,貨幣供給量 の増加によって上昇する。 (4) 外国の貿易財価格の変化の効果 外国の貿易財価格の変化が,実質所得,柱会的厚生水準および実質要素報酬 率に与える効果は, (43) 制) 仰)
y
ISR ハ p:j: dZ I SR ハ dP:j: 防T_Pp
:j: (46)rj-P
P
t
(j=
N
,T)
となる。仰)および帥式は,金融政策効果の場合と同様の理由により,それぞれ, 実質所得および社会的厚生水準が,外国の貿易価格から独立で、あることを示し 表11ー 1 y z W P ru P P 実質所得,社会的厚生水準およ び実質要素報酬率G
N G1 M pt。 。 。 。
。 。
。 。
。
+
+
。
十 十。
345 経済厚生,所得分配と産業調整 -189 ているc (22)式より,外国の貿易財価格が変化しでも,自国の非貿易財価格およ び貿易財価格は一定である。その結果,一般物価水準も一定である。また, (17) 式より,短期においては,各産業の資本報酬率も一定となる。したがって,紡) および陥)式において示されているように,外国の貿易財価格が変化しでも,実 質要素報酬率は,変化しない。 以上の結果は,表 II-lにまとめられている。表中の+,ーおよび Oは,それ ぞれ,変数聞の変化の方向が同じであること,逆であること,そして,外生変 数から独立であることを示している。 III 産業調整の動学過程 短期において決定された非貿易財価格と為替レートおよび短期では一定であ ると仮定されている貨幣賃金率が, (4), (5)式において各産業の資本レンタノレを 決定する。この資本レンタノレに差があれば,資本レンタJレの低い産業よりも高 い産業に資本が投資される。短期では貨幣賃金率が一定であるので,労働は必 ずしも完全雇用ではない。労働市場に超過供給(需要)が生じれば,貨幣賃金 率は下落(上昇)する。このような動学的調整メカニズムは,仰)ーは9)式によっ て与えられる。 仰
w=
ω
(
会
)
1
,w(O) =0
, w'>
0
ωι
=
k
(
号
1
)
,
k
(
O
)
= 0, ゎ
o
側K
N
十K
T= K
ただし,変数上のドット(・)は,時間に関する微分を示す。 LS::労働供給量, K"総資本ストック。 ど お よ びKは,所与であると仮定する。仰)式は,労働市場に超過需要(供給) があれば,貨幣賃金率が上昇(下落)することを表している。側とω
)
式は,貿 易財産業の資本レンタルが非貿易財産業のそれより高い(低い)場合には,資 本が非貿易財(貿易財)産業より貿易財(非貿易財)産業に移動することを示190ー 香川大学経済論議 346 している。倒式は,資本ストックの完全利用条件式である。 小論においては,非貿易財産業が貿易財産業よりも労働集約的であり,次の ような関係式が成立すると仮定する。すなわち,
(
A
)
血>
1
4
>
血 血 > 主 > 血 αKN 1¥ aKl' aLl ~1 aKI と仮定する。 短期均衡において決定される変数は,側式を考慮すると,(50)一側式によって 与えられる。 (50) L = L(KN, KT) =工
(K-KT, KT) = L(K1)(
5
D
P1 = PN(KT; GN, Gl, M, P1)(
5
2
)
R = R(KT ; GN, Gl,M,
P:1) (53) YN =ぬ(W,KN, P1) = YN(W, KT; GN, Gl, M, P;) 倒 Yl 行(W,PN, P1)=
YT(W, KT; GN, Gl,M
, P;) と表される。 仰)-(54)式からなる動学体系は, 8 {固の独立な方程式から成り立っている。 (GN, G1, M, P1,V
, K)が与えられると 8個の未知数(PN,R, Yjy, Yl, W, L, KN, K1)が決定される。 W = oとK1= 0の状態,すなわち,労働市場の完 全雇用と両産業の資本レンタノレが等しい状態が長期均衡である。この長期均衡 点で上記の8個の未知数の長期均衡値が決定される。この動学体系の変数聞の 関係は,図III-lのように表される。 さて,この動学体系の長期均衡の安定性について吟味しよう。 仰)式は,(
5
5
)
AK1K1+
AKNKN=
0
となる。ただし ,Adi
= N, T)::産業fで用いられる資本の総資本に占める比 率。 この制式を(16)式に代入して整理すると, (6 )非貿易財産業が貿易財産業よりと資本集約的な場合においても,小論において得られた 結論は容易に修正可能である。347 経済厚生,所得分配と産業調整 図IlJ- l 産業調整の動学過程 191-九 V 7 2 7 t G G P M L - W - - W
.
.
h K
川 町
A L
となる。ただし, I.AI = .ALN.AKT -.AL lAKN = .AlN -.AKNO (A)より,非貿易財産業が,貿易財産業により労働集約的な産業であると仮定 されているので,I
.AI
は正となる。 (56)式によれば,資本が非貿易財産業より貿易財産業へ移動すれば,総労働雇 用量が減少することを示している。資本の非貿易財産業から貿易財産業への移 動によって貿易財の生産量が増大し非貿易財の生産量は減少するので,貿易財 産業における雇用が増大し非貿易財産業における雇用が減少する。貿易財産業 は非貿易財産業に比べて資本集約的であるから貿易財産業における雇用の増大 は非貿易産業における雇用の減少より小さいので,労働雇用量は全体として減 少する。 (17)式より (58)式を得る。 ト引 "T, 1;; 1;; 側r
1
一 九 =-。
---.Lと!--W 一一九十一一一Pl 1KN8K1 " 8KN L IV, 8K1 ただし,I
8
I
= 8LN8KT - 8K N8LT = 8LN - 811 0 長期均衡の近傍では,非貿易財産業が貿易財産業よりも労働集約的であると192 香川大学経済論叢 348 いう仮定より ,1
B
1
>
0となる。 2つの財の価格が与えられているとき,貨幣賃 金率が上昇すれば, (4), (5)式から各産業の資本レンタルは減少するが,1B1
>
0 の場合は,非貿易財産業の資本レンタノレの減少の方が貿易財産業のそれより大 きくなるため, (58)式が示すように貿易財産業の資本レンタノレの非貿易財産業の それに対する比は上昇する。貨幣賃金率が一定ならば,非貿易財(資本財)の 価格の上昇は,貿易財産業の非貿易財産業に対する資本レンタノレ比を減少(上 昇)させることを示している。 (58)式の右辺は, (22), (55)式より長期均衡点の近傍では,側式のように書き換え られる。 川川 " (αf
!
1B
1 2 αK ¥ 制 91-9
N = 寸と~W 一(一芸斗子L汁l
K
7
BKNBK1 ¥ BKNZBK1Zσ
DAKNBKNBK1 ) H l ただし, a!
f
:
:
国民所得に占める貿易財産業の資本分配率,ポ:国民所得に占め る総資本分配率。 (59)式によれば,貨幣賃金率が一定のとき,非貿易財産業より貿易財産業への 資本の移動は,貿易財の生産量を増加させ非貿易財の生産量“を減少させるので, 非貿易財の相対価格を上昇させ,貿易財産業の非貿易財産業に対する資本レン タノレ比を減少させる。 以上のことを考慮して,制,仰)式の右辺を長期均衡点の近傍で線型近似する と次のようなヤコービ行列Q を得る。 (60) Q=
I
,
k
'
(
O
l
l
B1
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KNB K 1 W (j)盟斗
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AK1K 1-響(記長+
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は,それぞれ, rtrQ = -k:~O)
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~~ K 1 ¥仇ω2BK12' ODAKNBKNBK1 ) ¥ U (61)i
l
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t
Q = ω'(0)グ(0)1
A1
1
θ
i
AKNBKN BK1 W K7 となる。ところで,1 A1
I
B
1
は長期均衡点の近傍では,制式のようになる。349 経済厚生,所得分配と産業調整 193
γ
KTWr
似
)lA││Ol=z
缶百
Ff(GINGM GITGKN)2>O ただし,r = r;(j= N,
T)。
制と制式から 2つの産業の要素集約度が異なっているかぎり長期均衡点は 局所的に安定である。 長期均衡への収束の模様を調べるために,判別式を求めると, (63) (tr.Q)2-4 det.Q ー「左血l(~幻R ,a
K日
2 - L KI ¥ 8KN28Kl2 TσD;lKN8KN8KI ) 1 4ω'(0)グ(0)1
;l8
l
l
1
AKN8KN8KI W K1 となる。労働市場の調整速度を表すω'(0)が資本市場の調整速度を表すk'(O)に 対して十分小さい(大きい)とき判別式は正(負)となり,長期均衡点はstable node (focus)となる。長期均衡の近傍における位相図は,図III-2と図III-3の ようになる。図III-2は,労働市場の調整速度が比較的遅い場合の位相図であ り,図III-3は労働市場の調整速度が比較的速い場合の位相図である。 W = O曲線が垂直になるのは, (50)式が示すように,労働雇用量は資本財産業 の資本に依存するが貨幣賃金率に依存しないからである。倒式より181>
0の 場合には,K
1ニ Oの曲線が右上がりになる。ある与えられた貨幣賃金率のもと で貿易財産業の資本が増加すると貿易財産業の資本レンタルが非貿易財産業の それに対して減少する。2
つの産業の資本レンタ/レが等しくなるためには貨幣 賃金率が上昇し貿易財産業の資本レンタノレが非貿易財産業のそれに対して上昇 しなければならない。 W =0曲線の右(左)側は,労働市場が超過供給(需要) になっている。 KI= 0曲線の右(左)側では貿易財産業の資本レンタルは非貿 易財産業のそれより低(高)くなっている。図III-2および図III-3で示され ているように W = O曲線と K1=0
曲線によって領域(W,Kl)孟O
が1
, II, III, IVの4つに区分されている。いま,経済が図III-2において領域IIのa
にあるとしよう。貿易財産業の資本レンタlレが非貿易財産業のそれより大き いので資本が非貿易財産業より貿易財産業に移動する。また労働市場は超過需194 香川大学経済論叢 350 図III-2 労働市場の調整速度が相対的に遅い場合
wl
W=O Kr=O a II仁→
少~←
コ
N I i lJ
K7 要であり貨幣賃金率が上昇する。そして,労働市場の完全雇用が達成されるが, 貿易財産業の資本レンタノレは依然として非貿易財産業のそれより大きいので資 本は非貿易財産業より貿易財産業へ移動する。経済は領域Iに入る。そこで、は, 労働市場は超過供給になり貨幣賃金率は減少しはじめる。領域I内では貨幣賃 金率の減少と資本の非貿易財産業から貿易財産業への移動とが,貿易財産業の 資本レンタルを非貿易財産業のそれに対して減少させ2
つの産業の資本レンタ ルがK
l
= 0曲線上で同じになる。しかしながら,労働市場は超過供給であるか ら貨幣賃金率は減少し経済は領域IV
に入る。貨幣賃金率の減少は貿易財産業の 資本レンタルを非貿易財産業のそれより低くさせるので,資本は貿易財産業よ り非貿易財産業へ移動する。労働市場の調整速度が比較的遅く資本の産業間移351 経済厚生,所得分配と産業調整 195ー 図 III~3 労働市場の調整速度が相対的に速い場合
w=o
W「
ふ
= 0し
J
I
I
J
I I i K7 動は比較的速い場合には経済は長期均衡点に収束する。貨幣賃金率の変動はあ まり大きくなく資本の産業間移動が大規模で各産業の生産量は大幅に変動す る。もし経済が領域I
I
内の点b
にあれば,領域I
I
内のみを通って長期均衡が達 成される。 次に,経済が図III-3の点Cにあれば,労働市場の調整速度が比較的速いの で貨幣賃金率は比較的大きく変動し,資本は比較的ゆっくりと産業聞を移動し て経済は,領域I
I
か ら しI
V
に入っていく。領域IV
では,資本は貿易財産業よ り非貿易財産業へ移動し,貨幣賃金率が低下することにより労働の完全雇用が 達成される。しかしながら,貿易財産業の資本レンタルは依然として非貿易財 産業のそれより低いので資本は貿易財産業より非貿易財産業に移動する。そし352 て経済は領域凹に入る。領域IIIでは,労働市場に超過需要が生じるので貨幣賃 金率は上昇し,資本は依然として貿易財産業より非貿易財産業に移動するので 香川大学経済論談会 -196-経済は領域IIに入る。このような循環を経て経済は長期均衡点に収束していく。 この場合には,資本の産業間移動はあまり大幅ではなく貨幣賃金率は大きく変 動する。 産業調整過程における実質所得,社会的厚生水準
I
V
および実質要素報酬率の変動 この節では,産業調整過程における実質所得,社会的厚生水準および実質要 素報酬事の長期均衡点の近傍における変動について検討する。 実質所得の変化率は, (10), (15),ω
および(55)式により, よ a幻
A
五土
Y f)K Nf)KT Kr (6~ また社会的厚生水準の変動は, (26)式より, となる。 -V 町北
. Z
(65) である。 制および紡)式より, sgn(タ)= sgn(Z) = sgn( -Jも)
ifI f)I>
0 となる。 (66)式は, I f)I>
0,つまり非貿易財産業が労働集約的であるかぎり,実 質所得と社会的厚生水準はともに,資本が貿易財(非貿易財)産業へ移動する (66) と,減少(上昇)することを示している。 実質賃金率の変動は, (2Dおよび白)式を考慮すると,A_L=A_
i
!
:
幻
A
五
L
w
P
W
f)K Nf)KlK
1 i ? 寸i l i -(67) によって与えられる。 各産業の実質資本報酬率は, (17), (2Dおよび(22)式より,次の側および側式におrN 一主 __l___r(~ム生旦包il\ 一色
t)Wl
YN P - f)K NL
¥
AKNOD I f)K Nf)Kl ) K T 叫NwJ
いて示される。 (68)353 経済厚生,所得分配と産業調整 -197 (69)
ヲ
rL_L_
-P 1一i
(
立位斗立
i
一 一 色 _¥K
1 -!l.伊豆
1
8KTL
¥
8KN8KT AKNOD / K T…
WJ そこで領域IIから領域Iへの経済の動きについて検討しよう。 これらの領域 においては,刷および航)式が示すように,資本が非貿易財より貿易財へ移動す ることから,非貿易財産業が相対的に労働集約的ならば,実質所得および社会 的厚生水準は,減少している。資本の完全利用を満たすように資本が非貿易財 産業から貿易財産業へ移動すると,所与の価格の下では,国民所得が減少する。 このことを経済が領域IIにある場合について図III-4を用いて示すことができ る。図III-4のL
S線およびK線は, それぞれ,労働および資本の完全利用を 図III-4 生産量と名目国民所得 XT K X"-198 香川大学経済論叢 354 示している。点Cを通る点線αは,与えられた価格のもとで生産点がCのとき の名目国民所得を示している。資本が K 線にそって非貿易財産業から貿易財産 業へ移動すると,名目国民所得は
K線上の点
C
の左上方にある点Cを通る点 線d
で示される水準に減少する。貨幣供給量が一定であるので,貨幣市場で超 過供給が生じ一般物価水準が上昇する。したがって与えられた貨幣供給量のも とでは名目所得が一定であるので,実質所得が減少する。社会的厚生水準の変 動は, (66)式において示されているように,実質所得と同じ方向を持っている。 社会的厚生水準の変動は(25)式が示すように,貿易財で測られており,図凹- 4 では,名目国民所得を示す直線の縦軸の切片の変化として表される。 実質賃金率の変動について検討しよう。経済が領域IIにあれば,一般物価水 準は上昇しているが,この領域では貨幣賃金率が上昇している。したがって領 域IIにおいて実質賃金率が上昇するのか低下するのかは不確定となる。このこ とは産業調整における neoclassicalambiguityを示している。しかし経済が領 域Iに入ると,貨幣賃金率の低下と一般物価水準の上昇が生じているので,実 質賃金率は低下する。 非貿易財産業における実質資本報酬率の変動について吟味しよう。領域IIで は,与えられた貿易財産業の資本のもとでは 2つの財の価格は一定である。貨 幣賃金率が上昇しているの、で,非貿易財産業の実質資本報酬率が低下する。他 方,与えられた貨幣賃金率のもとで,資本が非貿易財産業より貿易財産業へ移 動すると,非貿易財の相対価格の上昇が生じる。この結果, 17()式より,与えら れた貨幣賃金率のもとでは,非貿易財産業の資本報酬率の上昇率は非貿易財価 格のそれよりも大きくなるので,非貿易財産業の実質資本報酬率は上昇する。 以上より,貨幣賃金率の上昇と資本の貿易財産業への移動が非貿易財産業の実 質資本報酬率へ与える効果は,不確定となる。しかし経済が領域Iに入ると, 貨幣賃金率の低下と資本の貿易財産業への移動が生じているので,非貿易財産 業の実質資本報酬率は上昇している。 貿易財産業の実質資本報酬率の変動は,非貿易財産業のそれと異なり,複雑 になるので以下では次の3つの場合について検討する。355 経済厚生,所得分配と産業調整 -199 _.K (1)財に対する需要の代替弾力性の大きさが,(JD > 不 釘 前 の 場 合 。 領域IIにおいて,貨幣賃金率が与えられているときに,資本が非貿易財産業 から貿易財産業に移動すると,非貿易財価格の相対価格の上昇は比較的小さく, 貿易財で表した実質所得が減少し貨幣需要が減少する。そのため,為替レート は,減価する。この為替レートの減価による貿易財価格の上昇は,貿易財産業 の資本報酬率をその上昇率よりも大きく上昇させ,貿易財産業の実質資本報酬 率を上昇させる効果をもっ。この効果は,貿易財産業の資本の増加による一般 物価水準の上昇が貿易財産業の実質資本報酬率を低下させる効果よりも大きく なっている。したがって貿易財産業の資本の増加は,ある与えられた貨幣賃金 率の下では,貿易財産業の実質資本報酬率を上昇させる効果をもっ。しかしな がら,領域IIでは貨幣賃金率が上昇しているので,貿易財産業の資本が与えら れているとき,貿易財産業の実質資本報酬率を低下させる。したがって,領域 IIでは貿易財産業の実質資本報酬率の変動は不確定である。ところが経済が領 域Iに入ると,貿易財産業の資本の増加と貨幣賃金率の低下が生じているので, 側式より,貿易財産業の実質資本報酬率は上昇している。 _.K
(
2
)
財に対する需要の代替弾力性の大きさが,(JDく 石 針
e
r
の場合。 領域IIにおいて資本が非貿易財産業より貿易財産業への移動が,ある与えら れた貨幣賃金率の下で,貿易財産業の資本報酬率に与える効果は,次の 2つの 場合において吟味することができる。 _K _K① ず
7
引 く
σ
D<
石お
e
r
の場合。 領域IIでは,為替レートは減価し実質資本報酬率を上昇させる効果をもつが, その効果は,一般物価水準の上昇が貿易財産業の実質資本報酬率を低下させる 効果よりも小さくなっているので,貿易財産業の実質資本報酬率は,貨幣賃金 率が一定のとき,低下する。したがって領域IIでは貨幣賃金率が上昇している ので,経済が領域IIにあるかぎり,貿易財産業の実質資本報酬率は低下する。 (7H蹴の右辺の至上の係数については,抑制成立する。 a~生ιn 一一生ー註白色司一一生←→亘 rin(}X,
(}KT AK,
t
J
D <:υ、 .(}LTaT 引~ ~U-200ー 香川大学経済論叢 356 経済が領域Iに入ると貨幣賃金率が低下しているので,貿易財産業の実質資本 報酬率の変動は不確定となる。 ② 仙
<-4
与干丁の場合。 一 α7σ1 この場合に,経済が領域IIにあれば,為替レートは増価するので貿易財産業 の資本興酬率が低下する。一般物価水準は上昇しているので,与えられた貨幣 賃金率のもとでは,貿易財産業の実質資本報酬率は低下する。また,この領域 では貨幣賃金率が上昇している。以上より,需要の代替弾力性が十分小さいと きには,経済が領域IIにあるかぎり,貿易財の実質資本報酬率は低下する。次 表 川 ー l 産業調整過程における実質所得,社会的厚生水 準および実質要素報酬率の変動 領 域 II IV III K1 十+
y+
+
z+
+
W P ? つ 十 f N つ P+
? ア7 つ+
つ σD>
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f
P l1 R+
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P R+
+
rPjT つ+
つA>
σD R+
+
向
。
fJK7 aK ただし,A =
訪問新=オ百
T'
1θ1>0
。357 経済厚生,所得分配と産業調整 -201 に経済が領域Iに入ると,与えられた貨幣賃金率のもとでは貿易財の実質資本 報酬率は低下するが,貨幣賃金率も低下しているので,この領域Iにおける貿 易財産業の実質資本報酬率の変動は不確定となる。 経済が領域
I
V
から領域I
I
I
に移行する場合も同様に考えればよい。以上の結果 は,表 III~l にまとめられている。表の中の十(-)は,その関連する変数が 上昇(減少)していることを表している。 Ad
とおくと,とくに領域 A一云日向
T
II(IV)においては ,A <σDく£の場合は,為替レートが減価(増価)して いる場合に貿易財産業の実質資本報酬率が低下(上昇)している。領域1(
I
I
I
)
では,σ
D>
去の場合には,為替レートが減価(増価)しているとき貿易財産 業の実質資本報酬率ばかりでなく非貿易財産業のそれも上昇(低下)している。 さらに,領域1(
I
I
I
)
では,IJD<
A
のときには,為替レートが増価(減価)し ているが,実質賃金率は低下(上昇)している。 V 財政・金融政策およびその他の外生的撹乱の効果 本節では,財政・金融政策およびその他の外生的撹乱が生じたとき,実質所 得,社会的厚生水準および実質要素報酬率が産業調整過程においてどのように 変動するのか,またそれらの長期均衡に与える効果について検討する。 長期均衡は,W
=
0,K
1=
0の場合であるので,仰一(50),側および例式より, (L(K1) = LS (70)i
lYN(W, K1 : GN, GJ, M,p
n
= Yl(W, KJ :G
川 GT,M,p
n
と表現される。 仰)式より ,GN, Gl,M,
Ff
,V
およびKが与えられると ,(W, KT)が決ま る。 (W,KT) が決まることにより,側~(59)式から (L, PN, R, YN= YT)そして (12)式から P の長期均衡値が決定される。われわれの経済は,初期時点において 長期均衡にあると仮定する。 (70)式を長期均衡の近傍で微分すると,。
1
)
HZ= V
となる。ただし,~202~ 香川大学経済論叢 358 l l 上 l k
o
一
M 1 L K 万 U A U 一 / l i l i -¥一 一
H
:
L
+
σ
A
N
O
;
J
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(
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)
o
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~
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i
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一
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二
二
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¥ ¥σD8KN8 (U~N ~ U~J
+
σ
D
P
F
)
+
」 三f
-
(M~afFl) 一一一F:fjKl¥XN X1 ' V U ' 1 ) ' 8KN8Kl ¥"" ~l' 1 / 8KN ' 1 / (55)式より, 1 A 1181 (口)
IHI=
ポ拡誌
となる。 (1)一(3),仰)および仰)式より,労働供給量と総資本ストックが与えられている かぎり 2つの産業の生産量は変化しない。したがって実質所得および社会的 厚生水準の変化は,それぞれ, (73)9 =αNXN+
α
lX1=
0 同 dZ =r
;
;
:
dDN+
dD1 =t
;
(一心)+(
-dGl) によって与えられる。仰)式は,実質所得は変化しないことを示しており, (74)式 は,社会的厚生水準は,政府による財 j(j= N, T)の購入量の増加によって減 少することを表している。 長期均衡においては,1θ1>0
ならば,すなわち非貿易財が相対的に労働集約 的ならば, Stolper-Samuelson定理により,もし非貿易財の相対価格が上昇す れば,次のような関係が成立する。 (75) W>
PN>
P1>
r
仰式は,非貿易財産業が労働集約的ならば,非貿易財価格の上昇は,実質賃 金率を上昇させ実質資本報酬率を低下させる。 ( 8) Stolper and Samuelson (1941),井上(1991a)等参照。i
359 経済厚生,所得分配と産業調整 203 また長期においては仰)式が示すように,実質所得が変化しないので, (15), (20) 式より,貨幣供給量が一定であるかぎり一般物価水準も変化しない。 以上の予備的な考察を考慮しながら本節の目的について検討していくこと にしよう。 (1) 非貿易財の政府購入量の増加の効果 非貿易財の政府購入量の増加が貨幣賃金率と貿易財産業の資本に与える効果 は, (76), ('η)式によって与えられる。 (76)w
ニォ洋
lθσ
DX
-
-
-
v
-
dGN N (77)去し=0
dGN 非貿易財の政府購入量の増加によって,非貿易財の相対価格は上昇する。非 貿易財産業は貿易財産業に比べて労働集約的であると仮定されているので,貨 幣賃金率は上昇する。貿易財産業の資本は労働市場の需給均衡条件によって決 定されるので,労働供給量と総資本ストックが変化しないかぎり変化しない。 したがって,非貿易財の政府購入量の変化によって貿易財の資本は変化しない。 非貿易財の政府購入量の増加によってw=o
曲線は変化しないが,KT=
0
曲 線は左方にシフトする。図 IV~ 1 と図 IV~2に示されているように,長期均衡 点は Eo から E1 に移動する。図 IV~1は,労働市場の調整速度がl比較的遅い場 合の位相図であり,図IV-2は,その調整速度が比較的速い場合の位相図であ る。 実質要素報酬率の変動を調べるために,非貿易財の政府購入量の増加が 2 つの財の価格に与える効果を導出しよう。 非貿易財の政府購入量の変化が非貿易財価格に与える効果は,倒式より, PN K7 OPN K7 , 1 OPN 側 一」一=~ーーとー」一+一一一ーとdG N ~ PN OKT dGN ' PN oGN となる。 仰)式の右辺の第1
項は,非貿易財の政府購入量の変化に伴う貿易財産業の資 本の変化が非貿易財価格に与える効果であり,第2項は,貿易財産業の資本が360
Kl=O
ハ V ム口・ 1 出 場 〆 、 サ 〆 劃 / 'に
〆
的 /対
〆
日 M H ノ 判 吋 〆 品 川 村 / 度 /速
ノ
整 J J ア 調 E , / 、 ﹄ ノ 〆 υ ノ 場 ノ ノ 市 ノ 働 労 香川大学経済論叢 204-図IV-lw=O
W ノ 〆 ノ / 〆 / / / / 〆 〆 Kr 与えられたときに,非貿易財の政府購入量の変化が,非貿易財価格に与える短 期効果である。 (22),(η)式より, PN OPN 一一←=一一一一一dG
~ー >0N PNoG
N
σ
DX
N
(79) となる。すなわち,長期均衡において非貿易財の政府購入量の増加は,非貿易 財価格を上昇させる効果をもち,その効果は,短期におけるその効果に等しい。 同様にして,R
oR
一一一ー=一一一一一dG
N RoG
N
<0
(80)361 経済厚生,所得分配と産業調整 図IV-2 労働市場の調整速度カf相対的に速い場合 〆 , , , , 〆 / / ノ ノ ノ 〆 〆 , , ノ 〆 ノ w=O ハ H U
一 一
-K J 〆 , , , , , , 〆 〆 〆 , , 〆 ノ 〆 〆 / 〆 Kl=O となる0 (79)お よ び(80)より ( 81) dG.
1
)
:
>
0>7~
N ~ v ~ dGN が得られる。 したがって一般物価水準が一定であることと(11)および同式より,w-P
似)一一一一
dGN>0
紛 ) 三 二p<
0
dGN一
-205-Kr-206- 香川大学経済論叢 362 が得られる。 似)および(83)式は,それぞれ,非貿易財が労働集約的ならば,非貿易財の政府 購入量の増加は,実質賃金率を上昇させ実質資本報酬率を低下させることを示 している。 そこで労働市場の調整速度が比較的遅い場合について考えよう。 実質所得は,非貿易財の政府購入量の増加によって短期および長期において も変化しない。しかしながら旧長期均衡点から新長期均衡点司への移行過程にお いて,実質所得は上昇して後,低下することによってその新長期均衡値に近づ いていく。 社会的厚生水準は,非貿易財の政府購入量が増加すると短期では低下する。 しかしその後長期均衡への調整過程においては,上昇してから低下し,短期に おいて低下した水準に収束していく。 実質賃金率は,短期では変化しないが,長期均衡への調整過程において,上 昇しはじめる。そして経済が新長期均衡点に対して領域IIに入ってから,それ が上昇するのか低下するのか不明確で、あるが,その短期均衡値と比較すると, 長期均衡においては,非貿易財が労働集約的であるかぎり,実質賃金率は上昇 する。 非貿易財産業の実質資本報酬率は,非貿易財の政府購入量の増加によって, 短期において上昇する。そして長期均衡への調整過程において低下しはじめ, 経済が長期均衡に近づくにつれて,さらに低下するのか上昇するのかは不明確 となるが,非貿易財産業の実質資本報酬率は,その旧長期均衡値と比べ,低下 する。 貿易財産業の実質資本報酬率は,非貿易財の政府購入量の増加により,短期 では低下する。その後の長期均衡への調整過程において財に対する需要におけ る代替弾力性が十分大きい場合には,貿易財産業の実質資本報酬率は低下する。 さらに経済が新長期均衡点に対して領域IIに入ると,貿易財産業の実質資本報 酬率が,さらに低下するのか,あるいは上昇するのか不明で、ある。需要の代替 弾力性が十分小さい場合には,短期では貿易財産業の実質資本報酬率は低下す
363 経済厚生,所得分配と産業調整 2 AV 7 るが,その後,上昇するのか低下するのか不明で、ある。しかし経済が新長期均 衡点からみて領域 IIに入ると,低下しながらその長期均衡値に近づいていく。 いず、れの場合においても新長期均衡点においては,旧長期均衡に比べて,貿易 財産業の実質資本報酬率は低下している。 次に労働市場の調整速度が相対的に速い場合に実質所得,担会的厚生および 実質要素報酬率の変動は,それぞれ,次のようになる。 実質所得は,非貿易財の政府購入量が変化しても,短期および長期において も変化しない。しかしながら,非貿易財の政府購入量が増加すれば,上昇と減 少をくり返すことによりその長期的均衡値に近づいていく。 社会的厚生水準は,非貿易財の政府購入量の増加によって短期においては減 少するが,その後,上昇と減少をくり返しながら変動し,長期均衡においては, 短期均衡で減少した水準に収束する。 実質賃金率は,短期においては非貿易財の政府購入量の増加によって変化し ない。しかし,長期均衡への調整過程で、は,その変動は,上昇,不確定,低下, 不確定をくり返しながら,その長期均衡値に収束する。長期均衡において非貿 易財の政府購入量は,実質賃金率を上昇させる。 非貿易財産業の実質資本報酬率は,非貿易財の政府購入量の増加により,短 期では上昇する。そして長期均衡への調整過程においては,それは,低下,不 確定,上昇そして不確定をくり返しながら変動し,その長期均衡値に収束し, 旧長期均衡値を比べて低下する。 貿易財産業の実質資本報酬率は,短期では非貿易財の政府購入量の増加によ り,低下する。そして長期均衡への調整過程において,もし
2
財の聞の需要の 代替弾力性が大きい(小さい)場合には,低下(不確定),不確定(低下),上 昇(不確定),不確定(上昇)をくり返しながら,その長期均衡値に近づいてい く。長期均衡では,非貿易財の政府購入量の増加は,貿易財産業の実質資本報 酬率を,その旧長期均衡値に比べて,低下させる。 以上より,非貿易財の政府購入量の増加の場合,短期均衡から長期均衡への 調整過程において,社会的厚生水準の変動は,単調ではなく, immiserizing208ー 香川大学経済論叢 364 reallocationが生じており,また労働および各産業の資本の実質報酬率につい ては, neoclassical ambiguityが,生じている。 ( 2] 貿易財の政府購入量の増加の効果 貿易財の政府購入量の変化が貨幣賃金率と貿易財産業の資本に与える効果 は,制,紡)式で示される。
G
d 一X
K 一α
一 。
一 D 一 σ 0 一 一 一 = v 一 7 へ W ︿K
一 必 制式は,貿易財の政府購入量の増加が貨幣賃金率を低下させることを示して いる。貿易財の政府購入量の増大は貿易財の相対価格を上昇させ,貿易財産業 は非貿易財産業より資本集約的であるので貨幣賃金率を減少させる。この場合 の位相図 IV~ 3 と図IV~ 4 のように表されている。図IV~3
が労働市場の調整 速度が比較的遅い場合の位相図であり,図IV~4 は労働市場の調整速度が比較 的速い場合である。貿易財の政府購入室の増加は ,w
=0
曲線をシフトさせな いがK=O
曲線を右にシフトさせる。経済は,旧長期均衡点E
o
より新長期均 衡点E
1に移行する。 労働市場の調整速度が比較的遅い場合について吟味しよう。 実質所得は,短期においても長期においても,貿易財の政府購入量が変化し でも不変である。しかし長期均衡への調整過程において実質所得は,減少して 後上昇しながらその長期均衡値に収束する。 社会的厚生水準は,貿易財の政府購入量の増加により,短期では減少する。 そして長期均衡への調整過程において,さらに減少して後上昇するが,長期均 衡では短期に減少した大きさだけその旧長期均衡値より減少している。 実質要素報酬率については,非貿易財の政府購入量の変化の場合と同様に分 析すると,w-p
(
8
6
)
一一一一<0
dG1(87) 之二~>O
dG1365 経済厚生,所得分配と産業調整 -209ー 図IV-3 労働市場の調整速度が相対的に遅い場合 KI=O W w=O Eo K7 となる。 実質賃金率は,貿易財の政府購入量が変化しでも短期では一定である。しか
j
し長期均衡への調整過程において低下しはじめるが,経済が新長期均衡点から みて領域I
から領域IV
に入ると,その変動は不確定となってその長期均衡値に 収束する。そしてその新長期均衡値は,その初期値に対して低下する。 非貿易財産業の実質資本報酬率は,貿易財の政府購入量の増加により,短期 では低下する。その後,長期均衡への調整過程で、は上昇し,経済が新長期均衡 点に対して領域IV
に入ると,その変動は不確定となるが,新長期均衡では,非 貿易財産業の実質資本報酬率は,旧長期均衡と比べて上昇する。210 香川大学経済論叢 366 W 日T=O 図IV-4 労働市場の調整速度が相対的に速い場合 KI=O K1 貿易財産業の実質資本報酬率は,短期では,貿易財の政府購入量が増加すれ ば,上昇する。その後の長期均衡への調整過程において 2財の需要の代替弾 力性が十分大きい(小さい)ならば,貿易財産業の実質資本報酬率は,上昇す る(その変動が不確定になる)が,さらに新長期均衡に近づいていくと,その 変動は不確定になるが(上昇しながら),その長期均衡値に近づき,非貿易財の 実質資本報酬率と閉じ水準になる。つまり,貿易財の実質資本報酬率は,その 初期値より,上昇する。 次に,労働市場の調整速度が比較的速い場合における実質所得,社会的厚生 水準および実質要素報酬率は,次のようになる。
367 経済厚生,所得分配と産業調整 211-実質所得は,貿易財の政府購入量の増加により,短期においても長期におい ても変化しないが,長期均衡への調整過程において減少,増加をくり返しなが ら,その長期塩衡{直に収束する。 社会的厚生水準は,貿易財の政府購入量の増加によって短期で減少した後, 減少,増加をくり返してその長期均衡値に収束する。 実質賃金率は,貿易財の政府購入量の増加によって,短期では変化しないが, その後,低下,不確定,上昇および不確定をくり返しながらその長期均衡値に 収束するが,その初期値より低下する。 非貿易財産業の実質資本報酬率は,貿易財の政府購入量が増加することによ り,短期では低下する。その後,長期均衡への調整過程において上昇,不確定, 低下および不確定をくり返してその長期均衡値に収束するが,その初期値より は上昇する。 貿易財産業の実質資本報酬率は,短期では,貿易財の政府購入量の増加によ り,上昇する。その後,それは 2財聞の需要の代替弾力性が十分大きい(小さ い)場合には,上昇(不確定),不確定(上昇),低下(不確定),不確定(低下) をくり返すことにより,その長期均衡値に収束し,その初期値よりは上昇する。 以上より,貿易財の政府購入量の増加の場合払短期均衡から長期均衡への 調整過程において,社会的厚生水準の変動は,単調ではなく, immiserizing reallocationが生じており,また労働および各産業の資本の実質報酬率につい ては, neoclassical ambiguityが,生じている。 (3
J
金融政策の効果 金融政策の貨幣賃金率と貿易財産業の資本に与える効果は,側;),ω
)
式によっ て与えられる。 側W=M
仰
)
号
=0 (89)式から金融政策によって,貿易財産業の資本は変化しない。貨幣供給量の 増加は,非貿易財価格と貿易財価格をその変化率と同じ率で変化させるので,-212- 香川大学経済論叢 368 貨幣賃金率は貨幣供給量と同じ率で変化する。 金融政策の場合の位相図は[
1
)
の非貿易財の政府購入量の増加の場合と定 性的に同じである。 このことから,実質所得の変動については,非貿易財の政府購入量が増加す る場合と同じである。 ネ士会的厚生水準は,非貿易財の政府購入量が変化する場合と異なり,貨幣供 給量が変化しでも,短期でも長期においても不変である。しかしながら,短期 均衡から長期均衡への調整過程においては,柾会的厚生水準の変動は,非貿易 財の政府購入量の増加の場合と同様である。 実質賃金率は,短期では貨幣供給量が増加すれば,低下する。ところで,貨 幣供給量の変化が,各財の価格に与える長期効果は, (11), (22), (叫,倒, (7D, (89) 式より,P
j
M OP
側一一ニー一一~~l白P
j oM
=
1
(j=
N, T) となり,各財の価格の変化率は,貨幣供給量のそれに等しいことを示している。 ゆえに,側)および側式より,制)および似)式が得られる。w-P
(
9
1)一万一
=0
側う
L o
側および(92)式は,長期均衡では貨幣供給量の変化は,実質要素報酬率を変化 させないことを示している。 しかし産業調整過程における実質要素報酬率の変動は,非貿易財の政府購入 量の増加の場合と同様で、ある。 C 4 ) 貿易財の外国価格の変化の効果 貿易財の外国価格の変化が貨幣賃金率と貿易財産業の資本に与える効果は, (93), (94)式によって与えられる。 ( 9) (71)式の右辺のn
の係数はゼロであることが確かめられる。つまり,aK-1 8α
I
1-8KN =0369 ( 的
ι
=
0
1 T(944=O
Pl
経済厚生,所得分配と産業調整 ~213~ (9~式が示すように, PF の変化によって貿易財産業の資本は変化しない。 Pl の変化は, (22)式より,非貿易財価格と国内の貿易財価格を変化させないので貨 幣賃金率は変化しない。 したがって,これまでの分析と同様に考えれば,長期均衡では,実質所得, 社会的厚生および実質要素報酬率のすべてが,不変である。われわれの経済に おいては,これらの変数は貿易財の外国価格の変化からは隔離されている。V
I
む す び われわれは,単純な小国開放経済モデノレによって,実質所得,社会的厚生水 準および実質要素報酬率の決定と産業調整過程におけるそれらの変動について 検討してきた。とくに産業調整過程における immiserizingreallocationの存在 および実質要素報酬率のneoclassicalambiguityが明らかにされた。 しかしながら,小論では,国際資本移動,人々の予想形成そして外国からの 反作用,貨幣以外の金融資産等を考慮する必要があろう。これらの要因を小論 でのモデ/レにどのような特定化により導入するかについて検討することが,今 後の課題となるであろう。 引 用 文 献Caves, R E. and R W Jones (1985) World Trade and P,ay押zentsAn lntroduction, 4th
edition (Boston, Tronto: Little Brown and Company Limited)(小田正雄,江川育志, 田中茂和訳『国際経済学入門1(国際貿易編), (国際金融編) (多賀出版, 1987)) Haberler, G (1950)“Some Problems in the Pure Theory of International Trade
ぺ
Eω-nomic Journal Vol LX, No 238(June) pp. 223-240
Itoh, M.. and T Negishi(1987) Disequilibrium Trade Theories (Harwood Academic Pub -lishers)