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中学校社会科における地歴連携授業の開発-香川大学学術情報リポジトリ

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中学校社会科における地歴連携授業の開発

伊 藤 裕 康

Ⅰ はじめに  世界史が必修になってから、地理教育の危機 が声高に叫ばれるようになった。様々な理由に よって世界史が必修になったことを承知はして いる。だが、社会への訴求力が地理にもっと あったならば、国際社会に生きる人間形成なら ば地理も必修にすべきであるという声が挙がっ たかもしれない。厳しく言えば、地理に有用性 を感じてもらえなかったから必修にならなかっ たのではないだろうか。  伊藤(2017)では、地理の社会的問題決的有 用性の観点を中心に、しかも学校教育に絞って 地理教育の意義を考察した。その結果、空間に 関する社会の様々な問題の基礎としての地理、 「プラットホームとしての地理」の構築をすれ ば、地理が社会系諸教科の母と成り得るのでは ないかということが明らかになった。「プラッ トホームとしての地理」は、地理が、社会を見 る基礎・基盤、世界観を深めるための足場や土 台となる環境となる地理である。  本稿では、「プラットホームとしての地理」 を構築していく試みの一つとして、「歴史的背 景」を組み込んだ中学校社会科における地歴連 携授業の開発を行なう。 Ⅱ 地理教育における地歴連携の意味と平成 29年度学習指導要領の問題点 1 なぜ、地歴連携の授業が求められるのか  地理と歴史に関係について、黒崎(1984, 70)は、次のように述べている。   地球表面に展開する諸事象はいずれも時空間連 続的なものであって、それぞれの空間的な側面 の解明に重点を置くのが地理的視座ということ になる。この視座に立つからといっても、事象 の時間的側面を無視あるいは軽視する限りで は、対象の正当な把握や理解はただ単に表層的 なものだけに限定され、理論的考察などの可能 性はきわめて乏しいといわざるを得ない。  地理学の一分野に、地理的事象の発生、発展 ないし変貌してきた過程と深く関わる歴史地 理学がある。伊倉(1973,150-151)によれば、 歴史地理学の概念は、①歴史性が最も強い「歴 史の地理的解釈」といえるもの、②歴史時代の 地理的景観を復元する「歴史時代の地理」を明 らかにするもの、③現在の地理的事象を明らか にするための歴史地理学の三つに分類される。 伊倉は、地理学が現在の地域を明らかにするこ とを任務とするならば、第3の立場が重要であ るとし、論攷の最後を、「地理教育が静的な現 状説明に終わることなく、動的な―過去から未 香川大学教育学部

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来へ―地理教育に進展することを望んでやま ない。」と結んでいる。地理教育で「歴史」の扱 い方を検討した岩渕(2004,58)も、「地理教育 は、『現代社会の諸地域』を主な対象」とし、「そ の『現代社会の諸地域』は、静止した非歴史的 現象でなく、ダイナミックに変容する歴史的現 象である」が故に、「地理教育は、『地域的実態 としての歴史』を真正面から扱わざるをえない」 としている。  地理教育は地理学の応用分野でもあり、まず は地理学を尊重しつつも、社会諸科学の成果も 踏まえ、民主主義社会の有為な形成者の育成を 志向するものである。従って、地理学で重要と されることが地理教育にそのままストレートに 反映されるわけではない。しかしながら、現在 の地理的事象を明らかにし、未来を展望する動 的な地理教育へと進展していくには、歴史地理 学の第3の立場に立ち、「地域的実態としての 歴史」を真正面から扱うことは、地理教育でも 大切なことである。 2 地歴連携授業と「プラットホームとしての 地理」  では、「地域的実態としての歴史」を真正面 から扱うとはどういうことか。この点につい て、岩渕(2004,59)は、「地理教育は『歴史』を、 『現代社会の諸地域』の『歴史的背景』として扱 う。だから、歴史教育と異なり、『現代社会の 諸地域』の『歴史的背景』にならない『歴史』は 捨象する」と述べている。  藤田(2008)は、平成11年度学習指導要領が、 高等学校の地理教育が対象とする世界を初めて 現代世界と定義づけしたことに着目し、高等学 校の地理教育に歴史的視点を取り入れることを 強調する。氏は、第2次世界大戦以降のヨー ロッパ史の概観を、ヨーロッパ地誌の中に取り 入れるべき歴史的背景として、戦後史をとりい れたヨーロッパ地誌の授業を展開している。注 目したいのは、氏の次の言説である。      ヨーロッパの戦後史を扱うことは、高等学校 の地理歴史科、公民科の連携を深める点でも、 重要かつ有用なテーマであると考えられる。た とえば、履修者の少ない世界史A,履修学年の関 係で戦後史の学習が十分でない可能性の高い世 界史 B の事情を考慮して、また地理 A が主に1 年で開講される場合が多いことを活かして、地 理授業で戦後史の視点を取り入れることによ り、様々な効果が期待できる。    藤田の言説は、筆者の「プラットホームとし ての地理」とも関連している。現代史に繋がる 世界史の重要事項は、地理の枠組みでこそ理解 し難い事項(宗教や民族分布、領土問題等の紛 争等)がより良く学べると考えられる。従って、 「プラットホームとしての地理」の観点から言 えば、現代社会の理解に必要な歴史的要素を組 み込んだ地誌学習は、社会系教科のどの学習よ りも現代社会の諸問題を考える際の足場掛けに なるはずである(伊藤2017)。   3 地歴連携の視点から見た平成29年度学習 指導要領改訂の問題点  山口(2011)は、平成20年度及び21年度学習 指導要領において、地理教育では歴史的背景と の関連づけが重視され、歴史教育では地理的条 件との関連づけが重視され、従来になく地理と 歴史の関連づけが強調されたと述べる。このよ うに、平成20年及び21年度の学習指導要領改訂 以降高まった地歴連携の機運であるが、平成29 年2月の学習指導要領改訂により、この機運に 水をさしかねない事態が起きた。中学校社会科 地理的分野において、「日本の諸地域」の考察 の切り口が減少した結果、「歴史的背景」が消 失してしまったのである1)。幸いにして、⑤の その他において、欠落した切り口でも当該地域 の地域的特色を明確にすることに有効なものは 活用することが可能となっている。地誌は歴史 と親和性に富み、歴史的背景は不可欠である。 そこで、今後は、中学校社会科地理的分野の 「日本の諸地域」の学習において、⑤のその他 において、「歴史的背景」を組み込んだ地歴連 携授業の開発を行なうことが求められよう。

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Ⅲ 地域の歴史的素材を教材化した地理授業  ―「琵琶湖疏水計画で京都の危機を救え!」―  平成29年度学習指導要領中学校社会地理的分 野内容C(3)日本の諸地域における近畿地方を 想定し、「地域の伝統や歴史的背景、地域の持 続可能な社会づくりを踏まえた視点に留意」し、 「主体的・対話的で深い学び」の視点から構成 した授業構想を提示する2) 1 「歴史的背景」を切り口にした従来の近畿 地方に関わる実践  平成20年度学習指導要領中学校社会地理的分 野の「日本の諸地域」の学習では、切り口の一 つに「歴史的背景」があったため、平成20年度 学習指導要領下の近畿地方に関わる多くの実践 が「歴史的背景」を切り口にした展開をしてい る3)。これらの実践は、「なぜこの地域に歴史 的景観が多く残されているのか」、「歴史的景観 を保護するためにどのような取組が行われてい るのか」、「歴史的景観を保護することがどのよ うな影響を与えているのか」などの問いによっ て考察させるものが多かった4)。今に繋がる歴 史的景観を取り上げるにしても、現在の景観保 護の取り組みばかりに焦点化され、近代以降に 行なわれた歴史的景観の維持の取り組みや歴史 的景観の形成に関わる取り組みは取り上げたも のが無いように思われる。伝統や文化は守り続 けるだけでなく、創っていくものでもあると いう視点も持たせたい(伊藤2011,伊藤2012)。 そこで、産業遺産である琵琶湖疏水の成り立ち を通して、古都京都を成り立たせている歴史的 背景を探りながら、景観の保全と産業の発展の 視点から持続可能な社会のあり方を考える授業 を開発する。 2 「琵琶湖疏水計画で京都の危機を救え!」 の実際  歴史のある大都市京都が、遷都によって人口 流出が起きて活気が無くなる危機に陥っていた ことはあまり知られていない。「主体的・対話 的で深い学び」のしかけに、この危機打開を考 える場面(京都復興会議)を設定し、主体的に 語り合わせることを考えた。  近代化産業遺産である琵琶湖疏水は、水の多 目的な利用(飲料水、防火用水、水運、動力、 灌漑、水力発電)によって、京都復興に貢献し た。しかし、琵琶湖疏水が景観を壊し、市内の 一部しか恩恵を被らないという危惧から建設反 対が起きた。そこで、景観に配慮した建築様式 を採用し、疏水ルートを変更し、世界で2番目 の水力発電所の建設等がなされ、現在も多目的 に利用されている。  ローマの水道橋を思わせるレンガ造りの南禅 寺水路閣は、琵琶湖疏水を通すため明治23年 (1890年)に建築された。前述したように、景 観に配慮した水路閣ではあるが、当初は景観を 壊すという声があがった。だが、今や古都京都 の景観にすっかり馴染み、代表的な観光スポッ トとなっている。 ① 授業目標  産業遺産琵琶湖疏水の成り立ちを通して、古 都京都を成り立たせている歴史的背景を探りな がら、景観の保全と産業の発展の視点から持続 可能な社会のあり方を考える。 ② 学習指導過程 学習活動 予想される生徒の反応 指導上の留意点など 1 南禅寺水路閣の 写真を見て、これ が何であり、どこ に あ る か 予 想 す る。 ・ローマ時代の水道のようだ。イタリア じゃないかな。 ・京都のお寺にあった気がする。 ・レンガ造りの橋が京都にあるか? ・ローマの水道橋のようなも のが京都にあるのかと疑問 を持たせ、意欲を高める。 ・無鄰菴等の幾つかの別荘の 写真を示し、南禅寺界隈に 趣のある別荘群があること に気づかせる。

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2 1で見たような 趣のある場所が多 い京都が、明治維 新後に危機に陥っ て い た こ と を 知 る。 ・京都の人口が減っている(1850年〈嘉永 3年〉に29万人、1877年〈明治10年〉に 23万人)。 ・コレラが流行している。 ・幕末の混乱や首都移転で人口が流出し たのではないか。 ・年表、「東京遷都と京都の復 興」資料 ・天皇関係の産業の特権と需 要にもふれる。 3-1  各 自 で 付 箋 に復興策を書き出 す。 3-2  各 自 の 復 興 策をグループ内で 出 し 合 っ て 分 類 し、ラベリングす る。 3-3  グ ル ー プ 毎 に発表する。 ・人口が減少しないように産業を発展さ せる。 ・運河を使って工芸品を売る。 ・環境のよい住みやすい町にする。 ・琵琶湖の水で農業を発展させるのはど うか。 ・天皇を呼び戻す。 ・KJ 法を用い、何が当時の京 都にとって問題かを意識さ せつつ、復興策の書き出し をさせる。 4 京都府知事北垣 国道が考えた琵琶 湖疏水計画の目的 と、自分達の復興 計 画 案 と を 比 べ る。 ・北垣は、疏水で飲料水不足対策を考え た。 ・北垣は、疏水で水車を回し、器械を運 転することを考えた。 ・北垣は、疏水による田畑の灌漑を考え た。 ・北垣は、疏水による防火用水を考えた。 ・北垣は、疏水による水車を回した精米 を考えた。 ・北垣はすごいな。北垣の琵琶湖疏水計 画は、自分たちが考えた復興策の全て を考えている。 ・古都京都に疏水を通したら、神社仏閣 が壊されたり、景観が損なわれたりし て、京都らしさがなくなるのではない か。 ・疏水で水車を回して器械を運転する工 場群を作ったら、豊かな自然がなくな らないか。 ・水車の動力で器械を運転しても一部の 地域にしか疏水の恩恵がいかない。 ・琵琶湖疏水起工趣意書から 比べさせる。 ・自分たちが考えた復興策と 北垣国道考えた琵琶湖疏水 計 画 と の 異 同 を 意 識 し て、 比べさせる。 ・琵琶湖疏水近辺の観光名所 の写真を提示し、琵琶湖疏 水の周りに文化財が多いこ とに気づかせる。 ・疏水に沿って工場を建てな ければならないことを示唆 する。 ・京都の歴史的価値を再確認 させる。 ・産業の発展がないと京都が 寂れてしまうことに気づか せる ・産業発展か景観を守るかと いう対立があることに気づ かせたい。 3 京都は明治維新によって大都市としての地位から転落しそうな危機に陥りました。このピ ンチを皆さんならば、どんな作戦で乗り切りますか?府知事の立場になって考えてみよう。 5 もし、琵琶湖疏水の周りに工場が立ち並んだならば、どんなことが起きそうだろうか?

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・景観などに配慮して、疏水のルートを 考えたんだ。 ・水車でなく広い範囲までエネルギーが 供給できる水力発電にしたのか。 ・発電で発生した電力を売って、琵琶湖 疏水の維持などをする持続可能な開発 だったんだ。 ・水路の建設においても景観とマッチし たものになるよう工夫されていたんだ な。 ・水力発電で得た電力を利用して、明治 28(1895)年に、京都駅近くと南に位置 する伏見区下油掛あたりを結んだ日本 初の電車が開通したのだ。 ・地形図(京都市東山区岡崎周 辺)を提示し、地図中の琵琶 湖疏水の経路がジグザグで あることに気づかせ、なぜ そうなのかと問題意識を持 たせる。 ・アメリカの水力発電を視察 した田邊朔郎が、水力動力 方式から水力電力方式に変 更したことを知らせる。 ・路面電車の写真 ・蹴上発電所の写真 ・水力発電により、さらに広 い地域にエネルギーが供給 できたことを意識させると と も に、 景 観 保 全 に も 役 だったことを理解させる。 ・導入で用いた水路閣の写真 から、建築様式にも工夫を こらして建築されたことに 気づかせる。 ・水路閣建設に対して、福沢 諭吉が「山水の美、古社寺の 典雅を傷つけるいわゆる文 明流に走りたる軽挙!」と反 対したことを紹介し、現在 は有力な観光資源となって いることに気づかせる。 7 琵琶湖疏水の景 観や環境への配慮 が、現代の古都京 都を成り立たせて いる要因の一つに なっていることに 気づく。 8 現在の京都での 歴史的景観保全の 取 り 組 み を 知 り、 ・もし、動力源の水車が設置され、それ を利用する工場群が建設されたなら、 南禅寺界隈に趣のある別荘群は生まれ ず、日本の近代庭園文化は誕生しな かった。それどころか、東山山麓の環 境が影響を受けていたかもしれない。 ・鴨川へ注ぐ白川は、途中で琵琶湖疏水 に合流し、鴨東運河の国立近代美術館 付近で再び白川として流れ出す。この ことで、増渇水時も下流部は一定の水 量が保たれ、治水と良好な河川環境が 維持される。このように、琵琶湖疏水 は、街中の親水性、特に祇園白川地区 に情緒ある景観をもたらしている。 ・観光スポットの「哲学の道」の脇を流れ る小川も琵琶湖疏水の支線であるよう に、琵琶湖疏水の建設は、水路閣もそ うであるが近代における様々な京都ら しい歴史的景観を生んだ。 ・景観に配慮した琵琶湖疏水建造は、持 続可能な開発となり、大切な観光資源 にもなっている。 ・地形図 ・南禅寺水路閣の全体写真、 蹴上・墨染発電所、哲学の 道等、現在の疏水の写真 ・京都市で見られる飲食店の 看板やコンビニの外観の写 真を提示し、生徒たちが日 6 北垣知事は景観保全か環境破壊かで悩んだ。では、この問題の解決策としてどんなこと があるか考えてみよう。

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 持続可能な開発の 在り方について考 える。 ・目立たない看板や周囲の景観とマッチ した外観のコンビニがあるように、今 も景観に配慮する働きが続いているん だ。 ・2014年、産寧坂の伝統的建造物群保存 地区の雑貨屋が強制的に建物を元の姿 に戻され、裁判になった。景観保全と、 住民生活の利便性との調和が課題なん だな。 ・持続可能な開発にとって、景観保全と 住民生活の利便性との調和は解決しな くてはいけない問題だ。  頃見かけている飲食店の看 板やコンビニの外観との違 いに気づかせる。 ・古都保存法・京都景観条例 ・観光入込客数、観光消費額 及び外国人宿泊客数の推移 から、歴史的景観が観光資 源となり、京都市全体の利 益になることに気づかせる。  完成から130年経った現在も、琵琶湖疏水は京都市民の飲料水として、電力供給源として利 用されている。景観にも配慮して琵琶湖疏水は造られ、歴史的文化財の多い東山の史的景観 を壊すこともなく、南禅寺界隈に趣のある別荘群や水路閣を生みだし、過去からの歴史的景 観に加えて、近代における新たな歴史的景観の創造となり、京都をさらに魅力ある都市にし ている。これらの歴史的景観は、観光資源としても重要であるので、保全するため建物に制 限を加えるなど、政策がとられているが、住民生活の利便性との調和が課題となっている。 Ⅳ 終わりに  本授業構想の意味と課題を述べ、終わりとし たい。  教材としての琵琶湖疏水は、産業発展の視 点、景観保全や次世代に繋がる開発等の視点か ら考察可能で、ESD教材として有効である。地 理の社会的問題的有用性を遺憾なく発揮できる のがESDとしての地理学習であり(伊藤2010)、 琵琶湖疏水を教材化した授業は、地理の社会的 問題決的有用を発揮した地理学習となる。  提示した授業構想の構造は、平成28年度学習 指導要領中学校社会地理的分野内容C(4)「地 域の在り方」においても、活用可能であろう。 例えば、都心部のマンション増加による景観問 題を調査する学習やまちの再開発問題などで、 時間軸を拡張して課題を考察する学習として組 み込むことが考えられる。さらに、ここでの 「歴史的背景」を組み込んだ中学校社会科地理 的分野の地歴連携授業の学びが、日本の近代化 と関わる歴史学習や公民的分野D(2)「よりよ い社会を目指して」のような持続可能な社会形 成といった公民的な分野の学習にまで波及され ることが見込まれる。従って、この地歴連携授 業の構想が「プラットホームとしての地理」の 一つと成り得るものではないかと考えている。  ところで、学習指導要領が改訂され、表面上 なくなったが、実践すべき価値があり、創意工 夫すれば実践可能なものでも、一旦表面から消 えてしまえば、いくら価値があっても見向きも されないのが教育現場の実態である。やがてし ばらくの時を経て、やはり価値があったと改訂 で再度登場すれば、新しい内容だなどと喧伝さ れ、慌てて0から実践に取り組むはめになるの が教育現場である5)。それ故、このままでは、 中学校社会科地理的分野の日本地誌学習におい て、「歴史的背景」を切り口とした地誌学習が 消えていくかもしれない。その故、平成29年度 学習指導要領に準拠した「歴史的背景」を組み 込んだ地歴連携授業構想を提示したことは、意 味があることと考えている。  残された課題として、2点挙げておきたい。  まず、地誌学習であるならば、「近畿地方と はどんなところか」という問いに答えられる学 習でなければならない。その意味から、本授業 構想は、不十分であると言わざるを得ない。こ こでは、小単元レベルでの近畿地方の地誌学習 を示したにすぎない。近畿地方の地誌学習は、 「歴史的背景」を基軸とした複数の切り口から 展開することが妥当だと考えているので、この 点から「近畿地方とはどんなところか」という 問いに答えられる」地誌学習の授業プランの提

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案をすることを、今後の課題とする。  岩渕(2004,59)は、「『自然環境』は歴史的に 生成し、歴史的に消滅する、一つの『特殊な社 会環境』」であり、「地理教育は、『自然環境』を、 歴史的に生成、消滅する『特殊な社会環境』と して扱う」と述べている。この岩渕の指摘は、 山口(2011)の「地理教育における歴史的要素の 扱いに関する類型化」の類型 D「歴史の地理的 解釈、あるいは歴史の地理的基底ともいうべき 扱い方」と関わろう。前述した伊倉の歴史地理 学の概念の第1に相当する。この立場での学習 は、山口が述べるように山口(2009)の環境基 盤的アプローチからのものであろう。そこで、 環境基盤的アプローチから迫る近畿地方の地誌 学習プランの提案を課題としたいと考えてい る。  2018年3月末をもって愛知教育大学をご退職され る岩崎公弥先生に拙稿を献呈いたします。先生と一 緒に一年間仕事をさせていただいた際、先生の広い 学識と心の広さを感じました。副読本研究を進める 際にも、貴重な研究資料を快くご提供頂き、有り難 かったです。先生の今後のますますのご活躍とご健 康を祈念申し上げます。 注 1)欠落した切り口に、歴史的背景、環境問題や環境 保全、生活・文化、他地域との結びつきがある。 2)展開案は、2009年度の白山敦史等の大学院生が筆 者指導下で香川大学教育学部附属高松中学校にて 展開した1時間授業を、伊藤が修正したものを(伊 藤・白山2017)、再度3時間構想に修正した。なお、 白山敦史等の大学院生の授業成果は、ESD 用地域 副読本である、伊藤裕康監修、香川大学大学院教 育学研究科教科教育専攻社会科専修平成21年度1 年生『水土里のパイオニア~人々の暮らしと水との かかわり~』、23―32に反映されている。 3)手元にある書籍や WEB上の指導案を検索した結 果、以下のものが「歴史的背景」を切り口に授業展 開を構想していた。  ①  小林正人・山口幸男(2011)「単元『近畿地方』 の展開」山口幸男編著『動態地誌的方法による ニュー中学校地理授業の展開』明治図書、40-46  ② http://www.hiroshima-c.ed.jp/web/an/j/sya/ sya-j-2302.pdf、2017/12/19参照  ③ http://www1.iwate-ed.jp/db/db2/sid_data/jh/syakai/ jhsya2014/jh_sy2014202.pdf、2017/12/19参照  ④ http://www.city.mihara.hiroshima.jp/uploaded/ life/41026_94084_misc.pdf、2017/12/19参照  ⑤ http://www.edu.city.kyoto.jp/sogokyoiku/kenkyu/ outlines/h25/seika/563/563-10.pdf、2017/12/19 参 照 4)ほとんどの実践が京都や奈良の歴史的景観を取り 上げる中、小林・山口(2011)は、古代の畿内地域 の地理を取り上げた後、天下の台所であった大阪 の近代と現代の都市構造の比較をさせている。こ れは、歴史地理学では最も普通の研究である「過去 の一断面を取り上げるもの」である。この展開を 考えた背景に、現在に直接影響する歴史的背景で はないので地理教育でほとんど取り組まれないが、 「現在に直接繋がらなくても、現在の特色の理解と いう点では意味ある過去の事象はあるように思わ れる」ことから積極的に導入すべきだという山口 (2011,5)の考えがあろう。 5)この問題は、既に伊藤(1997,44)で論じたので、 参照願いたい。 文献 伊倉退蔵(1973)「系統地理学と地理教育」、矢嶋仁 吉・位野木寿一・山鹿誠次編著『現代地理教育講座 1 地理教育の原理』古今書院、126-151 伊藤裕康(1997)「生活科との相互関連・発展を図る 小学校3年生社会科の授業構成―単元「町のうつり かわり」を事例に―」広島文教教育第11巻、41-54 伊藤裕康(2010)「情報消費社会における社会科地理 学習のあり方―持続可能な社会を目指す子ども参 加の地理学習を例として―」、地理教育研究6号、 15-24 伊藤裕康(2011)「『物語(り)』」としての『伝統』-社 会科地理学習における伝統の扱い方-」、社会科教 育研究No.114、77-90 伊藤裕康(2012)「地理教育における伝統とアイデン ティティの扱い方」、地理教育研究11号、36-43 伊藤裕康(2017)「地理教育の意義に関する考察―学

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校教育における社会的問題解決的有用性の観点を 中心に―」、地理教育研究20号、27-32 伊藤裕康・白山敦史(2017)「時間軸と空間軸で考え る!アクティブな地歴連携授業デザイン-地図と 景観写真から歴史的背景を探り、持続可能な社会 のあり方を考える」教育科学 社会科教育701号、 118-119 岩渕孝(2004)「『歴史』をどう扱うか」『地理教育を つくる50のポイント』大月書店、56-59 黒崎千晴(1984)「地理と歴史」、町田貞・篠原昭雄編 著『社会科地理教育講座1 地理教育の理論』明治 図書、69-78 藤田晋(2008)「戦後史の視点をとりいれたヨーロッ パ地誌の授業展開」学芸地理63、34-44 山口幸男(2009)「地誌学習の新しいアプローチ―環境 基盤的アプローチと意味的・了解的アプローチ―」 地理教育研究3号、1-8 山口幸男(2011)「地理教育における歴史的要素の扱 い方に関する考察―歴史地理の時代の到来か―」地 理教育研究8号、1-8

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