香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),26:4-60,2013
「物語り」を活用した学びの振り返りを組み込んだ
社会科授業の開発
伊藤 裕康・笹本 隆志
*・山城 貴彦
* (社会科教育)(附属坂出中学校)(附属坂出中学校) 760-822 高松市幸町1-1 香川大学教育学部 *762-0037 香川県坂出市青葉町1-7 香川大学教育学部附属坂出中学校Development of the Social Studies Lessons to let a Child do
Reflection by the Utilization of the Narrative
Hiroyasu Ito, Takashi Sasamoto
*and Takahiko Yamashiro
*Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522
*
Sakaide Junior High School Attached to the Faculty of Education, Kagawa University, 1-7 Aoba-cho, Sakaide 762-0037 要 旨 「持続可能な社会」の構築に資する人間形成をめざし,学ぶ「意味」を実感できる 効果的な「対話」と「振り返り」の手立てを組み込んだ社会科授業のあり方を探った。その 結果,「物語り作文」は必然的に対話が生まれ,知識や知識を得るためのスキルを活用する 姿も多く見られ,社会的事象に対する認識と当事者性を高め,「学びの物語り」づくりにま でなって「学ぶ意味」を実感することにつながることが分かった。 キーワード 「物語り」 対話 ESD 当事者性 物語り作文
Ⅰ はじめに
子どもの学ぶ意欲の減退が指摘されている。 今ほど「学んでよかった」「こんな意味があっ たのか」と子どもが学びの「意味」を実感でき る授業展開が求められる時はなかろう。香川大 学教育学部附属坂出中学校(以下本校)の2010 年度公開研究会では,研究主題「『学ぶこと』 と『生きること』の統合をめざして」に基づき, 学びの意味や価値を実感させることを目指し, 「語ること」を組み込んだ授業設計を試みた。 真に学びの意味化をするならば,生徒自身が学 びを意味づけることが求められる。それには従 来から教科学習で行われてきた論理-科学的様 式に基づく思考様式の獲得に加え,ブルーナー が指摘したもう一つの我々が持つ思考様式であ る物語の様式を獲得することが要求される。そ の意味から,「語ること」を組み込んだ授業で の学ぶ「意味」を実感させられる振り返りの手 立が課題となった。 そこで,本研究では,「物語り」を活用し, 学ぶ「意味」を実感できる効果的な「対話」の -4-自分なりの価値判断や意志決定,未来予測を し,それを表現し,自らの考えの変遷を振り返 ることが必要である。これらのことが,「市民 的資質」の基礎となる。 「市民的資質」を次のようにとらえた。 「市民的資質」とは,地球社会の成員とし て,社会事象を事実に基づき多面的・多角的 に考察し,より確かな社会認識のもと,自 ら積極的に持続可能な社会の実現に関わっ ていこうとする考えや態度。 ここでいう「市民的資質」とは,多くの側面 をもつ社会的事象を一面的にとらえるのではな く,それぞれの面からとらえ,さらにその一つ 一つの面をより多くの視点で考察することを基 盤にして,確かな社会認識をもち,その上で他 者と意見を語り,自らの考えや判断を見直しな がら社会に主体的に参画していこうとする考え や態度を指している。従って,「市民的資質」 を育成していく上では,他者の考えを知り,視 野を広げたり,矛盾する点や一致しない点につ いて議論したりすることは欠かせないことであ る。たとえ同じ立場で社会的事象を見た場合に も,個人の気づきや考え方は一様ではない。学 習経験や生活経験の少ない中学生にとって,周 囲に存在する見方や考え方の異なる学習者との 対話は,新たな視点や考え方に気づかされた り,あるいは自分の考え方を補強したりし,貴 重な学習材となると言える。また,事前に社会 的事象に対し,これまでどのように考え,感じ たかを生徒にとらえさせておき,授業で様々な 考えを持った生徒と学習することにより,自己 を再度見つめ,学んだことと自己の繋がりを実 感でき,それまでの自己の考えの変遷を振り返 ることにつながる。つまり,学習のまとまりご とに自分の学びを振り返ることは,学びを確か なものとするだけでなく,自己の学びや気づき の変遷を見つめ,過去・現在の自分と社会的事 象の関わりや未来の社会と自己のつながりを考 えるきっかけとなると考える。このことを積み 重ねていくことが社会科を学ぶ「意味」の実感 につながるものと思われる。 あり方と振り返り手法を考案し,同手法を授 業に組み込んで豊かな社会認識を図った上で, 「持続可能な社会」の実現をめざして,主体的 に社会に関わろうとする生徒の育成を図る社会 科授業開発を目的とする。 ところで,近年,物語が文学理論や歴史理論 を始め,ナラティブ・セラピー,社会学的自己 論,臨床教育学等の人間科学で方法論として導 入され,多様に展開している。教育分野におけ る「物語り」を導入した研究は,香川大学教育 学部研究室編(1),矢野・鳶野(2003),毛 利(2006)等,物語論の視点からの教育現象 の解釈や教育のあり方を考察したものがある。 「物語り」を活用した授業そのものに関わる研 究は,必ずしも多くない。しかし,「物語り」 を活用した授業は,新たな授業の地平を拓く 可能性がある(伊藤2010a,伊藤2010b,伊藤 2011a,伊藤2011b)。ナラティブ・アプローチ を社会科教育実践へ援用した,「物語り」を活 用した学びの振り返りは,学びを確かなものと することに加え,自己の学びや気づきの変遷を 見つめ,過去・現在の自分と社会的事象の関わ りや未来の社会と自己のつながりを考えるきっ かけとなると考えられる。なお,本研究では, 「物語り」を物語(語られたもの,ストーリー) と物語る(語る行為,ナラティブ)の二つを合 わせたものとしてとらえている(伊藤2008,伊 藤2010b)。
Ⅱ 「物語り」を活用した社会科授業の開発
1 2011年度の研究主題と研究目的 2010年度の本校研究会の課題を受け,2012年 度の研究会に向けての主題を,「市民的資質を 育成する社会科学習のあり方-豊かな社会認識 の育成を図る対話と振り返りを通して-」と設 定した。 未来を担う生徒にとって社会科の学習を本当 に「意味」あるものとするには,様々な情報か らの確かな事実認識に基づきながら社会的事象 の共通性や特殊性に着目しつつ,社会的事象の もつ意味や本質を理解し,他人と対話しながら本研究では,「対話」のあり方と「振り返り」 手法の重視により,他人の考えにふれ,自己の 文脈が書き換わったり,高まったりする場面を 想定している。具体的には,確かな根拠に基づ き議論し合う中で互いの価値観の相違を認め 合ったり,場合によっては合意形成を図ったり する対話が,どのような形でどのように教師が 関われば,よりよいものとなるかということ を,明確にすることを目指している。 他人の考えにふれ,自己の文脈が書き換わっ たり,高まったりする学習により,過去・現在・ 未来の自分をつなぎ,これからの社会にどう参 画していくのかといった「持続可能な社会」を キーワードとして研究を進めることで,「市民 的資質」が育成できると考えている。 2011年度の本校社会科部の研究目的を,「物 語り」を活用し,学ぶ「意味」を実感できる効 果的な「対話」のあり方と「振り返り」手法を 考案し,同手法を組み込み,豊かな社会認識を 持たせ,「持続可能な社会」の構築をめざして 主体的に社会に関わろうとする生徒の育成を実 現する社会科授業の開発とした。 2 研究の内容 (1)2011年度の研究内容の柱 2011年度の研究の柱は,以下の通りである。 1)「持続可能な社会」の構築につながる授業 の開発。 2)確かな社会認識形成を図る対話の開発。 3)自分の考えの変遷を見つめ,豊かな社会認 識を深める振り返り活動の明確化。 4)確かな社会認識を図るカリキュラム(共通 学習Ⅰ,Ⅱ)の検討。 1)「持続可能な社会」の構築につながる授業 の開発 2010年度までは,対話の内容や質を高めるた めにどのような教材および単元開発が大切であ るかについては研究を進めてきた。また,でき るだけ,合意形成を図るために対話が生まれる ような教材および単元開発も進めた。今回は, 自分と関わり,今後の社会につながる「問い」 を持つことができる教材の開発を進める。自分 との関わりを生徒にもたすためには,いかに 「当事者性」の育成をしていくかが重要である。 2)確かな社会認識形成を図る対話の開発 社会形成に関わる市民として社会に参画しよ うとする意欲と態度を育てる単元の開発を試み る。そこで,対話の手法を用い,価値観の違い を認めあい,様々な視点から持続可能な社会の 実現のために合意形成を図る活動を取り入れ た。合意形成の過程では「相手をいろいろな理 由から説得したり」「相手からいろいろな理由 から説得されたり」という場面がある。こうし た場面のある学習を積むことは「社会的事象の 多面的・多角的な考察に基づく意志決定を行い, 持続可能な社会づくりに貢献できる」生徒を育 成することにつながる。また,異なる資料を持 ち寄り,教えあい,調べあって,疑問点を共有 することは,個人で行う学習活動より学習の深 まりが集団に広がっていく。それをより効果的 に行うにはどのような方法があるかを探ってい きたい。 2010年度の実践では,二人組→四人班→三つ の班→クラス全体と対話する人数を増やしてい く対話の手立てをとった。対話する人数が大き くなっていけば,対話のレベルも上がるように 計画をした。しかし,活発な議論とはなった が,対話のレベルが上がらず,よりよい市民的 資質を育てるための合意形成を図る学習にはな らなかった。自分の主張に終始し,その裏付け となる事実に基づく社会認識が不十分だった り,他人との意見交流による考えの深まりがな い場合が多く見られた。 そこで,2011年度は,対話には必ず,自分の 考えを振り返る場面を設定し,自分の考えの変 遷を意識しながら対話させることが必要である と考えた。自分の主張を事前に明らかにし,そ の立場に立って対話を行う。立場を明らかに し,対話の目的や過程が生徒に分かりやすいも のにする。こうすることで,授業の最後に全体 で対話した時にはかなり深い対話となり,自分 の意見が変遷していく様がうかがえると考え た。また,スムースな対話活動を行うため,司 会の仕方の訓練や担当者の明確化等に心がけ -1-
る。より深い対話にするためには,質問する前 に自己の考えをまとめる時間等の設定等の工夫 も考えられる。 4)確かな社会認識を図るカリキュラム(共通 学習Ⅰ,Ⅱ)の検討 本校で行ってきた共通学習Ⅰ・Ⅱを,総合的 な学習での探究的な学びに繋がるよう再検討し た。つまり,総合的な学習と社会科との位置づ けと各学習のねらいを明確にした。共通学習 Ⅰ・Ⅱを次のようにとらえた。 対話の手立て ○ 学習課題を探る目的を持って交流を行 い,協同で解決していこうとする。また, その対話では「問う」ことを前提に「聴く」 活動を行う。 ○ 学習課題を協同で解決していく中で, 活動自体を個人が振り返り,その後,他 者の振り返りを「聴く」活動を行い,協 同で学ぶ良さを感じあう振り返り,磨き あう活動を行う。 「物語り作文」の特徴と意義 ① 「見たこと作文」の手法を援用した「物 語り作文」 「見たこと作文」は,書く前の追究(見る, 聞く,読む,調べる)の過程が重要である。 ただ追究した事実を書くのではなく,その 事実に社会的事象に対して,生徒のこだわ り,ものの見方,考え方,調べ方の個性が 明確に表出される。社会的事象の何を見た かということにおいて,書き手の個性が結 果として表れてくる。 ② 具体的な場面設定と人物に基づく「物 語り作文」 具体的な人物(架空の人物でも可)が登 場する場面を設定する。場面は,現実に起 きているものでも,架空の場面(真実味を 有しているもの)でもよいとする。この場 面に登場する人物になりきって,つまり, 主人公となって生徒が「物語る」。なりきっ て「物語る」ことは,生徒に「当事者性」 をもたすことを意図している。 ③ 他 者 の 物 語( 語 ら れ た も の, ス ト ー リー)に触れさせ,再編成する「物語り 作文」 「物語り作文」は,他者を意識して書かせ る。他者の存在があることで,自分が「な ぜ,そう考えたか」を語り,自己の学びが どのように変容してきたかを見つめ直すこ とができる。自らの思考の軌跡の振り返り を,対話して新たになった事実や他の考え 方をもとにして再編成していく作文である。 他者の物語に触れさせ,磨きあう場面では, 必然的に対話が生まれる。 今回は学習課題の「問い」を様々な視点から 考察させ,そこに対話の手法を取り入れ,「問 い」に対する自分の「考え」を明らかにさせたい。 3)自分の考えの変遷を見つめ,豊かな社会認 識を深める振り返り活動の明確化 これまでは概念マップ等を授業前後に活用し, 振り返り活動を行ってきた。2011年度は,従来の したことを思い出して書く回想型の作文ではな く,「行動(見る,聞く,調べる)して書く」こ とを特徴とする「見たこと作文」の手法を用いた 「物語り作文」による振り返り活動を行う。 学びの変遷を残していく「物語り作文」を活 用し,学習の中での自らの考えや気づきの移り 変わりを表出させる工夫を試みる。例えば,地 理的分野では単元前に「物語り作文」を「他の 地域の人がある地域で生活(行動)した様子を 日記にしよう」というテーマで,生徒一人ひと りがそれぞれの経験を生かし「物語り作文」を 完成させる。単元終末にそれまでに学習したこ とを振り返らせながら,その作文を他者と共に 磨きあう。このように授業を通して他者と「物 語り作文」について,語り合うことにより,学 んだことを振り返ることにつながると考える。
学 習 の と ら え 方 共通学習 Ⅰ 分野ごとに主体的な学習過程の各段階の 学習技能を明確にし,問い直し,確かな学 力(知識・技能・学び方)の定着を図る。 多面的・多角的な見方考え方の育成という 観点からは,教師が課題追究の立場や観点 を設定し,社会事象に対する自己の理解や 状態の把握に重点を置く。また教科の知識 や技能,特に基本資料を基に重点的に各分 野の見方・考え方を身につけ(習得),それ らを有機的に活用しながら学習課題に取り 組む。 共通学習 Ⅱ 共通学習Ⅰで身につけた見方・考え方を 基に,対話を行うことにより,社会的事象 を多様な視点から分析することで,総合か つ的確にその様相を理解する(活用)。その 上で未来社会を予測し,自分の行為のあり 方を考える学習である。 (2)「持続可能な社会」の構築につながる授 業開発の実際-実践1「銀の島はなぜ,鎖 国したか」(2年生社会科共通Ⅱ)より- 1)グローバルな視野の育成をめざす題材の設 定 フランシスコ・ザビエルは『聖フランシスコ・ ザビエル書簡抄』で日本を,「カスチリヤ人は 此の島々をプラタレアス群島(銀の島)と呼ん でいる。」,「…日本の島々の外に,銀のある島 などは,発見されていない。」と紹介している。 当時の銀山は,16世紀から1世紀にかけて操業 された世界屈指の産出量を誇る石見銀山であ る。産出された銀は,国内だけでなく明との貿 易や密貿易を通じて中国にも流れ込み,アジア の一体化を促した。さらに,大航海時代と重な り,東西の世界が結ばれることにも寄与した。 17世紀に,日本は鎖国政策を決断する。鎖国は どんな意味をもっていたのか。幕府がポルトガ ル船の来航を追い払い,外国人の居留地を限定 したのは,キリシタン禁圧と対外貿易独占のた めであり,支配体制確立のための政策だった。 スペイン,イギリスは日本が追い払ったのでは なく,貿易上不利になったから来なくなったの である。鎖国後にオランダだけが日本に来たの は,幕府がオランダだけを例外とし他をしめ出 したというより,オランダが日本貿易の独占に 勝利をおさめたからである。 2011年の現在,日本のあり方が世界に注目さ れ,リーダーシップが問われている。そうした 中で過去の世界や日本の歴史の中で当時の人々 がどのように考え,決断したかを学ぶことは現 在,そして未来の社会の在り方を考えることに つながっていこう。 国内情勢から見た鎖国政策の理由を考えた生 徒と国際情勢から見た鎖国政策の理由を考えた 生徒とが,対話で考察を深めることで,社会事 象のもつ意味を深く理解させることに心がけた。 国際情勢から見た鎖国政策の理由を考える際, 「石見銀山の歴史」と「世界遺産『石見銀山』」 から鎖国政策の理由を探らせる中で,東西の世 界を一つに結んだ石見銀山の世界史的意義にも 学習の流れ 時間 教師の支援 1 幕府体制の始まり 幕府がどのように大名を統制し,政治に 対してどのように考えたかを理解する。 5M ○ 江戸幕府の政治の方針をいろいろな政策から対話に より深め,まとめさせる。 ○ 自らの学びの変化を振り返り,他者と共有させる。 2 朱印船貿易から貿易統制へ 鎖国の流れとその歴史的背景を理解する。 5M ○ 朱印船貿易から鎖国政策に至る流れをまとめ,対話 により理解を深める。 ○ 自らの学びの変化を振り返り,他者と共有させる。 3 四つにしぼられた貿易の窓口 鎖国中の日本と外国の交易や交流を理解 する。 5M ○ 鎖国中の対外政策をまとめ,対話により理解を深め る。 ○ 自らの学びの変化を振り返り,他者と共有させる。 4 「なぜ日本は鎖国したのか」 ⑴予想と調べ学習 4つの視点に分かれて学習課題を調べる。 5M ○ 学習課題の予想や選択した資料について,グループ ごとに対話しながらまとめる。 ○ 自らの学びの変化を振り返り,他者と共有させる。 ⑵対話と振り返り 調べたことに基づき交流をし,学習課題 をまとめる。 5M 本時 ○ 学習課題について様々な視点から対話しまとめる。○ 自らの学びの変化を振り返り,他者と共有させる。 -3-
気づかせるというグローバルな視野の育成も心 がけた。 2)単元目標と単元計画 ① 目標 ・中世から近世への大きな政治の転換の様子を 世界史や日本国内の様子から考え,江戸幕府 の政治の特色をまとめる。 ・振り返り活動を他者と行い,学ぶ意味を実感 できる。 ② 単元計画(1M=10分) 3)本時の学習指導 ① 目標 日本の鎖国政策について,「世界,国内」の 視点から,対話型コミュニケーションにより, 自分の歴史的判断をとらえ直すことができる。 また,振り返り活動をおこない,そして,他者 と学ぶ意味を実感することができる。 ② 「聴く」と「問う」の価値づけ 対話では,他者の意見を「問う」ことを前提 にして聴く,対話をした後は,振り返り活動を 行うことで「聴く」ことや「問う」ことの価値 付けを行う。その際,教師は生徒の価値付けの 違いに気づかせ,よりよく「聴く」と「問う」 活動を行われるように留意する。 学習内容及び学習活動 予想される生徒の変容 教師の支援 1 学習課題を確認する。 2 同じ視点からの考察で対 話し,活動を振りかえる。 ⑴ 同じ視点から考察をする。 ○ 石見銀山の歴史 ○ 朱印船貿易 ○ 国内事情(出島) ○ 世界遺産「石見銀山」 ⑵ 同じ視点から考察したこ とを振り返り,伝える。 3 4人班で他の視点からの考 察をまとめ,活動を振りか える。 ⑴ 他の視点から学ぶ。 ⑵ 班内で振り返り活動をさ せる。 ○ 自己内の対話 ○ 他者との対話 4 学習課題について,まと め,対話の活動を振りかえ る。 ○ 自分が気づいていなかった視 点に気づき,自分の考えに取り 入れようとしている。 ○ グループで活動し,気づいた ことを他者に話すことで,集団 での学びの有意義性について実 感している。 ○ 他者の学びから自分の学びを 補足したり,関係性を探ったり している。 ○ 他者の学びを聞き,自分の学 びと比較することで,学びの有 意義性を実感している。 ○ 対話をしながら学習すること の有意義性を実感している。 ○ 「問う」・「聴く」ことをワーク シートに位置づけ,常に意識した 対話をさせる。 ○ 同じ視点で対話したことの良さ を見つけさせるためにワークシー トに他者の意見もメモさせる。 ○ 「問う」「聴く」ことをワークシー トに位置づけ,常に意識した対話 をさせる。 ○ 他者の学びをワークシートに記 入させ,自分の学びと比較させ る。 ○ 班のグルーピングにあわせて, ヒントカードを用意する。 ○ 対話を行い,良かったこと,次 にしたいこと等を意識して他者に 伝えるようにワークシートにメモ をさせる。 「銀の島はなぜ,鎖国したか」 ③ 学習指導過程 (3)研究の成果と今後の課題 1)確かな社会認識を実現する対話の手法 社会科の授業で,他者と意見を交換すること はあるが,そこから自己の考えの変遷を見つめ 直すまでには至っていない。「グループ学習で 自分の考えを説明することができるか。」とい うアンケートに,26人が「はい」,14人が「い いえ」と答えた。「はい」と答えた者のうち, 一つの視点だけでなく,様々な視点から説明 できると答えたのは11人だけであった。だが, 様々な視点から説明できると答えた者も真に説 明できるとは言いがたい。 そこで,対話活動について次の2点に注目し ながら,対話を行った。
① 他者への質問の前に内省させる時間を設定 し,それに合わせてワークシートを工夫す る。 ② 対話活動自体を振りかえる時間を設定し, それに合わせてワークシートを工夫する。 このように「対話」の活動を深めるために, グループ編成の仕方を工夫し,ワークシートの 工夫を行った結果,下記のような授業を終えて の生徒の「対話」に関する感想を得た。 ・自分が見ていたところと全く違うところに注 目していて,とてもわかりやすかった。他の 人の意見を聞くことで学ぶことはある。 ・友達とグループで話し合ったので,今までと 全く違う視点から見ることができて,自分の 考えが深まりました。 ・1つの面からだけでなく,別の面から見るこ とで,考えが深まると感じた。 ・1つの視点だけでなく,様々な視点,立場に なって考えることが大切であると感じた。 ・私が見る視点と友達の視点が違っていたの で,面白かった。 ・学習課題をいろいろと考えることは難しかっ た。根拠を持って人に伝えることは貴重な体 験だった。 様々な視点や立場があることには気がつくこ とができたが,対話をする時間が短く,十分語 り合うものとはならなかった。従って,自分が 持っていない視点を取り入れ,考えを十分に深 めるまではいかなかった。そこで,今後は対話 するポイントをしぼった場面を作り,そこに時 間をとり,生徒に振り返らせたいと考えた。 2)自分の考えの変遷を見つめる豊かな社会認 識を深める振り返り活動のあり方 振り返り活動については,次の点に注目し た。 ① イメージマップ(ウェビング)を授業前後, 単元前後に利用し,自己内で終わらすことな く,他者との対話に利用する。 ② 対話を行った後,対話活動そのものを振り 返り,まとめる時間をつくる。 学習シートに見られる「対話」前後での生徒 の考えの変遷を見てみると,振り返りシートで の振り返りにより,自分の考えの変遷に気づく ことができている。しかし,他者との対話に利 用するところまではできていない。生徒の深 まった振り返りを共有できるような時間を作っ ていくことが課題として残った。 3)「持続可能な社会」の構築につながる授業 開発 生徒が,国内情勢とともに国際情勢から対話 という手段で「鎖国政策」を考察するという「持 続可能な社会」の構築につながる授業開発を試 みた。生徒が社会事象のもつ意味をグローバル な視野から深く考えることで,問題や現象の背 景の理解,多面的かつ総合的なものの見方を重 視した体系的な思考力やデータや情報を分析す る能力といったESDで育みたい力が育成でき ると考えた。しかしながら,東西の世界を一つ に結んだ石見銀山の世界史的意義を十分に検討 する場の設定ができず,ESDで育みたい力が 十分には育成できなかった。「持続可能な社会」 鎖国政策に対する見方が広がっている 歴史のつながりが再構築されている 鎖国の概念が整理されている --
の構築につながる新たな視点での教材及び単元 開発を行うことが課題である。 さらに,「持続可能な社会」の構築に向けて の大きな課題として,「当事者性」の育成が必 要である。なぜならば,表1に示したように, ESD授業は,今後人類が挑戦すべきことを課 題とする故に,傍観者的な外観主義的授業は許 されないからである。 3 自分の考えの変遷を見つめ,豊かな社会認 識を深める振り返り活動のあり方の明確化の 実際-「アフマドさんが見た日本の気候」よ り(1年生社会科共通Ⅰ)- (1)地理的分野における読解力を育成する題 材の設定 日本列島は北海道から沖縄県まで南北に細長 く形状が複雑な島国であり,日本の気候は海流 や季節風などの影響を受けている。世界の気候 で見ると日本は温帯地域となるが,実際は6つ に大分類することができる。北海道の気候,太 平洋側の気候,日本海側の気候,内陸性の気 候,瀬戸内の気候,南西諸島の気候である。た だ,同じ気候地域内でも多少の気候差が生じる ため気候区分の境界引きは難しい。 現在生徒が使用している東京書籍版教科書・ 帝国書院版地図帳に,それぞれ採用されている 日本の気候区分図は大きく異なっている。とく に,島根県は前者では,日本海側の気候に属し ており,後者では,太平洋側に属している。そ れぞれ出典は明記されているものの,作成者が どんな指標で日本の気候を区分したかは書かれ ていない。 社会科は,ただひとつの結論を理解させ習得 させるだけでなく,多様な見方や考え方,選択 が可能なものから,生徒が自分なりの価値観に 基づいて,自分の判断により,どの結論を選択 するかを学習する教科である。地理学習には, 地理的事象から意味のある「地域」を発見する といった大きな特徴がある。前述した,気候区 分図も万能ではなく,ひとつの見方や論理では 理解したり判断したりすることができず,様々 な角度からの考察が必要である。様々な指標か ら気候区分図を作成し,作成者の目的や苦労に 触れさせ,一つの地域を発見させる学習を展開 することで,目にする気候区分図に親しみや敬 意を持ち,学習意欲の高まりもみられるととも に,様々な自作資料に基づいて,多面的・多角 的な見方や考え方を駆使して,地理的な問題に 対して自分の意見を構築することができる価値 ある題材であると考える。そのことが,ESD で育みたい力である,問題や現象の背景の理 表1 「私たちと次の世代の生命と暮らしの持 続可能性を妨げる課題にどんなものがあ るか」に関わる課題 領域 課題 社会・ 文化 【人権】人種や民族,性,障害等をめぐる差別や偏見の解消【平和】戦争やテロ の防止,核兵器・地雷・不発弾等の除去, 海洋の安全【文化】異文化理解推進,歴 史的遺産や文化等の多様性と伝承・継承 【健康】HIV・エイズをはじめとしたグ ローバルな感染症等の病気の予防・治癒 と食や薬の安全【統治】民主的で誰もが 参加可能な社会制度の実現,公正な権利 と収益の保障【犯罪】地域や学校・家庭 で起こる犯罪や非行・いじめ・虐待等の 防止とケア【情報】学校や家庭を超えた 個人情報の漏洩,ネット犯罪,情報操作 や扇動,情報格差の解消 環境 【天然資源・エネルギー】水・石油・原 子力・レアメタル等の資源・エネルギー の維持,漁業資源の維持,森林破壊防止 と生物多様性の保持【農業】持続可能な 農業の実現【環境】地球温暖化等の地球 環境破壊の防止と回復,森林破壊防止, 海洋汚染の防止【農村開発】持続可能な 農村生活の実現【都市】持続可能な都市 生活の実現 【災害】多発する風水害等の 様々な自然災害の防止と緩和 経済 【貧困削減】途上国・先進国間,各国に おける経済格差や貧困の克服【企業の社 会的責任・説明責任】企業の社会的責任・ 説明責任の促進【市場経済】公正な市場 経済の実現 (伊藤2010a)
解,多面的かつ総合的なものの見方を重視した 体系的な思考力やデータや情報を分析する能力 を育んでいくことにつながると考えた。 (2)「物語り」を活用した「人間有在の地理 学習」を目指して 本学級の生徒は,過去に実践した,地図上に 示した地理的な情報を処理して,問題を解決し ていくことには,9割以上の生徒が意欲的に取 り組む。しかし,歴史と地理を比較した場合, 地理を苦手と感じている生徒の方が多い。苦手 な理由として,「人間が登場しない,はなしがつ ながりにくい。」などを理由として挙げている。 そこで,「物語り」を活用した「人間有在の 地理学習」を心がけることにした。その場合, 従来の日本の気候の扱いでは,気候区分名を覚 えることばかりに意識があり,人間が出てこな い,物語性のない題材となっていることが多 かった。また,生徒の実態を見てみると,生活 経験上,瀬戸内の気候は夏場に雨が少ないこと など,大まかには理解しているものが8割を占 めるが,その気候がそこで暮らす人々にどんな 影響を与えているかについて考えようとする姿 勢については弱いと言える。 本実践では,次の3点に留意した。 ① 従来の思い出して書く作文ではなく,「行 動(見る,聞く,調べる)して書く」ことを 特徴とする「見たこと作文」の手法を用いる ことを考えた。すなわち,生徒を具体的な人 物(架空の人物)になりきらせ,感じたこと を「物語り作文」として書かせて,地理学習 にストーリー性を持たせ,地理を学ぶ意味を 感じ取らせる。 ② 自作の資料をつくらせることで,自分の思 いや考え方を反映させるとともに,その資料を 根拠にさせる場や,知識を活用する場を設定 し,自己の存在感を味わう喜びを実感させる。 ③ 同質な考えを持つ者と異質な考えを持つ者 を一つのグループにすることで,対話の質を 高める。 (3)単元「アフマドさんが見た日本の気候」 の実際 1) 目標 ・事実に基づいた日記を意欲的に書き,島根の 気候の特色を明確にしていく過程を通して, 日本の気候の特色を認識することができる。 ・「物語り作文」による日記の内容を仲間同士 で検討しあう中で,自らのこれまでの思考の 軌跡を振り返ることができる。 2) 単元計画(1M=10分) 3) 単元の展開の実際 ① 「島根の気候にふさわしい気候区分名は?」 の目標 ・島根の気候にふさわしい気候区分名を様々な 指標に基づいて判断し,仲間とともに検討し 提示することができる。 ・明らかになった事実をもとに,島根での生活 日記を書くことができる。 ② 「対話」と「内省」について ・自らの思考の軌跡の振り返りを,対話して新 たになった事実や他の考え方をもとにして書 く,「見たこと作文」の手法を用いた「物語 り作文」として表出させる。 ・同じ気候に関する日記を二度書かせること で,「あさい内省→対話→ふかい内省」のし 学習の流れ 時間 教師の支援 故郷を離れて島根での生活(一年間を終え て)の日記を書こう。 5M 「見たこと作文」の手法を用いた日記を書かせる。 島根の気候は日本海側の気候?太平洋側の 気候? 5M ×2 使用している教科書・地図帳の気候区分図の違いに着目 させ,その違いの生まれる要因を様々な指標から作成し た資料と対話する場を設ける。 島根の気候にふさわしい気候区分名は? 5M 本時 グループ内でふさわしい気候区分名を提示させ,学級全体で質問させ,ふさわしいかどうかを検討させる。 故郷を離れて島根での生活(二年間を終え て)の日記を検討しよう。 5M 日記について質問しあうことで,自分の考えを深めさせる。 -7-
くみをつくり,内省を深めたい。 ・調べた事実をもとにした日記を書かせること で,言語能力の育成にもつなげたい。 ・対話をするためには,自分のものにならなけれ ば語ることはできない。そのため,自作の資料 をつくらせることで,自分の思いや考え方を反 映させ,それを根拠にする。それをもとに対話 をさせることで対話の活性化を図りたい。 ③ 単元の展開の一部 (4)研究の成果と今後の課題 1)「物語り作文」による認識の深まり 単元終末に書いたMさんの振り返りを紹介す る。 下線部①からは,他者との対話により,新た になった事実や他の考え方をもとにして,自分 自身の考えを振り返ることができたと考えられ る。このことは,実践1で課題であった生徒の 深い振り返りを共有できるような時間の確保が できたことによると考えている。また,実践1 のもう一つの課題であった対話するポイントを しぼった場面設定による生徒の十分な振り返り は,下線部②から達成されたと考えられる。 2)「当事者性」の育成を図る場面設定と教授 方略の有効性の確認 いろいろな意見を聞いて,自分の考えが もっと深まりました。「乾季節風」(注:生徒 が創造した気候名)など,①私にはなかった 考え方を聞いていて,「嗚呼!!なるほど」 と思いました。山陰ばかり考えていたので, 新しく考えてみようと思いました。自分は, 日記を各視点として,②冬に雪で困ってい るとずっと思っていましたが,もしかする とこの人(注:架空の人物)は,湿度で悩ま されていたんじゃないかと思いました。(下 線と番号は筆者) 学習内容及び学習活動 生徒の反応 教師の支援 1 学習課題を確認する。 2 各グループから提示され た気候区分名を検討する。 ・違う見方考え方を参考に する。 ・疑問に思うところは質問 する。 ・補足をする。 3 島根での生活日記を更新 する。 ・来日2年目の作文 ○ 同じ指標なのに,区分の仕方 でこんなにも違う名称が出るも のなのか。 ○ なぜ,このような名称にした のか? ○ いろいろ指標から考えて,こ ういのがいいなあ。 ○ 島根の気候のそれぞれの特徴 が見えてきた。 ○ どの名称が島根県らしいのかの 視点で,わからないことや疑問点 を質問するように助言する。 ○ 必ず,根拠を述べるようにさせる。 ○ 島根の社会科教員から聞いた話 をし,どちらとも言えることを確 認させる。 ○ 登場人物の行動を明記させるこ とで,その裏にある一人ひとりの 考えを表出させる。 ○ 次時はこの意見を磨きあうこと を伝える。 ○ 必ず事実に基づいて,日記を書 くことを確認する。 1 学習課題を確認する。 2 更新した島根での生活日 記を各グループで検討する。 ・違う見方考え方を参考に する。 ・疑問に思うところは質問 する。 ・補足をする。 3 個々で日記を更新する。 ・来日2年目の作文 ○ なぜ,アフマドさんはこの季 節が困ったと言えるのか? ○ 島根の気候だけでなく,アフ マドさんの故郷のカイロの気候 から考えてみよう。 ○ 仲間の意見を聞いたことも参 考にしてみると,アフマドさん が生活して困ったのは,きっと この季節だ。 ○ 質問への返答には,作成した地 図を利用するなど,根拠を述べる ようにさせる。 ○ 実際にカイロでの滞在経験があ る者の話を紹介する。 ○ 必ず事実に基づいて,日記を書 くことを確認する。 島根県の気候にふさわしい気候区分名は? 更新した島根での生活日記を検討しよう。
「持続可能な社会」の構築に向けての大きな 課題として,「当事者性」の育成がある。「当事 者性」は,実在または架空の人物がどう判断し 行動したかを考える際に自己を投影していく過 程で育成されるものであると考えた。そこで, 本実践では,以下の点を重視して授業展開し た。 ① 生徒の深い振り返りを共有できるような時 間の確保ができたことによると考えている。 対話をするためには,自分のもの(当事者性) にならなければ語ることはできない。そのた め,自作の資料をつくらせることで,自分の 思いや考え方を反映させ,それを根拠にした 対話をさせることで,対話の活性化を図る。 また,自作の資料をつくらせることは,当事 者性を高めるとともに,自己の存在感を味わ う喜びを実感させること,つまり「学ぶ意味」 を実感することにもつながる。 ② 自らの思考の軌跡の振り返りを,対話して 新たになった事実や他の考え方をもとにして 書く,「見たこと作文」の手法を用いた「物 語り作文」として表出させる。作文の情報を 再編成するためには,仲間,つまり他者が必 要になり,必然的に対話が生まれる。「島根 での生活日記を書こう」を課題として,「物 語り作文」を二度書かせることで,「あさい 内省→対話→ふかい内省」のしくみを組織し, 内省の深化を図る。 以上の手立てをとった結果,下線部②から分 かるように,Mさんは,アフマドさんの立場に 立って,生活上解決しなければいけない問題に 真剣に向き合っている。このことは,Mさんの 中に「当事者性」が芽生えてきたことを意味し ている。 さらに,「学びの物語り」づくりの中で,地 理的事象に対する理解を深め,その知識や知識 を得るためのスキルを活用する生徒が多く見ら れた。また,調べた地理的事象をもとにした 「物語り作文」を書かせることは,言語能力の 育成にもつながる可能性を感じた。 ③ 人間有在の地理学習の実現 地理を学ぶ意味を実感させるために具体的な 人物を登場させ,ストーリー性を持たせ,生徒 一人ひとりが「学びの物語り」づくりを行うよ うに工夫した。次に紹介するのは,単元終末に 書いたY君の「物語り作文」である。 7月△日 さあ今年も夏がやってきた。確か昨年の 日記には,あーあー,弱音しか吐いていな い。毎日もだえていたばかりだった。でも 今年は大丈夫。とても安くなった扇風機を 冬の間に買っておいたのだ!店員さんに不 思議がられたけれど,「来年の夏のために」 と言ったら,「賢いね」とほめられた。あは は,あれこれ前に書いてたかな。まあいい や,とりあえずあんな目にあわなくてすむ。 やっぱり調べてみたら,ここはカイロより 暑い。なんて言うかな。なんかモアモアす るんだなぁ。日本人はこれを蒸し暑いと表 現するようだ。確かに蒸し焼きにされてい るような暑さだ。これには湿度が関係する ようだ。南のアブシンベルよりは暑くない 気がするが,なんか違う。温度でだけじゃ ないんだ。いやいや,まあ,今は涼しいよ。 さあ夏よ。どこからでもかかってきなさ い!! アフマドさんという架空の人物を登場させ, なりきって「物語り作文」を書かせることで, Y君の「物語り作文」に見られるようにストー リー性が生まれている。さらに,Y君は,彼の エジプト旅行体験を組み込んで,日本より南の アブシンベルの方が,暑いはずなのに,温度だ けで判断するのではなく,湿度も考えなければ いけないという物語りをつくっている。これ は,Y君なりの「学びの物語り」づくりである。
Ⅲ おわりにー研究の成果と課題
本研究では,「持続可能な社会」の構築をめ ざし,「語ること」を組み込んだ授業での学ぶ 「意味」を実感できる効果的な「対話」のあり 方と「振り返り」の手立てを組み込んだ社会科 授業のあり方の究明をめざした。本研究成果と --して,以下のことが挙げられる。 ① 対話をするには,自分のもの(当事者性を もつ)にならなければ語ることはできない。 それ故,「物語り作文」をさせることで,自 分の思いや考え方を反映させ,それを根拠に した対話をさせることで,対話の活性化を 図った。その結果,生徒の深い振り返りを共 有する時間の確保と対話するポイントをし ぼった場面設定による生徒の十分な振り返り ができ,認識の深まりがみられた。 ② 「持続可能な社会」の構築に向けての大き な課題に,「当事者性」の育成がある。「当事 者性」は,実在または架空の人物がどう判断 し行動したかを考える場面において自己を投 影していく過程で育成される。その意味か ら,「物語り作文」は,当事者性を高めるこ とができる。さらに,「物語り作文」は自己 の存在感を味わう喜びを実感させる,つまり 「学ぶ意味」を実感することにもつながった。 ③ 自らの思考の軌跡の振り返りを,対話して 新たになった事実や他の考え方をもとにして 書く「物語り作文」は,作文の情報を再編成 するために仲間,つまり他者が必要になり, 必然的に対話が生まれた。 ④ 調べた社会的事象をもとにした「物語り作 文」は,言語能力の育成にもつながるととも に,「学びの物語り」づくりにもなる。「学び の物語り」づくりでは,社会的事象に対する 理解を深め,その知識や知識を得るためのス キルを活用する生徒が多く見られた。 今後の課題として,次の3点を挙げておく。 ① 「持続可能な社会」の構築につながる新た な視点での教材及び単元開発。 ② 他者とともに学びあう中で,それぞれが 「学びの物語り」づくりをしていくために, 価値判断や意志決定を行える場面設定の開 発。 ③ 「物語り作文」を活用した,どの生徒も学 びの価値を実感できる教授方略の確立。 参考文献 伊藤裕康・金野誠志:「出力型授業観」に基づく社会 科教育の研究2―続「シンガポール引っ越し物 語」(観光編)の実践より―,地理学報告87号, 18 岩田一彦:社会科固有の授業理論,明治図書出版, 2001 文部科学省:中央教育審議会教育課程部会「審議の まとめ」,2007 岩田一彦・米田豊編著:『言語力をつける社会科授業 モデル 中学校編』,明治図書,200 伊藤裕康:地理学習における「物語(り)」の意味, 社会認識教育実践学研究会編著『社会認識教育 実践学の構築』,東京書籍,2008 伊藤裕康:情報消費社会における社会科地理学習 のあり方―持続可能な社会を目指す子ども参加 の地理学習を例として―,地理教育研究6号, 2010a 伊藤裕康:当事者性を育む社会科学習―物語構成学 習による地理授業の開発―,社会系教科教育学 研究22号,2010b 伊藤裕康:「物語り」を活用した「人間有在の地理」, 地理教育研究8号,2011a 伊藤裕康:「物語り」を活用した授業づくり,香川大 学教育実践総合研究23号,2011b