Regional
県内における
インバウンド先進地の取り組み
円安と中国など新興国の富裕層の増加を背景に、近年インバウンド客が大幅に増加している。 県内においても、スノーリゾート地として定評のある白馬村や、歴史的建造物がある松本市、長 野市などへの来訪者が増加する一方で、地元が認識していなかった魅力を外国人が発見し、訪 れるようになった南木曽町などの地域もみられる。本稿ではこれらインバウンド先進地の事例を 紹介するとともに、インバウンド客誘致に取り組むヒントを探る。 ◆長野県におけるインバウンドの概況 ◆長野県におけるインバウンドの概況 2015年の全国の外国人旅行者数は、速報値 で前年比47%増の1,973.7万人と過去最高を更 新した。長野県においても、15年の外国人延 べ宿泊者数は90万人を超え、全国同様に増加 している。長野県の調査によると、国・地域別 では台湾が最も多く、次いでオーストラリア、 中国、香港の順となっている(図表1)。 外国人を魅了する県内観光地 外国人を魅了する県内観光地 宿泊者数を市町村別にみると、白馬村が最 も多く、松本市、長野市などがこれに続いてい る(図表2)。こうした市町村はスノーリゾー ト地(白馬、志賀高原など)、避暑地(軽井沢、 上高地)あるいは、歴史的な建造物(松本城や 善光寺)がある地域として定評があり、外国人 に対しても信州の自然や歴史文化が強い訴求 力を持っていることがうかがえる。 こうした中で、地域住民が認識していなく ても、外国人が地域の魅力を発見して情報発 信することで、インバウンド客が増加してい る地域もある。 以下では、インバウンド誘致に早くから取 り組んで成果を上げている白馬村や野沢温泉 村のほか、古い街道の魅力が外国人を引きつ けている南木曽町の取り組み事例を紹介する。 図表1 外国人延べ宿泊者数国・地域別構成比 (長野県、2014 年) (資料)長野県観光部「2014年外国人延宿泊者数調査」 図表2 外国人延べ宿泊者数の多い市町村 (長野県、2014年) (資料)長野県観光部「2014年外国人延宿泊者数調査」 台湾 32.4% その他 22.6% シンガポール 3.0% 韓国 3.2% タイ 4.1% アメリカ 4.7% 香港 6.6% 白馬村 松本市 長野市 軽井沢町 大町市 山ノ内町 茅野市 (人) 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 中国 7.4% オーストラリア 16.0% 台湾 32.4% 中国 7.4% オーストラリア 16.0% 77,724 74,915 51,713 35,811 30,911 28,675 25,397Regional
【地域レポート】
県内における
インバウンド先進地の取り組み
円安と中国など新興国の富裕層の増加を背景に、近年インバウンド客が大幅に増加している。 県内においても、スノーリゾート地として定評のある白馬村や、歴史的建造物がある松本市、長 野市などへの来訪者が増加する一方で、地元が認識していなかった魅力を外国人が発見し、訪 れるようになった南木曽町などの地域もみられる。本稿ではこれらインバウンド先進地の事例を 紹介するとともに、インバウンド客誘致に取り組むヒントを探る。Regional
インバウンドは10年前の7倍に増加 インバウンドは10年前の7倍に増加 白馬村の2014年における外国人延宿泊者数 は7万7,724人と前年比で28.4%増加し、04年 からの10年間で約7倍となっている。国・地 域別の構成比ではオーストラリアが55.4%と 最も多く、台湾やシンガポールなどのアジア 地域が29.4%、欧州7.5%、北米5.7%となって いる。概ね1週間程度滞在し、近隣の松本市 や地獄谷温泉、高山市などに足を延ばすほか、 白馬で3~4泊した後、京都や東京に移動す る人も多い。 官民連携による積極的なPRを展開 官民連携による積極的なPRを展開 インバウンド客にとって白馬の魅力のひと つが雪質の良さだ。一晩に数十センチの降雪 がある白馬は、欧米人スキーヤーが好むバッ クカントリースキー(圧雪されていない新雪を 滑るスキー)を存分に楽しむことができる。ま た、オーストラリア人の受け入れで先行して いたニセコと違って近くに街並みがあり、地 元の住民との交流も魅力の一つとなっている。 白馬村では、05年に地元ホテル事業者によ る誘致団体「白馬ツーリズム」が結成された。 翌年には「長野 - 新潟スノーリゾートアライア ンス実行委員会」を志賀高原、妙高高原(新潟 県)の宿泊事業者らと結成。その後野沢温泉も 加わりオーストラリアを中心に旅行博に出展 するなど、積極的な PR を行ってきた。 現地の旅行業者に日本へのツアーを組成し てもらうためには、成田空港から現地までの 運賃やスキー場のチケット代のほか、宿や宿 泊料の情報が必要となる。白馬村では宿泊事 業者自らがこうした情報を提供しツアー内容 を交渉することで契約をスムーズに進め、誘 客に結び付けてきた。 白馬村への外国人客の増加を支えてきたも う一つの組織が白馬村観光局であり、官民一 体で観光推進を行うべく04年に設立された。 ここにはインバウンド専門の部署があり、「白 馬ツーリズム」などの民間団体や近隣地域と 連携した対外的なプロモーション、外国語表 記のホームページの作成など、誘客体制の整 備に努めてきた。 観光局は主に北米、北欧、東アジア、東南ア ジアといった地域へのプロモーションを行っ ている。現地の旅行業者に白馬へ実際に来て もらい、宿泊事業者やバス事業者、飲食店など の地元の事業者と接触する機会を作り、誘客 に努めている。 進むインフラ整備と他地域との連携 進むインフラ整備と他地域との連携 白馬村は長野オリンピック開催によりすで に道路標識の英語表記等を整備していたほか、 主な宿泊施設でも Wi-Fi 環境やクレジット カード対応などの整備も進んでいる。 また、村内の宿泊施設が中心となり、英語表白 馬 村
1 事例 世界的スキーリゾートを目指して 世界的スキーリゾートを目指して ▲白馬岳を望む外国人スキーヤーと居酒屋に集う外国人客トルバスも運行しているが、飲食店不足に対 応するため、15年から隣接する大町市・小谷村 への運行を行っているほか、近隣の糸魚川市 ともシャトルバスを運行するなど、近隣地域 との連携も進んでいる。 こうした対応も白馬の魅力として SNS 等 を通じて広がっている。 世界レベルのスキーリゾートを目指して 世界レベルのスキーリゾートを目指して 白馬村は長野オリンピック開催の実績はあ るが、世界における「HAKUBA」の知名度は 依然として低いのが現状だ。世界的なスキー リゾートと認められるには欧州、米国両地域 からの来訪者の増加が必要と考えており、そ れに向けた取り組みを開始している。 欧州や北米での商談にあたっては、スキー 場関係者、ランドオペレーターや宿泊および バス事業者、スキーガイドなどから成る5~ 6人のチームで現地に赴いている。これによっ てプランや条件などをその場でスピーディー に意思決定して現地の旅行会社に提示するこ とができ、成約に結び付いている。このチー ムには英語が話せる日本人経営者や、在住外 国人経営者が多く、こうした人材が商談を進 めるうえでの大きな力となっている。 ただ、欧州や北米から誘客するためには、白 馬だけを情報発信していても不十分であり、 そのため松本城や地獄谷温泉といった県内観 光地のほか、時には東京や京都など他地域の パンフレットなど国内の魅力的な観光地を紹 介しながら「白馬」もPRする工夫をしている。 また、14年には白馬村と隣接する大町市、 小谷村の11スキー場を一体とした山岳観光エ リア「HAKUBA VALLEY」を結成。欧米のス さらに2015/16のシーズンからは世界の 名だたるスキーリゾートが加盟する「The Mountain Collective」にアジアのスキー場で 唯一加盟が認められ、今後さらなる誘客が期 待されている。 北陸新幹線延伸に早くから対応 北陸新幹線延伸に早くから対応 野沢温泉観光協会の独自の調査によると、 2014/15スノーシーズン(14年12月~15年3 月末)における外国人延宿泊者数は7万1,800 人泊と、前年同期に比べて15.3%増加した。 さらに15年3月の北陸新幹線新飯山駅の開 業に備えて、野沢温泉村は事前に英語併記の パンフレットを宿泊客に配布して周知を図っ てきた。地元のバス事業者も飯山駅からの直 通便の運行に向け、新たな車両の導入や、路線 バスの車両の一部転用などによって開業に備 えてきた。その結果、1日9往復・大型バス1 台で運行している直通便はほぼ満車の状態で あり、増車を要請するケースもあるほどだ。 また、近隣の斑尾高原スキー場と提携して シャトルバスを運行している。 スキー場、温泉街、居住地域が一体化 スキー場、温泉街、居住地域が一体化 野沢温泉の魅力は、スキー場の規模や雪質 の良さ、温泉に加え、宿泊施設や温泉街と地元 の住民が居住する地域が一体にまとまってい ることが挙げられる。村民の生活に溶け込め るといった面では、インバウンド誘致で先行 する白馬村をしのぐ面もあり、大きな魅力と なっている。
野沢温泉村
地域に溶け込める温泉地が魅力 2 事例 地域に溶け込める温泉地が魅力Regional
こうした魅力を伝えようと、観光協会と旅 館組合、スキー場を経営する株式会社野沢温 泉、および役場観光産業課が一体となって対 外的な PR やイベント活動を行っている。ま た、白馬村の宿泊事業者らと連携して、「長野・ 新潟スノーリゾートアライアンス実行委員会」 に加盟し、オーストラリアを中心にプロモー ション活動を実施している。 具体的には、スキーシーズンが終盤を迎え る3月から、現地のエージェントの招へいや 現地でのプロモーション活動を行い、8月に は翌シーズンのピーク時の宿の予約は一杯と なるという。雪不足でもキャンセルは少なく、 近隣の地獄谷温泉のほか、新幹線を使って金 沢市内に遊びに行く人も多い。 インバウンド客は年が明けた3連休から入 り込みが増加し、日本三大火祭りの一つ、「道 祖神祭り」が開催される1月15日前後がピー クとなる。2月後半からはオーストラリア人 客などが減少し、中国の春節による増加は若 干あるものの、3月以降は少ないというパター ンである。 滑走区域外への侵入やマナー等の課題も 滑走区域外への侵入やマナー等の課題も インバウンド客は概ね4~5泊程度滞在す るケースが多い。 夕食については、滞在期間中に村の複数の ホテル・旅館で互いに受け入れる体制を構築し、 さまざまな夕食を楽しめるよう工夫している。 ただ、泊食分離が進んで夕食を提供できない 宿泊施設も増えているため、近隣の飯山市な どに宿泊事業者が送迎するケースもある。 また、インバウンド客を迎えるにあたって の難しい課題もある。近年増加する外国人ス キーヤーによるスキー場の滑走区域外への侵 入であり、遭難事故も増加している。 ゲレンデ外の深雪は、パウダースノーを好 む外国人スキーヤーにとって魅力的なためだ が、ここで滑走している様子を撮影した動画 が SNS で配信され、更なる侵入者を誘発する ことも多い。 そこで今シーズンからゲレンデ外に侵入す る場合には、事前にスキー場に届け出るよう に規則を定めた。 また、最近は外国人在住者が経営する無許 可と思われる民泊が見受けられ、ごみの分別 が徹底されなかったり、宿泊者が夜騒ぐといっ た問題が出てきている。今後もこうした問題 が起こると野沢温泉全体のイメージダウンと なることが懸念されている。 インフラ整備とグリーンシーズンの集客 インフラ整備とグリーンシーズンの集客 インフラ整備については、Wi-Fi の導入を 一部事業者が進めているものの、いまだ整備 が遅れているのが現状だ。今後、温泉街の中 心地から地域全体に整備を進めていく方針だ。 また、グリーンシーズンについては、マウン ▲野沢温泉を楽しむ外国人客に増えている。今後はグリーンシーズンの利 用者の実数を把握し、対象とする国・地域を重 点的に定めて誘客をさらに進めたい意向だ。 近年、欧米の旅行者を中心に増加している 観光地の一つが南木曽町にある旧中山道の妻 籠宿だ。欧米人は、昔のローマ街道やパリに 至る街道など、歴史的な街道を踏破すること への関心が高い。その点、中山道は江戸時代 に大名や侍が歩いた道であり、ここを自分の 足で踏破できるのが大きな魅力となっている。 こうした風景を動画に撮影して SNS で配信 することで口コミが広がり、来訪者が増加し ている。なかには中山道の風景を気に入った スペインの旅行会社の社長が団体のツアーを 組む事例もあるほどだ。 古い街並みの保存に地道に取り組んだ成果 古い街並みの保存に地道に取り組んだ成果 妻籠宿では、中山道の宿場町の街並みを保 存し、観光による地域振興を図るべく、1968 年に地域の全住民の参加による「妻籠を愛す る会」を発足させた。以降、家屋の修繕から立 木の伐採に至るまで、景観の保全に努めてき た。こうした地道な取り組みが、国内からの 観光客のみならず、インバウンド客の来訪に もつながったといえる。 妻籠を愛する会によると、2014年度には中 山道の馬籠峠を越える外国人ハイカー数は、 1万2,555人となった。15年度は4月~12月 時点で既に1万6,133人となっており、前年度 を大幅に上回る見通しである。 「妻籠を愛する会」が外国人観光客に向け に行ったアンケート調査によると、来訪者の 国・地域別構成比では、イギリスやスペイン を中心とする欧州が60%と一番多く、次いで オーストラリアなどを中心とするオセアニア (17%)、北米(15%)の順となっている。一方、 台湾、中国などアジアからの来訪者は5%に とどまっている。 来訪時期は4~11月が多いが、降雪がある 1~3月も通行者は途絶えることはない。 近隣市との連携やインフラ整備を開始 近隣市との連携やインフラ整備を開始 外国人ハイカーの増加に伴い、妻籠観光協 会は隣接する馬籠観光協会と連携して、3月 ~11月の間妻籠宿(南木曽町)から馬籠宿(中 津川市)間で、ハイカーの荷物配送サービスを 行っている。また、南木曽町と中津川市が連 携し、15年3月に旧中山道の宿場など8カ所 (南木曽町では3カ所)において Wi-Fi のサー ビスを開始した。 また、同年4月にはこれまで閉鎖していた JR 南木曽駅の観光案内所を復活させ、英語を 話せる職員を常駐させているほか、12月には 同駅前の観光案内看板を付け替えるなど、受 ▲妻籠宿の街並みと石栃立茶屋で休憩する外国人客