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Mizuho Country Focus 2018 年 11 月 5 日みずほ銀行国際戦略情報部 米国 メキシコ カナダ Tracking Trump5 ~ 米国 メキシコ カナダ協定合意 ~ 要旨 2018 年 9 月 30 日 米国 メキシコ カナダの 3 国間で 現行の北米自由貿易協定 (No

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2018 年 11 月 5 日 みずほ銀行 国際戦略情報部

Mizuho Country Focus

【米国・メキシコ・カナダ】Tracking Trump⑤ ~米国・メキシコ・カナダ協定合意~

1.背景

NAFTA とは、貿易の自由化による経済発展を目的として、関税の引き下げ、金融・投資の自 由化等を取り決め、加盟国間での貿易障壁を取り除き、より円滑な国間取引を行うために作 ら れ た 協 定 で あ る 。 1989 年 1 月発効の 米加 自由 貿易 協定( U.S.-Canada Free Trade Agreement)を前身とし、米国・メキシコ・カナダの 3 ヵ国によって 1992 年 12 月に署名された。 NAFTA は全 22 章にわたる条項と労働・環境に関する補完協定で構成され、その第 1 章で は協定の目的を以下のように規定している。 (1) 加盟国間の貿易障壁撤廃、モノ・サービスの移動促進 (2) 公正な競争環境の整備 (3) 投資機会の拡大 (4) 知的財産権の確実な保護・履行 (5) 協定の履行・共同運営および紛争解決に関する手続きの整備 (6) 協定の恩恵を拡散・拡大するための、加盟国間の協力の枠組み作り 【要旨】

 2018 年 9 月 30 日、米国・メキシコ・カナダの 3 国間で、現行の北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement, 以下“NAFTA”)に代わる、米国・メキシコ・カナダ協定(United States – Mexico – Canada Agreement, 以下“USMCA”)に関する合意が成立。2017 年 5 月に本格的に始まった NAFTA の再交渉が、ようやく 1 つの 区切りを迎えた。  USMCA においては、完成車および自動車部品に関する北米域内の原産割合が引き上げられたほか、完成車 メーカーに対して北米原産の鉄鋼・アルミを購入するよう定めており、北米域内の自動車産業集積を推し進める 内容となっている。ただし、メキシコ・カナダ両政府が USMCA に関する合意を受けて、今後何らかの国内自動 車産業支援策を打ち出す可能性があること、企業の調達構造によっては必ずしも米国産部品の買い増しや米 国人労働者の雇用が正しい対応にならないこと等には、留意する必要がある。  USMCA は 3 国間で取引される、あらゆるモノ・サービスの貿易ルールを定めているが、USMCA の条項の中で 日本企業にとって最も影響が大きく、また関心が高いのは、自動車に関するものであろう。そこで本稿では、自 動車に関係する条項に的を絞り、各条項の発効が北米に拠点を置く自動車各社の事業への影響について考 察する。 NAFTA とは (出所)NAFTA 原文よりみずほ銀行国際戦略情報部作成

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NAFTA が発効した 1994 年 1 月以降、3 国間の貿易関税は順次撤廃され、2008 年には米 加間で取引される一部の農畜産品を除き、全てのモノ・サービスに対する各種貿易障壁が取 り払われた。このことから、協定の施行は 3 国間の貿易促進に一定の効果をもたらしたと言わ れている。一例として、米国通商代表部(United States Trade Representative, 以下“USTR”) が 2008 年 3 月に公表した報告書“NAFTA – Myth vs. Facts”によれば、三国間の貿易総額は 1993 年(=協定が署名された翌年)以前の 14 年間(1979 年~1993 年)では 2,970 億ドルで あったのに対し、1993 年以後の 14 年間(1993 年~2007 年)には 9,300 億ドルとなり、3 倍以 上に増加したことが報告されている。 トランプ大統領は、2016 年の大統領選時から反自由貿易政策を選挙公約の 1 つとして掲げ ており、対墨貿易赤字を増加させ、米国内の雇用を奪ったとされる NAFTA からの離脱をちら つかせていた。この狙いは、自由貿易の枠組みを批判することで国内産業を保護する姿勢を アピールし、国際競争に晒されている製造業従事者の支持を集めることにあったとみられる。 実際に、2016 年の大統領選では、いわゆる「ラストベルト」と呼ばれる地域に属する州でトラン プ氏が支持を集め、従来民主党の支持傾向が強かったミシガン州・ウィスコンシン州・オハイ オ州等において共和党が勝利した。トランプ氏は大統領に就任して早々に NAFTA の再交 渉を宣言し、USTR が 2017 年 5 月にこれを正式に議会通知したことで、米・墨・加 3 ヵ国の交 渉が本格的に始まった。 3 ヵ国正式会合は、2018 年 7 月までの間に計 8 回開催されたものの、自動車の原産地規則 やサンセット条項(一定期間ごとに加盟国間で協定の存否を協議し、加盟国全てが協定存続 に合意しなければ、自動的に協定を消滅させる取り決め)等、複数の条項に関する協議で決 着がつかず、痺れを切らした米国は、メキシコに対して相対での 2 国間 FTA 交渉を持ちかけ た。この米国側の要求にメキシコが応じたことで、米墨間の交渉は加速。6 週間に及ぶ集中 的な協議の末、2018 年 8 月 27 日に米墨 FTA の大枠合意が発表された。米墨がカナダを除 いた 2 国間での合意形成を急いだ背景には、11 月の中間選挙に向けた実績作りを急ぎたい 米国と、12 月の新政権発足前に NAFTA 問題を片付けたいメキシコとの、思惑の一致があっ たとみられる。米国の大統領貿易権限促進法(以下“TPA 法”)では「通商協定に署名する 90 日以上前までに議会への署名意思を通知し、同 60 日前までに協定の全文を公表しなけれ ばならない」と定めているため、米墨はペニャ・ニエト現メキシコ大統領の任期が終わる 2018 年 11 月 30 日から逆算し、2018 年 8 月末までの大枠合意を目指していた。 2018 年 8 月 31 日の議会通知において、トランプ大統領は、2018 年 9 月末までにカナダが 新協定への加盟に合意すれば、NAFTA 同様の 3 ヵ国での枠組みを維持するとした。これに より、2018 年 9 月 5 日に米加間の協議が開始。両国は主にカナダの乳製品市場開放および 紛争解決メカニズムの存否を巡って激しく対立を繰り広げたが、3 ヵ国協定の維持を求める声 が強まるなかで、2018 年 9 月 30 日深夜に、ついに米国とカナダが全ての条項について合意 したと発表された。新たな協定は“NAFTA”の名称を嫌うトランプ大統領の意向を汲み、米国・ メキシコ・カナダ協定(USMCA)と自由貿易協定を表す FTA が外れた名称が付けられた。米 加合意翌日の 2018 年 10 月 1 日に、USMCA の原文(全 34 章の条文と、投資・金融サービ ス・国有企業に関する付属文書および 13 のサイドレターから成る)は、USTR のホームページ に公表された。 2.USMCA の合意内容 3 ヵ国間で合意された USMCA には、自動車、農産物、繊維製品の貿易に係る規定等がされ ており、その条文案は USTR のホームページで公開されたものの、統一規則等はまだ発表さ れておらず、詳細までははっきりしない部分もある。日系企業によるメキシコへの進出が多い 自動車産業に関して言及すれば、原産地規則の厳格化および米国が通商拡大法 232 条発 動時の自動車および部品の輸入制限は、日系企業にとってもインパクトが大きいと想定され るため、関連する項目に焦点を当てて考察していきたい。 自動車産業への インパクト大 NAFTA 再交渉の経緯 USMCA 合意 3 ヵ国の枠組維持へ

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©2018 株式会社みずほ銀行 3 / 8 自動車産業に関する合意内容は大きく 2 点あり、【1】原産地規則、および【2】米国通商拡大 法 232 条発動時の輸入制限枠の設定となる。 【1】原産地規則については、4つの項目(①完成車に対する域内原産割合(RVC)、②部品に 対する域内原産割合(RVC)、③鉄鋼・アルミの域内調達義務、④賃金条項(LVC))から成って おり、全項目を達成している場合には関税がかからず、1 つでも未達成のものがある場合は、 最恵国待遇税率の関税(乗用車 2.5%、小型トラック 25%)が課税されることとなる。 【2】米国通商拡大法 232 条発動時の輸入制限については、米国が通商拡大法 232 条を発 動した場合に、通常は対象となるすべてのモノの米国への輸入に追加関税が発生するもの の、USMCA のサイドレターにおいては、メキシコ・カナダからの一定台数以下の乗用車およ び一定金額以下の自動車部品の米国への輸出は追加関税対象外とすることが合意されて いる。 以下では各項目についてより詳細に説明する。 NAFTA では 62.5%であった完成車および自動車部品に関する原産割合は、USMCA では、 完成車 75.0%、部品は 65.0%~85.0%に以下の表の通り、段階的に引き上げられる。 USMCA における完成車および部品の原産割合につき、注目すべきポイントは 2 つある。 1 つ目は、完成車および自動車部品に関する原産割合が引き上げられているだけでなく、原 産割合の計算において一部の非原産材料を原産材料扱いすることを認めた「トレーシングル ール」が廃止となっている点である。従来トレーシングリストには鉄鋼・鋼板が含まれておらず、 原価が低い中国等、米・墨・加域外から調達することが多かったが、この変更に伴い、米・墨・ 加から調達する方法を検討する必要が生じる。 【1】 原産地規則 ① 完成車に対する RVC ② 部 品 に 対 す る RVC (出所)USMCA 原文、みずほ総合研究所資料よりみずほ銀行国際戦略情報部作成 自動車産業に 関する合意内容 計算方式 現状 2020年 /発効日 2021年 /発効日+1年 2022年 /発効日+2年 2023年 /発効日+3年 ① 完成車に対す る域内原産割合(R V C) 乗用車・小型トラック 純費用 62.5% 66.0% 69.0% 72.0% 75.0% ② 部品に対す る域内原産割合(R V C) 純費用 - 66.0% 69.0% 72.0% 75.0% 取引価格 - 76.0% 79.0% 82.0% 85.0% 主要部品 純費用 - 62.5% 65.0% 67.5% 70.0% (Principal) 取引価格 - 72.5% 75.0% 77.5% 80.0% 補完部品 純費用 - 62.0% 63.0% 64.0% 65.0% (Complementary) 取引価格 - 72.0% 73.0% 74.0% 75.0% 区分 基幹部品 (Core) ※スーパーコア部品(7品目)は純費用方式でRVC満たす必要あり (出所)NAFTA 原文よりみずほ銀行国際戦略情報部作成 (出所)NAFTA 原文よりみずほ銀行国際戦略情報部作成

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©2018 株式会社みずほ銀行 4 / 8 2 つ目のポイントは、自動車部品の種類によって、充足すべき原産割合が個別に規定されて いる点である。乗用車・ライトトラックの部品については、基幹部品・主要部品・補完部品に分 類され、それぞれ原産割合が定められている。基幹部品は、エンジン、リチウムイオン電池、 サスペンション等、主要部品は、タイヤ、ガラス、ブレーキ、車輪等、補完部品は、測定装置、 配線セット、ランプ等が含まれる。 さらに、エンジン、トランスミッション、車体およびシャシ、駆動軸、サスペンション、ステアリング、 リチウムイオン電池の 7 品目については、スーパーコア部品として、純費用方式で 75%の原 産割合を満たすことが、完成車の原産認定の条件の 1 つとなる。 USMCA では新たに、乗用車・ライトトラックの完成車メーカーが遵守すべき、鉄鋼・アルミの 原産割合が設けられた。完成車メーカーが原産認定を受けるには、前年度に購入した鉄鋼・ アルミの 70%以上が北米原産でなければならない。 この鉄鋼・アルミのルールで留意すべき点は、7 割という基準が鉄鋼・アルミの購入(原文 4-B-1-14 頁、“purchase of steel”, “purchase of aluminum”)自体に対して設けられているもので あり、決して「車体を構成する.......鉄鋼・アルミの 7 割以上が北米原産でなければならない」とは書 かれていない点である。すなわち、工場の建設や製造ラインの新設・改修は備品の買い替え 等の過程で購入した鉄鋼・アルミについても、まとめて原産割合の計算式に含まれる可能性 があり、企業によっては 7 割という基準の充足が極めて困難になるケースも想定される。ただ し、本ルールについては協定原文にも「追記・修正の余地あり」との記載があるため、今後こ のルールがどのように具体化されていくかについて、注意深く見守る必要がある。 USMCA において自動車の原産地規則を構成する 3 つ目の要素が、今回新設された賃金条 項である。時給 16 ドル以上の高賃金地域での生産比率が制定され、乗用車の場合は 40%、 小型トラックの場合は明記されていないものの合算すると 45%となり、3 年間で段階的に引き 上げられる。 具体的な計算方法は以下をご参照。 小型トラック 2020年 /発効日 2021年 /発効日+1年 2022年 /発効日+2年 2023年 /発効日+3年 2020年 /発効日 全体 (a) + (b) + (c) 30% 33% 36% 40% 明記なし (a) 原材料・製造 (年間部材購入額(APV)+労働コスト)※ 純費用 もしくは APV+労働コスト のいずれか 15%以上 18%以上 21%以上 25%以上 30%以上 (b) 技術 研究開発及び情報技術に対する賃金支払額 域内生産賃金支払総額 (c) 組立 エンジン、トランスミッション(ともに生産能力10万基以 上)、先端電池(生産能力2.5万基以上)の組立工場を 域内に所有すること等が条件※ ※については、時給16米ドル以上の域内(北米)に所在する高賃金工場を対象とする 乗用車 費用項目 計算方法等 LVCとして組み込めるのは10%未満 5%Pt未満のクレジット付与 (出所)USMCA 原文、みずほ総合研究所資料よりみずほ銀行国際戦略情報部作成 【1】 原産地規則 ④ 賃金条項 【1】 原産地規則 ③ 鉄鋼・アルミ域内 調達義務 計算方式 現状 2020年 /発効日 2021年 /発効日+1年 2022年 /発効日+2年 2023年 /発効日+3年 ③ 鉄鋼・アルミの域内調達義務 完成車メーカー使用量 前年購入額 - 70.0%(完成車対象) 区分 (出所)USMCA 原文、みずほ総合研究所資料よりみずほ銀行国際戦略情報部作成 計算方式 現状 2020年 /発効日 2021年 /発効日+1年 2022年 /発効日+2年 2023年 /発効日+3年 ④ 賃金条項(LV C) 乗用車 後述 - 30.0% 33.0% 36.0% 40.0% 小型トラック 後述 - 区分 45.0% (出所)USMCA 原文、みずほ総合研究所資料よりみずほ銀行国際戦略情報部作成

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©2018 株式会社みずほ銀行 5 / 8 賃金条項については、現時点では定義が曖昧な用語が多く、公開されている情報のみで諸 比率を正確に計算することは困難であるものの、ポイントは完成車について「生産時給 16 ド ル以上」かつ「北米域内の」工場で作られた部品や原材料を、一定割合用いることが求めら れているという点である。元々時給の高い研究開発や情報技術に従事する人材への賃金支 払いも 10%までは考慮されるものの、基本的には高賃金(時給 16 ドル以上)の製造ライン作 業員により作られた部品の利用を促進することが、賃金条項の主旨である。 賃金条項導入における米国の狙いは、低コストでの部品調達や組立を求めてメキシコに拠点 を置いている自動車メーカーを米国に呼び戻すことにある。メキシコ大学院大学(Colegio de México)の調査によれば、自動車業界における平均賃金は米国では時給 28.60 ドル、カナダ では 26.34 ドルであるのに対し、メキシコでは時給 3.14 ドルと大きく米加の水準を下回ってい る。そのため、原産地規則を満たすために高賃金地域での生産に移管する場合のコストイン パクトと、原産地規則を満たさず関税を負担する場合のコストインパクトを試算のうえ、いずれ を選択するか検討する必要がある。 USMCA の別添 2-C およびサイドレターには、米国通商拡大法 232 条が発動された場合に、 メキシコ・カナダに適用される輸入制限について明記されている。通商拡大法 232 条は、米 国の安全保障上の脅威を理由に、米国が貿易相手国・地域に対して制裁を課すことを認め る米国の法律。乗用車や自動車部品の輸入増加が米国の安全保障を脅かすと商務省が判 断すれば、大統領は関税引き上げなどの是正策を発動できる。万一、通商拡大法 232 条が 発動されても、メキシコ・カナダから米国に輸入する乗用車や自動車部品に関しては、今回 設けられた輸入制限台数・金額の範囲内であれば、追加関税なしで輸入できる、いわば救済 措置となる。輸入制限枠については、下表のとおり定められている。 輸入制限台数・金額の枠が個別企業に対してどのように配分されるかは、現時点では決まっ ていない。本数量制限はメキシコ・カナダへの投資を慎重化させる要因になりうるものの、通 商拡大法 232 条が発動された場合の措置であること、発動自体が WTO 違反の懸念があるこ と、また、足元の対米輸出実績でみれば、墨加共にまだ数年間は上限に達しないとみられて いることを考慮すると、慎重になりすぎる必要もないのではないか。 3.USMCA がもたらす影響 トランプ政権にとって、USMCA の合意は通商上の大きな勝利と言える。先述の通り、トランプ 大統領は NAFTA を米国に有利な形へ作り変えることを公約として掲げていたが、USMCA の内容をみれば、この公約が(トランプ大統領の思い描いた形で)実現されたことは明らかで ある。特に、本稿で触れている賃金条項や乗用車・自動車部品の対米輸入規制は今後、自 動車メーカー各社の目を米国に向けさせ、多少なりとも米国産部品の利用や対米投資の拡 大、ひいては米国労働者の雇用増をもたらすとみられる。自動車の生産コスト上昇は販売価 格に転嫁され、結局は米国消費者の首を締めることになるが、その痛みは来年以降の協定 発効までは顕在化することはない。また、トランプ大統領は公約の 1 つとして、メキシコとの国 トランプ政権に とっての影響 (出所)USMCA 原文、みずほ総合研究所資料よりみずほ銀行国際戦略情報部作成 【2】 通商拡大法 232 条 発動時輸入制限 対象国 対象品目 対米輸出上限 2017年実績値 上限超過時の関税率 乗用車(※1) 260万台/年 163万台 「25%」もしくは 「輸入実施時の米国MFN税率」の低い方 自動車部品 1,080億米ドル/年 563億米ドル 「2018年8月1日時点での米国MFN税率」 もしくは「輸入実施時の米国MFN税率」 の低い方 乗用車(※1) 260万台/年 187万台 不明 自動車部品 324億米ドル/年 161億米ドル 不明 メキシコ カナダ (※1)ライトトラックは本規制の対象外

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©2018 株式会社みずほ銀行 6 / 8 境に移民の不法侵入を阻止する壁を建設し、建設費をメキシコに負担させることを掲げてい たが、USMCA によって新たにメキシコからもたらされる税収を用いて壁を建設し、「公約を実 現した」とアピールすることは十分考えられる。即ち、今後トランプ大統領率いる共和党は 11 月の中間選挙に向け、USMCA を大きな成果として臆面なく誇示していくものとみられる。 また USMCA には、自国の輸出を促進するための意図的な通貨安誘導をしないことをコミット する為替条項が盛り込まれている。通商協定における為替条項の導入は、日本や中国の自 国通貨売りを「為替介入である」として嫌気するトランプ政権が度々主張しているものであり、 2018 年 3 月には米韓 FTA において為替条項が盛り込まれた。メキシコのグアハルド経済大 臣も「為替条項はメキシコの金融政策に影響を及ぼすものではなく、むしろ今後米国と通商 交渉を行う NAFTA 域外の国々に対する牽制として作用するもの」だと述べている。米韓 FTA および USMCA への為替条項導入で弾みをつけたトランプ政権は今後、日本を含む各国と の通商協議においても為替条項を取り上げることが想定され、協議の結果によっては金融政 策の幅が狭められる国が出てくる可能性もある。 USMCA の内容のみに焦点を当てると、現状メキシコで行われている自動車・自動車部品の 製造が米国に部分的に移管される可能性もあるのではないかと思われる。時給 16 ドルに満 たないメキシコで作られた部材を使っていても賃金条項は満たせず、メキシコから米国への 乗用車・自動車部品の輸出規制も投資に影を落とす。しかしながら、協定の枠外にあるさまざ まな要因を勘案すると、必ずしも今後 ”Buy American” の流れが進むとは言い切れない点 には留意すべきである。 まず、国益の確保が最優先事項であるメキシコの政府が、GDP の 3%を占める自動車産業の 危機を黙って見ているはずはない。例えば、自動車メーカーの多くが進出する中部のバヒオ 地区等に特区を設置し、人件費の高い優秀な技術者や研究者の誘致に補助金を出して高 度な部品開発や研究開発を推し進めれば、賃金条項の充足に寄与すると共に、自動車産業 の競争力向上も見込める。これはほんの一例であるが、メキシコ政府が今後、USMCA の合 意内容を踏まえた国内自動車産業支援策を打ち出していくのは間違いないであろう。 また、メキシコの労働組合は比較的経営層と距離が近く、米国の労働組合と比べて発言力が 弱いとも言われているが、当然ながら企業にとっては、組合の力が弱い国・地域の方が投資 先としては魅力的である。また、米国の平均賃金は自動車に限らずさまざまな産業でメキシコ より高く、物流・販売等を含めたトータルコストで考えると、メキシコの労働力や部品を用いて 自動車を製造した方が割安となるケースも多分に想定される。こうした USMCA の合意内容 に表れていない諸要因を勘案すると、USMCA によってメキシコ自動車産業が打撃を被ると は、一概には言い切れない。 メキシコとは反対に、時給 16 ドル以上という賃金条項の要件を満たすカナダにとっては、 USMCA は国産自動車部品の販路拡大や、自動車メーカー誘致のチャンスであると言える。 特にカナダ政府は、高速回線や快適な住環境を備えたスマートシティを整備して AI 産業へ の投資を募る等、産業誘致に秀いでている。USMCA 合意によって自動車各社の目が北米 に向いている今、カナダ政府が同じような手法で自国での自動車産業集積を推し進めたとし ても不思議ではない。 USMCA の条文を詳しく読むと、メキシコやカナダから米国に輸出をしている完成車メーカ ー・部品メーカーが必ずしも “Buy American” “Employ Americans” にシフトするとは限らず、 各社の事情に応じた選択肢があることが分かる。メキシコから米国に完成車を輸出している企 業を例に取ると、当該企業は自社の部品調達構造や原産割合の充足状況を加味し、①米国 産部品の割合を増やす、②メキシコ産部品の割合を増やす、③調達構造を変えずに米国に 輸入関税を払う、といういずれかの措置を講じることとなる。 以下の図は、メキシコから米国に乗用車を輸出している完成車メーカーを例とし、この企業が 自社の調達構造や各種原産地規則に応じてどのような戦略を取り得るかを示したものである (各種比率は協定発効から 3 年後の水準を想定)。 自動車メーカーに とっての影響 メキシコに とっての影響 カナダに とっての影響

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©2018 株式会社みずほ銀行 7 / 8 まず、完成車メーカーにとっても関係のある、表 A.2 上の部品(エンジン、トランスミッション、 サスペンション等)の原産割合と、鉄鋼・アルミの原産割合の充足状況を調べ、いずれか一方 でも充足していなかった場合、北米原産の鉄鋼・アルミや自動車部品を買い増して基準の充 足を目指すか、部材の調達構造を変えず、米国に 2.5%の輸出関税を支払うかを選択するこ ととなる。いずれも充足している状態であれば、続いてパターン 1~4 へと進む。 パターン 1 は、車体全体の原産割合と賃金条項とを共に充足しているケースである。この場 合は従前通り、米国に対して無関税で自動車を輸出出来るため、特段の対応を要さない。 パターン 2 は、賃金条項を満たしているものの、原産割合が 75%に僅かに満たないケースで ある。この場合は、取り扱っている部品のうち北米域外のもの(例:中国産の部品)を、原産割 合に満たない分だけ、米・墨・加いずれかを原産とする部品で代替すればよい。3 ヵ国の部品 を比較した場合、一般的にメキシコ産の部品が最も安価なため、結果としてメキシコ産部品を 買い増すという選択が最適となる。 パターン 3 のように、原産割合・賃金条項共に僅かに未充足である場合は、米国産部品の割 合を増やすことで原産割合も賃金条項もクリアすることができるため、多少コストがかかったと しても、関税をゼロに抑えるために”Buy American”を選択することが想定される。 パターン 4 は、パターン 3 同様に原産割合・賃金条項を両方満たしておらず、しかも米国産 部品の割合が極めて少ないケースである。この場合はアジア産等の安価な部品を高価な米 国産部品で無理に代替し、無関税での対米輸出を勝ち取るよりも、既存の調達構造を変え ず、あえて 2.5%の関税を支払って輸出する方が低コストとなることも十分有り得る。この場合、 企業は既存の商流を維持しつつ、関税負担を受け入れるであろう。さらには、関税を支払う 一方で、米国産部品をアジア等からの輸入品に切り替えることでコスト削減を図ることも選択 肢となり得る。 なお、パターン 2 および 3 においては、完成車メーカーによる調達構造の組み換えが行われ ることになるが、これは当然ながら当該完成車メーカーと取引のある Tier 1 サプライヤーの事 業・業績に影響を与え、この影響は Tier 2, Tier 3 へと波及していく。したがって、自動車部品 メーカーにおいては自社の調達構造を把握することはもちろん、より上流に位置する販売先 の調達構造についても可能な限り把握し、USMCA を踏まえて今後起こり得る取引内容の変 化についてもシミュレーションしておくことが望ましい。 (出所)USMCA 原文よりみずほ銀行国際戦略情報部作成

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©2018 株式会社みずほ銀行 8 / 8 4.おわりに USMCA は今後、TPA 法のスケジュールに基づいて 11 月末に米・墨・加の 3 ヵ国によって署 名されるとみられ、その後は各国の議会において批准に向けた手続きを踏むこととなる。協定 が発効となるのは、3 ヵ国全ての議会で協定が批准されてからであるが、2018 年 11 月の米国 中間選挙の結果や 2019 年 10 月に予定されているカナダの総選挙の動向次第では、発効 が 2020 年以降となる可能性もある。自動車メーカー各社にとってはこの猶予期間の間に、 USMCA 発効を見据えた対策を講じることが求められる。 USMCA において設けられた各種原産地規則や輸入規制は、米墨または米加に跨るサプラ イチェーンを持つ自動車メーカーの一部にとっては、北米原産、特に米国産の部品買い増し や、投資計画の変更を強いる可能性がある。そしてこの影響は、完成車メーカーから Tier1, Tier2 以下の部品メーカーへと波及していくことが見込まれる。しかしながら、企業の調達構造 によっては、米国産ではなくメキシコ産の部品を買い増す、既存の調達・販売ルートは変えず に米国に関税を支払うといった戦略が最適となるケースも想定されるため、北米に進出して いる自動車メーカー各社の当面の課題は、新たな原産割合の充足と米国への関税支払いと を天秤に掛けた、入念なフィージビリティ・スタディであろう。そしてこのフィージビリティ・スタ ディには、USMCA の内容を踏まえた墨加政府の動きも考慮に入れる必要がある。 また、自動車産業は北米域内に限らず、供給網がグローバルに張り巡らされているのが大き な特徴である。このため、自動車メーカー各社は USMCA の合意を 1 つの契機として、世界 規模で調達構造を見直すことで、最適なサプライチェーンを構築し直すことも求められる。特 にメキシコに拠点を置くメーカーにとっては、40 ヵ国以上に及ぶ同国の FTA 網を活用し、欧 州や中南米等、米国以外の販路を開拓していくことも選択肢となり得る。 最後に、根本的な問題として、USMCA の本文がまだ著しく不完全であることも忘れてはなら ない。協定の本文は米加の大筋合意が成された翌日に公表されたため、いまだに公開され ていない重要項目が散見される等、TPA 法のスケジュールに追われて突貫工事で作成・公 開されたことが伺える。そもそも協定の各章冒頭においても、「正確性・明確さ・一貫性に関す る法的レビュー、および用語・記述に関するレビューに服する」と前置きされており、今後協定 にさまざまな加筆・修正が加えられていくことは間違いない。したがって、企業は USMCA の なかで自社の事業に関係する条文を特定し、それがどのように書き換えられていくのか、実 務的な運用がどう定義されていくのか、定期的に確認して情報をアップデートしていく必要が ある。 以上 本資料は金融ソリューションに関する情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定の取引の勧誘・取次ぎ等を強制するものでは ありません。また、本資料はみずほフィナンシャルグループ各社との取引を前提とするものではありません。 本資料は当行が信頼に足り且つ正確であると判断した情報に基づき作成されておりますが、当行はその正確性・確実性を保証するものでは ありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることがあります。本資料のご利用に際しては、貴社ご自身の判断にて なされますようお願い申し上げます。本資料の著作権は当行に属し、本資料の一部または全部を、①複写、写真複写、あるいはその他の如何なる手 段において複製すること、②当行の書面による許可なくして再配布することを禁じます。

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