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ノート 医療薬学 40(2) (2014) R-CHOP 施行時における発熱発現に対するスルファメトキサゾール / トリメトプリム合剤の予防投与の有効性および安全性評価 * 赤木晋介, 加納沙代子, 小野田順子, 長尾由佳 阿曽沼和代, 上田恭典, 高栁和伸 1

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緒  言

スルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤 (sulfamethoxazole/trimethoprime: ST) は, 平 成 24 年 7 月にニューモシスチス肺炎(pneumocystis jiroveci pneumonia: PJP)の治療およびその発症抑 制に対する適応を承認された.1)本剤は,海外で はすでに PJP に対する治療および発症抑制につい て承認されており,国内外の成書やガイドライン では第 1 選択薬として位置づけられていた.今回, 特に発症抑制について保険適応が認められたこと には大きな意義がある.また,ST は一部のグラ ム陽性菌およびグラム陰性菌に対して抗菌スペク トルを有することから,PJP の発症抑制と共に細 菌感染に対する発症抑制効果も期待できる. 抗がん剤治療中に感染症を合併し患者が死亡す ることは極力回避しなければならず,また救命で きたとしても感染症の治療に長期間を費やすこと は基礎疾患であるがん治療の中断となるため,感 染症対策は臨床的に極めて重要な課題とされる * 〒710-8602 岡山県倉敷市美和1-1-1 40(2) 78―84 (2014)

R-CHOP施行時における発熱発現に対するスルファメトキサゾール/

トリメトプリム合剤の予防投与の有効性および安全性評価

赤木晋介*1,加納沙代子1,小野田順子1,長尾由佳1 阿曽沼和代1,上田恭典2,高栁和伸1 公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 薬剤部1,血液内科2

Evaluation of Efficacy and Safety of Sulfamethoxazole/trimethoprim

Prophylaxis for the Incidence of Fever during R-CHOP Chemotherapy

Shinsuke Akagi*1, Sayoko Kanoh1, Junko Onoda1, Yuka Nagao1, Kazuyo Asonuma1, Yasunori Ueda2 and Kazunobu Takayanagi1

Department of Pharmacy 1,

Department of Hematology 2, Ohara Healthcare Foundation Kurashiki Central Hospital Received July 3, 2013

Accepted December 26, 2013

 This study evaluated the efficacy and safety of sulfamethoxazole/trimethoprim (ST) prophylaxis after combination chemotherapy with rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine and prednisolone (R-CHOP) for the treatment of non-Hodgkin's lymphoma. We retrospectively analyzed the incidence of fever in 63 lymphoma patients that received R-CHOP chemotherapy from October 2009 to November 2011. Thirty-five patients received ST prophylaxis (ST group). Twenty-eight patients received no prophylaxis (control group). Fifteen patients of the ST group and 19 patients of the control group experienced fever. The incidence of fever was lower in patients receiving ST. Two patients were diagnosed with pneumocystis jiroveci pneumonia (PJP) in the control group. There were no PJP patients in the ST group. There was no statistical significant difference in sex, age, pathology type, clinical stage and complications between the ST group and control group. Age, complications, grade 4 neutropenia, clinical stage Ⅳ and antifungal agent did not increase the fever risk. And there was no statistical significant difference of ST and antifungal agent in the multivariate analysis. For the odds ratio respectively, ST was 0.36, and antifungal agent was 0.33. Adverse events occurred in 3 patients, 2 were skin disorders, and 1 was aspartate aminotransferase/alanine aminotransferase elevation. Death by infection did not occur. The result in this study indicates that ST prophylaxis may reduce not only PJP, but also the incidence of fever.  Key words ―― sulfamethoxazole/trimethoprim, prophylaxis, lymphoma, R-CHOP, fever

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( National Comprehensive Cancer Network: NCCN clinical practice guidelines in oncology; Prevention and treatment of cancer-related infections, Version 2, 2011. http://www, nccn, org/).特に,好中球数が 減少すると発熱する危険が高く,その発現頻度を がん種別に見ると,前立腺がんでは 2~21%,乳が んでは 2~34%,結腸・直腸がんでは 5.8~14.6%, 肺がんでは 1.9~28%,悪性リンパ腫では 18~ 63%と報告されている.2-5)このような状況の下, 発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)と いう病名が提唱され,本邦を含む各国においてそ のガイドラインが作成されている.3, 6) ガイドラインでは好中球数 100 /μL 以下の状態 が 7 日を超えて続くことが予想される場合に予防 的に抗菌薬を投与することが推奨されている.好 中球減少期に抗菌薬を予防投与することにより発 熱,感染症,菌血症の発現頻度は有意に低下する.7) また,リンパ腫や固形腫瘍患者に対して予防投与 を推奨する報告やメタ解析も報告されている.8, 9) しかしながら,日本人を対象としたがん治療中 の抗菌薬の予防投与の有用性を検討した報告は限 られている.そこで今回,当院において抗がん剤 治療を受けた悪性リンパ腫の患者を対象として, 発熱発現に対する ST の影響について調査した.

方  法

1.対象患者 当院において 2009 年 10 月~2011 年 11 月の期 間に,リツキシマブ,シクロホスファミド,ドキ ソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン併 用 療 法(combination chemotherapy with rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine and prednisolone: R-CHOP)を施行した悪性リンパ腫 の患者を対象とした.電子カルテを用いて,後方 視 的 に 発 熱 の 発 現 状 況 に つ い て 調 査 し た. R-CHOP療法の投与スケジュールを図 1 に示し た.患者群は,R-CHOP 療法開始時から PJP の発 症抑制のために ST を継続投与した群(投与群) および投与しなかった群(対照群)に分類した. 治療開始前より発熱していた患者,治療途中に STが中止された患者,ST 以外の抗菌薬が予防投 与されていた患者は対象外とした. 患者の背景因子として,性別,年齢,病理組織 図 1 R-CHOP・ST スケジュール a)1 コースは 3 週を基本,1 コース目は入院,2 コース目から外来で施行.b)1 コース目は CHOP のみ,2 コース目からリツキシマブ併用.c)早期症例では 3~6 コース,進行期では 6~8 コース施行.d)ST は, 1コース開始直後または直前から開始,最終投与のナディア回復期まで継続.

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型(World Health Organization 分類),臨床病期(Ann Arbor分類),既往症,CHOP 投与回数,治療中 の白血球数および好中球数,抗真菌薬の投与の有 無,FN の発現についても調査した.FN は,好 中球数が 500 /μL 未満,かつ腋窩温 37.5 ℃以上の 発熱を生じた場合とした. 2.観察期間・評価項目 初回の CHOP 療法投与日から最終投与後のナ ディア回復までを観察期間とした.観察期間中, 1 度でも 37.5℃以上の発熱があり,かつ,ST 以 外の抗菌薬による治療介入を行った群(発熱群) および発熱がなく ST 以外の抗菌薬による治療介 入を行わなかった群(非発熱群)について,ST 投与の影響を評価した. 発熱群におけるリスク要因として,年齢(61 歳以上),合併症,臨床病期Ⅳ期,grade 4 の好中 球減少症,ST 投与,抗真菌薬の投与の 6 項目に ついて関連性を分析した.白血球減少や好中球減 少などの有害事象は,Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)Version 4.0 を用いて 重症度分類を行った.なお,白血球および好中球 数について,発熱群では抗菌薬による治療介入時 の数値を,非発熱群では観察期間中の最低値を評 価項目とした. その他,ST との因果関係が否定できない有害 事象の発現状況,投与群および対照群間における PJPの発現状況についても調査した. 3.統計解析 投与群と対照群における患者背景因子の分析に は,χ2 検 定,Student の t 検 定,Mann-Whitney の U検定を用いた.また,非発熱群に対する発熱群 のリスク因子の分析には,χ2 検定および 2 値ロ ジスティック回帰分析を用いた.統計解析ソフト は IBM SPSS 20.0J for Windows(日本アイ・ビー・ エム(株),東京)を使用した. 4.倫理的配慮 本調査は,疫学研究に関する倫理指針(平成 20年 12 月 1 日一部改正)に従い,当院における 臨床研究審査委員会審査に基づき,医の倫理委員 会において承認された(承認番号 第 1262 号).

結  果

1.患者背景 評価対象の患者は 63 例で,投与群は 35 例,対 照群は 28 例であった.表 1 に患者背景を示した. 性別,年齢,病理組織型,臨床病期,合併症率, CHOP療法投与回数,最低白血球数および最低好 中球数について,両群間で有意差は認められな かった. 抗真菌剤は,投与群 13 例(37.1%),対照群 2 例 表 1 患者背景 投与群 (n = 35) (n = 28)対照群 P 値 性別 男 / 女 15 / 20 10 / 18 0.565 年齢中央値(範囲) 58 (40 – 69) 60 (21 – 69) 0.735 病理組織型(WHO 分類) 0.143  びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 23 12  濾胞性リンパ腫 11 13  その他 1 3 臨床病期(Ann Arbor) Ⅰ / Ⅱ / Ⅲ / Ⅳ 6 / 7 / 7 / 15 4 / 7 / 4 / 13 0.899 合併症率 28.6 % (10 人) 32.1 % (9 人) 0.759 CHOP 療法コース数平均 6 6 0.346 最低白血球数中央値(範囲) 1000 (400 – 3000) 950 (400 – 1700) 0.645 最低好中球数中央値(範囲) 144 (0 – 1815) 159 (14 – 833) 0.910 抗真菌剤の投与 37.1% (13 人) 7.1% (2 人) 0.005 FN発現 40.0% (14 人) 60.7% (17 人) 0.102

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(7.1%)に投与され,対照群において有意に少な かった. FNの発現患者は,投与群において14例(40.0%), 対照群において 17 例(60.7%)に認められたが, 両群での有意差を認めなかった. 2.ST の有効性の評価およびリスク因子の分析 表 2 には発熱発現にかかわるリスク要因につ いて単変量解析による分析結果を示した. STについては,図 2 にも示すように発熱が発 現し抗菌薬による治療介入を行った患者は,投与 群 15 例(42.9%),対照群 19 例(67.9%)に認 められ,投与群において有意に少なかった(P = 0.048). 年齢(61 歳以上),合併症の有無,臨床病期Ⅳ 期,grade 4 の好中球減少症について,有意差は 認められなかった. 表 3 には ST および抗真菌剤の発熱発現に対す る影響について,ロジスティック回帰分析を行っ た結果を示した.共に有意差は認められなかった ものの,ST 投与のオッズ比は 0.36(P = 0.051), 抗真菌剤投与のオッズ比は 0.33(P = 0.066)で あった. 3.有害事象の発現状況および PJP の発現状況 STとの因果関係が否定できない有害事象とし て,grade 2 の皮疹が 2 例,grade 2 のアスパラギ ン酸アミノトランスフェラーゼ / アラニンアミノ トランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase/ alanine aminotransferase: AST/ALT)の上 昇 が 1 例 で認められた.AST/ALT 上昇は ST の減量により 回復し継続できた.また,皮疹を発現した 2 例は STの投与が中止されたために今回の調査対象か らは除外したが,ST を含む被疑薬を中止したこ 表 2 単変量解析による発熱発現にかかわるリスク要因分析 要因 非発熱群 発熱群 オッズ比(95%信頼区間) P値 年齢(≧ 61) + 10 16 1.69(0.61 – 4.68) 0.312 - 19 18 合併症 + 9 10 0.93(0.32 – 2.72) 0.889 - 20 24 臨床病期(≧ stage Ⅳ) + 12 16 1.26(0.46 – 3.42) 0.651 - 17 18 好中球減少症(≧ grade 4) + 24 30 1.56(0.38 – 6.47) 0.536 - 5 4 ST + 20 15 0.36(0.13 – 1.00) 0.048 - 9 19 抗真菌剤 + 10 5 0.33(0.10 – 1.11) 0.066 - 19 29 表 3 多変量解析による発熱発現にかかわるリスク要因分析 要因 オッズ比(95%信頼区間) P値 ST 0.36(0.13 – 1.00) 0.051 抗真菌剤 0.33(0.10 – 1.11) 0.066 図 2 ST 予防投与の有無による発熱発現の差 発熱を生じなかった割合, 発熱のため ST 以外の抗生剤 による治療介入をした割合

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とで有害事象の回復を得,その後の R-CHOP 療 法を継続できた.なお,全患者において FN の発 現による死亡例はなかった. また,対照群において 2 例の PJP の発症が認め られた.2 例とも PJP の治療を終え R-CHOP 療法 を再開できた.

考  察

ST投与群 35 例のうち,31 例で 1 回 400 mg / 80 mgを 1 日 1 回,4 例で 1 回 400 mg / 80 mg を週 3 回投与され,すべて適応内の投与が行われていた. 表 1 に示すように,FN の発現率は調査対象全 体で 31 例(49.2%),発熱が発現し抗菌薬による 治療介入を行った患者は全体で 34 例(54.0%) であった.臨床病期ⅢからⅣ期の患者を多く含む びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫および濾胞性 リンパ腫患者(年齢中央値:56~75 歳)を対象 として CHOP 療法を施行した海外の報告におい て,FN の発現頻度は 48~60%とされ,4, 5)本調査 と同程度の発現状況であった. 抗真菌剤の投与は対照群において有意に少な く,ST の投与に合わせて抗真菌剤の予防投与も 少なかった.発熱発現のリスク要因として,抗真 菌剤は単変量解析と多変量解析共に有意差は認め られなかったものの,そのオッズ比は 0.33 と低 値を示していた(表 2,3).抗真菌薬の予防投与 は,ガイドライン上,急性白血病,好中球減少を 伴う骨髄異形成症候群,口内炎を伴う自家造血幹 細胞移植時,同種造血幹細胞移植時,あるいは, 好中球減少症が遷延化する患者など,リスクの高 い患者に対して限定的に使用することが推奨され る.3)そのため,慎重な投与が求められる. 抗菌薬に関して,ガイドラインでは,高リスク がん患者において経口フルオロキノロンによる細 菌感染予防が推奨されている.3)その有効性はメ タ解析においても示され,フルオロキノロンの予 防投与に関する 18 の試験のメタ解析において発 熱発現のリスクをおよそ 67%に低下させること が示されている.9)また,ST については,2012 年 のコクラン共同計画による最新のメタ解析におい てその有効性が示され,フルオロキノロンによる 細菌感染症の発現抑制効果との間に差は認めない と報告された.10)今回の我々の調査では,FN の発 現頻度に有意差は認めず,また,多変量解析にお いても有意差は認められなかったが,抗真菌剤の 影響を踏まえたオッズ比は 0.36 と低値を示し, STの予防投与を行うことで発熱発現の頻度を低 下させる可能性が示された. 血液疾患では好中球の貪食能や殺菌能に異常が あり,好中球数は保たれていても易感染状態であ るとされるため,3)実臨床の場においては,FN と して厳格な好中球数の定義を満たさない場合で も,患者個々の状態を考慮して発熱した場合に抗 菌薬による治療介入を行う判断がなされるものと 思われる. 一方,抗菌薬の予防投与においては,有効性だ けではなく細菌の耐性化および有害事象の発現に 注意が必要である.フルオロキノロンについては, 予防投与の有効性を示した報告は多くあるものの, 一部の細菌に対する耐性化が報告されている.11-13) 合わせて有害事象の発現も懸念されるため好中球 数が 100 未満の状態が 1 週間以上継続することが 予測される場合のみ使用するよう限定的な使用が 推奨される.6)同様に,ST についても 11 の試験 のメタ解析において,プラセボに対して,耐性化 のリスクが 2.42 倍(95%信頼区間:1.35 – 4.36) に上昇することが示されている.10)従って,ST に ついても耐性菌の出現には最大限の注意を払う必 要がある.本調査においては,治療開始から最終 投与のナディア回復期間まで ST の予防投与が継 続された.平均投与日数は 198 日(最小投与日数 47日 – 最大投与日数 302 日)であったが,その ST耐性化率については調査されていないため, その後の ST を含めた抗菌薬に対する治療抵抗性, あるいは,耐性化の拡大に懸念が残り今後の課題 である. しかし,ST の PJP 発症抑制に対する投与には 意義がある.特に,PJP 発症の基礎疾患としては, 造血器腫瘍が多いこと,14)また,CHOP 療法にリ ツキシマブを加えることにより PJP の発症リスク が高まるとの報告もある.15)本調査においては,投 与群において PJP を発現することなくその予防投 与の有用性が示された.

(6)

その他,好中球減少持続時間もリスク因子とし

て重要とされるが,16)非発熱群における好中球数

検査の頻度が発熱群に比べ少なく,今回評価する ことができなかった.また,感染症の重症度, granulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)の使 用の影響については評価を行っていない.今後は このような点も含めた調査が重要であるが,今回 の結果は,PJP の発症や発熱の抑制という点にお いて,R-CHOP 施行中の悪性リンパ腫患者に対し て ST の予防投与が明らかな不利益を与えるもの でないことが示された.

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参照

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