インドネシアは、赤道をはさんで大小約1万7000の島から 成る熱帯の国です。国土の西から東までの距離は、アメリカ 本土とほぼ同じ長さがあり、人口は世界第4位で約2億4000 万人を有します。また人口の約9割がイスラム教徒で世界最 大のイスラム教国でもあります。 2007年のサブプライム問題、2009年のリーマンショックが 発生した際にもインドネシアは実質経済成長率が4∼6%の安 定した経済成長を続けたこともあり、様々な分野の日系企業 の進出が連日報道されています。また国債についても、世界 的な格付け会社により、投資適格と格付けされています。 1人当たりのGDPは3000ドルを超え、おおよそ日本の約1 割程度です。国民の平均年齢も約28歳(日本は約45歳)と 若く、日本では1995年前後に終了した人口ボーナス期がイ ンドネシアでは2030年前後まで続く見込みで、現在のインド ネシアはちょうど日本で言うところの高度経済成長の時期を 迎えているのかもしれません。 今年7月にIMFのラガルド専務理事が来尼しユドヨノ大統 領と会談しました。当地の新聞では、1998年の通貨危機の 際、IMFのカムドゥシュ専務理事が腕を組んでいる前でスハ ルト大統領が署名した写真と対比し、国際社会から支援さ れる側から支援する側に回ったことを示す記事が掲載される など、東南アジア唯一のG20メンバーとして国際場裏での役 割を拡大してきています。 このように安定した経済成長を続けていますが、課題もあ ります。特にインフラの整備は急務となっています。都市部 での渋滞は今でも毎日激しいものがありますが、経済成長と ともに自動車の保有台数が増えていることから、ジャカルタ では2014年には車の道路占有面積が道路面積を上回るグリ ッド・ロック状態となり、交通が麻痺することが懸念されて います。ちなみに今年の自動車の販売台数は、年間100万台 に達する見通しであり、年々増加しているのは間違いありま せん。また日本車の割合が95%前後を占めており、業界の方 から日本より日本車の割合が高いとの話も耳にしたことがあ
2.インドネシアの課題∼インフラ∼
1.インドネシアの経済発展
るところです。なお、バイクについては99%以上が日系メー カー産であるとのことです。 ジャカルタは周辺の都市圏を加えると人口が1000万人を 超えますが、鉄道はあるものの地下鉄が1本もありません。東 京や大阪で地下鉄や私鉄がなくJRしかなかった場合に人々 が車で移動するとどうなるかを御想像いただくとジャカルタ のイメージが多少つかみやすいかもしれません。その鉄道で は、通勤時には満員となるだけでなく、主に無賃乗車の客が 屋根の上に登って込みあってしまうのが問題となっており、 屋根の上に乗れないようにするため、鉄球のような障害物を 設置したところ、屋根の上の乗客はヘルメットをかぶって対 抗するなど、いたちごっこが続いているようです。 インドネシアの経済発展につれて、貿易のコンテナ数も増 加していますが、ジャカルタの港は飽和状態で、荷物の積御 しを待つ船が数多く待機しているのが日常となっており、待 機している時間が数日にも及ぶ船もあるとのことです。沖の 方まで多くの船が海を埋め尽くす姿は壮観であり、この国の 経済の勢いを示していると考えられます。 港湾の荷物だけではなく、経済成長に伴い、航空機の乗 客数も増加しています。最近、日本でも相次いでLCC(格 安航空会社)が設立されていますが、インドネシアでは、ナ ショナルフラッグキャリアのガルーダ・インドネシア航空を大 きく上回る乗客をLCCであるライオン航空が運んでいます。発展を続けるインドネシアの
課題とこれから
在インドネシア日本国大使館 一等書記官長
なが坂
さか泰
やす宏
ひろ 写真1.普段は渋滞の名所だが、カーフリーデーで賑わうホテルインド ネシアロータリー前航空機も増加していますが、ジャカルタの玄関となっている 空港のスカルノ・ハッタ空港は拡張を続けているものの増大 する航空需要に対処しきれなくなってきており、新空港の建 設が課題となっています。 こうした課題に対応し、ジャカルタ首都圏において、ハー ド・ソフトの両面から投資環境整備を行う協力の枠組み作 りのため、2010年12月にバリにおいて首都圏投資促進特別 地域構想に関して、外務省、経済産業省及び国土交通省と インドネシア経済担当調整府、外務省及び国家開発計画庁 の間で協力覚書が結ばれ、これに基づき今年10月には、東京 において、ジャカルタ首都圏投資促進特別地域(MPA)第 3回運営委員会が開催されました。この委員会では、MPAに ついて、インフラ整備を中心とした2020年までの完工を目指 す45件の優先事業と、そのうち2013年末までの着工を目指 す18件の早期実施事業を定めたMPAマスタープランを承認 し、インドネシアにおけるインフラ整備のための協力を推進 していくことで一致しました。これにより、上記の課題の解 決に向けた日本・インドネシア双方の協力が期待されます。 インフラ以外の課題としては、労使問題も重要となってき ており、ジャカルタ周辺の工業団地等において大規模なデモ も今年数件行われております。その影響からか最低賃金につ いてはジャカルタ都市圏のブカシ県では10%を超える上昇と なるなどのダイナミックな動きも見られます。 脱線しますが、以前、当地の日系の製造業の工場を見学 させていただいたことがありました。日本の製造業の就業者 数は統計によれば男性が女性の2倍以上になっていますが、 この工場では男性が体格や体力的に優位性があると思われる 一部の工程を除けば、むしろ女性が多く、工場全体でも女 性の従業員の方が多かったことが印象的に残っています。 話を元に戻しますが、インドネシアにおける東西の格差が 指摘されています。インドネシアでは、ジャカルタ、バンド ン、スラバヤなどの大都市を有する、面積で約7%のジャワ 島に人口の約6割が集中しています。ジャワ島以外、特に東 部インドネシア地域は開発が遅れており、中には資源が豊富 な地域もあり、1人当たりのGDPがジャワ島より高い地域が あるものの、そうした地域では貧困率が高いことがあるとい った問題があります。 電化率も7割程度で、地方に行けばまだまだ電気のないコ ミュニティなどもあります。そうしたコミュニティでは裕福な 家庭は自家発電機を保有していますが、自家発電機を動か すためには燃料が必要であり、この燃料代を支払える家庭で なければ電気を利用できないのが実態です。経済成長に伴い 電力需要も増加しており、インドネシア政府もエネルギー政 策には力を入れているものの、やはり時折停電が発生します。 以前、インドネシアに進出しようとしている日本企業の方が 「計画停電はありますか」と質問されていたとの記事を見か けましたが、停電は無計画に起こるのが実態です。停電しな いまでも電圧が不安定になり一時的に急低下することなどは よくあることです。 また、国土が広いため、災害も頻発しています。2004年12 月のスマトラ沖大地震では津波が発生し、インドネシア国内 だけでも20万人が亡くなったと言われています。その他、火 山の噴火、洪水、森林火災など地震だけではなく様々な種 類の災害があり、日本との間で災害に関する知見を共有して
3.インドネシアの課題∼インフラ以外∼
写真2.渋滞で込み合う目抜き通りであるタムリン通り (左側の車線はバス専用) 写真3.無償資金によるリハビリ予定のプルイットポンプ場いくことは有益と考えられます。しかしながら、災害対策も 一筋縄ではいきません。津波観測用のブイを設置しても、漁 の邪魔になるのか、はたまた売ればお金になるためか分かり ませんが、ブイが盗まれてしまう問題が発生しています。ま た地震計の密度は、日本の100分の1程度でしか設置されて おらず、観測も容易でないのが実態です。 携帯電話については、2億5000万台を超えたと報じられて おり、富裕層等を中心に複数台所持していることを考慮しな ければなりませんが、数字の上では国民1人当たり1台以上普 及しています。他方、固定電話加入数は4000万程度で増加 数は緩やかです。 スマートフォンではブラックベリーが強く、各種の報道か ら推測すると5割前後のシェアがあるのではないかと思われま す。続くのはアンドロイド系で、iphone系は前2者と比べて 端末単価が高いとも報じられており、1人当たりGDPが日本 の1割程度ということから推測される所得に比して高いため か、日本ほどシェアは高くない模様です。しかし街中を見て いるとスマートフォンを持っているのは比較的所得の高い都 市労働者以上の人々と見られ、それ以外の大半の人々は電 話とSMS、カメラ以外の機能がないと思われる小ぶりの携帯 電話を所持しているように見受けられます。 SNSについては、かなり利用されており、フェイスブック は、つい最近までアメリカに次いで世界第2位の利用者数で したが、最近、ブラジルとインドに抜かれ、世界第4位で約 5000万人のユーザー(日本は17位で約1600万人)がいると のことです。ツイッターは世界第5位で約3000万人のユーザ ーを有し、都市別の利用頻度ではジャカルタが世界で首位だ ったとの調査結果もあるようです。その背景には都市部を中 心とした渋滞等の空いた時間で利用しているのではないかと の見方もあります。実際にバス停でバスを待っている間に利 用している人をよく見かけます。 日本のコンテンツについてですが、アニメは根強い人気が ありますが、それ以外の映像関係のコンテンツについてはお しん、風雲たけし城(現地の人々が「Takeshi Castle」と呼 んでいるのを聞いたことがあります)、東京ラブストーリーな ど90年代で止まっているとも言われ、現在は話数が多く、低
5.インドネシアにおける日本のコンテンツ
4.インドネシアにおける情報通信
廉であることがインドネシアのニーズに合致している韓国の コンテンツが流行しているようです。 また、昨年にはAKB48の初の海外での姉妹グループとし て、JKT48がジャカルタで結成され、日系企業のCMに起用 されたり、常設劇場が設置されたりと活動の場を広めていま す。大使館も関与して行われる日本関係の最大級のインドネ シアでの行事である今年のジャカルタ日本祭りにもJKT48が 出演しました。野外でのステージとなりましたが、圧巻なの はそれを応援するインドネシアの若い世代の人々です。「超絶 かわいい」など日本語で応援するほか、蛍光ペンのライトを 手に独特の振り付けを集団で行う姿には目を見張るものがあ ります。 こうした日本関連のイベントが行われると、どこからとも なく集まってくるのが日本のアニメのキャラクターなどにふん したコスプレの人々です。8月に名古屋で行われた世界コス写真4.9月にジャカルタで開催されたANIME FESTIVAL ASIA INDONESIA 2012
プレサミット2012ではインドネシアからの出場者が3位(1位 は日本、2位はシンガポール)となるなど、世界的に見ても レベルが高いようです。日本関連のイベントはコスプレの 人々にとっては、表現の場となっているようですので、ジャ カルタにお越しの機会があり、日本関連のイベントが行われ ているようでしたら、足を運んでみるのもよいかもしれませ ん。 ジャカルタにはASEANの事務局があり、2015年のASEAN 共同体設立に向けて様々な活動を行っています。 ASEANは加盟国が10か国(ブルネイ、カンボジア、イン ドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シ ンガポール、タイ、ベトナム)で、人口は約6億人、GDPは 約2兆1000億ドルで、今後ますます世界において大きな役割 を果たしていくことが見込まれています。 日本とASEAN(東南アジア諸国連合)との交流は1973年 に設立された日・ASEAN合成ゴムフォーラムに始まり、 2013年は交流開始から40周年に当たる記念すべき年となり、 日・ASEAN双方において様々な記念事業が行われる予定で す。 ASEANの今後の課題としては、域内統合を進める上での 最大の問題の一つとして、1人当たりGDPが約4万6000ドル と日本を上回るシンガポールと、今後開発が進んでいくこと が見込まれる1人当たりGDPが約900ドルのミャンマーとの間 で大きな格差があり、これを是正していくことが考えられま す。
6.ジャカルタに事務局のあるASEAN
ASEAN域内での連結性を強化するため、2010年10月の ASEAN首脳会議で、「連結性マスタープラン」が採択され、 運輸、ICT、エネルギー等の「物理的連結性」、貿易、投資、 サービスの自由化・円滑化等の「制度的連結性」、観光・教 育・文化等の「人と人との連結性」の三つの側面における 連結性を強化することとなりました。 昨年11月の日・ASEAN首脳会議で採択された日・ ASEAN共同宣言「バリ宣言」において、ASEANが進める連 結性強化支援として、「陸の回廊」、「海の回廊」の整備、及 び「ASEAN全域ソフトインフラ案件」を柱とする33の主要 案件「フラッグシップ・プロジェクト」を提示し、ICT関係 の主要案件ではASEANスマートネットワークがあり、今後 これについてF/Sを行っていく予定です。 また、同じくフラッグシップ・プロジェクトのひとつに 「ASEAN防災ネットワーク構築構想」があります。7月の 日・ASEAN外相会議では、同構想の下、そのハブとしての AHAセンターの能力強化や2国間での協力の他、「宇宙から 僻地」に至るネットワーク強化の取組を支援する方針が示さ れました。なお、AHAセンター(アハセンター(ASEAN Coordinating Center for Humanitarian Assistance on Disaster Management):ASEAN防災人道支援調整セン ター)とは、ASEAN全体の防災分野の担当機関であり、ジ ャカルタにあります。今後上記の方針に基づき支援が行われ る予定です。 (本稿は筆者個人の見解であって、外務省並びに在インド ネシア日本国大使館及びASEAN日本政府代表部の見解を 代表するものではありません)我が国で一般的なインドのイメージと言えば、マハトマ・ ガンディー、ヒンドゥー教、タージ・マハル、ターバン、カ レーとナン、象、巨大な人口、高い成長率を誇る新興国と いったところだろうか。 これらのイメージは間違ってはいないが、インドの多様性 のごく一部を表しているにすぎない。もちろんマハトマ・ガ ンディーは、インド独立の父として絶大な尊敬を得ており、 ガンディー生誕日(10月2日)は国全体の祝日だし、全ての ルピー紙幣にガンディーの肖像画が描かれている。他方、イ ンドの代表的な宗教は国民の約8割が信仰するヒンドゥー教 だが、インドの世界遺産として最も有名なタージ・マハルは イスラム教国家であったムガル帝国皇帝が建造したものだし、 ターバンを日常的に巻くシク教徒は全人口の2%程度しかおら ず、キリスト教徒の方が多い。公用語はヒンディー語と英語 だが、多くの地域言語が使用され、ルピー紙幣には15の言語 で金額が記されている。また、インド料理のナンは、タンド ールという専用の釜が必要で一般家庭ではほとんど食べず、 フライパン等で作ることのできるチャパティーを一般的に食 べている。インドでは食文化としてベジタリアンが多いこと が知られているが、意外にも糖尿病患者が世界一多い。多 くは肥満が原因で、ベジタリアンながら肥満気味で糖尿病の 人が多数いる。カレー等で大量に使用する食用油と運動不 足が肥満の原因と言われており、ベジタリアン=ヘルシーと は言えないようだ。 インドは、経済面では、高い成長率を誇る新興国として注 目されている。この原動力には、豊富な若年人口と中間層 の拡大がある。人口は12億人を超えており、2025年には中国
1.インドという国
を抜き世界第一位になる見通しである。この人口増加に加 え、世帯年収5,000ドルを超える中間層の急激な拡大が見込 まれている。2010年には約2億4,000万人(人口の約2割)で あった中間層が、2030年には約8億人(人口の約5割)まで 到達する見込みである。他方で、1日1.25ドル未満で生活す る貧困人口は4億人を上回り、地域間格差も大きい。経済成 長や中間層による消費拡大を象徴するように、都市部では近 代的なモールが多数建設され、週末には多くの人でにぎわう。 しかし、そのすぐ隣にはスラムがあり、物乞いを日常的に目 にするなど、経済成長と貧困が極めて近接、混在している。 インドの今後の安定的な内需拡大、経済成長には貧困問題 への取組が不可欠である。 ただし、インドの経済成長の見通しは決してばら色とは言 えない。GDP成長率は過去5年間平均8.4%と高い水準だった が、2011年度は6.5%と2002年度以来9年ぶりの低水準とな り、2012年度通期も5.5∼6.0%が予想されているなど、イン ド経済の減速感が強まってきている。この背景には、世界経 済の動きもあるが、インフレに加え、インフラや物流網の不 足等インド自身の構造的な問題が挙げられる。 シン首相は、経済改革の必要性を訴えているが、第1党で あるコングレス党が過半数を確保できず、10以上の連立政党 及び閣外協力政党の協力で政権が維持されており、重大な 政策決定に当たってはこれらの政党に配慮せざるを得ない状 況があり、なかなか思い切った経済改革を進められていない のが現状である。 日印の経済関係に目を転じると、国際金融危機の影響等 から主要国の投資が伸び悩む中、日本の対インド直接投資 は2008年から2011年にかけて7倍に拡大、進出日系企業は4 年で倍増するなど、一貫して拡大傾向にあり、インド経済に おける日本の存在感が増してきている。 インドでは、移動体通信産業は経済自由化後最も成功し た産業の一つであり、世界に誇るべき産業として認識されて きた。2004年末の5,222万契約が、昨年(2012年)6月には9 億3,409万契約に達し、都市部の普及率は162%に達した。特2.移動体通信産業の発展
インドの移動体通信産業
∼経済自由化の代表的な成功例∼の現状
外務省 在インド日本大使館 一等書記官大
おお野
の誠
せい司
じ 写真1.インドルピー紙幣に2006年度以降に急速な増加を見せ始め、2006年度は月平 均約600万、2008年度には月平均約1,000万、2010年度には 月平均約1,900万の増加に達した1。 インド全土で152もの事業者が、極めて激しい競争を繰り 広げている。そのうち4社が1億契約を超えており、シェア1 位が1億8,361万契約のBharti Airtel、そして1億5,077万契約 のVodafone、1億3,411万契約のReliance、1億1,414万契約 のideaと続き、NTTドコモが出資しているTata Teleservices は7,252万契約で業界6位である(昨年11月末時点)。この激 しい競争の中、通話料は世界一安いレベルである1秒当たり 約1.5銭まで、ARPUも200円程度まで低下しているが、産業 全体の売上高は、2010年に1兆ルピーとなり、2004年の5倍 に達し、ARPUの低下を契約数増で補っても余りある成長を 続けてきた。 このような右肩上がりの成長を背景に、2010年に実施さ れた3G周波数オークションの落札額は、当初の見込みの 3,500億ルピーを大幅に上回る6,771億ルピー(当時約1兆 3,543億円)に達した。同時期に行われたBWA周波数オーク ションを含め、総額約1兆600億ルピー(当時約2兆1,200億 円)という巨額な政府収入をもたらした。巨額の財政赤字 を抱えるインドにとり、周波数オークションは巨額な政府収 入をもたらすものと、広く、特に政府関係者に認識された。 また、スマートフォンが全世界で急速に普及しているが、 インドでもその動きは顕著である。普及台数は約4,400万台、 国別では中国、米国、日本、ブラジルに次いで5位という。 スマートフォン保有者は全体の約5%とまだ少ないが、伸び率 は約52%と非常に高い。実際に街中でも、スマートフォンを 使用する人をよく目にするようになってきているし、iPhone5 が発表された際には、展示会場に多くの人が押し寄せた。 インド経済全体と同様に移動体通信産業も減速感が強ま りつつある。2011年後半から一部の事業者が収益悪化によ り通話料の値上げを発表するなど、従来の右肩上がりの成長 を前提とした経営と異なる動きが見られ始めたが、特に昨年 に入ってからは契約数の増加が鈍化し、7月には業界史上で 初めて総契約数が減少に転じ、依然継続しているなど、顕 著な形で減速が表面化してきている3。通話やデータ通信を 比較的使用する都市部での普及率が150%を超えて飽和状態 になりつつあること、農村部の普及率が40%にとどまるもの の、サービス提供に必要なインフラも十分に整備されていな いこと等が背景にあると考えられている。 また、実に2億に上る契約が実際には使用されておらず、 事業者の収入に寄与していない。インドではプリペイド方式 が主流だが、激しい競争の中で各社が積極的にプロモーショ ンを実施している上、電話番号を変更することに比較的抵抗 感が少ないという利用者側の意識も背景にある。この使用さ れない契約は、収入に寄与しないどころか、顧客管理のコス ト増の一因になっているとともに、電話番号を不足させる原 因となっている。さらに、昨年9月に基地局の電波強度の規 制が従来の10倍に厳しくなり、基地局の新設、整備改修へ の支出を迫られていることも、事業者の収益悪化につながっ ている。 このような中で、収益向上を目指し、通話料を値上げす る事業者が続出している。他方、スマートフォンやフェイス ブックの急速な普及を背景に、データ通信料金を割引して利 用を促すなど、ARPUの向上に取り組んでいる。 また、オークションが成功裏に終わったとされる3Gサービ スも事業収益を悪化させている一因である。周波数獲得のた めの巨額な支払いに加えて、巨額なインフラ投資が必要とな るが、3Gサービスの契約者はいまだ2,000万足らずであり、 インフラ投資を回収できるような状況にない。BWAについて も、TD-LTE技術によるサービスが開始されたが、その普及 は未知数である。事業者にとってはインフラ整備に大きな負 担がかかる一方、オークションの結果、全国を統一的にサー ビスする事業者がいないなど、利用者の視点から積極的に使 用するには躊躇する事情もある。今後の普及の進み度合いを 注視したい。
3.陰りが見え始めた成長
海外だより∼大使館より∼
写真2.iPhone5展示会場の混雑ぶり減速感が漂いつつあった昨年2月2日、最高裁判所の判決 が業界に激震を与えた。2008年1月に付与された122件の2G 周波数免許が、通信IT省通信局(DoT)4による不正な手続 を経て付与されたとして、当該免許を取り消すこと、6月ま でにオークションにより改めて免許を付与することを命令、 また一部の企業に対しては、不正に関与した又は不正な手続 きを経て入手した免許により必要以上の利益を得たこと5に 対する罰金を課した。8社、約7,000万契約(総契約数の 7.5%)に上る利用者に影響を与えるものである。2008年1月 には多くの新規参入が認められたが、その多くが昨年2月時 点に保有していた免許の全てを取り消され6、オークションで 周波数を獲得できなければ事業継続が困難となった。この中 には、ノルウェーのTelenorが出資するUninor、ロシアの Sistemaが出資するSistema等外国企業が出資する事業者が 含まれていた。なお、NTTドコモが出資するTata Tele-servicesも判決の影響を受けたが、取り消された3件の免許 が幸いにも農村部に関わるものであり、影響を受ける契約数 も20万∼30万と、他社と比較して大きな影響はないと考え られる。 (2)判決の背景:前通信大臣による汚職 この判決の背景には、ラジャ前通信IT大臣及び政府高官 が2008年1月の免許付与に当たり、収賄の上で、自らに近い 企業へ便宜を図り、不当に安い価格で周波数を売り渡した とする疑惑で2011年2月に逮捕された一件がある。 携帯電話用周波数の免許は、申請順に免許する先願原則 の下で免許が付与されてきた。2006年以降、携帯電話事業 の有望性を踏まえ、多くの新規参入希望があり、数百件の 免許申請がなされた。こうした状況を受け、2007年11月には シン首相がラジャ前通信IT大臣に対して、周波数オークショ ンの導入と公正で透明な参入手数料の検討を求めた。しか し、同大臣及びDoTはこうした要請に応えず、2008年1月に 122件の免許を付与した。この手続に対して、大きく2点の疑 惑が生じた。1点目は、先願原則としながら、後に申請した 事業者が、より以前に申請した事業者を追い越して免許を 取得できる手続をとったこと、2点目は、2001年当時の安い 参入手数料を適用して国家財政に巨額な損害を与えたこと である。 の申請に対して、LoIを2008年1月10日に同時に発行した上 で、LoIへの適合に必要な書類を提出した順に免許を発行す るという方法をとったため、2007年9月の申請者が2006年3 月の申請者を追い越して免許を取得することが可能になっ た。LoIが1月10日に発行されること、及び必要書類の情報 を事前に得ることができれば非常に有利になる。実際に、ム ンバイという遠隔地で作成・発行された書類(体裁上は1月 10日付)にも関わらず、LoI発行後ごく短時間で必要書類を 提出した申請者がいた。LoIを同時に発行するという決定は、 ラジャ前大臣によって行われている。また、122件の免許の うち、実に85件が、財政状況や出資基準等の免許要件を満 たさない不適格な免許であったことが、最高裁判所の判決で も指摘されており、DoTによる審査手続自体も極めて不透明 かつ不適切であった。 2点目の国家財政への損害については、2010年11月に会計 検査院が、仮に2008年1月の免許付与の際にオークションを 実施していれば、2010年に実施された3G周波数オークショ ンの結果を踏まえると、最大1兆7,665億ルピー(2010年当時 約3兆5,330億円)の追加の国家収入を得られたはずであると 指摘した。これを踏まえて、国会だけでなくマスコミや社会 活動家が「2G Scam」という標語の下、ラジャ前通信IT大 臣に対してだけでなく、財務大臣やシン首相を激しく追求し ており、一時期より落ち着いたものの、いまだに様々な場で 話題、議論、追求の対象となっている。 (3)オークションの実施 当初、最高裁判所は昨年6月までに、全ての手続を完了す ること、新たな免許に基づくサービスを開始することを命令 していた。しかし、政府は、オークションプロセス、免許付 与手続等を考慮すると現実的な期限ではなく、期限延期を 要請、2度の延期を経て、本年1月18日までに全ての手続を 完了することが決定された。 これを踏まえ、昨年11月中旬にオークションが実施された が、端的に言うと失敗したオークションであった。800MHz 帯と1,800MHz帯8が対象となったが、800MHz帯については 事前の入札参加意向がなく9オークション自体が実施されな かった。また、1,800MHz帯についても、落札された周波数 ブロック(1.25MHz幅単位)は全236ブロック中101ブロッ
クで落札率42.8%にとどまり、最低入札価格より価格が上昇 した地域は1地域のみ、三大都市であるデリー、ムンバイ、 カルナタカに加えラジャスタン州の4地域では1件の入札もな かった。当初、政府は少なくとも4,800億ルピーの収入を想定 していたが、その約20%の941億ルピーにとどまる結果となっ た。 (4)オークション失敗の原因 失敗の原因は、高すぎる最低入札価格である。政府は、 インド経済全体及び移動体通信産業の減速が顕著になりつ つあるにも関わらず、2010年の3G周波数オークションの成功 を踏まえ、同オークションでの「落札価格」を基準として今 回の最低入札価格を決定した。全国で5MHz幅に入札する 場合の最低入札価格は約1,800億ルピー(1,800MHz帯。 800MHz帯はその1.3倍)とした当初案に対しては、余りに高 価であるとの事業者からの指摘を踏まえ、1,400億ルピーに 減額された。しかし、高すぎるとの認識は変わらなかった。 また、公平な競争環境の確保を名目として、既存事業者 が保有する周波数に対して、今回のオークションで決定する 市場価格に基づき、免許の残存期間に応じて課金すること が併せて決定されていたことも一因である。 高い最低入札価格と既存事業者への課金は、いずれも巨 額の財政赤字を抱えるインド政府にとって、収入を最大化し たいという意図での決定であったが、新規参入事業者にとっ ては、相当程度の支出をするのであれば、既に事業が確立し ている、又は今後比較的収益を確保しやすい地域のみに入札 することが合理的であるし、既存事業者にとっては、保有周 波数に対する大きな支出が見込まれ、追加的な周波数を確 保するための資金的余裕がないとの事情が、極めて低調な入 札につながったと考えられる。この結果に対して、カピル・ シバル通信IT大臣は、「政府として、オークションの結果は 祝福しない。通信分野は、もはやインドの成功を世界に誇れ る分野ではなくなりつつある」と述べている。 (5)混乱はまだ続く 入札者がいなかった800MHz帯及び1,800MHz帯の4地域 について、インド政府は、3月末までに改めてオークションを 実施10するとし、昨年12月13日に1,800MHz帯の4地域の最 低入札価格を3割減額することを決定した。また800MHz帯 については、1月17日に5割減額することを決定した。 また、インド政府は、新たな課題として900MHz帯の再編 に向け、デリー、ムンバイ、コルカタの3地域を対象としたオ ークションを同時期に実施すると決定した。900MHz帯の最 低入札価格は1,800MHz帯の2倍とされ、非常に高価となる ことから、事業者は懸念を表明しているが、2014年に免許更 新を迎える事業者に対して、継続して900MHz帯の使用を希 望するのであればオークションへの参加を義務付けるとし、 オークションの活性化を図ろうとしている。 しかし、再度応札がなければ、最低入札価格をまた値下 げせざるを得ない状況となり、もはや政府による最低入札価 格の値下げという逆オークション状態に突入したという見方 もある。この他、いくつかの従来の免許方針について係争中 でありこの動向に注目が集まっており、今後もしばらくの間、 インドの移動体通信産業の混乱は続きそうである。 インドに赴任して1年半弱がたつが、その間に数年来右肩 上がりだったインド経済や移動体通信産業の減速感が強ま るなど、転換期に立ち会っていると実感している。ここから インドがどのようなかじを切り、この苦境を好転させるのか、 注視していきたい。また、オークションについては、汚職、 財政貢献への優先度、市場規模や競争環境など我が国と異 なる環境ではあるが、今後我が国でオークションを検討する に当たり、インドでの経緯、結果が少なからず参考になれば と考えている。 注 1 日本における携帯電話・PHS契約者数(TCA発表)のこ の1年間の増加数(12月末時点で比較)は約800万 2 うち2社は、昨年2月の最高裁判決(4章参照)を受け、 既に事業停止済み 3 昨年11月末の総契約数は8億9,060万 4 Department of Telecommunications:DoT 5 免許を取得した事業者が、インフラ整備や事業を開始す る前に会社を売却して巨額の利益を得た事例もあった 6 全土を22の地域に分け、地域ごとに免許を付与している 7 2006年3月∼2007年9月25日 8 現在、800MHz帯はCDMA方式で、1,800MHz帯はGSM 方式で使用されている。オークションで獲得した周波数 は、2Gにとどまらず3G、4Gなどいかなるサービス、技 術でも使用可能 9 Tata Teleservicesの3件の免許は800MHz帯のものだった が、同社は入札に参加しないことを決定 10 最高裁に対して、1月18日までだった全ての手続の完了 期限を3月末まで延長することを要請中
5.最後に
海外だより∼大使館より∼
活動することはできませんが、室内で楽しめるものを探すと いろいろなものが見つかります。例えば、ベルリンには Kinder Café(子供用カフェ)という子供用の喫茶店が数多 くあり、室内にはジャングルジムやら滑り台やら、おもちゃ やら子供のストレス発散にもってこいの環境が整っています。 我が家には2歳の息子がおり、週末になるといつもどこかの Kinder Caféに入り、一汗流しています。また、ベルリン市 内には世界遺産に指定されている博物館島や、ユダヤ博物 館、ベルリンの壁博物館など、ぶらぶらと見て回るのに好都 合な建物が幾つもあります。 そんな冬のベルリンからドイツの情報通信事情について、 御報告したいと思います。 誌面の都合もありますので、網羅的に説明するのではなく、 余談を交えながら、ドイツの情報通信事情について幾つかト ピックを御紹介したいと思います。 (1)インターネット事情 連邦経済技術省の発表資料によれば、2012年半ばの時点 で、ドイツ国内の99.5%の世帯が1Mbps以上、51.3%が 50Mbps以上のブロードバンドを利用可能となっています。
2.ドイツ情報通信事情
現在、平成25年1月21日(月)16:30です。この原稿を 書きながら、気晴らしに外の景色でもと眺めたところ、既に 真っ暗で街灯と隣のイタリア大使館のオフィスの電気しか見 えません。雪が少し降っているでしょうか。気温は-8℃です。 外を歩くと耳が痛いです。 ドイツの冬は、暗く寒いです。冬のロンドンは寒くて暗い という話を聞きますが、ベルリンはそれ以上です。ロンドン よりもベルリンの方が緯度が高いことを御存じの方は意外と 少ないのではないでしょうか。ドイツ人自体も冬のドイツを 嫌っていて、クリスマスが過ぎると多くのドイツ人が渡り鳥 のごとく陽光を求めて、南欧やアジア、カリブ海へと渡って いきます。それでもクリスマスまでは、ドイツ全土でクリス マスマーケットが開催され、ホットワイン(グリューワイン) を飲みながら、市場でクリスマスツリー用のオーナメントを 買ったり、シュトーレンと呼ばれる菓子パンを食べたりと、 どこの街も活気づいています。ドイツ人にはクリスマスは家 族で過ごす日という習慣があり、仕事や学校の都合で普段は バラバラに生活している家族も、この日ばかりは実家に集合 となります。日本のお正月に近い感覚でしょうか。 私は、ベルリンに着任して以来、3度目の冬になります。2 年半こちらで生活していても、なかなか慣れられないのです が、最近、ようやく冬の過ごし方を覚えてきました。屋外で1.ベルリンという街
ベルリンだより
在ドイツ日本国大使館 一等書記官扇
おおぎ慎
しん太
た郎
ろう 写真1.近所のKinder Caféの中の様子です。滑り台や、乗り物などの遊 具が充実しているので、子供たちに大人気です。冬は開店と同 時に満席になってしまいます。(http://www.cafe-ballon-berlin.de/) 写真2.博物館島のボーデ博物館です。博物館からいただいた写真が夏 の写真だったので青々としていますが、冬はモノクロ写真のよ うな雰囲気です。2009年2月にドイツ連邦政府が「連邦政府のブロードバンド 戦略」を閣議決定し、2014年までに50Mbpsの超高速ブロー ドバンドの利用可能率を75%に引き上げるという目標を掲げ ました。これまでのところ、計画は順調に進んでいるようで す。ブロードバンドということで光ファイバの整備・利用を 進めているかというと、ここドイツではかなり様相が異なり ます。電気通信分野の規制機関である連邦ネットワーク庁の 2011年年次報告書によれば、ドイツにおけるブロードバンド はDSL及びケーブル網が主流であり、2011年末時点では、 2730万回線のブロードバンド回線のうち、86%(2340万回 線)がDSLとなっています。残りの380万回線のうち、360万 回線がケーブルであり、光ファイバは全くと言ってよいほど、 存在感がありません。 これには幾つか理由がありますが、一般的に言われている のは、①DSLやケーブル、無線網(LTE)等の代替インフラ を活用すれば、政府の目標は達成可能、②光ファイバ敷設 の投資は、採算性が低く、電気通信事業者側の投資意欲が 低い、③ドイツ人自身がそもそもそれほど超高速のインター ネット網を必要としていない(現状で満足している)、といっ たものです。当地の代表的な情報通信系研究機関である WIKによれば、ドイツ全土でFTTHを整備しようとした場合、 総計約700億ユーロの投資が必要になるそうですが、実態と しては年間30億ユーロ程度の投資にとどまっており、全く足 りていません。他方で、ブロードバンド利用率を見ると、ド イツは日本よりも進んでおり、光ファイバ以外のインフラを 活用した利用が進んでいることが分かります。 さて、我が家はというと、大手ケーブル事業者と契約を結 びケーブル回線を利用しています。実効速度は2Mbps程度 で、映画をダウンロードする時以外は特段の不自由は感じま せん。何より素晴らしいと思ったのは、工事手続の素早さで す。申し込みをした翌日にはインターネットが利用できるよ うになり、着任直後で生活の立ち上げ段階にあった我が家で、 実家との連絡がスムーズにできるようになったのは有り難いこ とでした。私は2005年から2年間、ベルリンの隣町ポツダムに 住んでいましたが、当時は契約から工事まで3週間以上待た された記憶があり、隔世の感がありました。ただ、ドイツの 電気通信事業者が消費者フレンドリーなのかと言えば、新聞 情報や電気通信政策の動向を見ると、そうとも言い切れませ ん。例えば、消費者団体は「自分たちが受ける消費者相談の 半数は電気通信事業に関するものである」と言っていますし、 契約事業者を変更しようとする場合には、1か月待たされる こともあり、事業者変更の妨げになっています。この問題に ついては、2012年に改正された電気通信法に新たな規定が設 けられ、サービス提供の中断期間は1日のみとなりました。 (2)携帯電話市場・周波数割当て ドイツの携帯電話普及率はITUの統計によれば2011年末 時点で132%と一人1台以上保有する状況になっています。 日本と同様、スマートフォンが主流となっており、事業者は ボーダフォン、Telekom Deutschland、E-Plus、Telefonica Deutschlandの4社の寡占となっており、特にボーダフォンと Telekom Deutschlandの2社が業界トップの座をめぐって激 しく争っています。 携帯電話事業の根幹である周波数の割当てをめぐっては、 ここドイツでは周波数オークションが何度も実施されていま す。特に話題となったのは、3G向け周波数オークションで 2000年に実施されました。このときには、落札額が合計約5兆 円まで跳ね上がってしまい、各事業者の収益を圧迫し、落札 事業者6社のうち新規事業者2社がサービスインできずに周波 数を返却し、他の事業者も膨大な費用負担のために投資余力 を失い、結果的にドイツでの3G開始が遅れるという事態が生 じました。この時の経験を踏まえ、ドイツでは周波数オーク ションの実施要領の細かい修正が行われ、2006年、2010年に 実施されたオークションでは、おおむね妥当な結果に落ち着 いています。 現在、GSM用に割り当てられている900Mhz帯及び 1800Mhz帯の周波数は2016年末で使用期限を迎えるため、 2017年以降の周波数割当てに向け、連邦ネットワーク庁が コンサルテーションなどの手続を実施しているところです。同 庁は、事業者の投資安定性を確保するため、期限の3年前つ まり2013年中には両周波数帯の用途を確定したいとしてい ます。実際の割当てに当たっては周波数オークションが実施 されることも予想され、今後の成り行きが注目されます。 (3)ドイツ政府のICT政策 2010年11月、ドイツ連邦政府は2015年までのICT戦略「デ ジタルドイツ2015(Deutschland Digital 2015)」を策定し、 産業競争力の強化や、インフラ整備、利用者保護、研究開 発の拡充及び市場への製品の投入、ICTの徹底的な利活用と いった目的を掲げました。例えば、情報通信産業は84万人の 就業人口を抱え、機械産業に次ぐ規模を誇っていますが、 2015年までに新たに3万人の雇用を確保するとともに、企業 の設立を支援するとしています。ドイツでは、ICT関連の大企 業と言えば、ドイツテレコム及びSAPがありますが、これまで
ベンチャー企業がなかなか育っておらず、産業界の保守的な 風潮からベンチャー不毛地帯と自嘲気味に語られることもあ ります。そこで、汚名返上というわけではないでしょうが、連 邦経済技術省を中心に様々なプロジェクトが実施されていま す。面白いところでは、連邦経済技術大臣と一緒にシリコン バレーを訪問するツアーなども企画されているそうです。 (4)ドイツの放送事情 意外かもしれませんが、ドイツでの放送番組形態で最も多 いのは衛星放送、その次がケーブルテレビです。地上波でテ レビを見る人は、視聴者全体の5%にすぎません。ドイツで は、2008年に地上デジタル放送への完全移行を完了してい ますが、地上波での視聴者が少ないからか、大きなトラブル もなく、デジタル化は完了しました。ドイツは第二次世界大 戦の敗戦により、近隣諸国との間で地上波向きの周波数が 利用できず、また、1980年代に民間放送事業者が参入して 以降、政府がケーブルテレビ産業育成策を進めたため、ケー ブルテレビを視聴する人が多くなっています。 テレビのスイッチを入れると、報道番組、クイズ番組・オ ーディション番組などのバラエティ番組、スポーツ番組、音楽 番組等々、様々なジャンルの番組が目に入ります。スポーツ、 特にサッカーはドイツ人にとって特別な意味を持っており、ワ ールドカップやヨーロッパ選手権の期間中はベルリン市内でも 「黒赤金」の横三色のドイツ国旗をつけた車が多く走っていま すし、メルケル首相はじめ多くの政界要人がスタジアムでドイ ツ代表の試合を観戦しています。これらの国民的スポーツは 国民全体が楽しめるよう、放送事業者に対しては、番組が視 聴者に無料で受信できるようにしなければならないと義務が課 せられています。具体的には、オリンピック、サッカードイツ 代表の試合、ワールドカップの開幕戦、準決勝及び決勝戦、 ヨーロッパチャンピオンズリーグでドイツチームが出場する試 合が、法律に明記されています。正確には「放送州間協定」 と言います。サッカーの試合の放送が法律で規定されてしま うところに、ドイツ人のサッカーに対する思い入れを感じま す。私が留学していた大学では「来週はドイツ代表の試合が あるから、休講にします」と驚きの発言をした教授もいまし た。建前としては学生の出席が見込めないので休講にしたと いうことだと思いますが、教授御本人も試合を楽しみにして いたのではないかと学生たちは語っていました。 さて、放送に関しては、もう一つトピックを紹介したいと 思います。我が国でも受信料をめぐる問題はたびたび新聞紙 上を賑わせますが、ドイツでも今年に入ってから連日のよう に受信料に関する記事を見かけます。今年の1月1日から受 信機単位の放送受信料という仕組みから、世帯・住居単位 の放送負担金という制度に移行しました。料金は月額17.98 ユーロに据え置かれたので、一般の市民にとっては実質的な 影響はないのですが、事業者にとっては営業所・車が徴収単 位となったために、負担額が大幅に増える事業者があり、マ スメディアと一緒に新制度に対するネガティブ・キャンペー ンを展開しています。増額になること自体は、昨年から分か っていたことですが、やはり実際に請求書を見て初めて気づ く企業も多いようで、連邦憲法裁判所に訴訟を起こすと宣 言する企業が後から後から出てきています。この原稿がITU ジャーナルに掲載される時点では判決は出ていないでしょう が、引き続きチェックしていこうと思います。 (5)ネット上の著作隣接権付与をめぐる争い ドイツでは、今年の9月に連邦議会の総選挙が予定されて います。欧州債務危機対応やエネルギー政策に関心が集まっ ていますが、ICT分野では、ネット上の著作権をめぐる取扱 い、より具体的に言えば、出版業界への著作隣接権の付与 が争点の一つになっています。出版業界と争っている相手は 誰かと言えば、米グーグル社などの検索事業者で、争いの構 図は以下のとおりです。 グーグル社は、現在、グーグルニュースのウェブサイトに おいてスニペットを活用し、各報道機関の記事のタイトルと 記事の一部を掲載していますが、出版社側は以前から「グー グルは、我々の記事を勝手に自らのビジネスに利用している」 と批判してきました。グーグルはドイツの検索市場において、 図1.ドイツにおける放送受信形態です。地上波での受信がいかに少な いかおわかりいただけると思います。(連邦ネットワーク庁2011 年年次報告を元に筆者作成)
地上波
5%
IPTV
3%
ケーブル
47%
衛星
45%
98%のシェアを占めていると言われ、発行部数が減少傾向の 新聞・雑誌業界にとっては競争上看過できない問題になっ ており、特にドイツ最大のメディア・コンツェルンAxel Springer社(ドイツで最大の発行部数を誇る大衆紙Bildや 日刊紙die Weltを傘下に置いています)は系列メディアを活 用し、激しいグーグル批判を行うとともに、グーグルに対し 出版社への利益分配を求めていました。 この問題は前回の2009年の選挙の際にも問題となってお り、メルケル政権は与党CDU/CSUとFDPの連立協定にお いて、「出版社に対する著作隣接権の創設及び第3バスケッ トと呼ばれる著作権法の大改正を行う」との方針を定めてい ました。しかし、同法を所管する連邦司法省のロイトホイザ ー・シュナーレンベルガー大臣は自由民主党(FDP)出身の 大臣で、自らもネット政策に関してリベラルな立場であるこ とから、慎重に検討を行ってきました。多くのネット関係者 や消費者団体なども、連立協定に記されたような制度改正 は、ドイツにおける情報の流通を妨げ、ひいてはドイツの国 際競争力を奪うことになると主張していましたが、最終的に は、出版業界のロビー活動が功を奏する形で、2012年8月29 日、連邦政府は①記事を商業目的でインターネット上に公 表する権利を、当該記事の出版社に独占的に付与する、② 検索事業者は出版社からライセンスを得なければならない、 ③無許可の利用を控えるよう求める権利を出版社に付与す ることを内容とする著作権法改正案を閣議決定し、11月14 日には連邦議会へ提出しました。 この法案は一部でグーグル規制法案とも言われており、標 的とされたグーグル社は同法案に対抗するため、11月27日、 「君らのネットを守れ!」というキャンペーンを開始しました。 法案の問題点や影響をアピールするサイトを開設し、「出版 社は現在でも簡単なコードの入力でグーグルニュースに表示 されなくなるのに行っていない」、「グーグルニュースでは広告 は表示されない」、「法案はドイツ経済を傷つける」と主張す るとともに、一般ユーザーが担当国会議員へ直接メッセージ を送れるよう、送信用フォームを用意して、世論の喚起、議 会への働きかけを行っています。 同法案には連邦政府が苦労した跡が見て取れます。連立 協定では「大改正」と銘打たれ、先述の「デジタルドイツ 2015」でも、権利の所在が不明な著作物について、デジタル 化とオンライン配信についての枠組み条件を整備するととも に、出版社への著作隣接権の付与に努めると明記されていま した。しかし、実際に閣議決定された法案は、1点目の内容 は含まれておらず、専ら著作隣接権の規定のみを内容として います。また、各紙報道を見る限りでは、著作隣接権の内容 についても、検索事業者のみでなく、ブロガーやウェブバナ ー広告を掲載しているサイトなど商業活動に従事している者 を幅広く規制対象とし、刑事罰の導入も期待していた出版 業界と、著作隣接権の創設は自由な情報の流通を阻害する と批判する検索事業者、ネット関係者の間で政府は相当の 調整を行い、最終的に規制対象は「検索エンジン事業者及 び類似のサービス事業者」に限定され、単なるリンクや引用 は適用除外とし、消費者や他の利用者には影響を与えない という内容となりました。また、出版社の著作隣接権は1年 で失効するとも明記されています。 出版業界の中でも、地方紙など中小のメディアはグーグル ニュースを通じて、コンテンツの認知度を高めていて、規制 強化に必ずしも前向きではありません。関係者の声がどのよ うに結実するのかはまだ分かりませんが、法案は2013年1月 現在、連邦議会で審議中となっています。 ドイツICT事情と言いながら、私の好み・関心に則って書 いたために、あらためて全体を見返してみると、随分とバラ ンスの悪い原稿になってしまいました。ユーザーとして実感 を込めて語っている部分と、新聞情報や公表情報をベースに 伝聞調で書き連ねた部分が混在していますし、分量も興味に 応じて一定ではありません。普段いかにも役人的な硬い文章 を読み書きしている身としては、コラム調で文章を書こうと すると、どうしても仏頂面の親父が引きつった笑いをするか のような不自然さが出てしまいます。 しかし、この原稿を読んでいただいた中で、ドイツの情報 通信事情について多少なりとも頭の中に残ることがあれば幸 いです。 (本稿は筆者個人の見解であって、外務省及び在ドイツ日 本国大使館の見解を代表するものではありません)
3.最後に
ヨーロッパの東に位置するハンガリーは、周囲を7か国に 囲まれ、面積が日本の約4分の1、人口が約1,000万人の小さ な内陸国です。西欧に対して東欧と呼ばれることもあります が、最近ではチェコやポーランドと共に中欧と呼ばれること が多くなっています。 ハンガリー人はアジアの騎馬民族が起源であると言われて おり、近隣の国々とは起源が異なっています。また、公用語 のハンガリー語(マジャール語)は、ウラル語族に分類され、 同系統の言語としてはフィンランド語やエストニア語が挙げ られます。しかしながら、現在ではお互いの言葉を見たり聞 いたりしても意思疎通は難しく、全く異なった言語となって います。ハンガリー語は英語やドイツ語などとも大きく異な るため、習得のためには単語を1から全て覚えなくてはなりま せん。他方で、文法は日本語に似ているものも多く、勉強を していると親しみを感じることが多々あります。例えば、人 の名前は名字→名前の順に書きますし、名詞の後ろに「を」 や「へ」に相当する後置詞を付けて物事を表す点もよく似て います。 首都ブダペストの街を見回してみますと、日本人の目から 見て非常に「ヨーロッパらしい雰囲気」の建物が多く、ハプ
2.ハンガリー概観
1.はじめに
スブルグ家によるオーストリア=ハンガリー二重帝国時代の 名残が数多く現存していることに気づきます。当時のハンガ リーは、西はアドリア海、東はルーマニア西部のカルパチア 山脈に至るまで、現在の約3倍の面積を有していました。第 1次世界大戦終結後の1920年、トリアノン条約によってハン ガリーの国土の約3分の2が周辺国に割譲され、これがほぼ現 在のハンガリーの領土となっています。 この時、多くのハンガリー人が新たな国境の外に取り残さ れることとなり、現在でもハンガリーに隣接するスロバキア 南部やルーマニア西部、セルビア北部などには多くのハンガ リー系住民が住んでいます。これらの街に出かけますと、国 外に来たはずなのに、道路の標識やお店の看板、聞こえてく る話し声までがハンガリー語といったことが多々あります。 第2次世界大戦後、ハンガリーは旧ソ連の影響下にあった ことにより、他の中・東欧諸国とともに旧共産圏に属してい ました。しかしながら、ハンガリーでは比較的開放的な政策 が執られていたため、「鉄のカーテンの向こう側」の国々の中 では1989年にいち早く体制転換を成し遂げました。同年8月 には、「鉄のカーテン」の最前線であるオーストリアとの国境 で行われた汎ヨーロッパピクニックにより、数多くの東ドイ ツ国民がハンガリーからオーストリアを経由して西側に逃れ、 この出来事がその後のベルリンの壁崩壊につながったと言わ れています。 写真1.ハンガリー人の起源を想起させる馬術ショー(筆者撮影) 図1.7か国に囲まれた内陸国ハンガリー(外務省HPを基に加工・作成) スロバキア チェコ ブダペスト オーストリア スロベニア ポーランド ル ー マ ニ ア セルビア クロアチア ボスニア・ ヘルツェゴビナ ウクライナハンガリーだより
∼中欧のアジア、ハンガリー∼
在ハンガリー日本国大使館 二等書記官白壁
しらかべ角崇
すみたか1989年の体制転換以降、日本のスズキ自動車を皮切りに ドイツの自動車メーカーなど、多くの外国投資を積極的に呼 び込み、伝統的な農業・畜産業に代わって今では製造業が 一大産業になっています。EU域内の外国企業の他、日系企 業も自動車関連をはじめ大小併わせて100社以上が進出して います。製造業だけではなく、銀行業界や小売業界など、あ らゆる業界に外国企業が進出しており、外国資本がハンガリ ー経済を支えていると言っても過言ではありません。 情報通信産業も例外ではなく、携帯電話事業者3社はい ずれも外資系(ドイツ系T-Mobile、ノルウェー系Telenor、 英国系Vodafone)であり、インターネット事業者やCATV事 業者も市場シェアの大部分は、デンマーク系Invitelや米国系 UPC、ルーマニア系DIGIなどの外資系事業者に占められて います。メーカーでは、これまでノキアやエリクソンが主要 な位置を占めていましたが、最近ではこれらに代わってサム スンやファーウェイが攻勢を強めています。日系企業もNEC や富士通など複数社が携帯電話事業やサーバー事業などで 奮闘しています。 2008年のリーマンショック以降、ハンガリーでも歳出と国 家債務の削減が喫緊の課題となっており、2010年10月、与 党フィデス政権は財政赤字削減目標達成のための「危機克 服税法案」を国会で可決・成立させました。これは政府が 財政赤字削減目標を達成する上で必要となる歳入を特定の
4.近年の政治・経済情勢
3.ハンガリーにおける産業
業界に対する課税で賄うことを狙ったもので、通信、エネルギー及び小売業界が課税の対象となりました。通信業界につ いては、売上げに応じて4.5∼6.5%の税金が課されることとな り、当然ながら業界内からは強い反発が起こりました。また、 通信業界への課税については、欧州委員会からもEUの法令 に違反するとして、ハンガリー政府に対して廃止要請が出さ れる事態となり、昨年10月には欧州委員会が欧州司法裁判 所への正式な提訴に踏み切りました。なお、この危機克服税 は、2012年末までの時限措置とされており、同年末には予定 どおり廃止となりました。 他方で、これに代わる新たな税制として、通信税(電話 税)が昨年7月から、また、公益事業税が今年1月から導入 されました。通信税は、通話やテキストメッセージに対して 1分又は1通当たり2フォリント(約0.8円)を課すというもの です。これらの税について政府は、納税義務者は個々のユー ザーではなく通信事業者であり、新たな税がユーザーに転嫁 されることはないと説明しています。しかしながら、これら の税の導入以降、各事業者は次々に料金改定を発表し、ユ ーザー転嫁ではないと言いつつも、実態としては納税分をユ ーザーからの料金収入増で賄おうとしています。この通信税 についても、欧州委員会は危機克服税と同様の理由で欧州 司法裁判所への提訴に向けた侵害手続を今年1月に開始して います。 また、公益事業税は、電気や通信、ガス、上下水道など の管やケーブルの長さに対して1メートル当たり125フォリン ト(約50円)を課すものです。これも通信税と同様に、納税 義務者は各事業者であるとされていますが、各事業者が料金 改定を次々に発表していることは、既に述べたとおりです。 通信業界に対する課税以外にも、与党フィデス政権は新 たな税制を次から次へと導入しています。日本でも何度かニ ュースになりましたが、「チップス税」もその一つです。これ は国民の健康増進を目的として、糖分や塩分、油分が一定 の割合以上含まれる食品に対して課税されるもので、正式名 称は「国民健康製品税」と言います。制度導入の際、分か りやすい例としてポテトチップスが挙げられたことから、新 聞やテレビなどで盛んに「チップス税」と呼ばれるようにな りました。その後、各食品メーカーは製造方法を改良するな どして、なるべく課税されないように努力していますが、そ れでもポテトチップス1袋の値段は10円∼20円程度値上がり しました。 こうした税制の特徴は、何と言っても外資系企業の進出 が著しい業界を狙い撃ちしたものであることです。与党フィ海外だより∼大使館より∼
写真2.ブダペストの風景(ドナウ川を挟んで左がブダ、右がペスト) (筆者撮影)デスのオルバーン首相は、国内企業や国内産業を擁護しつつ 育てていくことを重視しており、ハンガリーが右肩上がりの 成長を続けていた2000年代前半にハンガリー市場で大きな利 益を得た外資系企業に対し、今はかつて恩恵を受けたこれら の企業がハンガリーのために協力する時期であると語ってい ます。報道などでは、オルバーン首相はハンガリーにとって 多大な雇用を創出している自動車などの製造業は「優良企 業」、単に利益だけを吸い上げていくサービス業は「敵」で あるという見方をしている、と言い切っているものさえあり ます。 オルバーン首相は周波数割当てに関しても、そこから大き な歳入を得ようとしています。 2011年8月、周波数管理を行う国家メディア通信庁 (NMHH)は900MHz帯における周波数オークションの実施 を発表しました。これまでハンガリーにおける携帯電話用周 波数の割当ては、日本と同様に総合評価による比較審査方 式を採用していましたが、財政再建を進めるフィデス政権の 強い意向もあり、携帯電話用周波数では初めてとなる周波 数オークションが実施されることとなりました。オークショ ン実施に当たっては、落札額の高騰や落札費用のユーザー転 嫁の懸念もあり、情報通信行政を担う国家開発省の内部で は反対論もあったようです。 このオークションの目玉の一つとして注目されたのが、ハ ンガリーにおける第4の事業者となる新規参入の可能性でし た。オークションの実施が発表された当初は、チャイナモバ イルなどの中国系事業者が参入してくるのではないかという
5.携帯電話周波数オークション
来レース、という見方が大勢を占めるようになりました。 入札には既存事業者3社を含む計6社が応じましたが、そ のうち2社は書類審査で失格とされ、新規参入事業者を優遇 する周波数ブロックでの入札者は事実上1社となってしまい ました。 その結果、事前の評判どおり国有企業連合が落札しまし たが、既存事業者3社がすぐに不服を申し立て、昨年9月に はブダペスト首都裁判所がその訴えを認め、落札を無効とし ました。落札結果を無効とされたNMHHは、判決を不服と して最高裁判所に上訴しましたが、今年2月末に最高裁判所 が首都裁判所の判決を支持する判決を出し、落札の無効が 確定となりました。 オークションの手続が順調に進んでいれば、国有企業連合 の事業会社であるMPVIが2012年中にブダペスト市内でのサ ービスを開始する計画となっていました。オークション直後 には、MPVIがネットワーク構築に向けて多数のメーカーに 声をかけ、筆者もMPVIからの依頼を受けて複数の日系企業 を先方に紹介しましたが、残念ながら全てが白紙に戻ってし まいました。今後の予定についてNMHHからはまだ何も発表 がありませんが、ハンガリーに第4の携帯電話事業者が誕生 するとしても、サービス開始が当初の予定よりも大幅に遅れ ることは避けられない状況となっています。 携帯電話の普及率は2007年に100%を超え、ここ数年は 117%前後で推移しており、ハンガリーでもスマートフォンの 普及などに伴って急速に増大するトラヒック対策や通信速度6.携帯電話・インターネットの普及
写真3.欧州有数の豪華さを誇る国会議事堂(筆者撮影) 図2.主な携帯電話事業者3社の加入者数シェア(2013年2月) (NMHH公表資料を基に筆者作成)46.2%
31.1%
22.7%
の高速化が喫緊の課題となっています。最大手のT-Mobile (マジャール・テレコム)が昨年1月からLTEの商用サービス を開始したのを皮切りに、他の事業者も順次LTEの導入を 進めています。T-Mobileは昨年末に首都ブダペスト市内の LTEカバー率が99%に達するなど、順調にエリアを拡大して います。郊外や地方の人口の少ない地域では、まだまだ第2 世代のGSMのみという地域も多くありますが、第3世代のW-CDMA(HSPA)も主要都市を中心に広く普及しており、 他のヨーロッパ諸国と遜色のない通信環境が整備されていま す。 街中に出ますとレストランやカフェ、ショッピングセンタ ーなど多くの場所で無料の無線LANが提供されており、スマ ートフォンに加えてタブレット型端末も急速に普及していま す。インターネット接続は無線LANやモバイルが50%以上を 占め、ADSLとCATVがそれぞれ15∼20%前後、光ファイバが 5∼6%程度となっています。 地上デジタル放送は2008年12月に本放送が開始されまし た。これを受けて、当初はアナログ放送を2011年末までに終 了させる予定でしたが、その後、2012年末まで期限が延長さ れ、さらに2014年末まで期限が延長されました。しかし、今 年3月になって、突然NMHHがデジタル化後の跡地の周波数 を早期に携帯電話用途に使うことを目的として、今年11月 までにアナログ放送を終了させることを発表しました。 NMHHの最新の発表によれば、ハンガリー国内の約400万の 全テレビ視聴世帯数のうち、デジタルテレビの普及率は50% 程度とのことです。他方で、全テレビ視聴世帯数に占める地 上アナログ放送の視聴割合は10%程度しかなく、ケーブルテ