• 検索結果がありません。

アメリカの航空市場の成長戦略 ~ アジア ヨーロッパの LCC 市場と比較して ~ 中村遥香 目次 はじめに 45 第一章グローバルな航空市場の歴史 航空市場のはじまり 航空市場の確立 47 第二章アメリカにおける LCC 市場の成り立ちと課題 アメリカの航空市場

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "アメリカの航空市場の成長戦略 ~ アジア ヨーロッパの LCC 市場と比較して ~ 中村遥香 目次 はじめに 45 第一章グローバルな航空市場の歴史 航空市場のはじまり 航空市場の確立 47 第二章アメリカにおける LCC 市場の成り立ちと課題 アメリカの航空市場"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

アメリカの航空市場の成長戦略

~アジア・ヨーロッパの LCC 市場と比較して~

中 村 遥 香

目 次 はじめに ……… 45 第一章 グローバルな航空市場の歴史 ……… 46  1.航空市場のはじまり ……… 46  2.航空市場の確立 ……… 47 第二章 アメリカにおける LCC 市場の成り立ちと課題  ………… 49  1.アメリカの航空市場の歴史とはじまり ……… 49  2.アメリカの LCC 市場の確立  ……… 50 第三章 ヨーロッパの LCC 市場の戦略と経営  ……… 53  1.ヨーロッパの LCC 市場の現状  ……… 53  2.ヨーロッパの LCC 市場の戦略  ……… 56 第四章 アジアの LCC 市場の成り立ち  ……… 57  1.アジアの LCC 市場の歴史  ……… 57  2.アジアのハブ空港競争について ……… 60 第五章 アメリカ、アジア、ヨーロッパの市場比較 ……… 62  1.ビジネスモデル ……… 62  2.座席シェア ……… 63  3.雇用数 ……… 64  4.旅行者数 ……… 65 結論 ……… 65 参考文献 ……… 67

(2)

はじめに  昨年度投稿した学が丘論集では、「ヨーロッパにおける LCC 市場の成り立ちと 課題」という論題のもと、日本の LCC 市場は確実に浸透してきて利用者も増加 している現状だが、ヨーロッパと比べると、市場規模も顧客数も少ないというこ とが明らかになった。しかし、この論文においては、ヨーロッパ市場と日本市場 に注目したため、もうひとつの巨大市場であるアメリカの事例を分析するに至っ ていない。アメリカ市場も、ヨーロッパの事例とは異なる発展を遂げている可能 性もあるため、アメリカ市場を加えた3地域での分析・検証を行っていくことが 必要不可欠である。そこで、本稿では、アメリカの航空市場に重点を置きながら 考察を試みる。  世界の航空市場に価格革命をもたらした LCC が、2012 年以降日本航空市場 に参入し、3社就航しているが、アメリカでは 1950 年代には、国内線において 通常のエアラインより安い運賃で就航している企業が既に出てきている。カリ フォルニア州のサンディエゴを本拠地としたパシフィック・サウスウエスト航空 (PacificSouthwestAirlines、1949 年−1988 年)が西海岸の高需要短距離路線に 単一機材を投入し、他社より安い運賃で就航する、LCC に近い状況を実現して いるのもその一例である。  以来、アメリカの航空各会社は、その規模に関係なく価格および M&A(吸 収・合併、MergerandAcquisition)などの攻撃的戦略による生き残り経営策を 繰り返し、今後も航空市場の競争は激しくなるものと予想される。  第1章では、グローバルな航空市場の歴史について述べ、第2章で、本稿の目 的であるアメリカの航空業界がどのような発展過程を経て、今日のような世界最 大の規模へと成長したのかを略歴的にみていく。そして、第3章にアメリカに並 び航空市場を確立していったヨーロッパの現状を調査し、今日まで確立していっ た戦略を検証していく。第4章は我が国も含めたアジアでの LCC 市場の経営状 態について考察する。主にアメリカとの違いに重点を置き、良し悪しを検証す る。最後に、第5章で、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、3国で、ビジネスモデ ル、座席数シェア、雇用数、旅客数を比較し、アメリカ航空市場の成長の限界を 検証する。

(3)

第一章 グローバルな航空市場の歴史 1.航空市場のはじまり  第2次大戦後の国際民間航空を実現させる法制度は、1944 年シカゴ会議で締 結された「国際民間航空条約(ConventiononInternationalCivilAviation、通 称、シカゴ条約)」と、1946 年「米英航空協定(バミューダ協定)」によって成 り立っており、シカゴ・バミューダ体制と呼ばれる。  1919 年に国際民間航空の運用に関するはじめての多国間条約して「パリ条約 (ConventionofParis)」が成立した。これによって確立された領空主権や国籍条 項、安全に関する規定を盛り込んだ新たな取り決めとして 1944 年 12 月7日に採 択(1947 年4月4日発効)されたのが、上記で記したシカゴ条約である。この 条約は、第一条で「締約国は、各国が領域上において完全且つ排他的な主権を有 することを承認する」として、領空主権原則を規定した。また、第6条で「…そ の締約国の領域の上空を通ってその領域に乗り入れて行うことができない」とさ らに規制がかかったのである1)。第二次世界大戦後間もない 1947 年には、シカ ゴ条約(第2部)の下で国際連合経済社会理事会の専門機関として「国際民間 航空機関(ICAO:InternationalCivilAviationOrganization)」2)を設立させて、 加盟国会議の場において、航空機や航空関連施設にかかわる規則や技術的基準を 策定し、これらの規則の世界的な統一及び標準化が図られることになったのであ る3)  また、1946 年2月 11 日にアメリカとイギリスの2ヵ国間で結ばれた「米英航 空協定(バミューダ協定/バミューダⅠ4))」は、それまで実効性のない協定で あった「国際航空運送協定(InternationalAirTransportAgreement)」5)を改 善するものであった。運送形態を5つに分類し、それらを権利として交換し合う 「運輸権」という重要な取り決めを2ヵ国間のみで結ぶことでより実効性の高い ものとした。この協定は、現在、世界各国で結ばれている2ヵ国間協定の原型と なっている。  上記のバミューダ協定で明記された運輸権の取り決めは、「空の自由」という 領空主権を明確化するものであった。これには5つの「自由」が該当している 1)ANA 総合研究所(2008)『航空産業入門−オープンスカイ政策からマイレージの仕組みまで』東洋経済新 報社 pp.22-23 2)ICAO の本部は、カナダ・ケベック州のモントリオールにある。フランス語では、Organisationde l'aviationcivileinternationaleの略として OACI としても知られている。 3)ANA 総合研究所 前掲書 pp.23~26 4)1977 年に改正された協定を「バミューダⅡ」と呼ぶ。 5)ANA 総合研究所 前掲書 p.23

(4)

(下記①~⑤)。また、米国会計検査院の報告書では①~⑤に加えて、さらに4つ の「空の自由」が追加されるなど航空運送における多様化がもたらされた(⑥~ ⑨)。  ①領空通過:相手国の領域を無着陸で横断飛行する自由  ②技術着陸:相手国の領域に、給油等の目的で離着陸する自由  ③自国より相手国へ輸送:自国領域での貨客を相手国の領域で取り降ろす自由  ④相手国より自国へ輸送:自国の領域に向かう貨客を相手国の領域内で積み込 む自由  ⑤相手国より以遠第三国へ輸送(以遠権):相手国の領域で第三国の領域に向 かう貨客を積み込み、または第三国の領域で積み込んだ貨客を取り降ろす自 由  ⑥相手国より自国経由第三国へ  ⑦相手国より直接第三国へ  ⑧⑨カボタージュ(相手国内区間の輸送)6)  ヨーロッパではすでにカボタージュが行われているが、シカゴ条約の第7条の 規定に違反していないかかが問題視されている。今後ヨーロッパが行う米国や他 国との交渉において議論が出てくると考えられる。 2.航空市場の確立  2ヵ国間協定の原型となっている米英航空協定(バミューダ協定)以降、様々 な航空会社を設立され、航空市場が確立していった。表1は、主な出来事を大ま かにまとめたものである。 6)ANA 総合研究所(2008)前掲書 pp.24~25

(5)

 ここまで航空会社を確立してきた戦略には、それぞれの航空会社が目指すブラ ンド戦略がカギとなっている。運航形態や機材、ターゲット顧客、親ブランドに 与える影響などにより、それぞれのブランド戦略がある。  ユナイテッド航空の子会社、ユナイテッド・エクスプレスが行っているサブブ ランドの活用。サブブランドとは、ベネフィット・機能を特価させたり、ブラン ドが確立した商品サービスに機能追加するものである。孤独ブランドにするか、 新たな商品を既存ブランドのサブブランドとするかは重要な選択である。  また、個性豊かな航空ブランドを作り上げている航空会社もある。それに挙 げられるものが、サウスウエスト航空と、シンガポール航空である。1971 年に 誕生したサウスエスト航空は顧客に提供する商品を「距離間の移動」と定義し て、誰でも格安料金で移動が可能というビジネスコンセプトに徹してきた。ソ 表1 世界の航空業界の歴史 1914 年 アメリカ合衆国における最初の定期商業航空会社として St.Petersburg-TampaAirboatLine 社が初飛行 1919 年 KLM オランダ航空が設立(現在存在する最古の航空会社) 1926 年 ユナイテッド航空が設立 1926 年 ノースウエスト航空が設立 1926 年 デルタ航空が設立 1930 年 アメリカン航空が設立 1931 年 東京国際空港(羽田空港)開港 1951 年 日本航空が設立 1952 年 全日空が設立 1958 年 世界初の大型ジェット旅客機、ボーイング 707 がパンアメリカン航空によって就航 1967 年 格安航空会社、サウスウエスト航空の元となる会社が設立 1970 年 アメリカで、民間の航空会社の乗り入れが規制緩和される 1978 年 成田国際空港開港 1981 年 チャンギ国際空港運用開始 2001 年 仁川国際空港運用開始 2008 年 デルタ航空とノースウエスト航空が経営統合 筆者作成

(6)

フトドリンクとナッツのサービス提供だけで顧客のニーズを満たしてきた7)。30 年実施されてきた企業ポリシーは、「もっとも安い航空券の提供とフライトスケ ジュールの厳守」サウスウエスト航空のビジネスモデルを確立した。もう一つの シンガポール航空は、ナンバーワンの航空ブランドといえる。人的サービスも一 流で、年間 1800 万人を超える輸送実績を誇る。世界各国のアワードを受賞し、 常に最新機材を先行導入している。アジア代表ともいえるホスピタリティあふれ る機内サービスである8)  このように、航空業界の将来的発展を視野においた構想はそれぞれにおいて早 い段階で確立されていったのである。では、次章において、本稿の目的であるア メリカの航空業界がどのような発展過程を経て、今日のような世界最大の規模へ と成長したのかを略歴的にみていく。 第二章 アメリカにおける LCC 市場の成り立ちと課題 1.アメリカの航空市場の歴史とはじまり  第1章でも述べたように、国際航空業界において大きな変化となったのは「シ カゴ条約」と「バミューダ型協定」の成立であった。航空機の発明から第一次大 戦直前後までは、欧州諸国が航空の中心だったのに対して、米国は第二次世界大 戦における軍事利用を契機に航空技術を著しく発展させ、その後は常に世界の航 空業界の牽引役であり続けている。国際航空制度の概要のように、自由競争を目 指す国際航空制度の確立は、基本的には米国がシカゴ条約当時から主張する方向 性を示すものであった。  大きな変革期を迎えたのは、米国で 1978 年に成立した航空企業規制緩和法で あった。航空企業規制緩和法により、路線設定、運賃を引き下げること、新規参 入を自由化するなど、大規模な航空改革を作りあげることが可能になった。1978 年8月、カーター大統領政権下において「国際航空交渉の実施のために政策声 明」を発表した。これは、国際航空分野においても、多様性、質、価格を決定す るための競争に基づく制度を目指すものであった。そして、相手国にも米国内の 自由乗り入れを与えた。この原則に基づいて作成されたのが、1978 年の米国モ デル航空協定である9)。さらに、この出来事が LCC のビジネスモデルが確立さ れるきっかけになった。 7)ANA 総合研究所(2008)『航空産業入門−オープンスカイ政策からマイレージの仕組みまで』東洋経済新 報社 p.176 8)同上書 p.177 9)古畑真美「国際航空に関する諸外国の制度等」 p.17

(7)

 第二次世界大戦後えて、荒廃した欧州大陸において、アメリカは統制冷戦構造 の中で西側欧州の再建と安全保確立のために主導的役割を果たした。1925 年の 欧州石炭鉄鋼共同体の発足にあたり、アメリカは欧州に代行代表団を派遣した最 初の国であった10)  また、世界の規制緩和の先駆けとして策定されたアメリカの「航空規制緩和 法(1978)」に注目したい。今から 30 年ほど前、国際観光の伸びに伴いアメリカ で規制緩和の流れが起こり、1978 年にはカーター政権(第 39 代アメリカ大統領 JamesEarlCarterJr. の政権で、1977 年~1981 年)で航空企業規制廃止法が成 立した。最初に規制緩和の対象となったのが航空路線の参入規制である。当時ア メリカには多くの航空会社があったが、運航権は、以下の三つに分かれていた。 ①ある州内だけを運航する権利、②州と州をまたいで運航する権利、③アメリカ 国内と海外を行き来するという権利。しかし、航空企業規制廃止法により、1981 年には参入規制の撤廃が実現し、1982 年には運賃の政府認可も必要なくなった。 その後も国際航空企業の国内線参入許可などの規制緩和を積み重ね、1985 年に は商業的な航空を規制する CAB(民間航空局)が廃止され、完全な航空自由化 が実現している。ただし、安全や保安については連邦航空局(FAA)が引き続 き管理している11)  1978 年に始まった規制緩和は当初はうまくいかず、既存の大手航空会社な どが多く倒産していった。設立、倒産の繰り返しが続き、アメリカの航空産 業に限界がでたのだ。航空産業の再編のために 90 年代には、CRS(Computer ReservationSystem)と呼ばれるコンピューターで航空機の予約がとれるシステ ムが開発された。航空自由化の中で、ネットワーク化が進展し、自由で公正な競 争をする状況が生まれていった。ハブ運行システムの構築に有利であった国内外 に多くの発着枠をもつサウスウエスト・エアラインズ(2001 年)が、LCC とし て急速に拡大していくのである。 2.アメリカの LCC 市場の確立  前述のとおり 1985 年に CAB を廃止し、航空の自由化を実現したことにより、 アメリカで LCC が設立できる環境が整い次第に定着していった。低コストビジ ネスモデルは航空市場に大きな影響を与えた。しかし、既存の大手航空会社は一 旦破産するといった戦略を用いて生き残りを図った。低コストのみを売りにする 10)「アジアの航空事情と LCC(低コスト航空会社)の動向 http://www.nihonkaigaku.org/library/university/ i100911-t5.pdf 11)同上

(8)

LCC 航空会社の多くが経営破綻していった。その中でも 1971 年にテキサス州で 設立されたサウスウエスト・エアラインズは世界で初めて業績を残しそれ以降、 アメリカやヨーロッパなど世界に規模を拡大し現在では LCC の代名詞ともよば れる企業に成長した。2002 年にマレーシアで AirAsia が誕生してから、タイ、 シンガポールでも LCC 航空会社が登場し、アジアにも LCC の波が到来した。そ して、サウスウエスト・エアラインズのビジネスモデルは多くの LCC が採用し ているのだ。その経営戦略の特徴は既存大手航空会社との差別化である。主に次 の3点が考えられる。  ①二次空港から短距離・低運賃便を飛ばし、ポイント・トゥー・ポイント戦略 を行う  ②用機材を統一する  ③コーポレート・アイデンティティ(CI)を確立する12)  このことから、アメリカの LCC 市場は、既存の大手企業がシェア拡大に重点 を置く中、収益向上に重点を置いていることが分かる。二次空港を利用すること により、コスト削減、多頻度の運航が可能となり顧客に安心感を与えることとな り、顧客満足度が高まったのである。  一方で LCC 市場が航空会社にダメージを与える場合がある。例として、低コ ストで LCC を参入するが、需要が伸びずに利潤が低下する。そして運賃を引き 上げることで、さらに需要が減少し、最終的には撤退するという形もある。LCC の撤退後大手航空会社は、利益を取り戻そうとするため、LCC が参入する前の 価格よりも設定を高くしてしまう傾向にある。そして、それがさらに利用者を失 うケースとなってしまうのである。もう一つは、長距離の LCC の参入である。 ノー・フリルサービスが売りの LCC が長距離路線に参入した理由に、機材がた くさんの燃料を使うのは離着陸時であるので、安定飛行の距離が長いほど、距離 あたりの費用が低下するという点が挙げられる。それを表したのが図1である。 長距離になればなるほど、運賃が低下しているのがわかる。 12)Freiberg,KevinandJackieFreiberg,Nuts!:SouthwestAirlines’CreazyRecipeforBusinessandPersonal success,BroadwayBooks、1998、p.67

(9)

 このように既存の大手航空会社とほぼ差がない状態になっていることから、大 手航空会社にダメージを与えていることがわかる。 図1 距離の経済性による距離逓減運賃 〈典拠〉村上英樹(2008)「日本の LCC 市場における競争分析:米国 LCC の事例を参考に」         日本大学経済学部経済科学研究所紀要 No.38 p.85 表2 既存航空会社と LCC 航空会社のビジネスモデル比較 既存航空会社 サウスウエスト サウスウエストを除くLCC 運賃 高いものから安いもの 制約条件が多く、複雑 安い制約条件が少なく、単純 路線 ハ ブ・ ア ン ド・ ス ポ ー ク・システム(ハブ空港 で乗り換え) 中長距離が中心 世界中をネット 二地点間直行(乗り継ぎ 客もいる) 短距離(500 マイル以下) 中心 米国内のみ 長距離路線、短距離国際 線へも進出 機内サービス フルサービス 飲食、娯楽サービスあり 2~4クラス 座席指定有 ノンフリル 飲食サービスなし エコノミークラスのみ 座席指定無 各種サービスの有料化 (一部では飲食などの無 料サービス提供もある) 販売 旅行代理店経由が主体 航空券有(ネット経由、 チケットレス比率急増) ネット販売 チケットレス マイレージ プログラム あり 飛行回数に応じた優待制度(オンライン) なし(一部オンライン制度がある) 提携 連帯輸送の他各種提携、 アライアンス しない 機材 路線特性に合わせて多く の機種 単一機種 仕様空港 主要空港 二次的空港、非混雑空港 一部主要空港を使う場合 がある

(10)

 大手と LCC は、完全に切り離されたそれぞれ独立した市場であるため、二つ のブランド間で顧客は移動しない。ただ、近距離の飛行の場合、大手はフルサー ビスを、LCC はノーフリルサービスを提供すると、多くの旅客は LCC を利用す る。大手を利用する旅客も LCC にスイッチしてしまうのである。しかし、長距 離飛行の場合は、顧客が、ノーフリルサービスに耐えられないため、LCC にス イッチすることはない。つまり、高価格ブランド、低運賃ブランドが完全に分か れているため、既存大手は強い価格決定力を持つ。  そこで、LCC は長距離でも対応できるように働きだしたのである。例として、 上記でも記したサウスウエスト航空が挙げられる。実際に LCC はフルサービス を増やしている。今後長距離市場では LCC と大手の差はなくなっていくと考え られる。しかし、現在のアジア航空市場は、LCC の発展に理想的な環境が整っ ているわけではない。輸送力、運賃などが制限されているので、各国を代表し、 資金力も豊富な航空会社である大手航空会社と公正に競争するのは難しい13)  このように、LCC 航空会社は新たな市場をグローバルな規模で提供している が、その一方でヨーロッパではどのように LCC 市場を確立していったのか次章 において、アメリカの LCC 市場と比較しながら詳しくみていこう。 第三章 ヨーロッパの LCC 市場の戦略と経営 1.ヨーロッパの LCC 市場の現状  ヨーロッパでは第二次世界大戦の反省から、ヨーロッパを一つにまとめようと いう動きが起こり、1993 年に EU(欧州連合)が成立した。航空業界も同じよう に、1988 年から5年ほどかけて「パッケージⅠ」、「パッケージⅡ」、「パッケー ジⅢ」と段階的に統合が進められ、その結果、アイルランドのライアン航空等が 13)「アジアの LCC のビジネスモデルの比較分析」   http://www.ide.titech.ac.jp/~hanaoka/lccbsmodel.pdf 便数頻度 路線に応じ、多用 高い 折り返し時間 平均 60 分以上 30 分以下 定時制 低い 高い 労使関係 しばしば対立 生産性が低い 賃金は高水準で上昇傾向 良好 生産性が高い 競争力のある賃金体系 従業員への利益還元 〈典拠〉村上英樹・加藤一誠・髙橋望・榊原胖夫(2006)「航空の経済学」ミネルヴァ書房 p.162

(11)

ヨーロッパで飛行機を自由に飛ばせるようになったのである14)。EU における航 空市場が拡大していったのは、段階的な規制撤廃政策がとられたからだ。国家主 権に基づく制空権から生じたカボタージュを取り払い、ほぼ制限のないエアライ ンビジネスへとなった15)。EU の LCC は会社ごとに異なったビジネスモデルを とるようになった。ラインエアー、イージージェットなどのようにサウスウエ スト航空のビジネスモデルをベースにしている航空会社、大手航空会社傘下の LCC としてビジネスモデルに一部サウスウエスト航空のモデルを反映させる航 空会社、航空自由化以降 LCC に転向した航空会社の以上三点が挙げられる16)  カボタージュ廃止により EU 委員会は、EU 産業の雇用への影響について詳細 な委託調査を行った。EU 航空産業における雇用状況はここ十数年安定傾向がみ られる。しかし、EU の航空自由化はアメリカのような市場経済主義を貫くため の規制緩和による完全自由化ではなく、既存の大手エアラインの多くを存続して いることが雇用の安定の一要因であろう。 また、LCC による需要も雇用増加に反映している。実際に LCC における雇用数 も大きく変化している。「欧州格安航空会社協会(EuropeanLowFaresAirline Association)」に加盟している LCC では、1997 年の雇用は 1,000 人弱であった が、2007 年には1万 8,000 人雇用している17)。このような雇用の増大は、1997 年から 2007 年の長期的な航空需要の増加が要因とみられる。LCC の参入による、 短距離路線での運賃引き下げなどにより、航空産業全体が活性化されたと考えら れる。空港職員は、グランドハンドリング業務18)の保安要員の増大などによっ てマイナス要因がなくなり、雇用数は安定的に維持されている19) 一般労働者よりは、様々な手当の割合が多いため、一見魅力的であるように思う が、賃金全体を占める固定給の割合の低下がみられるのでそうであるともいえな い。また、乗務時間に応じて支払われる歩合制なども増加している。同時に、パ イロットも高給賃金職種のトップでなくなった。(図3参照) 14)「アジアの航空事情と LCC(低コスト航空会社)の動向 http://www.nihonkaigaku.org/library/university/ i100911-t5.pdf 15)家田愛子(2014)「EU 航空自由化と雇用・労使関係− LCC による航空産業の雇用への影響についての一 考察」札幌学院法学 30 巻 NO.2 P.378 16)小熊 仁(2010)「EU における航空自由化と LCC の展開」『運輸と経済』第 70 巻第 6 号 p.64 17)同上 p.380 18)飛行中の航空機内の業務とは別に、旅客機・貨物機への貨物搭載・機内清掃・機体誘導などの仕事(以下  グラハン) 19)家田愛子 前掲書 p.383

(12)

図2 5大エアライン所在国と他の 10 ヵ国での雇用数 〈典拠〉EuropeanCommission,“SocialdevelopmentintheEUairtransportsector−Astudyof developmentsinemployment,wagesandworkingconditionsintheperiod1997-2007−Final report,”(Europeancommission,21December2007),P,39. 図3 賃金中の各種手当−航空労働者と一般労働者の比較− 〈典拠〉EuropeanCommission,“SocialdevelopmentintheEUairtransportsector−Astudyof developmentsinemployment,wagesandworkingconditionsintheperiod1997-2007−Final report,“(Europeancommission,21December2007),P,52

(13)

2.ヨーロッパのLCC市場の戦略  ヨーロッパの LCC 市場は、1970 年代以降に確立していった。上記で記したよ うにアメリカとは違い、ヨーロッパの LCC のほとんどが会社ごとに異なったビ ジネスモデルをとり、長距離を除いた飛行を中心とし、貨物の新規参入や運賃設 定が自由化されることになった。そして、機材稼働率の向上、人件費の削減を行 うことで拡大されていった20)。21 世紀に入り EU における航空自由化が実現し てからの旅客数の増加は目にとってわかる。(図4参照)  LH(ルフトハンザ航空)、AF(エアフランス)、BA(英国航空)、KLM(オ ランダ航空)、LX(スイス航空)は、特に旅客数の変化はないが、Ryanair(ラ イアンエアー)と easyJet(イージージェット)の LCC である2社は、急激に 数字を伸ばしている。  ラインエアーは、1985 年に誕生し、ビジネス目的の旅客者をターゲットにし て、格安運賃を提供し、いっきに拡大していった。主に中小空港を使用してい る。現在ヨーロッパの LCC 市場の中では、最大のネットワークを展開している。 イージージェットは、1995 年に誕生し、就航地は、およそ、20 か国 120 都市以 上である。ラインエアーとは違い、主要空港を活用することが多い。この二つの 航空会社は、サウスウエスト航空の LCC ビジネスモデルを引き継いで、極端な 低価格を提供し、新しい航空需要を進めた21) 20)佐竹真一(2011)「EU における航空自由化と LCC −欧州航空市場の統合過程と LowCostCarrier の展 開−」大阪観光大学紀要 No.11 p.72 21)同上 図4 EU 地域旅客輸送量比較 〈典拠〉佐竹真一(2011)「EU における航空自由化と LCC −欧州航空市場の統合過程と          LowCostCarrier の展開−」大阪観光大学紀要 No.11 p.72

(14)

 この両社が誕生し、さらにネットワークの急成長に成功したことが、EU での LCC 市場を大きくし、将来への期待が高まったである。 第四章 アジアの LCC 市場の成り立ち 1.アジアの LCC 市場の歴史  アジアでのLCC市場の拡大は、欧州と先進国経済の成長鈍化が懸念される 中、新興国の著しい拡大を広げていくことは、先進国各国の重要な成長戦略と なっている。要するに、日本においては、経済の長期低迷により、この20年の 名目成長はほとんどないに等しく、少子高齢化や人口が益々進行するなか、アジ アの成長を取り込んでいくことは、国家としての重要な成長戦略であることは間 違いないと考える。下記の表2・3・4は、アジア大都市の新空港を一覧にした もの、国際空港を旅客数、貨物量、滑走数を比較したもの、最後に国内線、国際 線の旅客数を比較したものである。これを参考にしながらアジアで活躍している 主な空港に注目していく。 表3 アジア大都市の新空港一覧 都市 新空港名(開港年) 既存空港名および新空港開港後の機能 東京 ★成田(1978) 羽田/国内線専用から国内・国際両用へ 台北  桃園(1979) 松山/国内線専用から国内・国際両用へ シンガポール ★ Changi(1981) PayaLebar/軍用 ジャカルタ  Soekarno-Hatta(1985) Hallm/チャーター・プライベート用 大阪  関西(1994) 伊丹/国内線専用 香港 ★ ChekLapKok(1998) KaiTak(廃港) クアラルンプール  International(1998) Subang/コミューター用 上海  浦東(1999) 虹橋/国内線専用から国内・国際両用へ ソウル ★仁川(2001) 金浦/国内線専用から国内・国際両用へ 広州  白雲(2004) 旧白雲(廃港) 名古屋  中部(2005) 名古屋/コミューター用 バンコク ★ Suvarnabhumi(2006) DonMuang/国内線・チャーター用 ★国際ハブ空港 〈典拠〉「アジアの国際ハブ空港」 http://www.teikokushoin.co.jp/journals/bookmarker/pdf/201104/13_msssbl_2011_04_p32_33.pdf

(15)

表4 アジア国際空港比較 表5 アジアの都市圏航空旅客数(2009 年) 仁川 (韓国) (中国)香港 (日本)成田 (シンガポール)チャンギ (中国)北京 開港年度 2001 年3月 1998 年7月 1978 年5月 1981 年 12 月 1958 年8月 旅客受容能力/年間 (拡張後) (10,000 万人)4,400 万人 (8,700 万人) 5,400 万人7,000 万人 7,000 万人 9,500 万人 貨物受容能力/年間 (拡張後) (700 万トン)450 万トン (890 万トン) 270 万トン480 万トン 350 万トン 180 万トン 滑走路数 3,750m×2本4,000m×1本 3,800m×2本 2,180m×1本4,000m×1本 4,000m×2本 3,200m×1本3,800m×2本 〈典拠〉「東北アジアのハブ空港を目指す仁川国際空港」 http://www.ncbank.co.jp/asia_information/chuzaiin_news/pdf_files/seoul_200906.pdf 単位(千人) 都市 国際線 国内線 都市圏合計 1 東京 成 田羽 田   計 30,894 2,590 33,484 成 田 羽 田   計 1,240 59,313 60,553 94,037 2 北京 14,098 51,273 65,372 3 上海 浦 東虹 橋   計 11,101 786 11,887 浦 東 虹 橋   計 21,000 24,292 45,292 57,179 4 香港 45,558 0 45,558 5 ソウル 仁 川金 浦   計 28,207 2,496 30,703 仁 川 金 浦   計 469 12,874 13,343 44,046 6 バンコク スワンナプームドンムアン   計 30,289 21 30,310 スワンナプーム ドンムアン   計 10,210 2,445 12,655 42,965 7 シンガポール 37,203 0 37,203 8 ジャカルタ 9,362 27,781 37,143 9 広州 4,063 32,985 37,048 10 クアラルンプール 19,685 9,997 29,682 〈典拠〉「アジアの国際ハブ空港」 http://www.teikokushoin.co.jp/journals/bookmarker/pdf/201104/13_msssbl_2011_04_p32_33.pdf

(16)

①仁川空港  2002 年の日韓共催ワールドカップ開催時期に合わせ、2001 年3月 29 日に開港 された。アジアで有数な 1000ha 以上の面積を持つ空港であり、国際線が成田空 港とほぼ同数の利用者がいる。世界空港サービス評価で8年連続第1位を達成し た唯一の空港である。空港内には広い免税店をはじめ様々なサービス施設が充実 しており、運営・サービス全般高い評価されている。また、アジアの経済と貨物 量の増加に伴い、北東アジアの物流ハブ拠点として注目されている。2001 年開 港時には一年間で 1450 万人の利用者にとどまっていたが、2009 年には累計2億 人を超えた。2008 年世界的な不景気の影響のため旅客数、貨物処理量ともに減 少したが、航空貨物取扱高は香港に次ぐ世界第2位を維持している。  仁川空港の成功要因と考えられるのは、3時間半の飛行時間内に人口 100 万都 市 40 以上の国を所有し、場内人口は 10 億人以上いるということだ。またアメリ カ東部とヨーロッパの主要都市までノンストップ飛行が可能で、ヨーロッパまで の飛行距離は、従来より三時間短くなった。また、空港の着陸料をアジアで最も 安くしている。仁川空港公社は海外事業進出を通じて世界空港の運営及びサービ スを主導する存在として生まれ変わる努力をしているのだ22) ②シンガポールチャンギ国際空港  次にシンガポールチャンギ国際空港に注目する。クリスマスやニューイヤーな でにイベントが行われるシンガポールが誇る一大ハブ空港だ。面積が広いため案 内所が多くとても利用しやすい空港である。各ターミナル間の移動には、スカイ トレインを無料で利用できる。また、24 時間利用できるグランド・トランスポー ト・デスクがあるので、例え深夜に到着しても、市内までのアクセスをサポート してもらえることになる。シンガポール市街地からのアクセス良好であることが 魅力的であるといえる。 ③成田空港  最後に日本の二つの空港について検証する。成田空港が開港してから2本目の 滑走路ができるまで約 20 年かかった。さらに、「深夜 23 時から翌朝6時までの 間は発着ができない」という地元の人との約束があるため、国際空港でありなが ら 24 時間運用ができない状況であった。2本目の滑走路ができてからは、発着 回数が年 13 万回から年 20 万まで増えた。しかい諸外国のハブ空港とには、大き 22)末松顕成「東北アジアのハブ空港を目指す仁川国際空港」   http://www.ncbank.co.jp/asia_information/chuzaiin_news/pdf_files/seoul_200906.pdf

(17)

な差があり、成田空港の慢性的な発着枠不足が解消することはできなかった。ア ジアのハブ空港では、滑走路を3本備えることが標準となり外国の航空会社と比 較すると遅れを取っていることにかわりはない。 ④羽田空港  一方で羽田空港は、2010 年に再拡張事業として4本目の滑走路が供用開始を 目指して建築が進められている。それにより年 40.7 万回にまで発着量が増える こととなった。しかし、現在の羽田空港は、三本の滑走路の発着容量を十分に生 かしきれず、十分な機能が確保できないところがある。国際ハブ空港を目指すな らば、国内線・国際線両面において、規模アクセス・利便性ともに近隣諸国に負 けない競争優位性の高い空港を作り上げていくことが必要になる。日本のビジネ ス環境への対応の遅れなどによって、国際的な魅力が相対的に低下し、「日本の 空港はアジアに後れをとっている」と、危機感が日本国内にも強まっている23)  アジアの各国を見ると、韓国、上海、香港などの空港建設は、大規模かつ、ス ピード感をもって進められ、次第に東京よりも経済成長の著しい、上海、ソウ ル、シンガポールなどのアジア主要都市の大規模空港が注目されるようになって いる。 2.アジアのハブ空港競争について  前述したように、最も活躍しているアジアとして注目されている空港の形態は ハブ空港である。ハブ空港とは乗り継ぎ客の便利性を最大限に優先したハブ&ス ポークシステムが可能とするように計画、長距離国際線を含む国際線及び国内幹 線が多発発着し、それらの路線間の乗り換えがおこなわれる空港である24)。ハブ &スポークシステムとは、図5のように、ハブ空港を拠点として国内線や国際線 に乗り継ぎをするシステム。自転車の車輪が中心の軸受けより放射状にスポーク が出ているように結び、ネットワークを効率的に構築し、基幹空港より地方空港 が放射状に設定されている。アジアでは、シンガポール、香港、仁川などのハブ 空港が存在している。このシステムが大規模に実行されることで効率性が向上す る。 23)アジアの国際ハブ空港ランキング−日本・韓国・中国・東南アジア http://10rank.blog.fc2.com/blog-entry-116.html 24)「アジアの国際ハブ空港」https://www.teikokushoin.co.jp/journals/bookmarker/pdf/201104/13_msssbl_ 2011_04_p32_33.pdf

(18)

 また、ハブ空港のデメリットに注目したい。デメリットとしては、旅客にとっ ての乗り継ぎの拠点や、ハブ空港において乗り継ぎ接続の発着が集中して遅延 や混雑が発生する点があるということだ。遅延や欠航の備えが必要であるため、 ネットワークが拡大していくほどオペレーションが複雑化していく。東アジア各 国では、ハブ空港を目指す巨大空港の開発が進み、国内でもその地位を求める都 市間でもその競争が激しくなっている。この地位を獲得するためには、路線維持 が可能な利用者数を確保することが重要になってくる25)  アジアの中で、国際線−国際線の乗り継ぎがある国際ハブ空港は、東京、香 港、シンガポール、ソウル、バンコクである。北米−アジア路線において成田空 港は乗継拠点として良い位置にあり、路線数・便数ともに、仁川空港を上回って いる。しかし、成田空港は運用時間と発着枠が限られることにより、国際ハブ空 港として優れているとは言えない。また、仁川空港は成田と同数の利用者がいる ので今後もこの二つの競争が激しくなりといわれている。競争を維持するには、 国際線の着陸料および、そのほかの空港料金を世界と争えるレベルまで下げるべ きであるといえる。ソウル、シンガポール、バンコクなどのアジアの主要都市 の大規模空港は空港の建設状況を見ると、24 時間運用の空港が計画されており、 将来に向けさらに拡張していくと予想する。アジアがハブ空港に力を入れてるこ とがわかる。 25)同上 図5 ハブ&スポークシステムモデル 筆者作成

(19)

第五章 アメリカ、アジア、ヨーロッパの市場比較 1.ビジネスモデル  北米、欧州、アジアの LCC ビジネスモデルの特徴を分析したのが表5であ る。Airasia と TigerAirwats が伝統的モデルをほぼ順守したものになっている。 Airasia は路線拡張を中心に活動を行いネットークを広げている。一方で、Lion Air は全ての項目で伝統的な LCC のビジネスモデルを実践しておらず、どちら かといえば、フルサービスのビジネスモデルに近いといえる。  アジアにはセカンダリー空港を利用している空港がない。セカンダリー空港の 利点とは、混雑の回避や、折り返しの時間短縮、スロット時間の確保などがあ る。しかし、アジアでは空港使用料を除けば、セカンダリー空港がなくとも他の 設備が十分にされているのである26) 26)花岡信也(2007)「アジアの LCC のビジネスモデルの比較分析」http://www.ide.titech.ac.jp/~hanaoka/ lccbsmodel.pdf 表6 北米、欧州、アジアの LCC ビジネスモデルの特徴 地域 LCC サービス機内 クラス座席 座席指定 FFP 空港 機材 TraditionalLCC ノーフリル 1クラス なし なし セカンダリー 1タイプ 北米 Southwest スナック・ドリンク 1クラス なし あり 両用 1タイプ JetBlue フリル 1クラス あり あり プライマリー ミックス AirTran フリル 2クラス あり あり 両用 1タイプ Frontier フリル 1クラス あり あり 両用 1タイプ Sprit スナック・ドリンク 2クラス あり あり 両用 1タイプ WestJet フリル 1クラス あり あり 両用 1タイプ 欧州 Ryanair ノーフリル 1クラス なし なし セカンダリー 1タイプ EasyJet ノーフリル 1クラス なし なし プライマリー ミックス VirginExpress スナック・ドリンク 1クラス なし なし プライマリー 1タイプ AirBerlin フリル 1クラス あり あり 両用 1タイプ アジア AirAsia ノーフリル 1クラス なし なし 両用 1タイプ One-Two-Go スナック・ドリンク 1クラス あり なし プライマリー ミックス NokAir ノーフリル 2クラス あり なし プライマリー ミックス TigerAirways ノーフリル 1クラス なし なし 両用 1タイプ Jetstar ノーフリル 1クラス あり あり プライマリー 1タイプ LionAir フリル 2クラス あり あり プライマリー ミックス CebuPacific スナック・ドリンク 1クラス あり なし プライマリー ミックス AirPhilippines − 1クラス − あり プライマリー 1タイプ SpringAirlines スナック・ドリンク 1クラス あり なし プライマリー 1タイプ 〈典拠〉「アジアの LCC のビジネスモデルの比較分析」 http://www.ide.titech.ac.jp/~hanaoka/lccbsmodel.pdf

(20)

2.座席シェア  アメリカ、ヨーロッパ、アジアの座席のシェアを比較する。図3つを比較し、 圧倒的にアジアがシェア数を伸ばしていることがわかる。アメリカは 1990 年代 から LCC が活躍していたことから、3000km 未満では、アジアが0%に対して 10%を越えている。ヨーロッパでは、航空市場統合をきっかけにシェアをのばし てきた。ヨーロッパの全域がほぼ 3,000km 圏内に収まることから、地理的なサ イズが LCC に適している。図7に示した 3,000km の LCC シェアのうち約 70% は、アイルランドのラインエアーと、イギリスのイージージェットである。この ようにヨーロッパ LCC は LCC の運航システムやサービスを多く続けているが、 新たに開拓する余地がなくなりつつある。ヨーロッパにおいても LCC 市場は成 熟しつつある。 図6 北米における距離帯別 LCC 供給座席シェア 〈典拠〉世界における LCC の成長 東京工業大学 准教授 花岡信也 http://www.teikokushoin.co.jp/journals/geography/pdf/201303g/04_hsggbl_2013_03g_p07_p10.pdf 図7 ヨーロッパにおける距離帯別 LCC 供給座席シェア 〈典拠〉世界における LCC の成長 東京工業大学 准教授 花岡信也 http://www.teikokushoin.co.jp/journals/geography/pdf/201303g/04_hsggbl_2013_03g_p07_p10.pdf

(21)

3.雇用数  航空自由化をヨーロッパに先がけて実施したアメリカでは、ヨーロッパほど雇 用数は安定していないことがわかる。1988 年から 1991 年までの3年間で 15 万 人の航空労働者が失業している。表7からわかるように、ヨーロッパとアメリカ では、1997 年から 2000 年にかけては、LCC の台頭により 16%の雇用増大があっ たものの、「9.11 テロ」の影響で、2001 年から 2003 年では 16%も激減した。 1997 年から 2005 年までの雇用者数はヨーロッパが6%の増加に対し、アメリカ は4%の減少であった。これは、1997 年から 2000 年にかけての急激な雇用増大 とその反動である 2000 年から 2003 年にかけての雇用激減を反映したものである が、内市場の飽和後の大手エアラインの倒産など、航空自由化によるアメリカの エアラインの再編・合理化の影響であると考えられる。アメリカでは航空自由化 は長期的には雇用の増大につながっていない国であるといえる27) 27)家田愛子(2014)前掲書 pp.380-381 図8 東南アジアにおける距離帯別 LCC 供給座席シェア 〈典拠〉世界における LCC の成長 東京工業大学 准教授 花岡信也  http://www.teikokushoin.co.jp/journals/geography/pdf/201303g/04_hsggbl_2013_03g_p07_p10.pdf 〈典拠〉家田愛子(2014)「EU 航空自由化と雇用・労使関係− LCC による航空産業の  雇用への影響についての一考察」札幌学院法学 第 30 巻第2号 p.380 表7 ヨーロッパとアメリカ雇用数比較

(22)

4.旅行者数  図9は海外旅行者数を比較したものである。航空会社の需要との関係が比例す るため比較した。アジアへの旅行者数、アジア内での旅行者数、は 1996 年に比 べて大きく増加した。それに比べて北米・欧州間はほとんど変わらない。よっ て、アジアが航空市場で一番需要があるといえる。しかし、数値を比較すると圧 倒的に欧州が多い。アジアの伸びしろはまだまだある。むしろ、まだまだ伸びて いかなければならない。 結論  本稿では、アメリカの LCC 市場の限界を検証するにあたって、現在のアメリ カ、ヨーロッパ、アジアの LCC 市場の現状、航空市場の発展を歴史的視点から 検証した。  まずはじめに、航空市場の始まりからどのようにして拡大し、今日の市場が確 立されるに至った経緯について考察を行った。「シカゴ条約」と「バミューダ型 協定」の成立は、国際航空業界に大きな変化をもたらすことなった。航空機の発 明から第一次大戦前後までは、欧州諸国が航空業界の中心であったのに対して、 米国は第二次世界大戦における軍事利用を契機に航空技術を著しく発展させ、そ の後は常に世界を牽引することとなったのである。また、グローバルにみて、ブ ランド戦略がカギとなっていることや航空市場は将来への発展を視野において拡 大していったことも明らかにした。 図9:世界の海外旅行者数(2006 年) 〈典拠〉野村宗訓(2012)「新しい空港経営の可能性− LCC の求める空港とは−」

(23)

 LCC の先駆けとなったのは、アメリカの航空市場でも特筆されるサウスウ エスト航空である。サウスウエスト航空のビジネスモデルは既存の大手航空会 社と差別化されている。二次空港から短距離・低運賃便を飛ばし、ポイント・ トゥー・ポイント戦略を行うことや用機材を統一するコーポレート・アイデン ティティ(CI)を確立したことにその特徴がある。つまり、既存の大手企業が シェア拡大に重点を置くなか、このビジネスモデルは収益向上に重点を置いたの である。アメリカにおける LCC 航空会社が大手とは異なったビジネス・コンセ プトを取り入れたことが、その後急速に拡大する要因となったと考えられる。  ヨーロッパでは、1970 年代以降、LCC 市場が確立していくための様々な動き があった。1984 年には、航空の自由化に関する手法が協議され、その後、運賃 制度の導入や自由な価格設定、輸送制度などが決定される。そして、1993 年に は EU 内での共通免許を持つ事業に、旅客やチャーター、貨物などの新規参入や 運賃設定が自由化されることになった。また、アメリカのサウスウエスト航空の ビジネスモデルを参考にして、機材稼働率の向上、人件費や整備費の削減、機内 サービスの簡略化などを行ったことも、ヨーロッパ市場で LCC が拡大していく 要因となったのである。アメリカ市場との大きな違いは、会社ごとに異なったビ ジネスモデルを追求したことである。そしてアメリカ市場と対等な市場にまで拡 大した要因には、ネットワークを利用した業務の簡略と効率化が進んだことが挙 げられる。  ヨーロッパに続いて、アジアでも 1990 年代以降、ハブ空港の確立に力点をお いた LCC の発展形態を見ることができる。海外航空会社の乗り入れが可能な施 設をもつ地方の空港でも、アジア地域を基地とする LCC 会社の乗り入れを歓迎 する動きもある。特に、成田、羽田、仁川、チャンギ空港の4つは、国際的なハ ブ空港の建設の流れに乗って注目されている空港である。さらに上記以外にも、 中国(上海)、香港、バンコクなどの空港も施設拡張や拡充など急成長を遂げつ つあるのである。アメリカとヨーロッパの市場に比べると、これからまだ拡大し ていく余地があると考えられる。  また、これらの3つの市場(アメリカ、ヨーロッパ、アジア)を分析するため にビジネスモデル、座席シェア、雇用数、旅行者数について比較すると、圧倒 的に成長がみられるのはアジアである。アメリカとヨーロッパを追いかけるよ うに、LCC に力を入れ、旅行者数など数字を確実に増やしている。現時点では、 アメリカ市場の規模には遠く及ばないものの、大いなる発展が期待できる市場と いえる。  アメリカ市場に目を転じると、LCC 市場がこれまでのような成長を維持する

(24)

ことは難しいようにも思われる。さらなる成長を遂げるためには、国内市場に重 点をおいた現在の営業展開の維持・継続に加えて、アジア市場、中東、アフリカ といった新たな市場の開拓がポイントとなるだろう。こうした発展途上(アジア 市場・中東市場)、また未開拓の市場(アフリカ市場)を取り込むことが今後の 成長の要因として期待される。 〈参考文献〉 【書籍・論文】  遠藤伸明・寺田一薫(2011)「ローコストキャリアにおける経営戦略と費用優位性についての分析」東京海 洋大学研究報告 No.7  大久保堯夫(2011)『交通の百科事典』丸善出版  河村宏明(2012)「LCC」『REPORT2012』共立総合研究所 vol.145  国土交通省(2005)「国内航空における規制緩和−改正航空法による規制緩和の検証−」  小熊 仁(2010)「EU における航空自由化と LCC の展開」『運輸と経済』第 70 巻第6号  坂本昭雄(1999)『新しい国際航空法』有信堂  佐竹真一(2011)「EU における航空自由化と LCC:欧州航空市場の統合過程と LowCostCarrier の展開」 大阪観光大学紀要 No.11  杉山純子(2012)『LCC が拓く航空市場−格安航空会社の成長戦略−』成山堂書店  高橋広治(2006)「東アジア航空市場とローコストキャリアの将来像」国土交通省国土交通政策研究所  丹生清輝「空港需要マネジメント政策のレビューと国内エアライン供給行動の動向」『国土技術政策総合研 究所資料』国土交通省国土技術政策総合研究所 No.554  羽原敬二(2006)「国際航空と自由化政策」『航空の経済学』ミネルヴァ書房  羽原敬二(2006)「航空会社の新たなビジネスモデル」『航空の経済学』ミネルヴァ書房  藤原健治(2012)「LCC(格安航空)の浸透が求められる理由」FutureSIGHTNo.56  傍士清志(2012)「わが国における LCC の台頭と空港政策」国土技術政策総合研究所  益田勝也・村岡洋成・小林一幸(2010)「空港ビジネスの海外展開における日本の戦略のあり方:急成長す る国際インフラビジネスと日本の戦略」:野村総合研究所 7月号  村上英樹(2008)「日本の LCC 市場における競争分析:米国 LCC の事例を参考に」日本大学経済学部経済 科学研究所紀要 No.38  山路 顕(2008)「自由化の流れ」『航空産業入門−オープンスカイ政策からマイレージの仕組みまで』東洋 経済新報社  ANA 総合研究所(2008)『航空産業入門−オープンスカイ政策からマイレージの仕組みまで』東洋経済新報社  村上英樹・加藤一誠・髙橋望・榊原胖夫(2006)「航空の経済学」ミネルヴァ書房  古畑真美「国際航空に関する諸外国の制度等:一橋大学大学院法学研究科博士後期課程」  家田愛子(2014)「EU 航空自由化と雇用・労使関係− LCC による航空産業の雇用への影響についての一考 察」札幌学院法学 第 30 巻第2号  中村 徹「EU とアメリカの航空関係」大阪産業大学経営論集 第 10 巻第2号  大島愼子(2010)「アジアの航空規制緩和−格安航空会社(LCC)と日本市場−」筑波学院大学紀要5集  上田 慧(1998)「アメリカ航空事業の規制緩和と国際戦略提携」同志社商学第 49 巻第5・6号

EuropeanCommission,SocialdevelopmentintheEUairtransportsector−Astudyofdevelopments inemployment,wagesandworkingconditionsintheperiod1997-2007-Finalreport,(European

commission,21December2007)

Freiberg,KevinandJackieFreiberg,Nuts!:SouthwestAirlines’CreazyRecipeforBusinessandPersonal success,BroadwayBooks,1998

(25)

 「アジアの航空事情と LCC(低コスト航空会社)の動向」   http://www.nihonkaigaku.org/library/university/i100911-t5.pdf'  「神戸ワールドエアーサービス」   http://www.kwas.co.jp/tax.html  「『国際線 LCC 利用意向と満足度に関する調査』2013」   http://www.recruit-lifestyle.co.jp/news/2013/06/18/20130620-LCC.pdf  「地域活性化に向けた地方空港の現状と LCC の必要性について−北海道及び欧州の事例を中心として−」   http://image02.wiki.livedoor.jp/k/s/kozzys/ce1ffa867ab7790f.pdf  「AirAsia」   http://www.airasia.com/jp/ja/home.page  「Jetster」   http://www.jetstar.com/jp/ja/home  「LCC の台頭が日本航空市場にもたらす影響(住友信託銀行調査月報 2008 年7月号)」   http://www.smtb.jp/others/report/economy/stb/pdf/687_2.pdf  「LCC 参入が国内航空市場に与える影響:国内主要路線の運賃データを用いた実証分析」   http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/~yamauchi/gakubu_hp/2012/paper/4.pdf  「peach」   http://www.flypeach.com/jp/ja-jp/homeJP.aspx  「LCC 班」   http://www.isc.meiji.ac.jp/~w_zemi/lcc.pdf  「TOPTOUR」   http://toptour.jp/kai/eur/airport_tax.html  「アジアの国際ハブ空港」   http://www.teikokushoin.co.jp/journals/bookmarker/pdf/201104/13_msssbl_2011_04_p32_33.pdf  「世界における LCC の成長」   http://www.teikokushoin.co.jp/journals/geography/pdf/201303g/04_hsggbl_2013_03g_p07_p10.pdf  「アジアの国際ハブ空港ランキング−日本・韓国・中国・東南アジア」   http://10rank.blog.fc2.com/blog-entry-116.html  「アジアの LCC のビジネスモデルの比較分析」   http://www.ide.titech.ac.jp/~hanaoka/lccbsmodel.pdf

参照

関連したドキュメント

ユネルギー間題ほど近年人々の関心を集めた話題はないであろう。石油エネ

・「避難先市町村」の定義(長期避難住民の避難場所(居所または生活の本拠)がある市町

主に米国市場においてインフレのピークアウトへの期待の高まりを背景に利上げペースが鈍化するとの思惑

[r]

∗∗ 正会員 東北大学教授 工学研究科 土木工学専攻(〒 980–8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉

1.はじめに

較的⾼温場の場合では,主にアセチレンが⽣成される.⼀⽅で⽐較的低温場の場合で

アメリカとヨーロッパ,とりわけヨーロッパでの見聞に基づいて,福沢は欧米の政治や