Komazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 駒澤大 學佛教學 部研究 紀要第
59
號平 成
13
年4
月 (19
>「
供食物 語
」
に
お
け
る
語
り
の
位 相
一 マ ル コ
6
:30
−44
の時 制
論
的
考
察
一挽
地 茂 男
従
来福 音 書 研 究は 歴史
的批 評 的(
historical
−critical)方 法
が 主流を占め て き た。 そ れ は史
的実体
を再構
成 し よう
とする史 的 探求
へ の 衝 動 に端を発 して い る 。 史 的イエ ス探 求
の 熱と はう
らは らに 、資
料 と して の 福 音 書 に対 す る楽 観 的 な信 頼が 、福
音 書の 歴 史的資 料 と して の 価 値が徹 底 的に吟 味 ・批判 さ れ る こ とに よっ て 崩れ る 。19
世紀
末か ら20
世紀
に か けて の こ とで ある。 い わ ゆ るLiterary
Criticism
と呼
ばれ る聖 書 学上の 用 語は こ の資料
批 判を内 容 と して い る(
注1
)。 つ ま りそ れは、 本来
Literary
(
文 学 的)
Criticisn1
と呼ば れ る よ り もSource
(
資料)
Criticism
と呼
ば れるべきも
の で あっ た。 近年聖書 学 方 法 論 における新
しい 動向
が 、 旧来
のLiterary
Criticism
に批 判 を向 け つ つ 、 再びLiterary
Criticism
と称 して登 場 する。 こ れ は 、聖 書 文書が本
来 的にLiterary
(
文学
的)
な もの であ り、聖 書批 評 家た ちは最 近に至る まで 、この 点を見過ご し に し、Literary
と言い つ つ も真
の 文 学 理 解 を欠
い て きた こ と を指摘
する もので
ある。歴 史的批 評 的研
究
の学
的パ ラ ダ イム(
範例)
の発 想の 中心 は聖書 伝 承の発 展 ロ ギ オン 理論に ある。 す な わ ち伝 承 が その最古
の段
階 (例えば、語 録、物 語、律 法)
か ら 聖 書の 最終
テ クス トに着 床す るまで の発 展 段 階 を仮 定 し、その発 展の 過程で 伝 承へ の付
加 あるい は削除 に よ っ て も た ら され る意 味の 改 変 ・創 出が研 究の 対象
と さ れ た。 当 初 こ の研 究は、 こ の 発 展 段 階を逆算
的に遡 及 する こ とに よ っ て 、 聖書に言 及 さ れて い る事 件 を示 す、 最古
に し て最 良の 証 拠を求め る こ と を主 眼 と して い た。 しか し歴 史 的批評
的研 究の 方法
が様 式 史を経て 編集 史 の 段階 に 至 ると 、福 音 書テ クス ト形 成に決 定的 な役
割を演 じる福 音 書記者 (編 集 者) 自
身によ る 、最 終段 階で の 伝 承素
材の 配 列 ・編集
の た め の プ ラス ・マ イ ナ ス の改 変、つ ま りその編 集 操 作が主た る分析対象
となっ た。 こ れ に加 えて その 編集
操 一460
一NII-Electronic Library Service (
20
) 「供食物 語 」にお ける語りの位 相 (挽 地茂男)作
を 要請
し た福 音 書 記者
の 神 学 思 想 お よび著 作 意図 に研 究 者の 目が 向 け ら れ る に お よ んで 、 福 音書記 者
は挙
なる資
料の収 集 者の 位 置か ら ひ とつ の全 体 性(
wholeness ) を持っ た作
品の著 者
(author ) と して意 識 さ れ るに至っ た 。 こ の 時 点で福
音 書 研 究はすで に 、資料
批 判か ら文 学 研 究の対象
となる領 域に一歩 踏み込ん だの で ある(
注2
)
。 この点
が 方法 論 的に 自覚
さ れ な け れ ばならない 。 発 展理論は聖 書 文 書の形 成 力の 大 方を、 伝 承 と社 会 的環境
との共
生 に見て い た が 、 編集 史 的研 究におい て この力
が著者
の 中に位 置 付 けら れ る に至 っ たの で あ る。 い わば、 は か らず も 「編 集史
は非
文学 的 文 書につ い て文学
的 問い を可 能に したの で ある」 (
注3
)
。歴
史的
批評的 方法
に対 する批判 は 、 ひ と り文 学批 評の み な らず 学際 的諸 領域 か ら な され た。 例 えば社 会
学 的な聖 書研 究 方法
は 、伝承
が発展 する状 況 すなわ ち社 会 的 文脈に お ける聖書文
書の 機 能 を究 明 しよう とした。 こ の方法は 一方
で は様
式 史 的研 究が内 包 する社 会学的 な射 程 を自覚
的に徹底
しよう
とする もの で ある が 、 他 方で は従 来の資 料 分 析中心の 歴 史 的批評 的研 究に対 する憤 懣
の あら われの 一つ で あっ た と見ら れ て い る (注4
)
。 こ れ に対 して 文学 批 評か らの 接 近 は、 編 集 史 的方法
に内在
す る文学批 評 的 射 程 を徹底
す る もの と見る こ とがで き る が、 こ れ も従 来の 方法
に対
する根 本
的な批 判か ら 出発 してい る。 つ ま り聖 書 諸 文 書が 歴史
的史 料 と して解 体 され 、史的事
実を再 構 成す る素
材と して用い ら れ る前 に、まず全体
の 統一性を持っ た作品
と して受
容 し理 解 され るべ きで あり 、 む しろ聖 書 文 書が 歴史
的素 材 と して有 効 に用い ら れ る た め には 、 その文学
的性
格
が よ くよ く理解 さ れ な け れ ば な ら ない 。 す な わ ち文 学批評 は歴 史批評に先 行 する と され るの であ る(
注5
)。こ の 論 稿の 目的は、 マ ル コ 福
音書
の「
五千人の 供 食」の 物 語 を文
学理論、 特 に時 制 論 と物語 論(
ナ ラ トロ ジー)の 観 点か ら問 うこ とに よっ て 、 マ ル コ福音
書の 記述 の 文学 的性 格の一一端 を確 認 す る こ とにあ る。 そこ で先 ずわ れわ れ は、 (1
) 分析 方 法の 要 となる ヴ ァ イ ン リ ヒの「
時 制論」
を批判的に整理 し、 こ れ を 援用 して (2
)テ クス トを分 析 する こ と に よっ て、 マ ル コ ・テ クス トの 文学 的構 造を確 認 し、最 後 に(
3
)宗
教 共 同 体を支える伝 承 と祭儀
、つ ま り くか た り〉 と 〈ふ り〉 の 問題 に一考を加える こ と と す る。 一459
一 N工 工一Eleotronlo LlbraryKomazawa University Kom 三1z三1w三1 Unlverslty 「供食物語」にお ける語 りの 位 相
(
挽 地茂男) (21
)1
方 法
論 的考察
ハ ラル ト・ヴァ イ ン リヒ
(
Harald
Weinrich
)
は『
時 制論』
の 中で 、時 制の 形式
を時 間の 実態
とは別様
の もの と し、諸言語
の時 制形式の 再 編 成を試み て い る(
注
6
)
。 その時 制論
め 大 きな特徴
は、〈か た りの時制 〉(
erzahlendesTempus
)
と 〈は な しの時制
〉(
besprechendes
Tempus
)
の 区 別で ある(
注7
)
。 ヴ ァ イ ン リヒ の議論
は現 代 ヨ ーロ ッ パ 諸 語 を中心 に展 開されて い るが 、彼
の分類
を新 約聖書の ギ リシ ア語に適用 する と、 〈か たり
の時
制〉 には アオ リス ト(
不定
過 去)
、未完
了 過 去、 過 去完
了が 、くは な しの時
制〉 に は現在
、 現在完
了、未 来、 未来完 了が分 類 さ れ る(
注8
)
。 ヴ ァ イ ン リヒは 、広義
の構
造 主 義の立場に立 か た りの 時 制 ア オ リス ト(
不 定 過去)
、 過 去 完 了未完 了
過 去 はなしの 時 制 現在
、未来
現 在 完 了、 未 来完
r
つ が、 機 械的 な記 述に よ る考察
の 不 毛 を避 け、 こ の時
制区
分 を基礎に し て充 分 な 理論展
開を保 証 するた め に、 三 つ の メ ル クマ ー ル を道 具 と な る基 本 概 念 と し て導
入 してい る。 つ ま り(
1
)〈発話 態度
〉(
Sprechhaltung
)
、(
2
)
〈発話方 向
〉(
Sprechperspektive
) (3
>〈浮 き彫 り付 与 〉(Reliefgebung
)
の 三つ の概念
であ る。 こ の 三つ の メ ル クマ ール が 、多
様 な言 語の発
現 を整 理 する道
具 となる。 さ らに ヴァ イン リ ヒの 理論で は、こ の三概念
か ら発 展 的に導
出され た (4
)〈時 制 転 移〉(
Tennpus
−Metaphorik
/
Methapher
)が加え ら れて お り、 わ れ わ れ は まず以 下 に、 こ の 四概 念につ い て
批 判
的に整理 してお くことにする(
注9
)
。1
.1
発
話態
度の転 換まず わ れわ れ は くか た り〉 とい う言 語
行為
が 、行 為主体の 二重 化 を と も なっ て遂 行 さ れ る こ と を確 認 してお かな けれ ば な ら ない 。 こ の行 為は、 過去 に所 属 する事態
を、現 在 に所属
する 主体が、 現在
か らの 視 点 を介在 させ な が ら再 統 合 する とい う意
味で 、二 重 化 的統 合ない し二 重 化 的超 出 を実 質とす る行為
で ある。 こ の 二重 化は 〈か た り〉 の テ ク ス トにおい て は、 過 去 時 制 を用い る こ とに よ っ て なされ る。 〈む か し〉を語る 〈い ま〉 の くわ た し〉 は過 去 を指 示す る時 制 に 一458
一NII-Electronic Library Service (
22
) 「供 食 物 語 」 にお ける語りの位相 (挽地 茂 男) よっ て、 現 在 と は異 質 な境 域に参
入 し、 同時に過 去 を現 在 化 する。 歴 史と はつ ねに、 現 在 におい て過 去 を語
るこ となの で ある。福
音 書の 物 語は、 過 去 時 制つ ま りギ リ シア語の ア オ リス トを使
っ て語られ て い る。今
述 べ た よ うに、当 然の こ となが ら、 〈か た り〉の テ クス トの 基本
時 制 は 過去
時 制で ある。 しか しわ れ わ れ は 、 この当
然の 過 去 時 制の使
用 にお い て 、 「発話態
度の 転 換 」 とい う事 態 を確 認 して お く必 要が あ る。 〈発 話 態 度 〉 と して の 〈は な しの時 制 〉は、 目前の 行 動 ・効 用 ・利害
関心 に か か わる場 面に対
する 注 意 を喚 起して、 聞 き手 を緊張 (Gespanntheit
/
Spannung
)と関 与に誘 う。 つ ま りこ の くはな しの時
制 〉は、 問い か けや説明 や談
判 とい っ た発 話 行 為に見 ら れ る、対話者
の直接 的
な応答
を喚起
する 日常 効用の 生活世界の 時 間に属 してい る。 こ れ に対 して、〈か た りの時
制〉の ほう
は、 反対 に、 現 在 聞 き手
に さ しむ け られて い る言 語 行 為が、 さ しあたっ て当
面の行動
状 況や利 害 関心 とは無 関係
で あ り、 その か ぎり単な る 〈お話 し〉と して聞い て もらっ て さ しつ か え が ない と いう
、 〈緊 張 緩 和 〉(
Entspanntheit
)
へ の 誘い の信 号 を含ん で い る。 こ の く緊張緩和
〉は、 〈む か しむ か しある とこ ろ に … … 〉 とい うあの 〈むか しば な し〉 に 顕著
に見
ら れ る、 現 在の 直接 性か らの解
放の結
果で ある。 以h
.の ような時制 形式
の選 択は、発
信者
が発 話の 内容につ い て 「責
任の取
り方 」
を示 すメル クマ ー ル と言っ て よい 。しか しこ の 〈むか し〉 語 りは現 在 との 関係 性の無 化で は ない 。 む しろ過 去 時 制 に よ っ てかた られ る くむ か し〉は、 かたる者の
直接
的 ・効 用 的な 〈い ま〉 と 直 交 す る 垂直の 次 元を搆 成し、 現在
に対して 〈む か し〉 とい う独特
の 位 相の 過 去 と し て関 わるの で あ る。 こ の事
態が くか た り〉 とい う言 語 行 為 をそれ と して 特 徴づ け る もの 、 すな わちそれ を他の 言 語 行 為か ら分か つ 特 徴で あ る。 だ か ら「
〈む か し〉一 くい ま〉 という表
現ペ ア に よっ て 示 される 時 間 理解は 、 そ れ を単 に、 過 去一 現在一 未 来 とい う単 層 的な 図式
に配当
して理 解 すべ き もの で は絶 対 一457
一 N工 工一Eleotronlo LlbraryKomazawa University Kom 三1z三1w三1 Unlverslty
「供食物語」に おける
語
りの位 相 (挽 地 茂 男)(
23
) になく
、 む しろ、 さ しあたっ てい えば、 上の ような重層
を含
んだ
時 間体験
の 図式
に従
っ て 理解
され るべ き もの」
となる の で ある(
注10
)
。 〈い まはむか し … … 〉 という
〈む か しばな し〉 の 導入定 式 は、 こ の 重層
的 な時 間体
験 を端 的に表
現 し てい る。また 同 時 に、
過
去 時 制 を基本
とする くか た り〉 で は 、すで に述べ た ように、 現在
時制 を 基本 とする 〈はな し〉 からの 二 重化
的 統合
ない し二重化
的超 出が起
こ っ て い る。 それは 〈は な し〉 をする自
我 主 体が くかた り〉 と いう言
語 行為
に お い ては二 重化
され るこ とを意 味 する。 こ の 二重化
は物語にお ける 〈作 者 〉 と 〈語 り手
〉 の区
別 に お い て しば しば論
じ ら れ る(
注11
)
。 さ らに こ の 二 重化
に よっ て志 向さ れ る世界
は、 別 次元 の 奥深い境
域 へ と通 じてい る。 物 語の語
り手 は 〈か た り〉 におい て 、「
い わ ば 日常効
用の 生 活 世 界の〔
水平
のユ
時 間 の 流れ と 直 交 する、 〈 ミュ ー トス 〉の 遠 くは る かな記
憶 と想 像 力 の垂 直の 時間の次 元の奥
行 きへ と参
入 し、 二 つ の次
元を往
来 しつ つ か た るこ とに よっ て 、共 同体
の共
同 性の繰
り返 して の創
出基 盤 ともな り、 ま た わ れ われ の心 性 と宇宙
の根底
の 形 成力
との きずな ともなる もの の うちへ とこ ころ を根づ かせ、 また、 世界
と人 間の 生を解釈
し、行
動の指 針 をあた え る一連の 母 型(
マ トリッ クス)
ない し範
型 を凝 縮 さ れ た形で提 供す る という
よう
なこ ともある」
の で あ る(
注12
)。 〈ミ ュ ー ト ス 〉は元 来、 物 語の 〈筋
〉を意味
する ギ リシ ア語
であ る が 、 これ が神話 (
myth)
の 語 源であるこ と は、 くか た り〉 に よっ て 開か れ る境 域が単な る過去 時 へ の言
及 に とど まらず、 非日常
的な世 界 開 示の 端 緒 と なる こ とを示
し て い る。ヴァ イン リヒ の 時 制 論を さ ら に展 開 した坂 部 恵は、 〈はな し〉か ら 〈か た り 〉 へ と向か
う
垂直
方 向に、 垂直
の 言語 行為
として超 出の度 合い の高
まっ た くう
た 〉 の りc の レベ ル を配 置し、 その 類例行為
と して、「
お告
げ」
や 「祝 詞」 に見ら れ る、 〈つ と な Y うた げる 〉 〈の る 〉(
上 か らの 言 語行為)
、「
謡
い」
「称え」 「祈
り」
に見られ る 〈っ た う〉 〈と なえる 〉くい の る〉(
下 か らの 言語 行 為)
を確 認 し て い る (注13 )
。 そ し てそれ らの言 語行 為におい て は、二 重 化 的超 出の 度合
い が垂 直方向
に高ま るこ と を指 摘 してい る。 さ らに彼は、 人間の 身体行動
の 〈ふ る ま い 〉一 くふ り〉一 くまい 〉 が 、 〈は な し〉 一 〈かた り〉一 〈うた 〉 とい う垂 直 方 向の 二重 化 的 超出 と並 行す
る関
係に ある と指
摘 して 次の ように述べ てい る。 「〈は な し〉 一 〈か た り〉一 くうた 〉、 あるい は くふ る まい 〉 一 〈ふ り〉一 〈まい 〉 とい う系
列をた どっ て、行為
とその主体の 二重 化 的超 出 ない し 二 重化
的 統 合の度
合い が高
ま り、 ま 一456
一NII-Electronic Library Service (
24
) 厂供 食物語」に お ける語 りの 位相 (挽 地茂男 ) たその 構 造が顕 在 化 する につ れて 、 ひ と は 、い わ ば 日常 目前の生活
世 界の 時 空 の 拘 束か ら離
れ て 、 そ うした 目前の 利 害 ・効 用 に直結
するい わ ば水平
の 時 問 ・ 空 間 か ら、記
憶や想像
力の 垂直
の 時 間 ・空 間の奥行
きの うちへ と参
入 す る 。 こ の 垂 直の時 間 ・空 間の 次 元は 、 その究
極にお い て、真
に非日常 的 な 〈ミュ ー ト ス 〉神 話の 空 間、記
憶を絶 した 〈イ ン メ モ リ ア ル 〉な時 間に ふ れる」
(注14
)
。 くむ か し〉と 〈い ま〉を結ぶ 時 間は 、垂直
の 時 間、 神 話 的世界にき
わ まる記憶 と 想 像 力の時 間である。 こ こで は 、人 間の 生活
世 界の 水平
の 時 間とは ちが っ て 、 くむか し〉と 〈い ま〉の あい だ に、 絶 対 的 な異質
性お よ び不 可逆
性と同時に原理 的 な 反復
可能
性が存
在 する こ とに なる。 宗 教の 伝 承と儀 礼 は 、 この くか た り〉 と くふ り〉 を媒介
と して、 日常 的 時 問に対 して、垂 直 的な非 日常 的時 間と して直交
す る。1
.2
発
話
方 向の 転 換ヴ ァ イ ン リヒ に よっ て 区 別 され た 〈か た りの時 制〉 と 〈はな しの
時
制 〉は、 さ らに 〈発 話 方 向 〉(
Sprechperspektive
)
とい うメ ル クマ ー ル を 基準に、 下 図 の ように整理 さ れる。結
果 として 、 アオ リス ト(
不 定 過 去 )お よ び未完 了 過去
と 、現在時制
を、 それぞ れ 〈か たり
の時
制〉お よび くは な しの時 制〉の ゼ ロ段階
(
Null
−Stelle
)と して 、回顧 的な方向 (
Perspective
) を持
つ 時 制と予 見的 な方 向
(
Perspective
)を持つ 時 制が振 り分 けられ る(
注15)
。 要 する に回顧 時制 と は先 行 情報
を遡及 的に とらえ、予 見 時 制 とは後 続情報を予め先取 りす
る時 制 の こ とで ある。 回 顧 時 制 ゼ ロ 段階 予 見 時 制 か た りの 時 制 過 去完
了 ア オ リス ト 未完
了 過 去〔
接 続 法 〕 は な しの 時 制 現 在 完 了 現 在未
来 未来 完了1
.2
.1
回顧 時制二
年
前の 過 去の 出 来事
を語る場 合に も、 過 去 時 制(
ア オ リ ス ト、 未 完了 過去
)を用い る こ と も、 現 在完了時制を用い る こ と も可 能である 。 し か し問 題の 出 来事
が同じ二年 前の 過 去の 出 来事であ っ て も、 こ の 出 来事
に対 す る語 り手の 関 わ り方に よっ て 、使
用さ れ る時 制が異なっ て くる 。 例 え ば語 り 一455
−・ N工 工一Eleotronlo LlbraryKomazawa University Kom 三1z三1w三1 Unlverslty 「供食物語」に おける語りの 位相 (挽 地 茂 男) (
25
)手
が、 この 過 去の 出来事
を、単純
に過 去の事 実
として報告
す る場合
と、法廷 審
理の よう
な有罪
・無 罪 を かけて論争
を闘
わす 場 合とで は、 ひ とつ の 出来事
に全 く別の 対 応が 生 じる こ とに な る。前者
の 場 合は、 だい たい 〈か た りの時 制 〉、 と りわけア オ リ ス トと未完了
過 去 が 用い られ、後者
の場合
は、現在
完 了お よ び そ の 他の 〈は な しの時制
〉が用い られ るの がつ ねで ある。 つ ま り現 在完
了で遡 及 される過 去は、 問題 にすべ き過 去、 つ ま り 〈は なし〉合 う べ き過 去、 とい う質
を持
つ の で ある。 こ こ で は過 去の事
実につ い て の情 報の交換が問題 なの で はな い 。事 実
が 、人に対 する告 発や弁
明 の ため に引き合
い に 出さ れ るの で ある。 そ れ ゆえ遡 及 さ れる 一一・連の事
実は 、 そ れ 自体が一種
の「
告
発 書」
であ り「
弁 明 書」
なの である。 過 去 を 回顧
する こ とに よっ て な され る告
発や弁 明は明ら か に効
用 を意
図 して なさ れ る説 明 ない しくは な し〉 で あ り、 〈か た り〉 で は ない 。 そ れ ゆ え こ の ような 目前の行 動 ・効用 ・利
害 関 心に関わ る場面 には 、 現在 完了 が と く に多
く見 ら れ るの で あ る。 〈か た りの 時 制 〉 に属す るア オ リス トや未 完 了 過去
と、 〈は な しの 時制 〉に属 する現 在 完 了は、 過去の事
柄につ い て構
造上 の境 界
線 を ひ き、 過去の事
件 にたいす
る立場
を表
明 する。 こ れ らの 時 制形式
の 相 違は 、時
間的経 過の種
別 を示
すの で は な く、 過 去に対す
る立場 (
Pe
陀
spectivc )の違 い を表 明 して い るの で ある(
注16)
。現
在完
了は よ く「
現 在に まで作
用 し続 ける過 去 」 と定義
さ れ る が 、 ヴァ イ ン リヒ は これ を不 十 分 と してつ ぎの ように述べ てい る。 「現在完
了 が過 去の事
柄 を説 明する とい うの は、い わ ば過去 を くか た る 〉 こ とに よっ て 、 わ れわ れの存
在と行 動か ら切 り離 し閉 じこ めて しま うの で は な く、 説 明ない し 〈は なす〉こ とに よっ て 、 過 去 を わ れわ れ の 存在 と行 動の ため に開 い た ままに してお くこ と なの であ
る。」
つ ま り現在
完 了時制 が 「過去の こと を 〈か た る〉 の で は な く説 明 ない し くはな す〉 とす れば、 そ れ は まさに完 結 し た(
perfectum
)事
柄で は な く、 現 在あ るい は未 来の事
柄 と同様
、 まさに自分の 世 界に属 し、 それ へ の 配慮 か ら説明する もの だ か らで ある。 そ れ は 一 種の 過 去で は ある が 、 自ら行 為す る ときと同じ言葉
で表現
する の だ か ら 、 自ら関与 する過 去であ る。 そ して 過去 を 説 明 しなが ら表 現 す るこ とに よっ て 、 同時に 自己の 現在と未来 を変え る の で あ る。 それ は緊張
した仕
事で
あっ て、 語られ た 世界
を その ま まに してお く語 り手 の 落ち着
い た 冷 静 さ とは お よ そ かけ離れて い る」の で ある (注17
)。 一454
一NII-Electronic Library Service (
26
) 「供 食物語 」 における語 りの位 相 (挽 地茂男)1
.2
.2
予 見 時 制先 取 りされた後 続
情報
を もた らす未
来 時 制 も、 過 去の事 実 と同 じく、 〈か た りの時 制〉と 〈は なしの 時 制〉 で は 、未 来 に対す る 立場や見 方(
Pcrspective
)
の相違
を示 す こ とになる。 つ ま り くは な しの時
制 〉 に属す る未来時制
は 、潜 在力
に おい て、 わ れ わ れの行動 や利 害 関 心に直
接 的に 関与
する未
来
で あるの に対
して、 〈か た りの 時 制〉 に属 する予 見 時 制は 間接
的 関与
、 ない し想定
的な次元 を指示 してい る。 そ れ は読 者を、 未 来と も呼べ ない 次 元に誘導
する。 もちろ ん ギ リシア語
には、時 制と して こ の 機 能を担 う時 制は存在
しない が 、 われ われ の 見 解で は 、接 続法
が こ れ を担 う
もの と考え ら れる。 こ こで はこ れ につ い て 指 摘 する に と どめ 、詳論
は後
の 研 究に ゆ ず るこ と とす る (注18
)。1
.3
浮 き彫 り付 与ギ リ シ ア語の未 完 了 過 去 とア オ リス トは、〈
発話態度
〉 という
点で は両 方 とも 〈か た りの 時 制 〉 に 属し、 〈発 話 方 向 〉とい う点で は ゼ ロ段階 に属 して い る。 そ こ で ヴァ イン リヒ は、 この 未完 了過去とア オ リス ト (ヴ ァ イン リ ヒ の説 明に頻 出 する フ ラ ン ス 語で は半 過 去 と単
純過去に相当
す る)
という
〈か た りの 時 制 〉 に属 する二 つ の時
制の 発話 行 為にお ける役割
分 担 を説
明 する た め に、 <浮 き彫
り付 与
〉(
Reliefgebung
)
という
〈か た り〉 にお ける 〈背 景 〉(
Hintergrund
)
の 叙 述と 〈前 景〉(Vordergrund
)の 叙述 の 役 割分担に基づ く効 果の 概 念を導入 し てい る。 つ ま り未 完 了 時 制は 〈背 景 〉 を構 成 し、ア オリス トによ っ て描か れ る く前景 〉 を浮 き彫 りにす る効 果 を持つ と さ れ る (注19
) 。一般の 文 法 書 にお い て 、 未 完 了 過 去とアオ リス トの
違
い は 下 図の よう
に説 明 一453
一 N工 工一Eleotronlo LlbraryKomazawa University Kom 三1z三1w三1 Unlverslty 「供食物語」における語 りの位相 (挽地茂男) (
27
) され る。 まず(
1
)未 完了
が状 況や付 属的細 部
や行 為 経 過 を叙
述する の に対 し て、 アオ リス トは 生起 した単
純 な事 実を報 告 し総括
的発 言 を行 う。(
2
)未完
了 が事
の 進展
や永続
的 条 件や 継続
的行 動 を叙 述 するの に対 して、 アオ リス トは完
結 点(
頂 点
、最 終 的 争点
、結論
的 過 程 ) を叙述する。(
3
) 未完
了が全般
的 描 写 に従事
す るの に対 して、 アオ リス トは個 別 的な事態
や特徴
的 な実例 を描写
する。(
4
)未完 了
が 「努 力 」を描 写す る とする と、 ア オ リス トは「
達 成」
を描 く
こ と にな る。(
5
)
未 完 了が 中心 点行為
に従 属 す る行為
を描 写 するの に対
して 、 アオ リス トは他
の 行 為 との 関係
に左 右 されない 中心点行為
を描 写す る(
注20
)
。 そ の他
、未完 了 を「
線 的過去」
と しア オ リス トを 「点 的 過 去」 と説 明 する もの や、 ま た未 完 了を「
継続 的
過 去」
と して ア オ リス トを「
一回 的 過去」
と説 明 するも
の もある(
注21
)
。とこ ろ で わ れ われは、 まず こ れ らの 一般 文
法
書の 説 明が 、語 およ び文
を単位
と して述べ ら れて い る こ と に注 意してお か な ければ ならない 。 なぜ な ら、 こ れ に対 して ヴァ イン リヒ の 理論
が、 テ ク ス トを単位
と して展 開さ れてい る か らで ある。 それ ゆ えこ の点
をふ ま えておけば、 上記
の 説 明は決 して、 ヴァ イン リ ヒ 理論の 〈背 景の時制
〉〈前景
に時 制〉 とい う説 明と対立 す る もの で はな く、 む し ろ両者
が補完
的 な関 係にあ るこ とが 理解 さ れる 。しか し 〈背 景の時 制 〉が 、物 語の 導 入部 と終 結 部に 頻 出する とい
う事 実
は、 ヴ ァ イ ン リヒ理 論が対象
とする テ クス ト構
成 全体
を視 野に入れ た場合
にの み見 えて くる事 柄で あ る。 そ れは こ の時 制が、語
ろ うとする世 界に読 者
を誘
い 込み 、 読者
が語
りの 世界
を巡 っ た後
、再度
、語
りの世 界 を閉じ、 語 りの 世 界か ら切 り 離さ れ た 日常 の 世 界へ と 、読 者
を誘導
する役割
を担 うこ とが 多 い か らで あ る。 つ ま り 〈背 景の時 制 〉 の もつ 主 要な機 能の 一つ は 、くは な し〉の 世界 と 〈か た り〉 の世 界の 間 に境界 を設 ける とい うこ とで ある 。 一方 、物
語の 中心 部にお い て 〈背 景の 時 制 〉が用い ら れ る場 合は、付帯状況
、細 部 描 写、 省 察の 付加
その 他、 語 り手
が背景
の 中に入れて お こ うと考
えるす べ て の事
柄 を記 述 するこ と が 可能
で ある。〈前 景 〉と は 、ふつ うそのた め にこ そ物 語が語られ る
事
柄であ り、 目次や表題 に要 約 する こ とが で き る。 一方 〈背景 〉 とは 、 そ の ただ 一度の 出来事
を、 既 知 の 関連 性が形 成 す る地 平つ まり形象
野 (Bildfeld
)に組み 入れ よ うとす る技 法 なの で ある。 一 一NII-Electronic Library Service
(
28
) 「供 食 物語」に おける語 りの位相 (挽 地 茂男 )
1
.4
時制 転移以
E
の よ うに 三 つ の時制
形式
の 移 行 を示 す メ ル クマ ール を基 礎 概 念 と して 、さら に ヴァ イ ン リヒは、 〈時制 転 移 〉
(
Tempus
−Metaphorik
/
Methapher
)
とい う新
た な概 念
を導
入する。1
.4
.1
時制転移
の構 造ヴ ァ イ ン リ ヒ は、 この ; つ の う ち、 一 度 に異 質 な二 つ の
時
制 移行
を経
た もの を 〈時 制 転 移 〉 と呼
ぶ(
注22
)
。 例 えば 下図のの 時 制
転
移の よう
に、 くか た り〉 の テ ク ス トの 動 詞の時
制 がア オ リス トか ら現在 完了 へ と移行
した場合
、 まず(
1
)
〈か た りの 時 制 〉か ら 〈はなしの時
制 〉へ と 〈発 話 態 度 〉 の 移行
と ともに 、 さ らに(
2
)
ゼ ロ 段 階か ら回顧時
制へ と、 つ ま り現 在 時 制か ら現 在 完 了 時 制へ の 〈発話
方向
〉 の 移行が 同時に起こ る こ と に な る。 ヴ ァ イン リ ヒ は 、この ように一挙
に二度
の 時 制 移 行を経た もの を 〈時 制
転移
〉 と呼
ぶ の である。 〈か た りの 時 制〉 ア オ リス ト 過 去 完 ∫ 未完 了 過 去 〔接 続 法 〕 回 顧時
制ゼロ
段 階
予見時制
くは な しの時 制 〉 回顧 時 制 現在 完 了
「
ゼロ段 階 現 在 予 見時
制 未 来 未 来 完 了一方
の よ うに、 〈は な し〉 の テ クス トの 動 詞 が 、 現 在 時 制 か ら、 くか た り〉 の予 見 時 制に移行 した場 合 も、 (
1
)
〈発話態 度 〉と (2
)〈発 話 方 向〉が 同 時 に変 化 を示
して お り、 〈時制 転移 〉が起 こ っ て い る。 以 上 の、
の 例以外 に も、 一 度に 二つ の メ ル クマ ール の 変
化
を示す もの は 、 すべ て 〈時 制転 移 〉 と呼
ば れ る。1
.4
.2
テ クス ト効果 で は、 こ れ ら の く時 制 転 移〉に よっ て 〈か た り〉 の テ ク ス トにい かなる効果が発現 するこ とに な るの だ ろ うか (こ こ では説 明の た め に、便 宜上と
の 例 だけ を問題 にす る こ とにする )。 まず
の 場 合に は 、 テ クス トの 時制 が 〈か た りの 時 制 〉か ら くは な しの 時制 〉へ と移行 を示 すが 、 そ こ で は 、すで に述べ た 〈はな しの 時制 〉か ら 〈か た りの 時 制〉へ の 移 行の 逆 方 一
451
一 N工 工一Eleotronlo LlbraryKomazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 「供食物語」にお ける語 りの位相
(
挽 地茂男〉 (29
)向
の転換
が 起 こるので ある。 つ まり
この転
換は、 くか たり
〉 の 中に本来
あっ た 緊張緩和
の特性
を部 分 的 に取
り消 すの で 、 そこに は 〈か たり
〉 に よ る 〈緊張緩
和〉 と逆の こ とが起こ る の で ある。 こ れ を 〈再 緊張
化〉作 用 と呼
ん で おこ う。 そ して さ ら に 、こ の 〈発話態
度 〉 の逆転換
に よる く再 緊張化
〉に 、第二 の 〈発 話 方向
〉 の転換
が 加わ る と、 これ に よっ て くは なし〉の 回顧 時
制 ( つ ま り現 在完
了)
の もつ時
制 効 果が追加
され るこ と になる。 ヴ ァ イ ン リヒ は こ の 二度
の 異質
な時
制 移 行 によっ て発 現 する効 果 を、 〈有 効 性の増 大〉 とい う表
現で つぎ
の よう
に述べ てい る。 「二 度の 異 質時制移行
、 つ ま り、時
制転
移 が 問 題 なの であ る。 時制は こ の 移行
の さい 、 発 話態度
と発 話 方向
の 二標
識〔
メ ル クマ ー ル〕
の 変化を示 してい る。 〈か た り〉か ら説
明 ない し 〈は な し〉 へ 、 ゼロ段
階か ら回顧 時 制へ 飛躍 してい る。 これ ら二元 的 移 行に よっ て、物
語は〔
中略〕
そ れ まで と 全く違 う様
態の話 し方
に移 され る。 こ れをわ れ わ れ は有効性 の 増大とい っ て よ い」 (
注
23
>
。 結 果 として こ の 〈有効性
の 増 大 〉は、 〈時制
転
移 〉 に よ る物語
の現
実 世 界へ の 〈連れ戻 し〉 という効
果 を発 現 させ るの で ある。一方
の 場 合につ い て ヴ ァ イ ン リヒは、 〈
有効性
の 制 限〉 という表
現でその テ クス ト効果 につ い て述べ てい る(
注24
)
。 つ ま り 〈は なしの時 制
〉か ら 〈か た りの 時 制〉へ の く発話態
度〉 の転換
と、予
見 時 制へ の 〈発 話 方 向〉 の 転換
が 起こ るこ とに より
、(
1
)
〈はなし〉か ら 〈か た り〉 へ の転
換が もた らす く緊張
緩 和 〉と、(
2
)予
見 時 制に付 随 する 〈不 確 実 性 〉の 相乗 効果 によ っ て、 〈有
効 性の 制 限 〉 という
文脈 的 効 果が もた ら され るこ とに なる。 しか しこ の 〈有 効 性の 制 限 〉 は 、「
無効 性の 拡大」
を意 味 するの で は な い 。 それ は、 目前
の 効 用という
そ の 時々 の一 つ の 視点にの み拘束
さ れ、 当面の 必 要の 〈緊張
〉 に しば ら れ た 〈は な し〉 の 発 話 を超 えた、 よ り深
い 記憶 や想像
や期待
の世界
につ な が っ て い る の である。 む しろ こ の 〈時制転
移〉 に よ る 〈有 効 性の制 限〉 は 、現 実 世 界か ら の 物 語 世 界へ の 解 放 とい う効 果を 増大 させる の で ある 。この よ うな 〈時制転 移 〉 の は た らきを
媒
介 とし て 、 ひ とは、くは な しの時
制 〉 と 〈か た りの 時 制 〉 の問 を往
来 し、 現 実の 世界
を出て、 垂直の 過去の 神 話 的 世 界の 底 知れぬ 深み まで を含め た 〈かた り〉一 〈うた 〉、 ある い は 〈ふ り〉一 くま い 〉の 世界に遊ん で 、 回顧 時制の 含み や 予 見 時制の 不 確 実 性 を拡 大 した ひ ろ く 深い ス コ ー プ か ら現実 を照 ら し出 しつ つ 、 そ の 潜 在 的可能性
を さ ぐ り、 あるい は、 そ こ か ら現 実の世 界に立 ち 返 っ て、 具 体 的行為
へ の 指 針を定め る とい っ た 一450
一NII-Electronic Library Service (
30
)「供 食 物 語」にお ける語りの位相
(
挽 地茂男) メ ダフア プロ セ ス を繰
り返 すの であ る (注25
)。 こ こ に 〈転
移 〉(
隠 喩 )の もつ 本 来 的 メ クフ ニレイン な 〈移動
する〉 という効
果が発 現 する の である。物 語テ クス トは 、 こ の よ
う
な種
々 の テ クス ト効 果の 統 合 体 と して成 立 して い る。 本 稿の課 題は 〈時制
〉 という 「
伝
達 価」
を手
が か りとして 、 こ れ らの 効 果 を可 能に して い るマ ル コ の テ クス ト構 造の 一部
を明 らかにす る こ とで ある。2
テ
ク
スト
の分
析
2
.1 私
訳と時 制 分 析32K
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そ こ で 、 一 同 は舟に乗 っ て 、 自 分 た ち だけで荒野へ 出て 行っ た 。33
とこ ア オ リ ス ト ろ が、多
くの 人 々 は彼
らが 出 かけて行 くの を 見 て 、 そ れ と気
づ い て、 ずべ て の ア オ リス ト ア .牛 リ ス ト ー…449
一 N工 工一EleotronioKomazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 「供食物語」に お ける語 りの 位 相 (挽地茂男
)
(
31
>
町か ら徒
歩で そこに一斉に駆 け
つ け 、彼
らより先
に着
い た。 ア オ リ ス ト ア オ リ ス ト34
イエ ス は舟か ら 上 が り、大勢
の群衆
を 見 て 、彼
らを深
く憐れ まれ た。 そ アオ リスト ア オ リ ス ト れ は彼らが、 羊飼
い のい ない羊
の よう
なあ りさまで あっ た か らで ある。 そ し て 未 完 丁 彼ら に 、多
くの こ と を教
え始め ら れ た。 オ リ ス ト ア35
やがて長 時 間が た っ たの で 、弟子
たちが イエ ス の もとに来て言っ た。「
こ i ア ・ は衢
讐
し・ も張
時
間に な ります・36
人々蠏
弊
さ せξ
く
だ妻
い ・ そう
すれ ば・自
分で周
りの 里や村 へ ・ 何か驤
物を買捻
に行
暴
で し±
う
・」 (
注26
)
37
しか し イエ ス は これ に答
えて 言っ た。「
あな
た がたが 彼 ら に食
べ物
を ア オ リス ト 与 え なさい 。」
する と弟 子た ちは彼
に向か っ て畫
。「
わ た し た ちが二 百デ ナ 1f影
もパ ン を 買。 て
来
て 、 み ん な1
・食
べ曜
与
え るの で すか.」
38
し か ボ し イエ ス は彼 らに言 う
。 「あ なた が た はパ ン をい くつ 持っ てい るか 。 行6
て 、 π 現 在 命 令 法確認
しな さい 。」弟子
たちは確か めて来て、言 う。「
五つ あ ります。 それ に魚が二峨 魂
函
そ。 で、 イエ ス は弟
子たち1
・瀕
ん なを組
に分 けて清
草
の 上にす わ らせ る よう
に命
じた。40
人々 は 、百 人、五十 人ず
つ まとまっ てす
わっ た。41
ス ト ア オ リス ト ア ォ リ それ か ら イエ ス は五つ のパ ン と二匹の魚を取 り
、 天 を仰
い で 、神
を称
え感
謝 して オ リ ス ト ア(
注27
)
、 パ ンを裂い て 、弟子
たちに与 えて 人々 に配 らせ 、 二匹の魚
もみ ん な に ア オ リス ト ボ 分 けら れ た。42
み んなの 者は食
べ て、満
腹 した。43
そ して 、パ ンの屑
と魚
の動
を軸
た とこ ろ .. −f
二 の龕齢
ら
1
鎌
宴
。 た.44
パ ン を食べ たge
ま男 ア オ リス ト が五千 人であっ た。 未 完 了2
.2
ス トー リ ー ・ライン物 語の 中心 にな るス トー リー ・ライン は、 過 去
時制
す なわ ち ギ リシ ア語の ア オ リス トに よっ て展 開 さ れ る。 イエ ス と弟子
た ちの 一 行が 荒野 へ 「出て い っ た」(
32
節 )
い き さつ は 、 その直
前で 述べ られ て い る g つ ま り宣 教 活動 に派遣 されて い た弟 子 た ちが 帰 還 し、 そ の 活 動 の報 告 を受
け る と、 イ エ ス は、 弟 子 た ち に休
息 を取 る ように勧め る (30
−31
節)
。 その 勧め に促
さ れ た 一 行が舟
に 乗っ て 出て い く とい う くだ りか ら、 場 面 展 開が始
まっ て い る。 こ れ と同時に
イ エ ス と弟
子た ちの移動
を察
知 した群 衆が、行動
を開 始す る(
33
節 )。 群衆 は 陸 地づ たいに
、 イエ ス の 一行よ りも先にその 目的 地 に到 着 す る 。 そ して 一行 を待
ち受
けて い た 群 衆 を見て 、 イエ ス は、 飼い 主の い ない 羊の よ うな彼
らの 有 様を深 く憐れみ 、教 え始め る(
34
節 )。 教え が長時
間に及び、群 衆
の 食事
の心 一448
一NII-Electronic Library Service (
32
) 「供食物 語 」にお ける語 りの位相(
挽 地茂男) 配 をした弟
子たちが 、 イエ ス に 、 群衆が食 料を調 達で きる ように解 散 を要請
す る(
35
−36
節 )
。 こ の弟 子たちの 要請
を きっ かけに 、 イエ ス と弟
子た ちの 問 答が 始 まる。 イエ ス は弟
子た ちに、 彼 ら 自身
が群衆
の た め に食 料 を調 達 す る ように 命 じる。 しか し彼
らは、 群 衆の 人数 が あ ま りに多
い の で 、白
分た ちの 手でパ ン を購入 して食べ さ せ る こ と な ど不可 能だ と訴える (37
節 )
。 する と イエ ス は 、 手元 に あるパ ン の 数を調べ させ 、弟子た ち が そ れ を報告 する と(
38
節)
、 弟子た ちに命 じて 、群衆
を百人、 五 十 人 ずつ の 組に して青 草の上 にすわ らせ る(
39
−40
節 )
。 そ して イエ ス は、 五 つ の パ ン と二 匹の魚 を と り、 天 を 仰 い で、 神 を称え 感 謝 して、 パ ン を裂
い て 、弟
子たちに 与 えて 配らせ 、 魚も同 じ ように分 配 した (41
節)
。 すべ て の 者が食べ て満 腹 し、残り を集め て 見ると十二の 籠にい っ ぱい にな っ た(
42
−43
節)
。 そ して最 後に、食べ た男の 数が五 千人であっ た こ とが報 告 さ れ る(
44
節 )。2
.2
.1
場面設定この 「五千人の 供
食
」の 物 語の 胃頭は 、 イエ ス と弟子 た ち の 一行が舟に 乗っ て 出 て行 く場 面か ら始 まっ て い る が 、 供 食の 物 語が終 了す る と、 イエ ス は強い て 弟子 たち
を舟 に乗せ 、 場 面は再 び舟の 場 面 に戻 っ て い る(
6
:45
−52
)。 つ ま りこ の 供 食 物 語は 、 前後
を舟の 場 面に よ っ て囲 まれ た く囲い 一447
一 N工 工一Eleotronlo LlbraryKomazawa University Kom 三1z三1w三1 Umversrty 「供食物語」に おける語りの位相 (挽 地茂男) (
33
)込
み形式
〉(
inclusio
)
を取
っ てい る。 マ ル コ福音 書
におい て ガ リラヤ湖
は 、ユ ダ ヤ人の地 と異邦
人の 地 を分離 す
る障
壁を、 つ ま り浄 と不 浄 を分 離 する障
壁 を象
徴 して い る が(
注28
)
、 イエ ス と弟子
た ちを乗せ た舟
は何 度 もこ の湖 を横 断 する。 同時
に舟
は、 押 し寄
せ る群衆 を前に して 、 イエ ス が湖 畔で教 え を語る舞
台
を設定
し(
3
:9
、4
:1
)
、 また嵐の湖に浮かぶ舟
は、危
難にある弟
子た ちの不
信仰
を露 呈 し (4
:35
−41
、6
:45
−52
) 、 彼らの無理解が強 く叱 責 され る場 面
をつ くっ てい る (6
:52
、8
:14
−21
)
。 つ ま り舟
の場面
は、イエ ス の宣 教活動
と、弟
子 たちの教 育 ・訓 練 という
、 宣 教 を中心と して停
止 す る こ との ない動的
な イエ ス と弟 子た ちの活動
を象
徴 して い るの であ
る。 それゆ えこ の舟の 場 面 に前 後を囲 まれ た供食物語
の舞台
となる「
荒
野」
は、 宣 教の合 間、活動
の 一時 休 止の場 と して まず
は設定
され て い る(
31
節)
。 しか し な が らこ の休息
の 場に も、 群衆
た ちは や っ て くる。場 所
が「
荒野」 (
35
節 )
とされて い るの に は意 味が ある。各種
翻 訳は こ れ を、「
寂 しい 所 」(
口語
訳)
、「
人 里離れ た所」 (
新
共 同訳 )、 “a remote
place
”(
NIV
)
、 “ adeserted
place
”(
NRSV
)
と訳 して い るが、 こ の よう
に訳
して しま うと、 マ ル コ が 「荒野」
とい う言 葉に持
たせ よ うと してい る意味
を取
り過 ご して し まう
こと になる。 マ ル コ に とっ て 「荒 野 」は、 イエ ス の 先 駆 者である洗 礼者
ヨ ハ ネ が神の悔い 改 め の メ ッ セー ジ を宣べ伝
え、 同時に イエ ス の到 来を預言 した、 神 の 啓 示の 場所
である。 ま た そ こ は、 イエ ス が サ タン の試
み を受
けたの ちにi 天使
が彼に仕 え、 野 獣が敵
意 を捨て て 人と共に い る と い う楽
園 的 なイ メ ー ジを喚
起 させ る場所
で ある (1
:12
−13 )
。 そしてそ こ は ま た、 イエ ス が 宣 教 活 動の 合 間 に、 祈 りや休息
の た めに戻っ て い くその た めにマ ル コ は地理 的 な誤 謬を犯 して
「
荒
野」
を配置 するこ とがある(
注29
)一 特 別な場 所である(
1
:35
、45
、6
:31
−32
)
。「
荒 野」
は イエ ス と弟 子た ちに とっ て、神
の啓
示の場 所であ
り、神
へ の 接近 が 可能 な、一種 共 同体的 な 場 所で もある。 つ まり供食物 語
は、 舟の 場 面 を境界
線 と して切 り取
ら れ た特 別な場 面 設定
を持
っ て い るの で ある。2
.2
.2
背景
テ クス トは、 こ の 場 面の 背 景を 四つ の
未完
了過 去で描 い てい る。 こ れ ら の未 完 了過 去 は 、 まず 群 衆の様 子 を 「羊飼い の い ない 羊の よう」
であ り(
33
節)
、 その 規 模が男だけで五 千 人 に 上 っ た こ とを伝
えて い る(
44
節)
。 こう
して イエ ス と弟子 た ち とそれ に加わっ た大
群 集 か らなる一種
の共
同体
が 、 場 面 経 過の大
勢 を決定
し、 群 衆の窮
状 と希求
が場 面 展 開の背景
的動 因と して 場面 をNII-Electronic Library Service