特別養護老人ホームにおける職場環境とエンパワメントの関連についての検討 [ PDF
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(2) エンパワー要因としての職場環境. 部からの意見は自己の組織のサービス内容や見直す上で重要. 特養は, 先述したように, 非常に不確実性が高い職場である.. な役割を果たすであろう.従って,職場環境を包括する高次の. 不確実性の高さは,仕事に対する意義を低減させ,職員のプロ. 運営管理システム及び施設の開放性が職場環境を媒介し, 職員. としての無力感を作り出す(Frans,1993) .従って,仕事の. のエンパワメントに及ぼす影響について検討する.. 明示性が高ければ,不確実さは低減され,課題解決に必要な知 識や能力が明確になり,仕事から有意味感を得られるだろう.. 方法. また,上司からフィードバックを得られる環境では,職務に. 1.調査対象施設,調査対象者及び調査方法. 関する不確実性が低減されると同時に, 職場の関係性をよりよ. 九州圏内の特別養護老人ホーム72 施設における生活指導員,. く認知し,職員としての成長を促し,有能感が形成されるだろ. 介護職 2012 名.調査方法は,平成 14 年 11 月 12 日から 11. う.さらに,仕事の裁量権がないような強い管理下におかれて. 月 30 日までの間に,自計式の郵送調査法によって実施し,. いると,職員は自己の考えや能力を発揮する場を奪われ,プロ. 1074 票を回収(回収率 53.4%) .尚,本研究では,分析に用. としての不快感(England,1986)を感じるだろう.従って,. いる変数のすべてに欠損値がない 636 票を分析対象とした.. 自律性や新奇な意見を採り上げてくれる革新性を持った職場. 2.測定方法. 風土であれば,自己決定感を感じるだろう.以上のことより,. (1)職場環境評価尺度;WES (Moos&Insel, 1974)を改良した. 職場環境は, エンパワメントの構成要素である職員の有意味感,. 職場環境評価尺度(潮谷ら, 2002)を用いた.①仕事への関与,. 有能感等の形成に影響していると考えられる. 職場環境が整備. ②同僚との関係,③上司によるサポート,④自律性,⑤仕事の. されていれば,職員の無力化は防がれ,エンパワメント状態が. 優先状況,⑥仕事でのプレッシャー,⑦仕事の明示性,⑧仕事. もたらされるであろう.本研究では Fig 2 に示すモデルに基づ. のコントロール, ⑨革新性, ⑩職場の快適性の10 次元である.. き, 職場環境が職員のエンパワメントに与える影響について検. 各項目について,5 件法(非常によくあてはまる−全くあては. 討する.. まらない)で回答を求めた.(2)エンパワメント;エンパワメ. 運営管理体制の影響と施設の開放性の影響. ントの測定には,山口ら(2001),Spreitzer(1995)を基に作成し. 施設の組織機構, 管理運営面といった社会福祉制度に基づく. た尺度を用いた.①個人の志向性,②職場での関係性,③自己. 人員配置や物理的環境等は, 援助行為に影響を及ぼす (Fig1) .. 決定感,④有意味感,⑤有能感の各次元の項目について,5 件. 援助行為という職務機能は, 構造による制約を受けながら機能. 法(非常にそう思う−全くそう思わない)で回答を求めた.. しているといえよう.従って,管理者である施設長のリーダー. (3)施設長のリーダーシップ,施設の開放性;山口(2001)が. シップや職場風土は職場環境や職員に多大な影響を及ぼすと. 作成した項目を使用.各項目について,5 件法(非常によくあ. 考えられる.職場風土の中でも,施設は外部組織とのつながり. てはまる−全くあてはまらない)で回答を求めた.. を形成し,外部の意見を採り入れるような柔軟性,開放性をも. 3.分析方法. つ施設であることが重要だろう. なぜならば, 開放システムは,. 以下の手順に沿って進めた.. 外部環境との相互関係を保ちつつ内部要素間の均衡維持を行. ①調査対象者の基本属性の分布について明らかにした.. い,自らの変容と再調整を促進するとされており (Bertalanffy,. ②次元別に職場環境評価尺度とエンパワメント尺度の各項目. ,利用者本人から意見を得られにくい特養においては外 1968). について平均値,標準偏差,歪度,尖度等の統計量を算出し, 分布から測定項目としての適性を検討した.その際に,歪度, 尖度(正規分布の場合は 0.0 に調整)の絶対値が 1.00 を超え. 職場環境 ①仕事への関与 ②同僚との関係 ③上司によるサポート ④自律性 ⑤仕事の優先状況. エンパワメント ①個人の志向性. る項目,無答率が 5.0%を超える項目を分析から除外した.. 能力,技術. ③次元別に職場環境評価尺度の測定項目間の相関係数を算出. 援助の質の向上. ②職場の関係性. した. 他の項目との相関係数の値が低い項目は分析から除外し. ③有意味感. た.その結果をふまえ,各次元を構成概念とする一因子モデル. ④自己決定感. を設定し,次元別に共分散構造分析を行い,構成概念妥当性を. ⑤有能感. ⑥仕事でのプレッシャー. 検討した.また,次元別に職場環境評価尺度の信頼性係数. ⑦仕事の明示性. (Cronbach’sα)を算出した.. ⑧仕事のコントロール. 無力化. ⑨革新性. バーンアウト. ④エンパワメント尺度を作成するために, 分布に偏りがみられ. 離職・職場変更. た項目を除いて因子分析(重み付けのない最小二乗法,プロマ. ⑩職場の快適性. ックス回転)を行った.抽出された因子の負荷量の最大値が0. 4未満の項目, および他の因子に負荷量が高い項目を除外した.. Fig2.モデル図 (本研究では点線内に焦点). 2.
(3) ⑤エンパワメント尺度を従属変数, 職場環境評価尺度を独立変. 「革新性」が影響していた. 「職場の関係性」に関しては, 「上. 数とする重回帰分析(強制投入法)を行った.. 司によるサポート」 , 「仕事の明示性」 , 「革新性」が影響してい. ⑥施設長のリーダーシップ, 職場の開放性が職場環境を通して,. た.有能感に関しては「上司によるサポート」 , 「自律性」 , 「革. エンパワメントに及ぼす影響についてパス解析を用いて検討. 新性」が影響していた.ただし,有意味感と有能感に関しては. した.. 説明率が低かった. 4.エンパワメントへの総合的な影響について 結果. 職場環境を包括する施設長のリーダーシップと開放性が職. 1.職場環境評価尺度およびエンパワメント尺度の作成;職場. 場環境を通して, エンパワメントに与える影響に関して明らか. 環境評価尺度においては,信頼性,妥当性の高い尺度が得られ. にするため,パス解析を行った.その結果(Fig3) ,χ2=36.82. た.エンパワメント尺度は因子分析の結果, 「個人の志向性」 ,. (df=3),GFI=0.978, AGFI=0.888,RMSEA=0.133 とモデル. 「職場での関係性」 , 「自己決定感」 , 「有意味感」 , 「有能感」の. の適合度は良く,因果係数の値も統計的に有意であった(p<.. 5因子が得られた.. 05) .施設長のリーダーシップや施設の開放性は職場環境を媒. 2.職場環境評価尺度次元間の関係. 介し,エンパワメントに影響していた.特に,職場の開放性は 「上司によるサポート」 と 「革新性」 に強い影響を与えていた.. 職場環境評価尺度は次元間で,相互に相関関係が見られた. しかしながら, 「仕事でのプレッシャーの次元」は仕事に対す. 5.職場環境とバーンアウトの関連について. る管理体制を測定するような「仕事のコントロールの次元」と. 職場環境評価尺度を独立変数, バーンアウト尺度を従属変数と. 正の相関関係にあったが, それを除く他の次元とは負の相関関. する重回帰分析(強制投入法)を行った結果(Table 1) ,バー. 係にあった.仕事におけるプレッシャーが高い職場では, 「仕. ンアウト尺度に対して, 「同僚との関係」 , 「仕事でのプレッシ. 事への関与」 , 「同僚との関係」 , 「上司によるサポート」 , 「自律. ャー」 , 「革新性」が影響を与えており, 「同僚との関係」 , 「革. 性」 , 「仕事の明示性」 , 「革新性」 , 「職場の快適性」が低下する. 新性」はバーンアウトに対して負の影響を持つのに対し, 「仕. 「上司によるサポート」 , 傾向にあった.また,t検定の結果,. 事でのプレッシャー」は,バーンアウトに正の影響を持ってい. 「自律性」 の項目平均値は他の次元の項目平均値より低いこと. た. この結果より, バーンアウトとエンパワメント, すなわち,. が明らかになった.つまり,部下を指導する役割を担う上司に. 精神的健康を作り出す環境と能力を発揮できるような職場環. よる適切な指導や助言が少ないと職員が認知していること, 自. 境に影響を与える要因が異なることが明らかになった.. 律性すなわち職務を遂行する際の裁量権があまり与えられて いないと認知していることが明らかになった. .334. 3.職場環境とエンパワメントの関連について. 開放性. 重回帰分析の結果 (Table 1) , エンパワメントに対しては 「上. .638. 司によるサポート」 , 「自律性」 , 「革新性」が影響していた.ま. .479. 上司によるサポート. .243. エンパワメント. .272. た,各下位尺度に及ぼす影響についても検討した. 「個人の志. 施設長の. 向性」に関しては,表1に示す変数が影響を与えていた.中で. リーダーシップ. .340. 革新性 .144. も, 「上司によるサポート」と「革新性」がより強い影響を与. Fig3. 管理システムとエンパワメントの. えていた.また,有意味感に関しては「仕事への関与」のみが. 関連についての分析(パス解析). 影響していた. 「自己決定感」に関しては,特に「自律性」と. Table 1 職場環境とエンパワメントの各要素間の関係(重回帰分析の結果) エンパワメント個人の志向性 有意味感 自己決定感 職場の関係性 -0.026 0.027 仕事への関与の次元 0.044 0.038 0.14 * * 同僚との関係の次元 0.031 0.086 -0.28 -0.103 * 0.053 上司によるサポートの次元 0.174 * * * 0.222 * * * 0.093 0.056 0.296 * * * ** * *** 自律性の次元 0.102 -0.079 0.031 0.216 -0.019 仕事の優先状況の次元 -0.073 -0.61 0.019 -0.142 * * -0.085 * * ** 仕事でのプレッシャーの次元 -0.037 -0.131 0.055 0.021 -0.002 仕事の明示性の次元 0.1 0.113 * -0.03 -0.034 0.191 * * * ** 仕事のコントロールの次元 -0.59 -0.132 0.01 0.456 -0.029 * * *** *** *** 革新性の次元 0.272 0.209 0.087 0.209 0.158 職場の快適性の次元 0.048 0.003 0.087 0.075 -0.015 R 0.537 0.523 0.277 0.335 0.535 2 0.288 0.273 0.077 0.112 0.287 R. 3. 有能感 バーンアウト 0.018 -0.073 0.037 -0.223 * * * -0.145 * * 0.023 0.127 * * 0.035 0.038 0.042 0.01 0.168 * * * 0.01 -0.065 0.04 0.067 0.116 * -0.146 * * * 0.06 0.023 0.245 0.435 0.06 0.189.
(4) 考 察. し, その次に能力を発揮できるような環境を整備していくとい. 1.職場環境評価尺度とエンパワメント尺度の作成について. った組織の集団年齢に応じた職場環境の整備に取り組む必要. 職場環境評価尺度に関しては, 十分な内的整合性と妥当性が. 性が示唆された.. 確認された.エンパワメント尺度に関しては,5 因子が抽出さ れ,日本における使用可能性が確かめられた.. 結 論. 2.職場環境評価尺度の次元間の関係について. 本研究の結果, 職員を取り巻く職場環境が職員のエンパワメ. 「仕事でのプレッシャー」は管理体制を測定するような「仕. ント,即ち,能力を発揮し,仕事に意義を見出していくことに. 事の優先状況」 , 「仕事のコントロール」以外の次元を低下させ. 影響を与えることが明らかになった. 本研究で明らかになった. る傾向にあることが明らかになった.これは,仕事に対するプ. 上司によるサポート,自律性,革新性などの要因を整備するこ. レッシャーが高い職場であれば, 他の次元に対する評価を低下. とで,職員がより能力を発揮することへつながり,その結果,. させることを示唆している.また,t検定の結果, 「上司によ. 施設を利用している高齢者にとって生活環境の充実や介護サ. るサポート」 , 「自律性」の平均値は他の次元の平均値より低か. ービスの充実へつながっていくのではないかと推察される. 本. った.この結果より,部下を指導する役割を担う上司による指. 研究の限界として,横断的調査であるため,職場環境によるエ. 導をあまり受けられないと認知していることが示唆され, 部下. ンパワメントが因果関係を暗に示すことはできても特定でき. の成長を促すような上司をどのように育成していくかという. ないという点が挙げられる.Steward(2000)が指摘するように,. 課題が浮き彫りとなった.また,自律性の欠如が,利用者の急. スーパービジョンによる職員のエンパワメント, 管理運営面が. 変に対して臨機応変に対応できる職員を育成することを妨げ,. 職員のエンパワメント, 管理運営面が職員のエンパワメントへ. 「何もやらせてもらえない」といった無力化を生み出し,質の. 与える影響をより縦断的に検討していくことで, 職員のエンパ. 低下を招く可能性を持つのではないかと推察された.. ワメントに関わる要因を詳細に解明できるであろう,また,エ. 3.職場環境とエンパワメントの関連について. ンパワメントの結果,久木田(1997)が指摘するように問題. エンパワメントに対しては, 「上司のサポート」 , 「自律性」 ,. 解決能力を向上させるのか,実際の援助能力を向上させ,高齢. 「革新性」 が影響していた. 職員が能力を成長させていくには,. 者に対する援助の質を向上させることにつながっていくのか,. 成長を促す指導者としての役割を担う上司の存在が重要であ. より実証的に研究がすすむことが求められる.. ること, 職務内容においてある程度の裁量権を与える自律性を 職員である職員に持たせること,新奇な考えを採択する,意見. 引用文献. を述べることができる等の風通しのよい革新的な職場風土を. ■ Bertalanffy,Lv., 1968 General System Theory, New York: George. 醸成していくことが重要であることが示唆された.. Braziller. ■Frans,D.J., 1993 A Scale for Measuring Social Worker. 4.運営管理システムが職場環境とエンパワメントに与える影. Empowerment. Research on Social Work Practice, 3, 312-328. ■. 響について. Guitierrez,GlenMaye,DeLois 1995 The Organizational Context of. パス解析の結果, 施設長のリーダーシップと施設の開放性が. Empowerment practice: Implications for Social Work Administration.. 職場環境を媒介し, エンパワメントに影響していることが明ら. Social Work, 40, 249-257.■市川和孝 2002 続・施設内虐待 誠心書房■久. かになった. 職場環境はより高次の運営管理面に包括されてい. 木田純 1997 エンパワメントとは何か 現代のエスプリ 376, 10-34. ■Lewin,. る. 職員はその運営管理システムの中で援助を行っていかなけ. K., 1951 Field Theory in Social Science.■Moos,R.H.,& Insel, P. M. Work. ればならない.今回,運営管理面が職員のエンパワメントに及. Environment Scale Technical Report. 1974 Social Ecology Laboratory. ぼす影響が解明されたことにより, 眼前の職場環境の整備だけ. Department of Psychiatry Stanford University Stanford, California. でなく, 職場環境を包括しているより広いシステムを視野に入. 94305 and Veterans Administration Hospital Palo Alto, California 94304. れ,システムの修正を行っていくことが,職員のエンパワメン. ■潮谷有二,児玉桂子,下垣光,秋葉直子,佐藤実佐子 2002 特別養護老人. トを検討していく上で不可欠であることが示唆された.. ホームにおける職場環境と痴呆ケア環境の関連性に関する分析 厚生科学. 5. 職場環境がバーンアウトに与える影響−エンパワメントの. 研究費補助金(長寿科学総合研究事業)分担研究報告書.■Spreitzer,G.M.,. 違いについて−. 1995. PSYCHOLOGICAL. EMPOWERMENT. IN. THE. WORKPLACE:DIMENSIONS,. バーンアウトとエンパワメント,すなわち,精神的健康を作. MEASUREMENT, AND VALIDATION. Academy of Management Journal, 38,. り出す環境と能力を発揮できるような職場環境は異なるので. 1442-1465.■Steward,D.S.,O’day,K.R., 2000 PERMANENCY PLANNING AND. はないかという点に着目して検討を行った結果, バーンアウト. ATTACHMENT: A GUIDE FOR AGGENCY PRACTICE. Handbook of Attachment. とエンパワメントに影響を与える要因が異なることが明らか. Interventions.■山口結花・吉武久美子・潮谷有二 2001 エンパワメント尺. になった.まず,職員が精神的に健康に働ける職場環境を整備. 度(日本語版)作成の試み 日本心理学会第 65 回大会発表論文集,792.. 4.
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