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瞳孔反射に基づく非イメージ形成の視覚の分光感度 [ PDF

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瞳孔反射に基づく非イメージ形成の視覚の分光感度

山下 裕也 1. はじめに 外界の光放射が網膜の光受容器に対して刺激となって 生じる感覚を、総称して視覚という。時間生物学の進展 と共に、明暗・色・形態などの情報を意識に上らせる感 覚は、イメージ形成の視覚 (image forming vision) 、明暗 情報を意識に上らせないが、概日リズムの光同調や瞳孔 反射などの生理的作用を生じさせる感覚は、非イメージ 形成の視覚 (non-image-forming vision) と呼ばれるように なった1, 2, 3)。ヒトの網膜において光受容を行うのは、杆 体視細胞と錐体視細胞とされてきたが、哺乳動物におい て光受容を行う網膜神経節細胞(内因性光感受性網膜神 経節細胞;ipRGC)が見出された。ipRGC は、概日リズ ムの光同調や瞳孔の対光反射などに関与している。 現在、欧米を中心に、光の生理的影響を考慮した照明 応用が研究されている。筆者らは、照明応用の基礎資料 として、光の生理的な影響の測光基準を定義するため、 非イメージ形成の視覚の光応答特性を調べている。本研 究では、ヒトの瞳孔反射実験の結果から、非イメージ形 成の視覚の分光感度に関して考察を行った。 2. 瞳孔の対光反射と光受容器 眼から網膜に到達した光刺激は、光受容器で生理的電 気信号に変換される。網膜からの光信号が脳へ伝達され る神経路は、複雑で多岐にわたる。イメージ形成の視覚 における主な神経路は、膝状体系と膝状体外系である4) 非イメージ形成の視覚における主な神経路は、視交叉上 核への投射(光同調の直接経路)、外側膝状体中間小葉へ の投射(光同調の間接経路)、視蓋前域オリーブ核への投 射(瞳孔反射)である。 ipRGC は視細胞と異なる特性をもつ。錐体の光感受性 は杆体の約 1/1000 であり、ipRGC は錐体よりも光感受性 が低い。さらに、光刺激を与えてから反応までにかかる 時間も視細胞に比べて遅く、光刺激後の反応継続時間が 長い。この光応答特性の違いから、視細胞は ipRGC が応 答しにくい放射照度が比較的低い光放射に速やかに応答 し、ipRGC の応答を促すものとされる5, 6)。しかし、錐体 や杆体からの光入力を含む ipRGC の網膜神経回路を反映 した非イメージ形成の視覚の分光感度は明らかにされて いない。 細胞レベルで推定されるヒトの光受容器の分光感度は、 ipRGC では 482 nm~484 nm、杆体では 507 nm、S 錐体で は 440 nm、M 錐体では 535 nm、L 錐体では 565 nm で極 大となる7, 8, 9)。既往の研究では、非イメージ形成の視覚 の分光感度が、ipRGC の分光感度と錐体の分光感度の合 成によることを示唆している10, 11, 12) Gamlin らは、晴眼者の光刺激後に持続する縮瞳(ipRGC に特有の光応答とされる)、Zaidi らは、錐体と杆体が機 能しない常染色体優性遺伝型錐体杆体ジストロフィ患者 の対光反射について作用スペクトルを求め、それらの応 答に関与する光受容器は ipRGC であることを示した10, 13) 小野寺らは、短波長域を選択的にカットする遮光フィル ターを用いて、晴眼者の対光反射測定を行い、持続する 縮瞳は ipRGC 由来であることを示した 14)。瞳孔反射は ipRGC の光応答を直接的に表すものと考える。 ドイツでは、光放射と照明工学に関する国家規格の 1 つとして、光の生理的影響に関する暫定規格を 2009 年に 制定した 15)。この規格は、メラトニン分泌抑制の作用ス ペクトルに基づいて、概日リズムの位相や振幅の変化、 覚醒の作用スペクトルに加えて、生物学的効果を与える 放射量を定めている。しかし、メラトニン分泌抑制の位 相変化は、視交叉上核の光応答を介しており ipRGC の間 接的な光応答を表すものである。また、メラトニンは、 視交叉上核の時刻情報を末梢機関へ伝える液性因子と考 えられるが、概日リズムに対する単独支配は考えにくい。 そのため、規格の基礎技術には ipRGC の光応答を直接表 すものを用いるべきである。 3. 瞳孔反射測定システム 瞳孔反射測定のため、市販の両眼電子瞳孔計を改造し、 瞳孔反射測定システムを組み立てた。瞳孔反射測定シス テムは、シャッター付きの光刺激装置、CCD カメラ内蔵 のゴーグル型瞳孔撮影装置、瞳孔径解析装置、ノートパ ソコンから成る。両眼電子瞳孔計に付属の瞳孔演算表示 ソフトウェアを改造し、トリガーを挿入して、光刺激装 置のシャッターの開閉により光刺激時間を設定できるよ うにした。

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45-2 瞳孔径の測定値は、1/30 秒ごとに記録される。単色光 刺激は、干渉フィルターを用いてファイバー光源から特 定の波長の光を取り出すこととした。単色光の組み合わ せで、混色光の刺激も可能とした。図 1 に光刺激装置の 光路を示す。 暗室でアイマスクを装着した被験者を約30分間待機さ せた後、瞳孔径を測定した。1 回の測定と次の測定との間 隔は、瞳孔が基準状態に戻るまで十分に取った。左眼に 光刺激を与え、右眼の瞳孔径を測定した。これは、正常 な場合、一側の眼に光が入ると、両眼ともほぼ同程度に 縮瞳することによる。全視野刺激とするために、半球型 の拡散透過材で眼前を覆った。 本研究では、1回の計測時間を計 25 秒(光刺激前 5 秒、 光刺激中 5 秒、光刺激後 15 秒)とした。瞳孔は光刺激の 開始と共に速やかに収縮した。光刺激の波長によって、 瞳孔の収縮や光刺激後の散大の程度が異なった(図 2)。 瞳孔径の測定開始から、光刺激照射前までの 5 秒間を 平均した値(a)と、光刺激中 5 秒間のうち、光刺激開始直 後の 2 秒間を除いた 3 秒間を平均した値(b)から、縮瞳率 を[(a-b)/a]と定義した。各波長条件について、光刺激量と 縮瞳率の関係から、最小二乗法を用いて刺激応答曲線を 求めた。回帰分析の例を図 3 に示す。解析には Gamlin ら の研究を参考にした10) 4. 単色光刺激による瞳孔反射実験 対光反射の分光感度を調べるため、単色光刺激による 瞳孔反射実験を行った。 光の波長条件は、400 nm~600 nm の単色光(半値幅 7.9 nm~11.3 nm)で 、22 歳男性と 22 歳女性は 8 条件、 23 歳男性と 25 歳女性 7 条件測定した。光刺激量は 11.5 log (photons/cm2/s) ~14.0 log (photons/cm2/s) の

約 0.5 log(photons/cm2 /s) 刻みの 6 条件とした。 測定は 22 歳~25 歳の男女(晴眼)4 人に対して行った。 各波長条件に対する刺激応答曲線を図 4 に示す。 最大感度の波長は、Baylor らが求めた吸光度テンプレ ートから最小二乗法を用いて求めた16)(式1・図 5) logS = ∑ 𝑎𝑛[log (1𝜆𝜆561𝑚𝑎𝑥)] 𝑛 6 𝑛=0 …(式 1) ここで、𝑎𝑛は定数、λ は任意の波長、λmax は極大波長 である。瞳孔反射の分光感度は、22 歳男性では 503 nm、 23 歳男性では 482 nm、22 歳女性では 481 nm、25 歳女性 では 564 nm で極大となった。吸光度テンプレートと比較 した結果、相関係数はそれぞれ 0.93、0.83、0.97、0.86 と なった。 図 1 光刺激装置の光路 図 2 瞳孔反射の測定例 図 3 回帰分析 図 4.1 刺激応答曲線 3 4 5 6 7 8 9 10 0 5 10 15 20 25 瞳 孔 径 [ ㎜] 時間 [s] 600nm 482nm 光刺激 5秒 3秒 5秒 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 9 10 11 12 13 14 15 縮 瞳 率 光刺激量 [log photons/cm2/s] 23歳男性,482nm 分析値 実測値 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 9 10 11 12 13 14 15 16 縮 瞳 率 光刺激量(log photons/cm2/s) 23歳男性,晴眼 442nm 512nm 571nm 462nm 540nm 600nm 482nm ミラー 干渉フィルター ファイバー光源 (キセノンランプ) ファイバー光源 (水銀ランプ) スプリッター シャッター ゴーグルヘ

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45-3 図 4.2 刺激応答曲線 図 5 極大波長の導出 5. 混色光刺激による瞳孔反射実験 混色光刺激に対する縮瞳率と光刺激量の関係を調べる ため、混色光刺激による瞳孔反射実験を行った。 光の波長条件は、441.1 nm、462.1 nm、482.0 nm、 571.0 nm、599.9 nm(半値幅 7.9 nm~11.3 nm)として、そ のうち 2 つの波長条件を組み合わせた。441.1 nm と 482.0 nm の組み合わせは、各波長の光刺激量を同程度に した。その他の波長の組み合わせは、一方の波長の光刺 激量を固定し(約 1 2 . 5 l o g ( p h o t o n s / c m2/ s ) ~ 12.8 log(photons/cm2/s)) 、もう一方の波長の光刺激量を変 化させて加えた(約 11. 5 lo g(p hoto ns/c m2 / s ) ~ 14.0 log(photons/cm2/s)) 。 測定は 23 歳男性と 25 歳女性に対して行った。測定結 果の例を図 6、各波長条件に対する刺激応答曲線を図 7 に示す。 6. 考察 単色光刺激による瞳孔反射実験の分光感度は 481nm~ 519nm の範囲で極大を示した。Lucas らは、マウスの瞳孔 反射における作用スペクトルの極大波長について、錐 体・杆体が機能しないマウスは 479nm、野生型のマウス は 498nm または 508nm であると報告している17)。また、 Benyahya らは非イメージ形成の視覚の分光感度が、 図 6 測定結果 ※波長は[光刺激量固定の波長] +[光刺激量変化の波長]で表記 図 7 刺激応答曲線 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 9 10 11 12 13 14 15 16 縮 瞳 率 光刺激量(log photons/cm2/s) 25歳女性,晴眼 442nm 512nm 571nm 462nm 540nm 600nm 482nm -3 -2 -1 0 400 450 500 550 600 650 相 対 感 度 波長 [nm] 23歳男性,晴眼 分析値 実測値 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 12 13 14 15 縮 瞳 率 光刺激量 [log photons/cm2/s] 23歳男性,晴眼 571+441nm 441+571nm 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 12 13 14 15 縮 瞳 率 光刺激量(log photons/cm2/s) 25歳女性,晴眼 571+441nm 441+571nm 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 9 10 11 12 13 14 15 16 縮 瞳 率 光刺激量(log photons/cm2/s) 23歳男性,晴眼 441+482nm 571+462nm 462+571nm 571+441nm 600+462nm 441+600nm 600+441nm 441+571nm 462+600nm 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 9 10 11 12 13 14 15 16 縮 瞳 率 光刺激量(log photons/cm2/s) 25歳女性,晴眼 441+482nm 571+462nm 462+571nm 571+441nm 600+462nm 441+600nm 600+441nm 441+571nm 462+600nm

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45-4 ipRGC の分光感度とM 錐体の分光感度の合成によること を示唆している 11)。本実験で得られた瞳孔反射の分光感 度も、それらと同様の結果を示している。相関係数の値 が低い原因としては、杆体・錐体・ipRGC の複合的な反 応に、単一視物質の吸光度テンプレートを用いたことが 考えられる。 混色光刺激による縮瞳率と光刺激量の関係を見ると、 23 歳男性では各波長の光刺激量の構成比が変化しても、 縮瞳率はほとんど変わらない。25 歳女性では、データに 若干のバラつきがあるものの、同様の傾向を示した。ま た、単色光刺激の刺激応答曲線と比較すると、混色する ことで波長依存性が弱まっていることが分かる。 一般的な蛍光灯やLED などの照明は複合波長光である。 既往の研究では、単色光刺激による作用スペクトルの導 出は多く論じられているが、混色による作用スペクトル の変化を調べたものが少ない。 本実験においては、日中における概日リズムの光同調 の作用スペクトルは、錐体の影響が強いため波長依存性 が弱く、光刺激量によるものが大きいことが示唆される。 しかし、被験者数が未だ不十分であるため、断定的では ない。 現在、睡眠障害や季節性感情障害の治療や、概日リズ ムの緩急が弱まる高齢者の生理補助、目覚まし時計に至 るまで生理面から照明学的対策が取られている。夜間の メラトニン分泌抑制や細胞レベルでの ipRGC の分光感度 のピークは既往の研究によって明らかになっている。し かし、非イメージ形成の視覚という総合的な観点からは 十分な知見が得られていない。健康に寄与する光環境を 提供するため、さらなる研究を行う必要がある。 謝辞 本研究は、東海大学情報理工学部・高雄元晴教授との共同 研究である。また、本研究は、竹中育英会建築研究助成金、 科学研究費補助金の基盤研究 (B)(課題番号 24360237)およ び基盤研究 (C) (課題番号 24570260) によった。記して謝意 を表する。 参考文献

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共立出版

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参照

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