6
1.抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)
antihistamine ヒスタミンレセプターに結合して,その機能を阻害する抗ヒ スタミン薬には,レセプターの型により数種類が知られている. 皮膚科領域で使用されるのは通常 H1レセプター阻害薬である. H1レセプターは炎症やアレルギー反応に深くかかわり,一般 に抗ヒスタミン薬といわれているのは抗 H1レセプター薬であ る.肥満細胞からのケミカルメディエーター遊離抑制作用をあ わせもつ第 2,第 3 世代の抗ヒスタミン薬を,日本では抗アレ ルギー薬(antiallergic drugs)と呼ぶことがあるが,国際的には 抗ヒスタミン薬としてまとめられており,区別はない(表 6.5).エピナスチン塩酸塩(アレジオン®),エバスチン(エバ ステル®),セチリジン塩酸塩(ジルテック®),フェキソフェ ナジン塩酸塩(アレグラ®)などの第 3 世代抗ヒスタミン薬は, 眠気などの中枢神経抑制作用の発現が少なく,また,血中半減 期が長いため 1 日 1 〜 2 回の投与で有効な止痒作用を示す.蕁 麻疹や湿疹・皮膚炎,皮膚瘙そう痒よう症,痒よう疹しんなどに用いられる.抗 コリン作用を有し,緑内障や前立腺肥大症をもつ患者には使用 禁忌の薬剤も存在するため注意を要する.2.抗菌薬
antibiotic 蜂 ほう 窩か織しき炎えん,伝染性膿痂疹などの皮膚感染症に対して用いられ る.ほとんどの皮膚感染症はペニシリン系,セフェム系など通 常の抗菌薬に反応するが,近年,市中感染でも MRSA をはじ めとした薬剤耐性菌が多く認められる.そのため,抗菌薬を投 与する前に培養検査(皮膚滲出液や膿汁など)を行い,反応が 悪い場合は培養検査の結果をふまえて薬剤の変更などを行う. ときに,薬剤アレルギーの既往をもつ患者もいるため,そのよ うな既往がないか問診をする必要がある.重篤な肝機能障害や 腎機能障害がある患者では,薬剤の代謝経路を考慮し,投与量 や回数を検討する.表 6.6 に抗菌薬の種類とその作用機序を示 す.3.抗真菌薬
antifungal agent 従来,内服および注射薬などで用いられてきた抗真菌薬(グ ルセオフルビン,アムホテリシン B,ナイスタチン,フルシトB.全身療法 systemic treatment
表6.5 皮膚疾患の治療に用いられる主な抗ヒスタミン薬 一般名(代表的な商品名) 用法 第 3 世代抗ヒスタミン薬 フェキソフェナジン塩酸塩 (アレグラ®) 内服 1 日 2 回 オロパタジン塩酸塩(アレロック®) 内服 1 日 2 回 エピナスチン塩酸塩(アレジオン®) 内服 1 日 1 回 ベポタスチンベシル酸塩 (タリオン®) 内服 1 日 2 回 エバスチン(エバステル®) 内服 1 日 1 回 ロラタジン(クラリチン®) 内服 1 日 1 回 セチリジン塩酸塩(ジルテック®) 内服 1 日 1 回 レボセチリジン塩酸塩 (ザイザル®) 内服 1 日 1 回 第 2 世代抗ヒスタミン薬 ケトチフェンフマル酸塩 (ザジテン®) 内服 1 日 2 回 アゼラスチン塩酸塩(アゼプチン®)内服 1 日 2 回 オキサトミド(セルテクト®) 内服 1 日 2 回 エメダスチンフマル酸塩 (ダレン®,レミカット®) 内服 1 日 2 回 第 1 世代抗ヒスタミン薬 ジフェンヒドラミン塩酸塩 (ベナ®,レスタミン®コーワ) 内服 1 日 2,3 回 d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 (ポララミン®) 内服 1 日 1〜4 回,注射 1 日 1 回 5 mg (皮下,筋,静注) ヒドロキシジン(アタラックス®) 内服 1 日 2,3 回 ホモクロルシクリジン塩酸塩 (ホモクロミン®) 内服 1 日 3 回 クレマスチンフマル酸塩 (タベジール®) 内服 1 日 2 回 シプロヘプタジン塩酸塩水和物 (ペリアクチン®) 内服 1 日 1〜3 回 メキタジン(ニポラジン®,ゼスラン®)内服 1 日 2 回 抗アレルギー薬(抗ヒスタミン作用をもたない) トラニラスト(リザベン®) 内服 1 日 3 回 クロモグリク酸ナトリウム (インタール®) 内服 1 日 3,4 回 スプラタストトシル酸塩 (アイピーディ®) 内服 1 日 3 回 (森田栄伸.全身療法.玉置邦彦 総編集.最新皮膚科学 大 系 2 巻 皮 膚 科 治 療 学 皮 膚 科 救 急. 中 山 書 店; 2003:85 を参考に作成)6
シン,ミコナゾール)は,抗真菌スペクトラムが狭い,副作用 が強いなどの欠点があったが,近年登場した内服薬のイトラコ ナゾール(イトリゾール®)やテルビナフィン塩酸塩(ラミシ ール®)は皮膚科領域で使い勝手がよい.これらの薬剤は高い ケラチン親和性をもつため,病変部への移行が速いとされる. Cケルススelsus 禿とく瘡そう,白癬菌性毛瘡や深在性真菌症で内服される.また, 爪白癬には,イトラコナゾールのパルス療法(400 mg/日,1 週 間内服を月 1 回,3 クール)も行われる.副作用で生じうる肝 機能障害や横紋筋融解症,またイトラコナゾールの併用禁忌薬 には十分に注意する.深在性真菌症に対しては注射薬(イトラ コナゾール,フルコナゾール,ミカファンギン,ボリコナゾー ルなど)を用いることもある.4.抗ウイルス薬
antiviral agent 単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルスにはアシクロ ビル(ゾビラックス®),バラシクロビル(バルトレックス®), ビダラビン(アラセナ.A)が有効である.また,帯状疱疹に 対してはファムシクロビル(ファムビル®)が使用可能である. ビダラビン以外は内服薬が存在し,外来診療で頻用される.腎 代謝性の薬剤であるため,腎機能障害のある患者ではクレアチ ニンクリアランスに応じて投与量を調節する.その他の抗ウイ ルス薬として,サイトメガロウイルスに有効なガンシクロビル, そのほか,抗 HIV 薬が数種類存在する.5.ステロイド(副腎皮質ホルモン)
corticosteroid 抗炎症,抗免疫作用を目的として用いられる.皮膚科領域で 長期のステロイド内服が必要となりうる疾患は,SLE などの膠 原病,天疱瘡や水疱性類天疱瘡などの自己免疫疾患や,DIHS などの重症薬疹がある.一方,薬疹や自家感作性皮膚炎などで 皮疹が広範囲に及ぶものでは,短期間の内服を行うこともあ る.アトピー性皮膚炎,慢性蕁麻疹,乾癬などの慢性疾患に対 する安易な全身投与は控え,適応を慎重に考慮すべきである. ステロイド内服は,外用よりもさらに多様な副作用が発生す る可能性が高いため,細心の注意を払いつつ使用する.とくに 糖尿病や高血圧などの基礎疾患のある患者では,悪化の可能性 があるため注意を要する.ステロイド全身投与による代表的な 副作用を表 6.7 に示す.ステロイド使用に対して抵抗感を抱く 患者には,使用の際に,その必要性と副作用についての十分な 説明が必要である. 表6.6 抗菌薬の種類とその作用機序 表6.7 ステロイド内服薬の主な副作用 ステロイド内服薬の投与量6
疾患の重症度により初期投与量を決め,症状の軽快とともに 漸減して維持量に至らせるか中止するのが原則である.内服薬 は数種類存在し,1 錠がおおよそ 1 日の生理分泌量に相当する 用量である(表 6.8).必要に応じて,ステロイドパルス療法(メ チルプレドニゾロン 1,000 mg/日を 3 日連続点滴投与)なども 行う.6.免疫抑制薬
immunosuppressant シクロスポリン(ネオーラル®),アザチオプリン(アザニン®, イムラン®),メトトレキサート(リウマトレックス®),シク ロホスファミド(エンドキサン®)などの薬剤がある.SLE, 皮膚筋炎,天疱瘡,水疱性類天疱瘡,Bベーチェットehçet 病などでステロイ ドの減量が困難な場合,併用して使われることがある.また, 難治性の乾癬ではシクロスポリン,メトトレキサートが単独で 用いられることがある.成人重症アトピー性皮膚炎の急性増悪 時にシクロスポリンの低用量内服を行うこともある.シクロス ポリンは用量依存性に腎機能障害や高血圧を起こしやすいの で,定期的な観察と血中濃度のモニタリングを行う必要があ る.7.生物製剤(モノクローナル抗体など)
biologics 膠原病や悪性リンパ腫,乾癬,自己免疫性水疱症などへの治 療として,リンパ球の表面マーカーや産生サイトカインに対す るモノクローナル抗体を投与する治療が近年普及しつつある (表 6.9).抗悪性腫瘍薬や免疫抑制薬と比較して副作用が少な いなどの利点がある.とくに重症乾癬や乾癬性関節炎には劇的 で速効性の効果が報告されており,今後さらに幅広く使用され ることが予想される.しかし,結核顕在化など重篤な感染症の 副作用も報告されているため,使用には慎重な対応が必要であ る. 表6.8 主なステロイド内服薬の抗炎症作用の力価とその持続時間6
8.レチノイド
retinoid レチノイドはビタミン A およびその誘導体の総称で,上皮 組織の増殖および分化を調節する作用がある.この作用はビタ ミン A の中間代謝物であるレチノイン酸で強い.現在日本で はエトレチナート(etretinate,チガソン®)が唯一認可されて いる内服レチノイドである.ビタミン A には角層の構造をつ くる硫酸コレステロールを減少させる作用があり,投与によっ て角層の脱落が促進される.これらの作用によりさまざまな角 化異常症(乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,Dダリエーarier 病など)に有効 である.レチノイドには重要な副作用(催奇形性や骨発育障害) があるため,生殖年齢の患者に使用する際には,女性は投与終 了後 2 年間(男性は 6 か月間)の避妊が必要である.また,骨 端線の早期閉鎖を生じうるため,小児に対する投与は慎重にす るべきである.そのほかに表皮の脱落,口唇炎,爪脆弱化,肝 機能障害,脂質代謝異常などの副作用も認める.9.DDS
(4,4´-diamino-diphenyl-sulfone) ジアフェニルスルホン(diaphenylsulfone,レクチゾール®) ないしダプソン(dapsone)ともいう.葉酸合成を阻害するサ ルファ剤の一種であり,もとはハンセン病に対して用いられて いた.後に,好中球浸潤を主体とする種々の炎症性皮膚疾患に 効果があることがわかり,皮膚科領域では Dデューリングuhring 疱疹状皮膚 炎やその他の自己免疫性水疱症,持久性隆起性紅斑,角層下膿 疱症,血管炎,顔面肉にく芽げ腫,色素性痒疹などの治療に用いられ ている.副作用として,溶血性貧血やメトヘモグロビン血症, 白血球減少,肝および腎機能障害などがみられることがあるた め,定期的な血液検査が必要である.まれではあるが,発疹や 発熱,肝機能障害などを呈する DIHS(10 章 p.147 参照)を生 じることがあり,とくに DDS 症候群として知られている. 表6.9 主な生物製剤と適応疾患 薬剤名 商品名 ターゲット分子 有効な疾患 備考インフリキシマブ レミケード® TNF-a 関節リウマチ,乾癬,Behçet 病,Crohn 病 TNF-a を中和
アダリムマブ ヒュミラ® TNF-a 関節リウマチ,乾癬 ヒト型抗 TNF-a 抗体
リツキシマブ リツキサン® CD20 B 細胞リンパ腫,天疱瘡,SLE 表面マーカーに結合
エタネルセプト エンブレル® TNF-a Crohn 病,関節リウマチ,乾癬 TNF-a 受容体拮抗薬
アレファセプト アメヴィーヴ® CD2 乾癬 CD2 をブロック
6
10.抗悪性腫瘍薬
anticancer agent 皮膚科領域では,悪性黒色腫,有棘細胞癌,Pぺージェットaget 病,皮膚 リンパ腫などに対し,病期などによって抗悪性腫瘍薬による治 療を行うことがある.現在,さまざまな系統の抗悪性腫瘍薬が 使用されており(表 6.10),作用機序の異なる薬剤を組み合わ せ,耐性化と副作用を減らす多剤併用化学療法(combination chemotherapy)も行われる.皮膚科では悪性リンパ腫に対して CHOP 療法が行われることがある.DAVFeron 療法は主に日本 で悪性黒色腫に頻用されている(22 章 p.457 参照).11.ビタミン薬
vitamin 皮膚科疾患でビタミン欠乏が原因とされているものに,口角 炎(ビタミン B2欠乏,アリボフラビノーシス),ペラグラ(ナ イアシン欠乏),ビオチン欠乏症(ビオチン:ビタミン H)な どがある.これらの疾患を治療するために不足ビタミンの補充 療法が行われる.また,肝斑や炎症後色素沈着,紫斑などに対 してビタミン C が投与される. 表6.10 皮膚科で用いる主な抗悪性腫瘍薬の副作用6
12.漢方薬
Chinese herbal medicine各種の生薬を組み合わせた医療用漢方製剤が多数存在する. 皮膚科では,尋常性痤瘡や皮膚瘙痒症,蕁麻疹やウイルス性疣 贅などに対して用いられる.
13.その他
other agents インターフェロン,NSAIDs,ヨウ化カリウム,亜鉛製剤, プロスタグランジンなどが皮膚科でも用いられる(表 6.11).1.レーザーの基礎と理論
basics and theory of laser therapyレ ー ザ ー(LASER) と は,Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation の頭文字をとった合成語である.半導体 やキセノンランプなどで,レーザー媒質(ルビー結晶やアレキ サンドライトなど)中の原子を励起状態にし,それが基底状態 に戻る際に放出する光を共振器で増幅したものである.レーザ ー媒質の種類によって放出される波長は異なる(表 6.12).組 織に吸収されたレーザー光の光エネルギーが熱変換すること で,細胞や組織は破壊される.可視光線領域の光を吸収する受 容体はクロモフォア(chromophore)と呼ばれ,正常皮膚では