北海道教育大学函館校ソーシャルクリニック平成29年度活動成果報告書
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(2) 北海道教育大学函館校 ソーシャルクリニック 平成. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 年度活動報告書. 29. 平成 年3月 北海道教育大学函館校 地域協働推進センター. 30. 北海道教育大学 函館校 ソーシャルクリニック 平成29年度 活動報告書. 平成30年3月 北海道教育大学函館校 地域協働推進センター.
(3) 北海道教育大学函館校 ソーシャルクリニック 平成29年度活動報告書. 北海道教育大学函館校 地域協働推進センター.
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(5) 目次. ソーシャルクリニック構想 北海道教育大学函館校 キャンパス長 後. 藤. 泰. 宏 1. 北海道教育大学函館校 地域協働推進センター長 根. 本. 直. 樹 2. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 「まち医者」に近づけるかなソーシャルクリニック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. ソーシャルクリニック2年目の実践∼活動の広がりとモデルの精緻化への展望∼ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ . 池 ノ 上 真 一 3. 古. 地 順 一 郎 . 江差ソーシャルクリニックの活動 (1)平成29年度の活動報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 古 地 順 一 郎 11 (2)エエまちづくり 〜江差町を知る〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 古 地 順 一 郎 13 (3)観光まちづくりとDMO ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 池 ノ 上 真 一 16 ・・ ・ ・ ・ ・. (4)なにかもめかもめよう!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三. 上. . 修 21. (5)江差町における観光の経済効果の指標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 藤. 井. 麻. 由 22. (6)江差町における祭のフィールドワーク報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 村. 田. 敦. 郎 24. (7)法華寺通り商店街の再生をめざして ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 古 地 順 一 郎 26 (8)地域協働による互助体制づくりの過程 〜「まちづくりカフェ Season-2」の試み〜 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 齋. 藤. 征. 人 28. (9)えさし研修2017 〜地域創生人材の育成をめざして〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 古 地 順 一 郎 31 (10)政策アイデアコンテスト 〜地学協働による政策づくりをめざして〜 ・・・・・・・・・・ 古 地 順 一 郎 33 (11)ソーシャルクリニック参加学生の声 姥神大神宮渡御祭 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 保. 坂. 波. 澄 35. 可視化する町の魅力 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 阿. 部. 拓. 海 36. 江差におけるSC活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 田. 織/中. 田. 葵. 衣 37. 江差町法華寺通り商店街の活性化に向けた活動について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 元. 村. 圭. 佑 38. えさし研修に参加して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 加. 川. 裕. 花 39. 江差野球教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 岩. 谷. 圭. 太 40. 中. 志. (12)地域の声 江差町における日本遺産と観光DMOの取組について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 江差町追分観光課 主幹 佐. 々 木 昭 弘 41. 江差ソーシャルクリニックで生まれる「町の元気!」 ・ 「つながるキズナ!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 江差町まちづくり推進課 まちづくり推進係長 国. 仙. 敏. 孝 42. 江差流地域包括ケアシステムの仕組みづくり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 江差町健康推進課 地域包括支援係長 畑. 明 日 香 43.
(6) 知内ソーシャルクリニックの活動 (1)平成29年度の活動まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 池 ノ 上 真 一 47 (2)小谷石再生プロジェクトと涌元小学校 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 池 ノ 上 真 一 49 函館ソーシャルクリニックの活動 (1)第三国定住難民受入に向けた地域協働体制の構築 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 森. 谷. 康. 文 53. (2)函館景観まちづくりの取り組み ・・・・・・北海道教育大学函館校 地域協働推進センター協力員 山. 本. 真. 也 55. (3)平成29年度活動報告・・・・・・・・・・・・・・・・北海道中小企業家同友会函館支部 政策委員会副委員長 河. 村. 悦. 郎 56 57. ソーシャルクリニック 報道の記録 調理 世代超え親睦 江差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 北海道新聞 2017年4月14日(金)夕刊. 基本が大切 肌で実感 江差の中学生指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 北海道新聞 2017年4月19日(水)夕刊. 談話室 野球指導「良い経験に」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 函館新聞 2017年5月16日(火). まちづくりカフェ 膨らむ話題 地域の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 北海道新聞 2017年6月30日(金)夕刊. 外国人労働力活用を 同友会函館が例会 鈴木社長が講演 ・・・・・・・・・・・・・. 北海道新聞 2017年8月24日(木)朝刊. 江差追分 胸打つ歌声・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 函館新聞 2017年9月17日(日). 大学生が新たな発想で提言 道銀が政策アイデアセミナー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 函館新聞 2017年10月6日(金). ・・・・・・・・・・・・・・・・ 高齢化の町 住みやすく 江差で「まちづくりカフェ」. 北海道新聞 2017年10月25日(水)朝刊. 江差追分にあうカモメの鳴き声は ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 北海道新聞 2017年10月31日(火)朝刊. 函館活性化へ若い発想光る ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 函館新聞 2017年12月1日(金). 児童が知内の魅力発信へ 涌元小が観光教育協力校へ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 函館新聞 2017年12月8日(金).
(7) ソーシャルクリニック構想 北海道教育大学函館校 キャンパス長 後. 藤. 泰. 宏. 皆様におかれましては、日頃より函館校の教育研究活動並びに地域協働事業に ご理解とご支援を賜りまして、厚く御礼申し上げます。 わたくしども北海道教育大学は、札幌、旭川、釧路、函館、岩見沢に5つの キャンパスを持ち、それぞれが北海道を中心に地域の未来を支えるべくがんばっ ております。函館校は、2014年に「国際地域学科」を設置し、国際的視野と教育 マインドをもって地域の活性化に寄与する人材の育成に努めています。その教育 活動の柱には、地域の方々と学生が協働で課題解決に取り組む「地域プロジェク ト」という科目を置き、地域との連携を推進する部署としては「地域協働推進セ ンター」を設けております。 地域における活動を推進する中でとりわけ重要な拠点が「ソーシャルクリニッ ク」と呼んでいる地域課題診療所であります。ご存知のように、日本の各都市は さまざまな課題を抱えており、皆がその解決に向けて知恵を出し合っている状況 です。道南地域においても急速な人口減少による諸問題が浮かび上がってきてお り、これからの地域のあり方を考え、どうデザインしていくかが急務となってい ます。函館校のソーシャルクリニック構想は、そのような地域の課題に正面から 取り組むものであり、2016年6月にはめでたく江差町、知内町と包括連携協定を 結ばせていただきました。2016年には、江差ソーシャルクリニックの活動を開始 し、2017年からは知内ソーシャルクリニックと函館ソーシャルクリニックの活動 も始まっています。これらソーシャルクリニックを拠点として、地域の未来をと もに考え、諸課題の解決に向けてともに行動していきたいと思います。 ソーシャルクリニックを通した活動がますます活発になり、江差町、知内町、 函館市をはじめとした道南地域に新たな希望を生み出せるよう函館校も努力して まいりますので、よろしくお願いいたします。 平成30年3月. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 1.
(8) 「まち医者」に近づけるかなソーシャルクリニック 北海道教育大学函館校 地域協働推進センター長 根. 本. 直. 樹. 本報告書は、平成29年度のソーシャルクリニックの成果はどうであったか、各 担当者による多様な観点からの報告で満たされています。このことは、病院が外 科や内科胃腸科に分かれていることに似ています。本校は教育学部ですが、小さ な総合大学のように多彩な教員集団であることを表現しています。 ある知人にこの事業を話したところ、「大学が「まち医者」の役割を担ってい るのですね」と応答してくれました。なるほど、と感心していると「それでは往 診が大切ですね」とも言葉を添えてくれました。 このやりとりですぐに、テレビドラマの「ドクターコトー診療所」を思い浮かべ ました。大学病院で命を失わせた経験から逃避するかたちで島の診療所に勤務する 青年医師の物語です。映像の中で大切な表象は、自転車による往診のシーンです。 往診のシーンがなぜ重要な意味をもっているのか。ひとつの解釈ですが、医者と 患者との対峙関係ではなく、人と人との対峙関係を意味しているのではないかと思 うのです。コトー先生は、この関係性から多くのことを学ぶことになります。 これまでの診療所の医師に対する不信感を少しずつ払拭できたのは、往診によ るコミュニケーションによるところが大きかったことが推察されます。患者のカ ルテと向き合うだけでなく、その人の物語とも向き合うことの大切さを感じ取れ ました。 ドクターコトー診療所の番組で忘れることができないのが中島みゆきの主題歌 です。「銀の龍の背に乗って」の歌詞の中に「あの蒼ざめた海の彼方で 今まさ に誰かが傷んでいる まだ飛べない雛たちみたいに 僕はこの非力を嘆いてい る」というフレーズが印象的です。 優秀な外科医であるコトー先生が少しうつむき加減で悩んでいる姿は、まさに 「非力」を受けとめている姿にほかなりません。コトー先生にとっての「非力」 の意味とは何なのか、何に対してなのか疑問として残っています。 今年度は、江差町で実践された「まちづくりカフェ」に何度か参加しました。 そこに参加されている町民の方々の活動での言葉や笑顔の中に「ドクターコトー 診療所」と合い通ずる温かさを感じましたし、多くのことを学びました。 住民の方々の物語に寄り添って大学の地域連携事業が進展していきたいと思っ ています。これからもよろしくお願いいたします。 平成30年3月. 2. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(9) ソーシャルクリニック2年目の実践 ―活動の広がりとモデルの精緻化への展望― 北海道教育大学函館校 地域協働推進センター. 池 ノ 上 真 一 古 地 順 一 郎. 2年目を迎えたソーシャルクリニック 「ソーシャルクリニック」(地域課題診療所)は、北海道教育大学函館校が、 地域と大学の新たな協働モデルの構築を目指して、平成28年度から始めている取 り組みである。その目的は、「地域と大学の協働(地学協働)を通じて、地域住 民をエンパワメントし、地域の課題解決力を高め、地域づくりを自律的に進めら れるようにすること」にある(池ノ上・古地. 2017:. 3)。言い換えれば、ソー. シャルクリニックは、「地域力の向上」を理念として掲げる地学協働モデルであ る。この理念を実現するため、ソーシャルクリニックでは、地域課題の診断、処 方(解決策の策定)、治療(解決策の実施)を、地域と大学が一緒に行うことを 前提としている(図1)。 図1 ソーシャルクリニック・モデル(イメージ) 研究成果の蓄積・発信、知的資源の深化. 地域住民. 運営・知的資源 の提供. 参画・地域 課題の提供. ソーシャルクリニック 課題 診断. 処方. 治療. (解決策 の策定). (解決策 の実施). 地域課題の解決. 北海道教育大学 函館校. 地学協働. 地域住民のエンパワメント、地域課題解決力の向上. このような取り組みは、北海道教育大学函館校にとっても初めての試みである ため、1年目となる平成28年度は、さまざまな活動を試行的に展開しつつ協働モ デル構築への道筋を探った(北海道教育大学函館校. 2017)。2年目となる平成. 29年度は、前年度の活動を継続するとともに、さらなる広がりを模索した1年で あったと言える。その活動を通じて、地学協働モデルの構築に向けたヒントと共 に課題が見えてくるようになった。本稿では、2年目の活動を通して見えてきた ソーシャルクリニックモデルの可能性と課題について考えてみたい。. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 3.
(10) より組織的な協働に向けて 1年目はソーシャルクリニックの立ち上げを重視したため、結果的に一部教員 が集中的に活動を展開することとなった。新たなプロジェクトの立ち上げにあ たって、少人数の関与から始めることは珍しいことではない。しかし、ソーシャ ルクリニックが大学としての組織的プロジェクトである以上、函館校内でソー シャルクリニックの取り組みを浸透させるとともに、関与する教員数を増やし、 プロジェクトの幅を広げることが重要となるだろう。本報告書と昨年度の報告書 を比較すると、ソーシャルクリニックに関与する教員の数が増えていることが分 かるであろう。その増加幅は数名に止まっているが、多忙なスケジュールの中か らソーシャルクリニックの意義に理解を示し、研究・教育活動の一部として活用 してくれているということは、組織的な地学協働に向けて重要な一歩と考えられ る。 しかし、ソーシャルクリニックに関与する教員の数を増やすためには、教員が 関わりやすい環境づくりが求められる。まず、言うまでもないことだが、大学教 員は研究者である。そのため、ソーシャルクリニックが教員の個人的な研究の発 展の場になれば、教員が関与するインセンティブが増えると考えられる。地域の 課題は多様であり、さまざまな専門分野を持った研究者が関わることができる余 地は大きい。そこで、ソーシャルクリニックの機能として、地域課題と教員の専 門性のマッチングを行うことが重要になる。また、教員のインセンティブをより 高めるためには、ソーシャルクリニックに関わる研究に対して、研究費や滞在に 関わるロジ支援(研究拠点や宿泊場所など)を提供することも必要になってくる であろう。 次に、ソーシャルクリニックが教員にとって魅力的な教育資源となることも重 要である。地域に表出するさまざまな課題に取り組むことは、学生にとっても良 い学びの場となる。講義で学んだことを現場で応用する機会になるだけでなく、 理論と現実をすり合わせながら、課題解決の糸口を見出すことは論理的思考力を 鍛えることにもつながる。教室と現場の往復をすることで、よりダイナミックな 学びが形成されていく。筆者の学生も、ソーシャルクリニックの活動に関わるこ とによって、学術的そして社会的な学びを蓄積しており、その成長ぶりに目を見 張ることもある。しかし、限られた授業時間や、まとまった時間が取りにくい現 行の時間割では、距離の離れた現場をフィールドとして教育活動を行うことは難 しい。今後、ソーシャルクリニックの活動をより組織的なものにしていくには、 教育活動の場としてより使いやすいものにしていく必要があろう。 大学は、個人事業主が集まった組合のようなフラットな組織として機能してき た。そのことが学内の多様性を生み、研究・教育・地域貢献活動の原動力となっ てきた。ソーシャルクリニックという取り組みは、組織的な関与を目指すと言っ ても、このようなフラットな組織が持つ強みを損ねることは考えていない。あく. 4. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(11) まで、それぞれの教員がある地域の課題解決に向かって、それぞれの専門分野を 生かしながら自発的に関わっていくことが原則となる。そのとき、ソーシャルク リニックは、そのコーディネート能力を問われる存在になっていくであろう。ま た、学問上の一般論を複合的な要素によって成り立つ地域に短絡的に適用するこ とや、大学という組織の都合を優先させるあまり、地域に過剰な負担を強いた り、地域の意向と異なる活動を行ったりすることはあってはならないということ も改めて確認しておきたい。. ソーシャルクリニックの役割の明確化に向けて 2年目は多くの教職員や地域の方々の尽力により、ソーシャルクリニックの活 動に幅を持たせることができた。その一方で、さまざまな活動が展開する中、 「ソーシャルクリニック」の役割が分かりにくくなりつつあるという課題が生じ つつある。すなわち、一連の活動が全て「ソーシャルクリニック」という組織が 行っている活動なのか、「ソーシャルクリニック」という「ブランド」の下で各 教員が個人的に行っている活動なのか、という区別が分かりにくくなっていると いうことである。 過去2年間の活動では、そのあたりの区別をあえて曖昧にすることで、ソー シャルクリニックの可能性の模索のために色々な方向性で活動を走らせてきた。 しかし3年目を迎えるにあたり、現時点でソーシャルクリニックの仕組みを整理 しておくことが必要と考えられる。そこで、図2のようにソーシャルクリニック が果たす役割を改めて整理してみた。なお、誤解がないように述べておきたいこ とは、図2の内容は、図1に描かれた診断→処方→治療という基本的な地学協働 プロセスを下支えするための具体的な活動と考えて欲しいということである。 図2 北海道教育大学函館校 ソーシャルクリニックの役割と活動. 北海道教育大学函館校ソーシャルクリニック 理念:地域力の向上 地学協働. つなぎ. 学内協働. 診 断. 支 援. 研 究. ・信頼醸成 ・ネットワーキング ・地学協働マッチング. ・コミュニティ定期診断 ・指標開発 ・GIS 分析. ・ロジ支援 (カネ・モノ・ヒト) ・コーディネーション. ・地学協働に関する研究 ・地域に関する学際的 研究. ・体験学習 ・地学協働円卓会議 ・出前講座. ・まちづくりカフェ ・フェノロジーカレンダー ・政策アイデアコンテスト. ・地域協働推進センター. ・研究グループ ・研究費支援. 北海道教育大学函館校 教員及び学生 HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 5.
(12) まず、地学協働の進展に向けては、地域と大学をつなぐ役割がソーシャルクリ ニックに求められるであろう。地域との信頼関係を構築し、ネットワークを広 げ、地域課題と大学教員の専門性とのマッチングを図ることが役割として想定さ れる。そのための手段として、まちあるき等のゆるやかなフィールドワークや日 常的な会話等をとおした地域とのコミュニケーションの実施、円卓会議の実施、 出前講座などが考えられる。 次に、ソーシャルクリニックの大きな役割の一つに、地域の現状を診断すると いうものがある。そのため、地域社会・文化・経済、あるいは自然・生態系など の定期診断ができるようになると、どの課題から優先的に取り組むべきか、本学 の資源をどこに投入すべきか、ということも見えてきやすくなる。ただ、定期診 断に関して、進捗管理や効果測定をするための指標が必要になってくる。何を指 標として診断するかは、専門的な知見を用いることは当然であるが、地域の方々 と協働で決めることが望ましいと考える。また、診断結果の可視化を進めるため に、GISによる分析等のITの活用に期待したい。過去2年間の活動で行ってい るものから拾ってみると、まちづくりカフェ、フェノロジーカレンダーやお宝 マップ作成、政策アイデアコンテスト、エサシナイト、江差エリアリノベーショ ン企画コンペ、地域協働ラウンドテーブル“Do!はこだて”、小谷石再生プロ ジェクトワークショップなどが入るだろう。 また、上でも述べたように、ソーシャルクリニックを発展させるためには、学 内での関与を高める必要がある。そのため、地域協働推進センターを通じて、 ソーシャルクリニック活動に対する支援とコーディネーションを強化する必要が ある。実際にこれまでの2年間では、研究や教育、地域活動の支援体制をほとん どつくることが出来ず、担当教員らの孤軍奮闘に依存してきた状況であった。前 述のとおり、これまでは可能性の模索期間でもあったため、それでも検証するに は十分な情報を得ることが出来た。しかし今後、持続的に大学の機関として取り 組むためには、教員や事務職員の協業はもちろんのこと、研究や教育、地域活動 の支援を行うコーディネーターやアシスタントの配置が重要となってくる。 さらに、多様な専門的知見をもち、新たな知見を生み出す研究機関でもある本 学の知的資源の新たな開発の取り組みとして位置づけることが重要だと考える。 部門制・講座制を超えた(大学の)組織運営として桑原武夫が執り行った「共同 研究」(梅原 2011)の理念を範として、地学協働を謳うソーシャルクリニック を函館校の新たな運営の仕組みづくりの一助になることを期待したい。そのため には、地学協働に関してや、地域課題に関し、共同研究を行うグループを立ち上 げ、研究費を支援するなどする必要があると考える。 3年目に向けての課題としては、図2の機能形成を意識しつつ、とりわけ、診 断機能と研究機能の強化を図っていきたい。とくに診断機能の強化については、 具体的な診断方法や考え方の開発、それを実施するための体制の構築、診断結果. 6. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(13) の可視化や、抽出された地域課題の解決のための具体の方法論、さらには学術研 究や教育への展開の模索などが課題といえよう。いずれにせよ、すでに江差町を はじめ、地域からの期待を頂きながら展開をはじめた本事業であることから、来 年度も、ソーシャルクリニックが少しでも地域力の向上につながるよう、地域と 密接に協働しながら進めていきたい。 参考文献 池ノ上真一・古地順一郎(2017)「ソーシャルクリニック∼地域の課題解決力向上を目指す仕組み」北海道教育大学函 館校地域協働推進センター編『北海道教育大学函館校ソーシャルクリニック平成28年度活動報告書』3-5。 梅原宏司(2011)「梅棹忠夫論―「国家デザイナー」「プランナー」的知識人形成―」『応用社会学研究』No.53、 151-169。 北海道教育大学函館校地域協働推進センター編(2017)『北海道教育大学函館校ソーシャルクリニック平成28年度活 動報告書』。. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 7.
(14) 8. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(15) 江差ソーシャルクリニックの活動.
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(17) ■江差ソーシャルクリニックの活動. 平成29年度の活動報告 北海道教育大学函館校 准教授 古. 江差ソーシャルクリニックの活動2年目とな る平成29年度は、昨年度からの活動を継続しつ. 地 順 一 郎. 3.観光まちづくりとDMO 江 差 町 版 D M O( D e s t i n a t i o n. つ、活動の幅が広がった1年であった。ここで. Management Organization)の形成を支援. は、今年度の活動を概観しておきたい。. する事業。江差町の地域資源の再評価に関わ る各種活動を行った。今年度は、江差町が日. 1.江差野球教室 今年度初めて実施した企画。4月16日(日). 本遺産に認定されたこともあり、DMO関連 の事業が多く行われた。主要なものを挙げて. に本校硬式野球部が、江差町の中学生を対象. おきたい。池ノ上真一准教授(観光学)を責任. とした野球教室を町民野球場で実施し、江差. 者とするチームは、第64回かもめ島祭りで観. 中学校と江差北中学校の野球部員15名が参. 光動態調査を行った。また、町内の空き物件. 加した。本校硬式野球部が、町民野球場で毎. や街並みを生かしまちづくりを進めるため. 年合宿を行っていることもあり、大学生によ. のエサシナイトや江差エリアリノベーショ. る指導を望む江差町側と、毎年お世話になっ. ン企画コンペを実施した。さらに、江差の地. ている江差町の方々の役に立てることがし. 域資源を見つめ直すためのお宝マップの作. たいという本校硬式野球部側の想いが一致. 成にも取り組んだ。. したことにより実現した。. 三 上 修 准 教 授( 生 態 学 )を 責 任 者 と す る チームは、民謡「江差追分」に歌われている. 2.エエまちづくり 江差町に対する学生の関心を喚起しつつ、 江差町が自分たちの学びの場になることを. 「かもめ」について、江差町の方々や観光客が どのようなイメージを抱いているかに関す る調査を行い、報告会を行った。. 認識してもらうための体験学習型の企画。こ. また、池ノ上准教授と三上准教授は、江差. の企画への参加を通して、江差ソーシャルク. 町の宮原浩学芸員、長谷昭函館校名誉教授. リニックのさまざまな活動への参画を促す. (生物学)らとともに、江差町中心部の自然、. 狙いもある。今年度も2回実施。第1回「江差町. 暮らし、歴史をまとめたフェノロジーカレン. まちあるきツアー」は、5月13日(土)に実施. ダーを作成した。. され、学生27名と教員2名が参加した。第2回. 村田敦郎准教授(文化人類学)は、地域に深. は「江差町姥神大神宮渡御祭参加体験」は、8. く根差した神道系の宗教団体で、夏には勇壮. 月9日(水)∼12日(土)に実施され、学生18名. なお祭りを町内で繰り広げる「八大龍王神八. と教員2名が参加した。. 江聖団」に関する研究活動に着手した。古地 順一郎准教授(地域政策学)のチームは、法華 寺通り商店街の再生に向けたプロジェクト HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 11.
(18) ■江差ソーシャルクリニックの活動. を開始し、学生を中心に再生策を提案するた めの調査を行い、各種政策アイデアコンテス トでその内容を発表した。. 6.政策アイデアコンテスト 地域創生人材の育成を目標とした学生の 研究活動。地域政策学研究室の学生2チーム (2年生チーム、3年生チーム)が、江差町法華. 4.まちづくりカフェ. 寺通り商店街の再生に向けた政策提言を作. 住民主体の地域協働による互助体制の構. 成し、 「 和歌山県データ利活用コンペティ. 築を目的とした試み。2年目となる今年度は. ション」、 「地方創生☆政策アイデアコンテス. 「江差町民総活躍まちづくりセミナー」とし. ト2017」、 「第2回はこだて学生政策アイデア. て開催された。今年度は、住民たちが昨年度. コンテスト」に参加した。3年生チームは、 「第. 考えた地域課題解決のためのプロジェクト. 2回はこだて学生政策アイデアコンテスト」. (処方箋)を試行(治療)しながら、住民たちを. で優秀作品アイデア賞を受賞した。. 主体とした地域互助体制の強化に向けた動 きにつながっているかどうかを評価する取 り組みを行った。昨年度と同じく6回開催し、. が出てきたことは喜ばしいことである。これ. 中高生も含めて264名の参加者を得た。この. も、江差町の町民の方々の温かいご支援とご協. 取り組みは、改正介護保険法の施行(平成27. 力があってのことである。来年度も、江差町の. 年4月)以降、地域支援体制整備を進めている. 方々と共に歩みを進めていきたい。. 道や道内自治体、社会福祉協議会からも注目 されるようになってきている。 5.えさし研修 地域創生人材の育成を目標とした研修事 業。今年度も学生1名(2年生)が研修に参加し ている。昨年度は夏期に4週間江差町に滞在 して集中的に研修を行う形だったが、今年 は、参加学生が授業の合間を見て江差へ行 く、いわゆる「通い型」の研修ということもあ り、平成29年8月から平成30年3月までの8か 月間にわたる長期研修となっている。受け入 れ先を江差追分会事務局とし、 「 誰もが親し みやすい『江差追分』を目指して」というテー マで調査・研究を行っている。研修の成果は、 来年度初頭に報告会を行うことで町民と共 有される予定である。. 12. 江差ソーシャルクリニックの活動に広がり. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(19) ■江差ソーシャルクリニックの活動. エエまちづくり∼江差町を知る∼ 北海道教育大学函館校 准教授 古. 1.江差町へようこそ!. 地 順 一 郎. の案内に従って、いにしえ街道やかもめ島を. 「エエまちづくり」は体験学習型プログラ. 散策したり、江差追分のミニレッスン、 「百印. ムで、北海道教育大学函館校の学生(あるい. 百詩」の逸話 ※1にちなんだハンコづくりをし. は教職員)に、ソーシャルクリニックの活動. たりしながら、江差の歴史や地域課題につい. 地域の一つである江差町を知ってもらうこ. ての知識を深めた。. とを第一義的な目的としている。函館校の学. 第2回は、8月9日(水)∼8月12日(土)にか. 生の多くは道南地域以外の出身者であり、江. けて「江差町姥神大神宮渡御祭参加体験」と. 差町のことを知らない学生も多い。 「 地域に. して実施し、学生18名と教員2名が参加し. 役立つ人材になるためのスキルを身につけ. た。昨年度同様、男子学生は姥神大神宮の渡. たい」という学生に対して、彼(女)らが活躍. 御行列に、女子学生は本町清正山の山車に参. できる江差町という絶好のフィールドがあ. 加し町内を練り歩いた。. ることを示すことを狙っている。 また、参加する教職員にとっては、学生の. 2.学生主体の運営. 学びの場に対する理解を深める機会になる. 今年度の「エエまちづくり」の特徴は、第1・. だけでなく、とりわけ教員にとっては、江差. 2回ともに学生が主体的に運営に関わったこ. 町を新たな研究のフィールドとして考える. とである。学生が主体的に関わるというアイ. きっかけともなる。. デアは、教員が主導的な役割を果たしたこと. ソーシャルクリニックは、地域との協働を. によって学生が「お客さん」になってしまっ. 通じて、地域課題の診断、課題解決策の立案. たという昨年度の反省から生まれたもので. (処方箋)、課題解決策の実施(治療)という一. ある。. 連のプロセスを想定しているが、 「 エエまち. まちあるきツアーでは、本校の観光学研究. づくり」は、このプロセスを動かすための準. 室に所属する学生が中心となり、江差町のD. 備段階ととらえている。江差町のことに関心. MO推進員の方々とともにツアー内容を企. を持ち、江差ソーシャルクリニックの事業に. 画した。その結果、体験型のツアーが実現し、. 参加してくれる学生や教員がいないことに. 参加者にとっては、昨年度以上に深い学びの. は、ソーシャルクリニック自体を動かすこと. 機会となった。. ができないからである。. 姥神大神宮渡御祭参加体験では、昨年度参. 今年度は、昨年度と同じく2回実施するこ. 加した学生が中心となって学生実行委員会. とができた。第1回は、5月13日(土)に「江差. が組織された。昨年度の参加者アンケートで. 町まちあるきツアー」として実施した。学生. は、より実りある参加を実現するため、祭り. 27名と教員2名が参加し、町関係者やガイド. に関する事前学習を求める声が上がった。ま HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 13.
(20) ■江差ソーシャルクリニックの活動. た、祭り期間中の学生の動きや、宿舎、食事、. い。渡御祭への参加が体験型学習であること. 費用などに関する事前の情報が少なかった. を考えると、この結果は想定の範囲内と言え. ことも課題として挙げられていた。実行委員. よう。. 解決することを目指し、町職員や本町清正山 の幹部と話し合いを続けた。このプロセスを 通じ、渡御祭に関わるさまざまな習慣や決ま りごとを事前に学ぶことができた。また、学 生が抱いていた懸念についても一つずつ解 消されていった。その結果、参加者アンケー. 伸ばすことができたと学生が考える力. 会では、これらの課題を学生が中心となって. 図1 江差町姥神大神宮渡御祭の教育効果 地域分析力 課題解決力 ネットワーク構築力 リーダーシップ力. コミュニケーション力 地域観察力 0 1 2 3 4 5 6 回答数(回答総数:13). ト(18名中13名が回答、回答率72%)では、参 加体験に対する満足度が84.7%(大変満足:. 4.授業への発展. 38.5%、満足:46.2%)と、昨年度の80%(大変. 「ええまちづくり」で実施した二つのコン. 満足:30%、満足:50%)に比べて4.7%上昇. テンツは、 来年度から 「ソーシャルクリニック. した。また、渡御祭に2回以上参加した学生に. と地域」という名前で授業化される予定であ. 対して参加環境の改善について聞いたとこ. る。この授業は、函館校が新たに立ち上げる. ろ、87.5%の学生が改善したと答えた(回答. 「HAKODATEコンシェルジュ養成プログラ. 数8名)。アンケートの結果は、自分たちで参. ム」 の一科目と位置付けられている。 同プログ. 加環境の改善を図って行こうとした学生の主. ラムは、 「広義の観光や教育に主に関わる領域. 体性が良い形で表れたものと言えるだろう。. において、地域の潜在的な魅力に関する深い 知識や探究能力、地域ネットワーク等を基盤. 3.教育的効果 今年度の渡御祭参加者アンケートでは、渡. 事情に対する深い理解と的確な情報発信能. 御祭に参加することがどのような教育的効. 力を備え、地域の魅力をめぐる多様なニーズ. 果を学生にもたらしているかに関する予備. にきめ細やかに応えることのできる人材」 (平. 的知見を得るため、学生自身に6つの選択肢. 成30年度版学生便覧)を養成する函館校独自. から複数回答可として選んでもらった。その. のプログラムである。 「ソーシャルクリニック. 結果が図1の通りである。. と地域」は1年次から開講される入門科目で. 回答総数が13とサンプルとしては少ない. あり、コンシェルジュ養成に向けた入口とし. ことに留意する必要があるが、姥神大神宮渡. て重要な役割を果たすと考えられる。授業化. 御祭への参加によって、地域観察力とコミュ. によって、江差町に関心を持つ学生が増える. ニケーション力を伸ばすことができたと考. よう更なる工夫をしていきたい。. えていることが分かる。一方で、地域分析力 や課題解決力については、渡御祭への参加を 通じて身についたと考えている学生は少な. 14. として、それらを必要とする顧客それぞれの. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. ※1.1846年10月に江差で開催された詩会において、わずか1日の間に、頼 三樹三郎 ( らいみきさぶろう ) が百詩詠み、松浦武四郎が詩題に合わせ て百の印を彫ったというエピソード。.
(21) ■江差ソーシャルクリニックの活動. まちあるきツアーでガイドの説明を受ける学生たち. 江差町姥神大神宮渡御祭参加体験で 神輿を担ぐ学生たち. まちあるきツアーでハンコ作りをする学生たち. 江差町姥神大神宮渡御祭参加体験で 本町清正山の若狭頭取と記念撮影する学生たち. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 15.
(22) ■江差ソーシャルクリニックの活動. 観光まちづくりとDMO 北海道教育大学函館校 准教授 池. ①江差町観光まちづくりの現状. ノ 上 真 一. :コンテンツを利用し 戦略Ⅱ「江差を発信する」 た集客を促進するPR活動. 江差町では地方創生事業「江差町まち・ひと・ しごと創生総合戦略」 ( 平成28年3月)を受け. :地域動線の形成と広域連 戦略Ⅲ「江差に誘う」. て、平成28年度に観光まちづくり戦略である. 携の推進による観光誘客の増加. “古くて新しいまち江差”観光戦略書を策定し. :観光客の長期滞在化の促進 戦略Ⅳ「江差で憩う」. た。そこでは、観光を活用し、江差町におけるヒ. :KPIとPDCAによる 戦略Ⅴ「江差を経営する」. ト・モノ・カネ・情報の持続可能な地域エコシス. マネジメントとDMO推進. テムを構築することを目標としている。そのた めに観光まちづくり政策として具体的に取り. それを受けて平成29年度には、戦略実行のた. 組みを展開するために必要な方向性と戦略を. めの具体的なアクションプランの策定と施策. 定めたものである。主な戦略として以下のとお. の展開が行われた。そこでとくに謳われたの. りである(図1参照)。. が、新たな地域構造の基盤となるDMOの立ち 上げ、江差町に豊富に眠る地域資源の再評価と. :地域資源の掘り起こし・ 戦略Ⅰ「江差を磨く」. 活用にむけた取り組み、その地域資源と地域住. 磨き上げ・保全. 民の関係の再構築、当該政策の進捗管理や適切. 江差町. 戦略Ⅰ 「江差を磨く」. 既存の観光事業者. 行政. 観光協会 土産店 飲食店. 地域資源の掘り起こし・ 磨き上げ・そして保全. 交通 事業者 連携・協力. 戦略Ⅴ「江差を経営する」 KPIとPDCAサイクルによる マネジメントとDMO推進. 旅館 ホテル. 人材育成. 新たな観光サービス提供者. 観光施設 戦略Ⅳ 「江差で憩う」. 大学. 江差町観光の あるべき姿. 江差版 DMO. 観光客の 長期滞在化促進. 連携・協力. コンテンツを利用した集客を 促進するPR活動. イベント ツアー等 運営・企画. 消費者 ブランド 認証. 環境保全. 商店街 商工会. 戦略Ⅱ「江差を発信する」. マーケ ティング. 施設 運営・企画. 住民 農協 漁協. NPO その他. 観光戦略 PR戦略. 各種コン テンツ開発. 旅行会社. 商品造成 情報発信 DMS 集客・営業. 広域 観光. 近隣自治体 近隣DMO. 域 広 光 観. 戦略Ⅲ「江差に誘う」. 地域動線の形成と広域連携の 推進による観光誘客の増加. 図1 江差町観光まちづくりの戦略展開のイメージ図(出典: “古くて新しいまち江差”観光戦略書). 16. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(23) ■江差ソーシャルクリニックの活動. な政策立案のための指標開発である。 さらに関連した取り組みとして、江差町の文. との年度計画策定時や予算編成時、および日常 的なコミュニケーションを実施した。. 化財保護、および歴史文化を基盤としたまちづ. つぎに、観光まちづくりのアクションプラン. くりのマスタープランである歴史文化基本構. に関して、実践のための方策策定の支援に取り. 想の策定がある。これをスタートとして、昨年. 組んだ。SCによる診断プロセスにおける調査. 度末には文化庁へ「江差の五月は江戸にもない. 力や分析力、あるいは専門的知見を活用した支. −ニシンの繁栄が息づく町−」というストー. 援、さらには処方プロセスにおける専門的知見. リーで日本遺産への申請を行い、今年度4月に. を活用した支援である。具体的には後述する藤. は認定を受けた。さらに、市民による主体的な. 井麻由先生や三上先生、村田先生らの取り組み. 文化財の保護や活用を取り組む「江差宝箱会. が該当する。. 議」が立ち上げられた。今後は、都市計画と連動. また、大学の機動力や地域社会への浸透力を. した空間的な歴史文化環境の保全と活用のた. 活かした連続的な取り組みの展開も見られた。. めの整備などが予定されている。また、 「日本で. これは有識者であり第三者としての教員、およ. 最も美しい村」連合へ加盟しており、当該ブラ. び次世代としての学生が意欲的に地域での取. ンドやネットワークを活用した取り組みが期. り組みを行ったときに、診断プロセスに留まら. 待されている。. ず「処方」 ・ 「解決」へ無理なく展開していったと 考えられる。もちろん少なからず、教員や地域. ②多様な本学の関わり. の関係者側には、当初からそのような展開を期. ○「診断」と、 「処方」 ・ 「解決」への展開. 待して仕掛けたのである。それは、理屈上で解. ①で述べた江差町における取り組みは、人口. 決策の構想は策定できた場合でも、なかなかブ. 減少をはじめ衰退が止まらない江差町にとっ. レイクスルーが難しいことがあるためである。. て、地域再生のために行われた町を挙げた施策. 大学というセクターは、公共性が求められる行. である。そのため、連携協定を結んだ本学とし. 政でなく、また経済的な効果やリスクへの考慮. ても江差SCをとおし多様な局面で参画、支援. が必要な民間事業者でもなく、いわば第三者的. に取り組んでいる。. な特性を活用して、緩やかな活動の立ち上げが. そのひとつとして、前年度から続く信頼やコ. 出来ることや、専門家である教員や学生のマン. ミュニケーション手段の構築などといった関. パワーを活かして展開力の発揮が期待されて. 係構築の取り組みを行った。これは、SCとして. いるからである。具体的には、後述される古地. 診断プロセスを実施するためには、形式的な関. 先生の取り組みが該当する。. 係では得がたい情報収集や忌憚のない意見交 換が必須であると考え、最も重要と位置づけて. そして、具体の政策に沿った協働、支援の取 り組みとして、以下の4つの取り組みがある。. いる。具体的には、古地先生、池ノ上をはじめと した関係する教職員による江差町役場の町長、. ○新たな地域構造の基盤となるDMOの立ち上. あるいは首長部局としてのまちづくり推進課. げ支援. や関係部局としての追分観光課、社会教育課等. これに関しては、池ノ上とそのゼミに所属す HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 17.
(24) ■江差ソーシャルクリニックの活動. る学生を中心に、具体の方策を策定するための. 多くの人々が再評価する機会を創出したもの. 事業へのアドバイス、それを策定するプロセス. といえる。. における江差町観光まちづくり協議会へのア. つぎに村田敦郎先生は、宗教学の観点から八. ドバイザー、および当該協議会や日本遺産活用. 大龍王神八江聖団に関する研究活動について. に関するワークショップの企画、コーディネー. 取り組んだ。これは、信仰を切り口とした江差. トなどを行った。さらにDMO立ち上げに向け. という地域社会の特性把握に繋がる取り組み. て、江差町で雇用されている地域おこし協力隊. といえる。. やDMO推進員の育成を行った。これは、前述の. そして前述した診断プロセスから処方や解. 江差町の観光まちづくり戦略書にも、 「 北海道. 決のプロセスへの連続的な取り組みとして期. 教育大学等の知見を活用した知識の習得と実. 待されるのが、古地順一郎先生とゼミに所属す. 践経験の体得による人材育成及び組織体制の. る学生らが取り組む法華寺通り商店街での活. 整備を推進していく。」と記載されていること. 動がある。詳細は後述するが、江差町内でも顕. に基づく取り組みである。. 著な課題を抱える地区での模索として捉えら れよう。. ○地域資源の再評価と活用にむけた取り組み これについては、本学の多彩な専門性を活か し、複数の教員や学生がいろいろな観点から取 り組みを展開した。 まずは共同研究であるフェノロジーカレン. 18. ○地域資源と地域住民の関係の再構築 つぎに、地域づくりにおいて地域資源をいか に現代のまちづくりに繋げるかという命題に 対し、地域資源と地域住民の関係の再構築が重. ダー(開花ごよみを発想のもとにした地域ごよ. 要となる。それを目的とした取り組みとして、. み)作成が挙げられる。これは、 「 江差の町ごよ. 江差町の日本遺産事業である「にしんのぼり」. み」作成事業をとおし、江差町の港町として形. 制作事業があり、子どもや地域を巻き込んだ美. 成された市街地地域を対象に、自然・生態系と. 術教育の実践者でもある橋本忠和先生にアド. 人の暮らしとを一体として捉えることで、江差. バイザーとして、企画やアドバイスを提供して. の総体的かつ明確に特徴を捉える取り組みで. 頂いた。これは、創造活動による学びや楽しみ. ある。これには長谷昭先生(植物学)、三上修先. をとおした住民の遺産への再評価や活用に関. 生(生物学)、古地順一郎先生(社会科学)、池ノ. する意識の醸成に繋がったといえる。. 上(文化遺産、観光学)、および学生が参画し、江. また、歴史文化資源や遊休資源等の地域資源. 差町の宮原学芸員らとともに取り組みを展開. を活用し、シェアリングヘリテージの考え方を. した。. 取り入れた取り組みとしてエリアリノベー. また、三上先生については、後述するかもめ. ション事業支援の取り組みがある。今年度に関. に関する研究・教育活動に関する取り組みがあ. しては、今後の江差町でエリアリノベーション. る。これは、自然・生態系を切り口とした江差町. を展開していくためのアイデアづくりと、住民. の歴史文化を捉える新たな観点の提示であり、. 意識の醸成が目的であった。そこで池ノ上が企. 日本遺産認定を受けた江差町を、住民をはじめ. 画支援をし、いかにエリアリノベーションを江. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(25) ■江差ソーシャルクリニックの活動. 差町において展開することが出来るかについ. 可能性と課題を見ることができる。. て検討した。その方法とは、大学の教員や学生. 可能性については、本学の知的資源の活用に. らによる企画コンペを5日間の合宿形式で実施. 関すること、大学の第三者性あるいは地域社会. し、そこで出されたアイデアをもとに次年度事. への浸透性や立ち上げから展開への緩やかさ. 業へと繋げるというものであった。そのプロセ. などの独特な特性に関することがある。. スで住民を巻き込むことで、意識の醸成につい. まずは知的資源の活用については、専門家と. ても目論むものである。これについては、建築. しての本領発揮の機会として、誰にでも分かり. や町並みなどの空間デザインに関する教員や. やすい地域資源の再評価や地域ブランディン. 学生が本学には乏しいため、江差町に縁のある. グの支援、政策の進捗管理や適切な政策立案の. 北海道大学や東北芸術工科大学の教員や学生. ための指標開発が挙げられる。これらについて. に本学との共同で参加してもらった。このよう. は、処方や解決のプロセスに該当する取り組み. に、本学SCの取り組みがベースとなり、取り組. と言えることから、具体の成果として江差町に. みの性格に沿って、適切な専門家等をマッチン. とってどれだけ有意義なものが生み出せるか. グすることが出来るのも、学界とのネットワー. について期待したい。また、これらは複数の専. クをもつ大学の知的資源の活用といえる。当該. 門性にまたがる場合が多いため、適当な複数教. 取り組みはそのテストケースとして捉えるこ. 員の共同研究、共同事業として行うことで、自. とも出来よう。. らの専門領域の拡大や新たな専門領域の創造 などが生まれることも期待したい。. ○政策の進捗管理や適切な政策立案のための 指標開発. つぎに大学の特性に関することについては、 前述した多様な分野からの「診断」と、 「 処方」 ・. これについては、大学が地域と協働する上で期. 「解決」への展開、DMOの立ち上げにおける人. 待される重要な役割として、数値や論理性など. 材育成や住民意識の醸成に関する支援などが. を用いた状況把握や課題抽出、政策提言などが. 対象となる取り組みとして挙げられる。先に述. ある。江差町においても、科学的な政策策定や. べたとおり、大学の専門性、第三者性などが求. 効果測定等による進捗管理が求められている。. められる。さらに、学生の存在が象徴的である. そこで観光まちづくりの取り組みにおいては、. ように緩やかに関係構築できることや事業を. 藤井麻由先生を中心に観光地域経済調査の取. 展開できる特性を活かした取り組みを意図的. り組みを行った。詳細については後述する。今. に展開し、検証することで、地学協働の可能性. 年度は、次年度以降に本格的に調査および指標. を拡げることにつながると期待できる。例え. 開発を行うためのプレ調査の位置づけである。. ば、地域資源の活用にむけた多様な取り組みに 関しては、江差の地域特性を的確に捉えた創造. ③今後の可能性と課題. 性、トライアンドエラーの実践が期待できる。. ○今後の可能性. また、地域資源と地域住民の関係の再構築にお. 以上の今年度の取り組みは、江差町と本学と. いて、地域住民や民間事業者の新たな動きの喚. の協働という観点から振り返ると、いくつかの. 起をとおして展開する方法論の開発が重要と HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 19.
(26) ■江差ソーシャルクリニックの活動. 考えられる。これは従来の公共事業やビジネス. ことが大いに期待される。そのためにも、課題. において見られた計画書至上主義やマネ タ. への真摯な対処が重要と考える。. リー主義ではなく、社会やファンをいかに巻き 込み、思い入れや熱意という熱量と緩やかな関 係を適切にマネジメントすることが現代のま ちづくりでは求められているからである。 ○今後の課題 最後に課題としては、前述した可能性を追求 するためにも、大学側では共同研究の促進と学 内における地域協働への理解や支援の促進、地 域側ではコーディネーターと活動拠点の整備 が重要である。 まず共同研究の推進のためには、研究企画力 や学内外でのマッチング、資金調達などが課題 として挙げられよう。学内における地域協働へ の理解や支援の促進に関しては、大学運営部門 とのコミュニケーション方法の確立、教員間の 情報共有方法の確立、計画と実践の矛盾への対 応方策の開発などが挙げられる。地域は、多様 な人々や自然が限りない条件のもとで動き成 立している。当然、予期しない出来事は起こり えるため、その際の柔軟な対応や必要に応じた 緊急対処が重要となる。 また、コーディネーターと活動拠点の整備に ついては、前述の地域の不確定さへの対応もあ るが、むしろ専門性の発揮や適切な共同研究の 実施について期待したい。さらに学生らが気軽 に地域を訪れ、宿泊・滞在や作業の場として活 用できる施設が望まれる。 以上から、江差町での観光まちづくりの取り 組みについて、多様なアプローチによる展開 や、診断プロセスから次の段階への展開が実施 できていることから、研究・教育・地域貢献のあ らゆる視点から地学協働の可能性を追求する. 20. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(27) ■江差ソーシャルクリニックの活動. ・. ・. ・. ・. ・. ・. なにかもめかもめよう! 北海道教育大学函館校 准教授 三. 上. . 修. 私は鳥の研究者で、これまで地域の活性化と. 自分の研究室の学生なので贔屓目はあるが、そ. いうものに縁のない分野で研究をしてきた。そ. れを割り引いても、町民の方々には喜んでいた. れがひょんなことから江差のSC活動に関わる. だけたと思う。普段なんとなく「鴎」と思ってい. ことになった。自分の専門分野を江差の活性化. たものが、実は何種類かいて、種によって見た. に生かせないだろうかと、何度か江差に足を運. 目が違う、見られる季節が違う、声が違うとい. び、いたるところにある「鴎の鳴く音にふと目. うことに気づくのは楽しいことだと思う。さら. を覚ましあれが蝦夷の山かいな」という歌詞を. にそれが自分たちの文化と深くかかわってい. みて思いついた。 「 このカモメの種を特定しよ. るとすればなおさらだろう。. う」と。. この話には、さらに奥深さがある。江差追分. この歌詞は、江差で歌い継がれている民謡で. がなぜ生まれたのかを紐解けば、北前船の寄港. ある江差追分の一節である。江差を目指して船. 地であったためである。本州からの文化が流入. に乗って寝ていたところ、鴎の声で目を覚まし. し、それを醸造するだけの富があった。では、な. てみたら、北海道の山が見えている、という情. ぜ江差に北前船が来たかと言えば、ニシンの群. 景を唄ったものだ。カモメの仲間は、世界に約. 来があり、鴎島と海岸段丘により良港が形成さ. 40種、江差では8種が記録されている。しかし. れていたからだ。そう考えると、地形(鴎島、海. 当然ながら、この歌詞を作った人、あるいは. 岸段丘)があり、そこに生物(ニシンやカモメ). 唄っている人は、特定のカモメの種を想定して. がおり、その上に歴史的要素が積み重なって江. いたわけではないだろう。海でふわふわ飛んで. 差の文化が生まれたという構造になっている。. いる白い大型の鳥を漠然と捉えていただけと. これは江差の文化・歴史をみる1つの視点にな. 思われる。しかし、あえてその種を特定してみ. るのではないだろうか。. ようと考えた。みんなでこの鴎が「なにカモメ. 今回やったことは、SCとしては「地域の自然. か揉めよう!」というわけである。. と文化の価値が埋もれてしまっていた」という. 卒業研究として学生に提示したところ2人が. 課題があり、それに気づいてもらうための処方. 興味を持ってくれた。彼女らが主体となり、該. 箋を作り上げた段階といえる。今後はこれを処. 当する歌詞が、いつごろの時代、いつの季節、ど. 方し、多くの江差の方々に知っていただけたら. ういう状況で唄われたものなのか、さらに、江. と考えている。具体的には、小・中・高向けの教. 差の当時の情景を記した屏風や文献および現. 材開発を計画中である。. 在、江差で見られるカモメの情報から、種の推 定を行った。 江差町の協力もあり、2名の学生は、研究成果 を町民の方に向けて発表する機会に恵まれた。 HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 21.
(28) ■江差ソーシャルクリニックの活動. 江差町における観光の経済効果の指標 北海道教育大学函館校 講 師 藤. 1. 調査内容. 井. 麻. 由. 体の約80%)。. 本調査は、江差町における観光の経済効果. 今回作成した指標の限界として、その精度. を測定する指標について検討するものであ. が低いことが挙げられる。 「 観光地域経済調. る。今回は、既存のデータから、試行的に指標. 査」で情報を収集できた江差町の標本数は少. を作成した。. なく、調査の目標精度である観光売上推定誤. 観光の経済効果を測定する指標としては、. 差0.2以下を達成していない。また、指標の数. 域内経済循環の理論に基づき、江差町の観光. 値の背後にあるメカニズムについて理解す. 産業の観光売上高(域外からの資金流入を表. るためには、追加的な調査及び分析が必要と. す指標)と域内調達率(域内での資金循環を. なる。. 表す指標)の2つを使用する。この2つの指標 の値が大きければ大きいほど、観光の経済効. 2. 調査の意義. 果は大きいと考えられる。. 近年、江差町においても、観光振興による地. データソースとしては、平成24年「観光地. 域経済の活性化が試みられている。有効な振興. 域経済調査」 (観光庁)を使用する。 「観光地域. 策を考えるうえで、観光と地域経済の関係につ. 経済調査」は、観光産業の実態を把握するこ. いて定量的に把握することは、観光振興を進め. とを目的として、全国5,861観光地域に立地. るうえでの課題の発見と利害関係者間の合意. する観光産業事業所を対象に、事業所の経営. 形成に繋がる重要なステップとなる。しかし、. ※1 状況等に関する情報を収集した調査である。. 現在,こうした作業が十分になされているとは. 調査項目に観光産業事業所の観光売上高と. 言い難い。その要因の1つとして、観光産業の実. 域内調達率を含むため、今回の指標作成に適. 態を表す市町村レベルのデータが十分に整備・. した貴重なデータソースである。. 分析・共有されていないことが挙げられる。. 結果の概要は以下の通りである。江差町に おける観光産業は事業所数114、従業員数. 既存のデータを活用し、観光と地域経済の関係. 529の規模で,その年間観光売上高は約4.7億. を試行的に数値化したうえで、その課題をまと. 円と推定される。業種別の年間観光売上高は. めた。そして、そのことによって、今後、地域で. 「宿泊・飲食」が最も多く約2.2億円(全体の約. 必要なデータを収集するための基礎的資料を. 48%)を占めており、次いで「小売」の約1.6. 提示した。したがって、SCの主な機能で言う. 億、 「旅客輸送・旅行業等」の約0.8億円となっ. と、 「診断」に繋がる内容であったのではないか. ている。また、江差町における観光産業の域. と考える。. 内調達率は約14%に留まり、道内の他の市町 村からの仕入れが多いことが確認される(全. 22. このような現状を踏まえ,今回の調査では、. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus.
(29) ■江差ソーシャルクリニックの活動. 3. 今後の展望 今回整理した課題を踏まえて江差町独自の 調査を設計し、収集したデータに基づいて、当 該地域における観光と地域経済の関係を継続 的に数値で把握していくことが必要であると 考える。その際、江差町にとって意味のある情 報とは何かを改めて考え、それを収集できる調 査内容にするのは勿論のことだが、数字が独り 歩きしてしまわないよう、指標の作成プロセス と調査の精度を公開することが重要である。作 成プロセスや精度がブラックボックス化して いない、誰にでも分かりやすい指標の作成によ り、地域のことを客観的に捉え、その地域のた めに行動するきっかけ作りを行っていきたい と考えている。 ※1.「観光地域」や「観光産業」の定義も含め、平成 24 年「観光地域経済調査」 (観光庁)の詳細については、観光庁 (2015)「平成 24 年観光地域経 済調査(確報)結果の概要」を参照。. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 23.
(30) ■江差ソーシャルクリニックの活動. 江差町における祭のフィールドワーク報告 北海道教育大学函館校 准教授 村. 田. 敦. 郎. 筆者は江差町にある八大龍王神八江聖団が. た後、小樽太鼓の演奏を経て出御となり、多数. とりおこなう宵宮祭並遷霊祭(平成29年8月8. の御神輿が江差町内を夜の9時過ぎまで練り歩. 日)、ならびに本宮夏季例大祭御神輿渡御祭(同. くことになる。. 年8月9日)のフィールドワークを行った。八大. 本祭の特徴は第一に規模の大きさにある。子. 龍王神八江聖団とは、江差町出身の教祖・出村. ども神輿や女神輿、男神輿が総勢12基存在す. 龍聖(1926−1989)が開いた神道系の新宗教. る。ひとつの祭にこれほど多数の神輿が渡る祭. であり、本宮は江差町南ヶ丘にある。神道系と. は、全国的にもなかなかみることはできない。. いっても仏教や修験道、先祖崇拝の要素も含む. 第二に、祭の様式の美しさである。出御、渡御、. 複合的な宗教であり、彼ら自身は独自の創造. 還御、どの場面をみても、古式ゆかしい「日本の. 神・八大龍王神を奉じている。 「 人生は祭りな. 伝統美」にあふれている。新宗教だからといっ. り、生活は祝なり」の教えのもと、宗教活動を. て奇を衒った部分はなく、むしろ日本の神輿渡. 行っている宗教団体である。. 御の粋を集めたような構成になっている。御神. ここでは渡御祭の概要とその特徴を簡単に. 輿の差し上げや町内での練回しなど、日本の祭. 述べる。教祖や現総裁が江差町出身であるため. の見所を凝縮した見事な演出が随所にみられ. か、教団は地元とも親和的であり、江差町民と. る。第三の特徴に御神輿を担ぐ構成員の数と勢. 交流をもちながら祭は運営されている。それ. いである。一般的に日本各地の祭では、神輿の. は、8月9日午後3時の出御前に、翌日に姥神大. 担ぎ手の確保に頭を痛めているが、本祭におい. 神宮渡御祭を控えた誉山、聖武山、政宗山、源氏. ては教団の崇敬者をはじめとして、北海道にあ. 山の山車(やま)が本宮前に集合して祝い歌を披. る複数の大学体育会剣道部が毎年一定数参加. 露し、教団から樽酒が各町に対して奉納されて. している。若者の参加者が多いため、最初から. いたことからもみてとれる。各町の寿ぎを受け. 最後まで御神輿を担ぐ勢いが衰えず、先述した 御 神 輿 の 差 し 上 げ や 練 回 し は 非 常 に 勇壮 で あった。御神輿の威勢が良いのは当たり前の光 景に思えるかもしれない。しかし担ぎ手の確保 が難しい地域や高齢者が多くなった地域が多 い昨今、元気あふれる渡御をみることは稀に なっているのが日本各地の現状である。また総 裁を中心とした教団関係者が御神輿の脇を固 めており、無礼講になりがちな祭集団がここで は非常に規律立っているのも、実は珍しい。. 平成29年度の御神輿渡御祭. 24. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. オーソドックスでありながら、近年みることが.
(31) ■江差ソーシャルクリニックの活動. 稀な祭の光景。これらが本祭のユニークさと いってよいだろう。 筆者は来年の例大祭において、研究室の学生 を引率してフィールドワークを行う予定であ る。今回の予備調査により、来年の調査のテー マは「神輿渡御祭の歴史と変容」 「 地域社会と 祭」 「本祭の概要の記録」を考えている。 末筆になるが、今回の調査を受け入れ協力し ていただいた教団関係者の皆様、信者の方々、 地域の方々に満腔の謝意を表したい。. HOKKAIDO UNIVERSITY OF EDUCATION. HAKODATE Campus. 25.
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