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量子 ホール 系の電子 温度分 布の熱流体力学的研究

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Academic year: 2021

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(1)

     博 士 f ( 工 学 ) 伊 勢 珠 樹 学 位 論 文 題 名

量子ホール系の電子温度分布の熱流体力学的研究 学位論文内容の要旨

  近年、量子ホール系における実験においてサイクロトロン発光現象を利用した温度の空間分布 の精密測定技術が確立し、温度が関与する現象の実験的研究が急速に進展している。電流が流れ ている量子ホール系では多くの場合、格子系の温度(格子温度)とは異なる電子のエネルギー分 布を決定する電子温度という概念が重要な役割を果たしていると考えられている。この電子温度 が関係していると考えられている現象には、量子ホール効果の破壊現象やサイクロ卜ロン発光の 空間分布、ホッ卜スポットでの発熱現象などが挙げられる。これらの実験で報告される内容は多 様化してきているが、量子ホール系において電子温度やその空間分布を考慮した理論的研究は極 めて少なく、数々の現象に対して理論計算および考察が無いままである。そのーっであるホッ卜 スポッ卜での発熱現象では、メカニズムとして「電場の集中している二次元電子系の角でのジュー ル発熱である」「電極から二次元電子系に電子が注入される際のトンネル遷移により非平衡電子が 存在するようになり、電子温度が上昇している」など、幾っかの説がある。しかし、いずれも定性 的モデルとして提案されているに留まり、理論的計算でその根拠が示された例は無い。本研究で は熱流体力学的アプローチによる数値計算および理論的考察を行い、量子ホール系における電気 化学ポテンシヤルと電子温度の空間分布を明らかにし、特にホッ卜スポットの特性にっいて新た な知見を得た。

  以下に本研究での成果を示す。

(1)ホッ卜スポットとは電極と2次元電子系の境界での一方の角を指しており、ホッ卜スポッ     トでは 電子温度が上昇することが大電流領域での実験で確かめられている。このホットス     ポッ卜 での電子 温度上 昇のメカ ニズム を理論的 に議論 するため には電極 と接続 した2次     元電子 系を扱う 必要が ある。そ こで、電極と2次元電子系を接続したモデルを提案した。

    電極に は電子浴・熱浴の役割を持たせ、電極が接続されている境界で電気化学ポテンシャ     ルと電 子温度が一定であるとした。また、電極は電子浴なので二次元電子孫に比べて電子     の拡散 係数は非常に大きい。ここでは、電極と二次元電子系の拡散係数が連続的に接続す     るモデルを提案した。

(2)量子 ホール系 の電子 温度と電 気化学 ポテンシ ャルの空 間変動を決定する流体力学方程式     は、空 間2次 元.2変数.2階・ 非線形 ・連立微 分方程 式である 。そこで 、有限 要素法と     繰り返 し計算を組み合わせた数値計算手法により、量子ホール系での流体力学方程式を解     く方法を確立した。

(3)流 体 力 学 方 程 式 を 解 い て 得 た 結 果 か ら 以 下 の 3点 の 新 知 見 を 得 た 。     ―988−

(2)

    i.)電極に接続された二次元電子系での電気化学ポテンシャルの空間分布は、実験で知ら     れ てい るよ うに 、電 極近 傍で 急峻な変動をしー方の角 に電場が集中することが明らか     になった。一方、電子 温度の空間分布は、電場が集中している領域(ホットスポット)

    に 電子 温度 のピ ーク やデ ィッ プが生じることが明らか となった。また、電子温度の変     動 の 振 る 舞 い は 二 箇 所 の ホ ッ ト ス ポ ッ ト に お い て 異 なる こと が明 らか とな った 。     ii.)ホッ卜スポットで の電子温度の変動は電流の大きさによってその振る舞いが異なる     こ とを 明ら かに した 。電 子温 度が電流に対して一次の 依存性を示す線形電流領域と、

    電 子温 度が 電流 の2次 以上 の効 果を 示す 非線 形電 流領 域に 分けて考える。線形電流領     域 にお いて 二箇 所の ホッ トス ポッ卜の電子温度は一方 で高く他方で低くなり、その分     布 は試 料中 心に 対し て反 対称 となることが明らかにな った。この電子温度分布は、熱     流 を考 慮し 一方 のホ ッ卜 スポ ッ卜から出た熱が他方の ホッ卜スポッ卜に流れ込むこと     で 電子 温度 が変 動す ると いう メカニズムで理解できる ことを示した。非線形電流領域     で は、 電流 の増 加に 伴い ホッ 卜スポットでの電子温度 の上昇が顕著になることが明ら     か とな った 。こ の非 線形 電流 領域での電子温度の上昇 に大きく寄与しているのは、電     流の二次の効果である ジュール発熱であると考えられる。

    iii.)量子ホール系ではランダウ準位が形成されているため、ホットスポットでの電子温度     は 化学 ポテ ンシ ャル に強 く依 存する。二次元電子系に 流れる電流を固定して化学ポテ     ン シャ ルを 変え ると 、ホ ッ卜 スポットでの電子温度は 化学ポテンシャルの関数として     振 動( 量子 振動 )す るこ とが 明らかとなった。線形電 流領域では、二箇所のホットス     ポ ット での 電子 温度 の格 子温 度からの差が異なる符号 をとる。一方、非線形電流領域     で の電 子温 度の 量子 振動 には 、電流を増加させるに伴 って高周波数成分が混ざり、振     動のパターンが複雑に なることも明らかとなった。

(4)本研究で用いた電子遷移過程にはトンネル遷移を考慮していないが、ホットスポットで電     子温度の変動が生じることが明らかとなった。ホッ卜スポットでの電子温度の変動を生じ     させるメカニズムとして、線形電流領域では熱流が支配的であり、非線形電流領域でもジ     ユ ー ル 発 熱 に 加 え て 熱 流 が 関 与 す る こ と を は じ め て 突 き 止 め た 。

989

(3)

学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 助教授

明楽 田村 矢久保

学 位 論 文 題 名

浩史 信一朗 考介

量子 ホール 系の電子 温度分 布の熱流体力学的研究

  近 年 、 走 査 ト ン ネ ル 顕 微 鏡 に 代 表 さ れ る 先 端 測 定 技 術 に よ っ て 高 い 分 解 能 で 構 造 と 物 性 の 空 間 分 解 測 定 が 可 能 に な っ た 。 本 研 究 の 対 象 で あ る 量 子 ホ ー ル 系 は 半 導 体 ヘ テ ロ 構 造 に 形 成 さ れ る2次 元 電 子 系 に 強 い 磁 場 を 加 え た 系 で あ り 、 そ の2次 元 的 拡 が り の た め 走 査 型 プ ロ ー ブ が 真 価 を 発 揮 す る 系 で あ る 。 実 際 こ れ ま で に こ の 系 に お い て 静 電 ポ テ ン シ ャ ル の 空 間 分 解 測 定 が 盛 ん に な さ れ て き た 。

  最 近 の 新 し い 進 展 と し て 、 サ イ ク ロ ト ロ ン 発 光 現 象 を 利 用 し て 電 子 温 度 の 空 間 分 解 測 定 が 可 能 に を り 電 子 温 度 が 関 与 す る 現 象 の 実 験 的 研 究 が 急 速 に 進 ん だ こ と が 挙 げ ら れ る 。 電 流 が 流 れ て い る 導 体 で は 、 電 流 に よ り 励 起 さ れ た 電 子 の エ ネ ル ギ ー 分 布 を 記 述 す る 物 理 量と し て 電子 温 度 が導 入 さ れ、 格 子 系 の温 度 ( 格 子 温 度 ) と 区 別 さ れ て い る 。 量 子 ホ ー ル 系 に お い て こ の 電 子 温 度 が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 現 象 と し て 、 量 子 ホ ー ル 効 果 の 破 壊 現 象 や ホ ッ ト ス ポ ッ ト で の 発 熱 現 象 が 知 ら れ て い る 。 す で に こ れ ま で の 実 験 に よ っ て 量 子 ホ ー ル 系 の 熱 輸 送 現 象 の 多 彩 な 側 面 が 明 ら か と な っ た が 、 理 論 的 研 究 は 少 な く 電 子 温 度 の 空 間 分 布 を 実 際 の 系 に お い て 数 値 的 に 計 算 し た 例 は ほ と ん ど な い 。   本 論 文 で は 、 熱 流 体 力 学 的 ア プ ロ ー チ に よ る 数 値 計 算 に よ り く 量 子 ホ ー ル 系 と 電 極 と の 接 合 部 に お け る 電 子 温 度 と 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ル の 空 間 分 布 を 初 め て 計 算 し 、 さ ら に 、 接 合 部 に 現 れ る 電 子 温 度 の 空 間 変 動 の メカ ニ ズ ムjこ っ い て 理 論 的 に 考 察 し た 研 究 の 成 果 に つ い て 述 べ ら れ て い る 。 以 下 に 本 論 文 で 述 べ ら れ て い る 研 究 成 果 を 要 約 す る 。

(1) ま ず 、 量 子 ホ ー ル 系 と 電 極 と の 接 合 に 関 す る 理 論 モ デル を 提 案 して い る 。 ま た 、 こ の 量 子 ホ ー ル 系 に お け る 電 子 温 度 と 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ル の 空 間 変 動 を 決 定 す る 流 体 力 学 方 程 式 は 非 線 形 連 立2階 微 分 方 程 式 で あ る の で 、 有 限 要 素 法 と 繰 り 返 し 計 算 を 組 み 合 わ せ た 数 値 計 算 手 法 を 開 発 し 、 量 子 ホ ー ル 系 に お け る 流 体 力 学 方 程 式 の 解 法 を 確 立 し て い る 。

    ―990―

(4)

(2 )電子温度と電気化学ポテンシャルの空間分布を数値的に計算することに より、量子ホール系と 2 つの電極との接合部のそれぞれにおいて電場が集中し ている箇所(ホットスポット)が現れ、そこで電子温度のピークやディップが 生じることを明らかにしている。

(3 )ホットスポットでの電子温度の空間変動は電流の大きさによって異なる。

電子温度が電流に対して一次の依存性を示す線形電流領域では、2 箇所のホッ トスポットの電子温度は一方で高く他方で低くなり、その分布は試料中心に対 して反対称となることを明らかにしている。この線形電流領域での電子温度の 空間変動は、熱流の発散によるものであると議論している。電子温度が電流の 2 次以上の効果を示す非線形電流領域では、両方のホットスポットにおいて、

電流の増加に伴い電子温度の上昇が顕著になることを明らかにしている。この 非線形電流領域での電子温度の上昇に主に寄与しているのは、電流の二次の効 果であるジュール発熱であるが、この非線形電流領域においても熱流が重要な 役割を果たしていると議論している。

(4 )量子ホール系ではランダウ準位が形成されているため、ホットスポット での電子温度は化学ポテンシャルに強く依存し、化学ポテンシャルの関数とし て振動する(量子振動)。線形電流領域では、電子温度の格子温度からの差が 2 箇所のホットスポットで異なる符号をとり、その符号が量子振動することを 明らかにしている。一方、非線形電流領域での電子温度の量子振動には、高周 波数成分が混ざり、振動のパターンが複雑になることを明らかにしている。

   これを要するに、著者は、量子ホール系における電子温度の空間分布を計算

し、電子温度の空間変動について新しいメカニズムを提案した。本研究によっ

て得た知見は物性物理工学、量子物理工学の発展に寄与するところ大なるもの

がある。よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格ある

ものと認める。

参照

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