博 士 ( 法 学 ) 中 島 広 樹
学 位 論 文 題 名
累 犯 加 重 規 定 解 釈 の 一 試 論 〜 責任 主 義 の 観点 か ら 〜
学 位 論文 内 容 の 要旨
くりかえし公共の秩序に違反する者が、一度しか罪を犯さない者よりも一層重い刑罰に 値するという観念は、古代以来民衆の正義感情に合致するきわめて自然なものであった。
しかし、この累犯加重の概念は、現代刑法の大原則である責任主義に反すると、しばし ば主張されてきた。そして、このことはわが国の累犯規定に関してもあてはまることなの である。わが国には、刑法典第10章といわゆる盗犯防止法3条に累犯加重規定が存在する が、本研究は、これら二個の累犯規定を考察の対象としながら、わが国と同様に責任主義 との適合性にっき、かなり詳細な議論が展開されたドイツとの比較法的な観点から、責任 主義に合致する累犯規定の解釈論を探究したものである。
具体的にその要旨を概説すると、以下の通りである。
序章では、まず本稿の考察対象を上述の二個の累犯規定に限定し、考察の視点を責任主 義にかかわる二種類の概念(「警告理論」と「軽微累犯の責任相応刑」)に求めることを 明らかにした。そして、本稿が前提とする「責任主義」および「常習性Jの意義にっいて 確認した上で、問題の所在を累犯規定ごとに明示している。すなわち、刑法の累犯規定に っいては、(1)それが責任主義に合致するか、(2)規定それ自体、責任主義に適合しなく とも、運用次第で責任主義との調和が可能か、という二点であり、盗犯法3条の累犯規定 に関しては、上記の論点(1)の他、(3)刑の下限が固定された常習累犯強窃盗の不法内容 お よ び(4)そ の 具 体 的 な 適 用 例 の 内 容 が そ れ ぞ れ 問 題 と な る の で あ る 。 次に第1章では、わが国の累犯規定の立法作業の歴史が顧みられ、その結果わが国の累 犯加重規定は、累犯対策という予防目的が意図的に盛り込まれたもので、それゆえ責任主 義 に よ る 自 覚 的 な 制 約 を 要 す る 、 と い う 点 が ま ず 確 認 さ れ る 。(1章1節 ) そして他方、学説・判例が、これらの累犯規定をどのように根拠づけているのか、換言
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すると、責任の 見地から累犯加重を根拠づけているのかどうかが検討されなければならな かった。その結 果、学説・判例は累犯加重の根拠に関し、当初「累犯者の危険性」を強調 していたが、や がて「前刑の警告無視」に結び付けた行為責任の増大を併せて主張するよ うになった、と いうことを認識した。
ただ、盗犯法3条の常習累犯強窃盗罪にっ いては、一般に累犯ではなく常習犯の一種と して理解されて いるが、このような解釈は必ずしも累犯加重と常習犯加重との法的性格を 十 分に 検討 した うえ で行 われているものではない、とい う事が確認された。(1章2節)
かように、判 例・学説では、いちおう「前刑の警告無視に基づく行為責任の増加」とい う理論(いわゆ る警告理論)によって、累犯加重が根拠づけられ、その限りで累犯加重は 責任主義に合致 しているかのような外観を呈してはいるが、にもかかわらず学説には未だ に 「 累 犯 加 重 は 責 任 主 義 に 反 す る 」 と い う 批 判 が 根 強 く 存 在 し て い る 。 そし て、 その よう な批 判はほば8種類に分類される。すなわち、(1)責任相応刑に関す る批判、(2)責任増加の一律性に関する批判 、(3)警告無視の根拠づけに 関する批判、(4
) 刑の 有効 性に 関す る批 判、(5)期待可能性の観点からの批判、(6)行為責任の意義の観 点 か ら の 批 判 、(7)二 重 の 帰 責 に 関 す る 批 判 、(8)刑罰 の倍 加に 関す る批 判で ある 。 これらは、す べて「責任主義」の名のもとに行われている批判である が、(1)は前述し た「軽微累犯に 対する責任相応刑Jに関係しており、(2)〜(7)は「警告理論」にむすび っくものである 。これらの諸批判をかわすための、様々な工夫を施して登場したのがドイ ツ刑法48条の累 犯加重規定であったが、この規定の解釈・適用をめぐる議論は累犯加重と 責任主義の適合 性の限界を突き止める上で、極めて示唆に富むと解されることから、48条 に関する立法・ 判例・学説を第2章で考察す る。(1章3節)
ドイツでは、 戦後、一般的累犯加重規定の刑法への導入が決定され、その際累犯加重と 行為責任との一 致を大原貝uとしたうえで、警告理論に基づく高められた行為責任と特別予 防 目 的 と い う ニ っ の 視 点 か ら 根 拠 づ け ら れ る 刑 法48条 が 制 定 さ れ た 。 (2章1節 ) しかし、ドイ ツでもかねてからわが国と同様の批判が累犯加重に関して行われていた。
(2章2節) 他方 、48条は そのような批判をふまえて「非 難性条項」および「本来的な軽 徹犯罪に対する 加重刑排除規定」を備えていた。
前者は「警告 理論」、後者は「軽微累犯の責任相応刑」の批判にそれぞれ対応するもの であった、とい えよう。しかし、非難性条項によっても「警告理論」への批判は免れえな
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かった 。なぜなら、警告理論によれば累犯の重い刑罰に対応する「強められた反対動機」
の存在 を積極的に証明する必要があるはずなのに(消極的行為責任主義の観点)、そのよ うな微 妙な心理状態の立証・認定は本質的に不可能だからである。この意味で、前科の場 合をも 含めて「警告理論」は不当なのであり、従って、行為責任の観点からの累犯加重の 根拠づけは別の角度からなされなくてはならない。(2章3‑4節)
その 契機となったのが、「軽微累犯の責任相応刑」に関する議論である、といえよう。
すな わち 、 被害の軽微な累犯行為にも、重大なそれにも同一の刑の 下限(6月の自由刑
)を科 すことは、不法内容の重さに応じて行為責任の程度も定まる、という行為責任の原 則に反 するのではないか、というものであるが、かような批判的見解に対応する結諭は、
一定の 類型的な法益侵害の重大性が累犯加重の根拠づけには必要である、というものであ った。(2章5節)
そこ で、本稿では、そのような意味で固有の不法内容を有する累犯の構造を確定するた めに、 三っの視点を設定した、すなわち、(1)反復性、(2)類型 的法益侵害の重大性、(3
)併合 罪以上の刑の重さ、という三点である。 (1)は累犯の本質にとって前科性は不可欠 ではな く、反復性こそ累犯の本質である、とする議論であり、 上述した(2)の視点と併せ ると、 累犯として行われた行為が、類型的に法益侵害の重大性を根拠づけるような反復的 性格を 有することが、刑罰加重的な累犯の構造の本質をなす、 というものであり、(3)の 視点か らは、客観的反復行為が重大な不法―責任内容を基礎づける理論がもたらされる。
すな わち、結果的加重犯に関する危険性説が累犯にも借用しうるという結論に至るので ある。その結果、本稿では序章で掲げた問題点のうち、(1)(2)にっいてはいずれも否定的 な結諭 が得られ、(3)にっいては「重い刑罰に相応する累犯とは、累犯の実行行為におい て類型 的に重大な法益侵害性を有し、しかもそれが先行行為に内在する危険性が行為反復 後の重 大な結果として実現したことを内容とする」という結諭 に至り、(4)に関しては、
(a)使用 窃盗 中の 窃盗 、(b)窃取 した 凶器 を使用した強盗、(c)夜間の 侵入窃盗後の別の 所有者からの財物強取等が具体例としてあげられたのである。
最後 に、 常 習犯 と累 犯の 関係 等に 関す るさ しあ たっ ての 見解 が述 べられた。(3章)
学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査 教授 白取祐司
副査 教授 能勢弘之
副査 助教授 小暮得雄(千葉大学)
副査 助教授 今井猛嘉
学 位 論 文 題 名
累 犯 加 重 規 定 解 釈 の 一 試 論 〜 責 任 主 義の 観 点 か ら〜
わ が 国 の 現 行 刑 法 は 、 「 累 犯 」 に 関 し 、 刑 法 典 上 の 一 般 的 加 重 規 定 ( 刑 法 第10章 ) お よ び 盗 犯 等 防 止 法 上 の 特 殊 な 常 習 累 犯 ( 同 法 第3条 ) と い う 二 様 の 加 重 規 定 を 設 け て い る 。 犯 罪 の 反 覆 累 行 が 、 単 発 の 犯 行 に 比 べ て よ り 重 い 刑 罰 に 相 当 す る こ と は 、 素 朴 な 法 感 情 に よ れ ぱ と も か く 、 刑 法 上 の 責 任 を 個 別 行 為 の 非 難 可 能 性 と 捉 え る 「 責 任 主 義 」 の 見 地 か ら は 決 し て 自 明 で は な い 。 何 故 、 い か な る 根 拠 に 基 づ い て 累 犯 加 重 が 正 当 化 さ れ る の か 。 本 論 文 は 、 上 記 二 様 の 累 犯 規 定 を 射 程 と し て 、 責 任 主 義 に 合 致 す る 累 犯 の 構 造 を 探 究 し 、 そ の 結 果 を 累 犯 規 定 の 解 釈 に 反 映 さ せ る こ と を 目 的 と し て い る 。 本 論 文 の 構 成 は 、 次 の と お り で あ る 。
序 章 で は ま ず 、 考 察 の 予 備 作 業 と し て 、 @ 警 告 理 論 に 基 づ く 高 め ら れ た 行 為 責 任 と 、
◎ 軽 徹 累 犯 に 対 す る 責 任 相 応 刑 を 以 下 の 検 討 の 視 点 と す る こ と を 明 ら か に し た う え で 、 本 論 文 で 論 じ ら れ る 「 責 任 主 義 」 が 、 あ く ま で も 行 為 責 任 を 前 提 条 件 と し 、 行 為 責 任 を 限 界 と す る 原 則 で あ る こ と を 確 認 す る 。
第1章 「 累 犯 加 重 の 根 拠 と 責 任 主 義 」 で は 、 累 犯 加 重 と 責 任 主 義 に 関 す る わ が 国 の 理 論 状 況 を 概 観 す る 。 そ の た め に 、 ま ず 、 累 犯 規 定 の 立 法 の 沿 革 が 考 察 の 対 象 と さ れ 、 そ の 結 果 、 立 法 者 が 累 犯 加 重 規 定 に 予 防 目 的 を 意 図 的 に 盛 り 込 ん だ こ と が 明 ら か に さ れ た 。 立 法 過 程 の 中 に 、 す で に 責 任 主 義 に よ る 自 覚 的 を 刑 罰 抑 制 の 必 要 性 の 契 機 が 存 在 す る の で あ る 。 次 に 、 現 行 法 に あ ら わ れ た 累 犯 加 重 規 定 を 学 説 ・ 判 例 は ど う 根 拠 づ け た の か 。 今 日 も っ と も 有 カ に 主 張 さ れ て い る の は 、 い わ ゆ る 「 警 告 理 論 」 、 す な わ ち 、 行 為 責 任 の 増 大 を 前 刑 の 警 告 作 用 の 無 視 に 係 ら し め る 見 解 で あ る 。 む ろ ん 、 立 法 の 経 緯 か ら も 知 れ る よ う に 、 刑 罰 の 特 別 予 防 的 機 能 に 着 目 し た 刑 事 政 策 的 根 拠 づ け も