博 士 ( 文 学 ) 小 林
甫
学 位 論 文 題 名
生成する〈学び〉と現代社会
―《地域社会》変動の学習社会論的考察―
学位論文内容の要旨
本 論 文 は 、 世 界 の 近 代 以 降 の 社 会 変 容 を 、 グ ロ ー パリ ゼ ーシ ョン 化に おけ る知 の集 積 を 通 し て 、 近 代 か ら 現 代 ま で の 地 域 社 会 の 構 造 変 動を 捉 え、 将来 日本 が見 据え るべ き 変 革 の 方 向 性 を 視 座 し よ う と し た も の で あ る 。 そ のさ い のキ ーワ ード とし ての ライ フ ロ ン グ ・ ラ ー ニ ン グ の 概 念 は 、 い わ ゆ る 日 本 的 な 生活 拡 充共 生の 学習 を主 とす る現 行 の 「 生 涯 学 習 」 で は な く 、 こ の 他 公 共 的 ・ 公 益 形 成的 学 習、 およ び職 能的 ・産 業形 成 的 リ カ レ ン ト 学 習 の 総 体 を 意 味 し 、 こ れ ら と 高 等 教育 と が結 びっ くこ とに よっ て個 人 の 学 び が 営 ま れ 、 そ の 集 積 が 社 会 の 変 革 を 促 す と す る 意 味 で 用 い ら れ て い る 。 そう し たラ イフ ロン グ・ ラー ニン グを 社会 変動 にお ける 社会 学 理論 のな かに 析出し、
ま た実 際 に西 欧の 国々 につ いて 検討 し、 早く から おこ なわ れた イ ギリ スと デン マーク、
そ し て 遅 く 始 ま っ た も の の 、 小 林 氏 の 提 起 す る ラ イ フロ ン グ・ ラー ニン グの 典型 とし て の イ タ リ ア を 位 置 づ け る 。 日 本 に お い て は 、 中 世 から の 高等 教育 と学 びの 諸相 の近 代 に お け る 生 涯 学 習 制 度 に よ る 「 生 涯 学 習 」 の 矮 小 化を 検 証す る。 さら に現 代に おい て は 、1990年 以 降 の グ ロ ー パ リ ゼ ー シ ョ ン と グ ロ ー カリ ゼ ーシ ョン を結 合さ せた ライ フ ロ ン グ ・ ラ ー こ ン グ を 構 想 し 、 日 本 現 行 の 「 生 涯 学習 」 をそ うし たラ イフ ロン グ・
ラ ー ニ ン グ ヘ と 転 回 さ せ る 諸 条 件 を 検 討 す る 。 具 体 的に は 日本 現行 の「 生涯 学習 」と イ タ リ ア 現 行 の ラ イ フ ロ ン グ ・ ラ ー ニ ン グ ( イ タ リ ア的 形 態) とを 高い レベ ルで 統一 し て、 日 本型 のラ イフ 口ン グ・ ラー ニン グを 創出 する 理論 的枠 組 みと 方法 を展 望する。
と く に 、 日 本 に お け る 「 生 涯 学 習 」 の 国 家 的 制 度 か らラ イ フロ ング ・ラ ーニ ング の地 域的 制度への転回を可能とする社会的過程を把握しようとす る。
本 論文は、序章問題の所在ー((グ口一パリゼーション) )ー((ライフロング・ラーニ ン グ) ) と社 会学 、第1章 分析1: ((ライフ口ング・ラーニング))のイタリア的展開ー ア ッ ソ チ ア チ オ ニ ズ モ 、 市 民 の 自 己 学 習 、 公 的 職 業 訓 練 の 結 合 ー 、 第2章 分 析2: 日 本 近 代 国 民 国 家 の 制 度 創 出 と 再 生 産 機 構 ー 高 等 教 育 と成 人 教育 の分 断・ 固定 化の 形成 と そ の 超 出 の 方 向 性 ー 、 第3章 分 析3: 『 生 涯 学 習 』 の 重 層 構 造 と 《 地 域 社 会 》 の 諸 類 型 ー 構 造 変 動 す る 日 本 国 民 社 会 と 国 民 社 会 再 生 産 機 構 と の 葛 藤 ー 、 第4章 考 察1:
(( 生涯学習))(ライフロング・ラーニング)の社会的問題構成ー『生涯学習』から((生 涯 学 習 ) ) ( ラ イ フ ロ ン グ ・ ラ ー ニ ン グ ) へ の 社 会 的熟 成 ー、 第5章考 察2: 《生 涯学 習 》 の 社 会 学 的 研 究 と 展 望 ー 《 地 域 社 会 の 世 界 社 会 化》 と 《生 涯学 習》 と社 会学 研究 ーか ら構成されている。
序 章 は 本 論 文 に お け る 問 題 の 所 在 を 確 認 す る 。 は じめ に 現代 社会 学に おけ る国 民社 会 変動 把 握と 個の 学び の関 係を 問う 。ま ず、 社会 の把 握で ある が 、ル ーマ ン、 ベラー、
バ ー ソ ン ズ 、 ハ パ ー マ ス 、 ベ ッ ク 、 ギ デ ィ ン ズ 、 プ ルデ ュ ー等 の社 会学 理論 を検 討し ―10―
た後、社会を相互に作用し合う人々の関係性からなる対人的―集合的社会を礎定し、
この他歴史的存在としての社会を法制制度社会、国家〓経済システムに区分し、三者 の具体的関連を問題とする。そして制度史の歴史社会学的検討を試み、ライフロング・
ラーニングは高等教育制度を職業教育訓練と市民性涵養からなる成人教育制度に結び っける人間的な営みと捉え、対人的―集合的社会と国家〓経済システムの間に位置す る中間集団/法制制度と規定する。
さらに、イギリスとデンマークにおける今日的な展開について、固有の問題点と国 際的に共有される論点を整理し、それぞれ自国の歴史的・文化的な伝統を保持しなが ら、現代における社会変動の大きな流れであるグローパリゼーション下において新た な展開をとげていることを明らかにする。そこではグローパリゼーションとライフ口 ング・ラーニングが根底で結合しており、その媒介項が社会変動の駆動カとしての個 の生き方と個の学びにあることを指摘する。
第1 章 は、 近代 市民 社会から現代市民社会へという一大変動期に大きな意味をもっ たイタリアのライフロング・ラーニングを検討し、日本における展開過程の把握に備 える。まず、イタリアにおける高等教育史と成人教育史を検討し、近代国家形成以前 に、中世に始まる大学教育制度が確固として存在し、かつ成人教育制度も1 ・7 世紀以来 さまざまな試みがなされてきたことが、1968 〜1969 年のイタリアの暑い秋以降のライ フ ロン グ・ ラー ニン グの前史にあることを克明に検証する。そして約600 年の歳月を かけての民衆教育―成人教育一ライフ口ング・ラーニングの軌跡を通して、制度を創 り出す精神、精神を支える対人的社会、そして対人的社会に存在する客観的価値とい う関連構造を明らかにする。
第2 章 は、 日本 にお ける学びと知の集積の展開を追う。日本においても知の学びの 構造は、中世の大学や庶民の学びのなかに息づぃていたことに対して、日本近代がそ れを大幅に後退させた。そして社会変動の動因としての知の集積は、高等教育と社会 教育一職業訓練が戦前段階において、それぞれ別個な官僚的な仕組みに囲い込まれて きたことを、明治20 年代における国家制度=教育制度の形成から明らかにする。そし て小林氏は、それぞれ三者の歴史的展開を検討し、その後の地方の疲弊にともなう地 方改良運動や農村経済更正運動、そして戦時下体制において、地域社会からの学びの 動きは押さえられ、その意味での対人的―集団的社会は顕在化することはなかったと いう。
戦後においては、この対人的ー集団的社会は公民館運動との絡みで再生されようと するが、そこに形成されたのが、生活拡充型・共生型の「社会教育」「生涯学習」で あった。したがって今日の社会変革期において、日本型I ライフ口ング・ラーニングの 制度創出を行うことによって、日本型現代「市民社会」を展望する必要を指摘する。
第3 章 は、 日本 にお ける「生涯学習」の実証である。まず都道府県における「生涯 学習」の現況を分析する。さらに、さまざまな立場から今日に必要とされる地域課題 の解決、労働能カの向上に関して検討を加える。
第4 章は、ライフ口ング・ラーニングに.おいて、日本型「生涯学習」に欠けている 職業能カの向上と市民性の涵養について、高等教育機関との関連も含めて、生涯学習 の対蹠的な近代化/再帰的近代化におけるイタリアの社会保全優位路線と、日本の工 業開発優先路線とを対比する。
イタリアでは工業発展が国内のそれぞれの地域での職業技術教育が工学教育と密接
に結びっいていることに対して、日本では工学教育の導入期から地域に目線を置くこ
となく、また職業訓練とも切り離された展開をすることによって、職業から地域社会
が分断されたことを指摘する。
第5章は、望ましい日本の地域社会変動のためのライフロング・ラーニングのある べき姿を提起している。そこでは、労働過程をも含めた地域の自主性の獲得において、
社会変動のもっとも基底をなす諸個人の自己発達と自己理解を達成させる学びと実践 が対人的ー集団的社会に保障され、それが((ライフ口ング・ラーニング))を媒介させ ながら、対人的一集合的社会を基盤に、中間集団一法制制度、そして国家一経済シス テムの改革を通して、人びとの対人的一集合的社会を豊かにする営みであることを主 張する。
学位論文審査の要旨 主査 教 授 松岡昌 則 副査 助教授 平澤和司 副査 助教授 宮内泰介
学 位 論 文 題 名
生成する〈学び〉と現代社会
一〈地域社会》変動の学習社会論的考察―
本 論 文は 、 世界の 近代以降 の社会 変容を、 グ口ー パリゼー ション 化におけ る知の集 積を 通 し て 、 近代 から 現代まで の地域 社会の構 造変動 を捉え、 将来日本 が見据 えるべき 変革の 方向性を視座しようとしたものである。
本論文は、序章問題の所在ー((グ口ーパリゼーション))ー((ライフロング・ラーニング))
と 社会学 、第1章分析1:( (ライフ 口ング ・ラーニ ング))のイタリア的展開ーアッソチア チ オ ニ ズ モ、 市 民 の自 己 学 習、 公 的 職業 訓 練 の結 合 ー 、第2章 分 析2:日本 近代国民 国家 の 制 度 創 出と 再生 産機構ー 高等教 育と成人 教育の 分断・固 定化の形 成とそ の超出の 方向性 ー 、 第3章分 析3:『 生 涯 学習 』 の 重層 構 造 と《 地 域 社会 》 の 諸 類型 一構造 変動する 日本 国 民社会 と国民社 会再生 産機構と の葛藤 ー、第4章考察1:((生涯学習》(ライフ口ング・
ラ ーニン グ)の社 会的問 題構成ー 『生涯 学習』か ら((生涯学習》(ライフロング・ラーニ ン グ ) へ の社 会 的 熟成 ー 、 第5章 考 察2: 《 生涯 学 習 》の 社 会 学 的研 究と展 望ー《地 域社 会 の 世 界 社 会 化 》 と ( ( 生 涯 学 習 ) ) と 社 会 学 研 究 ー か ら 構 成 さ れ て い る 。 序 章 は本 論 文にお ける問題 の所在 を確認す る。ル ーマン、 ベラー 、パーソ ンズ、ハ パー マ ス 、 ベ ック 、ギ ディンズ 、プル デュー等 の社会 学理論を 検討した 後、社 会を相互 に作用 し 合 う 人 々の 関係 性からな る対人 的ー集合 的社会 を礎定し 、この他 歴史的 存在とし ての社 会 を 法 制 制度 社会 、国家〓 経済シ ステムに 区分し 、三者の 具体的関 連を問 題とする 。そし て 制 度 史 の歴 史社 会学的検 討を試 み、ライ フロン グ・ラー ニングは 高等教 育制度を 職業教 育 訓 練 と 市民 性涵 養からな る成人 教育制度 に結び っける人 間的な営 みと捉 え、対人 的一集 合 的 社 会 と 国 家 = 経 済 シ ス テ ム の 間 に 位 置 す る 中 間 集 団 / 法 制 制 度 と 規 定 す る 。 第1章は 、 近 代市 民 社 会か ら 現 代市 民 社会 へとい う一大変 動期に 大きな意 味をもっ たイ タ リ ア の ライ フ ロ ング ・ ラ ーニ ン グ を検 討 し 、日 本 に おけ る 展 開 過程の 把握に備 える。
ま ず 、イ タ リアに おける高 等教育 史と成人 教育史 を検討し 、近代 国家形成 以前に、 中世 に 始 ま る 大学 教育 制度が確 固とし て存在し 、かつ 成人教育 制度も17世紀以来 さまざま な試 みがなされてきたことを克明に検証する。
第2章は 、 日 本に お け る学 び と 知の 集 積の 展開を 追う。日 本にお いても知 の学びの 構造 は 、 中 世 の大 学や 庶民の学 びのな かに息づ いてい たことに 対して、 日本近 代がそれ を大幅 に 後 退 さ せた 。そ して社会 変動の 動因とし ての知 の集積は 、高等教 育と社 会教育一 職業訓 練 が 戦 前 段階 にお いて、そ れぞれ 別個な官 僚的な 仕組みに 囲い込ま れてき た。そし て小林
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氏は、それぞれ三者の歴史的展開を検討し、その後も地域社会からの学びの動きは押さえ ら れ 、 そ の 意 味 で の 対 人 的 ー 集 団 的 社 会 は 顕 在 化 す るこ と は なか っ たと い う 。 戦後においては、この対人的―集団的社会は公民館運動との絡みで再生されようとする が、そこに形成されたのが、生活拡充型・共生型の「社会教育」「生涯学習」であった。
したがって今日の社会変革期において、日本型ライフロング・ラーニングの制度創出を行 う こ と に よ っ て 、 日 本 型 現 代 「 市 民 社 会 」 を 展 望 す る 必 要 を 指 摘 す る 。 第3章は、日本における「生涯学習」の実証である。まず都道府県における「生涯学習」
の現況を分析する。そしてさまざまな立場から今日に必要とされる地域課題の解決、労働 能カの向上に関して、検討を加える。
第4章は、ライフロング・ラーニングにおいて、日本型「生涯学習」に欠けている職業 能カの向上と市民性の涵養について、高等教育機関との関連も含めて、生涯学習の対蹠的 な近代化/再帰的近代化におけるイタリアの社会保全優位路線と、日本の工業開発優先路 線とを対比する。
第5章は、望ましい日本の地域社会変動のためのライフロング・ラーニングのあるべき 姿を提起している。そこでは、労働過程をも含めた地域の自主性の獲得において、社会変 動のもっとも基底をなす諸個人の自己発達と自己理解を達成させる学びと実践が対人的一 集団的社会に保障され、それが((ライフロング・ラーニング))を媒介させながら、対人的
―集合的社会を基盤に、中間集団―法制制度、そして国家―経済システムの改革を通して、
人 び と の 対 人 的 ― 集 合 的 社 会 を 豊 か に す る 営 み で あ る こ と を 主 張 す る 。 本論文は著者小林氏の研究成果の集大成である。小林氏の問題関心は、社会の変動を内 側から支えている諸個人の生活営為とそれらを繋げる仕組みを構築し、新たな日本の市民 社会を構築することにある。それは諸個人の生き方から社会の変容を読み解き、地域社会 レベルからの変革を基盤とする新たな社会変動論の構築である。
以上のことから、本審査委員会は全員一致で本論文の著者小林甫氏に博士(文学)の学 位を授与することが妥当であるとの結論に達した。