博 士 ( 理 学 ) 清 水 雄 太
学位論文題名
リチウム―13 族元素系液体合金における電子挙動と 化学結合についての研究
学位論文内容の要旨
本研 究の 目的 は, リチウム―13族元素系合金の液体状態の電 子状態,化学結合およぴ液 体構造を 解明することで ある。液体状態では,結晶 構造をとる必要がある固体状 態とは異なり,原子の持つ固 有の性質の反映 としての化学結合形成を組 成の連続的変化により考える ことが可能である。したがっ て,液体状態における化学結合の解明は重要である。
本研 究で は, 金属 問 化合 物を 形成 す るり チウム‑13族元素系 合金について,Li‑Tl,Li‑Gaおよび Li‑In系 の 液体 状態 を対 象に , 金属 間化 合物 と類似の化学結合 が融体中でも安定に存在す るか,ま た,存在するな らぱどのような挙動を示す かについて実験的および理論 的研究によって明らかにする ことを目指して いる。実験的研究としては ,液体合金の微視的物性として,?Li核NMRナイ卜シフト,
およびスピン・格子緩和時間,Ti,の測定を実施した。さらに,ナイトシフトの解析に必要な物性であり,
かつ,熱力学的 基本量であるモル体積の精 密な測定を実施した。これに より,金属間化合物を形成す る 合金 の液 体状 態に お ける 電子 的お よ び熱 力学 的物 性の 特 徴を 実験 的に明らかにした。 理論的研 究としては,ア ルカリ金属‑13族元素系合金 について,経験的方法から 金属間化合物形成の推定,お よ び結 晶構 造の 予測 を行った。さ らに,固体電子状態の第ー原 理計算を実施し,非経験的 な手法に よ って ,固 体状 態か ら液体状態へ の変化に伴う電子状態変化に ついての示唆を得た。これ に基づぃ て 金属 間化 合物 を形 成 する 合金 系が 融 体中 で金 属間 化合 物 を反 映し た化学結合を形成す る可能性 について議論した。以上の研究から得られた知見を以下に示す。
1) Li‑TI,Li‑Inお よ びLi‑Ga合 金の 液体 状態 の7Liナ イ 卜シ フ卜 は, 金属 聞 化合 物を 形成 し て い る 組 成 範 囲 で , 電 荷 移 動効 果に よ り相 対的 に小 さな 値 を示 す。Li‑Inお よびLi‑Ga合 金で は , Inお よ ぴGa組 成 が30 at% 以 上 で ほ ば 一 定 の 値 と なっ た 。し かし ,Li‑Tl合金 系の み が50 at% Tl組 成 以 上 の 領 域 で ナ イ ト シ フ ト の 増 加 を 引 き 起 こ す バ ッ ク ド ネ ー シ ョ ン 現象 があ るこ と を 見 出し た。 さら に, スピン‐格子 緩和時間,T1,に関しても同 様に,Li‑InおよびLi‑Ga合 金では,
Inお よ びGa組 成 が30 at% 以 上 で は ほ ば ー 定 で あ っ た 。 し か し ,Li‑Tl合 金 の み50 at%Tl組 成 以 上 の 領 域 の ナ イ ト シ フト 測定 で 見ら れた バッ クド ネ ーシ ョン がT1の減 少 を引 き起 こし た 。 2) ナ イ ト シ フ ト お よ びTiを よ り 詳 し く 解 析 す る ため に ,ナ イト シフ トに 密 接に 関連 した 物 性 で あ る モ ル 体 積 の 測 定 を 行 っ た 。 非 常 に 活 性 の 高い りチ ウム‑13族元 素系 合 金に おい て, ア ル ―213―
キ メ デス ダ ブ ル シン カ ー 法を 用 い ること によっ て精度良 く液体状 態の密 度を測定 するこ とに 成 功 した 。Li‑Tl,Li‑Inおよ びLi‑Ga合 金のモ ル体積は ,固相 で金属間 化合物を 形成す る組成 域 で は顕 著 な 体 積収 縮 を 示し た 。 また, 部分モ ル体積を 見積もっ た結果 ,13族元素 の部分 モ ル 体 積は ,13族元 素 組 成50 at% 以 上で は ほ ばー 定 で ある 。 そ れ以下 の組成範 囲では13族元 素 組 成の 減 少 と 共に 急 激 に減 少 し ,Gaおよ びTl純粋 状態の極 限では 負の部分 モル体 積となっ た 。 この13族 元素 の 部 分モ ル 体 積の 組 成 依存 性 は ,Liか ら13族 原 子へ の 電 荷移 動 効 果に よ るも のであ り,顕著 な液体 状態の体 積収縮 は電荷移 動効果で 形成さ れる金属間化合物と同様の 化学結合の形成によって引き起こされていると考えられる。
3)測定 したモル 体積を 使ってナ イトシフ トをよ り詳しく 解析す ることに より,7Li核付近にお け る 伝導 電 子密度を 見積もっ た。Li‑GaおよびLi.In合金 の伝導 電子密度 はLi.Tl合 金の伝導 電子 密度よ り小さい 。すなわち,電荷移動効果の程度はLi.GaおよびLi.In合金系の方がLi.Tl 合金 系より 大きいこ とが判 明した。 また, 伝導電子 密度にお いてもLi‐Tl合金のみバックドネ ーション現象が見られた。
4)液体Li.Tl合金の バック ドネーシ ョン現 象は,固相における結晶構造の安定性および状態図 にお ける金 属間化合 物の形 成組成域 の違い と密接な 関係があ ると考 えられる。そこで,固体電 子状 態の第 ー原理計 算を実施した。1:1組成におけるLi.T1合金はC8Cl型(体心立方)構造が安 定で あった 。一方,Li‐Ga合金は冱nu相(Nれ`1型構造)が安定であった。この構造における原 子間 の結合 陸を決定 した。Li50T150合金でのLi.TlおよびTl一皿間はイオン性の結合であった。
Li50Ga5合金で は,Li.Ga問はイオ ン性の相 互作用 であり,Ga.Ga問は イオン性 結合で あるが 共有 結合性 も持っこ とを明 らかにし た。ま た,計算 結果と結 晶にお ける諸相の出現条件の推定 を合わせて考えると,アルカリ原子より13族原子の原子半径が大きい場合では,電荷移動効果により 負に帯電した13族原子の距離が近いため,13族原子アニオンの電子雲が重なる。このために,イオ ン性の金属となる。アルカリ原子と13族原子の原子半径がほば等しい場合は,電荷移動効果により 負に帯電L虎13族原子が3次元ネットワークを形成するのに適した距離となる。このため,13族原子 間の結合はイオン性であるが共有結合性も帯びていて安定性が高い。アルカりの方が13族原子の半 径より大きい場合,13族原子アニオンの距離が離れすぎているために結合が形成されなぃ。このため に,二液相分離傾向が出現することを明らかにした。
5冫Li.Tl合 金のみで ナイ卜 シフトに おける バックドネーション現象や,T1の減少が見られるこ とは ,Li.皿 合金の金 属間化 合物の構 造がLi ̄GaおよびLi‐In合金の それと異なることによる と考 えられ る。すな わち,Li.Tl合金の1:1組成の金属間化合物はC8Cl型構造であるのに対し,
u・Inお よ びLi.Ga合金 ではZinu相 (NaTl構造 )である ことが 原因と考 えられる 。この 結晶相 にお ける構 造の違い が,融体中における化学結合の安定度に影響を及ばしていると考えられる。
Z血n相 に お い ては ,Li原 子 か らよ り 電気的に 陰性で ある13族原 子へ電 子が移動 する電 荷移動 効 果 に よ っ て , 負 に 帯 電 し た13族 原 子 はC,Siお よ ぴGe原 子 と 等電 子 配 置に な る 。し た が っ て ,13族 原 子陰 イ オ ンは ダ イ ヤモ ンド型 構造を 形成する 。この 隙間に正 に帯電し たLi原子 が 入 り込 む 。 液 体中 で は ,Z血n相中 のダイ ヤモン ド型構造 の断片 が安定に ,広い組 成範囲 で 存 在 する と 考 え られ , ナ イト シ フ トおよ びT1は組 成を変化 させて もほとん ど変化し ない。 し か し ,C8cl型構 造 を もつLi.Tl合 金にお いては ,皿濃度50at%以上 の組成域 では, 安定な金
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属間化合物が固体状態には存在しない。したがって,Li‑Tl合金におけるTl濃度50 at%以上 の組成域では,CsCl型構造のLiTlの結合は液体状態において破壊される傾向にある。この結 果,Li原子からTl原子へ移動していた電子が逆にTl原子からLi原子へ戻る。このため,ナ イ ト シ フ ト に お け る バ ッ ク ド ネ ー シ ョ ン 現 象 , お よ びTiの 減 少 が 見 られ る 。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 武 田 定 副査 教授 日 夏幸雄 副査 教授 稲 辺 保 副査 教授 鈴 木孝紀 副査 助教授 伊丹俊夫
学 位 論 文 題 名
リチウム‑13 族元素系液体合金における電子挙動と 化学結合についての研究
液体状態では,周期構造に規制された結晶状態とは異なり,液体組成の連続的な変化 に伴って、原子の持つ固有の性質の反映としての化学結合を形成することが可能である。
したがって,液体状態における化学結合の解明は重要である。
本論文では,金属間化合物を形成するりチウム―13族元素系合金について,Li―Tl, Li‑GaおよびLi−In系の液体状態を対象に,金属間化合物と類似の化学結合が融体中で も安定に存在するか,また,存在するならばどのような組成依存性を示すかについて実 験的および理論的研究によって明らかにすることを目的としている。実験的研究として は,液体合金の微視的物性を解明するために, Li核NMRナイトシフト,およぴスピン―
格子緩和時間Tiの測定を行なった。さらに,ナイトシフトから伝導電子密度を求める ために必要な物理量であり,かつ熱力学的基本量であるモル体積を精密に測定した。こ れにより,金属間化合物を形成する合金の液体状態における電子的および熱力学的性質 の特徴を実験的に明らかにした。理論的研究としては,アルカリ金属ー13族元素系合金 について,経験的方法により金属間化合物の形成を推定し,その結晶構造を予測した。
さらに固体電子状態の第一原理計算を行ない,固体状態から液体状態への変化に伴う電 子状態変化についての示唆を得た。これに基づいて金属聞化合物を形成する合金系が融 体中で金属間化合物を反映した化学結合を形成する可能性について議論した。以上の研 究から,具体的には以下の知見を得た。
1) Li―Tl,LiーInおよびLiーGa合金の液体状態の7Liナイトシフトは,固相で金属間化 合物を形成する組成範囲で,Liから13族元素への電荷移動効果により相対的に小さな 値を示す。LiーInおよびLi−Ga合金とは異なり,Li−Tl合金系のみが50 at% Tl組成以 上の領域でナイトシフトの増加を引き起こすパックドネーション現象があることを見
出し た 。 スピ ン ―格子 緩和時間Tiは,Li−Tl合金の みで13族元 素組成50 at%以上の領 域で減 少するこ とを見出 した。 この結果 もバッ クドネーションがLi―Tl合金系でのみ起 こることを示してbヽる。
2) 非 常 に活 性 の高 いりチウ ム‑13族元素系 合金にお いて, アルキメ デスダ ブルシン カ ー法を用いることによって精度良く液体状態の密度を測定することに成功した。Li―Tl, Li−Inおよ びLi‑Ga合 金のモ ル体積は ,固相 で金属間 化合物 を形成す る組成域では顕著 な体 積 収 縮を 示 した。 また,部 分モル 体積を見 積もっ た結果,13族元素 の部分モ ル体 積は ,13族 元 素 組成50 at%以上 ではほ ば一定で ある。 それ以下 の組成 範囲では13族元 素組 成 の 減少 と 共に急 激に減少 し,13族 元素が純 粋状態 の極限で は負の 部分モル 体積 とな っ た 。こ の13族元 素 の 部分 モ ル 体積 の 組 成依 存 性 は,Liから13族原子 への電荷 移動効 果による ものであ り,顕 著な液体 状態の 体積収縮は電荷移動効果で形成される金 属 問 化 合 物 と 同 様 の 化 学 結 合 の 形 成 に よ っ て 引き 起 こ され て い ると 考 え られ る 。 3)以 上の実 験結果を もとに , Li核付 近にお ける伝導 電子密 度を見積 もった結果,13 族元 素 高 濃度 側 では,Li‑Gaおよ びLi^In合金の伝 導電子 密度に比 べ,Li→Tl合金の伝 導電子密度が大きいことを見出した。
4)上 記の結 果は,LiーTl合金で のみ電荷 移動の 変化によ り化学 結合の性 質が変化する ことを 示してい る。'rLi核近傍における伝導電子密度の違いにより,下記のA)〜C)の3 つの 構 造 をと る と考え られる。A) リチウム −13族元 素系液体 合金の0¥‑20 at%13族元 素濃 度 領 域で は ,Liは溶 媒和構造 をとっ ており, 純粋Liの モル体積 と比較 すると収 縮 している。B) 20〜50 at%13族元素濃度領域では,Li―Tl合金およびLi―Ga,Li←In合金 の伝 導 電 子密 度 は低密 度である 。した がって, この領 域では,Liから13族 元素ヘ電 子 が移 動 し てお り ,13族 元 素 は負 に 帯 電し ,Zintl型(NaTl型 ) の 化学 結合 が形成さ れ ると考 えられる 。C) 50〜100 at%13族 元素濃度 領域では,Li‑GaおよびLi―In合金は,
伝導 電 子 密度 が20 ‑ 50 at%Ga,In領域と 変わら ないため にZintl型の化学 結合が維 持 され る 。 一方 ,Li―Tl合金 では,20〜50 at%Tl領域 でLiからTlへ 電子が 移動する が,
50〜100 at%Tl領 域で は ,Tl原 子 の負 の 帯 電が や や 減少 す る た め,Zintl型からCsCl 型へ化学結合の変化が起こっていると考えられる。
このよ うに、申 請者は 、リチウ ムー13族 元素系合金の融体という,活性で測定が困難 社合金 液体中に おける化 学結合 形成およ びその液体組成依存性の解明に挑戦した。その 結果、13族元素Tl,Ga, Inすべてについて,リチウムとの合金の融体について20〜50 at%13 族元素 濃度領域 で,13族 元素は負 に帯電しZintl型 の化学結 合を形 成していることを見 出した 。さらにLiーTl合金 でのみ,50〜100 at%Tl領域でZintl型からCsCl型へ化学結合 の変化 が起こる ことを見 出した 。申請者 のこの成果は,基礎的な研究が遅れていたこの 研究分 野に、大 いに貢献 するも のとして 評価される。また本論文の一部は、国際的に権 威のあ る学術雑 誌にすで に公表 されてい る。以上の所見に基づき、審査員一同は申請者 が 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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