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     北海道の針広混交林における

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 野 □ 麻 穂 子

学 位 論 文 題 名

     北海道の針広混交林における

人為撹乱下の樹木群集動態と植生変化に関する研究 学位論文内容の要旨

1.生物多様性や環境機能の保全を含めた持続可能な森林管理が求められるなかで、自然撹乱のもと で生じる生態的プ口セスや不均質性を維持する観点から、択伐などの非皆伐施業への関心が国際的に 高まっている。北海道の森林においては開拓以来広く択伐施業が行なわれており、生態学的な観点か らみると、針広混交林の最も主要な攪乱要因のひとつとなっている。したがって、択伐施業が森林生 態系に及ぽす影響の解明は、この地域における現在の森林の成立過程を理解し、将来予測を行なうう えできわめて重要である。

  本研究では、北海道北部の多雪地域の針広混交林を対象として、択伐施業下での森林の構造・動態 を把握し、それらに影響を及ぼす要因を解明することを目的とした。長期的なデータをもとに、択伐 施業に伴う林冠疎開や地表攪乱が、高木性樹種の動態・稚幼樹の密度や、ササをはじめとする林床植 物の分布に及ぼす影響を、林分内の空間的な不均質性に注目しながら明らかにした。それらの結果に もとづいて、持続的な生産と天然林の構造特性の維持を考慮した択伐施業の方法について検討した。

2.過去30年にわたって10年間隔で樹木のモ二夕リングと択伐が実施されてきた北海道大学中川研 究林の長期プ口ット(6.72ha)において、主要構成樹種の新規加入(胸高直径12.5cmへの到達).直 径階級(5cm間隔)の進級・自然枯死の確率に対して、周囲の伐採量・大径木(胸高直径32.5cm以 上)の量・地形要因が及ばす影響を調べた。それらの要因の相対的な重要性は、樹種や生育段階によ って異なっていた。地形の要因は、新規加入のプ口セスでのみ高い重要性が認められた。周囲の大径 木量、特に落葉広葉樹の蓄積が多いと、小径木(胸高直径12.5cm以上32.5cm未満)の進級、および 落葉広葉樹の新規加入が起こりにくくなっていた。一方、トドマツの新規加入は、針葉樹の大径木が 多い箇所で促進されていた。周囲の伐採量との関係から、卜ドマツでは強い林冠疎開によって小径木 の成長が向上し、自然枯死率も低下するが、新規加入は起こりにくくなることが示された。落葉広葉 樹では、成長や自然枯死に対する林冠疎開の影響はみられないが、耐陰性の低い樹種の新規加入は強 い林冠疎開によって促進されていた。単木択伐による攪乱体制のもとでは、トドマツは一時的には蓄 積の回復が進むが、新規加入が制限されるため将来は優占度が低下し、耐陰性の低い落葉広葉樹が優 占度を高めると予想された。

3.林冠の状態、林冠撹乱および地表撹乱の履歴が、稚幼樹(稚樹・実生:樹高2m未満、幼樹:樹 高2m以上、胸高 直径12.5cm未満)の分布に及ばす影響を調べた。前述の長期プ口ット内に20m間 隔で165箇所の調査地点を設け、現在の林冠状態(ギャップと林冠下)、林冠攪乱および地表攪乱の

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履歴が異なる地点間で、稚幼樹の分布の偏りを比較した。その結果、林冠疎開は、比較的短期間で林 冠閉鎖が起こる強度であれば稚幼樹密度を増加させるが、それ以上の強度になると、かえって定着や 生存を抑制することが示唆された。この傾向はトドマツや、比較的耐陰性の高い落葉広葉樹で強かっ た。集材や補助造林に伴う地表撹乱は、多くの樹種において稚樹・実生の定着を促進させており、特 に先駆性の高い樹種にとって効果が大きいことが示された。これらの地表攪乱の有無やバターンは、

択 伐 施 業下 の 森 林 にお け る 将来の 構造や樹 木の分 布に大き な影響 を及ぼす と考え られた。

4.稚幼樹の定着基質となる倒木と、下層植生の優占種であるササ類の影響を明らかにするため、北 海道大学雨龍研究林の針広混交林17林分において、主要構成樹種の稚樹・実生密度と、過去の択伐 強度および現在の林分構造の関係を調べた。多くの樹種の稚樹・実生密度は、針葉樹の胸高断面積合 計と高い正の相関を示した。針葉樹の現存量が高い林分でササの被覆率が低いことが、高い稚樹・実 生密度にっながっていると考えられた。トドマツ、アカェゾマツ、ダケカンバのは、倒木・根返り跡 に偏って出現した。それらの樹種のなかでも特に倒木への依存が強かったアカェゾマツは、強度の択 伐を経験した林分で稚樹・実生の密度が低くなっていた。自然撹乱に由来する倒木・自然枯死木の体 積は択伐強度と負の相関を示したことから、自然攪乱に由来するこれらの定着基質の減少が、更新の 減少をもたらしていることが示唆された。

5.林床のササ類の存在は、将来の更新木となる稚幼樹の分布に強い影響を及ぼしている。そこで、

中川研究林の長期プ口ットにおいて、林分内に共存するチシマザサとクマイザサを対象に、どちらの 種が優占するかを決める要因と、それぞれのササの稈密度や稈高に影響を及ぼす要因を解析した。そ の結果、優占種の決定に影響しているのは地形要因であった。両種のササの稈密度は、傾斜の影響を うけていたが、稈高は、これに加えて、上層木(胸高直径12.5cm以上)の蓄積が減少した箇所、針 葉樹の蓄積が少ない箇所で高くなることが明らかになった。択伐に伴う局所的な上層木の減少は、サ サの現存量の増加を招くことが示された。

6.地形や上層木の撹乱履歴などの環境要因が林床植生に及ぼす影響と、その中でのササの役割を明 らかにするため、前述の長期プロット内に設置した調査地点で植生調査を行ない、林床植物の種多様 度・被度に対する地形・上層木の要因の直接的な影響とササを介した間接的な影響を、バス解析を用 いて解析した。草本・シダ植物では、地形条件が、種組成、種多様性を直接決定づける最も重要な要 因となっていた。一方、高木性木本種の種数・被度では、地形・上層木の直接の影響は認められず、

ササを介した影響のみが認められた。高木種の種数・被度は急傾斜地で高まる傾向にあり、これは、

急傾斜でササが減少することと関係していた。また、上層木の蓄積が減少した地点では、ササの増加 にともなって、高木種の種数・被度は低くなっていた。高木性樹種の稚樹においては、ササを介した 影響の重要性が他の林床植物と比較して高く、局所的な上層木の減少に伴って種多様度や被度の低下 が生じやすいと考えられた。

7.以上の結果から、多雪でササが優占する北海道北部の針広混交林において、択伐施業による攪乱 体制のもとでは、長期的にはトドマツが減少し、ダケカンバ・ミズナラなどの耐陰性の低い落葉広葉 樹の相対的な優占度が高まることが明らかになった。卜ドマツの更新には、針葉樹の林冠の存在が重 要であるため、ひとたび減少傾向に陥ると、負のフイードバックが働き、回復は難しいと考えられる。

また、強度の択伐は、稚幼樹の定着基質となる倒木を減少させることを通して、針葉樹の更新を妨げ

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ることも示された。一方、施業に伴う人為的な地表攪乱は、多くの樹種の定着を促進し、特に耐陰性 の低い樹種では効果が大きいことが明らかになった。

  針葉樹の優占する林冠層の存在は、ササの優占を抑える役割を果たしており、天然更新プ口セスの 維持に重要であることから、天然林に固有の構造や種組成を維持するためには、林分内に、針葉樹の 優占する部分を残存させる配慮が欠かせないといえる。また、落葉広葉樹の収穫に重点を置く場合は、

択伐と人為的な地表攪乱を組み合わせることによって、連続的な更新が期待できると考えられた。

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学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教 授 教 授 教 授 助 教 授 助 教 授

小池 矢島 甲山 植村 日浦

学 位 論 文 題 名

司( 地球環境科学研究 科)

北海 道の針広混交林における

人 為撹乱下 の樹木 群集動態 と植生 変化に関する研究

  本 論 文は 、本 文104ぺ ージ 、 引用 文献207編か らな る和 文 論文 で、5章 で構 成さ れて い る。

他に 参考 論文5編 が添 えら れ てい る。

  本 研 究 で は 、 北 海 道 北 部 の 多 雪 地域 の針 広混 交 林を 対象 とし て、 択 伐施 業下 での 森 林の 構 造 ・ 動 態 を 把 握 し 、 そ れ ら に 影 響を 及ぼ す要 因 を解 明す るこ とを 目 的と した 。長 期 的な デ ー タ を も と に 、 林 分 内 の 空 間 的 な不 均質 性に 注 目し 、択 伐施 業に 伴 う林 冠疎 開や 地 表撹 乱 が 、 高 木 性 樹 種 の 動 態 , 稚 幼 樹 の密 度や 、サ サ をは じめ とす る林 床 植物 の分 布に 及 ぼす 影響 を明 らか にし た 。

  2章 で は 、 過 去30年 に わ た り10年 間 隔 で 樹 木 の モ 二 夕 リ ン グ と 択 伐 が 実 施 さ れ て き た 北 海 道 大 学 中 川 研 究 林 の 長 期 プ ロッ ト(6.72ha)にお いて 、局 所的 な 林冠 疎開 の強 度 ・周 囲 の 樹 木 の 量 ・ 地 形 要 因 が 主 要 構 成樹 種の デモ グ ラフ イー (人 口統 計 )に 及ぼ す影 響 を調 べ た 。 そ の 結 果 、 ト ド マ ツ で は 林 冠疎 開に よっ て 小径 木の 成長 が向 上 し自 然枯 死率 も 低下 す る が 、 新 規 加 入 は 起 こ り に く く なる こと が示 さ れた 。一 方、 落葉 広 葉樹 では 成長 や 自然 枯 死 に 対 す る 林 冠 疎 開 の 影 響 は み られ ず、 耐陰 性 の低 い樹 種の 新規 加 入は 林冠 疎開 に よっ て促 進さ れて いた 。

  3章 で は 、 林 冠 や 地 表 の 撹 乱 、 定 着 基 質 の 変 化 が 稚 幼 樹の 分布 に 及ぼ す影 響を 明 らか にし た。 まず 、前 、Lポの 長 期プ ロッ ト内 に165箇 所の 調 査地 点を 設け 、現 在の林冠状態、林 冠 撹 乱 お よ び 地 表 撹 乱 の 履 歴 が 異 なる 地点 間で 、 稚幼 樹の 分布 の偏 り を比 較し た。 そ の結 果 、 林 冠 疎 開 は 、 比 較 的 短 期 間 で 林冠 閉鎖 が起 こ る強 度で あれ ば多 く の樹 種の 稚幼 樹 密度 を 増 加 さ せ る が 、 そ れ 以 上 の 強 度 にな ると むし ろ 定着 や生 存を 抑制 す るこ とが 明ら か にな っ た 。 集 材 や 補 助 造 林 に 伴 う 地 表 撹乱 は、 稚幼 樹 の定 着を 促進 して お り、 先駆 性の 高 い樹 種 で 特 に 効 果 が 大 き い こ と が 示 さ れた 。次 に、 稚 幼樹 の定 着基 質と な る倒 木の 影響 を 明ら

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かにするため、北海道大学雨龍研究林の針広混交林17林分において、主要構成樹種の稚樹 密度と、過去の択伐強度および現在の林分構造の関係を調べた。針葉樹の現存量が高い林 分では、ササの被覆率が低いことにより、高い稚樹密度がもたらされていることが示唆さ れた。もっとも倒木への依存が強かったアカェゾマツは、強度の択伐を経験した林分で稚 樹の密度が低くなっていた。倒木・自然枯死木の体積は択伐強度と負の相関を示しており、

こ れ ら の 定 着 基 質 の 減 少 が 稚 樹 密 度 の 低 下 を も た ら し て い る と 考 え ら れ た 。   第4章では、林床植生、特にこの地域の林床に優占するササ類の反応に注目した。まず、

中川研究林の長期プ口ットにおいて、チシマザサとクマイザサの分布に影響を及ぼす要因 を調べた。その結果、急傾斜地に加えて、上層木の蓄積が減少した箇所、針葉樹の蓄積が 少ない箇所で両種の稈高が高いことが明らかになった。次に、林床植物の種多様度・被度 に対する地形・上層木の要因の直接的な影響とササを介した間接的な影響を、バス解析を 用いて解析した。草本・シダ植物の種数・被度では、地形要因の直接的な影響の重要性が 高かった。一方、高木性木本種に対しては、地形・上層木のいずれも、ササを介した影響 のみが認められ、上層木の蓄積が減少した地点ではササの増加にともなって種数・被度が 低くなっていた。高木性木本の稚樹は、草本など他の林床植物種群に比べ、ササを介した 林冠疎開の影響の重要性が高いことが示された。択伐による針葉樹の減少は、ササを増加 させ、稚樹の種多様度や量の低下をもたらすと考えられた。

  以上の結果から、多雪地域の針広混交林では、択伐施業のもとで、耐陰性の比較的低い 落葉広葉樹が増加し、針葉樹の密度が減少することが予想された。さらに長期的には、針 葉樹の減少に伴ってササが増加し、落葉広葉樹も含む更新や種多様性の低下がもたらされ る可能性があることが明らかになった。したがって、天然林の生態プ口セスの維持に重点 を置いた施業を考える場合、ギャップがすぐに閉鎖する程度の伐採にとどめるなど、針葉 樹の減少を抑える配慮が重要といえる。より多くの収穫が要求される場合は、地表処理や 補助造林を併用するなどの対策が必要と考えられる。

  このように、本研究では択伐施業下での針広混交林の動態と植生構造の変化の過程を明 らかにし、森林管理方法の発展に貢献する基礎データを得ることができ、学術・応用両面 から高く評価できる。よって審査委員一同は、野口麻穂子が博士(農学)の学位を受ける に充分な資格を有するものと認めた。

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参照

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