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第1節大原美術館の教育活動と幼児対象プログラム

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第1節 大原美術館の教育活動と幼児対象プログラム

Ⅰ.大原美術館の幼児対象プログラムを事例とする妥当性

本章では、幼児が美術館で原作品を鑑賞する際の望ましい援助の在り方について、岡山 県倉敷市の大原美術館が行っている幼児対象プログラムを事例を基に考察する。

近年、日本の美術館では、博物館法に規定される役割(収集・保存・展示・研究)に加え、

教育普及活動が重要であることが認識されるようになり、多くの実践がなされている。教 育普及活動とは、美術館利用者と展示作品また美術館を繋ぐ活動である。美術館利用者と は、未だ美術館を訪れたことのない潜在的利用者をも含む「すべての人」であり、年齢、

性別、国籍、障害の有無などにより制限されるものではない。形態・内容は、講座、講演 会、音楽会、作品解説、対話型鑑賞の手法を用いた鑑賞プログラム、制作を伴うワーク ショップ、ワークシート、セルフガイドなど、多岐にわたる。また、ホームページを始め とする様々な媒体による広報活動を、教育普及活動の1つに位置付ける場合もある。

しかし、「すべての人」を対象としながらも、多くの鑑賞プログラムやワークショップ の対象年齢は、小学生以上に設定されている。幼児が含まれる場合も、「幼児から大人ま で」「幼児から小中学生まで」など、幅広い対象年齢の一部にとどまり、幼児のみを対象 としたものは少ない。一方、大原美術館の幼児対象プログラムは、「幼児のみ」を対象と した国内では数少ない教育普及活動である。例年

20

を超える保育施設から延べ

4000

人を 超える幼児が参加し、年間計画で複数回、大原美術館を訪れ、各回異なる活動をしている。

幼児対象の教育普及活動を行っている美術館は、大原美術館の他に、富山県立近代美術、

富山県水墨美術館、東京都現代美術館などがある。いずれも幼児期の美術館での鑑賞体験 の重要性を深く認識した活動である。しかし、大原美術館の幼児対象プログラムは、多く の幼児を定期的に継続して受け入れ、展示室の中で作品を前に、多様な手法による鑑賞を 提供する活動として、他に例を見ないものと言える。

そこで本節では、幼児対象プログラムの背景としての大原美術館の成り立ちと教育普及 事業の変遷、そして幼児対象プログラムの概要を論述する。

(2)

1)奨学金制度は、孫三郎の義兄・原邦三郎が発案し、孝四郎から基金を受け運営しようとしていた。邦三郎の急逝 により孫三郎がその後を受けた。大原孫三郎傳刊行会/編:『大原孫三郎傳』,中央公論事業出版,1983年,31-32頁.

2)大原總一郎:『大原總一郎随想集3』,福武書店,1981年,307頁.

Ⅱ.大原美術館の教育普及活動

1.「大原美術館」の成り立ち

大原美術館は、

1930(昭和5)年、大原孫三郎[1880-1943]により設立された。孫三郎は、

先代・孝四郎[1833-1910]が興した倉敷紡績の後を継ぎ、その発展に努めたが、傍ら社会 事業にも尽力し、倉敷日曜講演[1902]を実施し、大原農業研究所(現岡山大学資源植物科 学研究所)[1914]、大原社会問題研究所(現法政大学大原社会問題研究所)[1919]、労働科 学研究所[1921]、倉敷中央病院[1923]などを設立した。それらの事業の中に、奨学金制度1) があり、1899(明治

32)年から大正末に至るまで、多くの学生が学資を受け、留学の機会

を得た。

奨学生の中に、児島虎次郎[1881-1929]という画学生がいた。虎次郎は、成羽(現岡山県 高梁市)の出身で、孫三郎より1歳年少であった。画学生への援助を、孫三郎は当初迷っ たというが、直接面接の上、虎次郎の真面目な人柄と才能を認め、支援を決めた。以来、

虎次郎は生涯にわたって孫三郎の援助を受けることとなった。

虎次郎は、東京美術学校(現東京藝術大学)で学んだ後、フランスそしてベルギーへ留学 を果たすが、自分だけが恵まれた環境の恩恵に浴するのではなく、日本においても多くの 人々が優れた欧州の美術作品に触れることのできる環境を創りたいと、孫三郎に願い出る。

そしてそれが許され、孫三郎の出資、虎次郎の選択による作品収集がなされた。

虎次郎は、1929(昭和4)年に

47

歳で逝去するが、その早すぎる死を悼んだ孫三郎は、

虎次郎の収集作品並びに虎次郎自身の作品をもとに、1930 年、大原美術館を設立した。

第二次大戦後、孫三郎の息子・大原總一郎[1909-1968]は、美術館は「常に生きて成長 していなければならない」2)という信念のもと、大原美術館を発展させた。虎次郎が集め 得なかったその後の欧州・米国の作品、日本の近代洋画へと収集対象の幅を広げた。また、

孫三郎も好んだ民芸運動に関わる陶器なども収集し、援助した。それらをもって、建物も、

孫三郎が建設した現在で言う本館に加え、分館、工芸・東洋館、児島虎次郎記念館へと大 きく拡張した。

(3)

3)第39回となる2013年は、7月27日・28日に開催された。

4)音楽プロモート会社「くらしきコンサート」の代表は、大原總一郎の長女でプロデューサーの大原れいこ氏が務 めている。

5)2013年5月現在で、132回を数えている。

2.大原美術館の教育普及活動の変遷

孫三郎の孫に当たる大原謙一郎[1940- ]が理事長を務める現在の大原美術館は、多様な 活動を行っている。中でも教育普及事業は、「幼児対象プログラム」「学校まるごと美術 館」など学校団体を含む子どもを主対象とした活動、各種講演会、ギャラリーツアー、ギャ ラリーコンサートなどと種々あり、特徴あるものとなっている。

教育普及活動が、現在の段階に至る過程を概観してみよう。孫三郎は、倉敷日曜講演な ど積極的に講演会を開催していたが、大原美術館の開館に先立って美術講演会を開くなど していた。そのような流れを受け、大原美術館では、1975(昭和

50)年から、毎年7月下

旬頃に「美術講座」を開催している。2日間にわたる講演会は、「倉敷の夏の風物詩」と 言われている3)

また、大原總一郎は音楽を好み、創立周年記念の際には、展示室を会場に盛大な音楽会 を開催した。そこで大原美術館では、「くらしきコンサート」4)との共催で、展示室を会 場とした「ギャラリーコンサート」を、1982(昭和

57)年から開催している

5)

1990

年代は転換を迎え、対象層を拡大する。「美術講座」や「ギャラリーコンサート」

の主な参加者は、美術や音楽に関心が高く、年齢の高い層に限定されがちである。本来美 術館の活動は、何にも制限されない幅広い層に向けられるべきものである。そこで、新た な対象層へ向けた事業への可能性が模索され始めた。

新しい対象として「子ども」に注目し、さらに「幼児」に向けたものから着手した。幼 児を対象としたことは、歴史的にも関わりの深い保育所・若竹の園の存在に大きな要因が あるが、結果、国内では他に例を見ない新しいプログラムの開発につながり、「学校まる ごと美術館」など現在の多様な事業に発展した。

Ⅲ.大原美術館の「幼児対象プログラム」

1.幼児対象プログラム開始の経緯

幼児対象プログラムは、「1993(平成5)年、隣接する保育所・若竹の園(その)との連携

(4)

6)大原美術館教育普及活動この10年の歩み編集委員会/編:『かえるがいる―大原美術館教育普及活動この10年の歩

1993-2002』,財団法人大原美術館・株式会社人文経済研究所,2003年,35頁.

7)若竹の園記念誌編集委員会/編:『若竹の園―75年の保育のあゆみ』,財団法人若竹の園,2000年,198頁.

で始まった」6)。若竹の園は、大原美術館の創立者である大原孫三郎の夫人・寿恵子[1883 -1930]が、初代園長として運営に携わった7)

1993

年当時の館長・藤田慎一郎、業務部長・原道彦、学芸員・米山朱実らと、若竹の 園園長・溝手美津枝、ばら組(年長)担任・松姫順子らが、活動内容などについて検討を重 ね開始した。筆者は、当時学芸補として関わり、以来プログラムに携わっている。 米山 は、アメリカ合衆国で美術史とモダンアートを学び、シカゴ美術館の教育普及部門でイン ターンの経歴があり、その経験がプログラムに反映されている。「絵画鑑賞プログラム」

に始まり、順次「彫刻鑑賞プログラム」「美術館探検」などのプログラムが増えたが、そ れらは若竹の園との意見交換の中から、活動内容の可能性を探り、共に作り上げたもので あり、アメリカ合衆国を主とする美術館教育や鑑賞についての手法に加え、大原寿恵子か ら連綿と受け継がれた若竹の園の保育の考え方も、反映されていると言える。

当初1園との協同であった活動は、多くの保育施設の関心を集めるものとなった。1993

年から

2006(平成 18)年までの参加園数、延べ実施回数、延べ参加幼児数を表1に示す。

表1.幼児対象プログラム実施実績

参加園数(園) 延べ実施回数(回) 延べ参加幼児数(人)

1993 200

1994 200

1995 26 651

1996 16 71 1859

1997 17 96 2482

1998 17 90 2122

1999 21 97 2454

2000 23 100 3424

2001 22 94 2706

2002 22 125 3298

2003 24 110 3189

2004 25 114 3329

2005 24 120 3504

2006 24 120 3546

(5)

2.幼児対象プログラムの概要 (1)実施内容

幼児対象プログラムには、4つの範疇に分けられる

10

種の内容があり、単独もしくは 組み合わせて実施している。参加する保育施設は、年間計画で複数回大原美術館を訪れる。

平均年間

3.5

回、最多の若竹の園は7回来館し、毎回異なる活動をする。各内容について は、以下で概観する。

(2)実施場所

大原美術館は、同一敷地内に所在する本館、分館、工芸・東洋館と、倉敷アイビースク エア敷地内に所在する児島虎次郎記念館から成る。プログラムを実施する場所は、各館の 展示室内を始め分館前庭など内容に応じて異なっている。

(3)実施時期と時間

大原美術館は、伝統的建造物群保存地区であり観光地として知られる岡山県倉敷市の美 観地区内に立地する。そのため、4月下旬から5月上旬にかけての一般的に黄金週間と言 われる時期や、8月、10月、11月は、比較的観光を主目的とする来館者が多い。そこで、

その時期を避けた平日に幼児の受け入れを行っている。時間帯は、午前中に設定すること が多いが、保育所からの受け入れの場合は、午後に設定することもある。1回のプログラ ムは、

50

60

分で構成する。内容の組み合わせによっては、

90

分で構成する場合もある。

1回に受け入れる幼児は

30

名程度までとし、それを超える場合は、時間をずらしプログ ラムを設定する。

(4)実施要員

大原美術館では、全職員を挙げ幼児を歓迎することを基本姿勢としている。直接幼児に 接する職員は、教育普及活動を専門に担当する職員の他、受付や入館券販売、ミュージア ムショップを担当する職員など

10

数名であり、それぞれ研修を受け担当している。「美術 館探検」では、警備職員も直接幼児に接する。また、ボランティアも補助的にプログラム に関わっている。

1回の実施に際し、現在のところ美術館側から2~7名の職員が関わることを基本とし ている。職員数は、受け入れる幼児の人数や内容などにより変動するが、プログラム全体 の進行役が1名、進行役の補助をする職員が1~4名、他来館者への対応をするボランティ アが0~2名である。保育者は、幼児に対する継続的な視点を要する支援や、特別な支援 を必要とする幼児への対応を始め、補助的にプログラムに関わる。

(6)

なお、表記については、進行役の職員を「進行」、進行の補助をする職員を「補助」、

進行と補助を区別しない場合は「職員」とする。職員の職種を明記すべき場合は、例えば

「警備職員」のように記す。

3.内容の概要

幼児対象プログラムでは、(1)絵画鑑賞プログラム「対話」「パズル」「模写」「絵探し」

「お話作り」(2)彫刻鑑賞プログラム「対話」「模刻」「自由制作」(3)「全体鑑賞」(4)「美 術館探検」の内容を、単独もしくは組み合わせて実施している。以下、主に行われている 形態により、プログラムを概観する。

(1)ピクトグラムを使った「導入」

すべてのプログラムで行う「導入」について説明する。表2から表8の「活動」で、「導 入」と記している箇所である。

「導入」では、「絵画鑑賞」「美術館探検」など当日の活動内容への動機付けを行うこ とに加え、「美術館とはどのようなところか」「美術館ではどのようなことに気を付けて 行動するか」を伝え、話し合う。美術館を知るための活動の1つと位置付けられる。

「美術館とはどのようなところか」を伝えるために、「美術館にある作品は「皆の宝物」

であり、美術館は皆の宝物を守る「宝箱」である」と説明する。さらに、「皆の宝物だから、

皆で力を合わせて守ろう」と話を進め、各々が作品保護や鑑賞環境保全のために「どのよ うなことに気を付けて行動するか」を話し合う。

話し合いの助けとして使用するのが、館内に掲示してあるピクトグラムである。手形の 上に斜線がついた「触らない」、大きく口をあけた横顔の形の上に斜線がついた「大声で 話さない」などのピクトグラムを 示しながら、作品保護や鑑賞環境 保全について、図1のように話し 合う。幼児が主体的に考え行動に 移せるよう、進行は言葉かけを工 夫する。一方で、進行の問いかけ に応じ幼児が口々に発する言葉を 等しく受け止め、受容的な雰囲気 を創出することで、幼児が過剰に

図1.ピクトグラムを使い話し合う様子

(7)

行動制限をしたり、続く活動においても萎縮することのないよう配慮がなされている。

(2)絵画鑑賞プログラム「対話とパズル」

幼児は、先ず展示室の中で、列などを作ら ず自由に鑑賞する。次に集合し、進行から「好 きな作品はあったか」、あった場合は「その 理由」や「好きな箇所」などを尋ねられる。

さらに、図2に示すように進行と対話をしな がら、1作品を

10

数名で鑑賞する。

進行は「この絵の中に何が見つけられるか」

「どうしてそう思うのか」など、幼児が詳細に作品を見ることができるよう言葉をかける。

続いてジグソーパズルの活動を行う。複製画と糊付き発砲スチロールパネルを使い職員 が作成したジグソーパズルを用い、4~5名で1グループを作り、グループ毎にパズルを 組み立てながら作品を鑑賞する。パズルの台紙部分は大きなもので約

35

×

45

㎝、ピース は雲形で最も長い部分が

10

㎝程度のもの約

30

個から成る。職員は、グループ間を巡り、

ピースと原作品を見比べて組立てるよう言葉をかける。標準的な進行手順を表2に示す。

表2.絵画鑑賞プログラム「対話とパズル」の実施手順

経過 活動 職員の行動と幼児の活動

00(分) 挨拶 ①幼児を迎える.挨拶し,歓迎の意を伝える.

03 移動 ①建物の中へ誘導する.②初めの展示室を一巡し,アトリウム(幼児が集まって座れる広さと 落ち着きのある場所)へ誘導する.

05 導入 ①美術館はどのような所か伝える.②美術館での約束を話し合う.

13 移動 ①活動する展示室へ移動する.

15 鑑賞 ①幼児は自由に鑑賞し,職員は「好きな絵はあるかな」などと声をかける.②集合するよう伝 える.③好きな作品,その理由などを尋ねる.④1作品を皆で鑑賞する.

35 パズル ①作品の前で,その作品のジグソーパズルを組立てることを伝える.②グループ毎にパズルを 組立てる.職員は,グループ間を巡り作品をよく見るよう促す.

50 総括 ①集合するよう伝える.②活動を振り返る.

55 移動 ①出口へ移動する.

58 挨拶 ①挨拶し,再訪を期待する意を伝える.

図2.進行と対話をしながら絵画を鑑賞する様子

(8)

(3)絵画鑑賞プログラム「絵探しとお話作り」

「お話作り」では、10 数名の幼児が職員と 共に作品を鑑賞し、気付いたことや想像した ことを話し合う。職員は、幼児の発話をつな ぎ合わせ、物語に作り上げる援助をする。

先ず、「絵探し」の活動を行う。作品の一部 を抜き出した教材「絵探しボード」を幼児に 見せる。初めは作品から抜き出したものであ ることを伝えず、何に見えるかを話し合う。次に、活動場所となる展示室へ移動し、ボー ドで示したものが作品の中から抜き出したものであることを伝え、それらがどの作品の、

どこから抜き出したものかを探し出させる。探し出した作品について、表現内容を話し合 う。最後に「お話作り」の活動を行う。展示されている作品からグループ毎に1作品を選 び出し、図3に示すように、職員と対話による鑑賞をしながらお話を作る。作品を観察す ることと、観察から想像することを重視する。標準的な進行手順を表3に示す。

表3.絵画鑑賞プログラム「絵探しとお話作り」の実施手順

経過 活動 職員の行動と幼児の活動

00(分) 挨拶 ①幼児を迎える.挨拶し,歓迎の意を伝える.

03 移動 ①建物の中へ誘導する.②初めの展示室を一巡し,アトリウムへ誘導する.

05 導入 ①美術館はどのような所か伝える.②美術館での約束を話し合う.③「絵探しボード」

絵探し 4~6種類を見せ,何に見えるかなどを話し合う.

13 移動 ①活動する展示室へ移動する.

15 絵探し ①絵探しの活動をする.幼児は,展示室内を自由に動き,探す.職員は,幼児と一緒に 探し,見つけた作品をよく見るよう促す.②集合するよう伝える.③各ボードについて,

どの作品の中にあったかを尋ね,さらなる鑑賞につなげる.

35 お話作り ①作品を見て,物語を作ることを伝える.②グループ毎に1つの作品を選び,物語を作 る.

50 総括 ①集合するよう伝える.②グループ毎にできた物語を発表する.③活動を振り返る.

55 移動 ①出口へ移動する.

58 挨拶 ①挨拶し,再訪を期待する意を伝える.

図3.モネ『睡蓮』他の前でお話作りをする様子

(9)

(4)絵画鑑賞プログラム「模写」

「描く」ことを通し、作品をよりよく「見 る」ためのプログラムである。初めに展示 室を一巡したり、列を作らず自由に鑑賞で きる時間を設け、「好きな絵」「気に入った 絵」を見つけるよう促す。集合し、「どんな ところが好きか」などと問いかけ、「好きな 絵を描く」という動機を明確にする。その 後、図4に示すように、幼児は各々作品の前に画用紙を広げ、描く。用いる画材は、クレ ヨン、パス、色鉛筆など日頃使い慣れているものを、保育施設から持参する。画用紙は、

幼児が使い慣れており負担のない大きさ・色のものを保育施設から持参するが、4つ切も しくは8つ切の白画用紙が多く選択されている。職員は、原作品通りに描くことを求めず、

幼児が作品と対峙し、自分なりの見方で作品を描けるよう言葉かけをする。描き終えると 時間に応じ、幼児が互いの作品を見て感想などを話し合う活動を設ける。標準的な進行手 順を表4に示す。

表4.絵画鑑賞プログラム「模写」の実施手順

経過 活動 職員の行動と幼児の活動

00(分) 挨拶 ①幼児を迎える.挨拶し,歓迎の意を伝える.

03 移動 ①建物の中へ誘導する.②初めの展示室を一巡し,アトリウムへ誘導する.

05 導入 ①美術館はどのような所か伝える.②美術館での約束を話し合う.

13 移動 ①活動する展示室へ移動する.

15 鑑賞 ①幼児は,自由に鑑賞する.職員は,「好きな絵はあるかな」など声をかける.②集合 するよう伝える.③好きな作品,その理由などを尋ねる.④好きな作品を見て描くこ とを伝える.

35 模写 ①画用紙・画板・クレヨンなどを渡す.②幼児は,好きな作品の前へ行き,描く.職 員は,幼児の間を巡り,言葉をかけたり見守ったりする.

50 総括 ①集合するよう伝える.②活動を振り返る.③時間に応じ,互いの作品を見て,感想 などを話し合えるようにする.

55 移動 ①出口へ移動する.

58 挨拶 ①挨拶し,再訪を期待する意を伝える.

図4.ピカソ作品他の展示室で模写をする様子

(10)

(5)彫刻鑑賞プログラム「対話」

図5に示すように、展示室を始め正面玄関 や分館前庭など、美術館の各所を職員と共に 巡り、点在する彫刻作品を対話をしながら鑑 賞する。「これは何だろう」「何をしているの かな」などと問いかけたり、「反対側から見 たら、どう見えるかな」などと言葉をかけ、

作品を様々な角度や距離から見る。時には、

作品の人物のポーズを真似るなど、身体表現の要素を取り入れながら、幼児が細部まで見 ることができるように配慮し、鑑賞を進める。また、「もし持つことができたら、重いか な」「もし触ることができたら、どんな感じだろう」など、重量や質感などを想像しなが ら話し合うことも行う。

既に紹介した絵画鑑賞プログラム「対話とパズル」も同様だが、対話による鑑賞は、職 員が作品について説明するものではなく、幼児が自らの目で作品を見て、気付きや感想な どを発言できるよう、進行が発問し対話をする。その点において、保育内容領域「言葉」

や領域「表現」との関わりが指摘できる。標準的な進行手順を表5に示す。

表5.彫刻鑑賞プログラム「対話」の実施手順

経過 活動 職員の行動と幼児の活動

00(分) 挨拶 ①幼児を迎える.挨拶し,歓迎の意を伝える.

05 導入 (正面玄関で迎えた場合)①彫刻を鑑賞することを伝え,絵画との違いについて話し合 う.②近くに彫刻が展示されていることを伝え,どの作品かを確かめる.③正面玄関 に展示されている作品を鑑賞する.④美術館はどのような所か,美術館での約束を話 し合う(確認する).

15 鑑賞 ①展示室や敷地の各所を巡りながら,立体作品を鑑賞する.②各作品の前で立ち止ま り,「これは何だろう」「何をしているのかな」「反対側から見たら、どう見えるかな」

などと対話をしながら鑑賞する.

50 総括 ①活動を振り返る.

55 移動 ①出口へ移動する.

58 挨拶 ①挨拶し,再訪を期待する意を伝える.

図5.ジャコメッティの彫刻作品を鑑賞する様子

(11)

(6)彫刻鑑賞プログラム「模刻」「自由制作」

保育施設で使用している粘土を用い、立体作品 を作るプログラムである。「模写」同様、作るこ とを通し、作品をよく見ることを目的としている。

彫刻鑑賞プログラム「対話」に続いて行うことが 多く、鑑賞した作品を思い出して作ったり、図6 に示すように分館前庭の芝生広場で実施すること が多いため、眼前にある作品を模刻したり、自由 に立体作品を作ったりする。時候によっては、研修室で行う。

発達過程から、立体を作ることが困難な幼児もあるため、必ずしも立体を作ることを強 要しない。しかし、保育施設からの希望により、立体を作る例を提示する場合もある。例 えば、人体を作りたい時、粘土の塊から体の部位をひねり出す方法、胴・手・足など部位 を作り繋げる方法、図5のジャコメッティ『コンポジション』との関連から、球・立方体・

円柱などを作り組立てる方法などである。制作の間、職員は幼児の間を巡り、「何を作っ ているのかな」などと言葉をかけたり、制作が困難な幼児に作り方の例を示したりする。

時間に応じ、互いの作品を見て感想などを話し合う活動を設ける。標準的な進行手順を表 6に示す。

表6.彫刻鑑賞プログラム「模刻」「自由制作」の実施手順

経過 活動 職員の行動と幼児の活動

00(分) 挨拶 ①幼児を迎える.挨拶し,歓迎の意を伝える.

03 移動 ①活動する場所(分館前庭など)へ誘導する.

05 導入 ①美術館はどのような所か伝える.②美術館での約束を話し合う.③「彫刻鑑賞」でど のような作品を見たか,思い出せるようにする.

13 主 題 と 例 ①粘土で立体作品を作ることを伝える.②鑑賞時に見た物、眼前にある物、自由に作り の提示 たい物など、主題を提示する.③場合によっては、作り方の例を提示する.

15 制作 ①幼児は,分館前庭の中で自由に制作する.職員は,「何を作っているのかな」など声を かけたり,困っている幼児の手助けをする.

55 総括 ①集合するよう伝える.②時間に応じ,互いの作品を見て,感想などを話し合えるよう にする.

58 挨拶 ①挨拶し,再訪を期待する意を伝える.

図6.屋外でロダンの作品を模刻する様子

(12)

(7)「全体鑑賞」

大原美術館の全体像を伝えるプログラムで ある。同一敷地内の3館を巡るが、幼児の体 力や集中力を考慮して、本館、工芸・東洋館を 中心に構成することも多い。ある展示室では 列になり一巡し、ある展示室では列を解いて 自由に鑑賞する。いくつかの作品の前では立 ち止まり、また座るなどし、緩急を付けなが ら鑑賞する。工芸・東洋館は、江戸時代の米蔵などを芹沢銈介の設計により改築し展示施 設としたもので、木煉瓦や陶板の床、蔵の特徴を生かした壁や天井など、建築物としても 興味深い。そこで、展示作品を鑑賞することに加え、図7に示すように、素足で建物内を 歩き、床の感触を体感させたり、壁や天井などの特徴に目を向けることができるよう言葉 かけをしたりする。また、モネが『睡蓮』を描いたフランス共和国・ジヴェルニーのアト リエ跡の池より移植された睡蓮が咲く「睡蓮の池」や、本館と分館の間に位置する大原孫 三郎らが好んだ庭・新渓園も散策する。作品のみならず、建築物としての美術館や、それ を取り囲む自然環境の面白さを含めた「全体」を体感し、鑑賞することを目的としている。

標準的な進行手順を表7に示す。

表7.「全体鑑賞」の実施手順

経過 活動 職員の行動と幼児の活動

00(分) 挨拶 ①幼児を迎える.挨拶し,歓迎の意を伝える.

03 移動 ①建物の中へ誘導する.②初めの展示室を一巡し,アトリウムへ誘導する.

05 導入 ①美術館はどのような所か伝える.②美術館での約束を話し合う.③どんな作品が あるか見に行こうと促す.

15 鑑賞 ①展示室を巡り,鑑賞する.②幼児の興味や集中具合,展示室内の状況により,立 ち止まったり座ったりしながら,対話を通し鑑賞する.③工芸・東洋館では,入口で 靴と靴下を脱ぎ素足になり入館し,展示作品に加え床など建築物としての特徴を体 感できるようにする.

50 総括 ①活動を振り返る.

55 移動 ①出口へ移動する.

58 挨拶 ①挨拶し,再訪を期待する意を伝える.

図7.素足で床の感触を確かめる様子

(13)

(8)「美術館探険」

一般来館者が入ることのない変電設 備、空調設備、貯水タンク、収蔵庫など を見学し、作品保護や鑑賞環境保全のた めの美術館の機能や工夫を伝える。

プログラム初めの導入において、「皆 の宝物を守るために、宝箱自体にも仕組 みや工夫がかくされている」と伝え、「そ の仕組みや工夫を探しに探検に行こう」と、「探検」という幼児にとって魅力的な言葉を 用い動機付ける。進行は、地図や懐中電灯を入れたリュックサックを背負い探検らしさを 演出したり、図8に示すように、トイレットペーパーを使い空調設備について説明するな どし、幼児が楽しみながら美術館の諸機能を知ることができるよう工夫している。

探検には、警備職員も「鍵のおじさん」として同行する。幼児の安全確保と、各設備へ 出入りの際の施錠解錠など施設管理が主目的であるが、大原美術館が全職員を挙げ幼児を 迎える姿勢を示すことにもつながっている。一方、幼児にとっては、美術館の様々な職種 について知り、職員に親近感を持つ機会となっている。標準的な進行手順を表8に示す。

表8.「美術館探検」の実施手順

経過 活動 職員の行動と幼児の活動

00(分) 挨拶 ①幼児を迎える.挨拶し,歓迎の意を伝える.

03 移動 ①建物の中へ誘導する.②初めの展示室を一巡し,アトリウムへ誘導する.

05 導入 ①美術館はどのような所か伝える.②美術館での約束を話し合う.③美術館には作品を 守るための仕組みや工夫がかくされていることを伝え,探検をして見に行こうと促す.

④「探検リュック」の紹介をする.⑤「鍵のおじさん」の紹介をする.

15 探検 ①貯水タンク,変電設備,空調設備,収蔵庫などを見てまわる.

50 総括 ①展示室へもどり.活動を振り返る.

55 移動 ①出口へ移動する.

58 挨拶 ①挨拶し,再訪を期待する意を伝える.

図8.トイレットペーパーを使い空調設備を説明する進行

(14)

Ⅳ.幼児対象プログラムの特徴

第2章第1節では、大原美術館の教育普及活動と幼児対象プログラムの概要を論述した。

幼児対象プログラムには、4つの範疇に分類できる

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種の活動があり、主に7通りの形 態で実施されている。幼児対象プログラムの特徴は、幼児を対象とし、美術館を実施場所 に、原作品を鑑賞することであり、そのために様々な目的や方法、実施形態が取られてい ることである。具体的には、以下のようにまとめることができる。[原則の特徴](1)幼児 のみが対象である、(2)美術館の展示室や諸施設を活動場所とする、(3)原作品を鑑賞する、

[目的・方法の特徴](4)様々な形態、時代、作家の作品を鑑賞する、(5)対話や制作また遊 びを通して鑑賞するなど多様な活動がある、(6)鑑賞のみでなく美術館機能の理解や普及 も目的としている、[実施形態の特徴](7)美術館と保育施設が連携し行っている、(8)年間 計画で行う、(9)教育普及専門職員に限らず様々な職種の職員がプログラムに携わってい る。[原則の特徴]に対し、[目的・方法の特徴]及び[実施形態の特徴]は、相互に関わるも のであるが、端的には次の表のような対応関係にあると言える。

研究における課題[1]美術館における幼児期の鑑賞体験の意義は、幼児対象プログラム の[原則の特徴]と関わり、課題[2]美術館における幼児期の鑑賞体験の望ましい援助は、[目 的・方法の特徴]及び[実施形態の特徴]と関わるであろう。課題[1]についての考察は、第 3章で行うこととし、次節以下では、課題[2]について、幼児が美術館や美術作品に主体 的に関わりを持てるように、幼児の発達過程に応じた職員・保育者・保護者らの援助や、

幼児の関心を美術館や美術作品へ向ける方法について、事例研究を行う。

表9.幼児対象プログラムの特徴

原則の特徴 目的・方法の特徴 実施形態の特徴

(1)幼児のみが対象である (5)対話や制作また遊びを通して (7) 美 術 館 と 保 育 施 設 が 連 携 し 鑑賞するなど多様な活動がある 行っている

(2)美術館の展示室や諸施設を活 (6)鑑賞のみでなく美術館機能の (9) 教 育 普 及 専 門 職 員 に 限 ら ず 動場所とする 理解や普及も目的としている 様々な職種の職員がプログラム

に携わっている (3)原作品を鑑賞する (4)様々な形態、時代、作家の作 (8)年間計画で行う

品を鑑賞する

参照

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