大阪府大阪狭山市大野東377‑2(〒589‑8511) 受付 平成27年2月16日,受理 平成27年3月31日
日本人ネフロン癆患者の実態とその特徴について
塩 谷 拓 嗣 杉 本 圭 相 西 一 美 宮 沢 朋 生 宮 崎 紘 平 岡 田 満 坂 田 尚 己 竹 村 司
近畿大学医学部小児科学教室
Actual status of nephronophthisis in Japan
Takuj i Enya,Kei s uke Sugi mot o,Hi t omi Ni s hi ,Tomoki Mi yazawa,Kohei Mi yazaki , Mi t s ur u Okada,Naoki Sakat a,Ts ukas a Takemur a
Department of Pediatrics,Kinki University Faculty of Medicine,Osaka-Sayama,Japan
抄 録
ネフロン癆は,小児の末期腎不全の原因のうち,約 4〜5%を占める重要な疾患である.この研究では,本邦にお いて,臨床・組織学的にネフロン癆が疑われた35名の患者について,発見動機,腎症状の特徴,腎外症状の分析な らびに NPHP遺伝子解析を実施した.疑い例を含む患者発生状況は,47都道府県から大きな偏りなく患者が発生 しており,地域偏在性はなかった.また,男女比についても,明らかな性差はなかった.同胞での発症は3家系に 認められた.患者年齢の中央値は,12.5歳であった.発見動機は,学校検尿などのマススクリーニング検査による ものの頻度は低く,他の疾患での検査時,あるいは健診で,偶然腎機能障害が発見されたものを含めても全体の50
%以下であった.また発見の引き金となった症状も,腎に関連する症状よりもむしろ,身体発育不全や貧血といっ た腎外症状を呈するものが多かった.尿異常の特徴としては,低比重尿や低分子蛋白尿の頻度が高かった.腎組織 所見としては,腎髄質を中心とする尿細管の囊胞様拡張,尿細管基底膜の不規則性変化は高頻度に存在していた.
NPHP遺伝子解析と日本人の特徴としては,NPHP1異常が最も多く,large deletionが多かった.また,NPHP1,
NPHP3,NPHP4の各遺伝子にヘテロの異常を1個ずつ有する複合型ヘテロ接合体が,欧米と同じくわが国にも存 在することが明らかとなった.
Key words:末期腎不全,腎囊胞,NPHP遺伝子,小児,尿細管
緒 言
ネフロン癆(Nephr onopht hi s i s :NPH)は,腎髄 質に囊胞形成を認める疾患の代表であり,組織学的 には,進行性の硬化,硝子化糸球体を伴う尿細管間 質性腎炎像を呈する.遺伝形式は主として常染色体 劣性遺伝を示すが,弧発例もある .その頻度は,小 児期での末期腎不全(End- s t age r enal di s eas e:
ESRD)のうち,約 4〜5%を占める.病型分類には,
5 歳 頃 ま で に ESRDと な る 乳 児 ネ フ ロ ン 癆
(NPH2),幼少期から学童期までの比較的若年期に 発症し,平均年齢13〜14歳で ESRDに移行する若年
性ネフロン癆(NPH1),平均年齢19歳頃に ESRD至 る思春期ネフロン癆(NPH3)がある.中でも最も頻 度が高いものが若年性ネフロン癆である .
NPHP1
は若年性ネフロン癆の責任遺伝子であ り,約11kbpの長さで,染色体 2q12‑13上に存在し,
nephr ocys t i n‑1分子をコードする .Nephr ocys t i n‑
1は,677個 の ア ミ ノ 酸 か ら な る 蛋 白 で,3 個 の
coi l ed domai n,2個の hi ghl y aci di f i c negat i vel y
char ged gl ut ami c aci d- r i ch domai nと Sr c-
homol ogy3domai nから構成され,分子量は83kD
である.Nephr ocys t i n‑1は,腎では尿細管上皮細胞
の一次繊毛の t r ans i t i on zoneに存在し,病態の基本
は一次繊毛の機能不全,すなわち ci l i opat hyであ る .
NPH1の s econd f orm と し て 同 定 さ れ た
NPHP4は,1p36上に存在し,nephr ocys t i n‑4 (ne- phr or et i ni n)分子をコードする.nephr ocys t i n‑4は,
nephr ocys t i n‑1と協調して,尿細管上皮細胞におけ るシグナル伝達を連係する .
乳児ネフロン癆(NPH2)の責任遺伝子である
NPHP2は,9q22‑31上に存在する .NPHP2 は,
i nver s i n (I NVS)とよばれる分子をコードする遺伝 子を含み,I NVSの異常は,ネフロン癆に類似した囊 胞形成をともなう腫大した腎とともに,内臓逆転位,
膵臓における i l et cel lの異形成,心血管の欠損や形 態異常,肝・胆管系障害などを来し,小児期早期に ESRDに至るもっとも腎予後の悪い型である.
思春期ネフロン癆(NPH3)の責任遺伝子である NPHP3は,3q21‑22上に位置する .NPHP3 は,
di acyl gl ycer ol ki nas e- zet aや r ecept or - l i ke t yr os i n ki nas eなどの尿細管上皮細胞上におけるシグナル
伝達に関与する分子をコードすることが推察されて おり,その異常は,他のタイプと同様に尿細管の機 能的・構造的崩壊をきたす.
欧米諸国での報告では,若年性ネフロン癆患者の 約30〜50% の 症 例 で
NPHP1の 異 常 が 発 見 さ れ る .欧米では本症が疑われた場合は,まず
NPHP1の遺伝子解析が行われ,異常が認められた場合には 通常確認のための腎生検は行われない .一方,わが 国では遺伝子診断が浸透しておらず,確定診断のた めに腎生検が実施されることが多い.しかも,発見 時期は進展期〜末期であることが多く,組織学的診 断はついても,進行を遅らせる処置すら実施できな いことも多い.また,比較的早期に認められる症状 についても不明な部分が多い.
この研究では,臨床・組織学的にネフロン癆が疑 われた35名について,臨床学的,組織学的,遺伝学 的特徴を明らかにし,我が国における本症の患者の 実態を明らかにする.また,NPHP遺伝子の exon 数の多さ,また現在判明している NPHP遺伝子は 全部で13個あるため,遺伝子学的解析に多大なコス トと時間を要する.そこで,cr udeな本症の s cr een- i ng法として,ペプチド抗体を用いた免疫組織学的 手法についても検討した.
方 法
1.患者の登録とインフォームドコンセント 当科および日本各地から紹介された,臨床病理学 的にネフロン癆が疑われた35例を対象とした.近畿 大学医学部倫理委員会での承認を得た後,本人もし
くは保護者から文書でのインフォームドコンセント を得た後,研究を実施した(日本人若年性ネフロン 癆患者の実態と遺伝子異常の同定:承認番号20‑
99).
2.ゲノム DNAの抽出と Pol ymer as e- chai n r eac- t i on(PCR),および NPHP遺伝子配列の決定
患者より約 5mLの末梢血を EDTA- Na採血に より得た.その後,Nucr eoSpi n Bl ood(TaKaRa Bi o)を用いて,ゲノム DNAを回収した.また,コ
ン ト ロ ー ル に は,Human Genomi c DNA
(Cl ont ech,code636401)を用いた.患者から得られ たサンプルおよびコントロールゲノム DNAを滅菌 水にてそれぞれ10ng/uLに希釈した溶液を鋳型と し,TaKaRa PCR Ther mal Cycl er Di ce Gr adi ent
(TaKaRa Bi o)を 用 い て PCRを 行 っ た.PCR pr i merは,del et i onの程度や br eak poi ntを同定す
るため,GenBankによるそれぞれの NPHP遺伝子 配列を基に,約200〜300bpの断片が増幅されるよ う設定した(図1).PCR条件は,Anneal i ng温度
(℃),Anneal i ng時間(秒)はそれぞれ,63℃,15秒
(NPHP1,NPHP3 ),60℃,15秒(NPHP2),60℃,
20秒(NPHP4 )とした.シークエンス解析は,得ら れた PCR産物を酵素反応処理により精製し,シー クエンス用テンプレートを調整した.調整したテン プレート DNAを鋳型として,Bi gDye Ter mi nat or v. 3. 1Cycl e Sequenci ng Ki t (Appl i ed Bi os ys t em
社)を用いて,Dye Ter mi nat or法によりシークエ ンス反応を行った.反応産物はゲル濾過にて精製し,
キ ャ ピ ラ リ ー 型 シ ー ク エ ン サ ー ABI 3730xl
(Appl i ed Bi os ys t em 社)を用いてシークエンス解析 を実施した.解析手順は,Sal omon らによるアルゴ リズムを一部改編したプロトコールを用いた.すな わち,5歳以下の腎機能障害例では,乳児型ネフロ ン癆の責任遺伝子である
NPHP2の解析を最初に 行い,5歳以上の症例では,まず
NPHP1の解析を実 施し,変異がなければ
NPHP4の解析を引き続き行 った.また,両遺伝子ともに変異がなく,かつ末期 腎 不 全 に 至 っ た 年 齢 が16歳 以 上 の 症 例 で は,
NPHP3
の解析を追加した.
3.NPHP2,NPHP3 ,NPHP4 遺伝子産物に対す るペプチド抗体の作成
NPHP1
の産物である nephr ocys t i n‑1は,市販の 抗体(Sant a Cr uz Bi ot echnol ogy)を用 い た.
NPHP2
,NPHP3 ,NPHP4 については,腎尿細管 を構成する他の分子と交差性のない部位をそれぞれ 3箇所抽出し,ペプチドをキャリア蛋白であるウシ サイログロブリンと結合させ,4羽の家兎に100ug/
羽/回を2週間ごとに8回免疫することにより抗体
塩 谷 拓 嗣他84
を作成した.得られた抗体は,Mel on Gel I gG Spi n Pur i f i cat i on Ki t (TaKaRa)を用いて,I gG留分を
精製した.抗体作成に使用したペプチド配列は,
NPHP2:KFMAPGEVDTQDKNKQTAL,
LMENNADPNI QDKEGRTAL,NLQSATQP- KN,NPHP3:HDRDKVKRQFKI FRETKENEI , CNEKKQYDKAEELYERAL,SLKTAHSPNV- FLQQGQR,NPHP4:CGPLDGGALEI LERR- LRV,QTVRKVRAFTSHPQELKTD,EI LI YI ND- HEDKNEEAFを用いた.
4.臨床病理学的調査
当科のデータと検体提供施設にアンケートを行っ た.
結 果
1.NPHP遺伝子解析
NPHP遺伝子異常が証明された症例は19例(表 1)であり,他の16例(表2)では臨床病理学的に ネフロン癆が疑われたが,解析した範囲の NPHP 遺伝子に異常は認められなかった.NPHP1 のみに 異常 を 有 す る も の が13例 で,内 訳 は l ar ge del e- t i on:10例(図2a),par t i al del et i on:1例,poi nt mut at i on2例(E677Q,K334N,het er ozygot e)で,
疑い例を含めると全体の37.1%(13/35)を占めた.
もう一つの若年型の候補遺伝子である
NPHP4は,
2例が L939*(図2b),1例が D1980Gの変異であ り,疑い例を含め全体の8.6%(3/35)であった.ま た興味あることに,
NPHP1G547*と NPHP3S80Lをそれぞれ1個ずつ有する複合型ヘテロ接合体(図 3a),NPHP1E677Qと NPHP4E642L (図3b),
NPHP3
A150Vと
NPHP4D1089G(図3c)の複合 型ヘテロ接合体の存在も明らかになった.これらの 症例でも,単一遺伝子の異常の症例と同じく,20歳 前に ESRDに至っていた.今回,我々の症例では,
NPHP2
の変異例はなかった.
2.患者の臨床組織学的分析
⑴ 患者背景
患者の地域偏在性の検討では,日本各地からほぼ 偏りなく患者が発生しており,地域偏在性はないも のと思われた(図4).男女比は,16:19であり,明 らかな性差はないと思われた.患者年齢分布は,2
〜38歳(中央値:12.5歳)であった.家系内発症は,
3家系に認められた.他は孤発的に発症しており,
家系内に,尿異常者,ネフロン癆確定例および原因 不明な腎機能障害者は認めなかった.
⑵ 発見動機
学校検尿などのマススクリーニング検査で蛋白尿
などの尿異常を契機として発見された症例は18%で
図 使用した NPHP1〜4のプライマーペア配列あった.また,他の疾患での検査時,あるいは健診 で,偶然腎機能障害が発見されたものは23%であっ た.尿異常以外の腎に関連する症状で発見されたも のは約20%であり,その内訳は,多飲・多尿,夜尿・
遺尿,尿糖であった.腎外症状(症例によって重複 あり)で発見されたものは,約37%であり,その内 訳は,身体発育不全・低身長症,貧血・顔色不良,
高血圧,網膜色素変性症による視力障害,同胞がネ フロン癆といったものであった.
⑶ 尿所見の特徴
低比重尿(1.010以下)は,約75%と高率であり,
また,β2‑ミクログロブリン尿症など低分子蛋白尿
は85%と高率であった.これらは,比較的腎機能障 害が軽度な症例でも認められた.
⑷ 腎組織所見
腎 生 検 は,NPHP遺 伝 子 異 常 確 定 例 で13例,
NPHP 遺伝子未確定例(疑い例)で12例,全体で25 例(71%)で実施されており,ネフロン癆の疑い,
間質性腎炎,尿細管拡張,糸球体硬化症などの診断 がなされていた.これらの腎組織を分析した結果,
ほぼ全例に認められた所見は,腎髄質を中心とする 尿細管の囊胞様拡張と尿細管基底膜の不規則性変化 であった(図5a).また,全例ではないが,高頻度 に存在した腎組織変化としては,硬化糸球体の出現,
表 検索した NPHP遺伝子異常を認めた患者のプロファイル(★:同胞発症例)
表 検索した NPHP遺伝子に異常が見つからなかった患者のプロファイル(★:同 胞発症例)
塩 谷 拓 嗣他 86
図 NPHP1の deletion解析⒜と NPHP4解析⒝
⒜ Lane 1と Lane 6,7は NPHP1の内側と外側に,Lane 2は,NPHP1とそれに隣接する MALL 遺伝子の接合部に,Lane 3〜5は,NPHP1を約300bpの断片を増幅させるプライマーを用いて PCRを実施した.ほぼNPHP1の1.2Kbpの全欠失が確認される.
⒝ TTGが TAGに置換されることによりストップコドンを形成し,以下のアミノ酸合成が停止 されている.
図2a 図2b
図 異種間の NPHP遺伝子にヘテロ変異を認める複 合体ヘテロ接合体例
⒜NPHP1(G547*)と NPHP3(S80L)にそれ ぞれ1個ずつヘテロ変異を有する複合型ヘテロ接 合体例
⒝NPHP1(E677Q)と NPHP4(E642L)にそれ ぞれ1個ずつヘテロ変異を有する複合型ヘテロ接 合体例
⒞NPHP3(A150V)と NPHP4(D1089G)にそ れぞれ1個ずつヘテロ変異を有する複合型ヘテロ 接合体例
尿細管・間質への細胞浸潤,尿細管・間質線維化が あった(図5b).
3.免疫組織学的アプローチ
NPHP1
の遺伝子産物である nephr ocys t i n‑1に 対する市販のモノクローナル抗体を用いた免疫組織 染色(図6a),NPHP2 ,NPHP3 ,NPHP4 の遺伝 子産物に対する精製ペプチド抗体を用いた免疫組織 学的染色(図6)では,健常者における尿細管上に おける免疫反応が認められ,ネフロン癆患者では欠 失していた.乳児型ネフロン癆患者の腎組織は,
NPHP2
が同定される以前に当科で経験した疑い症 例の腎組織を用いて染色した.
考 察
腎尿細管上皮細胞はインテグリン分子を架橋とし て基底膜と連結しており,細胞外から細胞内へ伝達 されるシグナルは,これを介して核内に伝達され る .Nephr ocys t i nは,腎 docki ng pr ot ei nとして,
細胞対細胞,細胞対細胞外マトリックスのシグナル 伝達に重要な役割を有し,N- cadher i n,cat eni n,
β- cat eni nと協調して細胞接着にも関与する .ま た,β- t ubul i nと伴に,act i n cyt os kel et on構造に影 響を与え,細胞骨格の維持や細胞極性の変化にも寄 与している.細胞内シグナル伝達の役割については,
nephr ocys t i nは,Cr k- as s oci at ed s ubs t r at eと複合 体を形成し,さらに Pyk2の燐酸化を促進させ,
Pyk2依存性経路を介して細胞内情報を核内まで伝 達する .また最近の研究では,一次繊毛上で,α-
図 ネフロン癆患者の腎病理所見⒜腎尿細管基底膜の不規則性変化(→)がみ られる(Methenamine-silver染色,×200).
⒝尿細管間質への細胞浸潤と硬化糸球体(→)
が 出 現 し て い る(Periodic acid-Schiff染 色,×100).
図 我が国におけるネフロン癆患者(疑い例を含 む)の地域別発生状況
図 NPHP遺伝子産物に対する免疫組織学的染 色
抗 nephrocystin‑1抗体を用いた免疫組織染 色(Peroxidase染色,a and b).健常者にお いて,主として近位尿細管上皮に発現が認め られるが⒜,ネフロン癆(若年型)では陰性 である⒝.NPHP2,NPHP3,NPHP4の遺 伝子産物の配列を基に作成したペプチド抗体 を用いた免疫組織染色(蛍光抗体法,c to h).
健常者ではいずれも尿細管上皮に発現が観察 されるが(c,e,and g),ネフロン癆患者で は陰性である.(d,f,and h).
塩 谷 拓 嗣他 88
tubulinとともにその機能維持に寄与するとともに,
細胞内小器官におけるシグナル伝達にかかわる役割 も明らかにされている .したがって nephrocystin 分子に異常を生じると,細胞と細胞外マトリックス とのシグナル伝達,細胞間接着,細胞骨格,細胞極 性や一次繊毛の機能,細胞内情報の核内への移行に 障害が生じ,腎尿細管上皮の構造的・機能的障害を 引き起こす.
今回の検討では,NPHP遺伝子に異常を認めたも のは全体の54.2%であり,残りの約45%の症例では,
臨床組織学的にネフロン癆が疑われても,解析した 範囲内の NPHP遺伝子に異常を認めないものであ った.このことは,これら以外の他の NPHP遺伝子 の異常,あるいはネフロン癆とは異なった疾患を解 析している可能性が考えられた.NPHP遺伝子異常 の日本人の特徴としてはNPHP1異常が最も多く,
またそのタイプとしては,点変異よりむしろ large deletionが多かったことから, NPHP1は,比較的欠
失の生じやすい遺伝子である可能性がある.NPHP1 の異常は,欧米での報告 とほぼ同程度の頻度であ った.
一方,最近になり,乳児型の遺伝子であるNPHP2 が,他の NPHP遺伝子とともに,思春期ネフロン癆 患者において複合型ヘテロ接合体として存在する報 告や,異種の NPHP遺伝子異常をそれぞれ1個ず つ有する複合型ヘテロ接合体が存在することも報告 されている .我々の今回の検討により,日本人の ネフロン癆患者でも,欧米と同様な NPHP遺伝子 間をまたぐ複合型ヘテロ接合体症例が存在すること が明らかとなった.NPHP4は,地域性,血族性のな い2例で,L939*(IVS-20T>A)を認めた.この変 異は,exon21において TTGが TAGに置換される ことによりストップコドンを形成し,以下のアミノ 酸合成が停止してしまうものであり,日本人におけ る hot spotである可能性もある.
患者背景の分析では,疑い例を含む本症の患者発 生状況は,47都道府県から大きな偏りなく患者が発 生しており,地域偏在性はないことが分かった.こ のことは,NPHP遺伝子異常は,そのヘテロ接合体 は,一地域に集中して存在するものではなく,全国 に分布していることを示している.また男女比につ いても解析した限りにおいて,明らかな性差はなか った.患者発見年齢の中央値は,12.5歳であったが,
幼児〜成人にまで分布しており,本疾患についての 臨床学的表現型にはかなりの幅があることが推察さ れる.発見動機は,これまでの報告と同様,学校検 尿などのマススクリーニング検査によるものの頻度 は低く,他の疾患罹患時の検査あるいは健診で偶然
腎機能障害が発見されたものを含めても全体の50%
以下であった.また発見の引き金となった症状も,
腎に関連する症状よりもむしろ身体発育不全や貧血 といった腎外症状を呈するものが多く,このことは 他施設での報告 と同様に,われわれの検討におい ても本疾患の早期発見の困難さを物語っている.す なわち,アルブミン尿の検出を優先した現在の試験 紙法の盲点を突く疾患である.同胞での発症は3家 系に認められ,常染色体劣性遺伝と思われたが,孤 発例も少なからず存在すると思われる.今後,両親 を中心とした家系内での遺伝子解析も必要である.
早期発見の手掛かりとなる症状については,尿所 見としては低比重尿や低分子蛋白尿が比較的有力で ある.低身長,身体発育不全や貧血といった腎外症 状も頻度が高く,本症を疑わせる所見であるが,こ れらは腎機能障害の進行過程に認められる諸症状で あり,早期発見の手がかりとはなりにくい.しかし,
これらの症状を主訴とする小児には,常に本症を念 頭に置いた検査が必要である.一方本症には,腎外 症状を有する例もある .特に,網膜色素変性症
(Senior-Loken症候群),眼球運動の失調(Cogan症 候群),小脳失調症,肝線維症,骨格や願貌の異常な ども発見のためのポイントとなる .今回の検討 では,本症の腎外症状としてもっとも頻度の高い眼 病変(網膜色素変性症)は,同じNPHP1の deletion を示す症例でも,認めるものと認めないものがあり,
その理由については明らかではなかった.また本症 の類似病変は,Jeune症候群,Joubert症候群,oro- facial-digital(OFD1)症候群,Meckel症候群など で み ら れ る た め ,注 意 が 必 要 で あ る.
NPHP1mRNAは非常に広範囲な組織での発現が 観察されるが,腎以外では,脳下垂体,脊椎,精巣,
リンパ節や甲状腺などでの発現量が高い .脳・神経 系での発現量は高く,その部位と一致した腎外合併 症として小脳失調症がある一方で,肝線維症のよう に,発現レベルが必ずしも高くない臓器にも症状が 出現することがあるため,腎外徴候の発現における nephrocystinの役割については,いまだ解明されて いない部分が多い.
NPHP遺伝子は,現在までに13種類同定されてい る .NPHP1異常の頻度や exon数の多さを考慮し た時,遺伝子学的確定診断のために多大なコストと 労力が必要となり,遺伝子診断をルーチン化するこ とはなかなか難しい.そこで本症を crudeにスクリ ーニングするため,ペプチド抗体による免疫組織学 的解析法を試みた.得られた抗体は,健常者におけ る尿細管上での発現が確認され,患者では陰性であ り,本症の診断の first stepとしては,有用である.
しかし,必ずしも蛋白発現レベルと遺伝子異常が相 関する訳ではなく,蛋白発現減弱例では,最終的に 遺伝子解析が必要となると思われる.
本症の治療に関しては,現時点では本症に対する 特別有効な治療法はなく,低 Na血症や高K血症あ るいは代謝性アシドーシスについての,食事療法,
イオン交換樹脂,重炭酸塩の投与が中心となる.動 物あるいは原虫レベルでの薬物療法の取り組みがあ る.pcy mous eにおいて,G- pr ot ei n- coupl ed cal - ci um s ens i ng r ecept orを刺激し,尿細管上皮細胞内 の Caと cAMP濃度を高めることにより囊胞の進 展を抑制しえたとする報告や,ci l i opat hyをもつ Ze- br af i s hに,r apamayci nや r es covi t i neを作用させ ることにより,ci l i aの形態・機能が温存できたとの 成績がある .しかし,実用化にはまだまだ時間を 要すると思われる.Nor t h Amer i can Pedi at r i c Renal Tr i al s and Col l abor at i ve St udi es (NA-
PRTCS)らの報告 をはじめ,生体腎移植の予後成 績は良好であるとの報告が多い.また,家族に対す る遺伝カウンセリングも重要であると思われる.
謝 辞
本研究の一部は,厚労労働科学研究補助金,難治性疾患克服 研究事業(腎・泌尿器系の希少難治性疾患群に関する調査研究 班:代表 神戸大学教授 飯島一誠)および森永奉仕会研究 費(2013〜2014,竹村 司)による.深謝いたします.
文 献
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