小型衛星搭載用の省電力高速送信機の開発 *
渡邊 宏弥
†a)深見 友也
†齋藤 宏文
††b)冨木 淳史
††小島 要
†††新家 隆広
†††川元 光一
†††重田 修
††††布村 仁志
††††High Speed Downlink Transmitter for Small Satellite
∗Hiromi WATANABE
†a), Tomoya FUKAMI
†, Hirobumi SAITO
††b), Atsushi TOMIKI
††, Kaname KOJIMA
†††, Takahiro SHINKE
†††, Kouichi KAWAMOTO
†††,
Osamu SHIGETA
††††, and Hitoshi NUNOMURA
††††あらまし 相乗り打ち上げ可能な重量数十kgの小型衛星による地球観測能力を飛躍的に高めるためには,高 速なダウンリンクが必要である.アンテナ等の小型化が可能なXバンドに着目し,高効率なGaN(窒化ガリウ ム)を用いたHEMT(高電子移動度トランジスタ)による電力増幅器の開発,及び,デジタル処理回路のクロッ ク周波数を低く抑えるデジタル処理技術などの工夫を行い,搭載送信機を開発した.帯域150MHz,RF出力約 2W,消費電力約22W,装置重量約1.4kgで,300Mbpsを超えるビットレートで送信可能となった.
キーワード 小型衛星,地球観測,ダウンリンク,GaN-HEMT SSPA,高速通信
1.
ま え が きロケットの打ち上げ能力向上とともに人工衛星は機 能・性能が増加し,大型衛星が主流となってきた.重 量が最大で数トンにまで増大し,それに伴い,
10
年 以上にもなる開発の長期化や数百億円という費用が負 担となりつつある.そのような問題点を改善する目的 で,重量100kg
以下,予算数億円程度の地球観測や 災害監視用途の小型衛星に目が向けられるようになっ てきた.日本では70kg
級の小型衛星「れいめい」[1]
†東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻,東京都
Department of Electrical Engineering and Information Sys- tem, The University of Tokyo, Hongo 7–3–1, Bunkyo-ku, Tokyo, 113–8656 Japan
††宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所,相模原市
Institute of Space and Astronutical Science, JAXA, 3–1–1, Yoshinodai, Chuo, Sagamihara-shi, 252–5210 Japan
†††株式会社アドニクス,八王子市
Addnics Corp., 4–4–15, Daimachi, Hachioji-shi, 193–0391 Japan
††††アイ電子株式会社,川崎市
AI Electronic Ltd., 2–6–5, Kuriki, Aso-ku, Kawasaki-shi, 215–0033 Japan
a) E-mail: [email protected] b) E-mail: [email protected]
*本論文は,システム開発・ソフトウェア開発論文である.
に続き,名古屋大学による
50kg
級のChubuSat-1 [2]
等幾つかの小型衛星のプロジェクトがあり,新たな宇 宙産業を目指した研究開発が進められている
[3]
.小型衛星の応用範囲の拡大を考えた場合,特に要求 されることの一つにダウンリンク
(
下り通信)
の容量が ある.特に近年地球規模での自然災害や環境モニター に対して社会的な要請が高まっているが,それらの用 途に欠かせない高解像度のカメラや合成開口レーダ(
SAR
)は多量のデータを発生する.それらを迅速に 地上に伝送するために,大容量のダウンリンク通信が 強く求められる.しかしながら,小型衛星は電力や重 量の制約が多い事が,ダウンリンクの容量を増やすこ との障害になっている.このような状況を解決すべく,少ない電力と重量リソースの小型衛星にも搭載できる 高速な搭載送信機,及び,地上局の研究開発を行って きた
[4], [5]
.本論文では,小型衛星搭載用の高速送信 機の開発について述べる.2.
では人工衛星からのダウンリンク通信及び方針に ついて記述し,3.
では衛星と回線計算について説明す る.4.
ではGaN-HEMT
を用いたX
バンド固体電力 増幅器(SSPA
)について述べる.5.
では電力ドライ バ増幅器について,6.
と7.
では送信機とその復調試験結果について述べる.
2.
低軌道衛星のダウンリンクと方針 低高度極軌道をとる地球観測衛星では,通信可能と なる可視時間は,日本の地上局では1
日に4
から5
回ほど(
うち半分が夜)
であり,各10
分以下に制限さ れる.通信時間の制約を解消する方法としては,高緯度地 方の受信局を利用することで,
5–8
倍の通信時間が確 保できる.あるいは,データの中継を行うリレー衛星 を用いる手法もあるが,静止軌道にある中継衛星との 通信機能は小型衛星には負担となる.低コストで小型衛星のダウンリンク容量を増加させ る適切な手法はダウンリンクのビットレートを増やす ことである.しかしビットレートの向上にも,課題が ある.図
1
は低高度軌道の衛星についてダウンリンク のビットレートと衛星質量の関係の図を引用したもの である[6]
.ビットレートは衛星質量と強い正の相関 を示しているが,その主な理由は高速な送信機には大 電力と搭載スペースが要求されるためである.典型的 な大型衛星のダウンリンク搭載系は,最大数百Mbps
を実現するために100W
から200W
の電力を消費す る.しかしながら50kg
程度の小型衛星では発電能力 は高々100W
程度であり,放熱能力にも限界がある.ダウンリンクシステムに割り当てることができる電力 は
100W
の2
割の20W
ほどになる.このため,従来 の小型衛星では消費電力が10W
程度で,データレー トは1Mbps
以下の低い通信系を使い続けることが多 かった.そこで本研究では,近年の地上無線通信分野での技 術発展成果を取り入れつつ,小型衛星に搭載可能な高 速なダウンリンクシステムを安価に開発することを目 標としている.
地球観測の衛星に割り与えられた帯域の一つとし て
X band (8025MHz
〜8400MHz)
があり,利用でき る帯域幅は最大で375MHz
である.衛星通信では信 号対雑音電力比(S/N
)が厳しいことから,BPSK
やQPSK
変調が用いられることが多い.しかしながら これらの変調方式は帯域利用効率が悪い.帯域を占有 した場合でも,仮にロールオフ係数0.5
としてシンボ ルレートは帯域の67%
となり,隣接帯域への妨害防止 で更にその90%
がシンボルレートとなる.誤り訂正 により実効的なビットレートが90%
になると見積もっ た場合,各々202Mbps
,405Mbps
止まりとなってし図1 低軌道衛星のダウンリンク速度と重量の関係[6]
Fig. 1 Downlink bit rate vs. satellite mass for low earth orbit [6].
まう.
帯域利用効率を上げるためには,振幅・位相の多値 変調が必須であるが,以下の理由で消費電力の著しい 増加を招く.多値変調方式は信号品質の劣化に弱く,
送信機を低歪率で動作させなければならない.そのた め通常は送信機内部のアンプを線形動作領域で使用し ており,その領域ではほとんどのアンプでは効率が低 いからである.
衛星通信で使われる
X band
のパワーアンプは出力 に応じて,TWTA (travelling wave tube amplifier,
進行波管増幅器)
やGaAs FET
を用いたSSPA (Solid State Power Amplifier)
が用いられている.近年高効 率を実現できるデバイスとしてGaN-HEMT (
窒化ガ リウム–
高電子移動度トランジスタ)
の開発が進み,高 周波用としてX
バンドまで利用可能なものが入手可 能になってきた[7]
.また高速化するとデジタル演算部にも通常数百
MHz
という高い動作周波数を要求し,消費電力が増加する 要因となる.デジタル演算部の消費電力を抑えること は今回の重要な課題の一つであった.3.
開 発 目 標3. 1
開 発 目 標本研究では低軌道の
50kg
〜100kg
級地球観測衛星 において,実用的な総消費電力20W
以下でX
バンド ダウンリンクの高速化を目指すものである.誤り訂正 込のデータレートは高速モードで300Mbps
以上,と いう仕様を実現することを目標としている.筆者の グループでは,送信機と同時に受信系の研究も行って おり,畳み込み符号,ターボ等化を用い強力な誤り訂 正によりE
b/ N
0= 10dB
以上においてビット誤り率図2 ほどよし4号衛星(ほどよしプロジェクトチームよ り提供)
Fig. 2 “Hodoyoshi-4” satellite (provided by Hodoyoshi project).
表1 ダウンリンクシステム概要 Table 1 Downlink system.
(Bit Error Rate
,BER) 10
−6以下を実現する受信機 の開発を進めている[4], [5]
.本研究で開発したダウンリンクシステムは
“
ほどよ しプロジェクト[3]
による66kg
級の小型衛星「ほど よし4
号」のミッション機器として実証試験を行う(図
2
).「ほどよし4
号」では通信機器はテレメトリ・コマンド系として
S
バンドのものを搭載しており,本 研究で開発を行ってきたX
バンドのダウンリンクシス テムをミッション機器として搭載する.周波数の高いX
バンドを用いることにより,小型衛星で多用されるS
バンド以下では難しかった広帯域化やアンテナの小 型化などを可能とする.RF
出力が8.16GHz
で平均出 力電力が2W
のとき消費電力は,送信機全体で20W
以下が目標である(表1
).変調方式はシンボルレート100MHz
の16QAM
を基本の高速モードとし,他に はシンボルレート10MHz
のQPSK
を使用する低速 モードをもち,オプションとして64QAM
やAPSK
も実験的に使用可能とする.3. 2
回 線 計 算「ほどよし
4
号」は,極軌道を通る高度約660km
のLEO (Lower Earth Orbit)
の衛星であり,約1
時間30
分で地球を一周する.地上局を神奈川県相模原市に 置き,1
日に4
〜5
回(
うち半分が夜)
の各10
分以下 の可視時間をもつ.通常,高速モードでは指向性をもち利得が高い
MGA (Middle Gain Antenna)
を衛星に用い,地上局に指 向させることで高いデータレートを目指す.シ ン ボ ル レ ー ト
100MHz
で300Mbps
の と きBER = 10
−6 を目標とする[8], [9]
.これはコーディ ングレート0.75
の場合に相当する.理想的な16QAM
信号に白色雑音が加わった場合BER
は以下の式で表 され,BER < 10
−6を目指す場合にはE
b/ N
0が14dB
以上必要となる.P
b,16QAM= 3 2 k erfc
kE
b10 N
o( k = bit / symbol , 16QAM
の場合k = 4)
このような高い
E
b/N
0が要求される条件の場合は,送信機で問題となるパワーアンプの歪に対して特に 敏感となる.歪はある種のノイズとみなすことができ て,
N
0 に加算されてしまうからである[10]
.一方で 本プロジェクトではターボ符号を用いたエラー訂正方 式を採用しており,元のBER
が3 ∼ 5 × 10
−2程度 より小さい場合には,誤り訂正後に急速にBER
が改 善するwaterfall
と呼ばれる性質が特に強い.この場 合waterfall
現象が起きているよりもE
b/ N
0が大きい 領域で回線が成立してさえいれば歪によるBER
悪化 は十分に無視できる.したがってコーディングレート0.75
の場合,E
b/ N
0= 10dB (C/N
0= 94dBHz)
を 回線成立要件とした[8], [9]
.高速モードで用いる
MGA
の利得は14dBi
であり(
図3)
,衛星の高度30
◦で地上局に指向させた場合,送信機出力は
33dBm (2W)
とすれば,上記の条件で リンクマージンは1
〜2dB
確保され,衛星を見た仰角 が30
◦よりも高い場合は衛星と地上局の距離が近づく のでより多くのリンクマージンが確保される(
図4)
. 一方で低速モードの場合は高速モードと比べてシ ンボルレートが1/10
の10Msps
になり,変調方式が16QAM
からQPSK
になることによりbit/Hz
が半 分になる.この場合,非線形チャネルの影響を考慮し ない単純な見積もりを行うと,シンボルレート分で+10dB
,変調方式分で+6dB
がEb/N0
に加えられ,図3 採用したMGAのパターン Fig. 3 pattern of MGA.
図4 衛星と地上局の位置関係
Fig. 4 Position of Satellite and Ground station.
表2 回 線 計 算 Table 2 Link calculation.
アンテナの利得減少分が
− 9dB
から− 13dB
となるの で,全て足し合わせると高速モードの場合に比べて3
〜7dB
ほど大きいリンクマージンがあると考えられ る.しかしながら高速通信としての趣旨から外れるの で,この節で簡単に触れるにとどめておく.4. GaN-HEMT
固体電力増幅器GaN
半導体はバンドギャップが3.45eV
と広いこと図5 16QAMの場合の電力出現頻度(α0.5, root nyquist) 破線:理想16QAM,実線:理想OBO 1dB, 2dB, 3dB 点線:平均電力(0dB)
Fig. 5 Average power distribution (APD) Dashed:
Ideal 16QAM, Solid: IdealOBO 1dB, 2dB, 3dB Dot: Mean power (0dB).
から高い耐圧をもち,
SSPA (Solid State Power Am- plifier)
としてパワーアンプの高効率化等に利点があ る.高周波向けとしてX
バンドでも利用可能なGaN- HEMT
が入手可能な状況になりつつある[10], [11]
.本送信機での変調方式は,位相振幅の多値変調であ る
16QAM
を基本とすることから,QPSK
より変調 波のダイナミックレンジが大きい.そこで,電力の出 現頻度APD (Average Power Distribution)
とバック オフの関係から,パワーアンプに必要な能力を見積 もった.図5
は,理想的な飽和をもつ電力増幅器に,16QAM
信号を入力した場合の電力出現頻度を表して いる.16QAM
のコンステレーションの16
個の信号 点のうち,最大電力となるものは4
隅の信号点であり,全信号点に対して占める割合は
4 / 16 = 25%
となる.更に受信シミュレーション
[5], [8], [9]
と合わせて出力 バックオフ(Output Back Off
,OBO
)は約2
〜3dB
以上確保する必要があると考えた.一方送信機出力点 にて必要な平均電力は33dBm
であり,電力増幅器の 直後に入るフィルタやアイソレータの損失は約1dB
で あった.要求される平均出力電力は34dBm
,飽和出 力電力は36–37dBm
以上となりこれを目標にパワー アンプを作成した(表3
,図6
)[12], [13]
.試作品の計測について図
7
図8
に示した結果を説明 する.出力電力の飽和点は37dBm
に届かなかったも のの,特に位相回転量(AM-PM
特性)
の線形性が高 く+ − 5
◦以内と以前検討していた同一出力のGaAs FET
を用いたパワーアンプに比べ1/3
近くとなった(図
7
)[4]
.周波数依存性も150MHz
の全帯域にわたっ て少なく電力特性(AM-AM
特性)
の偏差は1dB
以表3 パワーアンプ仕様 Table 3 Power amplifier specifications.
図6 GaN-HEMTを用いた2W級8GHz帯パワーアン プ試作品の写真
Fig. 6 Photograph of GaN-HEMT class-AB 2W power amplifier engineering model (EM).
図7 SSPA試作品の実測RF特性 実線:8.085GHz,破 線:8.16GHz,点線:8.235GHz
Fig. 7 RF Characteristics of SSPA engineering model Solid: 8.085GHz, Dashed: 8.16GHz, Dotted:
8.235GHz.
下に収まっていた.図
8
はPAE (Power Added Effi- ciency,
電力付加効率)
を表しているが,最高効率点で47%
強であった.この値もまたほぼ全ての出力領域で
GaAs FET
を 用いたパワーアンプより10
ポイントほど高いもので あり,多値変調で広いダイナミックレンジを用いる場 合でも平均効率が低下しにくくなるという利点となる.同時に電源電圧を変化させて最適動作条件から外れ た場合の測定を行った.これも全領域で高効率を維持 しており,将来的にはドライバ段に用いている
GaAs PHEMT MMIC
の置き換えとして考えた場合でも有 利な条件となる.図8 SSPA試作品の実測電力特性 実線:電源電圧28V,
破線:電源電圧22V
Fig. 8 PAE characteristics of SSPA EM Solid: DC28V, Dashed: DC22V.
図9 ドライバーアンプとPAの位相回転量を比較 Fig. 9 Phase shift VS power (Driver and PA).
5.
ドライバ段歪の少ないパワーアンプを用いた場合,相対的にド ライバアンプで発生する歪が問題となってくる.一般 にバックオフを多くとれば線形性は改善するが消費電 力が大きくなる.そこで定格出力の異なるトランジス タを用いたアンプを調整し,位相シフト量がパワーア ンプのそれに比べ許容できる動作点を見つけ出した.
パワーアンプの許容入力に等しい
1W
級と,より能力 が高い2W
級のGaAs PHEMT MMIC 2
種類をドラ イバアンプの候補として選定し最適点を探った[14]
. 図9
にはパワーアンプの位相回転量と1W
級のIC1
をほぼ定格出力で用いた場合と2W
級のIC2
を定格 の7V
から5V
まで電圧を下げた消費電力を同等にし た動作点の位相回転量を示す.IC1
では飽和領域近く で位相回転量がPA
のそれより大幅に悪化し,IC2
で は良好な結果を得たため,IC2
を採用することとした.6.
送信機エンジニアリングモデル前章までの結果を元に多値変調に対応した
X
バンド図10 Xバンド送信機試作品の写真1階にアナログ(RF) 部,2階にデジタル部
Fig. 10 Photograph of the new transmitter (engi- neering model including power supply) 1st floor: Analog RF block and 2nd floor: Digi- tal block.
表4 送信機エンジニアリングモデル諸元 Table 4 X-TX Engineering model specifications.
図11 デジタル部のブロック図 Fig. 11 Block diagram of digital part.
図12 アナログ(RF)部のブロック図 Fig. 12 Block diagram of analogue part.
送信機のアナログ部及びデジタル部を作成した
(
図10
, 表4
,図11
,図13)
.全消費電力は約22W
に抑える ことに成功し,その内訳はデジタル部約3W
,PA
約6W
,ドライバアンプ約4W
,その他約9W
であった.6. 1
デジタル信号処理デジタル処理ブロックでは,
CCSDS 131.2-B-1
を 基にしたコーディング処理済みの信号を受け取りアナ ログI/Q
ベースバンド信号を生成する(図11
).シンボルレートは
100MHz
または10MHz
であり,変調方式は
16QAM
とQPSK
に加え将来的なオプショ図13 LPFの特性(利得と群遅延の計算値) Fig. 13 LPF (Gain and Group delay).
ンとして
64QAM
,APSK
も生成可能になっている.低消費電力化のため
2
基のFPGA
を125MHz
クロッ クで,ベースバンド用12bitDAC
を250MHz
で駆動 しているので100Msps
の場合2.5
倍オーバサンプリ ングとなる.コサイン・ロールオフ係数が0.5
なので ベースバンド帯域が75MHz
とDAC
のナイキスト周 波数125MHz
に近くなる.そこで図13
に示すような7
次だ円関数特性の急しゅんなLPF
を用い折り返し ノイズを遮断している.フィルタ次数が高いことから 肩特性に対する素子感度が高いことが問題になるので,極を阻止帯域にもたせただ円関数となっている.また フィルタ素子の値のずれを計算に入れ信号品質に及ぼ す影響のシミュレーションを行った結果,大きな問題 はないとの結論を得た.以上のように動作クロックが 低くできるようにした結果最終的にはデジタル信号処 理ブロックの消費電力を
3W
に抑えることに成功した.6. 2
熱と送信電力制御開発した送信機はバックオフ
(OBO)
を小さな値で 用いるため,PA
の飽和出力が変動した場合が問題と なる.バックオフが多めに確保されていれば飽和出力 の多少の変化では信号品質に与える影響は少ない.そ してそのことを前提に通常はALC (Automatic Level Control)
が目標平均電力を一定に保つように掛けられ る.しかし本送信機では位相・振幅の多値変調を用い ながらもバックオフをわずか2–3dB
程度で用いる設 計にしていることから,目標電力を一定に保つALC
制御ではバックオフの変化が問題となる.また,小型 の衛星でかつ放熱が良くない真空中で15
分以下の通 電時間ということから,動作中のPA
温度変化は大き くなる運用になる.そこで我々はPA
のベアチップを 実装する基板を金属製とすることで熱結合を良くし,直近に温度センサを設けた.温度センサの読みに応じ て
ALC
の制御目標電力を変更し,バックオフを一定図14 送信機の実測飽和出力とバックオフ2dB時の曲線 Fig. 14 Saturation RF Power and OBO 2dB.
に保つ制御を実装することで非線形性による歪発生量 の安定化を図った(図
14
).なおバックオフの制御目 標は歪を観測しながら決定し,約2dB
としている.7.
復 調 評 価送信機エンジニアリングモデルの出力信号につい て復調評価を行った.参考文献
[15]
では外部の任意 波形発生装置を用いていた.デジタルデータは送信 機内部に保持している既知の乱数によるダミーデー タを用い,ノイズフリーのキャプチャし評価を行った(図
15
,図16
).またソフトウェアにてノイズ付加を行 い,BER
計測を行った.実験当時には送信機のDPD
部分及び受信機の等化システムと誤り訂正は実装を 完了しておらず評価に用いていない.EVM (Error Vector Magnitude)
は高速モードで9.4%
であった.また
16QAM
ではQPSK
と比較してダイナミック レンジが大きく,平均よりも大きな電力を要する信号 点が存在することから,特に今回のようなバックオフ が少ない動作の場合に出力段の歪により図16
に示す ような,E
b/ N
0が良好な場合でのBER
がフロア状に なるという悪化を招く.しかし今回採用したターボ符 号を用いた誤り訂正では,誤り訂正後に急速にBER
が改善するwaterfall
と呼ばれる性質が特に強いこと から,このようなBER
の悪化は問題とならない.開発した送信機を衛星に搭載し,地上で受信実験を 行い
348Mbps
という結果を得た[16]
.8.
む す び小型衛星で高速ダウンリンクを実現するには,低消 費電力と小型である事に加えて運用の実態に合わせた 動作モードの設定が重要である.それを実現するため に高い効率の
GaN-HEMT
のパワーアンプを用い,ド図15 33dBm時16QAM100Mspsコンステレーション Fig. 15 Constellation of 33dBm 16QAM signal (X-TX
EM) 4096 symbols, EVM: 9.6%.
図16 33dBm時BER計測(誤り訂正なし)実線:理想 信号,破線:実測
Fig. 16 BER without error collection Solid: Ideal, Dashed: meas.
ライバ段も含め高効率領域で用い,送信機で信号品質 を維持する工夫を凝らし,目的に合致したアンテナを 用いた.現在搭載品が「ほどよし
4
号」衛星に搭載さ れており,地上での受信にも成功した.文 献
[1] H. Saito, M. Hirahara, T. Mizuno, S. Fukuda, Y.
Fukushima, K. Asamura, H. Nagamatsu, K. Tanaka, Y. Sone, N. Okuizumi, M. Mita, M. Uno, Y.
Yanagawa, T. Takahara, R. Kaneda, T. Honma, T.
Sakanoi, A. Miura, T. Ikenaga, K. Ogawa, and Y.
Masumoto, “Small satellite REIMEI for auroral ob- servations,” Acta Astronautica, vol.69, Issues 7–8, pp.499–513, Sept.–Oct. 2011.
[2] “Development of ChubuSat-1 Small Satellite,” April 9 2013, URL: http://www.frontier.phys.nagoya-u.ac.
jp/en/chubusat/files/2 Narusawa.pdf
[3] S. Nakasuka, “From education to practical use of nano-satellites - Japanese university challenge to- wards low cost space utilization,” 8th IAA Sympo- sium on Small Satellite for Earth Observation, Berlin,
Germany, April 2011.
[4] H. Saito, N. Iwakiri, A. Tomiki, T. Mizuno, H.
Watanabe, T. Fukami, O. Shigeta, H. Nunomurac, Y.
Kanda, K. Kojimae, T. Shinkee, and T. Kumazawa,
“High-SPEED downlink communications with hun- dreds Mbps from 50kg class small satellites,” 63rd International Astronautical Congress (IAC2012), Naples, Italy, Oct. 2012.
[5] N. Iwakiri, A. Tomiki, T. Mizuno, H. Saito, and S. Nakasuka, “Performance analysis of SCCC turbo equalization with nonlinear satellite channel compen- sation techniques for nano/small satellite high-speed communication systems,” Proc. International Confer- ence on Space, Aeronautical and Navigational Elec- tronics 2011 (ICSANE 2011), SANE-66, Bali, Indone- sia, Oct. 2011.
[6] M. Toyoshima, et al., “Log-likelihood coherent op- tical receiver –High-speed ADC less Architecture,”
IEICE Technical Report, SANE2010-13, 2010.
[7] U.K. Mishra, “GaN-Based RF power devices and am- plifiers,” Proc. of the IEEE, vol.96, Issue 2, pp.287–
305, 2008.
[8] N. Iwakiri, H. Saito, and S. Nakasuka, “Turbo equal- izer/decoder performances of nonlinear channels due to different classes of GaN HPAs for X-band nano satellite high-speed downlink system,” ICSANE 2012 International Conference on Space, Aeronautical and Navigational Electronics, pp.83–88, Incheon, Oct.
2012.
[9] N. Iwakiri, H. Saito, and S. Nakasuka, “SCCC turbo equalizer/decoder for X-band nano satellite high-speed downlink system,” Transactions of The JAPAN Society for Aeronautical and Space Sciences, Aerospace Technology Japan 12 (ISTS29), Pf 33- Pf 38, 2014.
[10] H.A. Mahmoud and H. Arslan, “Error vector mag- nitude to SNR conversion for nondata-aided re- ceivers,” IEEE Trans. Wireless Commun., vol.8, no.5, pp.2694–2704, May 2009.
[11] CCSDS 131.2-B-1 “Flexible advanced coding and modulation scheme for high rate telemetry applica- tions, Recommended Standard,” blue book, March 2012.
[12] TriQunit EEHEMT model Implemented in ADS and AWR for TQT 0.25 um 3MI GaN on SiC Process 1.25mm Discrete FET, Application note, TriQuint, 04th Dec. 2009.
[13] TriQuint, “TGF2023-01 6 Watt Discrete Power GaN on SiC HEMT,” TriQuint Semiconductor, 2011.
[14] Hittite microwave, Power Amplifier Chip, 6–10 GHz, HMC590, HMC591.
[15] 深見友也,渡邊宏弥,冨木淳史,岩切直彦,齋藤宏文,中須賀 真一,“GaNパワーアンプを搭載した超小型衛星用X-band 高速ダウンリンク送信機の評価,”宇宙・航行エレクトロ ニクス研究会(SANE), April 2013.
[16] T. Fukami, H. Watanabe, H. Saito, A. Tomiki, T.
Mizuno, N. Iwakiri, O. Shigeta, H. Nunomura, K.
Kojima, and T. Shinke, “Experiment of 348 Mbps downlink from 50-kg class satellite,” 10th IAA Sym- posium on Small Satellites for Earth Observation, pp.327–330, Berlin, Germany, April 2015.
(平成27年10月27日受付,28年2月26日再受付)
渡邊 宏弥 (学生員)
2010年,東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻修士課程修了.東京大学 大学院電気系工学専攻博士課程在学中.宇 宙電子工学,衛星システム工学.
深見 友也 (学生員)
2014年,東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻修士課程修了.現在,同大 大学院博士後期課程在学中.
齋藤 宏文 (正員)
1981年,東京大学大学院工学系研究科 電気工学専攻博士課程修了.宇宙航空研究 開発機構宇宙科学研究本部教授.宇宙電子 工学,衛星システム工学.2009年第19回 日本航空宇宙学会技術賞,2012年文部科 学大臣表彰受賞.
冨木 淳史 (正員)
2002年電機大・工学部・電気卒.2004 年同大大学院博士前期課程修了.2007年 同大博士後期課程修了.博士(工学).同年 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構宇 宙科学研究所入所.助教.科学衛星の宇宙 通信システム,フライバイワイヤレス,電 磁環境両立性の研究開発に従事.
小島 要
1981年日本電子工学院専門学校電子工 学研究科卒業,宇宙・航空・防衛機器の無線 通信機の高周波回路設計に従事,1998年,
株式会社アドニクスを起業,超小型衛星向 けの搭載トランスポンダ,地上設備の開発 に従事.
新家 隆広
日本理工情報専門学校電子工学科卒業,
通信機器メーカーで多重無線設備の設計に 従事,1998年より株式会社アドニクスで RF機器,S310・S520用ミニテレメータ,
超小型衛星搭載テレメトリ送信機の設計に 従事.
川元 光一
1990年東和大学電気工学科卒業.同年 株式会社日放電子入社,D-MCA・10Gbps 光幹線系・CATVモデム等ディジタル通 信機器の開発に従事.2003年同社を退社,
川元工業所設立,衛生通信機器等のディジ タル信号処理部開発に従事.
重田 修
RF回路開発を永らく担当.化合物半導体を利用した高周波 増幅器,アンプモジュールを中心とした高性能カスタム品の研 究,開発に従事.
布村 仁志
1998年足利工業大学工学部電気工業科卒.通信機器メーカー で主にRF回路開発を担当.化合物半導体を使用した増幅器,
発振器,リミッタ等の研究,開発に従事.