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中国における「農民工の市民化」の推進と課題

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中国における「農民工の市民化」の推進と課題

Z省K市での実態調査に基づく考察

季増民(椙山女学園大学)

第1章 はじめに  1.研究背景

 中国の都市化率(全人口に占める都市の常住人口の割合)は、改革開放直 前の1978年には17.9%であったものが2012年末には、52.6%に達し1)、農村人 口(5億5,700万人)を上回った。2011年から始まった「第12次5カ年計画」

では、今後都市化率を毎年0.8~1ポイント引き上げることを目標としている。

それが実現されれば、都市人口が毎年約1千万人増えるものと推測される2)。  しかし、この都市化率の内実をよく見ると、その中には農民工が多く含ま れている。都市戸籍を持つ狭義の都市人口、いわゆる戸籍ベースの都市化率 は2012年末現在35.3%3)と、世界平均の約50%(国連05年統計)よりはるか に低い4)。中国では、長い間、都市化とは都市開発だと認識され、市街地(ビ ルドアップ地域)面積の拡大や建築物(いわゆるハコもの)の増築ばかりが 重視されてきた。その結果、土地利用の都市化率は人口の都市化率の1.85倍 に達し、公認の1.12倍のボーダーを超えている5)。都市に暮らす農民工は、

単なる使い捨て労働力として見なされ、彼らとその家族は居住都市から「市 民」(生活者)として扱われていない。2010年に、6億6,570万人に上る都市(鎮 を含む)の常住人口の内、46.5%に当たる3億960万人は、都市戸籍を取得し ておらず、農業戸籍を保持したままになっている。さらに鎮を除いた都市に 限定すると、36.1%に当たる1億4,500万人は、都市戸籍を取得していない。

常住人口戸籍とそれに関係する一連の制度による制限で、農民工は参政権、

社会福祉や義務教育といった都市戸籍住民が有する権利をほとんど享受でき ていない。このような都市化を「低レベルの都市化」と解説する学者もいる6)

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 習近平新体制の下で2012年12月、初めて開催された「中央経済工作会議」

において、「都市化は中国現代化建設の歴史的任務であり、内需拡大の最大 の潜在力でもある。」とした上で、「農村から都市への移住者の市民化を重要 任務として段取り良く着実に推進しなければならない」と指摘し、農民工の 市民化が都市化の最重要課題として位置づけられた。また、李克強首相は、

「都市化の核心はヒトの都市化を進め都市社会の質を向上させることにあり、

単にビルや住宅を建てる都市建設ではない」と強調した。

 これまで「カギとなるヒトの都市化」、すなわち農民工の市民化について、

戸籍制度の見直しなどのマクロ的な政策論、安価な賃貸住宅の建設といった 救済策の策定、移住先のGDPや人口構成への寄与度に重点を置いた労働力 としての評価が大半を占めていた。また、農民工は移住先で生活を営む実態 があるにもかかわらず、移住先からも故郷からも完全に切り離され、よりよ い職業を求めて沿海都市の郊外地域をさまよう、いわゆる「出稼ぎ族・漂流 グループ」としてしか扱われていない7)

 移住地における滞在期間平均5.3年8)に達している実態を踏まえ、農民工 を移住地の生活者として位置づけて、地域の視点から郊外地域における生活 圏(例えば、城中村)の形成、そのコミュニティの成立、自らの属性に基づ く居住地選択などといった生活空間に着目した考察がまだ多くない。また、

既存研究には、マクロ的な視点に立ち、且つ労働力側面の研究が比較的多 かった。さらに移住先の定住に向けての市民化プロセス、移住先自治体によ る支援体制と推進措置、移住先戸籍取得条件を満たしていない農民工への行 政対応、農民工の低学歴などの属性と移住先の受け入れ条件とのミスマッチ といった、移住先戸籍取得移行期に置かれている農民工の実態がまだ十分に 解明されていない。

 2.研究目的

 上記のような課題を踏まえ、本稿は、農民工を移住先地域の実質的な生活 者として明確に位置づけて、地域の視点に立って真正面から農民工の生活実 態とそのコミュニティに向き合う。地域と生活のアングルから、すなわち、

地域問題としての農民工、移住先社会の一員としての農民工、生活者として

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の農民工に焦点を当てその生活世界を視る。「農民工の市民化」プロセスに ついて、その「可視化」を目指して、実態調査に基づき解明する。時空間的 には、都市化に関するビジョン計画から実行計画への移行期間に着目し、ミ クロ的な視点に立ち、市という行政単位における「農民工の市民化」の実態 と課題を、担当部局への詳細な聞き取りと農民工へのアンケートに基づき明 らかにする。

 具体的には、第2章では、「農民工の市民化」を円滑に進めるための推進 組織を考察する。第3章では、市民化推進の措置について述べる。第4章で は、ポイント制の導入に焦点を当てる。第5章では、「農民工の市民化」推 進に当たっての課題を探る。第6章では、分析で得られた事実に考察を加え た上で、農民工が多く住む郊外地域で、新旧住民が融合しながら平等に暮ら せる健全(ホリスティック)な地域づくりを模索するよう提案する。

第2章 推進組織の設置  1.専属行政組織の設立

 1)K市は、農民工の登録から戸籍取得に至る、管理と支援業務全般にか かわる専門機関として新住民事務局(以下、新住民局と略記)を2007年12月 に設立した。市長部局の一つとして位置づけられ、その予算は市財政から配 分されている。2013年1月現在、専属職員は10人、契約職員は5人である。

局長は市司法委員会副書記が務め、2名の副局長のうち、1名は人口・計画 出産局副局長であり、専任副局長として出向し、もう1名は公安局副局長が 非常勤の形で兼務している。

 新住民局は、公安局・計画出産局や労働局といった農民工事務にかかわる 関連部局と調整を図りながら農民工への対応を一元的に行う部署である。こ れまで、各担当部局によって寸断されていた農民工関連の情報が横断的に統 合され、効率的な運用が可能となった。図2-1のように、新住民局の下部組 織として14鎮(街道)には新住民事務所が、末端の村(社区)には新住民事 務室がそれぞれ配置されている。

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広域新 住民事 務室

企業事 務室

社区事 務室

村事務

専属職

K市新住民事務局 鎮(街道)レベルの新住民事務所

専属職

専属職

専属職

協力職

協力職

協力職

協力職

出典:2012年12月 K市でのヒアリングによる 図2-1  K市における「農民工の市民化」の推進組織

 2)下部組織である鎮(街道)新住民事務所については、K街道を例に、

その人員構成を見てみよう。2008年に設立された同事務所は新住民局に習っ て、所長は治安担当の街道共産党委員会委員が兼務し、副所長には、街道の 治安管理担当、計画出産担当がそれぞれ一人つく。そのうち一人は専属であ る。所轄警察署の副署長が副所長を兼務する。

 所長のもと、9人からなる事務室が設けられている。9人の構成は、ブ ロック長3人、計画出産担当と治安担当の街道職員1人ずつ、登録・統計など の事務手続き担当の内勤職員4人となっている。3人のブロック長は、街道が 公募した短大卒以上学歴を持つ30代の若者であり、街道域内を東西に流れる 洛塘川を境に、南側の8つの社区(村)、洛塘川以北の8つの社区(村)及び

「皮革交易センター」周辺の9つの社区(村)をそれぞれ受け持つ。予算は、

新住民局から農民工1人につき15元の基準で、事務経費が支給されるが、職 員の人件費と、農民工に対する宣伝啓発活動費の10万元は街道が負担する。

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 一方、社区に設置された新住民管理事務室の室長は社区共産党支部書記が 担当し、副室長には計画出産担当と治安担当の職員が1人ずつ付く。当該社 区を受け持つ駐在警察官もメンバーとして入る。農民工の数に応じて3人か ら5人程度の協力職員が雇用されている。

 3)このようなトップダウンの縦型管理のほか、市域が970のブロックに 区分され、地域に主眼をおく、いわゆる横型管理も実施されている。具体的 には、1,000人以上の農民工が在住する221の村については、「農民工集住地域」

として認定し、専属職員を配置する。また、2,000人以上の地域については、

幾つかの新住民事務室を総括する広域新住民事務室を別途設置している

(2013年には26か所)。これらの「農民工集住地域」については、農民工専用 のデーターベースが独立して作成され、四半期ごとに一回割合で登録デー ター更新が義務づけられている。

 行政サイドのほか、企業は、100人以上の農民工を雇用した場合は、村と 同格の新住民事務室の設置が義務づけられる。

 以上のように、縦・横・斜めからなる交錯型の推進体制が敷かれている。

 4)2013年12月末現在、農民工数は34万人に上り、そのうち16歳未満は2.3 万人である。これらの農民工に対し、新住民局の配下に755人からなる専属 または協力職員が配置されている。この755人は3つのグループに分かれる。

 第1グループの200人は、短大卒以上の学歴を持つ専属職員である。その 年収の約3万元が市の財政から全額支出される。このグループは、学歴が高く、

年齢構成も若く、専属職員の中で中核を成す。

 第2グループの200人は、女性40歳以上、男性50歳以上の、いわゆる地元 熟年農民である。このグループは、立ち退き農民の再就職対策の一環として 設置されている。職員には、毎月に諸保険納付金を差し引いた手取り手当て 1千元が政府から支給されるほか、勤務態度によっては毎月に100元前後の報 奨金が追給される場合がある。その主な仕事は新着農民工の登録、住宅訪問 による計画出産や治安状況のチェック、農民工子弟の就学・就職の相談など である。このグループは、学歴が低く、仕事に対する積極性に欠け、事務処 理能力が低い。第3グループの355人は、警察署に所属している治安維持協

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力職員である。

 上記の地域密着担当者のほか、農民工従業員20人~30人ごとに1人の割合 で企業の財務経理担当者が協力職員に任命される。農民工に関する統計や上 級機関からの連絡事項の伝達を兼務する彼らには、農民工の人数や管理項目 に応じて特別手当が支給される。

 市域で平均すると、1人の職員は700人前後の農民工を担当する。

 5)流動性の高い農民工の転入・転出の動向を正確に、動態的に把握する ため、2013年4月からモニターリング体制が確立された。30の社区(村)、 20 の企業をモニターリングモデル地域に指定し、それぞれ120人前後の農民工

(合計6,000人)について、その転入・転出動向をモニターリングする。所管 の鎮(街道)新住民事務所はこれらのデーターを毎月、転入・転出者の年齢、

学歴、職業、滞在期間、出身地、滞在資格(臨時または長期)などの属性ご とに集計し、月末30日付で今月分(先月の26日から今月の25日まで)のデー ターを、新居民局に提出する。

 2.横断的支援・交流組織の設置

 1)上記の行政組織のほか、市役所関連職員、市民ボランティア、農民工 代表である「議事委員」、「新旧住民交流促進会」メンバー、新住民芸術団団 員から構成される民間支援組織が活躍している。

 地元住民と農民工(いわゆる新旧住民)が加わる横断的な交流組織として、

市レベルでは和諧促進会」が、村レベルでは「新旧住民交流促進会」といっ た民間の任意親睦団体が設けられ、2013年には市内すべての村で「新旧住民 交流促進会」の設置が完了している。

 2)以下、他の村に先駆けて2011年8月に「新旧住民交流促進会」を設立 したM街道X村を事例に、その構成や特徴を見てみよう。

 促進会設立の趣意書によると、「地元とよそ者を隔てる壁を無くし、農民 工の意向を村政に反映させ、新旧住民の交流と融和を図る」ことを設立目的 とする。促進会は地元住民代表7人と農民工代表5人、計12人から構成され る。地元住民代表7人は、何れもX村の共産党書記や村長といった村役人で ある。農民工代表5人は、移出先村の共産党書記を務めた人やスーパー・個

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人店舗の経営者のようなエリートである。X村の共産党書記は会長、村長と 農民工代表1人が副会長を務める。実施組織として、会員交流、民事調停、

治安維持、文化・体育の4つ部会が設けられている。

 促進会は、原則として3か月に1度例会を開き、一人1票の多数決で議題 を採決する。農民工代表は村の経済社会発展計画の策定、インフラや公共施 設の整備、村の年頭施政方針と年末総括、農民工に係わる事項に関する、村 の運営会議に列席することができる。

 2011年8月の設立時では、X村の在住人口は13,464人、そのうち、戸籍人 口は5,033人、農民工は8,431人となっている。第1期の会員として新旧住民 からそれぞれ40人の計80人が選ばれている。この80人は、新旧住民のなかで 厚い信頼を集めている、いわゆる人徳者である。農民工代表は、移出先や従 前の経歴、学歴、職業、年齢、滞在年数、事務能力などの状況を考慮して選 ばれ、全員が有職者である。K市での滞在年数が最も長い者は21年に達して いる。

 新旧住民の会員同士の相互扶助システムとして、同じ屋根の下で暮らす、

家主である地元農民と賃借人の農民工が第一義的に互いに助け合うことが求 められている。促進会は家主に、生活困窮の農民工賃貸者に対し、家賃支払 期限の延期、就職・就学の相談などの措置をとるよう要請する。村レベルで は、会員互助会を立ち上げ、会員・企業の寄付金、鎮(街道)・村による財 政支出を原資とする「救援基金」を設置し、その運用益や利息を生活困窮の 農民工への支援金に充てる。

第3章 市民化推進の措置

 2013年には、農民工市民化推進の措置は、K市における13の社会管理重点 事項の一つとして位置づけられ、市と鎮(街道)の「経済社会開発計画」に 盛り込まれたほか、市と鎮(街道)の予算措置によってその実施が100%担 保されている。

 1.階層に応じた対応

 戸籍制度に照らしてみると、同じく中国国籍をもつ住民は、「都市国」と

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「農民国」に分けられ、国の中にはあたかも2つの国があるかのようである。

都市部と農村部との間に事実上の「国境」が設けられていた。

 新住民局は、これまで農民工の登録と管理を担当してきた警察からの組織 替えと見てよかろう。日本に強いて例えていうならば、出入国管理局から自 治体へ外国人登録と管理の業務移管が進められたため、自治体では、外国人 登録係に職安や計画出産管理を加えた組織再編が行われたようなものである。

K市在住の住民には、実質的に4つの階層が実在する。それは、①K市戸籍 を持つ地元住民、いわゆる「都市国」住民である。②2013年末現在、在住す る16歳以上農民工31万人のうち、8%にあたる2.5人の「居住証」9)保有者(長 期滞在者)と、③29万人の「臨時居住証」10)保有者(短期滞在者)である。

④実際に市内で働いているが、滞在届け出を提出していないため、実態さえ 把握されていない未登録短期滞在の農民工(約3万人と推測されている)で ある。

 一方、警察当局は、治安管理の立場から①安定した住所と職場を1年以上 有し、または社宅に暮らす農民工グループを第1階層に区分する。犯罪歴が な い な ど の 条 件 を 満 た す 人 を ト ラ ス テ ッ ド・ レ ジ デ ン ス(Trusted…

residents)とみなし、彼らに対し登録といった通常管理を新住民局専属職 員が行う。②住所不定、就職せず、安定的収入がなく、主に夜間に出没し、

前科のある人を第2階層とし、「犯罪危険性あり」として警戒し、治安協力 職員による監視が行われる。③犯歴があり、不審な挙動が多い5,315人を「犯 罪危険性が高い」第3階層とし、このグループに対しマンツーマンの常時監 視を実施し、取り締まりを強化する。

 2.移住先戸籍取得のプロセス

 移住先での永住を目指す農民工には、次のような3段階のプロセスが用意 されている。①到着後、臨時居住証を取得する。②3年以上の滞在後、所定 の審査を経て、善良な者に対し、居住証への切り替えを行う。③居住証取得 から10年以上経過すれば、移住先戸籍の取得を申請することができる。

 1)2013年末、農民工約34万人のうち、29万人には臨時居民証が与えられ ている。滞在日数が10日を超える場合、新住民事務所での住民登録と臨時居

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民証の受領が義務づけられる。しかし、臨時居民証は子供の就学手続きの必 要性に迫られたときだけ、親が受領を申請する場合が多い。

 2)企業経営者・短大以上高学歴者・企業の中堅幹部など、いわゆる農民 工のエリート層にあたる2.5万人は、すでに居住証を取得し、公立学校への 子供入学、安価な賃貸住宅への入居、医療保険などの面でK市戸籍住民とほ ぼ同等の待遇を受けている。許可条件は、一人っ子政策条例を遵守している こと、これまで犯罪歴がないこと、3年連続して固定収入と固定住所を持ち、

かつ納税を怠っていないことである。

 3)表3-1は2013年1年間、理由別に見たK市戸籍取得者の構成である。住 宅購入を条件に取得した人数は620人と最も多く、45%に達している。K市 戸籍保有者との婚姻関係により取得した人数は476人と2番目に多く、全体 の35%を占めている。技師や医者、教員といった人材を市が招聘した者は 113人と3番目を占める。しかし、1,377人の戸籍取得者は、同年農民工数の 0.4%、居住証保有者25,118人の5%しか占めていない。

理由 人数 比率・%

住宅購入 620 45.0%

% 6 . 4 3 6

7 4

人材として 113 8.2%

% 2 . 2 1 8

6 1

% 0 . 0 0 1 7

7 3 1

表3-1 2013年理由別に見たK市戸籍取得者の構成

出典:2013年末K市でのヒアリングにより作成。

 4)教育、建築といった各分野から約34万人の農民工代表として、30人の

「議事委員」が推薦により選ばれ、議事委員は市、鎮の議会、政治協商会議 に農民工の要望を代弁し農民工の待遇改善にかかわる提案を行うことができ るほか、市、鎮の議会や政治協商会議を傍聴することもできる。

 3.臨時居住証と居住証保有者別に見る特徴

 表3-2は、農民工の諸属性を臨時居住証と居住証保有者に分けて具体的に

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比較したものである。それによると、居住証保有者は、男性10%、女性8%、

全体は9%を占めている。年齢構成では、居住証保有者は99%が50歳以下で あり、30歳以下は66%を占め、臨時居住証保有者の30歳以下の比率である 42%より著しく高い。滞在歴では、居住証保有者は1年以上90%、5年以上 は14%を占めている。学歴では、居住証保有者は98%が中卒以上、短大卒以

項目 細目 臨時居住証・人 比率・% 居住証・人 比率・% 合計・人 比率・%

男性 157,837 90% 18,082 10% 175,919 100%

女性 132,904 92% 11,865 8% 144,769 100%

16~30歳 122,428 86% 19,735 14% 142,163 100%

31~40歳 88,583 92% 7,277 8% 95,860 100%

41~50歳 64,292 96% 2,640 4% 66,932 100%

51~60歳 12,607 98% 263 2% 12,870 100%

61歳以上 2,831 99% 32 1% 2,863 100%

6か月以下 74,653 98% 1,156 2% 75,809 100%

6か月以上1年未満 80,560 98% 1,720 2% 82,280 100%

1年以上3年未満 67,644 75% 22,387 25% 90,031 100%

3年以上5年未満 44,406 99% 501 1% 44,907 100%

5年以上10年未満 15,173 89% 1,873 11% 17,046 100%

10年以上 8,305 78% 2,310 22% 10,615 100%

4年制大学卒 2,470 46% 2,850 54% 5,320 100%

短大卒 4,422 49% 4,533 51% 8,955 100%

高校・専門学校卒 20,361 66% 10,431 34% 30,792 100%

中卒 214,839 95% 11,424 5% 226,263 100%

小卒 48,649 99% 709 1% 49,358 100%

貸家 199,367 93% 15,674 7% 215,041 100%

社宅 71,557 85% 12,140 15% 83,697 100%

アパート 1,860 81% 433 19% 2,293 100%

購入住宅 1,433 77% 430 23% 1,863 100%

その他 16,524 93% 1,270 7% 17,794 100%

製造業 256,492 91% 26,917 9% 283,409 100%

農業 2,501 99% 34 1% 2,535 100%

商業 11,474 90% 1,212 10% 12,686 100%

サービス業 5,041 87% 753 13% 5,794 100%

その他 15,233 94% 1,031 6% 16,264 100%

省内 29,315 90% 3,162 10% 32,477 100%

省外 261,426 91% 26,785 9% 288,211 100%

出産年齢層18ー49 121,792 91% 11,732 9% 133,524 100%

既婚者 91,550 95% 4,691 5% 96,241 100%

家族計画証書 6,090 83% 1,206 17% 7,296 100%

労働契約締結済 57,665 77% 17,664 23% 75,329 100%

年金 16,183 59% 11,016 41% 27,199 100%

失業 12,591 58% 9,189 42% 21,780 100%

労災 49,069 78% 13,721 22% 62,790 100%

出産 11,465 58% 8,159 42% 19,624 100%

医療 28,704 68% 13,300 32% 42,004 100%

居住 場所

職業

移出

表3-2  K市における臨時居住証と居住証保有者別に見た農民工の特性

出典:13年8月K市でのヒアリングにより作成。

保険 加入 婚姻 状況 滞在 期間

学歴 性別

年齢

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上は25%を占めている。居住場所では、購入住宅やアパートに暮らす人が 863人で、全体の3%を占めている。

 職業では、商業やサービス業に従事する居住証保有者は1,965人を数え、

7%を占めている(臨時居住証保有者は5.6%)。結婚年齢層では、居住証保 有者の4,961人の既婚者のうち、一人っ子政策を遵守しているのは1,206人で、

全体の26%を占めている。一方、臨時居住証保有者の遵守比率は7%と1割 未満にとどまっている。また、保険加入状況では、居住証保有者のうち、年 金・失業・労災・医療・出産といった保険加入率は37%、31%、46%、27%、

44%と、いずれも臨時居住証保有者より著しく高い。

 以上のように、臨時居住証と居住証保有者のそれぞれの属性は、各自の都 市化、すなわち市民としての成熟度を表している。居住証保有者は、臨時居 住証保有者より、市民化の過程で大きく前進している。K市は彼らを永住適 任者として見なし、積極的に新市民に迎えようとしている。

第4章 特徴のある推進策  1.ポイント制の試行

 2011年頃から、大量の農民工を労働人口(マンパワー)として受け入れる 方針から、農民工のエリートを選別し優先的に永住者として受け入れる方針 へ大きく変わった。そのため、農民工人口の10%に当たるエリートに居住証 を発給し、一般農民工との差別化を徹底している。たとえば、定期健康診断 の受診、安価な賃貸住宅の申請、公立学校への子供入学といった資格を居住 証保有者に優先的に付与する。

 選別のための客観的基準として、上級広域市所属の他の自治体に先駆けて、

K市はポイント制を試行した。2012年、市は滞在期間1年以上の農民工の向 上心を高めるため、13条からなる「K市新住民ポイント制の管理方策(試行)」

を制定し、あわせて「K市新住民ポイント制の実施基準」を公表した。

 それによると、実施基準は基本ポイント、加算ポイント、減点及び資格抹 消の4項目から構成される。①基本ポイントは、居住場所の届け出、学歴な ど7つの細目からなり、最高配点は200点となっている。②加算ポイントは

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K市に必要な人材、公益事業や技術開発に貢献した人に付与される「褒美」

であり、最高配点は250点となっている。一方、③信用違反者や伝染病罹患 者の未申告者に対し、20~50点減点される。④一人っ子政策条例違反や刑罰 を受けた者は、獲得ずみのポイントが抹消される。ポイントの積算は、基本 ポイント+加算ポイント+減点の式により計算される。

獲得したポイント数に応じて、自治体が主催する職業訓練と社会人向け講座 の優先的な受講、安価な賃貸住宅への優先的な入居(毎年、40戸分)、表彰 候補者へのエントリーといった特典を受けることができる。

 2.「拒まず」から「選択的」への転換

 2012年から、農民工の選択的受け入れ、いわゆる淘汰制が本格化した。そ の一環として、K市公立学校への入学ハードルが高められた11)

 以下は2013年6月K市教育局、新居民局などが公布した「義務教育段階に ある農民工子弟の入学条件細則」に基づき、都市部公立学校、農村部公立学 校、農民工学校別の、義務教育学童の入学申請条件を具体的に見てみよう。

 農民工子供の入学申請条件は、大きく下記の4つに分けられる。それは、

①居住証保有者、②臨時居住証保有者で、且つ一人っ子政策に違反していな い、③父(母)とともに子供の在住登録が完了している、④父(母)がK市 で働いている、または有効な営業免許を所持している、である。

 ①③④の3条件を満たした子供については、公立学校が受け入れる。②③

④の3条件を満たした子供については定員に余裕がある場合、公立学校が受 け入れる。③④の2条件を満たした子供については、農民工学校が定員やク ラス編成などの状況を勘案しながら受け入れる。

 これらの厳しい入学条件の適用によって、多くの農民工子弟はK市学校へ 就学することができなくなった。2013年6月末M街道の統計によると、16歳 未満の学童1,969人の内、K市学校へ就学したのは1,872人であり、5%に当た る97人は就学していない。就学した1,872人のうち、公立学校に入学したの は493人と26%に留まっている。

 子供が移住先の学校から締め出されたため、滞在をあきらめ、帰郷または 他の都市への転出を余儀なくされた農民工が増えている12)

(13)

 3.ポイント制の精緻化

 安価な賃貸住宅や公立学校といった公共資源が不足する中、公平、公正に

0 5

5 4

5 3

0 5

0 1

5

0 2

0 4

0 6

0 1

0 3

0 5

0 6

0 8

住宅 本人又は配偶者は合法的な住宅を所有し、且つ居住実態がある 20 0 5

0 2

0 3

0 5

0 1

0 2

0 3

0 4

5 1

0 3

5 1

/ C C 0 0 2

0 1 1

0 1

5

0 2 1

0 5

0 2 1

0 3 3

0 2 1

0 5 5

0 5 2

0 1

既婚者で避妊手術を受け、有効な「流動人口婚育証明書」所持者 10 既婚者で避妊措置を受け、有効な「流動人口婚育証明書」所持者 5 5

軽微違法 申請人・配偶者・子供直近5年内、留置以下の処罰を受けた場合1回 5 50

信用不良 申請人・配偶者・子供直近5年内、信用不良記録があった場合1回 5 50 脱税と申

告漏れ

申請人・配偶者・子供直近5年内の個人所得税、申請人が法人代 表(個人商工企業含む)となる法人税に脱税・申告漏れがあった場

合、1回毎

その他 申請人・配偶者・子供直近5年内、非合法組織に加入又は国家が 禁止する活動に参加した場合、1回毎

10

20 表4-1 K市新住民ポイント制の実施基準(2014年制定)

出典:K市の資料に基づき作成

減点 50

60 居住証

基本ポイ ント

発明と特 許取得

受賞者

加算ポイ ント

計画出産 学歴

保険加入 技能資格 または専 門技術資

公益活動 への参加

居住証保 有期間

(14)

入居(学)者を選ぶため、2014年から新しい「K市新住民ポイント制の管理 暫定方策」(表4-1)が制定され、同時に2012年の試行方策が廃止された。

2012年の試行方策と比べれば、暫定方策は項目が35から40に増加しただけで はなく、内容・提出書類・公示などがより具体的、かつ正確に定められてい る。

 その趣旨は、居住証の取得を義務付け、それを移住先の公共サービス資源

(就学・公営住宅への入居など)を受ける最低条件とし、農民工に義務と権 利の表裏一体的な関係を自覚させる。限られた公共サービス資源を公平、公 正に配分するため、ポイント制に基づく入学・入居者を選定する。

 市は、ポイント制の実施原則を制定する。それを基本に、安価な賃貸住宅 への入居は建設局、公立小学校・中学校への入学は教育局のように、それぞ れの担当部局が入居や入学の適用要件(点数)を定める。ポイント制の利用 希望者は、新住民局に自らのポイントを算出し、関連証明書を添えて入居や 入学を申請する。新住民局はそれらを認定したうえで、申請者名簿に登録し、

ポイントに基づく順番付を行い、採用者名簿を5日間公示する。

 ポイント制の導入により、農民の市民化はまず地元農民の市民化、次に移 住先に適応している1割以下の居住証保有農民工、最後に9割を占める一般 の農民工へという順番による段階的な実施が推進される13)

保護者の年齢 30歳代 40歳代 50歳代以上 不明 合計

人数 38 61 10 6 115

比率 33.0% 53.0% 8.7% 5.2% 100.0%

滞在期間 5年未満 5年~10年 10年以上 不明 合計

人数 26 38 44 7 115

比率 22.6% 33.0% 38.3% 6.1% 100.0%

保護者の学歴 小卒とそれ以下 中卒 高卒 短大卒とそれ以上 合計

人数 30 76 7 2 115

比率 26.1% 66.1% 6.1% 1.7% 100.0%

子供の数 1人 2人 3人とそれ以上

5 1 1 6

3 0

6 9

1

比率 16.5% 52.2% 31.3% 0.0% 100.0%

出典:2014年3月20日~22日K市の3つの民工学校に通学する中学生の保護者を対象としたアンケートによる。

表5-1 農民工学校中学生保護者の属性(年齢・滞在年数・学歴)と子供の数(2014年)

(15)

第5章 農民工の市民化推進に当たっての課題  1.永住条件と農民工の属性とのミスマッチ

 K市では、農民工の市民化を審査するに当たって最も重視するのは、「就 職(年金の納付状況)、一人っ子政策条例の遵守、学歴」、の3点である。

 筆者は2014年3月20日~22日にかけて、K市にある3つの民工学校に通学 する中学生の保護者を対象に、「農民工学校保護者の現況調査」を実施した。

その一部を抜粋して表5-1にまとめた。

 それによると、対象者115人のうち、40歳代から50歳代にかけての人数は 71人と、62%を占めている。滞在期間5年以上の人数が71%に達している状 況を合わせて考えると、対象者が内陸部から沿海都市郊外に流入した第一と 第二世代に跨ぐ移行世代であると見てよかろう。

 学歴別に見ると、小卒とそれ以下は26%を占め、そのうち多くは非識字者 である。高卒とそれ以上の比率は7.8%と非常に低い。

 子供の出産数を見ると、一人っ子は19人と全体の16.5%に留まっている。

子供2人は60人と52.2%を、子供3人とそれ以上は36人と31%をそれぞれ占 めている。83%を占める2人以上の子供を持つ保護者の大部分は、政府の一 人っ子政策条例に違反している。

 以上のように、最低でも高卒とそれ以上の学歴を持ち、且つ一人っ子政策 条例を遵守している人を受け入れたい移住先の永住条件と、農民工の実情と の間に大きなギャップが存在していることが明らかである。115人の対象者 の居住証保有率が10%にとどまっていることは、その左証である。

 2.農民工の状況と移住先の希望とのミスマッチ

 一方、2011年2月~3月にかけて、新住民局が実施した農民工学校保護者 調査によると、95.6%の保護者は貸家に住み、4人以上の家庭は76.5%を占め ている。一人っ子の家庭は14.8%、子供2人以上の家庭は35.5%を占めてい る。80.9%の保護者は2年以上に同一住居に住み続けている。半年以内に引っ 越しをしたことのある家庭は5.5%に、1年以内引っ越しをしたことのある 家庭は13.7%にそれぞれ留まっている。

 保護者の42.6%は企業に勤め、16.9%は自営業をしている。保護者の73.2%

(16)

の年収は3万元以下、年収4万元以上は13.1%に留まっている。39.9%の保 護者は、経済的な窮状を訴えている。

 また、同調査は子供の今後について保護者に聞いたところ、「自分の子供 には移住先で教育を受けて、できれば移住先に就職させ、永住させたい」と 希望しているのは25.1%を占め、20.8%は「何れは故郷に帰郷させる」と回 答し、残りの54%は「分からない。まだ考えていない」と迷っている。

 以上のように、労働力の75%を占める農民工2世は、年収が3万元に留ま り、不動産価格が高止まりのままで推移すると10年や15年後、その子供が結 婚適齢期に入っても住宅を購入することができない。そのため、市は短期間 に巨額な税金を投入し、このグループ向けの安価な賃貸住宅を建設しなけれ ばならない。行政にとって、この建設費用が財政を圧迫するだけではなく、

支出に当たって納税者であるK市戸籍市民から理解を得ることも大きな課題 となっている。また、同市農民工全体の購入住宅率がわずか0.35%とあわせ て考えると、農民工はまだよりよい理想的な永住の地を求めて彷徨う可能性 が高く、社会安定性が低い。従って、受け入れ先の政府にとって、市街地よ りも低収入者の多い郊外地域は社会不安定のリスクとインフラ整備コストの 高い地域となっている。

 3.量より質への方針転換

 2012年から、農民工の受け入れに関する基本方針は、「来る者拒まず」か ら、「人数を減らし、その資質を向上させる」という「選択的受け入れ」へ と大きく舵が切られた。その背景として以下のように考えられる。

 1)中央政府やZ省は、自治体の業績を評価する指標を、従来の域内GDP 総量から、戸籍人口と農民工人口を合わせた常住人口一人あたりのGDPに 変更した。首長の業績査定や自治体の経済実力ランキングは、常住人口一人 あたりのGDPに基づいて行われるようになった。それによって自治体に紡 績などの労働密集型産業からの脱却、産業構造の転換を強く迫ろうとした。

 2)K市にとって労働密集型産業から技術要素と付加価値の高い産業への 転換を図るという政府の産業転換基本方針に従って技術者やホワイトカラー の誘致を強化するとともに、単純労働者の流入を極力制限する必要が生じた。

(17)

 3)教育、医療、住宅といった限られた公共資源を有効的、公平的に利用 するため、ポイント制の導入に合わせて、農民工に対する選択的受け入れを 始めている。具体的にはポイント制の実施に伴い、すべての農民工のポイン トランキングを公表し、それに基づき、公平に入学や安価な賃貸住宅への入 居を決めている。

 4)学歴や資質の高い農民工を優遇する一方、小卒以下の学歴かつ3,4人 の子供を持つ、いわゆる一人っ子政策に違反し、且つ無資格・無技能の農民 工に対し、その子供の公立学校への入学制限などの方法で上記滞在を制限し、

自発的な帰郷または市外へ退去を促す。

 上記の措置によってZ省では、農民工は1千万人も減少した。K市では、

2013年7月まで、農民工学校が2校あるC街道を除けば、他の鎮や街道では いずれも農民工の数が減少に転じ、すでに600世帯が帰郷または、ほかの地 域に移動した。K市を離れたものの、K市での住民登録が抹消されなかった 農民工の数を加えると、K市を去った実際の戸数が600世帯を超えると推測 される。その証左として、同市における食塩と生活電力の消費量の減少が挙 げられる。

 5)上記の制度による淘汰のほか、不動産価格の上昇も農民工の減少を促 している。近隣のK市の平米あたりの価格は8千元、T市は7千元であるの に対し、K市の市街地は平均1万元となっている。

 

第6章 持続可能な未来の郊外地域に向けて  1.考察

 K市は、農民工の市民化を推進するに当たって下記のような特色を持って いる。

 1)その1は、K市は現行戸籍制度にこだわらず、農民工と市民との同一 視を目指していることである。戸籍取得に先だって長期滞在実態を持つ農民 工については、公共サービスや社会福祉の面で、基本的に市民並みの待遇を 与えている。具体的には、2009年から農民工に対する救援・慈善活動を強化 し、2013年まで大病や労災者に総額6万元の補助を支給してきた。生活困窮

(18)

者には一時金として合計178万元を支給した。妊娠検査や児童ワクチン接種 などについては、財政から特別支出し、地元住民と同等の扱いをしている。

 戸籍制度の実質的な廃止後を見越した先駆的な政策がすでに試行されてい る。出身地を除けば、農民工2世の子供は、成長の環境、生活習慣、思考方 法、方言までがK市人とほとんど変わらない。K市は、K市に生まれ、また は育った農民工2世の子供には、第二の故郷・永住の地とみなしてもらい、

K市に永住するよう、永住条件を緩和している。

 その背後には、K市戸籍の男性若者が県庁所在都市にある大学を卒業後、

同級生らと結婚してそのまま現地で就職し、故郷K市に戻らない人が増えて いる実情がある。K市にはこれから結婚適齢期に入っていく女性にとって結 婚相手不足の現象が発生しかねないという切実な問題も抱えている。

 2)その2は、農民工を単なる使い捨ての労働力として見なさず、K市在 住の生活者(市民)および消費者の側面、即ちその生活世界に注目している。

 2012年には、K市の58,419世帯は、貸家を経営している。そのほとんどは 元農家である。1世帯当たりの平均年間家賃収入は1.5万元と試算されている。

単純計算すると農民工の流入は、地元農民に家賃収入だけでも6億元の収益 をもたらしている。郊外地域は8割近くの農民工が集中するため、純農村や 都市部住民より家賃収入が多い。農民工を受け入れるとともに、地元農民に 家賃収入を増やす機会を提供することにより、K市は、「異郷市民化」を図 る農民工と、「在郷市民化」を図る地元農民を相関させながら、いわゆる同 時市民化を推進しようとしている。

 そのほか、衣服、食品といった日常必需品の購入、電信電話料の支払い、

KTVなどの娯楽消費といった面でもK市に莫大な経済利益をもたらしてい る。新住民局の試算によると、農民工の平均年収は約3万元であり、そのう ち、67%に当たる2万元がK市で消費され、中国平均の46%を上回っている14)。 2013年末現在、34万人の登録農民工のうち16歳以上の31万人に限定して単純 計算しても、62億元の消費となる。

 3)その3は、ポイント制の導入により、農民工に地域社会の一員として の自覚を促すとともに、地域への貢献意識を高めようとしている。就学、就

(19)

職、医療保険、安価な賃貸住宅といった社会公共資源が不足する中で、ポイ ントの獲得数と連動した形、農民工の利用資格と頻度の面で差別を付けてい る。農民工にポイントの獲得条件をガラス張りにし、結果の平等より機会の 平等を重視する姿勢を示す。農民工に競い合わせ、他人より多くより速くポ イントを増やせば、その結果を自らの生活改善に活用出来るという実利を意 識させる。また、ポイントは平等、公平さ、公正さを担保する客観的な基準 であるため、永住者を選抜する際の根拠にも利用出来る。

 一方、K市にとって、ポイント制の導入により中長期的には、大量の労働 力よりも、高度な能力や優れた素質を持つ生活者を確保し、移住者の良性循 環を実現することができる。短期的には、出生や移転、就職といった登録情 報の増加により、農民工への管理をより適切に行うことができる。

 4)その4は、農民工を地元社会に溶け込むことができるよう誘導する。

農民工の市民化は、言い換えれば個人化のプロセスでもある。農民工は地縁・

血縁・業縁からなる従来型のコミュニティから徐々に引き離され、最終的に は離脱していく。市民化していくに当たって、就職し、社宅にすみ、結婚し て賃貸アパートに暮らし、さらに未成年の子供教育、そして高齢になると医 療・介護というライフコースにおいて、通勤・通学の利便性(交通)、医療 施設、地価などを総合的に勘案しながら、マイホームを購入する。地縁・血 縁からなるコミュニティを離れ、知らない人同士が混住する全く異質のコ ミュニティに入っていく。

 住居という受け皿を確保しつつ、移住先でも市民と同様な生活設計ができ るように、市政府は2012年に、道路・橋などのインフラ整備、教育・文化施 設、老人ホームなどの福祉施設の建設など、約300事業に100億元を投じる計 画を策定した。2012年以降完成予定の項目も入れると約400億元の計画とな る15)

 5)その5は、農民工2世に重点をおいた施策を先見的に実施している。

長い歴史の中で地元住民は、社会空間を共有しつつ、従来からの財の蓄積や 共同利益を、よそ者に漏らすまいとして、目には見えない生活防衛圏を構築 してきた。しかし、地元住民を越える農民工の流れ込みと長期滞在に伴い、

(20)

自治体は「よそ者」として外来者を対象者から遠ざけたままでは本来の行政 機能が果たせなくなった。一方、他都市に移住して地元に生活の実態が無く ても利益を享受し続ける地元住民を何処まで許容するのかとの課題に自治体 が直面させられている。いわゆる既得権の扱いは最も複雑で農民工の市民化 を妨げる最大のハードルとなっている。経済社会が発展する中、既得権の存 在価値を減らしながら解消していく方策の模索が求められる。

 農民工の市民化は、戸籍制度という「壁」の存在により、一種の国内移民 と捉えられなくもない。低学歴、肉体労働者などが原因で、農民工の失業率 が高まり、社会不安が増大する事態となっている。多くの受け入れ都市は農 民工および農民工2世、3世に対する教育や就業促進、治安の維持・強化など のために莫大なコストがかかっている。一人の農民工の市民化を図るための コストが8万元とも13万元とも試算されている16)

 2.まとめと提言

 1)農民工の位置づけが生産者から生活者へ、短期滞在から永住者へ、労 働力(マンパワー)から人材(Talented person)へと大きく変わるなか、

郊外地域行政は、「性悪説(いわゆる農民工は犯罪予備軍である)」に基づき、

農民工への「監視・管理」を強化するのではなく、彼らが生活、就職、永住 しやすいように「協力とサポート」に方向転換をしなければならない。

 「経済特区」「経済開発区」の設置で地域成長を牽引してきた郊外地域を、

今度は医療・教育・人材などの諸制度が柔軟に適用される「生活特区」とし て指定し、「農民工の市民化」推進の先進地域に育成していく。

 その実現のためには、現行の縦割り行政から独立した、郊外地域を一元的 に管轄する特別な行政組織「郊区」を設立したうえで、安価な賃貸住宅、そ の子供のための公立学校、農民工の収入に見合った商業・娯楽施設、交通機 関を集中的に充実させ、既存市街地に劣らない生活環境を創出する。よって、

「身分」だけではなく、「市民」として実感出来る社会的実態を農民工に示す。

 2)図6-1のように、職業の都市化が達成された農民工にとって永住の最 大難関である住宅確保17)について、地元農民の貸家・貸間経営と安価な賃 貸住宅の建設動向を両にらみしつつ、住宅手当補助の強化といった措置を先

(21)

行的に講じる必要があろう。

 また、社会・経済発展計画を作成する際、農民工を郊外地域発展の貢献者

として位置づけ、市民と同等に扱う上、従来の建設者、労働者、「よそ者」

という位置づけから、生活者、消費者、地域の一員という位置づけへ根本的 な認識転換を図ることが何よりも求められる。郊外地域行政は、建設者とし て汗を流してきた農民工を、受益者から排除するのではなく、街作りの新し いパートナーとして積極的に受け入れる。農民工の市民化は、郊外地域は勿 論、所在都市の社会経済、人口・地域構造に大きな転機をもたらす18)。  3)地元農民と農民工の第1世代と第2世代では、世代による思考方法も 価値観も行動パターンもまったく異なる19)。地元農民の後継者層と永住者2 世は、農業や集落生活の体験が全くない新世代(いわゆる新人類)という点 で似ている。また、親世代と違い、移住先で育った永住者2世は、学歴が向 上し、移住先の方言を自由自在に操り、「よそ者」と「地元」の意識が比較 的少なく、社会階層の貴賤もさほど感じない。

 郊外地域行政は、長期的な視点に立ち、これまで存在の薄かった永住者2 世に対し、教育や職業訓練20)の面で傾斜政策を実施し、その現地化を速め る。また、持続発展可能な地域づくりのためにも、永住者2世と地元出身の

現代都市様式 教育の普及 農村伝統様式

持ち家生活

賃貸住宅 →→→→→→→→→

貸家生活

熟練労働者

技術養成 →→→→→→→→→

単純労働者

農民

戸籍制度 →→→→→→→→→

農村

凡例

貸家生活 農民工の現状 賃貸住宅 必要な措置 持ち家生活 市民の現状 矢印は農民工市民化の三段階プロセスを示す

図6-1 職業・地域・生活様式から見た農民工市民化のプロセス及び推進のための措置(概念図)

(22)

同年齢世代が同じ基本公共サービス21)を享受できるような措置を講じ、両 者の融合を強化すべきである。

 4)農民工の生活圏は、表層(可視)生活圏と深層人脈圏の二層構造と なっている。この二つがミックスしながら生活圏の実態を構成している。

 人のつながりには、地域のつながり、親戚のつながり、同業者のつながり などがある。これらは基本的には人脈づくりの範疇に入り、一種の「仲良し ごっこ」のような性格を有する。郊外にあるD社区で見られるように、その 特徴は保守的、同質的であり、狭い範囲が限定され、閉鎖的である。相互の 関係性が比較的に脆い。

 一方、その他に、都心に近いC社区のように、目的達成のためのつながり

(交際圏)がある。厳しい移住先社会を生き抜くために、生活の自立、新し い事業の起業、現状改善や生活環境の変革などを目指す外来者同士が作った 交際圏がその例である。目的達成のためのつながり交際圏は、今までの狭い 人間関係にとらわれず、もっと広く多様で異質な人間を巻き込みながら一緒 に生活改善や地域振興といった目標を目指している。多くの場合は、同じ考 え方持つ人や同郷ではなく、むしろ違う考え方を持つ人が一緒に集まると、

事が順調に進み、成功する可能性が大きい。アメリカの例のように、生活環 境改善や生活レベルの向上を促すには、従来からの地元在住者よりも外来者 の方が積極的な役割を果たす場合が多い。

 農民工の市民化を古い仕組みが壊れ、新しい仕組みが生まれてくる過渡期 の現象だと捉えれば、将来目指すべき新しい経済・社会システムが見えてく るはずである。時代の底流にある流れは、都市・農村を問わず、国民が等し く平等な社会保障(養老保険、労働保険、医療保険、失業保険、生育保険)・ 福祉サービスを受けることである。

 郊外は都市とも農村とも違う地域特性をもっている。住民(すべての生活 者)が決定に参加して地域の事情に応じた社会管理・運営システムを組み立 てる必要がある。そして住民本位のネットワークを構築して、多様で複雑な ニーズを支えていかなければならない。

 5)先進国に見られるような労働力不足問題が中国の沿海都市でも深刻化

参照

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