学内共同研究による視覚障害児のための歩行訓練システムの開発
松島 由紀子
*太田 達也
**山林 央樹
***木村 照男
****趙 菲菲
*****薮木 登
*A Walking Training System for Visually Impaired Children by Collaborative Research on Campus
Yukiko MATSUSHIMA, Tatsuya OHTA, Hiroki YAMABAYASHI, Teruo KIMURA, Feifei CHO, And Noboru YABUKI
In this paper, our research group develops a walking training system for visually impaired children, because it is estimated that there are 1.4 million visually impaired children in the world. The device consists of three elemental technologies. In the first element, an ultrasonic sensor, an infrared sensor, and a temperature sensor obtain values indicating an obstacle to a visually impaired child. In the second element, a 3D distance image sensor obtains the coordinates of the obstacle. In the third element, a speaker outputs different sounds depending on the position of the obstacle. For an evaluation of these elemental technologies, we conducted evaluation experiments to confirm that each technology correctly detects the obstacle. As a result, we confirmed that these elements could detect the obstacle correctly and found some future tasks on the walking training system.
Key Words: Visually Impaired Children, Walking Training System, Obstacle Avoidance
1.はじめに
現在,世界では小児失明疾患者は 140 万人と推定 され,毎年50万人ずつ新しい患者が増えると予測さ れている1).先天的に視覚障害のある乳幼児は,掴み 立つ,歩く,走るなどの運動発達が健常児に比べても 遅いことが報告されており,視覚障害児の歩行開始 時期は,平均して2歳程度といわれている.
単独歩行が可能になると活動範囲が広がってくる が,周りの状況がわからないという恐怖心が起こる ため,保護者あるいは歩行訓練士からの補助を受け る必要がある2).
それに対し,平成30年度の厚生労働省の調べでは,
視能訓練士の登録者数は15,351 人3),目の不自由な 人が杖を使って安全に歩行できるよう,歩行訓練を 指導する歩行訓練士は742人4)である.また,日本 では視覚障害者のパートナーである盲導犬の数も不 足している.人口100万人あたりの盲導犬の実働数
原稿受付 令和元年9月17日
*総合理工学科 情報システム系
**機械・制御システム工学専攻 2年
***情報工学科 31年3月卒業
****電子・情報システム工学専攻 1年
*****総合理工学科 機械システム系
は,ニュージーランドで79.3頭,イギリスで79.2頭,
オランダで49.7頭,アメリカで36.5頭,アイルラン ドで28.8頭であるのに対して,日本の盲導犬普及率 は 7.5 頭5)と各国のなかでも普及率がとても低い.
その原因としては,国内の盲導犬ブリーダーの少な さと,訓練施設の不足が挙げられる.
これらのデータから,視覚障害者やその家族の求 めに対して,支援が追い付いていないことがわかる.
そこで本研究グループでは,視覚障害児の歩行訓練 を支援する歩行訓練システムを提案する.本システ ムを用いることにより,障害児の歩行に対する恐怖 心や抵抗感を軽減することおよび保護者や歩行訓練 士の負担の軽減を目指す.
本システムは大きく3つの要素技術で構成する.1 つ目の要素では,超音波センサ,温度センサ,赤外線 センサにより,障害物までの距離を取得する.2つ目 の要素では,3D距離画像センサにより障害物の座標 を取得する.3つ目の要素では,上記のセンサからの 出力をもとに,障害物の位置に合わせた音を出力す る.
これらの要素技術は,本学の 3 研究室が分担して 研究開発を行っている.着想の段階から 3 研究室の 専門分野を活かすことで,本学総合理工学科が目指 す,分野を横断したアイデアを得ることができた.
2.歩行訓練システム
本稿で提案する歩行訓練システムの対象は,盲学 校や家庭で初めて歩行の練習を行う幼児や児童であ る.本システムでは,図1に示すように,視覚障害児 が手押し車を押して歩行訓練を行う.
この手押し車には,3D距離画像センサとノートパ ソコンを設置する.さらに,視覚障害児の胸部に超音 波センサ等を取り付ける.これらの手押し車の上の センサと胸部のセンサにより,視覚障害児の前方に ある障害物を検知し,ノートパソコンのスピーカか ら障害物の位置を知らせる音を鳴らす.
なお,本システムの提案にあたり,手押し車を用い る装置と,白杖を用いる装置について,岡山県立岡山 盲学校の先生方と検討を行った.意見交換の結果,全 盲の障害児は足を地面から離すことに大きな恐怖を 覚えるため,白杖を用いた一般的な歩行訓練の前に,
手押し車につかまって足を踏み出す練習ができる装 置を開発することとした.
図1 歩行訓練システム
本研究グループでは,本装置を大きく 3 つの要素 技術に分けて開発する.1つ目の要素を超音波センサ 部と呼ぶ.超音波センサ部では,超音波センサ,赤外 線センサ,温度センサにより,障害物までの距離を取 得する.
2つ目の要素を3D距離画像センサ部と呼ぶ.3D距 離画像センサ部では,複数個の障害物を検出し,その 大きさを取得する.障害物の大きさは座標で出力す る.
3つ目の要素を障害物伝達部と呼ぶ.障害物伝達部 では,超音波センサ,赤外線センサ,温度センサ,3D 距離画像センサの出力をもとに,障害物の位置に合 わせた音を選択した上で,ノートパソコンのスピー カから出力する.
3.超音波センサ部
超音波センサ部は,メカトロニクスを専門とする
研究室が設計および開発を担当する.以下では,超音 波センサ部の詳細を述べる.
3.1 センサの種類と役割
超音波センサ部では,視覚障害児の前方にある障 害物までの距離を取得する.超音波センサ部の外観 を図2に示す.
図2 超音波センサ部
超音波センサ部では障害物検知のメインセンサと して超音波センサを,補助センサとして赤外線セン サを用いる.その理由として,超音波センサは柔らか い物体を正しく検知できないが,赤外線センサは柔 らかい物体を検知できるからである.しかし,赤外線 センサは検知対象がガラスのような透明な物体であ る場合に,赤外線光が通過してしまい,対象を正しく 検知できない.これらの理由から,超音波センサ部で は二つのセンサを併用する.
また,超音波センサは温度により出力が変化する ため,温度センサを用いて測定値に随時補正をかけ ることで,気温の変化による誤差を無くし,より正確 に障害物との距離を計測する.
なお,本研究では,超音波センサとして,超音波距 離センサーモジュールUS-015,赤外線センサとして,
シャープ測距モジュール GP2Y0A710K,温度センサ として,高精度 IC 温度センサ LM35DZ をそれぞれ 採用する.
また,本装置では,超音波センサ部の各センサの処 理装置としてマイクロコンピュータを使用する.さ らに,障害物伝達部における距離計算処理も,本マイ クロコンピュータ上で行う.マイクロコンピュータ には,SH2タイニーマイクロコンピュータ SH7125F を使用する.その理由として,処理が高速で拡張性が 高く,また,5Vの電源電圧が他の部品の電源電圧と 共通であることが挙げられる.
赤外線センサ
超音波センサ
マイクロコンピュータ
3.2 胸部装着装置
胸部装着装置は,超音波センサ部を視覚障害児の 胸部に装着するための装置である.胸部装着装置は ケースになっており,超音波センサ 3 組と赤外線セ ンサ1 組を収納する.胸部装着装置の外観を図3 に 示す.なお,温度センサは5[mm]程度の大きさである ため,マイクロコンピュータのボード上に実装する.
図3 胸部装着装置
3組の超音波センサのうち,超音波センサ1は正面 方向の障害物を検知し,超音波センサ2 および3 は 下方向の障害物を検知する.超音波センサはセンサ を中心として15度の検知範囲があるため,図4に示 す角度に各センサを取り付けることで,進行方向正 面から足元方向にある障害物の検知を可能とする.
図4 超音波センサの検知範囲
なお,本稿による手押し車を用いた歩行訓練で使 用するセンサは,超音波センサ1,赤外線センサ,温 度センサである.本装着装置は,将来的に手押し車を 用いない歩行訓練にも使用できるように,超音波セ ンサ2 および3を用いて下方向の障害物を検知でき るよう拡張機能を持たせている.
次に,図5に胸部装着装置を正面,側面,背面から
見た図を示す.センサ類を収納するケースの大きさ は,高さ100[mm],幅90[mm],奥行68[mm]である.
図5 装着装置のケースの大きさ
4.3D 距離画像センサ部
3D距離画像センサ部は,画像処理を専門とする研 究室が研究開発を担当する.以下では,3D距離画像 センサ部の詳細を述べる.
4.1 3D距離画像センサ
3D距離画像センサ部では,複数個の障害物を検出 し,それらの形状を取得した上で,障害物の座標を出 力する.
本センサ部で用いる3D距離画像センサは,日本信 号株式会社製のInfiniSoleil FX10である.本センサは,
レーザ光の照射タイミングと反射散乱光を受光する 受光タイミングとの時間差から,距離値を計測する.
本センサの外形寸法は,高さ72.3[mm],幅50.0[mm],
奥行126.5[mm],重さは600[g]であり,軽量かつ小型
であるため,設置面積は小さくてよい.また,撮影範 囲も広いため,少ない動作で周囲の情報を得ること ができる.3D 距離画像センサの外観を図6 に示す.
図6 3D距離画像センサ
4.2 ラベリングを用いた障害物検出
3D距離画像センサ部では,センサにより得られた 距離画像に対して,ラベリング(連結成分抽出)処理 を適用することで,障害物を検出する.
ラベリングとは,画像の連続した領域に同一の番 号を付けていく処理のことである.ラベリングによ 装着ベルト
赤外線センサ
超音波センサ1
超音波センサ2
超音波センサ3
り,画像上にいくつの孤立した領域があるのかを数 えたり,ある番号のついた領域がどのような形をし ているのかを調べることができる.
ここで,センサより得られる距離画像は濃淡画像 であり,障害物領域は複数の濃度値を含んでいるた め,そのままではラベリングの適用が難しい.そこで,
ラベリング処理の前に,距離画像に対して 2 値化処 理を行う.
2値化処理とは,画像をある適当な2つの濃度値に 濃度変換を行う処理のことである.これを行うこと で,対象とする画像と背景画像を切り離すことがで きる.
図 7 は,ラベリングを用いた障害物の検出結果で ある.結果(a)と(b)の障害物は,前に差し出され た人の手と,ある程度の大きさのある箱である.結果 画像に描画されている円は,それぞれの障害物領域 の重心点である.重心点は,画像上で一番手前にある 面に対して求める.
結果(a)より,複数の障害物の検出と,正確な位 置の把握ができていることがわかる.また,結果(b)
より,ある程度の大きさのある障害物であっても凹 凸を正しく認識できていることがわかる.
(a)手前に差し出された人の手
(b)箱
図7 ラベリングによる障害物検出結果
また,本障害物検出手法では,移動している物体が 画像中に映りこんだ際に,その物体の領域の周囲に
ノイズが発生する.ラベリング処理に対してノイズ が発生すると,処理時間が大幅に増加してしまうた め,ノイズの除去を行う.ここでは,画像全体の面積
に対して0.5[%]以下の領域をノイズとして除去する.
図 8 はノイズ除去処理前後の検出結果である.障害 物は人の右手である.ノイズ除去前はノイズに対し て重心点を描画しているのに対して,除去後の画像 では手の重心をとらえている.
(a)ノイズ除去前の検出結果
(b)ノイズ除去後の検出結果 図8 ノイズ除去処理前後の検出結果
さらに,検出した障害物の位置と大きさを知るた めに,座標情報を算出する.ここでは,障害物領域の 外接矩形の対角に位置する 2 つの頂点の座標を求め ることで,障害物の位置を取得する.
図 9に,図 7による障害物検出結果に対して左上 頂点と右下頂点の座標を求めた結果を示す.それぞ れの画像に描画された黒点が,障害物に対する対角 座標である.
(a)手前に差し出された人の手
(b)箱
図9 対角座標の検出結果
5.障害物伝達部
障害物伝達部は,最適化アルゴリズムを専門とす る研究室がプログラムの作成を担当する.以下では,
障害物伝達部の詳細を述べる.
5.1 伝達音選択処理
障害物伝達部では,超音波センサ,赤外線センサ,
温度センサ,3D距離画像センサの出力をもとに,伝 達音を選択した上で,スピーカから音を出力する.
なお,障害物の存在を視覚障害児に伝達する警告 方法として,スピーカによる音,バイブレータによる 振動,LED による発光などの検討を行った.その結 果,本提案では音による障害物伝達を採用すること とした.その理由として,視覚に頼らない,障害物の 位置や距離などを様々な形の出力に拡張しやすい,
追加のICなどを必要としないため小型化につながる ことが挙げられる.
障害物伝達部の距離計算は,超音波センサ部が使 用するマイクロコンピュータ上で行う.本マイクロ コンピュータ上で計算した結果は,シリアル通信を 用いて手押し車に設置されたノートパソコンに送信 され,ノートパソコン上のプログラムで受信する.そ れと同時に,ノートパソコンでは,3D距離画像セン サ部からの出力を受信する.
3D距離画像センサ部の出力は,視覚障害者から見 た障害物の位置を示す座標である.ノートパソコン 上のプログラムでは,その座標を用いて進行方向に 対する障害物の位置を判断する.
最終的に本伝達部では,進行方向に対する位置と 距離によって 3 次元的に障害物の位置を求め,障害 物の存在を視覚障害児に伝達するための適切な音を 選択する.そして,選択した伝達音をスピーカから出 力する.この一連の手続きを図10に示す.
5.2 障害物の位置決定
(1)障害物までの距離計算 本項では,超音 波センサ部から入力される各センサの計測データを
図10 伝達音選択処理
もとに,視覚障害児と障害物との距離の算出方法を 示す.
視覚障害児と障害物との距離をL[m],音速をc[m/s],
超音波を発信して跳ね返ってくるまでの時間を t[s]
とすると,距離Lは式(1)により得られる.
𝑳𝑳=𝒄𝒄×𝒕𝒕×𝟏𝟏
𝟐𝟐 [𝐦𝐦] (𝟏𝟏)
ここで,図11に示すように音速は気温によって変 化するため,温度センサを用いて気温を計測し,音速 を計算することでより正確な距離を求める.音速は,
気温をT[℃]とおくと,式(2)により得られる.
𝐜𝐜=𝟑𝟑𝟑𝟑𝟏𝟏.𝟓𝟓+𝟎𝟎.𝟔𝟔𝑻𝑻 [𝐦𝐦/𝐬𝐬] (𝟐𝟐)
図11 気温による音速の変化
(2)障害物の位置判定 本項では,3D距離画 像センサ部から入力される座標データをもとにした,
障害物の位置判定方法を示す.
3D距離画像センサ部からは,視覚障害児から見た 障害物の平面的な位置を障害物の対角座標として取 得する.3D距離画像センサ部では,センサより取得 した画像の左上を原点としており,x座標は画像の右 方向へ向かうほど,y座標は画像の下方向に向かうほ ど値が大きくなる.障害物伝達部では,3D距離画像 センサ部と同じ大きさの座標平面を用いて,取得し た対角座標から障害物の高さと幅を算出する.
さらに,障害物伝達部の座標平面は,視覚障害児か ら見て,左上,上,右上,左,前,右,左下,下,右 下の 9 つに区分されており(図 12),障害物の位置に
より異なる伝達音を出力する.
なお,左右に散らばった複数個の障害物を検知し た場合の伝達音については検討中である.
図12 障害物の位置判定
6.評価
6.1 超音波センサ部の評価実験
(1)実験環境 超音波センサ部の評価として,
図 2 に示す超音波センサ部を用いた障害物の検出を 行った.実施した実験は,超音波センサおよび赤外線 センサを用いた障害物検出と,温度センサによる検 出距離補正である.実験に用いた障害物は,コンクリ ート壁,アクリル板,布の3種類である.各センサの 設定距離は1[m]とした.
評価実験に用いた装置を図13~15に示す.実験装 置では,ポリ塩化ビニル製の簡易的な台車に,地面と 垂直になるようにセンサを取り付けた.
図13 実験装置
図14 センサ部拡大写真
図15 回路・電源搭載部拡大写真
(2)超音波センサおよび赤外線センサを用いた 障害物検出実験 一つ目の評価実験では,障害物
から 1[m]以上離れた位置に障害物と並行に実験装置
を設置し,装置を少しずつ前に動かして障害物を検 知した距離を測定した(図16).なお,センサの取り付 け位置は床面から0.6[m]である.
障害物から装置までの距離を 1[m]にした理由は,
人間の歩幅は身長×0.45 と言われており,装置を子 どもが使用することを考えたとき,6歳児の平均身長
が101.4[cm]であるため,1歩あたり約45[cm]進むこ
とになるからである.それに加えて,子どもは危険を 察知してから止まるまでに最低 2 歩進むと言われて いるため,余裕をみて設定距離を1[m]とした.
図16 実験環境の概略
表1に測定結果を示す.測定値は,各障害物で30 回ずつ検出を行った結果の平均である.なお,評価実 験時の室温は24.1[℃]である.
測定の結果,両センサとも数センチメートルの誤 差の範囲で障害物を検出できた.
表1 超音波センサ部による障害物検出結果 超音波センサ 赤外線センサ コンクリート壁 100.8[cm] 96.7[cm]
アクリル板 98.3[cm]
布 98.1[cm]
マイクロコンピュータ
モバイルバッテリ
赤外線センサ
超音波センサ
(3)温度センサによる検出距離補正実験 二 つ目の評価実験では,障害物の検出に超音波センサ を使用する.評価の手順として,まず室温を16[℃]に 設定し,実験装置を障害物から1[m]の位置に,障害物 と平行になるように設置する.その後,室温を1[℃]
ずつ上昇させ,温度センサによって補正した場合と 温度センサによる補正がない場合のそれぞれの距離 を測定する.
表2 に測定結果を示す.測定値は,各室温で5回 ずつ測定を行った結果の平均である.
測定結果から,室温が 20[℃]未満の場合は温度セ ンサによる補正が正常に行われているが,室温が高 くなるにつれて補正後の測定値が 1[m]から離れてい くことがわかる.これについては今後,さらなる検証 が必要である.
表2 温度センサによる検出距離補正結果 室温[℃] 補正なし[cm] 補正あり[cm]
16.0 100.38 100.18
17.0 100.64 100.46
18.0 100.50 100.34
19.0 100.86 100.42
20.0 99.64 99.20
21.0 100.32 99.84
22.0 99.76 99.38
… … …
26.0 100.02 99.48
28.0 99.52 98.54
6.2 3D距離画像センサ部の評価実験
3D距離画像センサ部の評価として,対角座標の検 出にかかる平均処理時間の計測を行った.本システ ムは,地面から足を離すことに恐怖を感じる障害児 が,手押し車につかまって足を踏み出す練習をする 際に使用することを想定しており,1歩にかかる時間 を1秒以上として評価を行う.
計測方法として,3D距離画像センサが全画素につ いて1 分間検出し続けたときの1 フレーム当たりの 平均処理時間の算出を5回ずつ行った.なお,計測1 回当たりのデータ数が大きいため,数フレームの誤 差は容認する.
表3に対角座標検出にかかる平均処理時間を示す.
本評価結果より,障害物の対角座標の検出は100[ms]
未満で実行できており,実用的な処理時間に収まる ことを確認した.
6.3 障害物伝達部の評価実験
障害物伝達部の評価として,障害物までの距離に 対して伝達音が正確に出力されているかを計測した.
表3 対角座標検出にかかる平均処理時間
試行回数 1フレーム当たりの 平均処理時間[ms]
1 88
2 85
3 85
4 82
5 87
平均 85.4
計測方法として,被験者が超音波センサ部を装着し,
障害物に向かって歩く実験を行った.実験時の気温
は15[℃]である.なお,本実験における障害物は,常
に被験者の正面にあるものとする.
本実験の手順を以下に示す.
1.被験者は障害物の3[m]手前に立つ
2.障害物伝達部の機能により距離を算出し,その距 離に対応する音をスピーカから出力する
3.被験者は30[cm]前進する
4.障害物に接触するまで手順2,3を繰り返す
本計測実験で使用した,障害物までの距離とそれ に対応する伝達音を表 4 に示す.実験では,障害物 との距離が 50[cm]ずつ近くなるごとに,ドからラま で順次音階を上げて音を出力することとした.
表 5 に実験により出力された音を示す.被験者か ら障害物までの距離の変化が 30[cm]ごとの場合,被 験者の移動に合わせて正確に距離計算が行われ,表4 に示す音が出力されることを確認した.
表4 障害物までの距離に対する伝達音 障害物までの距離[cm] 音
~75 ラ
75~125 ソ
125~175 ファ
175~225 ミ
225~275 レ
275~ ド
6.4 盲学校での評価実験
(1)胸部装着装置の評価 本稿で提案する胸部 装着装置の使用感を調査するために,岡山県立岡山 盲学校の児童 1 名を対象として評価実験を行った.
被験者である児童は,右目が全盲,左目に重度の障害 を持つ身長123[cm]の小学6年生の男児である.
本評価実験として,児童に胸部装着装置を装着し てもらい,装着感や重さについて聞き取り調査を行 った.図17に児童が胸部装着装置を装着した様子を 示す.図17右のリュックサックには,マイクロコン ピュータを含む回路およびモバイルバッテリが入っ
ている.
表5 障害物伝達部による距離計算と音出力の結果 障害物までの距離[cm] 計測距離[cm] 音
30 30 ラ
60 60 ラ
90 90 ソ
120 121 ソ
150 151 ファ
180 183 ミ
210 212 ミ
240 244 レ
270 276 ド
300 305 ド
評価結果として,被験者の男児からは,装着に関し て不快感はなく装置の重さも問題ない,リュックサ ックも重たくないという回答が得られた.
図17 被験者が胸部装着装置を装着した様子
(2)歩行訓練システム全体の評価 歩行訓練シ ステム全体を評価するために,日頃から視覚障害児 の発達を熟知し,指導者の立場である人からの意見 収集を行った.評価者は,盲学校の先生 3 名と児童 の保護者1名である.
評価結果として,先生方からは,手押し車型の歩行 訓練装置は,低学年の児童や幼児が初めて歩行訓練 をする際に有用であるとの意見があった.本意見よ り,システム全体は訓練現場で使いやすい形状であ ると言える.センサ類については,障害者によって視 野や視力に差があるため,向きや高さを使用者で調 節できる機構があった方が良いとの指摘があった.
保護者からは,伝達音については,スピーカからの 音は周囲にも聞こえるため,イヤホンの方が良いと の要望があった.また,装着装置が目立つので,ウエ ストポーチ型などにして目立たない工夫をして欲し いとの意見があった.被験者の男児は,周囲の目を気 にして白杖を持つのも嫌がっているとのことであっ た.
これらの意見は,思春期を目前にした児童の保護 者から出されており,歩行訓練が進み,手押し車を必 要としなくなった段階の訓練では,見た目に配慮し た装置の開発が望まれることが分かった.
7.まとめ
本研究では,視覚障害児の歩行に対する恐怖心や 抵抗感を軽減することおよび保護者や歩行訓練士の 負担の軽減を目的として,幼児や児童を対象とした 歩行訓練システムを提案した.本システムは,超音波 センサ部,3D距離画像センサ部,障害物伝達部の大 きく 3 つの要素技術で構成されており,評価実験の 結果,各要素の実用性を確認した.
今後の課題として,各センサの障害物検出可能範 囲を測定すること,胸部装着装置を手押し車に搭載 し,センサ類を一体型とすること,耳を塞がない骨伝 導イヤホンを導入することで,外部の音を遮断する ことなく提案装置の音を伝達することを挙げる.
謝 辞
本研究はJSPS科研費 JP17872748の助成を受けた ものです.
参 考 文 献
1) SightFirst Long Range Planning Working Group:Childhood Blindness Position Paper,Lions Clubs International (2008).
2) 中村素子ら他:視覚障害乳幼児の早期支援における現状と課 題,秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要,36(2014)69-80.
3) 厚生労働省:障害者白書,内閣府,(2019)135.
4) WAM NET:
https://www.int.wam.go.jp/sec/com/content/wamnet/pcpub/top/
(参照2019-07-30).
5) 福井良太:世界から見た日本の盲導犬育成事業,日本補助犬科 学研究,2,1(2008)22-25