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中国人口移動の新潮流 2015年全国1%人口抽様調査結果を利用して

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研究ノート

中国人口移動の新潮流

2015年全国1%人口抽様調査結果を利用して

小 原 江里香

《要 約》

 本稿では, 2015年全国1%人口抽様調査における人口移動データを用いて,2010年以降の人口移動の 特徴をとらえることを目的とする。その際,2010年全国人口センサスや2005年1%人口抽様調査の結 果などと照らし合わせながら分析を進める。

 2010年以降,立て続けに実施された人口移動関連の制度変更は,それまでの人口移動の特徴に大き な変化をもたらした。主要な変化として以下の 3 点が挙げられる。第1に,高所得地域である東部地 域の大都市への集中が緩和され,これまで主要な送り出し地域であった中西部地域での省内移動が増 加した。第2に,移動人口の主な流入地が,「鎮」(日本語の「町」に相当)から都市部に変化した。

第 3 に,大学や大学院卒の高学歴者の省間移動が相対的に縮小し,小学校から高校や専門学校卒など の低学歴・中学歴者のそれが拡大した。こうした変化の背景として,人口500万人以上の特大都市にお ける人口の流入規制や,中西部地域の中小都市での「就地就業」政策すなわち地元での就業の奨励政 策の影響がある。

       目  次

1 .はじめに

2 .1990年代以降の人口移動の特徴 3 . 人口移動をとりまく制度改革 4 . 分析データと移動人口の定義 5 . 2010年以降の人口移動の特徴 6 . むすびにかえて

1 .はじめに

 本稿では, 2015年全国 1 %人口抽様調査における人口移動データを用いて,2010年代前半の人口移動 の特徴をとらえることを目的とする。その際,2010年全国人口センサスや2005年 1 %人口抽様調査の結 果などと照らし合わせながら分析を進める。後述するように,中国では2010年以降人口移動を厳しく規

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制・管理してきた戸籍制度が緩和されるなど,人口移動をとりまく制度に決定的な変化がみられた。こ うした変化は人口移動にどのような影響をあたえているのであろうか。これまで確認されてきた人口移 動の特徴は,制度変化の後も引き継がれているのであろうか。

 以下,第 2 節では1990年代以降の人口移動の特徴について,先行研究を用いて整理し,第 3 節では人 口移動をとりまく制度やその改革について考察する。第 4 節ではデータ分析で必要な用語の定義などを 明確にし,第 5 節では2010年代前半の人口移動について,規模,移動の方向,経済発展と人口移動との 関係,学歴別で見た人口移動の特徴について分析する。第 6 節で結論と政策的意義をまとめる。

2 .1990年以降の人口移動の特徴

 人口移動に関しては,質的研究や量的研究ともに多くの先行研究が蓄積されている。ここではセンサ ス等の公的データを分析した先行研究を用いて,まず2000年代以前の人口移動の特徴を整理する。

 厳(20052009)ではセンサス等の膨大なデータを用いて計量分析を行い,人口移動や労働力移動の 特徴を明らかにしている。厳の一連の研究成果によると,2000年代以前の人口移動の主な特徴は,①改 革開放以降,とりわけ1990年代後半に移動人口が急激に増加し,この頃から省を跨ぐ移動(以下省間移 動)者が増加した。②移動人口の流入先は,1990年代前半には都市部が 6 割以上を占めていたが,90年 代後半には移動を規制する動きが活発化し,都市流入の割合が 3 割強にまで低下した。都市に替わって 主な流入先になったのが「鎮」である。③高所得地域であるほど移動人口は主に省内で発生し,低所 得地域であるほど省間移動が活発である。④戸籍制度の影響で,他国と比べて挙家移動が少なく,親と 子供の同伴移動が極端に少ない。⑤女性の移動率が男性のそれよりも高い。⑥省間移動人口の決定要因 について,流入率が高い地域は所得水準が比較的高く,失業率が低い地域であり,また移動距離が長い ほど,流動率は下がり,しかし移動する人が移動先での有力な情報を持っている場合には移動距離のマ イナス効果は相殺される。

 また厳(2009)では2005年全国1%人口抽様調査のデータを利用して,2000年代前半の人口移動の全 体像を分析している。とりわけ本稿と関連する点を以下に挙げる。①地域間移動人口の規模は,1990 代後半に続き拡大している。②移動範囲が引き続き広域化している。③農村は依然として主な人口流出 の供給源でもあるが,都市間の人口移動も急増している。④流入先として都市部がその割合を高めてい る。⑤移動者の学歴について,2000年以前には中小卒程度の低学歴の人は高校卒の人よりも積極的に省

1 「鎮」は日本の「町」にあたる。「鎮」に居住する住民は都市戸籍を持っているのに対し,「郷」(ここでいう村)

に居住する住民のほとんどは農村戸籍を持っている。

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間移動をしていたが,2005年のデータ分析によると,移動者の大半が比較的高い教育を受けた青壮年に 集中している。

 さらに小原(2013)は,2010年全国人口センサスのデータを分析し,2000年代の人口移動の傾向が,

1990年代の傾向をそのまま引き継いでいるのか,あるいは変化があるのか,厳(2000,2009)と比較し

ながら分析を行っている。その結果,①移動人口規模はさらに拡大している。②「鎮」からの人口流出 が顕著になり,また北京や上海への集中がより一層強化されている。③1990年代とは異なり,青壮年の 男性の移動率が上昇し女性を上回っている。④2000年以前と同様に高学歴ほど移動率は高いものの,低 学歴,中学歴の移動率の上昇もみられる。⑤2000年代前半には市場化が進展している地域への流入が主 流であったが,2000年代後半には市場化の進展度とは無関係に,流入先での縁故の有無が移動の要因と して重要になる。

 こうした先行研究を踏まえると,1990年代,2000年代の人口移動は,戸籍制度改革の本格的な実施前 ではあったものの,同制度が既に形骸化していたこともあり古典的な移動理論でもあるハリス・トダロ モデルの想定どおり,低所得地域から高所得地域へ,移動距離が長いと移動率は下がり,ただし移動 先に縁故をもつ場合には移動距離コストは相殺されるという点で,ある程度合理的な行動であったとい える。また労働契約法の施行や金融危機による雇用の減少が市場に与えたショックは小さくはなかった ものの,経済合理的な移動要素が後退することはなかったという点が2000年代の特徴であろう。

3 .人口移動をとりまく制度改革

 上述のとおり,移動の際には経済合理的な要素を含むものの,流入先で就労する際には,戸籍制度の 影響は免れない。農村戸籍者が都市で就労する際には,都市戸籍者とは分断された都市労働市場での 就労を依然として余儀なくされる。その意味で,戸籍制度の影響は今日においても色濃く残っている

(Li2019)。そこで本節では,主に制度が人口移動に与える影響について考察する。以下ではまず,建国 以降に制度が人口移動を厳しく制限してきた歴史を整理しておこう。

 中国では建国から1980年代半ばまで,農民が合法的に,あるいは長期的に都市に移動し居住すること は事実上認められなかった。1958年に施行された「中華人民共和国戸籍登録条例」によって,都市戸 籍と農村戸籍とが完全に分断され,農村住民の都市戸籍の取得の道が閉ざされる。さらに1962年に公安

2 ハリス・トダロモデルでは,農村から都市への移動を移動者の合理的な行動と考え,都市と農村の所得格差 (期待賃金),都市で職を得る確率,移動コストの3つが移動の決定に重要な役割を果たすとされている(Harris and Todaro,1970)

3 農村戸籍を有する者の合法的な移動は,①進学,②兵役,③限定された条件での労働移動の 3 つに厳しく制 限された。

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部が発表した「戸籍管理業務についての意見」によって,農村から都市への移動が厳しく制限される。

 しかし改革開放以降,人民公社が解体されて農家による生産請負制が普及すると,農村では余剰労働 力が表面化する。余剰労働力の吸収先として80年代に大きな役割を果たしたのが農村に設立された「郷 鎮企業」であり,これによって兼業・通勤タイプの就業者が急増する。1984年に国務院が公布した「農 民の集鎮への移転・定住に関する通知」では,こうした郷鎮企業の経営者や従業員を対象に,農村戸籍 から離脱して「食糧自弁戸籍」と呼ばれる新たな戸籍を取得すれば,都市への居住を許可する。ただし,

都市住民が受けている食糧配給,医療・年金などの社会サービスの対象からは外されている。

 1985年 7 月に公安部は「都市暫住人口管理暫定規定」を公布し,都市で就労する農民に「暫住戸籍」

の付与を認める。「暫住戸籍」は文字通り一定の期間都市に滞在することを認めるものであり,「食糧自 弁戸籍」者と同様に,「暫住戸籍」者も都市住民と同様の社会サービスは適用されない。にもかかわらず,

国内人口移動者数は1983年の300万人から1985年の2,500万人へと急激に増える。

 1990年代前半から外国資本との合弁など多様な経営形態が生じ市場経済化が進むと,都市部での労働 力需要が増し,省間そして農村から都市への出稼ぎ労働者が更に急増する。これに対して都市の地元 政府は,出稼ぎ労働者を繰り返し強制送還して人口流入の規制をするといういたちごっこを繰り返す。

1993年11月の党大会で社会主義市場経済体制の確立が決定されると,1994年に労働部は「省際労働移動

に関する管理規定」を公布する。この規定では,出稼ぎ労働者の移動規制や強制送還などの管理方法は 時代のニーズにそぐわず,秩序ある人口移動を行政も含めて進めていこうという認識の変化を示す。

 2006年 3 月国務院は「農民労働者問題の解決に関する国務院の若干の意見」(以下「意見」)を発表し,

出稼ぎ労働者が工業化,都市化,近代化に対して大きな役割を果たしていることを認め,にもかかわら ず現状では劣悪な就労環境や社会環境の下での生活を余儀なくされていることから,出稼ぎ労働者の権 利を保護する方針を打ち出す。また「意見」では,中小都市に農民が戸籍を移すことができる条件を 整えて,農村戸籍者が徐々に秩序だって都市住民へと転換できるようにする戸籍制度改革実施の青写真 に初めて言及する。

 2010年以降は,人口移動に大きな影響を与える制度改革が立て続けに実施される。2011年 3 月に行わ れた全国人民代表大会では,第12 5 カ年計画(20112015年)が審議・採択され,投資主導型成長か ら消費主導型成長への転換や新しい産業育成といった発展目標に加えて,都市化の推進による地域振興 が明記される。具体的には,農村から都市への人口移転を進めて,全人口に占める都市人口の割合が農

4 同時期に国務院研究室から『中国農民工調査報告』が出版された。これは温家宝総理の指示で,中央省庁や 社会科学院などの専門家によって行われた実態調査にもとづいた報告書で,出稼ぎ労働者をめぐる諸問題を浮 き彫りにするとともに,問題解決の方策も提示された。政府の戸籍制度や労働市場構築に向けてのスタンスを 示した。

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村人口割合を上回るレベルにするとしているが,移転先として巨大都市,大中都市,中小都市が受け入 れを等しく開放しているわけではない。巨大都市は人口規模を合理的に抑制し,大中都市は管理を強化 しながらも引き続き受け入れ,中小都市は必要に応じて定住の条件を緩和するとし,事実上,中小都市 への移転を奨励している。このような段階的受け入れのねらいは,北京や上海など大都市一極集中を是 正し,中西部の中小都市において出稼ぎ労働者に都市戸籍を与え,都市戸籍者と同等の教育や社会保険 などの基本的な公的サービスを提供することであり,これによって,都市と農村という二元的な社会構 造の解消を図り,均質的な社会をつくることにある。また農民が都市戸籍を得て都市の就労者になるこ とで所得が安定し,個人消費の成長が期待でき,消費主導型経済への転換が実現できると考えられている。

 そのために中央政府は,2012 2 月の国務院弁公庁による「積極的かつ確実に戸籍制度改革を進める 通知」によって中都市における定住条件を緩和し,県級市の市轄区に 3 年以上合法的に定住し,都市の 公的社会保険に一定期間加入していれば,本人だけでなく配偶者,子供,両親の都市戸籍の申請を認め ている。2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議ではさらに,中小都市は 秩序ある都市戸籍の開放を進め,小都市は全面的に都市戸籍を開放するとし,戸籍制度改革の加速を指 示している。

 戸籍制度によって曖昧な「身分」のまま移動をしていた農村戸籍者に対して都市戸籍を開放した一連 の改革は,中西部地域の中小都市へ人口を誘導して都市化率を高めようとする「新型城鎮化」政策 重要な柱となっている。ただし,戸籍の変更自体は期待したように進んでいるとはいいがたい。清華大 学の調査結果によると,農村戸籍から都市戸籍への変更率は,1990年から2012年でわずかに 8 %しか上 昇しておらず,戸籍制度改革の進展度は都市化のスピードに比べて遅い(『中国網』2013年10月28日) 依然として,戸籍を変更しない人口移動が主流である。本稿ではこうした背景をふまえて,戸籍を変更 しない人口移動の動向を中心に分析を進めていく。

4 .分析データと移動人口の定義

 中国では戸籍の転出入を伴う地域間人口移動については公安当局の統計で把握され,公開されている。

これに対して戸籍の転出入を伴わない移動については,時系列データはなく,人口センサスや 1 %人口 抽様調査の結果が用いられて分析されている。1987年全国 1 %人口抽様調査を皮切りに,その後 4 回の

5 「新型城鎮化」政策を含めこうした一連の制度改革の経済的効果に対し,三浦(2014)は極めて懐疑的である。

近年東部の大都市では多様で安定的な雇用機会を提供でき,「正のフィードバック」効果などが作用しやすく,

技術革新が多く生まれているという点でも注目を集めている。市場原理に照らし合わせれば,中小都市への政 策的な人口移動は非効率性を生み出す可能性が否めない。

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人口センサス(1990年,2000年,2010年)と 3 回の全国 1 %抽様調査(1995年,2005年,2015年)の結 果が使用可能である。本稿では,近年の動向をみるために,2005年全国 1 %抽様調査,2000年全国人口 センサス,2015年全国 1 %抽様調査を主な分析対象とする。なお,厳密には1.1554%人口を対象として いる。

 次に,移動人口の定義について厳(2005)に依拠して整理する。移動人口は「暫住移動人口」「期間 移動人口」「生涯移動人口」の 3 つの側面から分析が可能である。「暫住移動人口」は戸籍の転出入を伴 わずに戸籍登録地から半年以上離れて他地域に住んでいるかどうかを基準としており,調査時点で居住 地と戸籍登録地が一致しない人口が把握できる。「期間移動人口」は 5 年前の常住地から移動人口かどう かを判断する。「生涯移動人口」は出生場所と調査時の常住地によって移動人口かどうかを判断する。本 稿では主に「暫住移動人口」の指標を使用する。なぜならば,「期間移動人口」は省間移動者のデータし か把握できず,また暫住人口に加えて戸籍の転出入を伴う「遷移人口」も含むため使用に注意が必要で ある。「生涯移動人口」は,2015年全国 1 %抽様調査では公開されておらず,データが十分にそろわない。

5 .2010年以降の人口移動の特徴

 上述の人口移動の特徴は,2010年以降も引き継いでいるのだろうか。市場化は進展し,人口移動はよ り促進されているのだろうか。本節では,移動人口の規模,移動の方向,人口移動と経済発展の関係,

移動人口の学歴に焦点を絞って考察する。

(1)規模の増大

 中国全体でどれだけの規模の人口移動がみられるのであろうか。「暫住移動人口」の推移をみてみよう。

前述のとおり戸籍を基準とした「暫住移動人口」は2005年全国 1 %抽様調査,2010年全国人口センサス,

2015年全国 1 %抽様調査の全てのデータにおいて揃っている。1 %抽様調査とセンサスの比較には厳密

には問題点もあるが,傾向の把握のために表 1 に「暫住移動人口」の総数,構成,移動率を示す。

 2015年の「暫住移動人口」は,2 9,247万人である。そのうちの大半は戸籍登録は農村でありなが ら,実際は都市に居住する出稼ぎ労働者とその家族が占めていると考えられる。総数の推移をみると,

2000年から2005年までに約5000万人増,2005年から2010年までに約6000万人増と急増の傾向にあったが,

2010年から2015年までの増加幅は約3000万人に半減している。一方,対総人口比を示す移動率は2005

6 『中国流動人口発展報告2017』(国家衛計委)では流動人口数は2014年まで6年連続増加し,2015年から減少 し始めたと指摘している。この報告では国家衛生計生委組織が行った全国流動人口動態モニタリング調査の結 果が用いられている。

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年から2010年の間に約10%から約20%へと急増しており,この間に人口移動が活発化したことがうかが える。また,省内移動者と省を跨ぐ省間移動者の割合は,省内移動者が一貫して約7割を占める。以下 では移動の範囲について詳しくみていこう。

表 1  暫住移動人口の規模と構成            (単位:万人,%)

移動人口(万人) 構成(%) 移動率

総数 省内 省間 総数 省内 省間 (%)

2000年 14,439 10,197 4,242 100 70.62 29.38 11.6

2005年 19,459 12,841 6,618 100 65.99 34.01 11.5

2010年 26,094 17,506 8,588 100 67.09 32.91 19.6

2015年 29,247 19,551 9,695 100 66.85 33.15 21.3

出所:小原(2013年)をもとに,2015年全国 1 %人口抽様調査を用いて作成。

2)移動の方向

① 高所得地域への集中にブレーキ

 移動人口はどこに向かって動いているのであろうか。「暫住移動人口」の相対水準を地域別にみてみ よう。表 2 には「暫住移動人口」の比率の全国平均,上位 5 地域,下位 5 地域,加えて「暫住移動人口 数」「暫住移動人口」の対戸籍人口比率を示した。

 「暫住人口」の対戸籍人口比率は,2000年の7.2%から2015年の27.3%へと大幅に増加しているが,増 加の速度は2010年から2015年の間にやや落ちている。北京と上海においては,2010年には,暫住人口の 対戸籍人口比率は100%を超え,それぞれ128.1%118.1%に達するが,2015年に更なる上昇はみられず,

同水準が維持されている。2010年から2015年にかけて,同比率が上昇したのは,上位地域では広東のみ である。2000年以降暫住人口比率の地域間格差の拡大が指摘されてきたが(厳2005,小原2013),2010 年以降その格差拡大にブレーキがかかっている。上位地域の暫住人口比率は 3 割から 5 割程度と変化が ほとんどない一方で,下位地域の暫住人口比率はやや増加し 1 割強に達している。

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② 受け入れ先は町から都市に

 次に,表 3 に示した県・市・区の境界を越えた移動人口の流れを用いて,都市農村間の移動フローに 関する特徴を検討する。1980年代の移動の方向は農村から都市であった。90年に入ると都市労働市場の 吸収力が限界に達し,また都市への人口流入を規制する制度的要因が働いたことから,人々は都市では なく,「鎮」に流入し始める。厳(2009)によると,90年代の人口移動の 5 割は「郷村」(日本の「村」

に相当)から「鎮」への移動であり,都市への流入割合は 3 割強程度であった。

 2000年以降に戸籍制度など人口移動に関する制度がなし崩し的に緩和されると,移動の方向にも変化 が現れる。「郷村」から流出する移動人口は2000年の38.6%から2015年の48.3%へと約10%以上も増加 する。一方,流入先も大きく変化する。2000年の調査では流入先の約 6 割を占めた「鎮」の比率は低下 し,かわって都市部のそれが大きく上昇し2015年には 7 割弱に達する。この間,労働市場の機能強化は もとより,インフラ整備,中小都市の不動産開発を含む都市化政策が強力に進められる。これによって

表 3  暫住移動人口の流出元・流入先別構成比の推移        (単位:万人,%)

         出所:小原(2013年)をもとに,2015年全国 1 %人口抽様調査を用いて作成。

         注:(1)省内移動,省間移動双方を含む。

       (2)全て「暫住移動人口データ」を用いて算出。

表 2  地元戸籍人口に占める暫住人口の比率    (単位:万人,%)

         出所:小原(2013年)をもとに,2015年全国 1 %人口抽様調査を用いて作成。

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都市部での労働力の需要が増し,「郷村」からの人口流出が加速した結果であろう。また,都市部から の流出も15%から28%へと増加する。2000年以降労働市場の機能が次第に強化され,統一的な市場が形 成されつつあることを反映している。

③ 中西部地域も受け入れ先に

 次に移動人口の空間分布をみてみよう。ここでは,5 年前の居住地で捉えた省間移動人口のデータを 用い流出元と流入先で西部地域,中部地域,東部地域に分類して集計しなおした(表 4 参照)。表 4 に よると,第 1 に,省間移動人口の規模は1995年~2000年の間の移動人口規模3,398万人から,2005年~

2010年の5,974万人へと 2 倍近く増加する。ところが,2010年~2015年の10年間には5281万人へと縮小 に転じる。第 2 に,省間移動人口の流出元別の構成について,西部地域は20年間を通じて 3 割弱で変化 がない。中部地域も同様に,1995年~2000年から2005年~2010年までは移動人口規模は膨れ上がったも のの,その後2010年~2015年の間には1000万人減少する。構成をみても,同期間に54.5%から48.5%に 低下している。一方,躍進したのが東部地域である。移動人口規模は1,026万人から200万人増の1,203 万人に,全体に占める割合は17.2%から22.8%に増加している。

表 4  5 年前常住地からみる省間移動人口の規模と構成の変化       (単位:万人,%)

  出所:小原(2013年)をもとに,2015年全国 1 %人口抽様調査を用いて作成。

  注:(1)上段は省間移動人口数,下段はその構成比を示す。

    (2)東部地域は北京,天津,上海,江蘇,浙江,福建,山東,広東,海南の 9 省市,中部地域は河北,山西,

内モンゴル,遼寧,吉林,黒龍江,安徽,江西,湖北,湖南,河南の11省区,西部地域はその他の地域 を指す。

    (3)ここでは「期間移動人口データ」を用いている。そのため,「暫住移動人口データ」を用いた表 1 の移 動人口数の合計値とは合致しない。

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 第 3 に,省間移動人口の流入先別構成では,東部地域が77.2%から67.2%へと落ち込んでいる。それ とは対照に,西部地域が同期間中11.1%から18%へ,中部地域が11.8%から18.0%へそれぞれ増加して おり,それまでの東部地域への集中が分散傾向にあることがうかがわれる。

 こうした東部地域への集中の緩和傾向は,暫住移動人口の地域間における移動人口構成比からも確認 できる。例えば,90年代後半において中部地域から東部地域への人口移動は1,439万人で,全移動者の 42.3%を占めたが,2015年には4,205万人と移動人口の規模は拡大したものの,比率は43.4%と15年前と

ほとんど変化がみられない。

 移動人口の地域集中度について,もう少し詳しくみてみよう。図 1 は,省市区別流出・流入人口の構成 比をそれぞれ降順・昇順で並べ替えたうえ,その累積百分比で描いた疑似ローレンツ曲線である。この曲 線が対角線から右下または左上へシフトするほど,人口の流入または流出がますます局地的に集中する。

 同図から読み取れるように,2005年から2015年にかけての10年間にわたって,省間移動人口の地域分 布の偏りの緩和が急速に進んだ。特に偏りが顕著だった2005年と2010年の流入地は,2015年にかけて偏 りの緩和が一気に進んでいる。移動人口を最も多く吸収した広東省における流入人口の対全移動人口比 は,2005年の31.5%,2010年の25.1%,2015年の20.1%へと加速的に低下し,他方,流出人口の首位地 域であった四川省における流出人口の対全移動人口比はこの間に首位を安徽省に譲り,10.3%から6.9%

へと低下している。また流入人口の上位 5 地域の累計は,67.3%→65.1%→54.3%と激減し,流出人口 の上位 5 地域の累計も,45.4%→44.3%→36.8%と同様に激減している。流入地と流出地ともに,人口

図 1  省間移動人口の地域集中度の変化

   出所:厳(2005)を参考に,全国人口抽様調査弁公室(2005)(2015),国務院人口普査弁公室ほか(2010)

を用いて筆者作成。

   注:各年の「期間移動人口」のデータによる。

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移動は集中型から分散型に変化している。

(3)人口移動と経済発展の関係-低所得地域における省内移動の活発化

 移動のパターンは,流入・流出地域の経済発展の状況からも強く規定される(厳2009)。図2は2005年 戸籍登録地から半年以上離れている省内移動人口の対地元戸籍人口比率,および全移動人口に占める省 間移動人口の割合を縦軸とし,横軸を2005年 1 人当たり総生産とする散布図,図 3 は同上の縦軸,横軸 を2015年 1 人当たり総生産とする散布図である。図中には一人当たりGDPと移動人口比率の関係を示 す近似曲線およびその関数式も示した。

 両図からもわかるように,省内移動人口の水準は経済発展の水準と高い正の相関関係にあり(相関係

数:2015年0.68,2005年0.82),省内移動人口の対地元戸籍人口比率は所得水準の増加に伴って上昇する。

2015年では所得水準の高い上海市,北京市,天津市,浙江省,広東省の同比率は20~40%に上り,低所

得の貴州省,雲南省,甘粛省,広西省,安徽省ではわずか14~16%である。また省間移動人口の対全移 動人口比率と所得水準は負の相関関係にあり(相関係数:2015年-0.57,2005年-0.61),低所得の地域ほ ど,省間(流出)移動人口が多い。こうした傾向は,1995年から2000年のデータを用いて同様の分析を した厳(2005)でも指摘されている。

図 2  所得水準と移動率 (2015年)

  出所:国家統計局『中国統計年鑑』(2016年版)『2015年全国1%人口抽様調査資料』より厳(2005)を参考 に筆者作成。

   注:「全移動人口」は戸籍登録地に基づく各省市区の暫住移動人口(センサス表12-1)と省外への移出暫住 移動人口(センサス表12-3)を合計したものである。戸籍の転出を伴う移動人口は含まれない。

(12)

 しかし両図を詳細に検討すると,2005年から2015年の間に生じた変化が読みとれる。省内移動人口の 対地元戸籍人口比率は,2005年に比べて2015年には所得水準が 4 万~ 8 万元の中レベルの地域でも比較 的に高い割合を占める地域がみられる。

 またここでは詳細なデータは提示しないが,2015年と2005年の省間移動人口と省内移動人口が地元戸 籍人口に占める割合を比較すると,2005年には省間移動人口の割合が省内移動人口のそれよりも高い省 が安徽,江西,湖南,広西,貴州など低所得地域を中心に 8 省みられるが,2015年のそれは安徽省のみ である。つまり,低所得地域で拡大すると思われた省間移動は,この数年間の移動人口規模の拡大に伴っ て必ずしも活発化せず,むしろ縮小している。

 こうした変化は何を意味しているのだろうか。地元での就業を奨励する「就地就業」が比較的に順調 に雇用機会を創出していることが考えられる。しかし戸籍制度が緩和され,労働市場の形成が促進され て全国範囲で移動できるようになった1995年~2000年の状況(厳2005年)からは,まるで逆行するかの ようでもある。

(4)学歴別にみる移動率

 一般に学歴や技術力が高い人ほど高い人的資本を持つ。そのようなコーホートの移動率は,他の条件 が同じ場合には,人的資本の低いコーホートよりも高くなる。そこで以下では移動者の学歴と移動の関

図 3  所得水準と移動率(2005年)

   出所:国家統計局『中国統計年鑑』(2006年版)『2005年全国1%人口抽様調査資料』より厳(2005)を 参考に筆者作成。

   注:「全移動人口」は戸籍登録地に基づく各省市区の暫住移動人口と省外への移出暫住移動人口(ともに センサス表12-6)を合計したものである。戸籍の転出を伴う移動人口は含まれない。

(13)

係についてみていこう。

 表 5 に学歴別移動率,集中度(定義については表の注を参照)について示した。2005年全国 1 %人口 抽様調査では学歴別移動人口のデータが公開されていない。そのため,2000年の人口センサスを分析し た厳(2005)と2015年の数値を比較する。以下いくつかの興味深い点を挙げる。第 1 に,全体での移動 率はいずれも2000年から2015年にかけて上昇している。全体的に高学歴ほど移動率が高い傾向に変化は ない。ただし,高学歴(大学,大学院卒)の階層ではいずれも低下し,学歴なしから「中専」(日本の工 業高校に相当)卒までの階層では上昇している。

 第 2 に,全体平均を 1 とする学歴別集中度(移動人口の学歴別構成比/全人口の学歴別構成比)でみ ると,2000年,2015年双方において小学以下は0.40.6と低い。子供の同伴移動が少ないという中国特 有の行動様式は,2015年においても顕著であることを示している。

 第 3 に,学歴別にみる移動範囲について,2000年から2015年の間に省間移動の全体の割合は26.7%か ら37.1%へと上昇しているが,高学歴の階層(大学,大学院)は低下している。大学以上の学歴を持つ 者は全国範囲で就職が可能であると考えられるが,彼らは省間移動に対して積極的ではなくなってきて いる。中卒,高卒程度の学歴をもつ人の省間移動割合が,大卒,大学院卒の人よりも高いのは,依然と して経済発展の遅れている内陸地域の教育水準が相対的に低く,そこからの出稼ぎ労働者が主に沿海地 域に移動しているためであろう。

6 . むすびにかえて-雇用創出の効果か,戸籍制度改革による規制の結果か

 本稿では,中国における近年の人口移動の変化を明らかにするため,2015年と2005年の全国 1 %抽様 調査の集計資料及び2000年と2010年の人口センサスのデータを比較,分析した。そして,リーマンショッ

表 5  学歴別移動率       (単位:%)

   出所:厳(2005),小原(2013)を参考に『2005年全国1%人口抽様調査資料』より筆者作成。

   注:(1)学歴別人口は 6 歳以上を対象としている。

     (2)集中度=移動人口の学歴別構成比/全人口の学歴別構成比。

(14)

クや戸籍制度改革の前後で移動の方向や範囲,移動者の学歴の変化について検討した。最後に本稿の主 要な分析結果をまとめ,考察を加える。

 2000年代までの人口移動は,東部地域の大都市を中心とした集中型であり,流入者は貧しい西部・中 部地域の農村や鎮の出身者だった。ところが,2010年以降こうした傾向に大きな変化が現れる。東部地 域一辺倒だった流入地は,中部地域,西部地域へと分散し,これまで主に高所得地域で多くみられた省 内移動が中所得地域(省市区)でも活発化している。学歴が高いと移動率も高くなる傾向に変わりはな いものの,高学歴者の移動範囲が縮小していることがわかった。

 中国では,2001年から始まった「第10次五カ年計画」の中で都市化の方針として「小城鎮を重点的に 発展させ,中小都市を積極的に発展させ,地域中心都市の機能を整備する」としていた。しかし実際に は「鎮」からの人口流出は続き,2005年以降は都市部流入が活発化した。とりわけ北京や上海では90年 代に比べて人口の一極集中がより一層強まり,「大中小都市と小城鎮の調和のとれた発展」という課題 は,2000年代においては実現しなかった。2012年以降に始まった戸籍制度改革の本格的な実施について は,農村戸籍から都市戸籍への転換については期待通りの成果はあがっていないとの報告も多いが,戸 籍の変更をともなわない人口移動に対しては,東部地域への人口集中の回避と中西部地域への誘導とい う点で,改革が期待した決定的な変化が生じている。

 こうした変化は何を意味するのだろうか。1990年代以降の省間人口移動は一貫して活発化し,全国的 に統一した開放的な労働市場の形成が示唆されてきた(厳2005)ことを踏まえると,2010年以降の変化 は,省間人口移動の不活発化,閉鎖的労働市場をもった社会へと「逆戻り」しているかのようにも見え る。こうした逆戻り現象には,いくつかの背景が考えられる。戸籍制度改革による大都市への流入規制 による結果なのだろうか。それとも,中小都市での「就地就業」政策すなわち地元就業機会の増加がも たらした結果なのだろうか。今のところ,双方がともに作用した結果であろう。たとえ制度で中西部地 域の中小都市に人口を誘導したとしても,内陸部での不動産建設やインフラ整備のラッシュが終われば,

また北京や上海への大都市集中型の移動に戻る可能性もある。今後の人口移動政策や都市化政策を考え る上でも注視する必要がある。

[参考文献]

[ 1 ]小原江里香「2000年代中国の人口移動」鈴木隆・田中周編『転換期中国の政治と社会集団』国際書院,2013年,

67-91ページ。

[ 2 ]鎌田文彦「中国における戸籍制度改革の動向」『レファレンス』第60巻第 3 号,2010年 3 月,49-65ページ。

[ 3 ]厳善平『中国の人口移動と民工』勁草書房,2005年。

[ 4 ]― 『叢書・中国的問題群 7  農村から都市へ‐ 1 億3000万人の農民大移動』岩波書店,2009年。

(15)

[ 5 ]三浦有史「中国「城鎮化」の実現可能性を検証する」『JRIレビュー』Vol.3,No13,2014年。

[ 6 ] Li Sun, Rural Urban Migration and Policy Intervention in China, Springer, Singapore, 2018.

[ 7 ] Harris,John R. and Todaro, Michael P., “Migration, Unemployment, and Development: A Tow-Sector Analysis”, American Economic Rview,vol.60, 1970 pp.126-142.

[ 8 ]「20年间中国农转非人口比例增长不到 8 %」『财经』2013年10月28日,

http://finance.china.com.cn/industry/agri/20131028/1914832.shtml,2018年 9 月 6 日参照。

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