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日本画 における ミクス ト・メデ ィア技法の内容 と特徴

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(1)

日本画 における ミクス ト・メデ ィア技法の内容 と特徴

田 博

TheOri gi nalCharact eri st i csoft he M i xedM edi aTechni ques i nJapanesePai nt i ngs

Hi roakiOKADA

は じめに

本論文 の 目的 は、 デザイ ンと絵画 は基本 の ところで共通で あるとい う地点か ら

、2 0

年 にわた って探 求 して きた 日本画 における ミクス ト・メデ ィア技法の全体を明 らか にす ることにある。 そのために、 ま ず絵画 における ミクス ト・メデ ィアの歴史的展開を確認 した うえで、 日本画 におけるその特別な位置を 示 したい。次 に開発 されて きた ミクス ト・メデ ィアの諸特徴 と独 自性 を明 らかにす るために、絵 の具 と しての特徴、 そ して技法や基底材 の内容 とその独 自性 について言及す る。最後 にこうした ミクス ト・メ デ ィアの意義 と可能性 につ いてま とめ る

1

. ミク ス ト ・メデ ィア と 日本 画 にお ける そ の独 自性 1) ミクス ト・メデ ィアの概要

従来の絵画では、単素材すなわち 1つの系統の材料で制作 され ることが多 い。例えば、油絵であれば、

キ ャンバスに油性 の ジェッソとい う塗料 な どで 白い面 をつ くり、そ こにやは り油性 の溶剤で溶 いた絵の 具で措 いてい くとい うように、一系統 の材料で措かれ る。 また 日本画であれば、紙 に顔料 を腰で定着す

るとい うや り方で、最初か ら最後 までやは り一系統の材料を使用 して制作 してい く

それ に対 して、 ミクス ト・メデ ィア

( mi xe d me di a)

とは

、 1 91

0年代 ごろか らの 「反芸術」 といわ れ る潮流、 た とえばダダイズムや シュール レア リズムの作家 たちが、今 までの作品の形態を打破す ると いう形で、本来平面であるはずの絵 に立体物を くっつ けてみた りな ど、異質 な材料 を使 って、 あるいは い くつかの材料を混合 して作品を制作す るとい った、既成の芸術の体制を否定す る形で始 ま った。

だが

1 97 0

年代以降では、反体制的な要素 は少 な くな り、単純 に、 いろんな材料 を混合 して制作す る ことを意味す るようにな っている。つ ま り、従来 は表現 における材料 の制約があ ったわけだが、 そのよ うな制約を取 り払 い、何 よ りも表現を中心 に据えて、 それに適 した材料であれば、混ぜ合 わせ ることも 含めて、 どのような材料であって も積極的に使 ってよいという考え方が、今 日言われ る ミクス ト・メデ ィ

アだ と言 って よい。

た とえば、 コラー ジュな ども ミクス ト・メデ ィアの‑種類 と言 って よい。 コラー ジュは基本的 に平面 作品 と理解 されがちだが、折 り紙を貼 った りす るだけでな く、半立体の ものを貼 った りもす る。 したが っ て、 コラー ジュも ミクス ト・メデ ィアの 1つ と言 われ る

(2)

2)

日本画 における ミクス ト・メデ ィア

その中で も日本画 の場合 は特殊 な位置 にある。基本 的 に 日本画 は、材料 に対す る幅が狭 い と言 え る。

正確 に言え ば、今 日日本画 と呼 ばれ る絵画 において、狭 いだ けにす ぎない。

日本画 とい うものが発祥 したのは、明治時代 にな ってか らで ある。 それまでは、土佐派 や狩野派 な ど、

流派 で しか語 られて いなか った。 そ して流派 ごとにいろいろなや り方 があ った。 ただ接着剤 として は、

当時 は腰 しかなか ったので、 みんな腰 を使 って色 の材料 を紙 に定着 していた。

それ に対 して、 明治 にな って油絵が入 って きた段階で、 それを洋画 と呼んで対抗す るよ うな形 で、 そ れまでの流派 をひ とか らげに して 日本画 とい うカテ ゴ リーがつ くられた。 その中心 にな ったのは、 岡倉 天心 で あ る。 1岡倉 は

1 8 9 8

年 に横 山大観 らと日本美術 院を設立 し、 院展 とい う展覧会 を開催 してい く一 方 で

、 1 8 8 9

年 に高橋健三 らと 『国華』 とい う美術雑誌 を発刊 して い る。 この よ うな院展 や 『国華』 な どを通 して、 日本画 とい うものが形成 されて きた。 その結果、 日本画 といえ ば、紙 に腰 で岩絵 の具 を定 着 させてつ くるものだ とい うよ うに固定化 されて きた。

しか し、 それ以前 に遡 れ ば、例 えば板絵 とい って板 に も措 いていた。 だか ら特 に材料 の限定 はなか っ た といえ る。 しか も、後述す るよ うに筆者 が行 ってい るような、 マチエールを盛 り上 げて使 う技法 な ど も昔 か ら使 われて いた。 た とえ ば、胡粉 を盛 り上 げて レ リー フ状 に して色 を付 けて い く、 あ るいは金箔 を貼 ってい くとい うような技法 が あ った。 そ う した技法 がすべて標準以外 の もの とされ、今 日の 日本画 に見 られ る平面的な画面 に限定 され標準化 されて きた。

江戸 時代 の絵師 とい うのは、今 日で言 うデザイナー的な要素 があ り、 目的 に応 じて臨機応変 に様 々な 手段 を講 じて い くとい う、総合芸術家 の よ うな存在で もあ った。 その ような場合 は、材料 や技法 の縛 り とい うのは特 にな く、 よい材料 が あれ ば積極的 に使 って い ったので あ る。 ところが材料 や技法が一端標 準化 されて しま うと、 そ こか らはみ出 ると邪道 とされ、 その制約が今 日に至 るまで続 いて い る。

芸術表現 には枠 な ど必要 はな く、 自らの表現 したい ものが あ って、 それ に対 して材料 を選 ぶのか本来 の姿 だが、 日本 において絵画 と言 えば洋画 か 日本画か と問われ、 それぞれの ジャンル に組 み入れ られて しま う。 この ような事情 は今 日まで続 いてお り、一見 日本画 も多様化 して きてい ると指摘 は され るが、

日本画 に ミクス ト・メデ ィアを導入す るな どとい うことは、 院展等 の 「正統 な」 日本画 で はま った く認 め られていない。

したが って、筆者 は約

20

年前 か ら日本画 の分野 で ミクス ト・メデ ィアを導入 して きたが、 日本画 の 中で は、 それ 自体 が異端 だ と位置づ け られ る。

この ように 日本画 に ミクス ト・メデ ィアを導入 して い った契機 と しては、 まず 日本画 の接着剤 と して の腰 が極 めて弱 い とい うことにあ った。 日本画 の材料 は質感 が よ く、 ざらざ らした砂絵 の よ うな質感 を 絵画 の中に取 り込 む ことが望 まれた。 ところがその材料 を定着 させ るのは腰 であ るが、 その腰 を適切 な 濃度 にす るには非常 に微妙 な調整 が必要 とされ、 しか もその定着 は弱 い。 1度塗 った ところに上か ら措 くと、下 の絵 の具 が崩れた り、 はがれて しま うことが しば しば見 られ る。 と りわ け筆者 は障壁画 を 目指 してお り、 そ うした障壁画 に風雨 にさ らされて風化 した り、剥落 した りす るとい う時間が施す味 わいが 絵 の中に入 り込んで くるとい う絵画 を 目指 して いたので、 それが可能 な技法 の探求が必要 とされた。 そ の最初 の試 みが、 日本画 の絵 の具 をア ク リル樹脂 で溶 くことで あ った。

1日本画 という言葉が使われる契機 となったものとして、油絵と日本画を対比させ 日本画が優れていることを説い

1 9 8 2

(明治

1 5 )

年のフェノロサの 『美術真説』 という講演が しばしば取 り上げられる。そこでは、1.写重の ような写実を追わない

、 2.

陰影が無い

、 3.

鈎勤 (こうろく、輪郭線)がある

、4.

色調が濃厚でない

、5.

表現 が簡潔である、の

5

点が日本画の優れた特徴 として指摘されていた (山口静一編 『フェノロサ美術論集』中央公 論美術出版

1 9 8 8

年参照)

‑ 3 0‑

(3)

その後様 々な試行錯誤 を繰 り返 しなが ら、 日本画 における ミクス ト・メデ ィアの導入を探求 して きた。

その結果、開発 されてきた ものの特徴 は、次の

3

点 に整理す ることができる

絵の具 として特徴

技法 としての独 自性

基底材 の独 自性

以下、 これ らの特徴を明 らか に したい。

2.

ミク ス ト ・メデ ィアの絵 の具 と して の特 徴 1)顔料の定着 とメ リッ ト

日本画 における ミクス ト・メデ ィアの絵 の具 としての 特徴 は、岩絵 の具 をアク リル樹脂で溶 くということを基 本 としている。 日本画 にこのような手法 を用 いていると 明言 しているのは筆者以外 には一人である。 アク リル絵 の具 の有用性 は多 くが認 め るところであるので、実際は 使用 している日本画家 は多 くいると思 われ るが、 それが 明 らか になれば 「正統」か ら外れ るために明言 している 画家 は他 にいない。

ミクス ト・メデ ィアの絵 の具 としての特徴を、 図

1 ‑3

に即 して明 らかにしたい。

顔料

1

図 1に示す ように、岩絵 の具や水性絵 の具のような顔料を、紙な どの基底材 に定着 させ ようとす る。

2

は腰 による定着を示 している。顔料 を、腰 を水で

3

倍 に薄めた腰水 というもので溶 くと、 その顔 料 は周 りを水分 と腰 の混 じった ものに くるまれ る (

2‑

1)。 この状態の絵 の具 を紙 に塗 ると。水分 は 紙 に吸われて、取 り込 まれ、腰 だけが残 ることになる。乾燥す ると、腰が顔料を定着 させ るのだが、腰 の場合 は顔料 の表面が露 出す るので、顔料 の発色が もっともよい定着方法 と言われ る (

2‑2)

2‑1

腸の定着 (1)

e ̲

基底材

2‑2 腸の定着 (2)

3

はアク リル樹脂 による定着 を示 している。顔料 をアク リル樹脂で溶 いたアク リル絵 の具を使 った 場合 は、腰 の場合 と同 じように樹脂成分 と水分が顔料 を囲むのだが (

3

‑1)、 これを紙 に定着 させ る と樹脂が顔料全体 を覆 う形 にな る (

3‑2)

。 その際、接着剤 とな るメデ ィウムの透明度が高 ければ高 いほど、発色がよ くなる。 アク リル樹脂 の場合 は透明度が高 いのだが、それで もやは り顔料 を覆 ってい るために、腰 による定着 のように顔料が露 出 している場合 よ りは原理 的に濁 ることにな る。油絵 は、顔 料を乾性油等で練 り上 げた油絵 の具を使用す るのだが、透明度 の高 さは、腰、 アク リル樹脂、乾性油の

(4)

3‑1

アクリル樹脂の定着 (1)

̲ e

̲ 基底 材

3‑2

アクリル樹脂の定着

( 2 )

順 にな り、 アク リル絵の具 の発色 は、油絵 の具 のそれ よ りもよい。

このように、アク リル樹脂 による定着 は腰 による定着 に比べて、発色が幾分弱 くなるところにデメ リッ トがある。 しか しデメ リッ トだけではな くて、顔料が樹脂で くるまれ るので、耐光性が生 まれ る。光 に 対す る耐光性、そ して気候 に対す る耐性が、 はるかに腰 よ り高 くな るとい う点が、 メ リッ トである

さらにカ ビが生えない、 とい う重要 なメ リッ トもある。紙 に腰で定着す るとい う方法 は、昔の ものが 日本では非常 に多 く残 っているわけだが、 そのような手法で措かれた最近 の 日本画 は、美術館 に収 め ら れている絵です らカ ビが生え る状態 にな っている。そ もそ も腰 その ものが、動物 の皮革や骨髄か ら採 ら れ、 コラーゲ ンとい うタ ンパ ク質 を主成分 とした糊である。 いわば、獣の煮 こご りみたいな ものである ため、 カ ビが生え るのは当然である。 アク リル樹脂の場合 は、合成樹脂であるため、そ うした トラブル が生 じることはない。

2)顔料 と溶剤の特徴

アク リル樹脂 に溶 く顔料 につ いてであるが、 どのような顔料で も使用す ることができる。実際 に、油 絵の具 の もとにな っているピグメ ン トとい う顔料、岩絵 の具、普通 の 日本画 の顔料、 さらにカラーイ ン

クな ども使用す ることがある。

しか し、主流 はやは り天然の岩絵の具である。色味が一番 よいためである。 ピグメン トな ど油絵 の具 向きの顔料 は、色味が非常 に人工的にな る。天然 の岩絵 の具 の色が最 も自然 な感 じの色味が出て、顔料 としては もっとも相応 しい。泥や土か らもつ くられ る日本画 の水干絵 の具や油絵 の ピグメ ン ト、 そ して 今 日日本画 に も用 い られ る合成顔料 は、粒子が極 めて細か く、紙 に対 して力が強 い。それ に対 して 自然 の岩絵 の具 は、 目に見え る ぐらいの大 きさの砂粒か らで きてお り、水 の中に沈んでいき、紙 の中のへ こ んでいるところに自然 に流れ込んでたま ってい くとい う 「溜 め る」 という手法がで きるのか、大 きな特 徴である。つ ま り、岩絵 の具の場合 は、絵 に凸凹があると、 凹の ところに絵 の具が溜 ま って、凸にはた 溜 ま らない。 ところが油絵 の具 とか泥絵 の具の顔料では、画面全体 に一様 に色が定着 し、 同 じような表 面 にな って しまうのである

溶剤 はアク リル樹脂 といわれ るが、正確 にはメタク リル酸エステルの重合体 (ポ リマー)である。特 徴 としては水で溶 けて、乾 くと耐水性 にな る。先 に指摘 したように、非常 に堅固で、耐光性 に優れてい る。 メーカーは 「非常 に透明度が高い」 と言 うが、実際 に使用す ると、瓶 に入 っている段階で自濁 して お り、 その日さは出て こざるを得 ない。 アク リル絵の具 とい うのは発色悪 い と言 われ るのは、その所以 である

日本画 の中には、最初 の うちはアク リル使 い、最後 の仕上 げは腰 を使用 し岩絵の具で完成 させ る手法 を採 る例がある。 しか しその場合 は、 アク リル樹脂の上 に腰が乗 っているために、腰が画面 に染み込んで

‑ 32‑

(5)

定着 していないために、顔料がはがれてきて しまうのである。 したが って、一度 アク リル樹脂を使用 した ら最後 までアク リル樹脂 を使 わないと、理論的 には剥落す る可能性がある。 しか し日本画 の 「正統」 な 伝統 に従おうとす るため、表面だけ腰を使 うという、 いわば非合理 的な手法を採 る場合が多 々見 られる。

3.

ミク ス ト ・メデ ィアの技 法 と して の特 徴

次 に、 絵 を措 いて い く手順 と しての技法 につ いて、独 自な基底 材 の作成 を含 めて、筆者 が

2007

年 に制作 した

1 20

号 の作 品 「静衣 の時/淡墨桜」 (

4‑

1) の制作過程 を示 した一連 の図に即 しなが

ら明 らかに していきたい。

1) スケ ッチの必要

最初 は、 スケ ッチか ら入 る。 対象 を措 く場合 に、 しば しば写真 を使用す る例 が見 られ るが、 当然措 けない ことはないが、 写真 か ら措 いた絵 は、明 らかにそれ としてわか って しま う。 それは、一つ には、対象 の各部分 を しっか りととらえ られないか らである。例え ば、写真を 1枚撮 っただけの時 には、暗 くな っている部分や裏側の 部分 は見えない。 そのため、その部分 の花や葉 の付 き方 な どは見え ない。 その場合 は、結局、見えない部分 は適当にごまか して描 くし かない。 しか し、絵を措 く場合 には、そのようなことは許 されない。

写真では見えなか った部分 も、 ピン トのぼけた ところ もしっか り措 けていなければ、絵 にはな らないのである

4‑1

静寂の時/淡墨桜」

4‑2 下絵

スケ ッチが必要 な もう 1つの理 由は、絵画全体 の構 図等を決定す るために必要 だか らである。例えば 今回の事例 にな っているような

1 20

号 のキ ャンバ スに大 きな桜 を措 くときに、実際の桜 の樹 には、多量 の花 と枝が付 いている。 しか しそれ らをすべて措 くわけにはいかない。その際、 どのような雰囲気 の絵 にす るかを決 めるためには、最初 に、 それ ほど詳細な ものではな くて もよいので、 スケ ッチを しなけれ ばな らない。 そ うしなければ、絵が決 ま らないのである。写真 も撮 るわけだが、写真 はあ くまで もデ ィ テールを確認す るための ものであ って、絵 の構 図を決 めた り、絵の雰囲気 を決め るには、現場で必ずス ケ ッチを して、それ らを決 める必要がある (

4‑2

参照)。

2)下地の制作

制作 は下地をつ くるところか ら始 まる (図

4‑3 )

。筆者 の開発 した 日本画 の ミクス ト・メデ ィア技法では、下地 の段階で、途 中で

3

回以上水で洗 う。 その 際、 高圧 ホースを使用す る。 その理 由は、古 くか らの壁画 に見 られ るような重 層的な背景 をつ くるためである。現存す る壁画 な どを見 るとわか るように、壁 が剥落 していた り、 また剥落 した部分 に塗 り重ねが してあった りな ど、幾層 も 重な っている。 その画面 は単色ではな く、非常 に複雑 な色味を見せて くれ る

昔のステ ン ドグラスの技法のように、 同 じグ リー ンで も、何色 ものグ リー ンで 1 つのグリーンが出来上が っている。そのような重層的な背景をつ くるためである。

実際 に下地 を作成す るには、 まず 自大理石の粉 をアク リル樹脂で練 った もの

に、方解末 という岩絵の具 を加え、着色用 の水干絵の具 (または岩絵 の具) と

4‑3

下地の制作

(6)

よ く混ぜ る。 これ らだけでは硬 くな り過 ぎて厚めに付 いて しまってひび割れす る。それを防 ぐためにジェ ルメデ ィウムを適量、約 1割混ぜ る。混ぜない と必ず ひび割れ して しまう。 この混合比 も自分の経験の 中で探 ってい った ものである。 その塗料 を画面 に塗 ってい く

岩絵の具を混ぜ るのは、それによって剥落 しやす くさせ るためである。 アク リル絵の具 だけであれば、

大変強 固な面がで きて しま うので、なかなか剥落 しない。 しか し方解石を砕 いた粉である方解末 という 岩絵 の具を入れ ることによって適度 に剥落す るようにな る。 それを塗 って、 ドライヤー使 って乾燥 させ る。 その ときの ドライヤーでの乾か し具合や、絵 の具 の混合具合 によって剥落の度合 いが決定 されて く る。半乾 きの段階で高圧 ホースで剥落 させた後、 さらに乾燥 させて、 また次 の層 を塗 り、 また剥落 させ るとい う作業 を、少 な くとも3層 ぐらいは繰 り返す。

3)独特の基底材の選択

このようにアク リル樹脂で練 った岩絵 の具を塗布 し、 それを高圧 の水で剥落 させ るとい う激 しい工程 を繰 り返すため、 それに耐え うる基底材が必要 とされ る。様 々な試行錯誤 の末 に、油性 キ ャンバ スの裏 側の麻布部分が最適であることがわか った。 この基底材 に油性 キ ャンバスの裏側 の麻布 を使用す るとい

うことが、筆者の開発 した 日本画 における ミクス ト・メデ ィア技法 の特徴 の一つである

一般 には 日本画 の基底材 は、和紙 (麻紙)又 は絹であるが、上記 のように下地段階で絵 を何度 も洗 う ため、 そのような材質では耐え られない。 さらに深刻な問題が裏板か らの木染みであった。ベニヤパネ ルに非常 に強 い麻袋 の麻布 を貼 って基底材 に したが、水で洗 うと裏側か ら黄色 い木 の汁 の染 みが しみ出 して きて しま う。 これは、 当然絵 を洗 うためであるが、 それだけでな く湿気 を含んだ 日本 の気候 の影響 もあると考え られ る。 これを解決す るために考えたのか、油性 キ ャンバスを使 うことだ った。油性 キ ャ ンバスの片面 には油性の下地がつ くってある。 この油性キ ャンバスを裏側 に して使用す ることによって、

板 とキ ャンバ ス地 の麻布 の間に油性 コーテ ィングが存在す ることにな り、木染みを防 ぐことがで きる。

4)下地の完成

このような基底材 を使 って、先 に述べたように下地 を制作 してい く。下地 は単 な る画面 の土台ではな い。絵 の背景 にな る部分 なのである。 したが って絵全体 の雰囲気や色彩を考え、心象風景 を措 くような 気持 ちで措かなければな らない。

事例 の作品の場合 は、濃 いグ リー ンか ら

4

段階のグ リー ンをつ くって、 それを重ねて剥落 させて、 ま た重ねて剥落 させ るとい う作業 を繰 り返 して下地 を制作す る

つ ま り、絵 に合 わせて背景 とな る下地 をつ くってい くのである。 しか も、 その背景 をつ くるときに、

例えば森の暗い部分や、明 るい部分な どを想定 して、心象風景 的に下地をつ くってい く

実 は、 このような下地 を制作す るとい うのが、筆者 の制作す る絵画作品の一番 の特徴 とな っている。

従来 の 日本画で も油彩画で もこのような綿密な下地をつ くることはないか らである。 したが って専門家 には、下地 を見ただけで筆者 による ミクス ト・メデ ィア技法 の絵画であると理解 され る

剥落具合や完成 した色 の感 じを思 ったように出せ るようにな るまで には、かな りの経験 を要す るが、

思 ったような心象風景が措 けた ときは、 もう下地 だけで もよいか と感 じるほどである。

5)下絵の制作

下地がで きた ら完全 に乾燥 させてか ら、下地 に トレー シングペーパーをか けて、画面 の大 きさに合わ せて下絵を制作す る。その下絵 を下地 に転写 して画面上 に下絵が措かれ ることにな る。

(日本画 の場合 はスケ ッチ と言 わず に、小下 図 と言 う。)作品を制作す るときには、数多 くの小下 図

‑ 3 4‑

(7)

を措 く。事例 の作品の場合 は、淡墨桜 の花 の色が時期 によって変わ り、薄 い ピンク色か ら白、 白か ら名 の由来 にな った少 し透 けるような薄墨色 に変化す る。 また樹齢千数百年 の幹 は静か にどっしりと根 を張

り、黒 々と立 っていた。 そのため、4回にわた って取材 し、多 くの小下 図を措 く必要があった。

この小下 図を、画面 に合 わせた大 きさに、それを 1分 の 1というが、拡大す る。近年 の画家 には、 プ ロジェクターを使 って、小 さい絵 を直接投影 して拡大す る人 もいる。簡単 な図であればそれですむが、

1分 の 1に拡大 した ときに、 もっと措 き込んでいない とデ ッサ ンとしては不十分 な ものにな る場合が多 く、再度 1分 の 1の大 きさのデ ッサ ンを トレー シングペーパーに措 き起 こす必要がある。 こうしてでき あが った トレーシングペーパーに措かれたデ ッサ ンを、下地 にかけた トレー シングペーパーに重ねて下 絵を制作 してい く

事例の作品では、まず幹だけをすべて描いた (

4‑4

参照)。その上 にもう 1枚 トレーシングペーパー をか け、今度 は細かい枝 と花を全部措 いていった (

4‑5

参照)。枝振 りは基本的 に小下 図を元 に し、

遠近感 の表現や花 の密度 と幹の出 し具合 を考慮 して描 いてい った。 こうしてできあが った下絵を、 チ ャ コペーパーやカーボ ン紙 な どの転写用 の転写紙 を使 って、下地 に転写 して、下絵が完成す る

4‑4

下絵の制作 (1)

4‑5

下絵の制作

( 2 )

トレーシングペーパーは、一般 に日本画では使われない。 しか しデザイ ンの作業では トレーシングペー パーを上 に重ねてい くことによって形 を シェイプア ップ してい く手法 を とる。 このようなデザイ ンの手 法を活用す ることによって、精密 な下絵 を制作す るのである。 なぜな らば、筆者 の制作す る ミクス ト・

メデ ィアによる絵画では、制作工程上、下絵制作後 には絵を修正す ることができず、下絵 の段階で完全 な絵ができあが っていない といけない とい う厳密 さが要求 され るか らである。後述す るが、下絵 の後 に マチエールを制作す る。基底材作成で も使用 したモデ リングペース トとメデ ィウムを混合 した塗料でマ チエールをつ くるために、「ここの枝を失敗 したか ら描 き直 し」 とか、「ここの幹の感 じはよ くないか ら、

塗 りつぶ して もうち ょっと描 き直 そ う」 という修正が一切で きないのである

6)

マチエールをつ くる

下絵のアウ トライ ンを下地 に転写 した後、マチエールを措 いてい く。 この段階が最 も重要な工程 といっ てよい。最終的な絵柄の前後関係、強弱関係を画面全体の中で把握 しなか ら措いてい くことが求められる。

マチエールは、デ ッサ ンやディテールの写真な どを周囲に貼 りだ して、 それ らを見なか ら、筆 とペイ ン ティングナイフとで付 けてい く。マチエールは、できるだけ前景 の ものか ら措 いてい くため、事例作品で は、 まず花や枝か ら措 いてい く (図

4‑6

参照)。次 に幹 のマチエールを措 く。幹の部分 はこの作品の要 である力強 さを表現す ることが求め られた。そのためには、単 に表面 に凹凸があればそれを表せ るわけで はな く、 この例の場合 は室町時代の障壁画の輪郭線 のような運筆の勢 いをマチエールに加え ることに し、

かな り大 きな筆を用意 して勢 いをつけて措 いていった (

4‑7

及 び図

4‑8

参照)。つま り、木 の幹のマ チエールをつ くってい くときも、木 そっくりにマチエールをつ くればよいのではな く、障壁画のライ ンに

(8)

4‑6

マチエールの制作 (1)

4‑8

マチエールの制作

( 3 )

4‑7

マチエールの制作 (2)

見 られ る筆のタ ッチを生か した形でマチエールをつ くることによって表す ことができるのである

ところで、 こうした絵 を制作す る作業 は、すべて絵 を寝かせて床置 きに して行 う。 日本画 の場合、絵 の具 を塗 るというよ りも、垂 らす とか置 いてい くとい う表現が当てはまるような使 い方 をす るために、

画面 を寝かせて制作す る

7)彩色

色つ きの背景 の上 に真 っ白なマチエールが出来上が り、マチエールが完成す ると、 いよいよ彩色 に入 る。彩色 は、 マ ッ トメデ ィウムを溶 いた墨で色 を付 けてい くことか ら始 まる。花 な どの白っぽ く特 に透 明感がある部分 には付 けないが、透明感がな くて、例えば石 と岩 あるいは山や木 な どには、すべて墨 をか ける。 ま った く何の操作 もせず、 ただ単 に平面的 に墨を刷毛で塗 る。既 にマチエール に凹凸ができ ているので、 それ に応 じて墨がたまって黒 くな った り、逆 に墨 をさけて薄 くな った りす ることによって 絵 にな って しまう。つま り、マチエールの凹凸によって、刷毛で墨 を平塗 りす るだけで、オー トマチ ッ

クに絵が描かれてい くことにな るのである

このように墨をか けることによって画面 に明度段階ができることになる。後 は色調の問題 だけが残 る ことになる。 したが って、 マチエールをつ くる段階か ら、 どのようにマチエールをつ くれば、明度 はど のように変化す るか とい うことを想定 して制作す ることにな る

実 際 に事例 の作 品で は、大皿 に青墨 を満 た し、 その

3カ所 に岩

絵 の具 の黒茶、 鷺縁、 その他 の色 を入 れ、 あま りか き混ぜ ないよ うにす る。 それ は、絵 の具 を掬 った場所 で、 あ る程度色味 を コ ン トロールで きるよ うにす るためで あ る。 この墨 を使 って一気 に描 き上 げてい く (

4‑9)

次 に、 具体 的な彩色 に移 る。墨 を入 れた上 に、今度 は、岩絵 の

具 をマ ッ トメデ ィウム とい う艶 の出ないポ リマーで溶 いた ものを、

4‑9

彩色 (1)

これ も刷毛で全面 に塗 る。 ほとん どか けるような状態である。 この作業 によって、凹凸のある角の隅に、

今度 は明 るい色がたまることにな る。 凹凸を使 って、す き間 に絵の具 をため込む ような感 じで どん どん 措 いてい くのである。その結果、墨で くっき り措かれていた ものが、 ぼや っと、背景 にに じみ込む よう な感 じにな って くる

事例 の作品では、銀紅末や若葉縁の岩絵 の具 を画面全体 または花 の周囲 にかけてい く。 同時に幹 の部 分 の遠近感や細部 をマチエールを利用 して措 き込んでい く (図

4‑1 0)

。 図

4‑11

は、花 のマチエール の周辺 に赤 い銀紅末がぼか したようにの っている様子である。花を措 くのは最後 なので、葉やい枝を 先 に措 いてい く。

‑ 3 6‑

(9)

4‑1 1

彩色

( 3 )

4‑1 0

彩色

( 2 )

最後 に、花 に色 を付 ける。そ こで も筆で丁寧 に濃 い、薄 い というのを描 いてい くのではな く、 まず花 の根元、桜 なので根元が赤 いので、その赤 を先 に岩絵 の具で流 し込んで しま う。 この場合 も措 いてい く

とい うのではな く、 凹凸があるので、ぱた っと筆で絵 の具をた らす と、す き間に沿 って流れてい って く れ る。 その上で、今度 は桜 の花 び らの薄 ピンク色 を塗 ってい く。花 の透明度や薄 さを出すために、縁の ほうを思 い っき り白 くして、 中のほうは薄 い色 にす る。 この ときも、措 くのではな く。全面べ夕塗 りし ておいて、柔 らかい布を湿 らせた もので、 そ っと押 し付 けて真ん中をふき取 る。 そ うす ると下地 の赤が 透 けて、浮 き出て くるのである。その結果、縁か ら中に沿 って、 きれいな白か らピンク、赤へのグラデー シ ョンがで きることにな る、 これ も塗 るのではな く、布でふ き取 ることによってで きる。 この作業 を桜 の花 の一枚ずつ、丁寧 に行 うことにな る (

4‑1 2

、 図

4‑1 3)

。仕上 げの段階では、細 い雌 しべや雄 し べな ども細 い筆で丁寧 に 1本 1本措 いてい く。すべての花を書 き終えた後、花芯 な どを措 き込み、全体 を整え地面部分を措 いて完成す る (

4‑1 4)

4‑1 2

彩色 (4)

4‑1 3

彩色

( 5 )

4‑1 4

彩色

( 6 )

このようなプロセスを経て、古 い障壁画 のような、少 しすす けたような、寂れたような感 じに、 だん だん仕上が ってい く。全体 として、筆で措 くのではな く、布でふ くだけで絵が出来上が ってい くという 感 じで仕上 げてい く。措 くと窓意的にな る。 自然 の出て くる風合 いを生かすために、で きるだけ措かず

に措 くとい うね らいを生かす方法 を採 るのである

以上 のように、作品の制作過程 に沿 って、 ミクス ト・メデ ィアを使用 した 日本画 の技法 を明 らか に し た。特 に、 アク リル樹脂 を使 った絵の具 を使用す ること、独 自の基底材を選択 していること、そ して制 作過程で もアク リル樹脂 を使 って下地やマチエールをつ くることによって、「措かないで措 く」方法 を 可能 に していることな ど、 ミクス ト・メデ ィアを活用 した独 自の技法 を示 した。

(10)

4.

ミクス ト・メデ ィアの意義 と可能性

これまで示 して きた 日本画 における ミクス ト・メデ ィアの諸特徴 をふまえ、その意義 と可能性 につい て明 らかに しておきたい。

その意義 としてあげ られ るのは、 1つ には 日本画 の普及 に貢献す るとい う点である。 日本画の普及 の ネ ックにな っているのは、技法 の難 しさである。 日本画 を学ぶ ときに、絵 の具の粒 の大 きさに応 じて腰 の量 が異な った り、上か ら絵の具 を塗 ることによって下 の腰が溶 けて、混 ざって しまった り、 あるいは はがれて しま った りす るな どの技法上 の困難 さに突 き当たる。 それ に対 して、樹脂絵の具 を使 うことに よって、 日本画の持つ ざらざらした砂 のような質感や色 の美 しさとい う良 さを生か しなが ら、手軽 に絵 が措 くことができるようになると考え られ るか らである

日本 の気候 の変化 に対応できるとい う点 も注 目され る。 日本 の気候 は、かつて に比べて、高温多湿 に な ってきている。 この環境の変化 に対 して、今 までの紙 と腰 の組み合 わせでは、無理が生 じてきている

先 に指摘 したように、美術館 に収蔵 され る作品 に もカ ビが生え る事態が生 じている。 ミクス ト・メデ ィ アを使用す ることによって、保存管理 が容易 になれば、 日本画 をよ り手軽 な もの、身近 な ものに変えて い くことがで きるのではないか と思われ る。 これ らの点 によって、 ミクス ト・メデ ィアは 日本画 の普及 に役立つ と考え られ る。

もう 1つの意義 としてあげ られ るのは、表現 の 自由度 を高め るとい う点である。絵を措 く場合 に、 ま ず 自分が措 きたいイメー ジがあ り、それを表現す るためには どのような材料が必要であるか とい う筋道 で研究 してい くべ きである。 ところが、 これまでの 日本画のように、初めか ら 「この絵 の具で措かなけ ればいけな

」 と画材を制限 して しま っていた ら、イメージを も制限 して しまうことにな る。 したが っ て、表現の 自由度 を高め るために も、材料や技法 に制限を設 けるのは表現 を妨 げるのではないか と考え られ る。 ミクス ト・メデ ィアに限 る必要 もないが、材料や技法 の制約 を離 れ ることによって、表現上の 自由度 は確か に増す ことになる

そのような点を考慮すれば、 デザイ ンす ることと、絵画を措 くとい うことは共通 な営みだ とい うこと がで きる。 デザイ ンす るに も、絵画を措 くに して も、基本 にあるのは 自分が もつイメー ジを表現す るこ とにあるか らである。その際に、 自分が こうい うものをつ くりたい というイメー ジと、客観的に見 た ら どのように見え るのか という他者の視点 とい う

、2

つベ ク トルを融合 しつつ制作 してい くという点で も、

デザイ ンと絵画 は基本 は同 じ地点 にあると考え られ る

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参照

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