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Table 各尺度の主成分分析結果(日本)

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(1)

大学生の適応に関わる諸変数に及ぼす 顕在的・潜在的自尊心の影響の検討

日韓比較を通じて

藤 井

問題と目的

自尊心(self-esteem; 以下 SE)(1)を扱う研究は、これまで長年にわたり続けられてきた。

SE は、自分自身に対する肯定的な感情、自分を価値ある存在として捉える感覚であり、

自分に対する認知的評価と自分自身に向けられた感情の双方を含む(伊藤,2012)。種々の 研究において、SE は心理的適応に関わる諸変数との関連が報告されている。たとえば人 生 に 対 す る 満 足 感 と は 正 の 相 関 (伊 藤・小 玉,2005)、シ ャ イ ネ ス (相 川,1991; Fujii, Sawaumi, & Aikawa, 2013)や抑うつ(藤井,2014a; 伊藤・小玉,2005; 永井,2010)、孤独 感(工藤・西川,1983; 諸井,1987)とは負の相関が認められている。したがって、ポジテ ィブな変数と正の相関を示し、ネガティブな変数と負の相関を示す SE を高める試みは望 ましいこととされてきた。

しかしながら、近年は高い SE が必ずしも望ましい結果をもたらすとは限らないと指摘 されるようになった。たとえば SE が高い者の中でも、自己が脅威に曝された際に他者に 対して攻撃的になる者がいるという(レビューとして Baumeister, Smart, & Boden, 1996)。

また、SE と自己愛には正の相関も見られている(藤井・澤海・相川,2014; 小塩,1998)。

顕在的・潜在的 SE このように、SE が高いことは適応的であるとする立場と異なる 研究もあることは、どのように説明されるのだろうか。この点に関して Jordan, Spencer, Zanna, Hoshino-Browne, & Correll(2003)は、意識的な回答から得られる 顕在的な SE と、無自覚な回答から得られる 潜在的な SE という 種類の SE を組み合わせ、種類の 異なる高 SE 者の特徴を明らかにする試みを行った。ここでは参加者の顕在的な SE (Explicit Self-Esteem; 以下 ESE とする)と併せて、潜在的測定法の一つである Implicit Association Test(Greenwald, McGhee, & Schwartz, 1998; 以下 IAT とする)を用いて潜在 的な SE(Implicit Self-Esteem; 以下 ISE とする)を測定した(2)。そして ESE が高い者の中 には ISE も高い 安定的な(secure) タイプと、ISE は低い 防衛的な(defensive) タイプ の 種類が存在すると述べた(Figure 1)。前者は ESE・ISE ともに高く、自己に対する確 信的なポジティブさを持つ一方、後者は脅威に対して脆弱なポジティブさを持つ SE のタ イプであるとされる。

(2)

Jordan et al.(2003)は自己愛や内集団ひいき、認知的不協和の解消といった特性や行動 傾向を測定し、防衛的な高 SE を持つ者はこれらの指標が高いことを示した。すなわち、

ESE が高くとも ISE が低い場合は自己愛が高く、内集団ひいきを行い、認知的不協和の 解消を図っていた。日本においては原島・小口(2007)が、防衛的高 SE を持つ者の内集団 ひいきが強いことを示している。

一方で、ESE・ISE の不一致には上述の高 ESE・低 ISE タイプとは異なる低 ESE・高 ISE のパターンも想定され、このパターンの SE は 傷ついた(damaged) SE と呼ばれて いる(e.g., Creemers, Scholte, Engels, Prinstein, & Wiers., 2012; Leeuwis, Koot, Creemers, &

van Lier., in press)。Creemers et al.(2012)は、ISE が高い場合、ESE との不一致が大きい ほど(i.e., ESE がより低いほど)抑うつ傾向や自殺念慮、そして孤独感が高いという結果を 報告している。これと類似した結果は小学校高学年の子どもを対象にした Leeuwis et al.

(in press)でも示されており、ESE が低く ISE が高い傷ついた SE を持つ子どもは内在化 (自分自身の中に起きるプロセスから特徴づけられる不安や抑うつなどを指す)の問題が高 かった。加えて Phillips & Hine(in press)は、大学生 306 名を対象に調査を行い、傷つい た SE と抑うつ的な反すうとの関連を見出している。これらの研究で用いられている分析 方法は、Jordan et al.(2003)の方法とは異なり、ESE・ISE の 不一致の大きさ および 不 一致の方向 を独立変数としている点が注目される。すなわち Jordan et al.(2003)の分析 方法では、個人における ESE・ISE の不一致の大きさや、ESE・ISE のどちらが優位であ るのかという点は検討できないため、このような分析方法が提案されている。

このように、高 ESE・低 ISE および低 ESE・高 ISE という 種類の ESE・ISE の不一 致と、心理的な不健康さや防衛的な行動との関連を示した研究が蓄積されつつある。特に ESE・ISE の不一致の大きさと方向に着目した研究はまだ少なく、この観点からの分析の

Figure 安定的高 SE と防衛的高 SE

(3)

試みも一考に値すると思われる。

韓国における 自殺 の問題 ところで、近年の韓国では自殺が増加し大きな社会問題と なっている。2012 年には 10 万人あたりの自殺者が 28.1 人であると報告されており (Statistics Korea, 2012)、こ れ は 経 済 協 力 開 発 機 構 (Organisation for Economic Co- operation and Development; 以下 OECD)の中では最も高い値である。また、自殺は韓国 における 10 代から 30 代の死因の 位である(藤原,2011)。韓国の大学生は、高校卒業直 前まで家庭および学校、社会から大学入試中心の過度な関心と期待のもとで生活する。実 際に、高校時代に親から受けた期待の認知について回想的に報告を求めた調査では、日本 と比して高い値が報告されている(伊藤・上淵・藤井・大家,2013)。そして大学生になる と、責任・自主性を強調する大学のシステムに適応するために大きなプレッシャーを受け る。ゆえに現代の韓国人大学生は挫折や苦痛への耐性が低く、小さな挫折にも脆弱であ り、複雑な社会的状況への対処への困難感から自殺を考えたり、衝動的に自殺をしたりし ようとする可能性があるとされる(김,2009)。

このような問題に対し、2011 年 月には全 章から構成される自殺予防法が公布され るなど、法律面からの対処が試みられているが、法律の制定をもって直ちに自殺率が下が るとは考えられていない(藤原,2011)。こういった法律をもとに、国や地方公共団体がど のような対策を実行していくかに関心が持たれている。

心理学的アプローチの可能性 自殺という大きな問題に対して、法律による対処の他 に、心理学的アプローチからの対処も考えられる。たとえば自殺に関連する心理的要因 (e.g., 自殺念慮、抑うつ、孤独感など)に影響する要因を発見し、その要因を減少させるよ うな介入ができれば、自殺の減少に寄与する可能性が見込める。本研究で取り上げる SE は自殺念慮に影響することが韓国においても示されている。たとえば Jang, Park, Oh, Lee, Kim, Yoon, Ko, Cho, & Chung(2014)は、参加者の年齢にかかわらず、抑うつを統制した場 合でも、ESE と怒りが自殺念慮に影響することを示した。したがって、SE を上昇させる 介入を行うことは、韓国においても自殺念慮の抑制につながることが期待される。

潜在的測定法によるアプローチの可能性の検討 冒頭で述べた先行研究からは、心理的 適応に対しては ESE の高さのみならず、ISE の高さも重要であることが示唆される。そ こで本研究では、潜在的測定法を用いて ISE を測定し、自己報告で測定される ESE と併 せて、種々の変数との関連について検討する。ISE の測定には先述の IAT が用いられる ことが多いが、IAT はコンピュータを用いて実施することが多く、集団での一斉実施が 可能な環境が確保されない限り、データの収集にコストがかかる。紙筆版を用いる試みも あるが(e.g.,藤井・上淵,2010; 岡部・木島・佐藤・山下・丹治,2004)、複数のブロック から構成される IAT を紙筆版で実施するには印刷面の負担がある他に、誤答に対するフ

(4)

ィードバックができないなど、紙筆版はコンピュータ版に比して脆弱な面があるように思 われる。

一方、本研究で取り上げる Name Letter Task(以下 NLT とする)は、回答者に対し 26 文字のアルファベットについて 文字ずつ好みを評定させ、自身のイニシャルに含まれる 文字と、それ以外の文字の差を ISE の指標とする測定法であり、IAT と同様に十分な信 頼性および妥当性を有する(Bosson, Swann, & Pennebaker, 2000)(3)。自身のイニシャルに 含まれる文字への選好が、イニシャルに含まれない文字と比して強いほど ISE が高いと される。実際に Bosson et al.(2000)は、 か月程度の間隔をおいて各種 ISE の指標につい て再検査を行い、 時点の相関は IAT では (81)=.69、NLT では (83)=.63 であるこ とを示し、他の潜在的測度であるストループ課題、閾上・閾下プライミングなどと比して 高いことを示した。また Komori & Murata(2008)は、日本人においても自身のイニシャ ルに対する選好が生起することを示している。NLT は IAT と異なり、質問紙と同様の形 式で実施できる上に、アルファベットの提示は ページから ページ程度で済むため印刷 面のコストも少なく、環境面の制約を受けにくい(4)

本研究では意識的な自己報告から得られる ESE と、無自覚な回答から得られる ISE を テーマに、日韓サンプルのデータから国際比較を行う。特に西欧で得られた結果が日本や 韓国においても同様に示されるか否かを検討する。先述のように ESE と ISE の不一致 は、高い自己愛や強い内集団ひいきなど、適応とのネガティブな関連が指摘されている (原島・小口,2007; Jordan et al., 2003)。このことは、不適応的感情や行動への介入方法 として、ISE に焦点を当てたアプローチが効果をあげる可能性を示唆する。

本研究において韓国人を対象に ESE と ISE を同時に扱った研究を行い、先行研究と近 似した結果が示されれば、ネガティブな感情や行動を低減させるアプローチが提案でき、

間接的に自殺の低減につながる可能性もある。もちろん、これは韓国のみに限った問題で はなく、日本でも同様のことがいえる。OECD(2014)のデータベースの資料をもとに日本 および OECD 加盟国の自殺者数を参照したところ、各国のデータが概ね揃っている 2010 年では、OECD 加盟国全体の平均自殺者数は 10 万人あたり 12.39 人(男性は 20.07 人、

女性は 5.63 人)であった一方、日本人男性は 31.4 人、日本人女性も 11.5 人の自殺者数が 報告されていた。また韓国人男性は 49.6 人,韓国人女性も 21.4 人の自殺者数であった。

本研究では、 か国のサンプルを対象に同じ尺度を用いて調査を行うことで、精度の高い 比較研究が可能であると考えられる(5)

また国際比較研究の文脈などでは、日本や韓国は同じ アジア圏 に属する国ととらえら れることが多い(e.g., Markus & Kitayama, 1991)。しかし、この 国の間でも種々の指標 において平均値に有意な差があることが報告されている。たとえば伊藤他(2013)では、日

(5)

韓の大学生 1298 名に対し調査を行い、マスタリー目標、遂行接近目標、遂行回避目標、

そして社会的承認目標という達成目標志向性の各下位尺度において、平均値はいずれも韓 国の方が有意に高いことを示した。その他にも就業動機や親からの期待の認知などは日本 より高く報告されており、自己報告式の尺度を用いた場合、平均値は韓国の方が高いこと が多い。そこで本研究では日本のデータとの比較を行い、日韓において ESE・ISE が心 理的適応にかかわる変数にいかに影響するかを検討する。本研究で扱う変数は、主題に即 したものであれば自殺念慮が望ましいが、自殺念慮は非常にセンシティブな指標であるた め、先行研究(Creemers et al., 2012)でも取り上げられており、自殺との関連が指摘され ている(e.g., 木村・梅垣・水野,2014; 工藤・西川,1983)変数である孤独感と抑うつを取 り上げる。

本研究の作業仮説 これまでの先行研究から、以下の作業仮説を立てた。

) Jordan et al.(2003)などから、ESE は高いが ISE は低い防衛的な SE を持つ者は、

両者が高い安定的な SE を持つ者と比して、孤独感や抑うつが高い。

) Creemers et al.(2012)などから、ISE は高いが ESE は低い傷ついた SE を持つ者 は、孤独感や抑うつが高いであろう。すなわち、ISE が高い場合、ESE との差が大きい ほど孤独感や抑うつが高い。

方 法

研究参加者 日本人大学生 86 名(男性 74 名、女性 12 名、平均年齢 19.12 ± 1.25 歳)お よび韓国の女子大学生 211 名(平均年齢 20.62 ± 1.93 歳)の計 297 名が研究に参加した。

いずれも 年制の大学に通う学生であった。

材料 本研究では以下の尺度を用いた。

(a)SE 尺度 参加者の ESE を測定するため、日本では山本・松井・山成(1982)の尺度 を、韓国では전(1974)の尺度を用いた。いずれも Rosenberg(1965)の 10 項目からなる尺 度の翻訳版である。日韓いずれも : まったく当てはまらない(전혀그렇지 않다)― : 非常によく当てはまる(매우 그렇다) の 件法で回答を求めた。

(b) Name Letter Task 参 加 者 の ISE を 測 定 す る た め、Nuttin (1985) が 考 案 し た NLT を用いた。本研究ではアルファベット 26 項目をランダムに配置したものを使用し、

日韓ともに : 非常に嫌い(매우 싫다)― : 非常に好き(매우 좋다) の 件法で回答を求 めた。

(c)UCLA 孤独感尺度 参加者の孤独感の程度を測定するため、Russell, Peplau, &

Cutrona (1980)の 20 項目からなる尺度を用いた。翻訳版は日本では諸井(1992)の尺度を、

韓国では Kim(1997)の尺度をそれぞれ使用した。SE 尺度と同様に、日韓ともに : まっ

(6)

たく当てはまらない(전혀그렇지 않다)― : 非常によく当てはまる(매우 그렇다) の 件法で回答を求めた。

(d)抑うつ・不安尺度 参加者の抑うつ・不安の程度を尋ねるため、日本では寺崎・岸 本・古賀(1992)の多面的感情尺度の中から 抑うつ・不安 15 項目( 項目は分析に用いな いフィラー項目であった)を用いた。本尺度は SE 尺度や孤独感尺度のように日韓で共通 の尺度を翻訳したものではないため、日本語が堪能な韓国人留学生に翻訳を依頼し、最後 に著者が内容を確認した。

韓国人を対象とした調査票の設問も、抑うつ・不安尺度の翻訳を依頼した韓国人留学生 に翻訳してもらい、最後に著者が内容を確認した。したがって、本研究においては日韓と もに同一の教示文を用いている。

手続き 日韓ともに授業時間の一部を利用し、著者自身が集団形式で一斉に実施した。

いずれの国でも本調査に対する回答は任意であり、授業の成績等とは関連がないこと、回 答しないことによる不利益はないことを説明した上で実施した。日韓ともに回答に要した 時間は 15 分程度であった。後日、希望者には別途機会を設けて実験内容を説明した。

結 果

分析対象者の確定 NLT の回答において 26 項目全てに 点を付した者および韓国にお ける外国人留学生、そして尺度への欠損値の多かった参加者を除き、最終的な分析対象者 は韓国人 196 名(平均年齢 20.62 歳、 =1.93 歳)、日本人 84 名(平均年齢 19.11 歳、

=1.26 歳)の 280 名とした。

各尺度の得点化 まず各尺度の因子構造の確認を行った。日韓それぞれにおいて、SE 尺度、孤独感尺度、そして抑うつ・不安尺度について主成分分析を実施した。その結果 と、信頼性の推定値として求めたω係数を Table 1、 に示す。ω係数は真値を測定する 程度、すなわち因子負荷量を考慮して算出する値であり、α係数よりも正確な信頼性とさ れる(尾崎・荘島,2014)。

Table 各尺度の主成分分析結果(日本)

尺度名 項目数 因子寄与率(%) ω 係数

SE 10 33.33 .82

孤独感 20 32.36 .90

抑うつ・不安 10 52.84 .92

(7)

主成分分析の結果、日本における SE 尺度および孤独感尺度、韓国における孤独感尺度 の因子寄与率がやや低かったが、ω係数はいずれの尺度でも .82 を超えており、 因子と 仮定して検討を進めることとした。抑うつ・不安尺度は逆転項目を含まないため、そのま ま合算平均得点を求め、SE 尺度および孤独感尺度は逆転項目を処理した上で合算平均得 点を求めた。また、NLT のイニシャルに含まれる語の評定値について国ごとに相関係数 を算出したところ、日本は 文字の組み合わせにおいて =.38( <.001)、韓国では 文 字の組み合わせにおいて、いずれも =.35( <.001)の値が得られた(6)。したがってイニ シャルに対する評定値を合算して用いることとし、Creemers et al.(2012) と同様に self- corrected algorithm(LeBel & Gawronski, 2009)を用いて、参加者のイニシャルに含まれ るアルファベットの評定値と、イニシャルに含まれないアルファベットの評定値の差をと り得点化した。いずれの尺度も得点が高いほど当該尺度名の傾向が高いことを示す。次に NLT 得点について、各国において自身のイニシャルに含まれる文字と含まれない文字の 平均値および標準偏差を算出したところ、日本ではイニシャルに含まれる文字は = 5.10( =1.22)、含まれない文字は =4.33( =0.48)で、韓国においてはイニシャル に含まれる文字は =5.10( =0.91)、含まれない文字は =4.40( =0.38)であっ た。すなわち、自身のイニシャルに含まれる文字への選好と、含まれない文字への選好の いずれの程度も、日韓でほぼ近似していた。以下、SE 尺度の得点を ESE 得点、NLT 得 点を ISE 得点と定義する。

各指標間の相関係数・記述統計量 続いて各尺度の相関係数および記述統計量を国ごと に算出した(Table 3、 )。

Table 各尺度の主成分分析結果(韓国)

尺度名 項目数 因子寄与率(%) ω 係数

SE 10 45.47 .88

孤独感 20 35.21 .91

抑うつ・不安 10 44.03 .88

Table 各尺度間の相関係数および記述統計量(日本)

2 3 4

1 ESE ‑.01 ‑.49

**

‑.47

**

2.84 0.60 2 ISE ― ‑.13 ‑.25

*

0.77 1.18

3 孤独感 ― .52

**

2.58 0.59

4 抑うつ・不安 ― 3.09 0.85

*

<.05,

**

<.01 注)いずれも = 84である。

(8)

ESE・ISE の相関は日本では有意でなく、韓国でごく弱い正の相関が得られたのみであ った。ESE と孤独感および抑うつ・不安の相関は日韓ともに負の値が有意であった。ま た ISE は韓国において孤独感との負の相関が有意であった一方で、日本では抑うつ・不 安との負の相関のみ有意であった。孤独感と抑うつ・不安の相関は日韓ともに正の値であ り、有意であった。

国による各尺度得点の相違 各尺度の得点について日韓で差があるか否かを検討するた め、それぞれ対応のない 検定を実施した。各種統計量および検定結果、効果量を Table 5 に示す。

Table 国による各尺度得点の相違

尺度名 結果

ESE 9.04 278 <.001 1.08 日<韓

ISE 0.42 120.50 .67 0.08 日=韓

孤独感 5.66 278 <.001 0.68 日>韓

抑うつ・不安 3.16 278 <.01 0.38 日>韓

ESE は韓国の方が高く、孤独感および抑うつ・不安は日本の方が高かった。ISE につ いては有意な差はみられなかった。

ESE・ISE が孤独感、抑うつ・不安に与える影響 続いて階層的重回帰分析を用いて、

ESE・ISE が孤独感および抑うつ・不安に与える影響について検討を行った。いずれの従 属変数に対しても、model 1 では ESE・ISE のみを投入し、model 2 では ESE・ISE の交 互作用項を投入し、重決定係数に有意な増分がみられるか否かについて検討を行った。な お独立変数は全て中心化した値を用いた。分析の結果を Table 6、 に示す。

Table 各尺度間の相関係数および記述統計量(韓国)

2 3 4

1 ESE .13

‑.64

**

‑.58

**

3.54 0.59 2 ISE ― ‑.19

**

‑.12 0.71 0.83

3 孤独感 ― .55

**

2.17 0.53

4 抑うつ・不安 ― 2.80 0.65

<.08,

**

<.01 注) イニシャルが未記入の者がいたため、ESE と

ISE の相関の み =193 であり、他は =196 である。

(9)

まず孤独感に対しては、日韓ともに ESE の負の影響が有意であった。また韓国におい ては弱いながらも ISE の負の影響が有意であった。日韓ともに ESE・ISE の交互作用項 の影響は有意ではなかった。

続いて、抑うつ・不安に対しても日韓ともに ESE の負の影響が有意であった。日本で は ISE の負の影響も有意であり、さらに model 2 において投入した ESE・ISE の交互作 用項の影響も有意傾向であった。韓国においては ISE の主効果は有意ではなかったが、

model 2 で投入した ESE・ISE の交互作用項の影響が有意であった。交互作用項の影響が 有意傾向もしくは有意であったため、まず日本のデータについて単純傾斜の検定を行った ところ、ESE 得点が高い場合(+1 )、ISE 得点が低いほど抑うつ・不安得点が高かった ( =‑0.28, =3.12, =.002)。また ISE 得点が高い場合(+1 )、ESE 得点が低いほど抑 うつ・不安得点が高く( =‑0.84, =5.16, <.001)、ISE 得点が低い場合(‑1 )も、ESE 得点が低いほど抑うつ・不安得点が高い傾向があった( =‑0.40, =1.97, =.052)。グラ フを Figure 2 に示す。

Table 孤独感に対する階層的重回帰分析の結果(標準化偏回帰係数) 独立変数 日本( = 84) 韓国( = 193)

Model 1 Model 2 Model 1 Model 2 ESE ‑.48

**

‑.46

**

‑.62

**

‑.62

**

ISE ‑.13 ‑.12 ‑.11

*

‑.11

ESE×ISE ‑.14 ‑.01

2

.25

**

.27

**

.41

**

.41

**

2

.23

**

.24

**

.41

**

.40

**

2

.02 .00

<.06,

*

<.05,

**

<.01

Table 抑うつ・不安に対する階層的重回帰分析の結果(標準化偏回帰係数) 独立変数 日本( = 84) 韓国( = 193)

Model 1 Model 2 Model 1 Model 2 ESE ‑.47

**

‑.44

**

‑.57

**

‑.56

**

ISE ‑.25

**

‑.24

*

‑.04 ‑.06

ESE×ISE ‑.17

.12

*

2

.28

**

.31

**

.33

**

.34

**

2

.27

**

.29

**

.32

**

.33

**

2

.03 .01

*

<.09,

*

<.05,

**

<.01

(10)

続いて韓国のデータについても同様に単純傾斜の検定を行ったところ、ESE 得点が低 い場合(‑1 )、ISE 得点が低いほど抑うつ・不安得点が高かった( =‑0.14, =1.99, = .048)。ISE 得点が高い場合(+1 )、ESE 得点が低いほど抑うつ・不安得点が高く( =

‑0.48, =4.78, <.001)、ISE 得点が低い場合(‑1 )、ESE 得点が低いほど抑うつ・不安 得点が高かった( =‑0.76, =8.11, <.001)。グラフを Figure 3 に示す。

2 2.4 2.8 3.2 3.6 4

-1SD +1SD

抑 う つ ・ 不 安 得 点

顕在的自尊心 潜在-1SD 潜在+1SD

Figure ESE・ISE による抑うつ・不安得点の予測(日本) 注: エラーバーは標準誤差を示す

2 2.4 2.8 3.2 3.6

-1SD +1SD

抑 う つ

・ 不 安 得 点

顕在的自尊心

潜在-1SD 潜在+1SD

Figure ESE・ISE による抑うつ・不安得点の予測(韓国)

ESE・ISE の 不 一 致 の 大 き さ と 方 向 が 孤 独 感、抑 う つ・不 安 に 与 え る 影 響 次 に Creemers et al.,(2012)にならい、ESE と ISE の不一致の大きさと方向が孤独感および抑 うつ・不安に与える影響を検討した。まず ESE 得点、ISE 得点の両者について標準化し て両者の差を求め、その絶対値を算出した。また、両者の差得点をもとに、ESE の方が

(11)

高い場合は 、ISE の方が高い場合は としてダミー変数を作成した。階層的重回帰分析 を行う際、model 1 では差の絶対値および不一致の方向(ダミー変数)を投入し、model 2 では差の絶対値と方向の交互作用項を投入した。分析の結果は Table 8、 に示すとおり である。

独立変数 日本( = 84) 韓国( = 193)

Model 1 Model 2 Model 1 Model 2

不一致の大きさ .26

*

.26

*

.01 ‑.01

不一致の方向 .24

*

.24

*

.33

**

.33

**

不一致の大きさ×不一致の方向 .11 .12

2

.13

**

.14

**

.11

**

.12

**

2

.11

**

.11

**

.10

**

.11

**

2

.01 .01

<.10,

*

<.05,

**

<.01

Table 不一致の大きさおよび方向が孤独感に与える影響(標準化偏回帰係数)

独立変数 日本( = 84) 韓国( = 193)

Model 1 Model 2 Model 1 Model 2

不一致の大きさ .25

*

.25

*

‑.06 ‑.08

不一致の方向 .20

.20

.32

**

.32

**

不一致の大きさ×不一致の方向 .00 .16

*

2

.11

**

.11

**

.10

**

.13

**

2

.09

**

.07

**

.09

**

.11

**

2

.00 .02

*

<.07,

*

<.05,

**

<.01

Table 不一致の大きさおよび方向が抑うつ・不安に与える影響(標準化偏回帰係数)

まず孤独感については両国ともに不一致の方向の影響が有意であった。すなわち ESE に比して ISE が優位であるほど孤独感が高かった。日本では不一致の大きさの影響もみ られ、不一致が大きいほど孤独感が高かった。韓国では不一致の大きさと方向の交互作用 も有意傾向であったため単純傾斜の検定を行った。その結果、ESE・ISE の不一致が大き い 場 合 (+1 )、ISE が 優 位 で あ る ほ ど 孤 独 感 得 点 が 高 か っ た ( =0.22, =2.17, = .031)。また、ESE・ISE の不一致が小さい場合(‑1 )も同様に、ISE が優位であるほど 孤独感得点が高かった( =0.47, =4.58, <.001)。グラフを Figure 4 に示す。

(12)

次に抑うつ・不安についても両国ともに不一致の方向の影響が有意もしくは有意傾向で あった。すなわち、ESE に比して ISE が優位であるほど抑うつ・不安が高かった。日本 では不一致の大きさの影響もみられ、不一致が大きいほど抑うつ・不安が高かった。韓国 では不一致の大きさと方向の交互作用も有意傾向であったため単純傾斜の検定を行った。

その結果、ESE・ISE の不一致が大きい場合(+1 )、ISE が優位であるほど抑うつ・不 安得点が高かった( =0.62, =4.92, <.001)。また ESE・ISE の不一致が小さい場合 (‑1 )も同様に、ISE が優位であるほど抑うつ・不安得点が高い傾向にあった( =0.21,

=1.69, =.093)。グラフを Figure 5 に示す。

1 1.4 1.8 2.2 2.6 3

-1SD +1SD

孤 独 感 得 点

不一致の大きさ 顕在優位

潜在優位

Figure 不一致の大きさと不一致の方向による孤独感得点の予測(韓国)

2 2.4 2.8 3.2 3.6 4

-1SD +1SD

抑 う つ

・ 不 安 得 点

不一致の大きさ 顕在優位 潜在優位

Figure 不一致の大きさと不一致の方向による抑うつ・不安得点の予測(韓国)

(13)

考 察

国ごとの各指標間の相関係数および尺度得点の相違 各尺度の相関係数を国ごとに見る と、ESE・ISE の相関は日本では有意でなく、韓国でごく弱い正の相関が得られたのみで あった。韓国における相関係数は有意ではあるものの、相関係数はサンプル数が増えれば 小さな値でも有意になりやすく、また本研究で得られた値もごく弱い正の相関であること から、この点が日韓における大きな差とは考えにくい。また ESE と孤独感および抑う つ・不安の相関は日韓ともに負の値が有意であるとともに、孤独感と抑うつ・不安の相関 も日韓ともに正の値が有意であり、これらの関係性は日韓で共通していた。また ISE は 韓国において孤独感との負の相関が有意であった一方で、日本のみ抑うつ・不安との負の 相関が有意であった。これらのことから、ISE の働きは必ずしも同一ではなく、国ごとに 異なる感情と関連しているようである。

尺度得点について見ると、韓国人は日本人よりも ESE は高く、孤独感や抑うつ・不安 は低かった。このように自己報告尺度の得点がポジティブな方向に高いことは、冒頭で述 べた伊藤他(2013)と一致すると思われる。日韓はともに アジア圏 と括られるものの、そ の中でも自己報告尺度の平均値に相違がみられたことは、たとえば国際比較を行う際に東 アジアの典型例として韓国あるいは日本の一方を調査対象とした場合、これらの差が結果 に反映されない可能性があるため、留意しておく必要があると思われる。

ESE・ISE が孤独感、抑うつ・不安に与える影響 階層的重回帰分析の結果、日韓とも に一貫して ESE が孤独感や抑うつ・不安といったネガティブな指標に負の影響を持つこ とが示された。また、影響は弱いものの、ISE は日本において抑うつ・不安の低さを予測 し、韓国においては孤独感の低さを予測していた。このことは、ESE のみならず、ISE も心理的適応に一定の影響を与えることを示唆する。

そして注目すべきは、ESE・ISE の交互作用の影響であろう。孤独感においては両者の 交互作用は有意ではなかったが、抑うつ・不安に対しては日韓ともに交互作用項の影響が 有意(日本では有意傾向)であった。日本では、ISE 得点が高い場合も低い場合も、ESE 得点が低いほど抑うつ・不安得点が高い傾向があった。すなわち、ESE・ISE の両者が低 い場合、抑うつ・不安が最も高いといえる。そして、ESE 得点が高い場合、ISE 得点が 低い(i.e., Jordan et al.(2003)が述べた防衛的高 SE を持つ)者は、ISE も高い者と比して抑 うつ・不安得点が高かった。

また、韓国では、ESE 得点が低い場合、ISE 得点が低いほど抑うつ・不安得点が高か った。そして、ISE 得点が高い場合、ESE 得点が低いほど抑うつ・不安得点が高い傾向 があった。これらをまとめると、日本と同様に、ESE・ISE の両者が低い場合に、抑う

(14)

つ・不安が高いということが示された。

日韓ともに交互作用は検出されたが、その様相はやや異なっていた。日本では Jordan et al.(2003)や原島・小口(2007)の傾向と一致して、ESE が高い場合でも、ISE の高低に よって抑うつ・不安得点に差がみられたが、韓国ではそのような傾向は観察されなかっ た。また、孤独感については交互作用は検出されず、ESE の中程度の負の影響と、ごく 弱い ISE の負の影響がみられたのみであった。すなわち、Jordan et al.(2003)が述べる防 衛的高 SE タイプの特徴は、日本のデータでのみ、かつ抑うつ・不安に対してのみ確認さ れたことから、作業仮説 )は部分的な支持に留まる。この点については、防衛的・安定 的高 SE という理論的枠組みは東アジアにおいては当てはまらない可能性を示すが、本研 究で扱ったサンプルにおける性別の偏りが影響しているかもしれない。日本において、た とえば諸井(1987)は、ESE には性差があり、男性の方が女性より高かった一方で、孤独 感は女性の方が高かったということを報告している。加えて、抑うつは女性の方が高く (e.g., 永井,2010; 内田・山崎,2008)、各国において収集したサンプルに偏りがあること は、本研究の制限と言える。今後は両国において不足しているサンプル(日本人女性と韓 国人男性)のデータを収集し、本研究と同様の結果が得られるか否かを検討すべきである。

また、本研究では自殺念慮に関連しうる変数として孤独感と抑うつ・不安を取り上げた が、心理的適応というより広い観点から検討を深めるためには、今後はネガティブ感情の みならず、ポジティブ感情や行動傾向についても収集すべきであろう。

また先述のように、日韓の間では ISE 以外の指標において全て有意差がみられており、

韓国の方がポジティブ指標は高く、ネガティブ指標は低く報告されていた。この点は韓国 では日本よりポジティブな自己呈示が望ましいと認識されていることを示しているのかも しれない。推測の域を出ないが、自己報告尺度である ESE や抑うつ・不安、孤独感など の各変数に及ぼす社会的望ましさの影響も両国間で差がある(i.e., 韓国の方が社会的望ま しさの影響が強い)可能性があることから、今後は社会的望ましさを測定する尺度を並行 実施し、この影響を取り除いた分析を行うことで、分析の精度を上げられるかもしれな い。

ESE・ISE の不一致の大きさおよび方向が孤独感、抑うつ・不安に与える影響 次に、

ESE・ISE の不一致の大きさと方向を独立変数として行った分析の結果を考察する。まず 日本においては孤独感、抑うつ・不安ともに不一致の大きさ、方向の影響がみられた。不 一致が大きいほど、また ESE に比して ISE が優位であるほど孤独感、抑うつ・不安が高 いことが示された。韓国では孤独感、抑うつ・不安ともに不一致の大きさの影響はみられ なかった一方で、日本と共通して不一致の方向の影響が有意であり、ESE に比して ISE が優位であるほど孤独感、抑うつ・不安が高かった。さらに韓国では交互作用が有意であ

(15)

り、ESE・ISE の差の大きさにかかわらず ISE が優位である場合に孤独感や抑うつ・不安 が高いことが示された。この点は作業仮説 )の内容に近いが、先行研究(Creemers et al., 2012)の結果とは異なっている。Creemers et al.(2012)では ISE が高い場合に、ESE との 不一致が大きいほど抑うつや孤独感、自殺念慮が高かったが、本研究で得られた交互作用 は、不一致の大きさにかかわらず、ISE が優位である場合に孤独感や抑うつ・不安が高い ことが韓国で示されたというものである。日本ではこの交互作用はみられず、不一致の大 きさや方向の組み合わせの効果は独立に孤独感や抑うつ・不安に影響していることが示さ れた。

このように作業仮説 )とは異なる結果が得られたものの、不一致の大きさや方向が孤 独感や抑うつ・不安といったネガティブ感情に影響していたことは注目すべきと思われ る。両 国 と も に ISE が 優 位 で あ る ほ ど ネ ガ テ ィ ブ 感 情 が 高 く、こ れ は 先 行 研 究 (Creemers et al., 2012; Phillips & Hine, in press)とも共通している。Jordan et al.(2003)の 防衛的・安定的高 SE の枠組みと併せて解釈すると、ネガティブ感情を減じるためには、

ESE・ISE の一方を高めるのではなく、両者を同程度の高さに保つことが重要と思われ る。

本研究の示唆と課題 本研究の結果が示唆するのは、日韓ともにネガティブ感情に対 し、ESE のみならず ISE も一定の影響を与えており、そして両者の交互作用も影響力を 持っていたという点である。また、不一致の大きさや方向に着目した分析の結果から、

ESE に比して ISE が高いほど、ネガティブ感情が高いことも示された。

ISE は日本において抑うつに対し、また韓国において孤独感に対し、弱いながらも負の 影響を及ぼしており、ISE はネガティブな感情を抑制していると思われる。しかしなが ら、ISE が孤独感や抑うつ・不安に与える影響は ESE と比して小さかった。また、ISE は他者を見下す傾向である他者軽視傾向と正の相関を示すことや、ESE が低い場合に、

ISE が高いと他者軽視傾向が高いという報告(藤井・澤田,2014a; 小塩・西野・速水,

2009)もある。加えて藤井・澤田(2014b)では、妬まれやすいターゲット人物(経済的に余 裕があり、容姿端麗)が自身の過失により不幸に陥った(自身で飲酒運転を行い、検挙され たシナリオを提示された)際に、ISE と「いい気味だ」「うれしい」といった他者の不幸を 喜ぶ感情(シャーデンフロイデ)との間に正の関連が示された。これらは ISE のネガティ ブな側面を示唆するが、藤井・澤田(2014b)ではまた、妬まれにくいターゲット人物(経 済的・容姿ともに平均的)が自身の過失が小さい状況で不幸に陥った(飲酒運転をする友人 の車に同乗させられ、検挙されたシナリオを提示された)際は、ISE は「かわいそうだ」

「気の毒だ」といった同情と正の関連があった。これらをまとめると、ISE はときにポジ ティブな影響だけでなく、ネガティブな影響を示すこともあるため、単に ISE を高めれ

(16)

ばよいという議論はできない。

この点に関連して、SE への介入という視座からは、ESE・ISE の不一致の大きさや不 一致の方向に着目することの重要性も示唆された。本研究で行った 種類の分析(ESE・

ISE の得点を独立変数とする分析と、両者の不一致および方向を独立変数とする分析)を 併せて考えると、ネガティブ感情の軽減のためには、ESE・ISE の両者を高めるような介 入が重要であると同時に、ESE・ISE の一方が極端に高くならないように留意すべきとい えるのではないだろうか。すなわち、前者の分析結果を参照すれば、防衛的 SE を持つ者 に対して ISE を上昇させる試みは有益であると思われるが、後者の分析結果は、傷つい た SE を持つ者には、ESE を上昇させる介入が重要であるということを示唆する。

ISE を変容させるアプローチの検討 本研究の結果や先行研究を踏まえると、ネガティ ブ感情への影響を考えた際に、まず ESE を向上させる試みは重要と言えるだろう。そし て、ISE への介入が有効になるのは、特に ESE との不一致が起きている場合(i.e., 防衛的 SE と傷ついた SE)と考えられる。

それでは、ISE は変容しうるのだろうか。SE の研究とは異なるが、顕在的・潜在的不 安の変容可能性を検討した研究に Gamer, Schmukle, Luka-Krausgrill, & Egloff(2008)があ る。ここでは高い社交不安を示す臨床群と、社交不安が低い統制群の両者に対し、セラピ ストによる認知行動療法ベースの介入を セッション(計 10 時間)行い、顕在的・潜在的 不安の変化を検討した。その結果、セッション前後において臨床群の顕在的・潜在的不安 の得点は有意に減少していた。このように、継時的な介入を続けることで、ISE を変容さ せられるかもしれない(7)。近年の研究では、潜在的態度の変容可能性について評価条件づ けを用いた試みも行われており(e.g., 尾崎,2006)、このような方法を応用することで、

ISE を向上させられるかもしれない。

ただし、先行研究で観察された変容が一時的なものではなく、一定期間後も継続するか は不明である。加えて、先行研究で検討されていたのは SE ではなく、SE においても同 様の変容が示されるかは不明確である。そして、態度やパーソナリティの 変わりやすさ に対して、人は一定の信念を持っていることが予想される(e.g., Beer, 2002; Dweck, 1999) ことから、どのような信念を持つ場合に、どのような介入が有効であるかという検討も必 要であろう。

ISE の測定方法に関する問題 加えて、ISE の測定法にも議論の余地が残されている。

冒頭で述べたように、ISE の測定には安定性の面から IAT や NLT が使用されることが多 いが、両者の相関は極めて低い。Bosson et al.(2000)は、参加者に対して複数の ISE 尺度 を使用し、各尺度間の相関係数を報告している。ここでは、NLT と IAT の相関は =

‑.06 であるとともに、NLT や IAT と他の潜在的測度との相関も低く、もっとも高いも

(17)

のでも NLT と誕生日の選好との間で =.23 の相関がみられた程度である。

この結果は少なくとも 通りの解釈が可能であろう。 点目は、ISE の側面は多様であ り、それぞれの潜在的測度が ISE の異なる側面を測定しているという解釈である。これ を裏づけるためには、複数の潜在的測度を使用して ISE を測定し、理論的に関連する従 属変数を各々の潜在的測度が予測することを示す必要があり、この検討は容易ではない。

点目は、測定誤差の影響により相関の希薄化が起きている可能性である。反応時間や 曖昧な刺激などへの反応を指標とする潜在的測度は、顕在的測度と比して測定誤差が生じ やすく、その結果として信頼性が低下し、相関係数が希薄化されている可能性がある。た とえば Cunningham, Preacher, Banaji(2001)は、人種への態度を測定する 種類の IAT (通常の IAT と画像を用いる IAT)と評価プライミング法という各潜在的測度間における 相関係数の希薄化を構造方程式モデリングによって修正したところ、潜在変数間の相関係 数は.53‑.77 という値を示したことから、同様の方法を用いて、NLT と IAT の相関係数 について詳しく検討する必要があると思われる。

本研究のまとめ 本研究の結果、孤独感や抑うつ・不安に対しては ESE のみならず、

ISE も影響を与えることが示された。特に抑うつ・不安というネガティブ感情に対しては ESE・ISE の交互作用の影響も認められた。ISE がネガティブな心理的変数に及ぼす影響 は ESE に比して低いものの、ESE のみを向上させるのではなく、ISE を向上させるよう な介入方法を検討することも一考に値すると思われる。また、ISE が ESE に比して高い 場合、抑うつ・不安や孤独感が高いことも示されたことから、ISE への介入を試みる際に は、ESE とのバランスも考慮し、どちらか一方が極端に高くならないようにすべきであ ると考えられる。

ただし本研究にはサンプルの偏りや潜在的測度における課題など、いくつか議論の余地 を残している。今後はこの点を克服した上で、更なる検討を行うことが必須である。

付記

本論文は、著者が平成 26 年度外国人個人研究員(研究課題:適応に関わる諸変数に及ぼす顕在 的・潜在的自尊心の影響の検討:日韓比較を通じて)として、藤井(2014b)および藤井(印刷中)に 新たな変数を加え、また国際比較という観点から再分析を行いまとめたものである。実験にご協 力を賜りました参加者の皆様と、招聘いただきました大家まゆみ先生(東京女子大学現代教養学 部准教授)、そして比較文化研究所所長・大久保喬樹先生、比較文化研究所スタッフの皆様、本 論文に有益なコメントを賜りました匿名の 名の査読者の先生方に厚くお礼申し上げます。

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( ) self-esteem は 自尊感情 と訳されることもあるが、本研究では 自尊心 と同義として扱 い、先行研究で 自尊感情 という用語が使用されている場合も、自尊心 と統一する。も ちろん、これは自尊感情という訳語を否定するものではない。

( ) IAT の詳細および得点化については、Greenwald, Nosek, & Banaji(2003)や相川・藤井 (2011)などを参照されたい。

( ) ただし、NLT や IAT が測定する潜在的自尊心が同一のものであるかについては議論があ る。この点は考察で触れる。

( ) 国によってイニシャルに含まれない文字がある。たとえば日本人のイニシャルには原則と して L、P、Q、V、X は含まれないため、これらを除いて回答者の負担を減らす方法もあ る(e.g., Komori & Murata, 2008)。

( ) 方法の箇所でも述べるが、本研究における韓国人サンプルは全て女性である一方で、日本 人サンプルの多くは男性である。どちらの国でも女性の方が自殺率は低いものの、韓国人 女性も OECD の平均値や日本人女性と比して高い自殺率を示していることから、韓国人 女性のみを対象とした場合でも、本研究の試みは一定の価値を有すると思われる。ただ し、前述のように自殺者数には男女で差があることから、自殺に関わる要因も男女間で異 なることが予想される。この点を考慮すれば、(a)サンプル数を増やす、(b)男女比を揃え る、(c)大学生に限らず幅広い社会的ステータスを持つ人たちを対象とするなどの考慮を した上での検討が必要であろう。

( ) 韓国人においてもイニシャルが 文字ではなく、 文字の者も存在する。本研究で分析対

象者とした参加者の中では、 名が該当していた。この 名は日本人サンプルと同様、

(21)

文字のイニシャルへの選好を潜在的自尊心の指標とした。

( ) 藤井(2011)は、潜在的態度の変容可能性について、IAT を用いた研究を対象にレビューを 行っている。関心のある方は参照されたい。

〔誠信女子大学校助教授(心理学) 2014 年度外国人個人研究員〕

(22)

Figure 安定的高 SE と防衛的高 SE

参照

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